インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄...

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶) 2 インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法 -日中の比較を中心に 1 目次: 第一章 問題の所在 第二章 国際裁判管轄 第一節 専属管轄の有無に関する前提的問題 はじめに 日本 中国 小括 第二節 インターネット上の著作権侵害事件に関する国際裁判管轄 はじめに 日本と中国の判例状況 不法行為地の判断についての学説 検討 小括 第三章 準拠法 第一節 ベルヌ条約 5 2 項に関する日中の議論 はじめに 日本 中国 小括 第二節 インターネット上の著作権侵害事件の準拠法 はじめに 日本と中国の判例状況 インターネット上の著作権侵害の準拠法に関する学説 検討 小括 第四章 結語 1 名古屋大学法学研究科(総合法政応用法政コース博士前期課程)修了生(2011 3 月修了)

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Page 1: インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄 …名古屋ロー・レビュー 第3 号(2011 年9 月) 3 第一章 問題の所在 本稿ではインターネット上の著作権侵害事件について2,抵触法上の問題に関する国際裁

インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

2

インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法

-日中の比較を中心に

張 晶1

目次:

第一章 問題の所在

第二章 国際裁判管轄

第一節 専属管轄の有無に関する前提的問題

1 はじめに

2 日本

3 中国

4 小括

第二節 インターネット上の著作権侵害事件に関する国際裁判管轄

1 はじめに

2 日本と中国の判例状況

3 不法行為地の判断についての学説

4 検討

5 小括

第三章 準拠法

第一節 ベルヌ条約 5 条 2 項に関する日中の議論

1 はじめに

2 日本

3 中国

4 小括

第二節 インターネット上の著作権侵害事件の準拠法

1 はじめに

2 日本と中国の判例状況

3 インターネット上の著作権侵害の準拠法に関する学説

4 検討

5 小括

第四章 結語

1 名古屋大学法学研究科(総合法政応用法政コース博士前期課程)修了生(2011 年 3 月修了)

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

3

第一章 問題の所在

本稿ではインターネット上の著作権侵害事件について2,抵触法上の問題に関する国際裁

判管轄と準拠法の確定という側面から研究を行う。

インターネットはすでに各種の機関や団体,会社,自然人を互いに結びつける手段とな

っており,読書,コミュニケーション,アミューズメント及び商業活動などがネット上で

行われている。インターネットによるボーダーレス化によって,国境を越える不法行為事

件が増加している。中でも,とりわけ,インターネット上の国際知的財産権に関する侵害

が問題である。

著作権はほかの知的財産権に比べると,登記を要しない,著作物の複製又は配布がしや

すいなどの特徴がある。そのため,著作権はネット環境で侵害されやすく,またその侵害

が国境を越えて発生し,損害結果が広範に及ぶ。このような現状では,インターネット上

の著作権侵害の国際的法律抵触を解決するための妥当な方法を見つけることが急務となっ

ている。

日本と中国は隣国であり,両国の間において,経済・貿易関係の往来も頻繁である。日

本の映画,歌,番組,アニメなどは,中国においても人気が高い。インターネットが普及

した現在では,インターネット上の映画の不正放映や,歌の不法ダウンロードなどの問題

が生じやすく,両国の間で生じる著作権侵害事件も急増している。筆者は日本で国際私法

を研究している中国人として,この機会を利用して,日本と中国を中心に,両国の現状を

確認した上,著作権がインターネットを利用して侵害された場合の国際私法上の問題につ

いて検討することとした。

本稿では,まず国際裁判管轄について,これまでの裁判例と学説における議論の状況な

どを念頭に,インターネット上の著作権侵害事件において最も問題となる「不法行為地」

としての加害行為地と結果発生地の判断について,違法著作物の発信地と受信地がそのま

まあてはまるのか,それともその特性を認め,新しい解釈にするのかという点について,

中国と日本の判例・学説を踏まえて検討を加える。

次に,準拠法について,著作権に関連する国際条約と国内の国際私法ルールの関係に関

する現在の議論状況を明確にした上で,インターネット上の著作権侵害の準拠法選択規則

の確定(方法)について検討する。

第二章 国際裁判管轄

2 インターネット上の著作権侵害は,デジタルデータ或いはデジタルコンテンツの通信によるデジタル著

作物の侵害というインターネットを通じての侵害とは異なる。前者は主に自動的発信という特徴を有する

送信可能化権の侵害であるが,後者は違法著作物のネットショッピングを通じた販売などである。二つの

形態により議論の傾向が違うため,本稿では前者のみを検討することとする。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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第一節 専属管轄の有無に関する前提的問題

1 はじめに

国際裁判管轄について,条約レベルでは,1999 年ハーグ国際私法会議で国際裁判管轄及

び外国判決の承認・執行に関する多国間条約「ハーグ国際裁判管轄条約準備草案」が作成

された。しかし,各国の意見に相違があり,起草作業は結局挫折して,2005 年に対象範囲

を管轄合意に限定した「管轄合意に関する条約」という形にとどまった。そのため,統一

的な国際裁判管轄規則は存在せず,その処理方法は各国に委ねられている。

知的財産権侵害訴訟の国際裁判管轄を考える際に,ある問題がしばしば問われる。すな

わち,知的財産権の権利付与について国家政策との関連性が時折強調されることとの関係

で,権利の存在や侵害を争う訴訟を登録国の専属管轄とすべきか否かという問題である。

知的財産権の性質をめぐる学説においては,知的財産権の公法的性格を強調する産業政

策理論がある3。この理論によると,発明や著作物といった精神的創作物は,本来公有に属

するものであるが,その創作活動を促進する政策の手段としてその創作者に市場支配権を

与えるのが知的財産権制度であるとされる。この理論の思想から発展したものとして,1710

年イギリス議会の最初の現代的な著作権法であるアン制定法が挙げられる4。その前文は次

のとおり規定する。

「印刷業者,書店その他個人は,近時たびたび自由勝手に,著作者その他権利者の許諾

なく,書籍その他の書物を印刷出版し,彼らに甚大な損害を与えて,時には彼ら及びその

家族を破滅に追いやることさえしばしばである。

それゆえ,将来においてこのような行為を防止するとともに,知識人が有用な書籍を企

画し著述することを促進することを目的として,女王陛下の名において以下のとおり定め

る―」

この規定からすると,知的財産権制度は,市場への創作物供給を極大化することを目的

とした産業政策・文化政策に基づき,創作者に市場支配権を与える制度である。

著作権と国家政策との間に深い関連があるゆえ,その有効性又は侵害に関する紛争を当

該国家の専属管轄に服させるべきか否か,という問題が生ずる。

この問題につき,各国は異なるアプローチを採用している。知的財産権に関する紛争は

すべて権利付与国の専属管轄に従うべきであるか,という問題にどう答えるかによって,

インターネット上の著作権侵害事件に関する国際裁判管轄を論じねばならない紛争の範囲

が異なる。実際,著作権侵害事件に関し,最近でも専属管轄を唱える国も見受けられる5。

3 山本隆司「著作権の準拠法と国際裁判管轄権」著作権研究 27 号(2000)198 頁。これに対し,知的財産

権を自然権であると考え知的財産権の私権的性格を強調する,人格理論と労働理論もあるとされる。4 『Statute of Anne (8 Anne c. 19, 1710)』 http://www.case.edu/affil/sce/authorship/statueofanne.pdf

(最終確認 2011 年 4 月 6 日)5 Lucasfilm Entm’t Co. v. Ainsworth[2009]EWCA(Civ)1328(英国)。但し,同判決は,2011 年 7

月 27 日最高裁判決([2011]UKSC 39)によって覆された。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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そこで,日本と中国におけるインターネット侵害の議論を検討する前に,まずはその前提

として両国の専属管轄についての議論とこれまでの裁判例を見てみよう。

2 日本

日本では,国際裁判管轄についての明文規定は存在せず,財産関係事件の国際裁判管轄

に関しては,実務上,昭和 56 年と平成 9 年の最高裁判決で示された枠組みを取っている6。

すなわち,国際裁判管轄については,国際的に承認された一般的な準則が存在せず,国際

慣習法の成熟も十分ではないため,具体的な事案について日本に国際裁判管轄を認めるか

どうかは,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相

当である。そして,日本の裁判所に提起された訴訟事件につき,日本の民事訴訟法の規定

する裁判籍のいずれかが日本内に存する場合には,日本において裁判を行うことが当事者

間の公平,裁判の適正・迅速の理念に反するような特段の事情が存在しない限り,当該訴

訟事件につき日本の国際裁判管轄を肯定するのが相当である。このような枠組みである。

なお,法典化の動きとして,日本法務省の法制審議会は 2008 年 10 月に国際裁判管轄法

制部会を設置し,同部会は 2010 年 2 月,「国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案」を作

成した7。この要綱に基づいた「民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案」が国

会に提出され,2011 年4月に成立した(以下,「新法」とする)。施行後は,新法により

国際裁判管轄が規律されることになる。

知的財産権の国際裁判管轄に関する判例の中で,専属管轄の問題を正面から扱う判例は

ない。但し,国際裁判管轄につき特に判示してはいないものの,外国知的財産権侵害に基

づく損害賠償請求について本案判断をした判例はいくつかある8。

例えば,アメリカ特許権侵害を論点の一つとするカードリーダー事件は,最高裁におい

て初めて外国特許権侵害が問題となった事案である。当該事件では,準拠法が問題となっ

たが,その理論的前提として,日本における国際裁判管轄の有無が問題となり得る。同判

決は,国際裁判管轄については何ら述べていないが,被告が日本に普通裁判籍を有する本

件においては,当然に国際裁判管轄が認められることを前提にしているものと解される9。

また,ウルトラマン事件は,タイにおいて著作権を有する旨の確認を求めた上告人の請

求に対する国際裁判管轄を,他の請求との客観的併合によって肯定した事件である。本件

は知的財産権侵害訴訟ではなく,警告状の送付による日本国内での業務妨害の成否が直接

の問題となっている。しかし,その警告状送付行為の不法性は,外国における外国法上の

6 「マレーシア航空事件」最判昭和 56 年 10 月 16 日民集 35 巻 7 号 1224 頁;「ファミリー事件」最判平

成 9 年 11 月 11 日民集 51 巻 10 号 4055 頁。7 基本的な枠組みについては,従来の最高裁判例が採用した枠組みから特に大きな変更はない。8 「カードリーダー事件」最判平成 14 年 9 月 26 日民集 56 巻 7 号 1551 頁;「ウルトラマン事件」最判平

成 13 年 6 月 8 日民集 55 巻 4 号 727 頁;「鉄人 28 号事件」東京地判平成 14 年 11 月 18 日判タ 1115 号

(2003)277 頁;「サンゴ砂事件」東京地判平成 15 年 10 月 16 日判タ 1115 号(2003)109 頁。9 判タ 1107 号(2003)80 頁における解説参照。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

6

知的財産権の帰属判断及びその侵害判断に係っている。カードリーダー事件は被告住所地

という普通裁判籍に基づき国際裁判管轄を認めた事件であるが,本件は被告が日本に住所

を有しない外国人であるという点に特徴がある。本件判旨は10,被告が外国に在住する場合

でも,日本国内に知的財産権侵害の加害行為地若しくは結果発生地が認められれば,その

被侵害権利が日本の知的財産権か外国のそれかを問わず,日本の国際裁判管轄を認め得る

ことを原則的に明らかにしたものと位置づけられる11。

学説上,外国知的財産権に基づく請求に関し日本に国際裁判管轄を認めるべきか否かに

ついては,これを肯定的に解する見解が多い12。例えば,山田鐐一教授は「工業所有権の付

与,登録,寄託若しくはその有効性に関する訴訟については,その保護国に専属管轄があ

ると一般に考えられている……。しかし,侵害訴訟については,外国で出願された工業所

有権の侵害行為がその外国で行なわれたとしても,例えば,被告の住所が内国にある場合

には,内国で訴えを提起できるものというべきであろう」と述べる13。また,著作権につい

ては,その成立に登録という国家行為の介在を要しないことから,著作権侵害はもちろん,

有効性に関する訴えも,いずれかの国の専属管轄とはならないと解されている14。

以上の裁判例と学説からみると15,日本では,成立に登録を要する知的財産権の有効性に

関する訴訟を除けば,著作権を含め知的財産権に関する国際民事紛争について専属管轄は

採用されていないということが出来よう。なお,新法においても,「知的財産権…のうち

設定の登録により発生するものの存否又は効力に関する訴え」については権利付与国の専

属管轄が規定されたが(3 条の 5 第 3 項),その他の訴えについては専属管轄は採用されな

かった。

3 中国16

10 ウルトラマン事件:「我が国に住所等を有しない被告に対し提起された不法行為に基づく損害賠償請求

訴訟につき,民訴法の不法行為地の裁判籍の規定(民訴法5条9号,本件については旧民訴法15条)に

依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行

為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りると解するのが相当で

ある。…本件請求については,Y が本件警告書を我が国において宛先各社に到達させたことにより X の業

務が妨害されたとの客観的事実関係は明らかである。」11 木棚照一編著『国際知的財産侵害訴訟の基礎理論』(経済産業調査会,2003)145 頁〔渡辺惺之〕参照。12 例えば石黒一憲教授は,国際裁判管轄決定において知的財産権の属地的性格に拘泥する必要はないよう

に思われる,と述べている。石黒一憲「情報通信ネットワーク上の知的財産権侵害と国際裁判管轄」特許

研究 29 号(2000)5 頁;また,外国特許権侵害事件の国際裁判管轄を否定すべき理由はないとするものと

して,茶園成樹「外国特許侵害事件の国際裁判管轄」日本工業所有権法学年報 21 号(1998)60 頁等。13 山田鐐一『国際私法』(有斐閣,第 3 版,2004)390 頁。14 高部真規子「渉外的著作権訴訟の論点」斉藤博先生御退職記念論集『現代社会と著作権法』(弘文堂,

2008)126−127 頁,駒田泰土「著作権をめぐる国際裁判管轄及び準拠法について」国際私法年報 6 号(2004)

64−66 頁。15 なお, 知的財産をめぐる国際民事紛争の文脈では,いわゆる工業所有権と著作権との間で,有効性に関

する専属管轄の点を除き議論に大きな違いはない。16 本稿における「中国」とは,中華人民共和国の大陸地区を指す。中華人民共和国国内には,大陸地区,

香港特別行政区,マカオ特別行政区,台湾地区の四つの法域が含まれており,それぞれの法制度は異なる。

四つの法域の間に生じた抵触法上の問題については,国際事件を参考にし,国際私法が適用されている。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

7

「中華人民共和国民事訴訟法」(以下は「民訴法」と略す)では17,第 1 編「総則」2 章

「管轄」に国内管轄規定が置かれているが,国際裁判管轄については,第 4 編「渉外民事

訴訟手続の特別規定」24 章「管轄」の中にいくつかの設定が置かれている。具体的には,

普通管轄(22 条)18,特別管轄(241 条)19,合意管轄(242 条),応訴管轄(243 条)と

専属管轄(244 条)が挙げられる。

普通管轄については,民訴法渉外民事訴訟特別規定の 24 章に規定が設けられておらず,

民訴法 235 条の「中華人民共和国領域内に行われる民事訴訟は本編に従うべきであるが,

本編に規定がない場合,本法その他の関係する規定を適用する。」との規定から,22 条の

普通管轄を導く見解が多い20。このような理解に立てば,民訴法第 4 編に国際裁判管轄規定

がない限り,国内管轄規定が直ちに適用される。

特別管轄については,241 条で契約締結地管轄,契約履行地管轄,訴訟目的物所在地管轄,

差押財産所在地管轄,不法行為地管轄及び事業所所在地管轄が規定されている。

専属管轄に関する 244 条の規定には,知的財産権が含まれていない。外国知的財産権の

侵害につき中国に国際裁判管轄があるか否かについて,著作権法 2 条 1 項は「中国公民,

法人又はその他の組織の作品は,発表したか否かにかかわらず,本法により保護する」と

定めている。すなわち,中国人の作品が外国において外国著作権として侵害されたのであ

れば,それが同時に中国著作権法に違反し,中国が属人主義により国際裁判管轄を有する

としているのである。この点からすれば,外国著作権の侵害であるとしても,中国におい

て国際裁判管轄を認めることが可能であるといえる21。

実務上,外国著作権侵害につき本案審理をした判例も存在する。例えば,北京映画学院

事件は22,被告が原告の許諾なしに,原告の小説を映画に編集して中国及びフランスにおい

て放送した事件であるが,裁判所はフランスにおける著作権侵害をも含めて審理した23。ま

1987 年 10 月 19 日に発表された「香港マカオと関連する経済的紛争事案の審査に関する若干の解答」は,

「『民事訴訟法』五編の渉外的民事紛争手続きについての特別規定により受理する。」と規定している。

他は杜新丽:《国际私法实务中的法律问题》(中信出版社,2005)第 65 頁;李双元主编:《中国国际私

法通论》(法律出版社,2007)第 151 页参照。17 2008 年 4 月 1 日から発効する。2007 年 10 月 28 日により改正された。18 民訴法 22 条 1 項は「公民に対して提起された民事訴訟は,被告住所地の人民法院に管轄権がある。被

告住所地と常居所地が異なる場合,常居所地の人民法院がこれを管轄する」と規定している。19 民訴法 241 条は「契約紛争或いはその他の財産紛争で,中華人民共和国国内に住所を有しない被告に対

して提訴する場合,契約を中華人民共和国国内で締結し若しくは履行した場合,訴訟の目的物が中華人民

共和国国内にある場合,被告が中華人民共和国国内差押えのできる財産がある場合,又は被告が中華人民

共和国国内に事業所がある場合は,契約締結地,契約履行地,訴訟の目的物所在地,差押えできる財産所

在地,侵害行為地或いは事業所所在地の人民法院に管轄することができる」と規定している。20 杜新丽・前掲注(16)59 頁。21 冯兆蕙,冯文生:《“跨国”侵犯知识产权案件的审判管辖与法律适用》,《河北法学》,1999 年 06 期,

第 11 页。22 一審:北京市海淀区人民法院(1995)海民初字第 963 号;二審:北京市第一中级人民法院(1995)一

中知终字第 19 号。23 準拠法としては,中国国内の損害と併せて中国法を適用した。なお,周知のように,著作権は各国毎に

独立して存在しており, ここでは同一の著作物につき著作者がフランスで有していた著作権の侵害に基づ

く請求を,中国で有する著作権の侵害に基づく請求に併せて審理したということである。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

8

た,日本 JVC レコーダー会社事件は24,原告が JVC 会社と北京にある文化伝播会社を被告

として,原告の作った曲を無断でカセットテープ又は CD に録音して中国と日本において

発行した被告の行為について損害賠償を求めた事件である。本件においても日本著作権侵

害に対する請求が認められている25。

さらに,中国の国際私法学者により起草された「中華人民共和国国際私法模範法」にお

ける専属管轄に関する 46 条 4 号は,「中華人民共和国国内に生じた登録が必要な知的財産

権の有効性に関する紛争」を挙げている。つまり,登録が必要な知的財産権の有効性に関

する紛争は専属管轄に含まれるが,侵害に関する紛争は専属管轄の範囲に属しないとされ

ているのである。登録の必要がない著作権などに関する請求について,「模範法」は特に

規定していないが,少なくとも専属管轄に属しないことは明らかである。

このように,中国では,著作権侵害について,これまで専属管轄に属すると考える見解

もないわけではなかったが26,近時,裁判例も学説も外国著作権に関する請求について,国

際裁判管轄を認める傾向にある。

4 小括

以上,著作権侵害訴訟が権利付与国の専属管轄に服するか否かという点につき,日中の

状況を確認した。

日本では,裁判例には知的財産権の専属管轄という問題につき直接判断したものはない

が,実際に外国の知的財産権侵害を扱った事件があり,日本の判例が,外国の知的財産権

の侵害に関する紛争であったとしても,国際裁判管轄権を積極的に行使するという立場を

取っていることは明らかである。学説も基本的にはこの立場を支持している27。

次に,中国に関しては,中国の著作権については中国の専属管轄に属しているとの見解

もあるが,外国著作権について,特に問題とせずに判断を下した判例もある28。また,中国

の国際裁判管轄に関する明文規定においても専属管轄の規定には知的財産権が含まれてお

24 北京市高级人民法院(1998)高知终字第 6 号。25 本件もまた日本で行われた侵害について中国法を適用した。これらの裁判例は,外国著作権を扱ったこ

とには特に反対はないが,外国での行為であることを全く考慮せずに全て中国の著作権法を適用し判断し

た点には誤りがあるとされ,強く批判されている。冯文生:《知识产权的国际私法基本问题研究》,《知

识产权文丛(第 4 卷)》(郑成思主编),中国政法大学出版社,2000 年 7 月第 1 版,第 221 页;陈锦川:

