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0 金融規制動向(バーゼル201472総合リスク管理部 須崎 良和 みずほフィナンシャルグループ寄付講座 「金融機関のリスクマネジメント」 13

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Page 1: みずほフィナンシャルグループ寄付講座 「金融機関 …...0 金融規制動向(バーゼルⅢ) 2014年7月2日 総合リスク管理部 須崎 良和 みずほフィナンシャルグループ寄付講座

0

金融規制動向(バーゼルⅢ)

2014年7月2日

総合リスク管理部

須崎 良和

みずほフィナンシャルグループ寄付講座

「金融機関のリスクマネジメント」 第13回

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1

目次

1.リスク管理 金融機関の保有するリスク①~⑧ リスク管理の意義と目的 ①~②

2.バーゼル規制 金融環境とバーゼル規制の変遷 バーゼルⅠ導入の背景 バーゼルⅠ バーゼルⅠの見直し バーゼルⅡ ①~④ バーゼルⅡの見直し バーゼルⅡ.5 バーゼルⅢ 自己資本比率規制 ①~⑤ バーゼルⅢ 流動性規制 ①~② バーゼルⅢ レバレッジ比率規制 トレーディング勘定の抜本的見直し ①~②

3.基礎知識の確認と演習問題

4.用語集

5.参考文献

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1.リスク管理

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金融機関の保有するリスク① 信用リスクの定義

信用リスクの定義 取引先の業況の悪化等により、銀行が貸し出した資金等を回収できなくなり、 銀行が損失を被るリスク

貸出

預金

自己資本 (純資産)

貸出

預金

自己資本 (純資産)

貸倒れによる 損失

自己資本の 減少

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金融機関の保有するリスク② 信用リスクの計測

平均値

1つ1つの点が、1回のシミュレーションにおいて全取引先から発生する損失額

最小値から数えて99%に位置する値

損失額分布

信用VAR

• 全取引先に対しデフォルト発生有無のシミュレーションを実施

• デフォルトとなった取引先については、

「デフォルト時与信残高×回収できない割合」の金額を損失として認識

• 上記シミュレーションを複数回繰返し、全取引先からの損失額分布を求め、99%タイル値を信用VARとする

デフォルト発生を モデル化

損失の発生過程

①ある取引先にデフォルトが発生

②デフォルトが連鎖

③デフォルトした取引先に与信残高あり

④デフォルト後に回収できない

損失発生

デフォルト発生率

デフォルト連鎖確率

デフォルト時与信残高

回収できない割合

推定

各過程を予想

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金融機関の保有するリスク③ 市場リスクの定義

市場リスクの定義 金利、有価証券等の価格、外国為替相場、株式等の様々な市場の変動により、 保有する資産・負債の価値が変動し、損失を被るリスク

有価証券 (国債等)

預金

自己資本 (純資産)

預金

自己資本 (純資産)

有価証券 (国債等)

国債の 時価減少

自己資本の 減少

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金融機関の保有するリスク④ 市場リスクの計測

市場リスクの種類

資産・負債 リスクの

種類

貸出・預金 金利リスク

債券 金利リスク

外国為替 取引

為替リスク

政策保有株 株価リスク

市場リスク計量

観測期間 保有期間

金融商品の価格

現時点 1年後

観測期間中における価格推移の過去データから、価格変動のボラティリティσ(標準偏差)を推定

信頼区間99%のVaR(想定最大損失額)

1年後の価格(損益)の分布として正規分布を仮定

2.33σ

損益分布

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金融機関の保有するリスク⑤ 市場リスクの計測(VaR計算例)

■1資産のVaR算出方法 ~為替取引の例

<保有する金融商品> 1億ドルを、1ドル=100円で購入 → 円換算 100億円

<VaR計測の前提> 過去データから推計したドル/円為替レートのボラティリティ(1σ)=10%(保有期間1年)

<保有期間1年、信頼区間99%(2.33σ)のVaR値> 100億円× 10%×2.33 =23.3億円 ■1資産のVaR算出方法 ~債券取引の例

<保有する金融商品> 日本国債 300億円 (時価)

