リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健...

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Instructions for use Title リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果 Author(s) 河原田, まり子; 佐伯, 和子; 和泉, 比佐子; 関, 美雪; 上田, 泉; 平野, 美千代 Citation 看護総合科学研究会誌, 10(3), 13-24 Issue Date 2007-12-31 DOI 10.14943/34136 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/35621 Type article File Information 10-3_p13-24.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Page 1: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

Instructions for use

Title リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

Author(s) 河原田, まり子; 佐伯, 和子; 和泉, 比佐子; 関, 美雪; 上田, 泉; 平野, 美千代

Citation 看護総合科学研究会誌, 10(3), 13-24

Issue Date 2007-12-31

DOI 10.14943/34136

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/35621

Type article

File Information 10-3_p13-24.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

Page 2: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

原著論文

リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た

保健師指導者育成プログラムの効果

河原田まり子1) 佐伯和子1) 和泉比佐子2) 関 美雪3) 上田 泉1) 平野美千代1)

1)北海道大学医学部保健学科

2) 札幌医科大学保健医療学部看護学科

3)埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科

Effect of the Training Program for Public Health Nurse Leaders on the Self-evaluation of Their Leadership Skills

Mariko KA W AHARADA, Kazuko SAEKI, 1zumi UEDA, Michiyo H1RANO

(Division of Nursing, Department of Health Sciences, School of Medicine, Hokkaido University)

Hisako 1ZUM1

(Department of Nursing, School of Health Sciences, Sapporo Medical University)

Miyuki SEKI

(Department of Nursing, School of Health and Social Services, Saitama Prefectural University)

要旨

本研究の目的は保健師指導者のリーダーシップ能力の自己評価の実態と保健指導者育成フ。ログラムの

効果を明らかにすることである。北海道と 2県内の保健師指導者を対象にフ。ログラム実施前後に自記式

質問紙調査を実施し,プログラムに参加し回答のあった 102名を分析対象とした。調査内容は対象者の

属性と自作のリーダーシップ能力の自己評価に関する 5項目である。開始前のリーダーシップ能力と属

性との関連は t検定を用いて解析し,プログラムの効果は対応のある t検定を用いて解析した。対象者

のリーダーシップ能力の自己評価はほぼ4点であった(できる 6点 できない 1点)。リーダーシップ

能力の自己評価は職位と人材育成・看護管理研修受講の有無と関連していた。実施後にリーダーシップ

能力に対する自己評価が全般的に向上し,プログラムの効果があった。今後,保健師指導者のリーダー

シップ能力を高めるような現任教育体制を整備していく必要がある。

キーワード:保健師指導者,人材育成, リーダーシップ能力,キャリア開発

1.緒言

我が国では,少子高齢化の急速な進展や地域

における健康課題が多様かっ複雑化し,疾病予

防や介護予防等ならびに住民のニーズに対応し

た健康施策の推進など地域保健活動の重要性が

ますます高まっているにまた,行政改革や地

-13一

方分権が推進される中,市町村合併や機構改革

が行なわれ,組織を統合して保健活動を推進す

る保健師指導者(保健師リーダー)の役割が大

きくなっている。一方,地域保健の現場では新

卒者の実践能力の低下や公衆衛生の視点の希薄

化などの問題点が指摘されぺ保健師養成の大

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河原田まり子・佐伯和子・和泉比佐子・関 美雪・上回 泉・平野美千代