《涉外知识产权民事法律关系的调整及法律适用——下篇:法律适用篇》,《电子知识产权》,2005 年 03 期,

第 37 页。26 例えば,罗艺方:《跨国知识产权侵权管辖原则的新发展——对传统地域管辖原则的突破》,《政法学刊》,

2003 年 03 期,第 26 页。27 道垣内正人「国境を越えた知的財産権の保護をめぐる諸問題」ジュリ 1227 号(2002)57 頁;茶園・前

掲注(12)73-74 頁;山本・前掲注(3)203 頁など。28 しかし,中国においては,判例に拘束力がないため,これらの判例が先例としてどこまで参考となるか

は必ずしも明らかではない。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

9

らず,学説上も知的財産権の侵害事件までも専属管轄にするのは行き過ぎであるという見

解が支配的である29。

このように,日中両国は著作権侵害事件について,専属管轄を採用していないことは共

通している。

インターネットが発展した今日では,ある一つの国でのアップロードによって,世界中

でダウンロードが可能になる限り,全世界に損害を及ぼすことが可能であり,特に著作権

業界にとって深刻な問題となっている。各国が著作権侵害について専属管轄主義を採用す

るならば,原告は各国の著作権毎に別々の裁判所において提訴しなければならないため,

当事者にとって大きな負担にもなる。国際知的財産権侵害が頻繁になる現在,専属管轄を

採用しないことが望ましいと考える。

以下では,専属管轄を採用しないことを前提として,インターネット上の著作権侵害に

関する国際裁判管轄につき検討する。

第二節 インターネット上の著作権侵害事件に関する国際裁判管轄

1 はじめに

インターネット上の知的財産権侵害事件は日本と中国だけではなく,世界各地において

生じており,この問題に関する法律上の規制は現在国内外で活発な論議の対象となってお

り,近時では立法又は法原則提案が次々と公表されている。そのような例としてアメリカ

の「知的財産権:国境を越えた紛争における国際裁判管轄権,準拠法及び外国裁判の承認・

執行に関する原則」(以下では「ALI 原則」と略す)30,知的財産についての抵触法に関す

るヨーロッパ・マックスプランク・グループによる「知的財産における抵触法に関する原

則」2011 年 3 月 25 日の草案(以下では「CLIP 草案」と略す)31,日本においては「知的

財産権の国際裁判管轄,準拠法,及び外国判決の承認執行に関する立法提案」(以下では

「日本法の透明化」と略す)と32,日韓共同提案に向けた日本側研究グループ研究会早稲田

大学からの提案である「知的財産権に関する国際私法原則」(以下では「早稲田案」と略

29 艾雪雯:《论网络环境下知识产权诉讼管辖权原则的发展》,《当代经理人》,2005 年 06 期,第 47-48

页;冯兆蕙,冯文生・前掲注(2121)11 頁など。30 The American Law Institute, Intellectual Property: Principles Governing Jurisdiction, Choice ofLaw, and Judgments in Transnational Disputes, Adopted May 14, 2007(2008).日本語訳は河野俊行編

『知的財産権と渉外民事訴訟』(弘文堂,2010)10 頁参照。31 Principles for Conflict of Laws in Intellectual Property. Prepared by the European Max-PlanckGroup on Conflict of Laws in Intellectual Property, The Draft, March 25, 2011. The First PreliminaryDraft was published on Apri1 8, 2009, the Second Preliminary Draft on June 6, 2009, the ThirdPreliminary Draft on September 1, 2010. Available at http://www.cl-ip.eu(最終確認 2011 年 8 月 25 日)32 河野・前掲注(30)2 頁。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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す)などが挙げられる33。これらの提案はそれぞれインターネットを念頭にユビキタス侵害

について提言している。

日本の現行法の下では,インターネット上の著作権侵害の国際裁判管轄の判断には,所

謂隔地的不法行為と同じ処理方法が採用されている。不法行為地の決定について,日本で

は,裁判例は一致して不法行為地には加害行為地と結果発生地の双方が含まれ,いずれか

が日本に存在すればよいとし,通説もこれを認めている34。中国やヨーロッパの主流も同様

である35。

もっとも,知的財産権の属地性を厳格に解釈すれば,その国内の行為だけが当該国の知

的財産権を侵害することができると考え,加害行為地と結果発生地は実際には同じ国であ

る,したがって両者を区別することはできないという発想もあり得る。

インターネット上の知的財産権侵害行為について,日本では,近時,知的財産高等裁判

所の下した判決が上述の問題に対し,判断している36。すなわち,国際裁判管轄の有無を判

断する場合,知的財産権侵害の場合であっても,不法行為地の判断については加害行為地

と結果発生地を分けて判断すべきである,とするのである37。この事件においては,「申出

の発信行為」又は「その受領という結果の発生」がそれぞれ加害行為地及び結果発生地と

して挙げられている。しかし,本件では,日本に国際裁判管轄があると認められたにも拘

らず,裁判所は判断の理由を明らかにしていない。

また,日本では,インターネット上の侵害について,属地主義を厳格に解釈する必要が

ないと考える学者も少なくない38。すなわち,ある国でのアップロード行為が外国でのダウ

ンロード行為を導く場合,その原因たる事実とそれによる結果が異なる地において発生す

ることも有りうる,と考えるのである。

本稿においても,インターネット上の著作権侵害についての以下の検討では,これらの

裁判例・学説の傾向に従い,結果発生地と加害行為地を分けて行いたい。

33 「知的財産に関する国際私法原則(日本案)2008 年 12 月 15 日版」『季刊 企業と法創造』(早稲田大

学グローバル COE<企業法制と法創造>総合研究所)第 6 巻 2 号(2009)243 頁。34 高橋宏志「国際裁判管轄―財産関係事件を中心にして―」澤木敬郎=青山善充編『国際民事訴訟法の理

論』(有斐閣,1987)62 頁以下。佐野寛「不法行為地の管轄」高桑昭=道垣内正人編『国際民事訴訟法(財

産法関係)』(青林書院,2002)92 頁。35 韩德培主编:《国际私法问题专论》(武汉大学出版社,2004)第 295,307 页。欧州司法裁判所は 1976

年 11 月 30 日の判決(Mines de potasse d’Alsace 判決)において,「損害をもたらす事実の発生した地」

は原因事実発生地と結果発生地のいずれをも含むという判断を下している。36 知財高判平成 22 年 9 月 15 日『特許侵害予防等請求控訴事件』最高裁判所 HP<

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100928163421.pdf>(最終確認 2011 年 8 月 6 日)。37「不法行為に関する訴えについて管轄する地は『不法行為があった地』とされているが,この『不法行

為があった地』とは,加害行為が行われた地と結果が発生した地の双方が含まれると解されるところ,本

件訴えにおいて…被控訴人による『譲渡の申出行為』について,申出の発信行為又はその受領という結果

の発生が客観的事実関係として日本国内においてなされたか否かにより,日本の国際裁判管轄の有無が決

せられることになると解するのが相当である。」38 例えば,道垣内正人「判批」L&T50 号(2011)86-87 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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国内事件における不法行為地管轄では,土地に着目する不法行為地の確定はそれ程困難

な作業ではないが,インターネットを介した公衆送信権などの侵害事件において,問題と

なる法的事実と土地との繋がりは必ずしも明確とは言えない。不法行為地の候補としては,

サーバー所在地,加害者が情報をアップロードした地,被告の常居所地(法人である場合

は事業所所在地),受信地(データをダウンロードした地又は情報にアクセスすることが

可能な地)などがあげられる。その中で,結果発生地は受信地(ダウンロードした地又は

アクセスできる地)であり,サーバー所在地,アップロードした地又は被告の常居所地は

加害行為地に属すると考えるのが一般的である39。国際裁判管轄を考える際,これらの地に

ついてはいくつかの問題が予想できる。

まず,インターネット上の著作権侵害事件において,結果発生地として,問題となるウ

ェブサイトにアクセスする可能性があるだけで法廷地の不法行為地管轄を認めると,過剰

管轄となり得る。そのため,そのようなアクセス可能性のみで結果発生地管轄を認めるこ

とは裁判例・学説上しばしば否定される。しかし,それで良いか否かが問題となる。

また,データをアップロードした地を加害行為地であると考えることに対しては,実際

上事件との結びつきが薄い,またアップロード地が確定し難いなどの批判もある。この点

をどう考えるべきか,ということも問題となる。

さらに,インターネット上の著作権侵害は,常に多数の国において発生することが容易

に想像できる。そこで,各国は,自国に国際裁判管轄が認められる場合,自国における著

作権侵害についてだけ審理するのか,それとも世界中のすべての損害について審理すべき

なのかというのが三つ目の問題である。

以下では,日本と中国のこれまでの判例でどのような問題が扱われているのかを出発点

にして,各国の学説を概観し,これらの問題を検討しよう。

2 日本と中国の判例状況

(1)日本

日本においては,インターネット上の著作権侵害に関する国際裁判管轄が問題となった

事件が存在しない。とは言え,近時,インターネット上の特許権侵害に関する事件が登場

している。韓国法人が製造・販売する製品が日本特許を侵害しているとして提起された特

許侵害予防等を求める訴えについて,裁判所が,同法人のウェブサイトにその製品を掲載

していること,日本に経営顧問を置いていること等の事情からは日本に国際裁判管轄を認

39 Arnaud Nuyts,”Suing at the Place of Infringement: The Application of Article 5(3)of Regulation

44/2001 to IP Matters and Internet Disputes”, in Arnaud Nuyts(ed.), International Litigation in

Intellectual Property and Information Technology(2008, Kluwer Law International BV, The

Netherlands.) p. 114; Axel Metzger, ”Jurisdiction in Cases Concerning Intellectual Property

Infringements on the Internet. Brussels-I-Regulation, ALI-Principles and Max-Planck-Proposals”, in:Stefan Leible/ Ansgar Ohly, Intellectual Property and Private International Law (Mohr Siebeck,

2009), p. 254 .

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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めることはできないと判示し,訴えを却下した事件である。以下では一審判決及び二審判

決の判旨を取り上げる。

[判例 1]特許権侵害予防事件40

事実の概要:原告・控訴人 X は日本特許第 3688015 号「モータ」を有する日本法人であ

る。被告・被控訴人 Y は日本国内に本店を有しない外国法人である。Y は,日本国内にお

いてアクセスできるウェブサイトにおいて,業として, X が有する日本特許のクレームに

属する物件(以下「被告物件」と称する)につき譲渡の申出を行っている。X はこれを理由

に,特許法 100 条 1 項に基づく被告物件の譲渡の申出の差止めと不法行為に基づく損害賠

償(被告の特許権侵害行為によって本件訴訟の提訴を余儀なくされたために生じた,弁護

士費用相当額の損害)を求めた。

①まずは原判決の判旨について述べる。

判旨:訴え却下。

「不法行為に基づく損害賠償請求について,(ア)民訴法5条9号の不法行為地の裁判

籍の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が

国においてした行為により原告の法益について損害が生じたことの客観的事実が証明され

ることを要し,かつそれで足りると解される(最高裁判所平成12年(オ)第929号同

13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)。そうすると,我が国におい

て損害が発生したことが証明されるのみでは足りず,不法行為の基礎となる客観的事実と

して原告が主張する事実,すなわち,本件においては日本国特許権である本件特許権の侵

害事実としての,我が国における被告物件の譲渡の申出の事実が証明される必要があると

いうべきである。(イ)上記英語表記のウェブサイトは,Y の製造する製品の一つとして

「Slim ODD Motor」を全世界に向けて紹介するものであり,日本語で表記された「Slim

ODD Motor」の販売・製造に関する問合せフォームについても,プルダウンの選択次第で

様々な製品に変更ができるものであり,品番や具体的な仕様についても何ら示されていな

い。そうであるから,同フォームが表示されていることをもって,被告物件につき譲渡の

申出があったとは認められない。また,Y のウェブサイトの中には,被告物件のうち一部の

品番(DMBSFC06M)が掲載されているページも過去には存在したが,同ページが

英語で表記されていることに加え,同ページには当該品番のモータの定格電流,定格電圧,

騒音及び振動が示されているにすぎず,同モータの他の具体的な仕様については何ら示さ

れていないのであり,また問合せフォームにもリンクしていないのであるから,当該品番

のモータの一般的な紹介にとどまるというべきであり,同モータについて,我が国におい

40 一審:大阪地判平成 21 年 11 月 26 日〔平成 20 年(ワ)9732 号,9736 号,9742 号〕第 9732 号は判

時 2081 号(2010)131 頁,判タ 1326 号(2010)267 頁;二審:知財高判平成 22 年 9 月 15 日『特許侵

害予防等請求控訴事件』最高裁判所 HP<http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100928163421.pdf>(最

終確認 2011 年 8 月 6 日)。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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て譲渡の申出があったとは認められない。(ウ)原告営業部長の陳述書の陳述記載のほか

に被告物件がこれら日本法人において評価の対象となっていることを窺わせる証拠はない

から,同陳述記載のみに基づいて,たやすくその内容を真実と認めることはできない。(エ)

Y の経営顧問の名刺のみによっては,Y が我が国において具体的な営業活動を行ったという

事実を推認することはできず,まして同人が我が国において被告物件の譲渡の申出をした

ことを窺わせるものとはいえない。」

以上の点を理由に,民訴法に規定する裁判籍が認められないのであるから,同請求につ

いて日本に国際裁判管轄を肯定することはできないとした。

「X は,日本国特許権である本件特許権に基づいて,我が国における被告物件の譲渡の申出

の差止めを求めているのであり,準拠法も本件特許権の登録国法である日本国特許法にな

ると解される。したがって,我が国における譲渡の申出の事実が証明されなかった場合で

あっても,そのおそれを具体的に基礎づける事実(そのおそれが抽象的なおそれでは足り

ず,具体的なものであることを要するのは当然である)が証明された場合には,条理によ

り,我が国の国際裁判管轄を肯定する余地もある。しかしながら,本件においては,我が

国において被告物件の譲渡の申出がなされたとは認められず,また,同認定事実からは,Y

が我が国において被告物件の譲渡の申出をする具体的なおそれがあると推認することもで

きず,他にそのおそれがあることを具体的に認定し得る証拠はない。よって,特許権侵害

の差止請求についても,我が国の国際裁判管轄を肯定することはできない。」

②次に控訴審の判旨について述べる。

判旨:原判決取消し,差戻し。

「差止請求と損害賠償について,不法行為に基づく損害賠償請求は,その文言解釈とし

て民訴法5条9号にいう『不法行為に関する訴え」に該当することは明らかであり,また,

特許権に基づく差止請求は,Y の違法な侵害行為により X の特許権という権利利益が侵害

され又はそのおそれがあることを理由とするものであって,その紛争の実態は不法行為に

基づく損害賠償請求の場合と実質的に異なるものではないことから,裁判管轄という観点

からみると,民訴法5条9号にいう『不法行為に関する訴え』に含まれるものと解される。

また,不法行為に関する訴えについて管轄する地は『不法行為があった地」とされている

が,この『不法行為があった地」とは,加害行為が行われた地(『加害行為地」)と結果が

発生した地(『結果発生地」)の双方が含まれると解されるところ,本件訴えにおいて控訴

人(一審原告)が侵害されたと主張する権利は日本特許第3688015号であるから,

不法行為に該当するとしてXが主張する,Yによる「譲渡の申出行為」について,申出の発

信行為又はその受領という結果の発生が客観的事実関係として日本国内においてなされた

か否かにより,日本の国際裁判管轄の有無が決せられることになると解するのが相当であ

る。」

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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「①(ア)以上の認定事実,すなわち,Yが英語表記のウエブサイトを開設し,製品と

して被告物件の一つを掲載するとともに,『Sales Inquiry』(販売問合せ)として『Japan』

(日本)を掲げ,『Sales Headquarter』(販売本部)として,日本の拠点(東京都港区)

の住所,電話,Fax 番号が掲載されていること,日本語表記のウエブサイトにおいても,

『Slim ODD Motor』を紹介するウエブページが存在し,同ページの『購買に関するお問合

せ』の項目を選択すると,『Slim ODD Motor』の販売に係る問い合わせフォームを作成す

ることが可能であること,控訴人営業部長が,被控訴人の営業担当者が ODD モータについ

て我が国で営業活動を行っており,被告物件が『訴外 A』や『訴外 B』において,製品(ODD)

に搭載すべきか否かの評価の対象になっている旨陳述書で述べていること,Y の経営顧問 C

が,その肩書とYの会社名及び東京都港区の住所を日本語で表記した名刺を作成使用して

いること,被告物件の一つを搭載した DVD マルチドライブが国内メーカーにより製造販売

され,国内に流通している可能性が高いことなどを総合的に評価すれば,Xが不法行為と

主張する被告物件の譲渡の申出行為について,Yによる申出の発信行為又はその受領とい

う結果が,我が国において生じたものと認めるのが相当である。

(イ)我が国における当該サイトの閲覧者は,英語表記のウエブサイトにより,少なく

とも被告物件の一つについての製品の仕様内容を認識し,日本所在の販売本部の住所等を

知り得るだけでなく,日本語表記のウエブサイトにおいても,『Slim ODD Motor』の製品

紹介を見て,『購買に関するお問合せ』の項目を選択し,『Slim ODD Motor』の販売に係

る問合せフォームを作成することが可能なのであるから,これらのウエブサイトの開設自

体が被控訴人による『譲渡の申出行為』と解する余地がある。」

本件は国際裁判管轄が問題となった初めてのインターネット上の特許権侵害事件である

が,不法行為に基づき国際裁判管轄が肯定されるための証明事項と証明程度が主に問題と

なり注目されている41。

一審判決も二審判決も,「客観的事実証明説」42に立っているように思われるが43,その

具体的な判断結果は異なっている。両者における大きなズレは,ウェブサイト上で行われ

た行為に関し,「譲渡の申出」が日本で行われたかどうかの判断にある。

41 判例評釈として,道垣・前掲注(38)80 頁,横溝大「判批」ジュリ 1417 号(2011)172 頁がある。42 客観的事実証明説とは,不法行為と主張されている行為が日本で行われたこと又はそれに基づく損害が

日本で発生したという事実が証明されることが必要であり,かつそれで足り,故意・過失の存在や違法性

阻却事由の不存在といった点は管轄が肯定された場合に本案で審理すればよいとの立場である。この説に

ついては,高橋宏志「国際裁判管轄における原因符合」原井龍一郎先生古稀祝賀『改革期の民事手続法』

(法律文化社,2000)320 頁参照。43 但し,横溝大教授は本件二審判決につき,「確かに本判決も,『客観的事実関係』という用語を用いて

はいる。だが,原判決と異なり,判旨には前掲平成 13 年最高裁判決への言及もない。また,損害の発生や

因果関係に関する言及もない。これらの点を考慮すると,本判決が客観的事実説を採用したと位置付ける

ことには抵抗がある」と指摘する。横溝・前掲注(41)173 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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一審判決では,判旨(イ)に示されたように,ウェブサイトは当該商品について紹介す