<VaR計測の前提> 過去データから推計した日本国債価格のボラティリティ(1σ)=5%(保有期間1年)

<保有期間1年、信頼区間99% (2.33σ)のVaR値> 300億円× 5%×2.33=34.95億円

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■ 2資産のVaR算出方法 ~為替取引と債券取引の例

<保有する金融商品> 1億ドル(円換算時価100億円) 日本国債 300億円 (時価) <VaR計測の前提> ドル/円為替レートのボラティリティ(1σ) =10% (保有期間1年) 日本国債価格のボラティリティ(1σ) = 5% (保有期間1年) ドル/円為替レートの変動と日本国債価格の変動の相関係数 = 0.3 <保有期間1年、信頼区間99% (2.33σ)のVaR値>

ドル資産 : 100億円× 10%×2.33=23.3億円 ・・・ A 日本国債 : 300億円× 5%×2.33=34.95億円 ・・・ B 2資産のVaR=√( 23.3 2+2×23.3×34.95×0.3 + 34.95 2 )=47.47億円 【参考】 確率変数A(分散σA

2 )と確率変数B(分散σB 2 )について、確率変数(A+B)の分散は、

σ(A+B) 2 =σA

2 + 2σAσBρ+ σB 2

金融機関の保有するリスク⑥ 市場リスクの計測(VaR計算例)

単純合算の58.25億円より小さい

⇒ ポートフォリオ分散効果

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金融機関の保有するリスク⑦ 流動性リスクの定義

流動性リスクの定義 財務内容の悪化等により必要な資金が確保できなくなり資金繰りがつかなくなる場合や、 通常よりも著しく高い金利での資金調達を余儀なくされることにより、損失を被るリスク

貸出

有価証券

その他資産

預金

その他負債

資本等

市場性調達

貸出

有価証券

その他資産

預金

その他負債

資本等

市場性調達

運調ギャップ

運 用 調 達 運 用 調 達

取引先の 貸出需要増

信用懸念から 預金流出

市場混乱により 調達減少

▲ ▼

流動性リスクは運用・調達ギャップが拡大することで発生 例えば、 ①景気後退に伴う取引先の財務状況 悪化を受けた貸出需要増加 ⇒運用サイド 増加 ▲ ②金融機関の信用懸念から預金流出 ⇒調達サイド 減少 ▼ ③市場混乱により市場性調達減少 ⇒調達サイド 減少 ▼

運用・調達のギャップが拡大 (資金調達額が不足している状態)

↓ ギャップを適正な水準に維持する

流動性リスク管理が必要

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金融機関の保有するリスク⑧ オペレーショナルリスクの定義と計測

オペレーショナルリスクの定義 システム障害、事務ミス、法令違反、地震等の災害、各種規制の変更、情報漏えい、不正行為、またこれらに伴う評判低下、訴訟等により、損失を被るリスク

年間の累計損失額の分布

年間の損失発生頻度

確率

内部損失データの頻度と

シナリオデータの頻度を合算

年間の損失発生頻度

確率

内部損失データの頻度と

シナリオデータの頻度を合算

1回あたり損失額

確率

テール部分シナリオデータ

ボディ部分内部損失データ

シナリオデータの下限閾値(1億円)

1回あたり損失額の分布

年間の損失発生頻度の分布

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みずほFG 連結総資産 175兆円

リスク管理の意義と目的 ①

金融業務が多様化・複雑化し、社会的要請が増大する中、 金融機関は様々なリスクに直面

貸出金 69兆円

純資産 8兆円

特定取引勘定 11兆円

特定取引勘定 14兆円

有価証券 44兆円

預金 102兆円

その他資産 48兆円

その他負債 54兆円

日本国債 26兆円

政策株式 3兆円

市場 リスク (金利・ 為替・ 株価等)

市場 リスク (金利・ 株価)

信用 リスク 市場 リスク (金利)

市場 リスク (金利) 流動性 リスク

市場 リスク (金利・ 為替・ 株価等)