学化が実質的なカリキュラムの強化につながっ

ていない現状が課題となっているヘ 保健師指

導者は,地域保健従事者としての専門性に加え

て,行政的な視点や保健師スタッフの能力を育

成する力量が求められている。

地域保健に従事する保健師に必要な能力に関

する研究は近年発展してきている4η。行政機

関に働く保健師の専門職務遂行能力について,

キャリア発達の視点から保健師の実践能力の自

己評価に関する調査や専門家から期待される保

健師の実践能力に関する研究が報告されてい

る8-10)。保健師の専門能力の発展には,新任期,

前期中堅期,後期中堅期,ベテラン期のキャリ

アの時期に応じて伸ばす課題がある。ベテラン

期は行政職としての能力と管理者としてのリー

ダーシップを発達させることが必要な時期にあ

るヘ また,ベテラン期に重要な実践能力とし

て,国家的・国際的な視野の広さと管轄地域に

おける保健分野の責任者として外部に対して活

動の方向性を示し説明責任を果たす役割があり,

高所から地域保健のあり方を見通す能力が求め

られている lヘ 保健所から市町村への業務移管

の進行や医療制度改革による保健活動の変化な

どの変革期の時代にあって,効果的な保健師活

動を展開していくための保健師指導者の役割が

重要となっている。狩俣11)は, リーダーシップ

とは組織の多様な影響過程の中で組織目的達成

の方向に組織成員を統一的統合的に協働させる

主体的な影響過程であると述べている。保健師

指導者には,キャリア発達の視点を含めたスタッ

フの能力の育成と地域保健活動を推進していく

リーダーシップ能力が求められている。また,

今日のような変革の時期にあっては,社会情勢

を見極め状況の変化に対応できるリーダーシッ

プ能力の発揮が重要となっている。

このような状況の中で,我々は保健師指導者

の組織管理および人材育成能力の向上を意図し

た保健師指導者育成プログラム(以下,育成プ

ログラム)を実施した。育成プログラムの効果

を評価するために,地域保健従事者に求められ

看護総合科学研究会誌 Vol.10, No.3, Dec. 2007 -14一

る能力ωである基本的な能力,行政職員として

の能力,専門職員としての能力と管理者に必要

なリーダーシップ能力の自己評価および現任教

育に対する意識や実践の変化を測定した。本研

究では,保健師指導者のリーダーシップ能力の

自己評価の実態を明らかにし, リーダーシップ

能力の自己評価の変化から保健師指導者育成プ

ログラムの効果を評価することを目的とした。

E 方法

1 .対象

北海道と 2県内の 4ヵ所のフィーノレドにおい

て,育成フ。ログラムに参加し研究の参加の同意

の得られた市町村・保健所に勤務している保健

師指導者 145名を対象とした。4ヶ所のフィー

ルドのうち, 2ヶ所は育成プログラムを県単位

で実施し,残りの 2ヶ所は保健所単位で実施し

た。育成フ。ログラムへの参加依頼は,各フィー

ルドの保健所または市の人材育成に関わる部署

の保健師を通して行なった。保健師指導者には

スタッフの指導を担当する者と管理者およびそ

のような立場に近い,将来立っと思われる者を

含んでいる。

2. 育成プログラムの内容

育成プログラムの期間は 2006年 1月から

2006年 12月の 1年間のプログラムである。内

容は, Off-JT (職場外研修)と OJT(職場内研

修)の実践および指導者としての能力の自己評

価である。 Off-JTとしての集合研修の内容は,

行政の変化と保健師および保健師指導者に求め

られる能力,組織管理,保健師のキャリア発達,

人材育成の方法,職場での人材育成計画の立案

方法,人材育成体験の共有と評価である。方法

は講義とグループ。ワークを組み合わせて実施し

た(表 1)。人材育成の対象は各フィールドの

状況に応じて中堅保健師あるいは新任保健師に

焦点をあてた。 OJTとしての人材育成の実践

は,企画立案した人材育成計画に基づいたスタッ

フ個人あるいは職場単位の人材育成の実践と評

価で、あった。

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リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

表1 保健師指導者研修会の概要

研修全体の

到達目標

1. 職場全体の中で,中堅職員(新任職員)を含めた人材育成を考えることができる。

2 中堅職員(新任職員)の人材育成を効果的に行なうためには,職場内研修が重要であることを理

解できる。

3.中堅職員(新任職員)に対する人材育成計画を立案できる。

4. 中堅職員(新任職員)に対して肯定的・教育的なかかわりができる。

5. 参加者自身が,職場内における人材育成の推進者であることを認識できる。

6.職場内で人材育成を行なう上での自己の人材育成能力の課題などに気づくことができる。

各研修| 第 1回 | 第 2回 | 第 3回

目標

ァーマ

1.各職場の中堅職員の人材育 1 1.人材育成を計画的に実践す 1 1. OJTを継続して実践するこ

成に関する現状と課題を確| るための計画の必要性が理! との必要性が理解できる。

認する。 1 解できる。 1 2. 人材育成を効果的に実践す

2.指導者が中堅職員の人材育 1 2. 自分の職場に適応する人材| るためには,組織的な対応

成において意図的に関与す | 育成計画の目標が記載でき| が不可欠であることを理解

ることの重要性を理解する。| る。 1 できる。

職場での中堅職員の人材育成の

現状とその必要性

董蓋

3 人材育成の方法(時期,内 1 3.参加者自身が,職場の OJT

容,協力者等関与する人) 1 の推進者であることに認識

を記載できる。 1 を持つ。

職場で実践できる人材育成計画 IOJTを中心とした人材育成の定

の立案 |着(まとめ)

童蓋 |輩蓋

職場において保健師を育てる重|職場における具体的な OJTを計|職場に OJTによる人材育成の手

要性(中堅を中心に画する た め に |法,仕組みを定着させるために

ホ |童旦亙盤 |童旦乏盤研修内容 | 、 '9'/ ......- ~/'-

①中堅職員に必要とされる能力 |人材育成計画の立案から「中堅|計画立案と実臨を通じての気づ

②各職場の中堅職員の人材育成|職員の人材育成Jをする上での |き, 自身が人材育成の推進者と

の現状と課題 |①重要な事項,②計画立案上で |なるための自己課題

悩んだ事項

所属の中堅職員の人材育成に関|人材育成計画(案)を作成する。|人材育成計画を修正する。計画

事前課題|する課題を考える。 をもとに職場で実践し,結果を

記載する。

※人材育成の対象はフィールドの状況に応じて新任保健師あるいは中堅保健師を対象にして実施。

3.調査方法

育成プログラム開始前の 2006年 1月と 終了

後の 2006年 12月に郵送による記名式自記式質

問紙調査を実施した。 1ヶ所のフィールドは育

成フ。ログラム開始前に自記式質問紙を配布し,

その場で回収 した。開始前に 134名から調査票

の回答を得た(回収率 92.4%)。終了後に 105

名から調査票の回答を得た(回収率 72.4%)。

そのうち,質問紙の回答が不備のものを除外し,

プログラム前後の回答が揃っている 102名を解

析対象とした。

-15一

4. 調査項目

調査項目は保健師の属性等に関することと リー

ダーシップ能力の自己評価である。 保健師の属

性等は年齢,性別,所属組織,職位,保健師経

験年数,保健師基礎教育,人材育成や看護管理

者研修受講の有無,異動経験の有無,所属フィー

ノレドである。

リーダーシップ能力の自己評価の測定にあた

り,代表的なリ ーダーシッフ。理論の一つで、ある

集団の目標達成の働きを促進し強化する目標達

成機能と集団の自己保存ないし集団の過程それ

自身を維持し強化する集団維持機能の二つの機

看護総合科学研究会誌 Vo1.10,No.3, Dec. 2007

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河原固まり子・佐伯和子・和泉比佐子・関 美雪 ・上田 泉・平野美千代