るのみであり,日本に向けた販売の勧誘がないため,「譲渡の申出」は認められないと判

断されている。

それに対し,控訴審はこの点について全く反対の判断を下した。控訴審は「これらのウ

ェブサイトの開設自体が被控訴人による『譲渡の申出行為』と解する余地がある」と判断

したのである。

以上の二つの判決は,インターネット上の特許権侵害につき,受信地に基づく国際裁判

管轄を直ちに否定しなかった点では共通する。しかし,国際裁判管轄を肯定するための受

信地は,どこまで事案と関連する必要があるのかという点について,その判断が分かれて

いる。一審判決では,ウェブサイトの中に製品についての仕様内容が記載され,問い合わ

せフォームがあり,日本からアクセスが出来ることだけでは国際裁判管轄を認めるに足り

ないという判断がなされている。これに対し,二審判決では,製品についての紹介があり,

「購買に関するお問い合わせ」項目を選択できるようなウェブサイトの開設自体「譲渡の

申出行為」と解する余地があると判断されている。

このように,問題となるウェブサイトが事案とどこまで関連すれば,法廷地を受信地と

して国際裁判管轄が認めることができるかという点については,これらの裁判例の立場は

未だ明確ではない。しかし,一審判決も二審判決も,インターネット上の特許権侵害につ

き,少なくともウェブサイトにアクセスができるだけでは不十分であり,日本に向けてそ

の販売意欲,販売可能性などが考慮されなければならないという点で共通していることは

明らかであろう44。

(2)中国

[判例 2]インターネット上の cache 行為に関する著作権紛争事件4546

事実の概要:中国人である王路は「金岳霖的逻辑观」など三つの文書(以下は「本件著

作物ら」と略す)について著作権を有し,A,B,C のサイトに掲載している。被告アメリ

カ企業である Yahoo! Inc.(以下は「Yahoo 会社」と称する)のホームページ

http://www.yahoo.com にアクセスして,「Search the web」のブランクに「王路 逻辑」

44 この点について,横溝教授は「[控訴審判決]が不法行為地管轄においてではあるが,ウェッブサイト

の閲覧可能性だけでこれを肯定するのではなく,様々な事情を総合的に評価して判断を下している点は,

対象行為が国内市場に実質的な影響を与えているか否かを考慮していると言うことが出来,私見の観点か

らも積極的に評価出来る」と述べ,このような処理方法を支持している。横溝・前掲注(41)175 頁。45 Internet cache というサーチエンジンの提供したサービスのことを言う。つまりサーチした内容を,そ

れが掲載されたページに行かずに,そのページの内容をキャッチして素早く見られるサービスである。46 北京市第一中級人民法院(2005)一中民初字第 5761 号民事判決書を不服として上訴したのが本件

((2006)高民終字第 1365 号)である。また,この後本案審査をした北京市高級人民法院民事判決書(2007)

高民終字第 1729 号は,本件について,Yahoo 会社は警告を受けた後当該 cache 行為を阻止したから,主

観的故意が存在しない,また,Internet cache 行為は被告があるサイトを目標とすることができず,本ホ

ームページによって存在しているなどの事情から判断して,本件 cache 行為は著作権侵害に当たらないと

の一審の判断を支持した。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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と入力し「Yahoo!Search」をクリックすると,本件著作物らを掲載する A,B,C のホー

ムページへのリンクが見つかり,その下の部分には「Cached」というハイパーリンクもあ

る。そのハイパーリンクをクリックすると,文章が掲載されたウェブサイトに行くことな

くその文章の内容が直ちに読める。王路はこのキャッシュ行為が著作権侵害に当たるとし

て Yahoo 会社を被告として提訴した。Yahoo 会社は,アメリカで登記がされ,アメリカを

本拠地とする企業であり,またサーバー及びコンピューター端末機がともにアメリカに所

在することを理由に,中国には国際裁判管轄がないとの管轄異議申立をした。

判旨:異議申立を却下。

「本院の審査により,本件は渉外的インターネット著作権侵害事件であり,我が国の民

事訴訟法の渉外管轄に関する特別規則に従うべきである。旧民訴法 243 条は『契約紛争或

いはその他の財産紛争で,中華人民共和国国内に住所を有しない被告に対して提訴する場

合,契約が中華人民共和国国内に締結し若しくは履行した場合,訴訟の目的物が中華人民

共和国国内にある場合,被告が中華人民共和国国内差押えのできる財産がある場合,又は

被告が中華人民共和国国内に事業所がある場合は,契約締結地,契約履行地,訴訟の目的

物所在地,差押えできる財産所在地,不法行為地或いは事業所所在地の人民法院が管轄権

を有する』と規定している。被申立人王路は中国人民共和国北京市 XX 区公証署のパソコン

端末において申立人のホームページにアクセスし,関連するウエブページを検索して,被

申立人の作品がネット上に掲載されたことを発見し,それを理由に不法行為として提訴し

た。そのため,北京市 XX 区は不法行為地として,原審法院には本件について管轄権がある」

とする。

[判例 3]著作権侵害管轄異議事件47

事実の概要:中国作家出版社は 1995 年 9 月に胡辛が著作者である作品『陳香梅伝』を出

版した。1999 年 12 月 27 日から,香港鳳凰衛星テレビ局で,脚本家を葉辛とし,撮影会社

が大元会社などである 17 話のドラマ『陳香梅』(以下は『陳』ドラマと略す)の放送が開

始された。胡辛は,居住地である中国南昌大学の寮で『陳』ドラマを見,葉辛氏と大元会

社が許可無く『陳』ドラマの中に自分が独自に創作した内容を使用していることが著作権

侵害であるとして,南昌市中級人民法院に両者を被告として訴えを提起した。

両被告は答弁期間中,管轄異議を申し立てた。その理由は次の 2 点である。すなわち①

『陳』ドラマは「中国域外の衛星テレビ局」である香港鳳凰衛星テレビ局で放送されてお

り,江西省南昌市では法的に見ることが不可能である,従って,南昌市は不法行為地では

ない。原告が損害を被ることだけで原告所在地である南昌市を侵害行為の結果発生地とみ

47 第一審:南昌市中級人民法院(2000)洪民二初字第 11 号;第二審:江西省高級人民法院(2000)赣高

法知终字第 5 号;本件は渉外事件ではなく,中国内陸と香港の間の渉港事件である。中国においては,渉

港事件については渉外事件を参照するので,基本的に渉外事件と同じ構造をとっている。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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なすことは合理的ではない。②異議申立人の所在地,撮影地,制作地はすべて上海にある

ため,本件について被告所在地である上海市第一中級人民法院が管轄権を有すると判断す

べきである。

これに対し,被申立人胡辛は次のように主張した。被申立人所在地の南昌大学は 1996 年

に「外国衛星テレビ番組を受信する」許可証を取得したため,受信行為は合法的であり,

南昌大学で当該ドラマを見ることが可能である。従って,南昌市が侵害行為の結果発生地

であり,南昌市中級人民法院が本件について管轄権を有する。

判旨:①一審の判断:「原告胡辛が南昌大学において合法的なルートで『陳』ドラマを

受信したため,当地は侵害行為の直接に生じた結果発生地であり,両被告の異議申立てを

棄却する。」

両被告は一審の判断を不服とし,江西省高級人民法院に上訴した。

②江西省高級人民法院の内部意見:「一,南昌市中級人民法院には本件について管轄権

がなく,上海市第一中級人民法院に本案を移送すべきである。理由:不法行為地は侵害行

為実施地と侵害結果発生地である。原告は南昌大学校内において,衛星通信により中国内

陸域外で放送された『陳』ドラマを見た。当地は侵害結果の到達地であり,法律上の侵害

結果発生地ではない。法律上の侵害結果発生地はその侵害行為の結果が直接生じた地であ

り,本件においては香港である。その結果発生地を拡大的に解釈して,結果の到達地まで

も結果発生地とすることは地域管轄の拡大又は濫用に繋がる。」

「二,南昌は侵害行為の結果発生地であり,南昌市中級人民法院に管轄権がある。理由:

原告の主張が成立すれば,映画の編集,制作,放送行為はすべて侵害行為になり,香港鳳

凰衛星テレビ局の放送行為自体が侵害行為の実施であり,侵害結果の発生ではない。つま

り,香港は侵害行為の実施地である。当該ドラマを放送する侵害結果については,香港が

同時に結果発生地であるが,唯一の結果発生地ではない。原告が当該ドラマを南昌で見て,

関連する権利を直接に損害され,同時に本ドラマが南昌の公衆に見られたことが原告に悪

影響を及ぼした。そのため,侵害結果発生地は南昌である。……伝統的な侵害発見地や有

体物の到達地をこのような衛星放送番組の伝達と同じように判断し,その結果発生地を否

定すべきではない。」

二審法院である江西省高級人民法院の内部意見が分かれたため,同法院は最高人民法院

の指示を求めた。

③最高人民法院の回答と理由48:「不法行為地は原告が主張した侵害者と具体的侵害行為

によって確定すべきである。……本件訴訟については,原告は被告の翻案,撮影中に原告

の創作した『陳』本の内容を使用した点を問題にしている。つまり,原告の請求は被告の

翻案,撮影行為であり,被告が許可なく放送する行為などに対してではない。そのため,

行為の実施地又は結果発生地はともに上海である。また,被告の許可を与える行為も上海

48 最高人民法院からの指示:最高人民法院(2000)知他字第 4 号。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

18

又は香港において実施され,その結果発生地は放送地である香港である。南昌は請求され

た不法行為の実施地又は結果発生地と直接的な関連がなく,本件の侵害行為地と認めるこ

とはできない。南昌市中級人民法院は民事訴訟法の関連する規定により管轄権を有する人

民法院に移送すべきである。」

インターネット上の著作権侵害事件は中国の実務上,国内事件が多数であって,国際事

件は多くない。その上,国際事件においては49,裁判所は被告住所地として管轄を認めるか,

応訴管轄として管轄異議に触れずに裁判を進めているかが殆どであるというのが現状であ

る。上に挙げた[判例 2]は,アメリカの検索サイトが提供する Internet cache サービス

が問題となり,国際裁判管轄が判断された事件である。[判例 3]は,インターネット上の

著作権事件ではなく,衛星放送が問題になった事件であるが,インターネット事件と類似

する特性があり,参考になるものと思われる。

司法解釈の「最高人民法院インターネット著作権民事紛争の審査に関する法適用の若干

問題の解釈」(以下は「インターネット著作権解釈」と称する)1 条は50,「インターネッ

ト著作権に関する侵害事件は不法行為地或いは被告住所地の中級人民法院に管轄権がある。

不法行為地には,当該不法行為を実施したサーバー若しくはコンピューター端末の所在地

が含まれる。不法行為地と被告住所地が確定できない場合,原告が当該不法行為の内容を

発見したコンピューター端末などの設備の所在地を不法行為地とみなすことができる」と

規定している。

[判例 2]は,「原告が当該不法行為の内容を発見したコンピューター端末などの設備の

所在地を不法行為地とみなす」という上記司法解釈をそのまま適用して判断したものであ

る。この裁判例は,まず著作権侵害を不法行為と性質決定した。その上で,インターネッ

ト事件の不法行為について,「パソコン端末において申立人がホームページにアクセスし,

関連するウェブページを訪問して,被申立人の作品がネット上に掲載されたことを発見」

するだけで,中国を不法行為地として認めた。本件判旨においては,「不法行為地」とい

う文言だけが使用されており,「加害行為地」と「結果発生地」のいずれについて判断し

49[著作権侵害事件の Walt Disney(米)v.北京出版社事件](1995)高知终字第 23 号;[Twentieth Century

Fox Film Corporation(米)v.北京文化藝術出版社事件](1996)一中知初字第 63 号;

[WEAINTERNATIONALINC.レコード会社(米)v.北京阿里巴巴会社事件](2007)二中民初字第 02630

号;商標権侵害事件の[The Siemon Company(米国会社)v.寧波貝特貝通信会社事件](2005)甬民二

初字第 210 号;インターネットドメイン名侵害の[Philips テクノロジー会社(オランダ)(Koninklijke

Philips Electronics N.V)事件](2002)沪二中民五(知)初字第 214 号などが挙げられる。50 1955 年全国人民代表大会常務委員会の「法律問題の解釈に関する決議」は,「全ての審判過程におけ

る如何に具体的に法律,法令を適用するかの問題について最高人民法院審判委員会が解釈を行う」と規定

している。また,「中華人民共和国人民法院組織法」32 条は,「最高人民法院は,審判過程における如何

に具体的に法律,法令を適用するかの問題について解釈を行う」と規定している。つまり,司法解釈権は,

法律が最高人民法院に付与したひとつの審判職権であると言える。2007 年最高人民法院の「最高人民法院

の司法解釈業務に関する規定」5 条には,「最高人民法院の公布した司法解釈が法的効力を有する」との

規定がある。中国の国際私法領域において,司法解釈は立法よりも明らかに多い。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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たのかが明らかではないが,少なくとも受信行為地自体が不法行為地に当たることは明ら

かである。

[判例 3]については,最高人民法院は,問題となった侵害行為は翻案権と撮影権の侵害

行為であり,放送権侵害行為は含まれていないと判断した。そのため,被告の加害行為地

又は結果発生地は上海と香港であり,受信地である南昌は本件侵害行為の結果発生地とみ

なすことができないと判断された。本件では,衛星放送の受信地を結果発生地と認めるべ

きか否かについて議論がなされていた。この問題をインターネット関連事件に当てはめれ

ば,アクセス可能である地を結果発生地として認めるべきか否かという問題として考慮で

きる。

この点につき,受信地を結果発生地とみなすべきであるという意見として,中国知的財

産権司法保護ホームページにおいて以下の評論が掲載されている。

「一,受信地を結果発生地として認めるべきか否かについて

中国著作権法 10 条 1 項(5)と著作権法実施条例 5 条 1 項(3)の規定によれば,著作権

者は無線電波,有線テレビの方式で作品を放送する権利を有する。他人が許可無く放送す

ることは,当法(著作権法)45 条の放送権侵害行為に当たる。放送権侵害行為の実施地は

放送行為を実施する放送局,テレビ局などの所在地であり,確定することが比較的容易で

あるが,侵害結果発生地の確定については議論が多い。江西省高級人民法院もこの点で意

見が分かれている。司法実務からみると,受信地を侵害行為の結果発生地とした場合には,

管轄権を無制限に拡大するおそれがある。しかし,理論上,受信地を結果発生地とするこ

とには一理ある。放送権侵害は,著作権者が作品を伝播する権利を侵害することである。

その直接な侵害結果は,違法作品が電波の届く地区で受信されたことである。したがって,

受信された地域は侵害行為の結果発生地と認めることができる。インターネット上の著作

権侵害結果発生地の確定も,これに類似したところがある。

江西省高級人民法院の第一意見は南昌(テレビ番組受信地)が侵害結果の到達地であり,

法律上の結果発生地ではないという主張であるが,それは具体的な侵害行為を明確にして

いない。もし南昌が本案原告の請求した行為(放送行為を含まない)の結果の到達地とい

うならばそれは正しいが,放送行為の場合,南昌を侵害行為の結果発生地ではなく到達地

と判断するなら,検討すべき余地がある。」51

(3)小括

以上の裁判例からみると,日本の特許権侵害事件では,結果発生地と認定するためには,

アクセス可能性だけでは足りず,日本に向けた販売勧誘が要求されている。しかし,どの

51 「『陳香梅』著作権侵害管轄異議事件」中国知的財産司法保護 HP<

http://www.chinaiprlaw.cn/show_News.asp?id=1129&key=%C7%D6%B7%B8%A1%B6%B3%C2%CF%E3%C3%B7%B4%AB%A1%B7%D6%F8%D7%F7%C8%A8%B9%DC%CF%BD%D2%EC%D2%E9%B0%B8>(最終確認 2011 年 8 月 6 日)。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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ような行為が「日本に向けた販売勧誘」に当たるかについて,一審と二審の判断が異なっ

ている。一審判決は,ウェブサイトの中に仕様内容,問い合わせフォームなどがあること

は製品の紹介に過ぎず,「譲渡の申出行為」と解することはできないと判断している。こ

れに対し,二審判決では,「購買に関するお問い合わせ」項目を選択できるようなウェブ

サイトの開設自体が「譲渡の申出行為」と解する余地があるという判断がなされている。

このように,販売の勧誘があるかどうかの判断基準は明確に示されていない。

また,[判例 1]は特許権侵害事件であり,著作権侵害と比べ異なる特徴もある。例えば,

特許権の場合,商品の紹介だけでは直ちに特許権侵害にはならないかもしれないが,著作

権の場合,特に写真など,紹介のためだとしてもネットに掲載するだけで直ちに著作権侵

害になる可能性が大きい。そのためこの事案のような判断が著作権侵害の場合についてそ

のまま当てはまるかどうかについては,別途検討を要する。

中国では,[判例 2]は被告会社,サーバー共に外国に所在しているが,中国において侵

害サイトが見られるという理由だけで,つまりアクセス可能性だけで国際裁判管轄を認め

た事件である。しかし,これが判例として確立しているとは言えない。[判例 3]は,イン

ターネット上の著作権侵害にも参照できる衛星放送関連の事件であるが,最高人民法院に

まで指示が求められたにも拘らず,受信地としてアクセス可能性だけで管轄が認められる

か否かいう点は明確に判断されなかった。

3 不法行為地の判断についての学説

(1)結果発生地についての議論

上述のように,受信行為地は結果発生地として認定すべきであるが,受信行為の内,ダ

ウンロード行為はともかく,アクセス又は閲覧できるだけで結果発生地として不法行為地

管轄を認めるかどうかが問題になる。不法行為地管轄を有する国々では問題状況が同様で

あるので,以下では日中欧を共に参照する。併せて,近時公表されているモデル原則,立

法案も参考とする。

この点に関し,名誉毀損についてではあるが,道垣内正人教授は「被害者の名誉・プラ

イバシーの利益が存在する地であって,そのような情報がネットワークを通じて提供され

たすべての地が結果発生地国として管轄を有する」と主張する52。また,同教授はこのよう

な解釈につき,「一つの国からの一つの行為で,同時に多くの国で損害を生ぜしめた」こ

とが「行為者からみれば驚きかもしれないが,世界中で販売される雑誌において名誉毀損・

プライバシー侵害行為を行った場合や世界中で見聞きされる放送を通じて同様の行為を行

った者と同じく,上記のことは覚悟すべきであるというほかない」とする53。

52 道垣内正人「サイバースペースと国際私法―準拠法及び国際裁判管轄問題」ジュリ 1117 号(1997)64

頁参照。53 道垣内・前掲注(52)63 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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インターネット上の名誉毀損やプライバシー侵害事件は,その掲載された名誉毀損とな

る記事を見た瞬間に損害が発生するという点では,著作権侵害と同様であると考えられる。

道垣内教授はインターネット上の著作権侵害について,「デジタル化された信号をインタ

ーネットに載せたというときに,世界中で同時に侵害が起きるかもしれないわけであり,

しかも,そのことが『合理的に予見』できなかったかというと,インターネットに情報を

載せれば世界中で見ることができることは予想できたはず」であるとほぼ同じ意見を主張

する54。すなわち,著作権が存在する地である限り,アクセスできるすべての地が結果発生

地として国際裁判管轄を認められることになる。

中国にはインターネット著作権司法解釈 1 条があり,不法行為の内容を発見する端末が

中国国内にあれば,国際裁判管轄を認めることができる。もっとも,このような規定は過

剰管轄になる可能性があり,原告が自分の住所地で侵害を発見したと主張すれば,原告住

所地管轄を拡大することになり得る。そのため,「交互」という関連があることを課して

この管轄を制限すべきであるとの提案がある55。「交互」という要件は,単に閲覧可能性で

は足りず,原告がそのサイトとある程度の関連,例えば,原告がそのサイトで契約を締結

したとか,ファイルの交換をしたとか,売買契約などの申出をしたなどの関連を要求する

ものである。

ヨーロッパにおいても,同様の議論が盛んである。例えば,Metzger は,アクセス可能

性だけを理由に国際裁判管轄を肯定すると過剰管轄が生じ易いし,また,侵害者であるネ

ットサービス提供者(ISP)或いは個人(例えば P2P ファイル交換ソフトを使う人又は

Youtube に投稿する人など)が世界中で応訴することを余儀なくされると主張する。さら

に,このようなルールは被告の予見可能性を害する上,原告は法廷地との関連性や証拠の

集中地を考えずに自国又は自らに有利な国で提訴することになる可能性が大きいと指摘し

ている56。

また,このような管轄ルールの下でも,準拠実質法のレベルで適用範囲を制限し,実質

的影響のある管轄地内においてだけ差止めと損害賠償の効力が及ぶという方法をとれば,

被告にとっても合理性があるとの主張に対し,Metzger は,被告が各法廷地で応訴し弁論

しなければ,欠席判決を受けるリスクがある,と反論している57。

54 道垣内正人「著作権をめぐる準拠法及び国際裁判管轄」コピ 40 号(2000)19 頁。55 卓翔:《对网络侵权案件的司法管辖权》,《法学论坛》, 2001 年 03 期 64 页。同様の制限を要すると

解し得るものとして,以下も参照。张铃:《论网络知识产权侵权的涉外管辖》,《法制与社会》,2009 年

02 期 162 页。これらの論者は,インターネットサイトを積極的サイトと消極的サイトとに区別している。

閲覧者に積極的に広告を送るといった勧誘する行為がある場合を積極的なサイトという。これに対し,何

の勧誘行為もなく,ただサイトに情報を掲載するだけの場合を消極的なサイトという。積極的なサイトで

あれば,受信地を結果発生地として認めてもよいが,消極的なサイトである場合は被告の予見可能性を損

なうことになるため,基本的にただ受信地であることだけでは管轄を認めないという見解と言える。56 Metzger, supra note(39), at p. 255 .57 Metzger, supra note(39), at p. 256.