オペレーショナルリスク

経営の健全性・安定 性確保や、 金融機関が果たすべき社会的機能の維持・向上(信用秩序維持・預金保護) の観点から、 業務やリスクの特性に応じてリスクを適切に把握・管理していくことは経営上の最重要課題の一つ

デリバティブ取引

預金保護の観点から、 発生する損失額(リスク)を、損失吸収のバッファー機能である「資本」の範囲内に制御する必要

(自己資本)

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バーゼルⅢ自己資本比率規制において求められる指標。

みずほFG 中期経営計画 財務目標 より

連結ROE

9%程度

普通株式等

Tier1比率(完全施行ベース)

8%以上

目指すべき水準

(2015年度)

連結

当期純利益

RORA

0.9%程度

リスク管理の意義と目的 ②

Return on Equity(株主資本利益率)の略。 企業が株主資本(自己資本)を、どれだけ効率的に使用し、利益を上げたかを示す、株主から見た経営の効率性や収益性を測る指標。

株主資本

当期純利益 ROE=

リスク・アセット

普通株式等Tier1 普通株式等 Tier1比率

Return on Risk-Weighted Asset の略。 リスクの度合いで調整した資産(Risk-Weighted Asset)に対する収益力を示し、保有するリスク量を踏まえた資産量対比の効率性を評価するのに用いる指標

リスク・アセット

当期純利益 RORA=

リスク・アセット

資本 ~

①と②は相反する指標。 両立のためには、リスクの度合いを踏まえた資産運用に基づく収益基盤を確立し(リスクリターンの向上)、内部留保の蓄積を通じた自己資本の充実(企業価値向上)が必要。

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2.バーゼル規制

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金融環境とバーゼル規制の変遷

1980年代 1990年代 2000年代 2010年代

バーゼルⅠ 1988年公表 1993年適用

バーゼルⅡ 2004年公表 2007年適用

バーゼルⅡ.5 2009年公表 2011年適用

バーゼルⅢ 2010年公表 2013年適用

自己資本比率

自己資本 自己資本の質の向上 最低基準の拡充 資本バッファー導入

信用リスク 規制導入

精緻化 ①標準的手法 ②基礎的内部格付手法 ③先進的内部格付手法

証券化商品取扱い強化 リスク捕捉の強化

市場リスク

「マーケットリスク 規制」導入 96年公表 98年適用

トレーディング勘定の 追加資本賦課 証券化商品取扱い強化

オペリスク 規制導入

流動性規制

流動性カバレッジ比率(LCR)(2015年適用) 安定調達比率(NSFR) (2018年適用)

レバレッジ比率 2018年適用開始メド

その他 Pillar2、Pillar3導入

★バブル崩壊(90~) ★本邦大手金融機関破綻(97~98) ★サブプライム問題(07) ★アジア通貨危機(97)

★ブラックマンデー(87) ★リーマンショック(08)

★LTCM破綻(98) ★欧州債務危機(10) ★アベノミクス(12) ★ ★ ★ ★

★米銀破綻増加(80~)

★はバーゼル規制公表時

★ラ米債務危機(82~)

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バーゼルⅠ導入の背景

◆ 1980年代にラテン・アメリカの債務危機等を背景に米銀の財務内容が悪化したことを 発端に、米国では、銀行に財務の健全性を回復させるため、自己資本の充実を図る ことが必要に ◆ 米銀だけに規制強化を行えば国際競争上不利に働くため、他国も含めた国際的な 統一ルールとして「自己資本比率規制」の導入を模索 ◆ 銀行業務の自由化・国際化の進展、金融市場の国際的相互連関性の強まりの中、 各国銀行監督者の間に下記の2点について共通の問題認識 ① 国際的に銀行システムの健全性の強化 ② 国際的に業務を展開する銀行間の競争上の不平等の軽減 ◆スイスのバーゼルにある国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements) に事務局を置く「バーゼル銀行監督委員会(BCBS:Basel Committee on Banking Supervision)」で規制導入の議論が行われ、 国際的に業務を展開する銀行の健全性を維持するため、貸出や投資等の損失を被る 虞のある「リスク資産」に対し、一定割合以上の自己資本の保有を義務付けることを、 1988年に国際統一基準として合意