能次元で論じられるPM理論日)とリーダーとそ

れを取り巻く状況要因との関係で論じられる状

況理論ωの考え方に基づいて質問項目を検討し

た。質問項目の作成は,最初に集団力学研究

所l吻3作成した職場に関するアンケー トリーダー

用(自己評価用)を参考にリーダーシップの目

標達成機能と集団維持機能川こ関する 4項目を

研究者らが作成した。次に, リーダーとそれを

取り巻く状況要因との関係で論じられる状況理

論川の考え方に基づいて, リーダーシップ能力

1項目を作成し,計 5項目を設定した。各項目

は6段階の選択肢を設け r1 できない」 か

ら r6 できるJの聞に等間隔の目盛りと 2,

3, 4, 5の選択肢を設定した。

5 解析方法

育成プログラム開始前の保健師指導者の各項

目のリーダーシップ能力の自己評価得点を集計

後,各項目の平均点の差を一元配置分散分析を

用いて比較し, Bonferroniの検定を用いて多重

比較を行った。また,基本的属性および所属組

織や地域特性の状況等とりーダーシップ能力の

各項目との平均値の差については t検定あるい

は一元配置分散分析で比較した。次に,指導者

育成研修の効果をみるために研修前後のリーダー

シップ能力の各項目の平均点の差を対応のある

t検定を用いて比較した。 さらに,研修による

効果と属性との関連をみるために,属性と研修

終了後のリーダーシップ能力の自己評価得点の

平均値の差を対応のある t検定を用いて比較し

た。解析には統計ソフト SPSSver12.0j for

Windowsを用い,有意水準は 5%未満とした。

6 倫理的配慮

研究の実施にあたり北海道大学医学部医の倫

理委員会と埼玉県立大学倫理委員会の承認を得

た。対象者には文書にて研究の目的,期間,デー

タの収集方法や手)1慎,研究結果の活用内容につ

いて説明しインフォームドコンセントを得た。

また,記名式であることから,匿名性の確保と

プライパシーの保護に十分配慮することを文書

にて説明した。

看護総合科学研究会誌 Vo1.10,No.3, Dec. 2007 - 16一

ill. 結果

1 .対象者の概要

解析対象とした保健師指導者 102名の属性等

を表 2に示した。平均年齢は 45.7歳であった。

所属組織は市町村が最も多く 52.0%,次いで、

都道府県が 43.1%,政令市・中核市が 4.9%で

あった。所属領域は保健部門が 77.4%を占め

ていた。職位は係長級以上が全体の約 7害IJを占

めた。平均保健師経験年数は 21.1年で,異動・

転勤経験は「あり」の者が 74.5%で rなし」

の者が 25.5%であった。人材育成・看護管理

者研修を受講した経験があるものが 36.3%で,

表2 保健師指導者の属性

n=102

項 目 人数(%)平均年齢 45.7 (土6.5)

保健師経験年数平均 2l.l (:!:6.8)

性別

女性 101 (99.0)

男性 1 (1.0) 職位指

課長補佐級以上 20(19.8)

係長級 50 (49.5)

一般職 31(30.7)

保健師基礎教育養成所・専門学校 79 (77.5)

短期大学 14(13.7)

大学 9 (8.8)

所属組織市町村 53 (52.0)

都道府県 44 (43.1)

政令市・中核市 5 (4.9)

所属領域保健 79 (77.4)

保健・福祉 17(16.7)

福祉 4 (3.9)

その他 2 (2.0) スタッフ数*

5名以下 57(57.0)

6~15 名 40 (40.0)

16名以上 3 (3.0)

異動の経験あり 76 (74.5)

なし 26 (25.5)

人材育成・管理者研修受講 あり 37 (36.3)

なし 65 (63.7)

フィールドA地区 39 (38.2)

B地区 27 (26.5)

C地区 19(18.6)

D地区 17(16.7)

*無回答を除いた数(割合)である

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リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