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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さらに,近時公表されている知的財産権に関する抵触法問題についての各立法案におい

ても,受信地について何らかの制限が設けられている。例えば,ALI 原則 204 条 2 項には

「行為が特定国に向けられ」との文言があり58,また,CLIP 草案 2:203(2)においては,

「侵害全体を継続する実質的な活動がなされた」又は,「侵害全体との関係において重要

である」という条件がつけられている59。また,「日本法の透明化」案 105 条も,「最も大

きな結果が発生したか発生すべき地が日本にある」という制限をユビキタス侵害について

設けている60。「結果発生地は拡散する可能性があるため,『最も大きな』結果ということ

で絞り込んでいる」ためである61。

(2)加害行為地ついての議論

加害行為地は,インターネット関連事件においては発信地とも言うことが出来るが,そ

の候補としては,一般に,サーバー所在地,アップロードがなされた地,被告の事業所所

在地(establishment)が挙げられる。

実際上,発信地が被告の住所地である事件が殆どであるため,加害行為地が問題になっ

た事件はそれ程見当たらない。例えば,上に挙げた[判例 1]と[判例 2]は,サーバー所

在地に触れずに判断を下している。

58 ALI-Principles in 204(2): “A person may be sued in any State in which that person’s activities give

rise to an infringement claim, if that person directed those activities to that State. The court’sjurisdiction extends to claims respecting injuries occurring in that State.” 204 条 2 項「行為が特定国に

向けられ,その行為の結果侵害訴訟を惹起するに至った場合,当該行為を行った者をその特定国において

被告とすることができる。この場合,裁判所の管轄権はその国において発生した侵害結果に関する訴えに

のみ及ぶ」日本語訳は河野・前掲注(30)10 頁以下参照。59 Article 2:203: Extent of jurisdiction over infringement claims(2)In disputes concerned with infringement carried out through ubiquitous media such as the

Internet, the court whose jurisdiction is based on Article 2:202 shall also have jurisdiction in respect ofinfringements that occur or may occur within the territory of any other State, provided that theactivities giving rise to the infringement have no substantial effect in the State, or any of the States,where the infringer is habitually resident (Article 2:102)and

(a) substantial activities in furtherance of the infringement in its entirety have been carried out

within the territory of the country in which the court is situated, or(b)the harm caused by the infringement in the State where the court is situated is substantial in

relation to the infringement in its entirety.「(2)2:202 条に基づき管轄権を有する裁判所は,インターネットのようなユビキタスメディアを通して

行われた侵害に関する訴えについては,他国において生じた又は生じる可能性のある侵害についても,次

の場合に限り,管轄権を有する。法廷地国に,侵害者が常居所を有し(2:102 条),又は常居所が複数あ

る場合にはそのいずれかの常居所を有している場合であって,法廷地国には当該侵害による実質的な影響

はないが,

(a)法廷地国内において,侵害全体を継続する実質的な活動がなされた場合又は,

(b)侵害の結果法廷地国にもたらされた損害が,侵害全体との関係において重要である場合

日本語訳は河野・前掲注(30)32 頁以下参照。当該日本語訳は CLIP 第 2 次案に対するものではあるが,

本条について,第 2 次案と変わりがないため,そのまま引用している。60 105 条は「知的財産権侵害及び不正競争に関する訴えについては,侵害行為の結果が発生したか発生す

べき地,又は,侵害行為が行われたか行われるべき地が日本にあるときは,日本の裁判所に国際裁判管轄

が認められる。但し,ユビキタス侵害に関する訴えについては,最も大きな結果が発生したか発生すべき

地が日本にある場合を除き,この限りではない」と規定している。61 河野・前掲注(30)3 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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この点につき,名誉毀損の問題に関してではあるが,中西康教授は,日本在住の加害者

が日本から海外に所在するサーバーに名誉毀損的メッセージをアップロードして公表した

場合に,日本に国際裁判管轄を認めるかべきか否かという問題について,「このような事

件は基本的には,従来の通信手段と質的な相違はなく,その延長線上で考えるべきであろ

う。証拠等の存在や,加害者が準拠する行動基準などの,加害行為地の管轄としての根拠

から考えると,加害行為地として日本に不法行為地の国際裁判管轄を認めるべきであろう」

と述べており,また,逆に外国に在住する加害者が日本に所在するサーバーにアップロー

ドする場合も同様であるとしている62。同教授のこのような見解からすれば,著作権侵害の

場合にも同様に考えるものと解される。

「日本法の透明化」案では,通常の知的財産権侵害行為地には,侵害行為の結果発生地

と侵害行為の行われた地の両方が含まれているが,ユビキタス侵害については,結果発生

地だけが認められている63。その理由としては,「ユビキタス侵害においては,データをア

ップする行為はどこででも可能となり,ユビキタス侵害に関する限り『行為』の要素は重

要な管轄原因要素とはいえなくなっているように思われる。したがって本立法提案では『結

果』に着目している」ためとされている64。

中国の司法解釈でも,インターネット関連事件に関して,「不法行為地には,当該不法

行為を実施したサーバー若しくはパソコン端末所在地が含まれている。」と規定している。

これに対し,サーバーとアップロード地だけで管轄を認めるのは過剰管轄に繋がるため,

侵害者が意図的に利用行為を行うウェブサイトのサーバー又はアップロード端末機の所在

地が加害行為地であるとの見解がある65。つまり,「意図的利用」(侵害行為者が主観的に

利用しようとする意思)がある地である上,ウェブサイトのサーバーなどの所在地にも当

たる場合,その地を裁判籍とすることが合理的であり,確定性もあると言える。また,イ

ンターネット上の侵害行為を積極的接触と消極的接触に分けて判断すべきであるという主

張も見られる66。侵害情報を積極的に他人のウェブサイト或いはメールボックスに送信する

行為が積極的接触であり,その送信地を加害行為地として管轄権を認めるべきである。一

方,自分のサイトに宣伝なくアップロードして,他人の訪問などを消極的に待つような行

為(消極的接触)について,そのアップロード地は加害行為地として認めることができな

い。このような見解である。

62 中西康「マスメディアによる名誉毀損・サイバースペースでの著作権侵害等の管轄権」高桑昭=道垣内

正人編『国際民事訴訟法(財産法関係)』(青林書院,2002)101 頁。63 条文は前掲注(60)参照。64 河野・前掲注(30)237 頁。65 张玲・前掲注(55)157−162 頁。66 陳钧:《网络侵权案件的管辖确定》,《中国电子与网络出版》,2003 年 09 期,第 12 頁;侯捷:《网

络侵权案件管辖权探析》,《当代法学》,2002 年 08 期,第 39 頁も同様の見解である。また,卓翔・前掲

注(55)65 頁は接触を程度により 6 段階に分け,1 から 3 段階までは消極的接触であり,4 から 6 段階ま

では積極的接触とする。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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ヨーロッパでも同様に,加害行為地の候補地としてサーバー所在地やアップロード地な

どについての議論がある。サーバー所在地については,加害者が違法著作物をアップロー

ドする際,また閲覧者がサイトを見る際にはサーバーがどこにあるかは特に重視されてお

らず,また,サーバーがコピーライト・ヘブンにある場合には被害者にとって非常に不利

であると批判されている67。

また,ヨーロッパの議論においては,隠れた加害行為地と見なされる被告の事業所所在

地を選択肢とする見解もある68。このような解釈は,確かにブリュッセルⅠ規則 5 条 3 項の

不法行為管轄の規定に関する伝統的な解釈を超えているが,被告の事業所所在地とアップ

ロードする地との間に何らかの関連があることは否定出来ない。但し,被告の事業所所在

地は被告の住所地にも当たるため,この見解では加害行為地と被告住所地が同じであるよ

うに見えるので,合理的ではないと批判されている69。

(3)結果発生地が拡散することから生じる問題の対応

インターネット上の著作権の侵害においては,ほぼ世界中の国が結果発生地となりうる。

そうすると,同一事件に関して複数の国で複数の並行する訴訟が生じる可能性があり,問

題である。この問題は,中国ではほとんど議論されていない。一方,日本では,中西教授

が①審理できる範囲の限定と②結果発生地とするものの限定という二つの対応策が考えら

れると述べている70。

①審理できる範囲の限定という対応策は,1995 年 3 月 7 日の欧州司法裁判所における

Shevill 判決が採用したものである71。Shevill 判決は新聞紙による各地での名誉毀損が問題

となった事件であるが,世界各地における損害賠償請求について,以下のような処理法を

採用した。すなわち,加害行為地(この事件では出版者の本拠地)で損害賠償請求訴訟を

提起する場合には世界中の全損害について管轄権があるのに対し,結果発生地(出版物の

頒布されたそれぞれの締約国)で訴えを提起された場合における損害賠償請求は,その国

内で生じた損害についてのみ管轄を有するに過ぎないという処置である72。この判断をイン

ターネットの場合に当てはめると,受信地であるアクセスが可能な地ではその国の範囲内

で生じた損害だけに管轄が及ぶのに対し,発信地であるアップロード地或いはサーバー所

在地には世界中の全損害について管轄があるということになる。

67 Maksymillian Pazdan/Maciej Szpunar, ”Cross-Border Litigation of Unfair Competition over theInternet”, in Arnaud Nuyts (ed.), International Litigation in Intellectual Property and Information

Technology(Kluwer Law International, 2008), p141; Metzger, supra note(39)p259.68 Nuyts, supra note (39), p. 12169 Pazdan/ Szpunar, supra note(67), p141-142.70 中西・前掲注(62)103-105 頁。71 Shevill v. Presse Alliance 事件 1995 年 3 月 7 日判決(C-68/93)[1995]ECRI-415.72 この判例を詳しく紹介し検討したものとして,中西康「出版物による名誉毀損事件の国際裁判管轄に関

する欧州司法裁判所一九九五年三月七日判決について」法学論叢 142 巻 5・6 号(1998)181 頁以下があ

る。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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しかし,中西教授は,「原因となった同一の事象から複数の損害が発生したような場合,

それぞれを別々の不法行為とみなしたとしても,その間の関連性は,国際裁判管轄につい

ては要求されるような,一定の関連性を満たすと考えることに,疑問の余地はないものと

思われる。このように,関連する事案について,事件を集中して審理することに積極的な

傾向にあるわが国の民事訴訟法の立場からすれば,このように管轄の範囲を限定すること

は,解釈論としては採用し難いと思われる」と指摘する73。そして,そのため,「受信地を

結果発生地と認めるとしても,事件全体について審理する管轄をその国の裁判所に認める

のに適当なものだけに限定」するという,②の結果発生地の限定という対策によらざるを

得ないと同教授は主張している74。

4 検討

(1)結果発生地について

各国の議論からすれば,アクセス可能性だけで結果発生地と認めるのは不適切であると

思われる。制限する方法には各種の提案があるが,何らかの制限を設けようとする見解が

多数説である。しかし,知的財産権全体について論じるものが多く,それらの提案は著作

権に関しては必ずしも合理的とは言えない。何故なら,特許権の場合,そのサイトにアク

セスした時点では必ずしも損害が発生したとは言えない場合があるが,著作権の場合,ア

クセスして掲載された著作権が見られるようになった時点でアクセスできる領域で損害が

発生すると言うことができるからである。

例えば,[判例 1]の特許権侵害事件では,英語表記のウェブサイトも日本語表記のもの

も存在しており,日本においてアクセスが可能である。しかし,特許権の場合,侵害物の

情報を見るだけでは直ちに特許権侵害にはならない。そのため,問題になるウェブサイト

で製品の紹介だけがなされているのであれば,直ちに結果発生地と言うことができない。

これに対して,[判例 2]の場合,掲載された著作物を閲覧可能な状態に晒すこと自体が公

衆送信権(送信可能化権も含む)を侵害することになる75。

この点につき,インターネット上の名誉毀損やプライバシー侵害事件については,その

掲載された名誉毀損になる記事を見た瞬間に損害が発生するという点で,ここで扱ってい

る著作権侵害の場合と同様に考えることができる。そして,被害者の名誉・プライバシー

の利益が存在する地であって,そのような情報がネットワークを通じて提供されたすべて

の地が結果発生地国として管轄を有するとすることは,特に不合理ではない。

73 中西・前掲注(62)104 頁。また,道垣内教授も「しかし,日本では,損害発生地の一つとして管轄を

もつのであれば,他の国で生じた損害についても,客観的併合による管轄が認められることになるものと

思われる」と述べている。道垣内・前掲注(52)66 頁注 20。74 中西・前掲注(62)104 頁。75 インターネット上で直接に著作物を掲載するのではなく,著作物の販売サイトが問題とされる場合も

[判例 2]と同じように考えられる。この形態の著作権侵害はインターネットを通じた著作権侵害事件で

あり,本稿では扱わない。前掲注(2)参照。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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アクセス可能性だけで国際裁判管轄を認めると確かに過剰管轄が生じる可能性があるが,

管轄権の及ぶ範囲に制限を設けるなら問題がなくなる。すなわち,受信地管轄はその国内

で生じた損害にしか及ばないと規定すれば,アクセス可能な土地で事件との関連性が低く

ても,その低い関連性の範囲内で生じた侵害管轄権を持つとすることは特に不合理でない

と考えられる。

このような解釈は被告の予測可能性を害するかもしれないが,被告はインターネットの

性能を知りながらアップロードするのであるから,世界中にその影響を及ぼすことをある

程度予測できると考えるべきであろう。

また,原告は法廷地との関連性と証拠の集中地を考えないという批判もあるが76,著作物

が法廷地において閲覧できるかどうかということが証拠としては重要で,法廷地との関連

がないとはいえないであろう。加害者にとって欠席判決を受けるリスクがあるとの批判も

あるが77,管轄の及ぶ範囲がその国で生じた損害に限定されることを前提にすれば,その欠

席判決の執行も法廷地に止まるため,加害者に対しても特に負担にならないはずである。

このように,著作権侵害の場合78,アクセス可能な地で管轄を認めることに合理性があり,

わざわざ「最も大きな結果」などの曖昧な限定を図る必要が本当にあるかどうかは疑問で

ある。

(2)侵害行為実施地について

インターネット上の著作権侵害事件では,著作物をアップロードし配布することが加害

行為であり,アップロードがなされた地を加害行為地と認定するのが一見合理的に見える。

しかし,インターネット上に著作物をアップロードすることは,現実社会の出版や展示な

どに比べると費用がそれ程かからず簡単に送信でき,配布できるため,侵害行為実施地が

世界中複数あることもあり得る。また,アップロード行為はパソコンさえあればどこから

でも操作でき,土地との関係が非常に薄い。例えば,旅行中でも簡単に違法著作物をアッ

プロードすることができるのである。そのため,アップロードがなされた地に偶然性が高

く,管轄原因の一つになる合理性があるかどうか疑問が少なくない。また,サーバー所在

地についても,設置する場所が簡単に選択できる点で同様の問題が存在する。また,被告

の事業所所在地は上述のように被告住所地と混同されることになり,解釈論上無理がある。

結局,インターネット上の著作権侵害事件では,加害行為地を特定することには無理があ

るのではないかと思われる。さらに,視点を変えて考えてみると,加害行為地を特定する

必要は本当にあるのだろうか。上述のように,アクセス可能な土地で国際裁判管轄を認め

76 Metzger, supra note(39), at p. 255.77 Metzger, supra note(39), at p. 256.78 ここでの議論には違法著作物の搭載品(本,CD,DVD など)のインターネット上での販売は含まれて

いない。注(2)参照。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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るという前提に立てば,加害行為地を特定できなくともアクセスが可能なら国際裁判管轄

を認めることができるため,加害行為地を特定する実益も少ないのではないだろうか。

(3)結果発生地の審理できる範囲

確かに,中西教授が指摘されたとおり,日本には併合管轄があるため,一定の関連性を

主張し,他の国での損害も併合管轄により日本で併せて審理することができる。そのため,

結果発生地で日本に国際裁判管轄を認めつつ日本国内の損害に審理範囲を限定するという

方法には,解釈論上困難がある。

すなわち,判例・学説上は,同一被告に対する客観的併合の場合,国際裁判管轄に関し

ては併合請求間に関連性が必要とされている79。この関連性について,中西教授は,上述の

ように,原因となった同一の事象から複数の損害が発生したような場合,それぞれを別々

の不法行為とみなしたとしても,その間の関連性を認めることに疑問の余地はないもので

あると述べて80,この対応策に反対し,結果発生地の認定自体を限定する対応策を支持する。

この考え方に立てば,同一原告が同一被告に対し日本で著作権侵害を訴えた場合には,世

界各国で生じた侵害は同一の事象から複数の損害が発生したことを意味するため,関連性

が認められ,原告が併合管轄によって世界中の損害につき日本の裁判所に提訴できること

になる。

だが,渡辺惺之教授は,「被告に本来の管轄地ではない偶々提起されている別訴の受訴

裁判所で応訴するよう求める理由としては,相互の請求の事実的基礎が同一であり審理上

の便宜があるということで充分ではない。統一的審理のため併合を必要とする積極的な事

情を直截に関連性として要件化すべきである」とし,その要件は「請求間に判断の矛盾を

回避するため統一とした審理を必要とする内容上の依存関係,両勝ちや両負けを避けるべ

き関係等があるかを基準とすべきである。具体的には,請求相互が予備的併合や選択的併

合の関係にあるか,主請求の勝敗と直接に関わる先決関連に相当するか等が判断の手掛か

りになるであろう」と述べる。そして,「同一の当事者間で同一の著作権に関して,著作

権ないし独占的利用権の有無や帰属をめぐる紛争が,同一の事件或いは契約から生じてい

るというだけでは,国際裁判管轄に関しては,まだ併合管轄を認めるに充分な関連がある

とはいえない」としている81。

このように,著作権侵害事件でも,それが同一の当事者間の同一の著作権に関する同一

の行為により生じたというだけでは,併合管轄を認める関連性としては充分でないと解釈

する余地はある。このような判断の成否はともかく,少なくとも「関連性」の解釈により,

79 判例は「円谷プロ事件」最判平成 13 年 6 月 8 日民集 55 巻 4 号 727 頁など。学説上は,木棚照一ほか

『国際私法概論』(有斐閣,第 3 版補訂版,2001)258 頁。高橋・前掲注(34)64 頁などを参照。80 中西・前掲(62)104 頁。81 渡辺惺之「客観的併合による国際裁判管轄」石川明先生古稀祝賀『現代社会における民事手続法の展開

(上)』(商事法務,2002)392−393 頁。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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他国での著作権侵害を,日本での併合管轄から排除することは解釈論上無理ではないよう