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バーゼルⅠ

■ バーゼル I 自己資本比率規制 (1988年合意及び1996年合意)の枠組み

≧8% 信用リスクアセット + マーケットリスク相当額(市場リスクアセット)

自己資本

【自己資本】 「基礎的項目」(Tier1:資本金、内部留保など) +「補完的項目」(Tier2:一般貸倒引当金、劣後債務、有価証券含み益等)-「控除項目」

与信先区分 リスク・ウェイト

国・地方公共団体 0%

政府関係機関等 10%

銀行・証券会社 20%

事業法人(中小企業以外) 100%

中小企業・個人 100%

住宅ローン 50%

(3ヶ月以上の)延滞債権 100%

株式 100%

【信用リスクアセット】 1988年公表、1993年適用

与信残高(貸出残高)に対し、与信先区分毎のリスクの程度に応じたリスク・ウェイトを乗じて算出

【マーケットリスク相当額】 1996年公表、1998年適用

トレーディング勘定を対象に、銀行のリスク計測モデルであるVaRを用いる「内部モデル方式」か、当局が定めた算出方法の「標準的手法」により算出

<内部モデル(分散共分散法)によるVaR算出式>

マーケットリスク規制

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バーゼルⅠの見直し

バーゼルⅠの問題点 事業法人向け貸出のリスク・ウエイトは一律100%である等、リスク・ウエイトの区分が簡略であり、リス

クの多寡を必ずしも適切に反映しない 優良企業向け貸出に不利に働くため、銀行の金融仲介に歪みをもたらしかねない 先進的なリスク管理を行う銀行ほど、規制と実務の乖離し、リスク管理高度化へのディスインセン

ティブに 規制の対象となるリスクの範囲が狭い

規制の対象は信用リスクと市場リスクのみであり、オペレーショナル・リスクが対象外

バーゼルⅡの特徴 リスク計測の精緻化・正確化

銀行内部のリスク管理・計測手法を規制上のリスク計測に活用可能とすることにより、リスク管理高度化のインセンティブを付与

リスク計測の多様化 銀行のリスク特性やリスク管理技術に応じて計測手法の選択が可能に

リスク計測対象の広範化 オペレーショナル・リスクを規制上の計測の対象に

自己管理型の自己資本戦略の重視 先ずは銀行が自行の経営戦略やリスク特性に適合した内部管理態勢を構築すべきであり(イン

センティブの重視)、監督当局がその妥当性・有効性を評価する、という組み合わせが必要 市場規律の強化

当局以外による規律づけをビルト・インし、効果が持続的で効率的な規律とすること

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バーゼルⅡ ①

■ バーゼルⅡの3つの柱

【 第1の柱 : Pillar 1 】 ~ 最低所要自己資本 ~ リスク計測の精緻化や対象拡大に対応し、新たな枠組みで自己資本比率を設定

【 第2の柱 : Pillar 2 】 ~ 金融機関の自己管理と監督上の検証 ~

銀行の自己管理型のリスク管理の促進と、当局による検証を実施する枠組みを構築

【 第3の柱 : Pillar 3 】 ~ 市場規律 ~

銀行の情報開示の充実により、市場参加者の評価・規律づけ(市場規律)を強化

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19

バーゼルⅡ ②

■ バーゼルⅡ 「第1の柱」 ~最低所要自己資本~

≧8% 信用リスクアセット + マーケットリスク相当額 + オペレーショナルリスクアセット

自己資本

【信用リスクアセット】 ■信用リスク算出手法の選択肢 信用リスク・アセットを算出する手法として、①標準的手法、②基礎的内部格付手法、③先進的内部格付手法、の3種類を用意、金融機関自身のリスク管理技術の水準などに応じて選択

<先進的内部格付手法の概要> ・与信先の信用度を内部格付制度により分類 ・内部格付毎にデフォルト率(PD)、損失率(LGD)を推計 ・下記の規制当局設定の算出式によりリスクアセットを算出