受講経験のないものが 63.7%であった。

2. 育成プログラム開始前のリーダーシップ能

力と関連要因

表 3に育成フ。ログラム開始前のリ ーダーシッ

プ能力の自己評価を示した。 5項目のリ ーダー

シップ能力の自己評価得点の平均値には有意な

差があった(p < 0.001) 0 rスタッフを指導し

て保健師業務を推進Jする自己評価得点が一番

低く rスタッフやスタッフ聞の人間関係を円

滑に保つj 能力の自己評価得点が一番高かった。

リーダーシップ能力の自己評価得点と保健師

指導者の属性等との関連を表4に示した。リ ー

ダーシッフ。能力の自己評価得点と有意な差があっ

た項目は,職位と人材育成・看護管理者研修受

講の有無および研究のフィ ールドであった。職

位は,一般職,係長職,課長補佐職以上と職位

があがるにつれ5項目すべてのリ ーダーシップ

の自己評価得点が上昇傾向にあった。そのうち

「スタッフを指導して保健師業務を推進J と

「状況の変化に応じてリーダーシップを調整j

の2つの項目で有意な差がみられた。人材育成・

管理者研修受講の有無では,受講経験ありがす

べての項目で得点が高く,そのうち 「組織で求

められる保健師業務を計画的に推進Jの項目で

有意な差がみられた。研究のフィ ーノレド別では,

「組織で求められる保健師業務を計画的に推進J

の項目で有意な差が見られた。所属組織,保健

師経験年数,スタッフ数,異動経験の有無では

有意な差は見られなかった。

3.育成プログラム終了後の変化

リーダーシップ能力の自己評価の変化を表 5

に示した。育成プログラム前後の対応のある t

検定の結果,実施後はすべての項目でリーダー

シップ能力得点が有意に高くなった。終了後の

リーダーシップ能力得点と属性との関連を表 6

に示した。すべての項目で終了後にリ ー夕、、ーシッ

プの自己言平イ面得=点が増力目していた。 rスタッフ

やスタッフ聞の人間関係を円滑に保つ」能力の

自己評価得点は,一般職と保健師経験 19年以

下の保健師指導者に有意な増加がみられなかっ

た。 「スタッフの個性や能力を生かすかかわり

をしていく」能力の自己評価得点は,市町村と

保健師経験 19年以下およびスタッフ数が 6名

以上いる保健師指導者に有意な増加が見られな

かった。

IV.考察

1 リーダーシップ能力の自己評価の実態

保健師指導者のリ ーダーシップ能力の自己評

イ面はできない 1点」カミら「できる 6,長j

の範囲の中で4点に評価するものが最も多かっ

た。「できる」に評価した指導者はどの項目も

表3 保健師指導者のリ ーダーシッ プ能力の自己評価

n=102

リーダーシップ できない できる 平均値 多重比較リーダーシップ能力項目

機能 2 3 4 5 6 P値

スタッフを指導して保健師業務 3 16 23 43 17 0

目標達成を推進していく (2.9) (15.7) (22.5) (42.2) (16.7) (0) 3.54 (:t1.04) 一弓1

機能 組織で求められる保健師業務を 1 6 24 37 31 3

計画的に達成していく (1.0) (5.9) (23.5) (36.3) (30.4) (2.9) 3.98 (:t 1.00) J 1**

スタッフやスタッフ問の人間関 2 4 18 43 32 3 4011 (+0 q7) ~ I 集団維持係を円滑に保つ (2.0) (3.9) (17.6) (42.2) (31.4) (2.9) 4.06 (:t0.97)ー

機能 スタッフの個性や能力を生かす 2 8 30 44 17

かかわりをしていく (2.0) (7.8) (29.4) (43.1) (16.7) (1.0) 3.68 (:t0.95)

状況適〈口 状況の変化に応じて リーダーシッ 18 26 36 19 2

プを調整していく (1.0) (17.6) (25.5) (35.3) (18.6) (2.0) 3.59 (土1.08)

注)多重比較は Bonferroniの方法を用いた * P<0.05, **P <0.01

-17 看護総合科学研究会誌 Vo1.10,No.3, Dec. 2007

Page 7: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

菖 凋 田 仲 σ ボ ・ 4 附 吉 山 司 ロ ボ ・ 山 司 口 湖 再 許 ボ ・ 理

n=102

状況

の変

化に

応じ

リー

ダー

シッ

プを

調整

平均

値(::!::SO)

P値

スタ

ッフ

の能

力や

個性

を生かした関わり

平均

値(::!::SO)

P値

スタ

ップ

やス

タッ

フ聞

人間

関係

を円

滑に

保つ

平均

値(::!::SO)

P値

リー

ダー

シッ

プ能

力の

自己

評価

と属

性と

の関

連(

育成

プロ

グラ

ム開

始前

)

組織

で求

めら

れる

保健

師業

務を

計画

的に

達成

平均

値(::!::SO)

P値

0.257

3.47

(::!::0.99)

3.71 (::!:: 1.16)

0.811

3.70(::!::

1.03)

3.65 (::!:: 1.03)

0.981

4.06 (::!::0.91)

4.06 (::!:: 1.05)

0.325

3.89(

土0.85)

4.08 (::!:: 1.13)

0.386

3.45 (::!::0.91)

3.63 (::!:: 1.17)

53

市町

都道

府県

、政

令市

所属

組織

49

職位

スタ

ッフ

を指

導し

保健

師業

務を

推進

平均

値(::!::SO)

P値

n

目項

表4

0.047*

4.10 (::!:: 1.02)

3.54 (土1.01)

3.35 (::!:: 1.14)

0.141

4.05 (::!::0.89)

3.58 (::!::0

.95)

3.58 (::!::0.96)

0.313

4.35 (::!::0.81)

4.02(土0.98)

3.94 (::!:: 1.06)

0.861

4.10 (::!::0.97)

3.96 (::!:: 1.05)

3.97 (::!::0.95)

0.026*

4.05 (::!::0.95)

3.54 (::!:: 1.05)

3.26(::!::0.97)

20

50

課長

補佐

級以

係長

一般

組 岬 剛 瞬 時 開 ゆ 草 川 w g u四 ゆ 蹴 〈 O 一- s - Z 0 ・ ω ・ 0 0 0 ・ M 0 2

31

20年

以上

1O~19年

9年

以下

0.353

3.69 (::!:: 1.11)

3.48

(::!::0.97)

3.14 (::!:: 1.22)

0.979

3.66 (::!::0.99)

3.70 (::!::0

.92)

3.71(土

0.76)

0.407

4.01 (::!::0

,98)

4.21 (::!::0.96)

3.71 (土

0.95)

0.988

3.97 (::!:: 1.07)

4.00 (::!::0.90)

4.00 (::!::0.82)

0.130

3.66 (::!:: 1.04)

3.45

(::!:: 1.00)

2.86 (::!:: 1.07)

62

33

保健

師経

験年

昆 ー

淋 岬 ・ l r E

7

5名

以下

6名

以上

0.737

3.63 (::!::0.98)

3.56 (::!:: 1.20)