に思われる。

また,中西教授が提案した結果発生地を限定する方法によると,被害者がある国の損害

について救済を求める時には,常に事件全体について審理する管轄をその国の裁判所に認

めるのに適当な国を探さなければならないことになる。その裁判所が常に世界中の損害に

ついて審理することになれば,裁判の長期化に繋がる可能性が大きい。また,下された判

決は他国で承認・執行される必要があり,問題が複雑となる可能性がある。

それ故,私見は基本的に Shevill 判決が確立した原則に傾く。しかし,上述のように,イ

ンターネット上の加害行為地は確定し難い。また,実際に考えると,インターネット上の

著作権侵害について,加害行為地が確定できるとしても,その地は常に侵害の最も大きな

場所であるとも言えないし,侵害と最も密接な関連がある地とも言えない。そのため,加

害行為地で審理できる範囲を拡大することには,十分な合理性がないように思われる。し

かし,各国での損害につきそれぞれ各国の裁判所に提訴することは,当事者に大きな負担

を与える。それ故,どこか一つの国でまとめて審理する必要も生じ得る。以上の点に配慮

すれば,アクセスが可能な土地で管轄を認め,その内,侵害全体と比較し最も影響又は商

業的効果が大きな地で全損害についての管轄を認めるのが,一つの選択肢ではないだろう

か。

但し,日本において,併合管轄につき上述した渡辺教授による「請求間の関連性」の解

釈に依拠するならば,解釈論上侵害と最も密接な関連がある受信地に併合管轄を認めるこ

とには困難もある。そうすると,この問題は立法により明確化した方が良いのではないだ

ろうか。

この点につき,「日本法の透明化」案 105 条は,中西教授が提言した「結果発生地を限

定する」という立場に立っているように見受けられる。これに対し,「早稲田案」11 条〔管

轄の集中〕においては,「同一の権利者に属する複数国若しくは領域の知的財産権が,イ

ンターネット等のユビキタスメディアを介して同時的に侵害された場合,主として侵害の

対象とされた知的財産権が属する国の裁判所に他の国の知的財産権の侵害に関する訴えを

併せて訴えることができる」という文言が用いられており,このことからすれば,本提案

は結果発生地の限定ではなく,むしろ審理範囲の限定という立場であると考えられる。

但し,「早稲田案」は「主として侵害の対象とされた知的財産権が属する国」という表

現を用いており,「結果」ではなく,「行為の目的」に注目しているように見える。上述

したように,インターネット上の著作権侵害は「行為」より,むしろ「結果」のほうが重

要である。そのため,「日本法の透明化」案の「最も大きな結果が発生したか発生すべき

地」という文言のほうが合理的である。

私見では,「早稲田案」のように,審理範囲を限定する方法に賛成するが,文言上は「最

も大きな結果が発生したか発生すべき地」を採用することを支持する。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

29

上述のように,併合管轄の問題について日本では議論が多いのに対し,中国においては

議論が少ない。客観的併合につき,民訴法 126 条が,「原告による訴えに関する請求の増

加,被告による反訴の提起,第三者による本案に関連する訴えの提起について,人民法院

が併合して審理することができる」と規定している。その際,要件として各請求間の関連

性を要求しないのが通説である82。しかし,国際裁判管轄の規定には併合管轄という特則が

設けられておらず,学説上も殆ど議論されていない。また,「模範法」においても併合管

轄については触れられていない。この点について,今後の議論動向が興味深いところであ

る。

5 小括

上述の裁判例からすれば,インターネット上の著作権侵害,すなわち公衆送信権の侵害

を巡る訴訟では結果発生地(受信地)が問題になるものが多い。アップロード行為地は主

観的な意思により変更できるため,侵害行為の行われた地を確定する意味はなく,また転

送などの技術もあるため,確定すること自体が困難である。これに対し,結果発生地とし

てのアクセス可能地が管轄地になるかどうかについては,その管轄範囲を法廷地国内での

損害に限定すれば不都合が生じないから,基本的に認めるべきであろう。このように,イ

ンターネット上の著作権侵害については,「行為」よりもむしろ「結果」に注目して不法

行為地管轄を決定すべきであると考える。

しかし,このようにインターネット上の著作権侵害の結果発生地における裁判所の審理

範囲を法廷地国内に生じた損害に限定すると,原告が各々の受信国に提訴しなければなら

ないことになる。原告又は被告に各国で訴訟をするという多大な負担を負わせないため,

どこかの国で一括して全損害について管轄を認める必要性がある。被告住所地は一つの選

択肢であるが,ユビキタス侵害では,最も影響の大きい或いは商業的効果が最も大きな受

信国も一つの良い選択肢と思われる。日本ではこの点について解釈論上困難があり,これ

からの立法に期待する。

中国では,インターネット著作権司法解釈が 1 条によって,アクセス可能性だけで国際

裁判管轄を認めることができると解釈している。しかし,管轄範囲については議論されて

おらず,インターネット上の著作権侵害事件をきっかけに併合管轄についての議論が進展

することを期待する。

第三章 準拠法

第一節 ベルヌ条約 5 条 2 項に関する日中の議論

82 沈达明:《比较民事诉讼法(上)》(中信出版社,1991)第 89 页。李仕春:《诉之合并制度的反思及

其启示》,《法商研究》,2005 年 105 期,第 85 页。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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1 はじめに

著作者の国際的な権利保護に関しては,様々な多国間条約が存在している。その内,多

くの国家が加入し,最も重要な一つとして知られるのは,19 世紀末に成立した「文学的及

び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」である83。同条約は長い歴史の間,何度も改正

され,社会的又は技術的環境の変化に柔軟に対応してきた。現時点では,すでに 164 もの

国が加盟している84。

ベルヌ条約 5 条 2 項は,「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障さ

れる救済の方法は,この条約の規定によるほか,専ら,保護が要求される同盟国の法令の

定めるところによる」と規定する85。この規定が準拠法選択規則であるか否かという点が各

国で議論されてきた。「保護が要求される同盟国の法令」を「保護国法」と解し,準拠法

選択規則であるとの立場に立つとすれば,ベルヌ条約の加盟国において統一国際私法規則

が存在すると言える。これに対し,ベルヌ条約には準拠法規則が存在しないと考えれば,

渉外的著作権侵害は,属地主義の原則又は各国の国際私法によって処理することになる。

ベルヌ条約 5 条 2 項をどのように位置づけるかによって,準拠法選択適用のプロセスが

異なるため,インターネット上の著作権侵害を検討する際の前提問題として,まずは各国

におけるベルヌ条約 5 条 2 項についての議論の現状を確認しなければならない。

2 日本

日本ではベルヌ条約 5 条 2 項の位置づけに関する最高裁判決が存在しないが,著作権侵

害に基づく差止めについては,ベルヌ条約 5 条 2 項に依拠している下級審裁判例がいくつ

か見られる。以下ではその典型的な裁判例である「中国の詩事件」を概観してから学説上

の議論を見てみよう86。

(1)裁判例

83 Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works.1896 年 5 月 4 日パリ改正,1908

年 11 月 13 日ベルリン改正,1914 年 3 月 20 日ベルヌ改正,1928 年 6 月 2 日ローマ改正,1948 年 6 月

26 日ブリュッセル改正,1971 年 7 月 24 日パリ改正がある。84 『WIPO』<http://www.wipo.int/treaties/en/ip/berne/index.html>(最終確認 2010 年 10 月 1 日)。85 第五条〔保護の原則〕

(1)著作者は,この条約によつて保護される著作物に関し,その著作物の本国以外の同盟国において,そ

の国の法令が自国民に現在与えており又は将来与えることがある権利及びこの条約が特に与える権利を享

有する。

(2)(1)の権利の享有及び行使には,いかなる方式の履行をも要しない。その享有及び行使は,著作物

の本国における保護の存在にかかわらない。したがつて,保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著

作者に保障される救済の方法は,この条約の規定によるほか,専ら,保護が要求される同盟国の法令の定

めるところによる。86 その他,「北朝鮮著作物事件」知財高判平成 20 年 12 月 24 日 LEX/DB25440215・25440216;「チャ

ップリンの映画事件」東京地判平成 19 年 8 月 29 日判時 2021 号(2009)108 頁なども同様である。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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[判例 4]中国の詩事件87

事実の概要:X らは,中国の著名な詩人 A(本訴提起後に死亡)の相続人である。Y2 は

「XO 醤男と杏仁女」(以下「被告小説」という。)を執筆し,小説等の出版を業とする株

式会社である Y1 がこれを出版した。被告小説は,Y2 をモデルとする主人公「小悦」と,

A の弟 B をモデルとする中国人男性「古林」との交際を描いた私小説である。被告小説中

には,主人公の心情を表現するために,A が著作した詩 9 編の翻訳文が掲載されていると

ころ,「古林」の兄である「古森」という詩人が本件詩の作者として登場する。

本件は,A の相続人である X らが,Y らに対し,Y2 が被告小説を執筆し Y1 が被告小説

を出版等した行為につき,上記行為が A の有していた本件詩に対する著作権(翻訳権),

著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)及び名誉を侵害すると主張して,次の各請

求をした。

① 著作権に基づく被告小説の印刷,製本,販売及び頒布の差止め

② 著作権侵害を理由とする損害賠償

③ 著作権法 116 条に基づく被告小説の印刷,製本,販売及び頒布の差止め

④ 著作権法 116 条に基づく謝罪広告

⑤ 著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害を理由とする損害賄償

⑥ 名誉毀損を理由とする損害賠償

なお,Y らは,日本における著作権,著作者人格権及び名誉を問題とするものである。

判旨:「我が国及び中国は,文学的及び美術的著作物の保護に関するべルヌ条約(昭和

50年条約第4号。以下「ベルヌ条約」という。)の同盟国であるところ,本件詩は,中

国人であるAが著作者であり,中国において最初に発行された著作物であるから,中国を

本国とし,中国の法令の定めるところにより保護されるとともに(べルヌ条約2条(1),

3条(1),5条(3)(4)),我が国においても,我が国の著作権法による保護を受

ける(著作権法6条3号,べルヌ条約5条(1))。そこで,本件各請求がいずれの国の

法律を準拠法とするのかについて検討する。」

「まず,著作権に基づく差止請求は,著作権の排他的効力に基づく,著作権を保全する

ための救済方法というべきであるから,その法律関係の性質を著作権を保全するための救

済方法と決定すべきである。著作権を保全するための救済方法の準拠法に関しては,べル

ヌ条約5条(2)により,保護が要求される国の法令の定めるところによると解するのが

相当である。本件において保護が要求される国は,我が国であり,上記差止請求について

は,我が国の法律を準拠法とすべきである。

87 東京地判平成 16 年 5 月 31 日判時 1936 号(2006)140 頁。控訴審判決として東京高判平成 16 年 12

月 9 日 LEX/DB28100095 があるが,同判決は準拠法の争点には触れずに,原審と同様と判示したに過ぎ

ないため,本稿では地裁における準拠法に関する判示を示す。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法律関係の性質は,不法行為であり,その準拠

法については,法例11条1項によるべきである。上記損害賠償請求について,法例11

条1項にいう『原因タル事実ノ発生シタル地』は,被告小説の印刷及び頒布行為が行われ

たのが我が国であること並びに我が国における著作権の侵害による損害が問題とされてい

ることに照らし,我が国と解すべきである。よって,同請求については,我が国の法律を

準拠法とすべきである。」

「次に,著作者の死後における人格的利益の保護のための差止請求及び謝罪広告請求は,

著作者の人格的利益すなわち著作者の権利を保全するための救済方法というべきであるか

ら,その法律関係の性質を著作者の権利を保全するための救済方法と決定すべきである。

著作者の権利を保全するための救済方法の準拠法に関しては,ベルヌ条約6条の2(3)

により,保護が要求される国の法令の定めるところによると解するのが相当である。本件

において保護が要求される国は,我が国であり,上記差止請求及び謝罪広告請求について

は,我が国の法律を準拠法とすべきである。なお,べルヌ条約6条の2(2)により,上

記請求権を行使すべき者も,保護が要求される国である我が国の法律によって定められ

る。」

なお,著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求の準拠法については前記著作権侵害

の損害賠償請求と同じ判断がなされている。

(2)上記裁判例に関する議論

A ベルヌ条約 5 条 2 項に対する理解

この判決は,ベルヌ条約 5 条 2 項が準拠法をも定めているという多数説を採用して,保

護が要求される国,すなわち日本の法令の定めるところによると判示したものと思われる88。

駒田泰土教授はこの事件に関する評釈において,ベルヌ条約の文言の理解について以下

の批判を掲げ,同判決に反対した。

「ベルヌ条約 5 条 1 は内国民待遇の原則を定め,同条 2 前段はいわゆる無方式主義,同

項中段は各同盟国における権利の亨有につき著作物の本国における保護からの独立を定め

ており,これらはいずれも外人法上の原則と把握されるところ,ここから同項後段が『し

たがって』という言葉とともに唐突に保護国法の適用という準拠法選択規則を導いている

というのは,いささか不自然な解釈と言わざるをえない。また,『専ら』何々法によると

いう表現も通常の準拠法選択規則には見られないとの違和感がある。

関連条文の構造を見て,条約起草者の意図としては,保護国という概念で特定国を指示

しようとしたのではなく,単に『各同盟国』の意味において保護国の概念を用いたのであ

る。

88 判時 1936 号(2006)141 頁の解説を参照。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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ベルヌ条約 5 条 2 は内国民待遇の原則から著作物の本国法に対する従属関係を明確に除

去するために必要とされた規定である。各同盟国における著作権の亨有等は,著作物の本

国法の影響を受けないと再度強調する趣旨で,『専ら』保護国法による,と表現した――

それ以上でもそれ以下でもないと解されるのである。ベルリン改正の時点においてベルヌ

条約に準拠法選択規則が導入されたことを裏付ける明確な史料はないのであるから,上記

いずれかの解釈に従い,ベルヌ条約からは著作権の準拠法は導かれないとするのが賢明の

ように思われる。」89

これに対し,道垣内教授は同じ枠組みで判示した「チャップリンの映画の著作権侵害事

件」の判例評釈において,ベルヌ条約 5 条 2 項に準拠法決定ルールがあるとの立場を支持

し,以下のように述べた。

「ベルヌ条約には保護国法によるとの規定を,7 条(8),14 条の 2(2)(a),6 条の

2(2)・(3),10 条の 2(1)・(2),14 条の 3(2)などいくつかの箇所に置いている

のは,実体法統一条約である同条約により法統一が達成されなかった点を少なくとも準拠

法決定ルールを置くことで補い,法秩序を安定させようとしていると解するのが合理的で

あり,条約の趣旨と整合的であると考えられる。これらの規定を国際私法を含む法廷地法

を意味すると読むのであれば,規定を置かないのと結果において同じである。

それに,最近の裁判例[この事件の他,「北朝鮮著作物事件」知財高判平成 20 年 12 月

24 日 LEX/DB25440215・25440216;「ローマの休日事件」東京地決平成 18 年 7 月 11 日

判時 1933 号(2006 年)68 頁;「メディアジャパン事件」知財高判平成 21 年 10 月 28 日

LEX/DB25441363 などである――筆者注]は,日本の国際私法規定には触れず,直接に日

本の著作権法を適用していることから,既述の学説上のベルヌ条約の規定は国際私法を含

む法廷地法を適用する趣旨であるとの解釈は否定していると見られる。ただし,常に法廷

地法の著作権法の適用を命じているとの解釈をとっていないとは新しい裁判例がでない以

上,今は言い切れない。」90

このように,駒田教授はベルヌ条約の起草者の意図を考え,文言上,準拠法選択規則を

見出すことができないと論じたのに対し,道垣内教授はベルヌ条約の目的である法統一の

視点から,ベルヌ条約に準拠法選択規則があるという見解を支持している。

B 差止請求と損害賠償請求

[判例 4]は,著作権に基づく差止請求についてはベルヌ条約 5 条 2 項により保護国法に

よるとしているものの,著作権侵害に基づく損害賠償請求については「不法行為」である

と性質決定し,法例 11 条[現行通則法 17 条]によるとした。その後の「チャップリンの

映画事件」「北朝鮮著作物事件」「メディアジャパン事件」などの裁判例も同様の区別を

している。

89 駒田泰土「判批」判時 1962 号(2007)198-199 頁参照。90 道垣内正人「判批」ジュリ 1395 号(2010)174 頁。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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著作権の性質に立ち返れば,著作権は市場に対する排他的支配権であり,差止請求権等

はその本質的効果であると言える91。これに対して,損害賠償請求権は,不法行為という一

般的制度に基づく効果であって,特許権の直接の効果ではないと「カードリーダー事件」

最高裁平成 14 年 9 月 26 日民集 56 巻 7 号 1551 頁が示している。そこで,同判決に基づき,

ベルヌ条約 5 条 2 項は,著作権の効果である差止請求権等の準拠法を保護国法と規定する

にとどまり,不法行為に基づく損害賠償請求権については規定していないと解すべきであ

るとして,このような区別を支持する見解がある92。

これに対し,道垣内教授はこのような区別に反対し,不動産の妨害排除請求権は不法行

為の問題ではなく,物権自体の準拠法によるべきであるという例を挙げている。すなわち

物権の場合には,物権の所在地と不法行為の結果発生地が一致することになるものの,こ

れを不法行為の問題と性質決定した場合,通則法 20 条・21 条が適用され,自国の不動産

について他国法上の妨害排除請求権の行使を認めうることになる。この帰結は受け容れが

たく,著作権の場合も同様である,と同教授は主張するのである。また,ベルヌ条約 5 条 2

項の解釈につき,損害賠償請求が含まれないとの解釈は合理的であるとは言えないとして,

損害賠償請求の部分を不法行為と性質決定するのではなく,差止請求と一緒に保護国法に

よるべきであると述べている93。

(3)学説上の議論

ベルヌ条約 5 条 2 項が準拠法選択規則であるとの見解を支持している学説の中で,「保

護が要求される同盟国の法令」すなわち保護国法の解釈については,概ね「法廷地法説」

と「利用行為地法説」に分かれている94。

「法廷地法説」は保護が要求される国は法廷地を示すため,常に法廷地法を適用すると

いう説であるが,原告の「法廷地漁り」を誘発するし,被告が財産を移すような法律回避

行為を誘発する可能性も大きく,また訴訟が提起されるまで準拠法が決定しないため予見

可能性を損なうなどの理由で,多くの学者から批判されている95。

そこで,保護国法を「利用行為或いは侵害行為の行われる地の法」,すなわち「利用行

為地法」と解する見解が日本には多い96。

これに対し,ベルヌ条約の「著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方

法」という文言から見れば,手続問題をも保護国法―ここではつまり利用行為地法である

91 山本・前掲注(3)236 頁。92 山本・前掲注(3)236 頁。93 道垣内・前掲注(90)175 頁。94 他にも「利用行為地法・法廷地法複合説」などもあるが,これらの説をめぐる議論は本文に挙げた両説

と大きく異ならないので,ここでは言及しない。駒田泰土「ベルヌ条約と著作者の権利に関する国際私法

上の原則」国際法外交雑誌 98 巻 4 号(1999)52 頁参照。95 例えば, 茶園成樹「インターネットによる国際的な著作権侵害の準拠法」国際税制研究 3 号(1999)

80 頁;元永和彦「著作権の国際的な保護と国際私法」ジュリ 938 号(1989)58 頁参照。96 茶園・前掲注(95)79 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

35

―によらしめることになるので,そのような解釈はやはり苦しいのではないかという批判

がある97。

以上の各説にはそれぞれ無理があるように思われるが,これに対し,同条約は,著作者

の権利の準拠法を定める準拠法選択規則を実質的に欠いており,この点を規律する準拠法

の問題は各国の国際私法に委ねられているとの主張も見出される98。

横溝大教授は,条約の解釈は原則として文言解釈主義を採用しているので,「保護が要

求される同盟国の法令」の解釈について,その中の where を大胆に for which に解釈する

ことは到底できないと批判する。その上,保護期間については,保護国法の規定と本国法

の規定を比較する必要があるが,このような場合にまで法廷地法以外の法を保護国法と解

するのは困難であることを理由に,ベルヌ条約 5 条 2 項が準拠法選択規則であるという主

張を批判した。すなわち,ベルヌ条約は自国の知的財産権に関する請求についてのみ加盟

国が審理し,準拠外国法を選択しない自由を各国に認めているのであり,ベルヌ条約がそ

のような自由を加盟国に認めながら,準拠法選択規則を有していると考えることは困難で

あろう,との結論に至るのである99。

3 中国

「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」(以下は「法適用法」と称する)が 2010 年

10 月 28 日に公表され,2011 年 4 月 1 日から発効した。同法は計 8 章 52 条から成る。第

七章は知的財産権についての規定であり,48 条は知的財産の帰属及び内容の適用法を規定

し,50 条は侵害責任を対象としている。そこでは,帰属,内容及び侵害責任はすべて「保

護が要求される地の法」によると規定されており,また,侵害責任については当事者が事

後の合意により法廷地法を選択できるとされている。旧法の準拠法に関する規定は「民法

通則」第 8 章(142 条から 150 条まで),及び他の部門法及び司法解釈などに見られる。

「民法通則」第 8 章には知的財産権に関する準拠法を直接定める規定が見当たらない。著

作権事件を審理する際に法の適用規定としてこれまで挙げられていたのは,1993 年 12 月

に最高人民法院の発表した「『中国人民共和国著作権法』の執行に関する問題の回答の通

知」(以下は「著作権法通知」と略す)であった100。

「著作権法通知」第 2 条は管轄及び法律適用に関して,「渉外的著作権事件を審理する

際,我が国の『著作権法』などの法律法規を適用する。国内法と我が国の参加した国際条

約と異なる規定がある場合,我が国が留保しているものを除き,国際条約に従うべきであ

97 駒田・前掲注(94)57 頁。98 駒田・前掲注(94)58 頁。99 横溝大「知的財産権に関する若干の抵触法的考察」田村善之編著『新世代知的財産法政策学の創成』(有

斐閣,2008)460-461 頁参照。100 最高人民法院《关于深入贯彻执行〈中华人民共和国著作权法〉几个问题的通知》1993.12.24.