【オペレーショナルリスク】 ■オペレーショナル・リスクを追加 事務ミス、システム障害、不正行為等により損失が発生するリスクを含め、規制対象となるリスクの範囲を大きく拡大 ■オペレーショナル・リスク算出手法の選択肢 オペレーショナル・リスク・アセットを算出する手法として、①基礎的手法、②粗利益配分手法、③先進的計測手法、の3種類を用意、金融機関自身のリスク管理技術の水準などに応じて選択

N:標準正規分布の累積分布関数 R:資産間相関係数 (PDを説明変数とした当局設定関数) b :貸出期間(M)に応じた調整項 (PDを説明変数とした当局設定関数)

精緻化 新規導入

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バーゼルⅡ ③

■ バーゼルⅡ 「第2の柱」 ~監督上の検証プロセス~

◆ 各銀行は自行の経営戦略やリスク特性にマッチした内部管理態勢を構築し、 自己資本充実度を評価するプロセスと自己資本水準の維持のための戦略を有すること が求められる ◆ 監督当局は各銀行の内部管理態勢の妥当性・有効性を検証・評価することが 求められる ◆ 監督当局により検証・評価された結果が不十分である場合には、当局による是正措置が 求められる

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バーゼルⅡ ④

■ バーゼルⅡ 「第3の柱」 ~市場規律~

◆ 銀行の情報開示を充実させることで、市場からの外部評価の規律づけにより、 銀行の経営の健全性を維持・向上させることが狙い ◆ 財務状況等の会計情報のみならず、将来のリスクも念頭においたリスク管理に 関する情報を幅広く開示させる。開示項目には定量的な情報に加え定性的な 情報も数多く含まれる ⇒ 具体的には、 ・銀行自身による自己資本充実度の評価方法 ・信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスクに関するリスク管理の 方針及び手続きの概要 ・内部格付制度の概要、格付付与手続きの概要

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■ G20首脳会合 ・金融規制等に係る見直しの合意等

○ 金融システム全体の安定確保のため、マクロ・プルーデンス政策の一環として、 監督当局による個別金融機関の実態把握と健全性強化の流れが加速 ○ 金融監督当局等による国際機関(金融安定化理事会(FSB)、バーゼル銀行監督委員会 (BCBS)等)において、国際的な規制枠組みを抜本的に改革する一連の施策を検討 →(国際的なルールとは異なる)各国・地域独自の規制が導入されるケースも

○ 金融危機を踏まえ、その発生を防止できなかった金融規制に対する反省

背景

(参考)国際的な金融規制改革

<主なテーマ> Ⅰ銀行セクターの強靭性の強化 - バーゼルⅢ(自己資本比率規制見直し、流動性規制導入)等

Ⅱ「大きくて潰せない金融機関」問題への対応 - 国際的に活動するシステム上重要な金融機関(G-SIFIs :Global Systemically Important Financial Institutions)に 対する追加的な資本賦課、監督強化等

Ⅲ銀行以外の金融セクターへの規制・監視強化 - シャドーバンキングの規制と監視の強化

Ⅳ店頭デリバティブ市場の透明性・安定性の向上 - 中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制 等

(FSB:Financial Stability Board、BCBS:Basel Committee on Banking Supervision)

バーゼルⅡの見直し

■ FSB、BCBS等 ・国際的なルールの合意、策定

■ 各国当局 ・国際ルールに則した規制の制定・監督等

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バーゼルⅡ.5

■ サブプライム問題に端を発する金融危機への当面の対処として、

規制の一部を強化

① 「第1の柱」の見直し → 2011年末より適用

トレーディング勘定への所要自己資本を強化 -ストレスVaRによる追加資本賦課 (ストレス時のデータを用いたVaRを計測し、VaRに上乗せ)