0.886

3.70 (::!::0.93)

3.67 (::!::0.97)

0.265

4.11 (::!::0.96)

4.05 (::!::0.98)

0.764

4.11 (::!::0.98)

3.88 (::!::0.98)

0.517

3.49

(::!:: 1.10)

3.63 (::!:: 1.05)

57

スタ

ッフ

43

異動

の経

0.080

3.70(::!::

1.08)

3.27 (::!:: 1.00)

0.705

3目70

(::!:: 1.08)

3.27 (::!:: 1.00)

0.902

4.07 (::!:: 1.00)

4.04 (::!::0.92)

0.278

4.04 (::!::0.92)

3.81 (::!::0

.90)

0.367

3.59 (::!:: 1.06)

3.38 (::!::0.98)

76

知 - M 相 場 淋 4 3

0.420

3.70 (::!:: 1.08)

3.52 (::!:: 1.08)

0.390

3.78 (土1.08)

3.62 (::!::0.86)

0.421

4.16 (::!::0.90)

4.00 (::!:: 1.02)

0.044*

4.24(::!::0.98)

3.83 (::!::0.98)

0.320

3.68 (::!:: 1.16)

3.46

(::!::0.97)

26

37

あり

なし

人材

育成

・看

護管

理者

研修

受講

あり

なし

65

A地

B地

C 地区

D士也区

注)平均値(::!::標準偏差)を示す*

P<0.05

0.302

3.70 (土

0.91)

3.47

(::!:: 1.33)

3.74(::!::

1.07)

3.21 (::!:: 1.03)

0.057

3.59 (::!:: 1.01)

3.94 (::!::0.75)

3.85 (::!::0.88)

3.21 (::!:: 1.03)

0.444

4.07 (::!::0.96)

4.18 (土1.02)

4.15 (::!::0.88)

3.74(::!::

1.15)

0.013*

4.15 (::!:: 0.91)

4.06 (::!::0.97)

4.15 (::!::0.96)

3.32 (::!:: 1.00)

0.640

3.59 (::!:: 0.93)

3.35 (::!:: 1.12)

3.67 (::!:: 1.13)

3.54 (::!:: 1.04)

27

17

フィ

ール

39

19

Page 8: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

表5 リーダーシッ プ能力各項目の平均得点の変化

リーダーシップ能力項目 開始前

スタッフを指導して保健師業務を推進していく 3.54 (::1:: 1.04)

組織で求められる保健師業務を計画的に達成していく 3.98 (::1::1.00)

スタッフやス タッフ間の人間関係を円滑に保つ 4.06 (::1::0.97)

スタッフの個性や能力を生かすかかわりをしていく 3.68 (::1::0.95)

状況の変化に応じてリーダーシップを調整していく 3.59 (::1:: 1.08)

終了後

3.96 (::1::1.10)

4.22 (::1::0.96)

4.40 (::1:: 1.04)

4.07 (::1::1.03)

4.01 (::1:: 1.13)