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

36

る。国内法及び国際条約が規定されてない場合,対等原則に従い,国際慣例を参照して審

理する」と規定している。

(1)裁判例

[判例 5]常州有線テレビ局事件

事実の概要:原告 X は日本国エスエフドラマ「ウルトラマン」シリーズ(以下は「本件

ドラマ」と称する)の著作権を有する会社である。被告 Y5 は中日合併会社であり,1995

年 6 月に上海で登録,設立された。Y5 は,中国領域内で他人と交渉し,ライセンス契約を

締結するなどの権利を X から授権された。また,Y5 は著作権の管理,責任の追求について

の権利も有している。Y1 は映画など作品の制作,発行,代理,宣伝などの業務を務める会

社であり,1996 年に Y5 との間で委託契約を結び,「本件ドラマ」の中国内陸における発

行,放送,宣伝などの業務を行っている。1998 年,Y1 の元副取締役である A は Y2 の法

人代表者を務め,同年 11 月,Y5 の同意を得ず,Y2 の名において Y1 との間で委託契約を

締結した。Y3 はテレビ局に映画ドラマ等を提供する法人であり,Y4 は常州有線テレビ局

である。Y3 は Y2 の許可により,Y4 に「本件ドラマ」を提供し,Y4 がそれを放送した。

Y3 と Y4 は Y2 と Y1 に使用料を支払ったが,Y1 と Y2 は Y5 に対し通知もせず使用料も支

払ってない。X は Y5 に対し,Y5 と Y1 の間で締結された委託契約は,Y5 に授権した権利

を越えているため,無効であると主張した。また,Y1,Y2,Y3,Y4 に対し,著作権侵害

に基づいて提訴した。

一審判旨101:「X は日本法人であり,製作した『本件ドラマ』は中国域外で最初に発表

された。『中国人民共和国著作権法』2 条 3 項は,『外国人が中国域外で発表した作品には,

その所属国と中国の間に締結した協議又は共に参加した国際条約により著作権を生じ,本

法によって保護を与える』と規定する。日本と中国は共に文学的及び美術的著作物の保護

に関するベルヌ条約(以下は『ベルヌ条約』と称する)の同盟国であるため,当該条約の

内国民待遇原則と自動的保護原則により,ベルヌ条約に保護された作品について,作者は

本源国以外の同盟国に当該国の法律がその内国民に与える権利を亨有する。それら権利の

亨有と行使は本源国にこれらの権利を付与したか否かに関係せず,また何らの手続の履行

を要しないとする。『本件ドラマ』は明らかにベルヌ条約の保護範囲に属するため,当該

条約により X の所有する『本件ドラマ』の著作権は我が国著作権法により保護される。」

二審判決は,法適用については一審の判旨をそのまま引用している102。

[判例 6]高楽トイ有限会社事件103

101 江苏省常州市中级人民法院(1999)常经初字第 311 号民事判决。102 江苏省高级人民法院 (2000)苏知终字第 91 号。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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事案の概要:原告高楽トイ有限会社は子供向けのトイを設計,制作,販売を経営する会

社である。1992 年から 1999 年まで「Sweet Home」(以下は「本件トイシリーズ」と称

する)というトイシリーズを設計し,1993 年から当該トイシリーズを販売し始めた。当該

商品はかなりの著名性がある。2001 年 1 月,原告が香港トイ展示会で,訴外香港金方トイ

有限会社の展示した「My Dream Home」が「本件トイシリーズ」を複製したものであ

ることを発見し,香港法院に提訴した。香港法院は金方会社に対して,生産と販売の停止

を命じた。

原告は 2001 年 4 月に中国輸出商品貿易会で,被告の展示品の中に香港金方会社の製造し

た「My Dream Home」と同じ商品を発見した。その製作会社は晋江金方有限会社であ

ったが,原告が晋江金方会社と「侵害の停止,商品,外装などの消滅又は全ての損害につ

いての賠償及び訴訟費用の負担」について和解契約を締結した。しかし,2002 年 4 月,原

告は被告展示品に再び「My Dream Home」と同じ商品を発見した。被告は輸出会社と

して原告の「My Dream Home」商品を輸出し,国内においても販売している。

原告は被告に対して,著作権侵害の停止,公開的な謝罪,影響の回復,侵害商品の消滅,

原告の経済的損害に対する賠償を請求して,訴えを提起した。

判旨:「本案は渉香港地区企業の事件であり,渉香港地区の事件は渉外事件に参照する

ため,本案を審理する前に準拠法を確定しなければならない。中国『民法通則』146 条の規

定『不法行為の損害賠償は,不法行為地法を適用する』により,本案が不法行為地法であ

る中国大陸法律を適用すべきである。また,大陸と香港はともに『ベルヌ条約』を適用す

るため,本案は同時に『ベルヌ条約』及び『国際著作権条約の実施に関する規定〔实施国

际著作权条约的规定。1992 年 9 月 25 日中华人民共和国国务院令第 105 号发布――筆者注〕』

を適用する。」

本件トイシリーズは「実用美術品の要件に当たる。『ベルヌ条約』2 条の規定により,条

約が保護する文学と芸術作品の中には実用美術品も含まれている。『国際著作権条約の実

施に関する規定』により,外国実用美術品は中国において,その作品が完成した時から 25

年間,中国著作権の法律,法規の保護が与えられる。」

(2)裁判例に関する議論

上述の最高人民法院が 1993 年に公表した「著作権法通知」の 2 条によれば,渉外的著作

権事件については,常に法廷地法である中国法が適用される。しかし,実際の裁判例には,

結果的には同じ中国法を適用しているものの,法廷地法としてではなく,渉外的著作権を

一般不法行為と性質決定した上で不法行為地法としてこれを適用した事件がある。

[判例 5]では,日本人が日本で発表した作品の国内的保護について,中国と日本が共に

ベルヌ条約の同盟国であるため,「ベルヌ条約」の内国民待遇と自動的保護原則により,

103 山東省青島市中級人民法院(2003)青民三初字第 52 号。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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中国の「著作権法」により保護を与えることができるとの判断がなされた。このように,

外国著作権が内国で問題になる場合,準拠法選択を考慮せず,共に参加した国際条約であ

る「ベルヌ条約」の内国民待遇原則と自動保護原則により,外国著作権を内国著作権と同

視するのが一般的な方法である104105。

一方,[判例 6]のような処理方法も典型的である106。同事件では,結論的には同じく中

国法を適用したが,渉外的著作権侵害事件は準拠法の決定が必要であると判断した。また,

人民法院は,著作権侵害を不法行為と位置づけ,侵害行為地法を適用した。ベルヌ条約の

理解についていえば,5 条 2 項を準拠法選択規則とは認定せず,ベルヌ条約を著作権保護の

範囲を確定するための国際統一実体法とみて内国著作権法と合わせて適用する,という処

理方法である。

以上から見れば,中国実務上は,渉外的著作権侵害事件の判断が必ずしも一致している

わけではなく,混乱の状態にあるとも言える。しかし,少なくともベルヌ条約に準拠法選

択規則が含まれていないことについては一致している。

(3)著作権侵害の準拠法に関する学説

学説上,知的財産権に関する法律抵触の有無について,以下の三つの説がある。一,法

律抵触不存在説;二,抵触存在説(属地主義突破説);三,抵触存在説(管轄権説)であ

る。

第一説は,知的財産権については属地主義の原則があり,各国が自国の知的財産権しか

保護しないため,知的財産権分野において法抵触はそもそも存在しないという見解である

107。第二説は,各国の締結した国際的条約などによって,各国が他国の知的財産権にある

程度の域外的効力を与えた結果,属地主義が破れたともいえるため,法抵触が存在すると

104 「北京市高級人民法院渉外的知的財産権民事事件の法律適用に関する若干問題の解答」(京高法発

[2004]49 号)の中に,「十一,外国人が中国の専利権(特許),商標権,著作権に関する民事事件の審

理を求める場合,抵触規定を適用する必要があるか?解答:…(前略)中国の著作権法は外国人の作品を

保護する,つまり外国人の作品を中国の作品とみなし,中国の著作権法により著作権を与える。外国人が

中国の専利権,商標権,著作権を主張する事件については,中国の関連する法律が適用され,外国法が適

用される可能性がない。それ故,抵触規定を適用する必要はない。しかし,中国の知的財産権の国際的保

護に関する法律適用上の態度と立場を表明する必要があるため,事件の審理において中国法が適用される

ことを判決上明確にしなければならない」との規定がある。105 この場合,外国著作権は内国著作権と全く同じというわけではない。外国著作権の中国における保護範

囲について,中国著作権法の保護レベルが国際条約より低い場合には,国際条約に従うことになる。中国

の渉外的著作権侵害事件においても,これと同じ位置づけがなされる判決が多数である。例えば,円谷プ

ロシリーズ事件の(2004)沪一中民五知初第字 198 号と(2004)二中民初字第 12687 号;他にも(2001)

一中知初字第 255 号;(2005)汕中法知初字第 19 号;(1996)一中知初字第 63 号[Twentieth Century

Fox Film Corporation v. 北京市文化藝術出版社事件]などが挙げられる。106 同様な判例として重庆市高级人民法院(2007)渝高法民终字第 201 号がある。107 陈锦川:《涉外知识产权民事法律关系的调整及法律适用——上篇:理论规范篇》,《电子知识产权》,2005

年 02 期,第 33 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

39

の見解である108。第三説は,属地主義は破れていないが,そもそも法抵触の生じる原因は

第一説や第二説と異なり,渉外的な要素のある事件が生じた時点で,法抵触があるともい

えるため,知的財産権の属地主義を問わずに,渉外要素のある事件を審理する場合には常

に,法抵触の問題が生じるとの見解である109。

中国の通説上,法の抵触とは,二つ以上の異なる法域の法律が同時に同一の法律関係を

調整する場合に生じた法律間の矛盾現象を言うとされる。その発生原因は,①現実上渉外

的要素のある民商事事件が起こること,②同じ民商事法律関係の中の同一の問題に対し各

国の規定が異なること,及び③内国が外国人に権利を与える必要があり,また関連する外

国の法の域外的効力を認めることである110。上述の第一説と第二説はこの考えに準じた説

である。

中国では渉外的著作権事件について,厳格的な属地主義原則を採用し,中国法を適用す

ることが明確である,としばしば指摘される111。

北京市高級人民法院知的財産権経済廷担当者である陈锦川は,「パリ条約とベルヌ条約

のような国際条約は,知的財産権の属地性を変えたことがなく,各国知的財産法の調和だ

けにその役割がある。また,各国が国際条約の定めた要求により内国の法律に従って外国

人の知的財産権を承認し保護することを促進した。そのため,国際条約が構成した知的財

産権の国際的な保護体系は,実質的には,未だ一国がその主権の範囲内で当該国法により

外国人の知的財産権を保護することで問題の解決を図っている。加盟国にとって,国際条

約に参加することは,国際条約により加盟国国民の知的財産権を保護することを承諾した

ことを意味するに過ぎない。その保護の根拠は国際条約の具体的規定ではなく,内国法で

ある。故に,知的財産権国際条約の構成した国際知的財産権の保護体系は,抵触法上の問

題を構成したわけではない。つまり,各国はそのまま厳格的な属地主義原則に従うので,

法の抵触問題が起こる余地はない」と述べている112。外国人が外国でなされた行為につき

中国で提訴した場合の対処についてははっきりしないが,「中国が渉外的知的財産権紛争

を審理する場合,前もって原告である外国人が中国において権利を主張することができる

かどうか,主張された権利につき中国の法で保護が与えられるかどうかについて明確にし

なければならない」113という文言からすれば,中国と国際条約を締結していない外国人が

当該外国でなされた行為について,中国の法院で請求することはできないように思われる。

108 刘家瑞:《论国际知识产权管辖权制度的新发展及其法律意义》,《知识产权研究(第 6 卷)》(郑成思

主编)(中国方正出版社,1998),第 89 頁。109 王德辉:《论国际知识产权的法律冲突及其侵权的法律适用》,《太平洋学报》,2006 年 08 期,第 23

页;冯兆蕙,冯文生・前掲注(21)11 頁参照。110 李双元:《国际私法(冲突法篇)》(武汉大学出版社,2001)第 8 頁。111 丛立先:《网络版权问题研究》(武汉大学出版社,2007)第 294 頁;杨德明:《创设我国涉外知识产权

法律适用制度刍议》,《亚太经济》,2004 年 06 期,第 85 頁;陈锦川・前掲注(25)37 頁以下参照。112 陈锦川・前掲注(107)33 頁。113 陈锦川・前掲注(25)37 頁。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

40

上述の見解は国際条約が知的財産権の属地主義を破ったという第二説に反対し,第一説

の立場に立っている。この立場に従うと,中国「著作権法」は外国作品を自国作品に帰属

――「帰化原則」――させ,中国法を根拠に外国人に保護を与えるため,法抵触はそもそ

も存在しない。このような見解に立って下された判決が[判例 5]であった。

この見解に対して,国際条約は確かに知的財産権の「属地主義」を破らなかったかもし

れないが,それだけで法の抵触の存在を直ちに否定する方向に導くのではないという反論

がある。例えば,第二説と第三説はそうである。この内,第二説と第三説との違いは,法

の抵触が生じる原因認定が異なることにある。

すなわち,第二説は,外国法が域外的効力を持っているからこそ法抵触は生じるとして

いるが,第三説は法の抵触は裁判官の法選択が必要であることから生じると考えている。

例えば,内国裁判所が渉外的要素を有する事件について管轄があるためこれを処理する時,

渉外的要素がある限り,法抵触問題が生じる。管轄があり渉外事件を扱った場合に法抵触

は必然的に生じると第三説は考えているのである。

第三説に立てば,中国の知的財産権に関する国際裁判管轄については,専属管轄が採用

されず,上述のように一般民商事事件と同じ処理方法が採用されているのであるから,知

的財産権領域についても,法の抵触が存在すると言える114。[判例 6]はこの立場に立つと

解される。すなわち,最初に渉外的要素のある事件であるため法の適用が必要であると判

断し,その後,知的財産権侵害を不法行為として性質決定し,中国法の適用を導く,とい

う処理方法をしている。そしてその際,著作権の保護範囲を判断するに当たりベルヌ条約

を実体法として参照する,というアプローチが採られているのである。

このように,中国の学説上は,著作権侵害につき準拠法を選択すべきか否かという点に

ついては議論の一致が見られないが,ベルヌ条約 5 条 2 項についてはこれを準拠法選択ル

ールではないとする見解が有力である。その中では,ベルヌ条約 5 条はただ内国民待遇の

みを規定し,外国著作権を中国著作権に「帰化」するために存在しているという見解があ

る115。両裁判例も同条約を準拠法選択規則として認めていないことは明らかである。

その一方,学説上,次のような見解も存在する。ベルヌ条約の目的は加盟国に自国の著

作物ではなく,他の加盟国の著作物を保護することを要求することにある。すなわち,保

護が要求される国が保護する作品は,常に本国以外の他国の作品であり,保護が要求され

る国にとっては,外国作品に内国法を適用するのがベルヌ条約の唯一の目的である。その

ため,ベルヌ条約 5 条 2 項は一方的準拠法選択規則と読める,という少数説である116。

114 王德辉・前掲注(109)25 頁。115 陈锦川・前掲注(107)33 頁。116 何艳:《知识产权国际私法保护规则的新发展—〈知识产权:跨国纠纷管辖权,法律选择和判决原则〉述评

及启示》,《法商研究》,2009 年 01 期,第 112 頁;尚清:《从〈伯尔尼公约〉条款看版权归属的法律适

用》,《商业时代》,2007 年 27 期,第 59 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

41

中国の国際私法学者により起草された「中華人民共和国国際私法模範法」の第 99 条は「知

的財産権の侵害における法的救済は,保護が要求される地の法による」と定めている117。

また,その「保護国法」を「法廷地法」ではなく,「作品を利用している国の法」とする

見解が多数説である118。

2011 年 4 月から発効した「法適用法」47 条,48 条も,知的財産権の帰属・内容,又は

侵害は「保護が要求される地の法」によるとした。48 条は,知的財産権侵害については,

当事者が侵害行為発生後,合意によって法廷地法を選択することができると規定している。

これらの明文規定は,すでに抵触不存在説を否定したと解されるのではないだろうか。

4 小括

ベルヌ条約 5 条 2 項が準拠法選択規則であるか否かについて,中国では,これを準拠法

選択規則として扱った判例は一つも見当たらないが,学説上はこの規定が一方的準拠法選

択規則であるという少数説が存在する。すなわち,常に法廷地法を適用すべきであるとい

う見解である。しかし,この見解は,中国で生じた不法行為だけを対象としているように

思われる。なぜなら,もし一方的準拠法選択規則だと解せば,外国で行われた外国著作権

侵害に基づく請求が何らかの事情で中国において提訴された場合,中国法が適用されるこ

とになってしまい不当だからである。また,このような解釈は,国際条約を締結する意義

である,国際判決の調和自体に反することになるのではないだろうか。そのため,ベルヌ

条約 5 条 2 項を準拠法選択規則として認めず,渉外的著作権侵害事件については中国国内

法に委ねるのが合理的である。

中国国内法においては,「法適用法」47 条は知的財産権の帰属・内容,又は侵害は「保

護が要求される地の法」によるとした。「保護国法」の理解について,「法廷地法」では

なく,「作品を利用している国の法」との見解が多数説である119。

日本の学説上は,議論が錯綜していて,見解が分かれている状態である。「保護が要求

される国(the laws of the country where protection is claimed)」を連結素とする所謂保

護国法主義をベルヌ条約が採用しているとする立場が通説であるが120,ベルヌ条約の中に

は準拠法選択規則が含まれていないという考え方も近時かなり見られる121。

下級審裁判例は通説に立って,少なくとも差止請求に関しては,ベルヌ条約に準拠法ル

ールが含まれているとの立場であるが,その中の「法廷地法説」と「利用行為地法説」の

いずれの立場に立っているのかは明らかではない。

117 第 6 稿が最終版として 2000 年に公表されている。日本語訳は木棚照一監修,袁藝訳『中国国際私法模

範法』(日本加除出版社,2004)。118 丛立先・前掲注(111)271 頁。119 丛立先・前掲注(111)271 頁。120 茶園・前掲注(95)80 頁。山本・前掲注(3)236 頁。121 駒田・前掲注(94)55 頁以下;横溝・前掲注(99)459 頁以下。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

42

道垣内教授はベルヌ条約 5 条 2 項に関するこれらの裁判例の判断を支持している理由に

つき,実体法統一条約である同条約は国際的法秩序を安定させようとしていると解するの

が合理的であると述べている。しかし,「保護国法」に関する解釈が一致しない限り,実

際に国際私法の統一が無理であることは明らかである。また,駒田教授と横溝教授が指摘

するように,本条約の立法経緯や文言からも準拠法ルールを見出すことはできないものと

思われる。

以上の議論から,私見としてはベルヌ条約 5 条 2 項を準拠法選択規則と解釈することが

正確とは思われない。従って,著作権侵害に関する準拠法選択は,各国の国際私法に委ね

られるべきである。

最後に,差止請求と損害賠償請求とを区別して判断すべきかどうかという点について,

日本の学説上見解が一致していない。また,中国ではこのような議論が見当たらないが,

今までの判例からすれば,いずれも不法行為の救済方法として位置づけられるであろう。

差止請求権は著作権の排他的支配権としての本質的な効果であるため,不法行為の効果で

ある損害賠償請求権とは異なると言われるが122,その不法行為自身も著作権の排他的支配

権としての効果であるように思われる。差止請求権は不法行為があった,或いは生じる可

能性があるから生じるものであるため,不法行為と切り離してこの点を判断するのは正確

ではないのではないだろうか。また,不法行為と性質決定すると,現在の日中の準拠法選

択規則に従えば,当事者の事後の変更等を認めることになる。すなわち,外国著作権に内

国法を適用する可能性が生じ,外国主権の侵害になるとの立論も可能かもしれないが,内

国法に基づく差止めは当該不法行為についての差止めだけであり,対世効がないため外国

主権を侵害するとまでは言えないであろう。従って,差止請求と損害賠償請求は共に不法

行為の救済方法であり,区別する必要がないと考える。

第二節 インターネット上の著作権侵害事件の準拠法

1 はじめに

前節の検討に示したように,著作権侵害の準拠法についてはベルヌ条約 5 条 2 項から準

拠法選択規則を見出すことができないため,各国の国際私法によりこれを判断すべきであ

る。

日本では,知的財産権に関する特則が存在しないため,一般不法行為に関する通則法 17

条以下によるか或いは条理によるかということになる。これまで裁判例は,少なくとも損

害賠償請求について,これを一般不法行為として扱ってきた。上述のように,差止請求と

損害賠償請求を分ける意義はなく,いずれも同じ不法行為の救済方法として扱うべきであ

ると考える。

122 山本・前掲注(3)236 頁

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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中国では,「法適用法」の中で,知的財産権帰属・内容又は侵害の準拠法については,