n=102

P値

く0.001*** 0.003 ** 0.002 ** 0.001 **

<0.001 *** 注)平均値(::1::標準偏差)を示す ** P<O.Ol, *** P<O.OOl

少数で, リーダーシップ能力の発揮に高い自信

をもっている状態で、はなかった。

リーダーシップの PM機能の 4つの項目の各

平均得点を比較すると,自己評価が最も高かっ

た項目は,集団維持機能14)である 「スタッフや

スタップ間の人間関係を円滑に保つj能力で、あっ

た。一方,自己評価が最も低かった項目は, 目

標達成機能川である「スタッフを指導して保健

師業務を推進するJ能力であった。この項目は

他の 3つの項目に比べて有意に得点が低く , 1

点あるいは 2点と低い自己評価をしている保健

師指導者が約 2割を占めていた。次に得点が低

かった項目は集団維持機能である「スタッフの

個性や能力を生かす関わり」であった。保健師

指導者は,スタッフの指導や育成に関わるリ ー

ダーシップ能力を特に低く自己評価している傾

向にあった。スタッフ指導に自信を持てるよう

な現任教育が必要であると考える。

リーダーシップの状況理論14)では,リーダー

シップの有効性はリ ーダーを取り巻く状況要因

によって規定されると考えられている。つまり,

リーダーは部下を含む状況要因を正しく 判断し

てそれに適合するべきであるということを基本

的に仮定している。「状況の変化に応じてリ ー

ダーシップを調整していく j 能力は 5項目の

中では 2番目に自己評価が低い項目であった。

地域保健活動に関連する施策や制度の変化が激

しい状況の中にあって,変化に対応しながら地

域保健活動のリ ーダーシップを発揮する ことの

難しさが背景にあると推察される。

-19一

2 リーダーシップ能力の自己評価と属性等と

の関連

リーダーシップ能力の自己評価の高低に関連

する属性等の要因について検討する。リーダー

シップ能力の自己評価と関連があったのは,職

位と人材育成・看護管理研修の受講の有無およ

び研究フィ ールドであった。

職位があがるにつれ5項目すべてのリ ーダー

シップ能力得点が高くなる傾向にあり, 5項目

中2項目で有意差がみられ,職位との関連が示

唆された。有意差があった 2項目は,スタッフ

を指導して業務を推進する能力と状況の変化に

応じてリ ーダーシップを調整する能力である。

この2項目は保健師指導者全体では低く自己評

価する人が多かった能力である。保健師の経験

年数別では有意な差のあった項目はなかった。

しかし,経験年数と共に自己評価が高い傾向に

ある項目と経験年数による差がない項目がみら

れた。一概に経験年数が多いほどリ ーダーシッ

プ能力の 自己評価が高くなるわけではないこと

が示唆される。リ ーダーとしてのポジションが

職位と して明確になることにより,職位に伴う

リーダーシップの発揮への周囲からの期待が能

力開発に繋がっていったと推察される。

人材育成・看護管理研修の受講の有無では,

すべての項目で研修受講経験がある指導者の得

点が高い傾向を示し,保健師業務を計画的に達

成していく能力で、は有意な差があった。研修受

講による リーダーシッフ。能力への影響について

は,看護師を対象とした研究で研修受講により

リーダーシップ能力が向上したことが報告され

看護総合科学研究会誌 Vo1.10,No.3, Dec. 2007

Page 9: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

育成

プロ

グラ

ム終

了後

のリ

ーダ

ーシ

ップ

能力

と属

性と

の関

連表

6

菖 酒 田 件 。 ボ ・ 4 附 4 岳 山 苫 ボ ・ 苫 湘 』 り げ 除 ボ ・ 理

n=102

スタ

ッフ

数保

健師

経験

年数

位職

所属

組織

6名

以上

5名

以下

20年

以上

19年

以下

一般

職係

長職

以上

都道府県、政令市

市町

村目

43

57

3.63 (::1:: l.05)

3.49(::1::l.l0)

3.66 (::1:: l.04)

3.35 (::1:: l.03)

3.26 (土

0.97)

3.69 (::1:: l.04)

3.63 (::1:: l.l7)

3.45

(::1::0.91)

開始

62

40

胡 叩 械 情 開 出 町 草 川 w g u 刊 ゆ 緋 〈 O 一 ・4 0

・ Z 0 ・ ω ・ 0 0 0 ・ M g叫

31

70

49

53

n

3.93 (土1.16)

4.00 (::1:: l.67)

4.18 (::1:: l.03)

3.63 (::1:: l.l3)

3.81(::1:: l.22)

4.06 (::1::

l.02)

4.10 (::1:: l.05)

3.83 (::1:: l.l4)

終了後

スタ

ッフ

を指

導し

て保

健師

業務

を推進していく

0.026*

0.002**

<0.001***

0.094

0.005**

0.006**

0.007**

0.006**

P{I直

3.88 (::1::

0.98)

4.11 (::1::

0.98)

3.97 (::1:: l.07)

4.00 (::1::

0.88)

3.97 (::1::

0.95)

4.00 (::1::

l.02)

4.08 (土l.l3)

3.89 (::1::

0.85)

開始

4.12 (::1::0.88)

4.32 (::1:: l.02)

4.21(土

0.93)

4.22 (::1:: l.03)

4.19(::1::1.11)

4.26 (::1:: 0.86)

4.31 (土

0.96)

4.13 (士

0.96)

終了後

組織

で求

めら

れる

保健

師業

務を

計画

的に

達成

して

いく

- N O l

0.031*

0.057

0.021*

0.060

0.060

0.019*

0.070

0.014*

P値

4.05 (::1::

0,.98)

4.11 (::1::0.96)

4.01 (::1::

0.98)

4.13 (::1::

0.97)

3.94 (土l.06)

4.11 (::1::0.94)

4.06 (::1:: l.05)

4.06 (::1::

0.91)

開始

4.33 (::1::

0.98)

4.49

(::1::0.98)

4.48

(::1:: l.00)

4.28 (::1:: l.09)

4.26 (::1:: l.09)

4.49

(::1:: l.00)

4.4 7 (::1:: l.02)

4.34 (::1::

l.06)

終了後

スタ

ッフ

やス

タッ

フ聞

の人

間関

を円

滑に

保つ

山 附 岬 ・ l r E

0.090

0.013*

0.001**

0.421

0.125

0.006**

0.014*

0.066

P{i直

湘 ・ 判 明 暗 哨 淋 4 4 w

3.67 (::1::

0.97)

3.70(::1::0.93)

3.66 (士

0.99)

3.70 (::1::

0.88)

3.58 (::1::

0.96)

3.71 (::1::

0.95)

3.65 (::1:: l.03)

3.70 (::1::

0.87)

開始

3.88(::1::0.98)

4.23 (::1:: l.05)

4.21 (::1::

0.99)

3.85 (::1:: l.05)

4.03 (::1::

l.25)

4.11 (::1::0.89)

4.24 (::1:: l.07)

3.91 (::1::

0.97)

終了後

スタ

ッフ

の個

性や

能力

を生

かす

かかわりをしていく

0.220

0.001**

く0.001***

0.446

0.046*

0.004**

0.001**

0.168

p{jjI

3.56 (::1:: l.20)

3.63 (::1::

0.98)

3.69 (::1::

1.11)

3.43 (::1:: l.01)

3.35 (土1.14)

3.70 (::1:: l.04)

3.71(::1::l.l

6)

3.47

(::1::0.99)

開始

3.86 (土l.00)

4.14(::1::1.16)

4.08 (::1:: l.08)

3.90 (::1:: l.22)

3.90 (::1:: l.30)

4.09 (::1:: l.08)

4.16 (::1:: 1.14)

3.87 (::1::

l.l1)

終了後

状況

の変

化に

応じ

てリ

ーダ

シップを調整していく

0.046*

注)平均値(::1::標準偏差)を示す

く0.001***

0.002**

0.005**

0.002**

0.002**

*** P<O.OOl

0.002**

P<O.Ol,

**

0.005**

P<0.05,

*

P{I直

Page 10: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

ている 16,17)。本研究では,研修内容や受講回数

との関連は検討できないが, リーダー研修の受

講がリ ーダーシップ能力の向上につながってい

ると考えられる。研究フィーノレドでも有意差の

ある項目があった。しかし,職位や研修受講の

有無のような一定の関連はみられていないため,

各フィールドの属性の違いによる影響が考えら

れる。

所属組織やスタッフ数および異動経験の有無

では, リーダーシップ能力の自己評価に有意な

差は見られなかった。我々の先行研究ωでは異

動や転勤の経験があることがスタッフへのマネ

ジメント能力に関連していた。本研究では,リー

ダーシップ能力の自己評価と異動の経験の有無

には有意差はみられなかった。しかし,すべて

の項目で異動経験のある方がリーダーシップ能

力の自己評価得点が高値を示していた。 地域保

健従事者の資質の向上を図るために計画的なジョ

ブローテーションが推奨されている 1)。今後,

リーダーシップ能力を高めていけるようなジョ

ブローテーションの検討が必要で、ある。

3.育成プログラムによるリーダーシップ能力

の自己評価の変化

育成プログラムを実施した結果,リ ーダーシッ

プ能力の自己評価はすべての項目で有意に向上

した。この結果は,保健師指導者育成フ。ログラ

ムによる効果を示していると考えられる。 リー

ダーシップの目標達成機能は,目標達成に向け

て徴密に計画を立てスタッフの力をし、かに発揮

させるかという人材育成に関わる機能である。

また, リーダーシップの集団維持機能もスタッ

フの個性や能力を生かした関わりや人間関係を

調整して集団の力をまとめていく機能で,やは

り人材育成に深く関わっている。 リーダーシッ

プの本質は,それぞれ異なる目標・思考を持っ

ている人々を調整し,統合し,組織としての共

通の意味や価値あるいは秩序を組織目的達成の

方向に向けて形成し維持するように影響を及ぼ

す主体的影響過程であり,その中心にコミュニ

ケーションが存在しているといわれている l九

また, リーダーシップは人を動機づけ変化を起

こすことができる力であるともいわれているへ

今回の育成プログラムは,スタッフに対する教

育的な関わりを計画的に実践できるように

Off-JTとOJTを組み合わせた内容で構成した。

スタッフへの指導方法やコーチング等の指導技

術の学習とスタッフ育成の実践と評価を行うプ

ログラムを通して,スタッフとの意図的なコミュ

ニケーションの機会が多くなったと推察される。

また, OJTとして行ったスタッフに対する育

成計画の立案と実践には,スタッフ能力のアセ

スメント,育成目標を立てるための指導者とし

てのビジョン,そして実際にスタッフに関わる

能力が必要である。これらの要素はリ ーダーシッ

プ能力の発揮に大きく影響するものである。育

成計画の立案と実践のフ。ロセスが,リーダーシッ

プ能力の自 己評価を高めることにつながったと

考えられる。さらに,集合研修での相互啓発や

自己評価は,人材育成能力に関する課題の明確

化や自己認識の深まりにつながり,保健師指導

者のリーダーシップ能力の自己評価の向上につ

ながったと考える。

育成フ。ログラム終了後のリ ーダーシップ能力

の自己評価と属性との関連をみると rスタッ

フやスタッフ聞の人間関係を円滑に保つ」こと

や 「スタッフの個性や能力を生かすかかわり」

が,保健師経験年数や職位および所属などと関

連していた。保健師の経験年数や職位に応じた

段階別研修が未整理であることを指摘されてい

る2ヘ 今後,保健師指導者に必要なリ ーダーシッ

プ能力や組織的な人材育成能力を開発するため

に,キャリア発達の視点を踏まえた実践的で効

果的な現任教育体制を整備していく必要がある。

最後に研究の限界を論じる。本研究では,研

究者らが作成したリーダーシップ能力の自己評

価の質問項目を用いており,調査項目の妥当性

については課題が残る。今後,信頼性・妥当性

の検証された尺度を用いてさらなる検証が必要

である。

- 21 看護総合科学研究会誌 Vol.l0.NO.3. Dec. 2007

Page 11: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

河原田まり子・佐伯和子・和泉比佐子・関 美雪・上回 泉・平野美千代

V 結論

保健師指導者のリーダーシップ能力の自己評

価はほぼ4点でありスタッフを指導して保

健師業務を推進していく」能力や「状況の変化

に応じてリ ーダーシップを調整していく J能力

の自己評価が低い傾向にあった。職位と人材育

成・看護管理研修の受講の有無はリ ーダーシッ

プ能力の自己評価の高低と関連があった。職位

が高くなるほど,また研修の受講経験があるほ

ど自己評価が高かった。保健師指導者育成プロ

グラムを通して,保健師指導者のリ ーダーシッ

プ能力に対する自己評価が全般的に向上し,育

成フ。ログラムの効果を確認できた。地域保健活

動の推進を図るリーダーシップ機能を発揮する

ためには,スタッフの能力を生かした指導力が

不可欠で、ある。今後, リーダーシップ能力を高

めるための実践的で効果的な現任教育体制を整

備してし、く必要がある。

本研究は,平成 17'"'"'19年度厚生労働科学研

究費補助金(研究代表者:佐伯和子) r保健師

指導者の育成フ。ログラムの開発Jの一環として

行ったものの一部である。また,要旨は第 27

回日本看護学会学術集会 (2007年)で報告し

fこ。

謝辞

調査にご協力いただいた各保健福祉事務所

(保健所)および市町村の保健師指導者の皆様

および各プロジェクトメンバーの皆様に深謝し1

たします。

看護総合科学研究会誌 Vol.l0,No.3, Dec. 2007 -22一

文献

1)指導者育成フ。ログラムの作成に関する検討会:

指導者育成フ。ログラムの作成に関する検討会

報告書, 1-4, 2007.