「保護が要求される地の法による」という特則が置かれている。また,その「保護国法」

の理解については,「利用行為地法」と解釈するのが通説である123。

これらの問題を前提にして,インターネット上の著作権侵害事件では,「不法行為地」

或いは「利用行為地」をどのように確定するのかがここで検討される問題である。

具体的に言えば,ここで侵害行為として念頭におかれるのは「公衆送信行為」である。

その行為としては,サーバーに送信・蓄積する行為,サーバーから各国のユーザーに送信

する行為などが考えられる。

インターネットの特性により,世界各国において侵害が同時に発生する可能性が大きい。

その場合,知的財産権の属地性により,権利の存在する国の数だけ不法行為の準拠法があ

ることになる。それでは裁判所にとって権利処理が困難であり,大きな負担がかかる。そ

のような,いわば世界中にばらまかれた損害を,どうにか一つの国の準拠法によって判断

すべく各国において立法提案がなされているが,それが理論的に可能かどうかが問題とな

る。

なお,前章におけるインターネット上の著作権侵害についての国際裁判管轄に関する議

論により,受信地として各国が管轄を有するのは,当該内国範囲内において生じた損害だ

けに限られるため,受信地で訴訟が遂行される場合,結果発生地及びその準拠法が法廷地

法であることが明らかとなった。そこで,準拠法の確定が問題になるのは,法廷地が被告

住所地である場合,或いは全体の損害と比べ影響がもっとも大きな国で訴えが提起された

場合だけということになる。

2 日本と中国の判例状況

(1)日本

[判例 7]オークション出品作品無断複製事件124

事案の概要:原告 X1,X2,X3,X4 は現代美術の芸術家である。被告 Y は,美術作品の

オークション等を業とする株式会社である。

本件は,絵画等の美術品の著作権者である X らが,Y がオークションの出品カタログ等

に X らが著作権を有する美術品の画像を掲載し,また,その一部をインターネットで公開

したことにより,X らの複製権及び原告 X1 の公衆送信権を侵害したとして,Y に対し,不

法行為に基づく損害賠償の一部として原告 X1 が 70 万円,原告 X2 が 35 万円,原告 X3 が

60 万円,原告 X4 が 35 万円及びこれらに対する不法行為の後の日である平成 20 年 11 月

123 知的財産権侵害については,当事者合意による事後の変更が認められる。しかし,その合意は法廷地法

に限っている。124 東京地判平成 21 年 11 月 26 日最高裁判所 HP<

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091208132918.pdf>参照。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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13 日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年 5 分の割合による遅延損害金

の支払を求めた事案である。

判旨:「1 前記争いのない事実等に後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の

事実が認められる。

……

オ 本件パンフレットは,被告により,少なくとも平成20年10月20日から同月3

0日までの間,被告のウェブサイト上でダウンロードをすることが可能な状態とされた。

本件パンフレットの1ページの電子データは,ページサイズが210×297mmであり,

ファイルサイズが8.04MBであってそこに掲載されていた X1 作品1の画像は鮮明であ

り,パソコン上で400パーセントの拡大表示をしても相当程度鮮明なものとなるもので

あった。」

「2 準拠法について

(1)本件における X らの請求は,我が国に在住する X らが著作権を有する著作物の画

像を被告が複製又は送信可能化したことを理由とする損害賠償請求であるから,このよう

な損害賠償請求権の成立及び効力に関して適用すべき法は,我が国の法と認められる(法

の適用に関する通則法17条)。

(2)Y は,次のとおり主張し,香港法が適用される旨主張する。

本件オークションは,香港で開催されるものであるから,主催会社である Y が日本の会

社であるという理由では,カタログを通常の国際慣行とは異なるものにすることはできな

かった。

オークション開催地の法律によれば適法であるのに,日本国内での複製や配布が認めら

れないことは,日本のオークション会社が世界ではハンディを負わねばならないことを意

味するのであり,そのような解釈は,我が国文化の発展にとっても不利益となり,不当で

あることは明らかであり,本件オークションにまつわる一連の行為については,その中心

的行為がされる地である香港の法を準拠法とするべきである。

(3)しかしながら,複製権の侵害が問題とされている本件フリーペーパー,本件パン

フレット及び本件冊子カタログは我が国国内で配布されたことが認められ,かつ,いずれ

の当事者も我が国国内に住所及び本店を有することからすれば,香港が我が国と比べて明

らかに密接な関係がある地であると認めることはできないから,Y の主張する事情は,上記

(1)の判断を左右するものではない。」

「イ 本件パンフレットのウェブサイトへの掲載による損害

前記認定事実によれば,X1 作品1の画像が被告ウェブサイトに掲載された期間は11日

間という短期間であったものの,高い画質による掲載で,かつ,誰でもアクセスすること

が可能であったことが認められる。また,弁論の全趣旨によれば,複製を防止する措置が

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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とられておらず,一度ダウンロードされれば以後は無限に複製が可能となるものであった

と認められる。

以上の事情を考慮すると,本件パンフレットをウェブサイトに掲載した行為についての

著作権法114条3項所定の使用料相当額は,原告 X1 が主張する5万4000円と認める

のが相当である。」

本件は,インターネット上の公衆送信権侵害の準拠法が問題になった事件である。国際

裁判管轄についての判断はなされていないが,Y が日本法人であるため,被告住所地として

世界中の全損害について,日本の裁判所に管轄があると言える。複製又は送信可能化に対

する損害賠償請求権の成立及び効力に関して適用すべき法は,日本の「通則法」17 条の不

法行為の準拠法であり,日本法が準拠法とされた。しかし,公衆送信行為については触れ

られていない。

本件判旨は,日本は結果発生地か,それとも結果発生地が通常予測できない場合の加害

行為地かが明確にされていない。特に送信可能化権侵害について,確かに,日本法人であ

る被告が侵害された著作物を自分のウェブサイトに掲載していたことから,日本において

アップロードがなされたと推測できる。しかし,サーバー所在地が日本にあるか否かにつ

いては判断がなされていない,また,日本が受信地であるなどの判断もなされていないた

め,送信可能化権侵害の準拠法をどのように判断されたかはっきりしない。

本件の発信地は,アップロードがなされたと推測できる日本であると思われる。問題と

なる受信地としては香港と日本が挙げられる。日本は送信国と受信国両方にも当たるが故

に,裁判所は送信可能化権侵害の準拠法決定について,どの要素から判断したのか明言を

避けたのではないだろうか。本件はインターネット上の著作権侵害事件ではあるが,公衆

送信権侵害の準拠法について受信国によるべきか,発信国によるべきかという判断が下さ

れていない。この点に関する判断については,今後の裁判例を待つしかない。

(2)中国

[判例 8]安楽映画有限会社事件

事実の概要:映画「霍元甲」は中国映画集団会社第一制作子会社(訴外 A)と星河投資

有限会社(訴外 B)とが共同制作した作品である。訴外 A は,当該作品著作権に関するす

べての権利(翻案権,氏名表示権など譲渡できない権利を除く)が B に有すると確認した。

2006 年,B は映画「霍元甲」の中国大陸における公衆送信権及びレコードの発行権は英雄

国際有限会社(訴外 C)に帰属すると声明した。同年 4 月,C は「霍元甲」の公衆送信権

を原告 X である安楽会社(中国香港に登記し,本拠地を有する会社)に譲渡した。X は同

年 10 月,当該権利について中国版権局に登記した。2006 年に http://218.201.85.8/のサ

イトの中で,映画「霍元甲」のオンライン放送が行われた。当該サイトを登録したのは大

足移動会社であり,被告 Y である重慶移動通信会社(その後は「中国移動通信集団重慶有

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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限会社」と改名した)の付属会社である。X は Y に対し差止めと損害賠償を求めて提訴し

た。一審判決は当サイトが既に停止されたので差止請求を却下し,損害賠償についてこれ

を一部認めた125。X が損害賠償額の認定に瑕疵があるとして,一審判決を不服とし,上訴

した。

損害賠償額について,X は「1.一審判決は損害賠償額の算定の時,『霍元甲』が 2006

年において人気が高い映画であり,映画の制作費,著名性,影響力が高いことを考慮して

いない。…5.一審判決はインターネット上の映画の公衆送信の特性を考慮していない。」

と主張した。

Y は「1.一審判決は被告会社が大足会社のサイトで『霍元甲』映画のクリック率が客観

的かつ真実であると認定した;2.大足会社のサイトは小規模サイトであり,216 回のクリ

ック率について被告は何も利益を得られなかった;…」と答弁した。

二審判旨126:「上訴人安楽映画有限会社は香港特別行政区に設立された会社であり,本

案は渉港インターネット著作権侵害の紛争である。『中華人民共和国民法通則』146 条の規

定により,本案は侵害行為地の法律を適用すべきである。本案で紛争になった侵害行為を

実施したパソコン端末は中国内陸にあり,また被告が侵害内容を発見したパソコン端末も

中国内陸にあるため,中華人民共和国内陸を侵害行為地と判断すべきであり,中国内陸の

法律を本案審理の準拠法とすべきである。」

「一審法院は損害賠償額を算定する時,『霍元甲』のクリック率だけを考慮し,当該映

画の著名性,影響力とネット上送信の特徴としての時限性などの要素を考慮していない。

……一方,被告が当該侵害行為を発見してから直ちにサイトを閉鎖し,また,そのサイト

は付属会社である大足会社が登録したため,存在の時間が短く,影響力が低いため,深刻

な結果とはならなかった……(以上の)状況に基づいて,損害賠償額を 5 万人民元と変更

する。」

本件は,渉外的著作権事件について準拠法の判断が必要であるとし,著作権侵害も不法

行為であるとして不法行為地法を準拠法とした事件である。

「インターネット著作権解釈」1 条によれば,インターネット上の侵害事件の発信国には,

サーバー所在地と不法行為を実施するパソコン端末所在地両方が含まれている。同判決は

サーバー所在地を明確にしていないが,被告は中国内陸の通信会社であり,中国内陸にあ

るパソコン端末で被疑侵害著作物をアップロードしたと推測できる。この判決は,発信地

を,当該不法行為を実施するパソコン端末所在地である中国内陸とした。また,受信地を,

被告が侵害内容を発見したパソコン端末所在地である中国内陸とした。

125 重庆市第五中级人民法院(2007)渝五中民初字第 19 号。一審判決は,準拠法の認定には触れずに判断

を下した。126 重庆市高级人民法院(2007)渝高法民终字第 201 号。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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損害賠償額の算定において,同判決は,著作権使用料ではなく,実際の損害についてク

リック率とその他の事情を参照して判断を下した。なお,香港で受信できることによる損

害については原告が請求していないため,この点についての言及がなかったことも特に問

題はない。

3 インターネット上の著作権侵害の準拠法に関する学説

(1)日本

インターネットによる無断送信が多数の国において受信される場合――例えば,A 国に

住所を有するYが権利者Xの著作物を無断で,B国に置かれたサーバーにアップロードし,

C 国や D 国の公衆がそのサーバーにアクセスして,著作物を受信する場合――このような

著作権を侵害する行為にはどの国の著作権法が適用されるであろうか。

インターネットが普及し,この問題が意識されるようになる前から,類似の問題はすで

に生じていた。すなわち,衛星放送による国際的著作権侵害という問題である。そこで,

上述の問題を考える前に,衛星放送における議論を見てみよう。

衛星放送は,衛星に電波を送信し,再び地上で電波を受信するときに,本来の対象国の

国境内だけに収まるのではなく,近隣諸国に電波が漏れることもある。そこで,放送権を

有していない国に電波が到達した場合に,当該国で放送権を有する他人の権利を侵害する

か否かという点につき,準拠法を受信国法とするかそれとも送信国法とするかという問題

が生じる。この点につき,1993 年の EU 指令「衛星放送及びケーブル再送信に関して適用

される著作権及び隣接権に関する一定の規則の調整に関する指令」では,送信国法による

とされている。

その後,1995 年に公表された EC 委員会のグリーン・ペーパーは,インターネットにつ

いても衛星放送と同じアプローチであり,サービスがなされる国つまり著作物がアップロ

ードされる国の法を準拠法とする,所謂発信国法説の立場を示している127。

インターネット上の著作権侵害事件に関する準拠法についての日本の学説は,主として

衛星放送における議論に基づいて,発信国法説と受信国法説とのいずれを準拠法とするか

という観点から議論している。

発信国法を準拠法とする考えが提案された背景には,著作物の円滑な流通とインターネ

ット利用の促進に対する配慮がある。この解決によるならば,著作物を利用する側は発信

国の法律だけを考慮すればよいし,国ごとに著作権者が異なる場合であっても,発信国法

127 Commission of the European, Communities, Green Paper: Copyright and Related Rights in theInformation Society, COM(95)382 final, at 38. Get from http://eur-lex.europa.eu//en/index.htm(最終

確認 2010 年 10 月 1 日)

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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上の著作権をもつ者から許諾なり権利を取得すればよいというメリットがあるからである

128。

しかし,このような方法は,あくまでも著作権保護水準がほぼ同一な状況にあるヨーロ

ッパ諸国ではうまくいくというに過ぎない。保護水準の低いコピーライト・ヘブンから送

信すると,容易に法律回避ができてしまう準拠法決定ルールになるとして,発信国法主義

は相当に危ないルールであると,道垣内教授は主張している129。

作花文雄教授は,基本的には発信国法を準拠法とすべきであるが,著作者に排他的権利

が認められていないような国から発信される場合や,無許諾で発信される場合には,受信

国法によるべきであると主張する130。田村善之教授も,送信行為を主として考慮するが,

受信者層が特定国に集中していることが明らかな場合には,当該国の法を適用すべきであ

ると主張する131。

この点につき,茶園成樹教授は,「公衆に対する送信について権利が認められているの

は,送信自体を問題としているからではなく,発信された著作物が公衆に受信されること

により,当該著作物に対する需要が失われて,著作権者の利益を害するからである。著作

権者の利益侵害は公衆の受信によって現実化するのであるから,発信国と受信国が異なる

場合には,著作権法上の理解としては,公衆送信権は受信国において侵害されているとい

うべきであろう」と述べ,受信国法説を支持する132。

また,道垣内教授は,名誉毀損やプライバシーについて述べているが133,「名誉毀損や

プライバシーについては,それがサイバースペース上のメッセージボードへの書き込みに

よってなされたとはいっても,損害が生じるのは現実の世界であるから,被害者の名誉・

プライバシーの利益が存在する地であって,そのメッセージボードから情報が提供された

全ての地が結果発生地であり,その地の法が不法行為の準拠法となるということになる」

と主張する134。さらに,石黒教授も,国際的環境汚染の場合についてではあるが,「被害

128 駒田泰土「インターネット上での知的所有権に関する国際私法問題―著作権を中心として―」(IPSJ

SIG Notes 2000(56),1-8(http://ci.nii.ac.jp/naid/110002675710 から取得できる))3 頁。しかし,駒

田教授は発信国法説に立っているのではなく,どの立場にも短所があり,理論的に断然優れているものは

特定できない状況であるため,各国の裁判例等,実務の展開を通して,現実的な落としどころを注意深く

探求してゆく必要があるとしている。129 道垣内・前掲注(54)16 頁。130 作花文雄『詳解 著作権法』(ぎょうせい,1999)552 頁。131 田村善之『著作権法概説』(有斐閣,第 2 版,2001)568 頁。132 茶園・前掲注(95)81 頁。133 道垣内教授のこの見解は法例時代の議論であり,現行法の「通則法」では,名誉毀損について,19 条

は「被害者の常居所地法」によると規定している。新聞による名誉毀損の事件では,新聞が発行され,人

に見られた時点で損害が生じ,また,多数の地で発行される場合,損害が拡散するという点ではインター

ネット上の著作権事件に類似するため,名誉毀損についての議論も参照し得る。しかし,名誉毀損におい

て守られるのは被害者の人格であり,被害者保護という側面を重視する必要はあるが,この点につき,著

作権は一部の人格権を除き,財産権しかないため,常に被害者の常居所地法を適用する理由に乏しい。そ

のため,法例時代の議論は参考になるが,「通則法」19 条のように被害者の常居所地法を適用することは

インターネット上の著作権事件には馴染まないように思われる。134 道垣内・前掲注(52)63 頁。

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の生じた社会ごとに分けて考えるというアプローチ」を提唱する135。これらの見解をイン

ターネットの場合に当てはめると,実際の損害が生じた受信地ごとに準拠法が選択される

ことになる。

受信国法説では多数の受信国の法律が適用されることになり準拠法の適用における負担

が大きいという点で,発信国法説が優れているとの批判に対し,茶園教授は「損害額の算

定においては,著作物の需要は国ごとに様々であるため,受信国の市場状況を調べる必要

があることはもとより,当該著作物が保護されているかどうか,どの程度保護されている

か等も考慮すべき事情となるから,結局,受信国の法律を検討しなければならないであろ

う。そうだとすると,実際には,発信国法説による場合と受信国法説による場合とでは,

圧倒的な違いがないのではなかろうか」と反論している136。

また,受信国法説の難点である利用者の予測可能性と権利処理の複雑化について,茶園

教授は,「適法に送信しようとする者と権利者は,準拠法にかかわらずに多数の受信国を

一括して交渉することができるから,実際上,適用される法律の数が多いことはあまり問

題とならないであろう」と述べている137。さらに,裁判所の負担について,石黒教授は,

国際的な集団訴訟における国際環境汚染や国際製造物責任の場合を類似している例として

挙げ,無数の受信国という困難は程度の問題に過ぎないとしている138。

これに対し,駒田教授は,茶園教授のいう処理方法はやはり権利者が異なる場合には対

応できず,各国集中管理団体による相互管理委託契約を活用すれば問題がないかもしれな

いが,今では集中管理の対象ではない著作物が多数存在すると批判し,また石黒教授の意

見に対しては,同教授の指摘する程度の差は実に甚だしいものとなる可能性があると批判

する139。

このように,日本の学説は受信国法説に傾いている。しかし,駒田教授が指摘されたよ

うに,受信国法説に立つ学説にもやはり問題がある。結局,理論的に圧倒的に優れている

ものを特定することが困難な状況であるということが出来よう。

(2)中国

中国において,現行法上はインターネット上の侵害事件の準拠法についての規定がない。

インターネット上の著作権侵害事件には準拠法の適用が必要であるとする見解は,その準

135 石黒一憲『国境を越える環境汚染』(木鐸社,1991)137 頁以下。また,受信国法説を支持する。『国

際知的財産権―サイバースペース vs.リアル・ワールド』(NTT 出版株式会社,1998)19-20 頁も参照。136 茶園・前掲注(95)83-84 頁。137 この処理について,茶園教授は注の中で,受信国のすべてにおいて権利者が同一である場合だけに適用

できると述べた。権利者が異なる場合に,準拠法を 1 つだけとする発信国法説の考え方の方がむしろ,他

国の権利者の利益を無視することになり,デメリットとなると論じていた。茶園・前掲注(95)86 頁注

27。138 石黒・前掲注(135)20 頁。139 駒田・前掲注(128) 5 頁。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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拠法の判断について,一般的に「不法行為地法」によるとし,不法行為地の意義について

議論してきた。

不法行為地には,行為実施地と結果発生地の両方が含まれている140。「インターネット

著作権解釈」1 条は,「インターネット著作権に関する侵害事件は不法行為地或いは被告住

所地の中級人民法院に管轄権がある。不法行為地には,当該不法行為を実施したサーバー

若しくはコンピューター端末の所在地が含まれている。不法行為地と被告住所地が確定で

きない場合,原告が当該不法行為の内容を発見したコンピューター端末などの設備の所在

地が不法行為地とみなすことができる」との管轄上の規定があるが,準拠法を判断する際

にもこれを参考にできると考える学者が多い。すなわち,裁判官がインターネット事件の

準拠法を考える際,まずは「サーバー若しくはコンピューター端末の所在地法」を適用す

るが,それが確定できない場合には,「原告が当該不法行為の内容を発見したコンピュー

ター端末などの設備の所在地の法」を適用するとの見解である141。

加害行為地すなわち発信地としては,不法行為を実施したパソコン端末及び,加害者が

「意図的利用」を行った ISP142所在地が挙げられる。また,結果発生地すなわち受信地と

しては,加害者が不法行為の内容を発見したコンピューター端末などの設備の所在地が挙

げられるとの見解があり,基本的に上述の処理方法が支持されている143。

これに対し,丛立先教授は,このように不法行為地を拡大解釈すると,裁判官の意思に

より世界中どこの国の法も適用することができ,これが国際私法の判決の調和という目的

に反すると批判している。そのため,インターネットの特徴から新しい連結素(例えばド

メイン名,IP アドレス,ISP 登記地,ISP 営業所所在地など)を考慮し,もっとも合理的

な保護を与える地の法(少なくとも二つの要素があたる地の法)を適用すべきであると提

案している。例えば,結果発生地である受信地が被害者の常居所地でもある場合には結果

発生地,加害者と被害者が同じ国に常居地を有する場合には共同常居所地法を準拠法とす

るのである144。

中国「民法通則」146 条には,「不法行為の損害賠償は不法行為地法による。当事者双方

が同国籍である或いは同じ国において住所が有するであれば,当事者の本国法或いは共同

常居地法を適用することができる」との規定がある。また,「最高人民法院『中華人民共

140 关于贯彻执行《中华人民共和国民法通则》若干问题的意见(「民法通則意見」と略す)187 条は,「権

利侵害行為地の法律には,権利侵害行為の実施地の法律及び権利侵害結果の発生地の法律が含まれる。両

者が一致しない場合には,人民法院は,選択して適用することができる」と規定する。141 丛立先:《论涉外网络版权侵权案件的法律适用》,《东北大学学报》,2010 年 12 卷 02 期,第 157-158

页;贺旭红:《跨国网络侵权的法律适用》,《甘肃政法学院学报》,2008 年 03 期,第 142 页。142 Internet Service Provider.インターネットへの接続を提供する企業或いは団体である。インターネット

接続事業者と訳されることがある。143 贺旭红・前掲注(141)142 頁。144 丛立先・前掲注(141)158 頁。

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和国民事訴訟法』の適用に関する若干問題の意見」14528 条は管轄上の侵害行為地に対する

解釈ではあるが,準拠法にもそのまま適用されてきた146。これらの規定により,中国学説

上は,以前から準拠法として行為実施地法と結果発生地法両方が適用でき,具体的な判断

においては裁判官が事案を審理する際に被害者に有利な法を選択することができる,と考

えられてきた147。これを受け,インターネット上の著作権侵害事件での議論でも,受信地

と発信地の双方を適用できるものとして議論されてきた。

(3)各国の立法の動き

インターネット上の侵害行為には,一国で行われた侵害が世界各国にばらまかれるとい

う特性があり,便宜上の考慮から,そのような侵害につき,どこか一国の法を準拠法とし

て選択する必要性があると思われる。発信国法説は一国の法を選択するものであると言わ

れているが,技術の発展により,受信国での転送が行われ,また P2P などサーバーを経由

せずに情報をばらまくシステムが構築されるようになっており,発信国と受信国の区切り

は難しくなっている。そのため,発信国でも一国に抑えることはできなくなるだろう。

この問題について,各先進国は立法提案を作成し,このような要請に基づいてそれぞれ

の準拠法選択規則を提唱している。例えば,ALI 原則と CLIP 草案はユビキタス侵害に最

密接関係地法の適用を規定しつつ,その最密接関係地の判断について,それぞれいくつか

のファクターを提示している。

このうち,ALI 原則 321 条148では,1)当事者の住所,2)どこに当事者の関係の中心が

置かれているのか,3)当事者の活動と投資の程度,4)当事者が活動を向けている主要な

市場であることがそのようなファクターとして挙げられる。これに対し,CLIP 草案 3:603

条149は,1)侵害者の常居所地,2)侵害者の主要な営業地,3)侵害全体を進める実質的な

145 1992 年 7 月 14 日発効。最高人民法院審判委員会第 528 次会議で可決した。28 条は「民事訴訟法 29

条規定した侵害行為地は,侵害行為実施地と侵害結果発生地を含む」と規定する。146 贺旭红・前掲注(141)142 頁。147「模範法」112 条は,「不法行為は不法行為地法による。不法行為地は侵害行為実施地と侵害行為結果

発生地を含めている。侵害行為実施地法と侵害行為結果発生地法の規定が異なる場合,被害者に有利な法

を選択する。」と規定している。しかし,本「模範法」の内,知的財産権侵害について,99 条の特則があ

り,保護が要求される国の法によるとする。148 321 条 ユビキタス侵害の準拠法

1 項 被疑侵害行為がユビキタスであり,複数の国の法の適用が主張されている場合,裁判所は,知的財

産権の存否,効力,存続期間,帰属,及び侵害並びに当該侵害に対する救済には,当該紛争に密接な関係

を有する国の法を適用することができる。当該紛争に密接な関係を有する国を判断するにあたっては,例

えば,次の要素が考慮される。

a 号 当事者の住所

b 号 当事者の関係の中心となる地

c 号 当事者の活動及び投資の範囲

d 号 当事者がその活動を向けている主要な市場

2 項 本条 1 項の規定にかかわらず,当事者は,訴訟で取り扱われる特定国に関し,その国の法によれば,

事案全体の準拠法による解決とは異なる解決が得られる旨を証明することができる。裁判所は,責任及び

救済の範囲を決定するにあたり,かかる相違を考慮しなければならない。149 Article 3:603: Ubiquitous infringement

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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活動が行われた地,4)侵害全体との関係で,侵害によって惹起された損害が実質的な地,

を挙げている。

「日本法の透明化」立法提案 302 条は,ユビキタス侵害の場合の準拠法として「利用行

為の結果が最大か最大となるべき国」の法を提唱している150。「早稲田案」第 18 条も「侵

害につき全体として最も密接な関連を有する国の法」を提案した151。

4 検討

インターネット上の著作権侵害の準拠法については,発信国法説と受信国法説をめぐる

議論が多い。衛星放送に関する欧州著作権指令の解決を踏襲した発信国法説については,

確かに一国の法に収まるのは魅力的ではあるが,衛星放送に比べてインターネット送信の

(1)In disputes concerned with infringement carried out through ubiquitous media such as the

Internet, the court may apply the law of the State having the closest connection with the infringement,if the infringement arguably takes place in every State in which the signals can be received. This rulealso applies to existence, duration, limitations and scope to the extent that these questions arise asincidental question in infringement proceedings.(2)In determining which State has the closest connection with the infringement, the court shall take

all the relevant factors into account, in particular the following:(a)the infringer’s habitual residence;

(b)the infringer’s principal place of business;

(c)the place where substantial activities in furthering of the infringement in its entirety have been

carried out;(d)the place where the harm caused by the infringement is substantial in relation to the

infringement in its entirety.(3)Notwithstanding the law applicable pursuant to paragraphs 1 and 2, any party may prove that

the rules applying in a State or States covered by the dispute differ from the law applicable to thedispute in aspects which are essential for the decision. The court shall apply the different nationallaws unless this leads to inconsistent results, in which case the differences shall be taken into accountin fashioning the remedy.150 302 条 「ユビキタス侵害」の準拠法

1 知的財産権侵害訴訟において,被疑侵害行為が「ユビキタス」の場合における準拠法は,知的財産の利

用行為の結果が最大か最大となるべき国の法とする。

2 前項を適用した結果が特定国との関係で著しく不合理であるときには,当該特定国との関係では,前項

で決定された法に基づく責任や救済を与えることはできない。151 第 18 条 インターネット又はそれに類似する手段による不特定かつ多数の国における知的財産侵害の

準拠法の特例

(1)侵害が不特定かつ多数の国で生じ又は生じ得る場合には,裁判所はその侵害につき全体として最も密

接な関連を有する国の法を適用するものとする。

(2)裁判所は,いずれの国が最も密接な関連を有するかを決定する場合に,つぎに掲げる諸要素を考慮し

なければならない。

(a)侵害したとされる者の常居所又は営業中心地。ただし,侵害を引き起こす活動が特定の営業所の活動

の中で生じた場合には,当該営業所を常居所又は営業中心地とみなす。

(b)その侵害の主たる結果の発生地

(c)権利者の主たる利害関係の中心地

(3)裁判所は,前項に定めた諸要素によって準拠法を決定することができない場合には,前項(a)号で

定めた意味における侵害したとされる者の常居所又は営業中心地のある国の法によるものとする。

(4)前 3 項にかかわらず,当事者は,その全部又は一部につき,それ以外の国が侵害とより密接な関連が

あることを証明することができる。裁判所は,その場合においてはそのより密接な関連のある国の法を適

用する。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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場合には発信国の変更が極めて容易であり,コピーライト・ヘブンのような保護の薄い国

から送信すると加害者の法律回避となることもあり得る。

日本の学説は受信国法説に傾いている。道垣内教授は「問題の中心はインターネットに

アクセスすると見えてしまう状態になっていることであって,それによる損害はアクセス

する側の国において生じているということになりそう」であるから,「準拠法としては,

アクセスできる各国の法律であるということに」なると主張する152。

しかし,受信国法説の欠点としてよく指摘されたのは,多数の受信国法を適用する際の

裁判所の負担と当事者の予測を越えることである。

上述したように,石黒教授は,裁判所の負担について,無数の受信国という困難は国際

的な集団訴訟における国際環境汚染や国際製造物責任の場合に類似し,程度の問題に過ぎ

ないと主張した。

駒田教授はこの見解に対し,その程度の差は実に甚だしいものとなる可能性があるとの

批判を挙げたが,実際の事件からみると,事件と関わる受信国は通常それほど多くないと

言える。例えば,上述の香港オークション事件では,実際に関わった受信国は香港と日本

だけである。また,この二ヶ国が実際に当事者の予測を超えたものとも言えないであろう。

中国では,従来著作権侵害については準拠法の判断をしないか不法行為地法によるかで

議論の混乱があったが,これからは「法適用法」の 50 条によって「保護国法」(利用行為

地法)が準拠法となる。また,当事者の事後の変更により法廷地法を選択することもでき

る。中国においては,準拠法の連結素としての「不法行為地」も国際裁判管轄の管轄籍と

しての「不法行為地」と同様の解釈であり,「加害行為地」と「結果発生地」両方が含ま

れている。しかし,インターネット上の著作権侵害事件ではそもそも土地との繋がりが薄

く,ある土地を準拠法として確定するのは困難である上,発信地と受信地すべての中から

選択できるとすることは,裁判官の自由裁量権を大きくし過ぎるものと考えられる。それ

は判決の調和,また当事者の予測可能性を害することになる。

また,上述の丛立先教授の提言した,インターネットに関連する独特な要素も含め,被

告住所地などの要素と合わせて,ある土地が二つ以上の要素に当たる時はその地の法を準

拠法とするという方法では,不法行為地法という連結素と最密接関連地法という一般条項

との区別がつかなくなるだろう。

そのため,これから「保護国」すなわち「利用行為地」は,その解釈上,少なくともイ

ンターネット上の著作権侵害事件では,その確定する意義が小さくなる加害行為地を除き,

「結果発生地」である「受信国」として理解するのが望ましい。

なお,「法適用法」の 50 条は知的財産権に関する侵害の特則をおいている。これに対し,

日本の「通則法」には知的財産権の侵害事件に関する特則がないため,不法行為として性

152 道垣内・前掲注(54)17 頁。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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質決定する場合,20 条が適用され,当事者の共同常居所地法又は最密接関連地法が適用さ

れる可能性もあり,「属地主義の原則」に反する恐れがある。

また,各国の立法の動きを見ると,上述のように,インターネットのようなユビキタス

侵害の準拠法について,「侵害と最も密接な関連のある国の法による」などのルールが提

案され,各国の立法案が次々と提唱されている。しかし,このような解決では,必然的に

一国で生じた知的財産権侵害が他国の法により判断されることになる。このようなことは,

属地主義の原則を厳格に解釈するならば不可能であるように思われる。

この点につき,属地主義という枷を外すことによって,事案との密接関連性に鑑み内国

との牽連性を肯定することが可能であるという見解が見られる。すなわち,外国における

行為が国内に与える効果或いは影響が大きい場合には内国法を適用し,反対に,外国にお

ける行為が国内に及ぼす影響が小さい場合には内国法の適用を抑制するという「効果理論」

である。「効果理論」が属地主義に取って代わるべきであるという主張もある153。このよ

うな見解が論理的に可能であるか,また可能であれば知的財産権においてどのように機能

するのかはこれからの課題となるだろう。

5 小括

中国と日本で実際に生じたインターネット上の著作権侵害事件の構造は,基本的に同様

である。すなわち,被告が被告住所地で被疑侵害著作物をサーバーにアップロードし,国

内から外国にまで影響を及ぼすという構造である。両事件の違いは,日本の事件において

は原告住所地が日本であり,中国の事件における原告住所地は香港であることが挙げられ

る。日本の事件では,損害賠償額は日本国内の利用料相当額であり,中国の事件では実際

の損害を考慮(クリック率で被告の実際得られた利益と著作権の著名性により原告が被っ

た実際の損害)して損害賠償額を算定している。

学説上,日本の学説は主として受信国主義と発信国主義のいずれを採用するかについて

議論してきたのに対し,中国の学説は両方とも選択できることを前提に,むしろどのよう

に受信国と発信国を決定するかという点について議論している。

インターネット上の著作権の送信は,その送信地を意図的に変更することが容易であり,

確定し難いことは上述のとおりである。そのため,送信行為よりむしろ受信行為の結果に

注目すべきである。受信国法を適用すると,確かに現実の裁判において,非常に面倒なこ

とになるかもしれないが,道垣内教授の述べるように,「だからといって,不法行為の準

拠法が左右されるのは本末転倒」である154。また,実際の事件から見れば,常に多くの受

153 小泉直樹「いわゆる属地主義について―知的財産法と国際私法の間―」上智法学論集 45 巻 1 号(2001)

30 頁。その他,駒田泰土「インターネット送信と著作権侵害の準拠法問題に関する一考察―属地(的効力)

主義の桎梏を越えて―」東京大学社会情報研究所紀要 63 号(2002)91 頁も参照。154 道垣内・前掲注(54)16 頁。

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名古屋ロー・レビュー 第 3 号(2011 年 9 月)

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信国で問題になるわけではないため,それ程裁判所に負担をかけることもない。私見とし

ては,インターネット上の著作権侵害は各受信国それぞれの法によるべきである。

各国のユビキタス侵害の準拠法に対する立法は,同一の方向に向かっているように思わ

れる。すなわち,侵害結果と最も密接な関連を有する国の法が,世界中の損害について適

用されるという方向である。このような方向は属地主義の原則からは理論上無理があるよ

うに思われるが,「属地主義の原則」を越えて知的財産権を考慮することが可能かどうか

が,これからの検討課題になると予想できる。

第四章 結語

インターネットの凄まじい発展に伴い,複雑な法律問題が裁判所に殺到するようになり

つつある。ネットワークの無国境性により,ネット上のすべての操作は国境を越えた行為

となり得るため,国際私法上問題が深刻になる。

伝統的な知的財産法の特徴として,知的財産権には属地的効力しかないことが挙げられ

る。サイバースペースのボーダーレス化は,このような伝統的な知的財産法秩序にも大き

な衝撃を与えるようになっている。

国際裁判管轄について,日本では知的財産権についての専属管轄が判例上否定され,外

国著作権に関する訴えも内国で扱うことができるため,インターネット上の著作権侵害事

件について,外国で発生した外国著作権侵害も内国で対応できる前提が整っている155。こ

れに対し,中国では,専属管轄を採用しているとまでは言えないが,判例上も学説上も消

極的な態度を取っており,基本的に外国著作権を扱ったことがこれまでない。技術の発展

及びグローバル化により,知的財産権の国際的交流が頻繁になる今日,中国は昔ながらの

絶対的地域管轄原則を放棄し,外国著作権に対応できる枠組みを採用することが望ましい。

そうでなければ,扱えるインターネット上の著作権侵害事件も内国範囲内での損害にとど

まり,同事件が有する世界中に同時に侵害を発生するという特性に対応できなくなる。

インターネット上の著作権侵害については,インターネットの特性により,発信行為が

簡単に行われ,世界のどこででも発信することができる。また,受信後の再発信行為など

が簡単であるため,発信地の確定はもはやできなくなり,確定する意味がまるでなくなっ

てしまった。従って,受信地による管轄を認め,その管轄範囲を限定し,また被告住所地

において全損害についての国際裁判管轄を認めるというやり方の方が,インターネット上

の著作権侵害事件により馴染む。また,侵害全体と比べ最も大きな結果が発生した地にも

155 国会へ提出された「民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律案要綱」のうち,管轄権の専属に

関する 3 項は,「知的財産権のうち設定の登録により発生するものの存否又は効力に関する訴えの管轄権

は,当該登録が日本においてされたものであるときは,日本の裁判所に専属するものとする。」とだけ規

定する。つまり侵害訴訟は専属管轄に含まれていないとする。

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インターネットにおける著作権侵害の国際裁判管轄と準拠法-日中の比較を中心に(張晶)

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全損害についての国際裁判管轄を認めるという処理が望ましいが,このような発想は,日

本においては解釈論上困難であり,立法により解決するより他ないように思われる。

準拠法に関しては,ベルヌ条約 5 条 2 項を準拠法選択規則として認識する見解もあるが,

そのような意義は小さい。また,ベルヌ条約 5 条の文言上そのように読むことには無理が

あるため,著作権侵害の準拠法を各国の国際私法に委ねる方が合理的である。

中国において,渉外的要素のある著作権侵害事件について,準拠法の適用はそもそも必

要がないという見解もある。しかし,外国著作権の内国審理の必要性により,準拠法の適

用が直面しなければならない問題となっている。新しい立法である「中華人民共和国渉外

民事関係法律適用法」の施行により,知的財産権に準拠法の適用が必要であるという立場

が明確になった。

インターネット上の著作権侵害事件では,日本の学説上は,発信国法によるか受信国法

によるか延々と議論されてきた。一方,中国では以前から「不法行為地」の解釈に縛られ,

発信国と受信国両方を含むことを前提にして議論がなされてきた。だが,これからは「法

適用法」50 条が「保護国法」に関し,新しい議論が生まれるだろう。

公衆送信行為の中で重視されるべきは侵害された市場であり,発信行為より受信行為の

方が重要性が高いため156,受信地法で判断すべきと思われる。インターネットのようなユ

ビキタスメディアは受信地が多数あり,その多数の国の法をそれぞれ適用することが裁判

所にとって大きな負担となるという懸念があるため,各国は一国の法を適用するような立

法提案を提唱している。それは,伝統的な知的財産権の「属地主義の原則」に挑戦するよ

うに思われる。そのため,「属地主義の原則」という桎梏を越えて「効果理論」を採用す

べきか,また,その「効果理論」の実効性はあるかどうかが残された課題となるだろう157。

〔付記〕本稿は名古屋大学大学院法学研究科 2011 年度の修士論文を基にしている。執筆に

際し,名古屋大学大学院法学研究科横溝大教授から有益なご示唆を頂いた。この場を借り

て謝意を表したい。

156 茶園・前掲注(95)81 頁。157 Dai YOKOMIZO, “Intellectual Property Infringement on the Internet and Conflict of Laws”, AIPPIJournal, Vol. 36, No. 3 (2011), p. 104, 110.