2) 地域保健従事者の資質向上に関する検討会:

地域保健従事者の資質向上に関する検討会報

告書, 4-12, 2003

3 )荒賀直子,後閑容子,標美奈子他.全国保健

師教育機関協議会が作成した保健師教育課程

試案,保健師ジャーナル, 62(7), 558-563,

2006.

4) Cross, S., Block, D., josten, L., et al.: Develop-

ment of the public health nursing competency

instrument, Public health Nursing, 23 (2) ,

108-114, 2006.

5) Michle, I.L., Baldwin, A.B., Lyons, R.L., et

al.: Self-Reported competency of public health

nurses and faculty in Illinois, Public Health

nursing, 23 (2), 168-177, 2006.

6) Kaib, K.B., Cherrγ, N.M., Kauzloric, ].,巴tal.:

A competency-based approach to public

health nursing performance appraisal, Public

Health Nursing, 23 (2), 115-138, 2006.

7) Saeki, K., Izumi, H., Uza, M., Murashima, S.:

Factors associated with professional compe-

tencies of public health nurses employed by

local government agencies in japan, Public

Health Nursing, 24(59), 449-457, 2007.

8)佐伯和子,河原固まり子,羽山美由紀他:保

健婦の専門職業能力の発達一実践能力の自己

評価に関する調査, 日本公衆衛生雑誌, 46 (9),

779-789, 1999.

9)佐伯和子,和泉比佐子,宇座美代子他:行政

機関に働く保健師の専門職務遂行能力の発達

経験年数別の比較:日本地域看護学会, 7 (1),

16-22, 2004.

10)大倉美佳:行政機関に従事する保健師に期待

される実践能力に関する研究ーデノレファイ法

を用いて, 日本公衆衛生雑誌, 51 (12), 1018-

1027, 2004.

Page 12: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

I

リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

11)狩俣正雄 ・組織のリ ーダーシップ,中央経済

社,東京都, 10-15, 1989.

12)前掲書 2),32-38, 2003.

13) 三隅ニ不二:リーダーシップ行動の科学,有

斐閣,東京都, 61一72,1978.

14)前掲書 11),25-30, 1989.

15)大石千歳:心理測定尺度集II I集団 ・リーダー

シップJ,サイエンス社,東京都, 246-254,

2001.

16)伊藤正子,大泉京子,土田幸子他:目標管理

とOISC理論を活用したリーダーシップ研修

の評価, 日本看護学会論文集一看護管理, 36,

25-26, 2006.

17)井木優子,水津直子,遠藤玲子他:定期的な

刺激を行なったリーダーシップ研修の効果の

評価-4ヵ月後のアンケート調査を実施して,

日本看護学会論文集一看護管理 33,

308-310, 2003.

18)上回泉,佐伯和子,河原固まり子他 :保健師

指導者の人材育成におけるスタッフへのマネ

ジメントの実態と属性の関連,北海道公衆衛

生学雑誌, 20(2), 78-84, 2007.

19) Sally, S.: International Council of Nurses: Nurs-

ing Leadership, Blackwell Publishing, UK, 33-

57, 2006.

20)金子仁子,鳩野洋子,岩沢和子他:都道府県・

指定都市における保健婦の段階別研修に関す

る実態調査,保健婦雑誌, 50 (9), 737-742,

1994.

-23一 看護総合科学研究会誌 Vo1.10,No.3, Dec. 2007

Page 13: リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健 …リーダーシップ能力の自己評価の変化から見た保健師指導者育成プログラムの効果

河原田まり子 ・佐伯和子・和泉比佐子・関 美雪 ・上回 泉・ 平野美千代

Effect of the Training Program for Public Health Nurse Leaders

on the Self-evaluation of Their Leadership Skills

Mariko KA W AHARADA, Kazuko SAEKI, lzumi UEDA, Michiyo HlRANO

(Division of Nursing, Depar町lentof Health Sciences, School of Medicine, Hokkaido University)

Hisako IZUMI

(Department of Nursi時, School of Health Sciences, Sapporo Medical University)

Mi戸lkiSEKI

(Department of Nursing, School of Health and Social Services, Saitama Prefectural University)

Abstract

The aim of this study was to examine the self-evaluation of leadership skills of public health nurse

leaders and evaluate the effect of the training program for public health nurse leaders. Self-administrative

questionnaire surveys were conducted among public health nurse leaders in Hokkaido and 2 prefectures be-

fore and after the training program. The data of 102 subjects who participated in the training and completed

the questionnaires were analyzed. The questionnaire comprised items concerning the characteristics and lead-

ership skills of the subjects (the 5 items on leadership skills were developed by the authors of this s同dy).

The relation between self-evaluation of leadership skills and characteristics before the training was analyzed

using t-test and the effect of the training was analyzed using paired t-test. The score of leadership skills of

the subjects was about 4 point “Yes, 1 can: 6 point"ー“No,1 can not: 1 point" ). Self-evaluation of

leadership skills were found to be related to position and participation/non-participation in human resources

development and nursing management training programs. Selιevaluation of leadership skills of the subjects

improved on the whole throughout the training period, proving the effectiveness of the program. It is nec-

essary to develop an ongoing education system aimed at improving leadership skills of public health nurse

leaders.

Key words : public health nurse leader, human resources development, leadership skills, career development

看護総合科学研究会誌 Vo1.10.No.3. Dec. 2007 -24一