証券化商品の取扱い強化 -再証券化商品のリスク・ウェイト引き上げ

≧8% 信用リスクアセット + マーケットリスク相当額 + オペレーショナルリスクアセット

自己資本

証券化商品の取扱い強化 -再証券化商品のリスク・ウェイト引き上げ -外部格付の使用に係るモニタリング 要件の導入

② 「第3の柱」の見直し ⇒ 証券化商品に係る開示の強化 等

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バーゼルⅢ 自己資本比率規制 ①

Ⅰ. 銀行セクターの強靭性の強化

①バーゼルⅢ 自己資本比率規制の見直し

➣ 自己資本の質の向上 より損失吸収力の高い普通株および内部留保を中心とする「普通株式等Tier1資本」を重視 (後述) その他Tier1・Tier2に算入可能な資本性商品の条件を厳格化 金融機関向け出資(ダブルギアリング)の控除対象を厳格化

➣ 最低基準の拡充 (後述)

➣ 自己資本の枠組みにおけるリスク捕捉の強化 カウンターパーティ・リスクの取扱い強化 (金融機関向けエクスポージャーの資産相関見直し、時価変動リスクの捕捉 等)

➣ プロシクリカリティ(景気循環増幅効果)の抑制 資本保全バッファーの導入 (後述) ストレス時に取り崩しが可能な資本バッファーを好況時に積み立てることを促す一連の措置の導入 カウンターシクリカルバッファーの導入 (後述) 資本バッファーの目標水準に達するまで、配当・自社株買い・役員報酬等の資本流出を抑制

②バーゼルⅢ 流動性規制の導入 (後述)

➣ 流動性カバレッジ比率(LCR)

➣ 安定調達比率(NSFR)

③バーゼルⅢ レバレッジ比率規制の導入 (後述)

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Ⅱ. 「大きくて潰せない金融機関( Too Big To Fail )」問題への対応

①G-SIFIsに対する追加的な資本賦課 ➣ G-SIBs(Global Systemically Important Banks)追加資本サーチャージ (後述)

②G-SIFIsに対する監督強化等

➣ データギャップ 与信先・調達先に係る「大口上位金融機関」「国・業種・商品・通貨・残存期間別残高」を当局報告

➣ 実効的なリスクデータ集計とリスク報告に関する諸原則 リスクデータ集計能力や内部リスク報告実務の強化に係る諸原則の充足を2016年初迄に義務付け

③再建・破綻処理計画(RRP:Recovery and Resolution Plans)

➣ G-SIFIsに対する危機時の介入のための法的枠組みや金融グループの 効果的な破綻処理の枠組みの構築

➣ G-SIFIsに対するRRP策定の義務付け

破綻しないよう、 規制・監督を強化

「大きくても潰せる」制度・枠組み

バーゼルⅢ 自己資本比率規制 ②

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【参考】G-SIFIsの選定 大手金融機関の破綻が金融シス

テム全体にストレスを生じさせる リスクを改めて認識 国際的に活動する金融機関を

「グローバルにシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)」に認定し、 一般の金融機関よりも厳格な規制・監督を適用 BCBSは、G-SIBsの特定・評価

手法を公表。全世界73行のサンプルから、①グローバルな活動、②規模、③相互連関性、④代替可能性/金融機関のインフラの欠如、⑤複雑性、の5つのリスク 要因に対応した指標で判定

バケット (追加資本 サーチャージ)

銀行グループ名

5 (3.5%)

(Empty)

4 (2.5%)

HSBC, JP Morgan Chase

3 (2.0%)

Barclays, BNP Paribas, Citigroup, Deutsche Bank

2 (1.5%)

Bank of America, Credit Suisse, Goldman Sachs, Group Crédit Agricole, 三菱UFJ FG, Morgan Stanley, Royal Bank of Scotland, UBS

1 (1.0%)

Bank of China, Bank of New York Mellon, BBVA, Groupe BPCE, Industrial and Commercial Bank of China Limited, ING Bank, みずほFG, Nordea, Santander, Société Générale, Standard Chartered, State Street, 三井住友FG, Unicredit Group, Wells Fargo

バーゼルⅢ 自己資本比率規制 ③

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■ 自己資本比率規制(第1の柱)の見直し

≧A% 信用リスク・アセット + マーケットリスク相当額 + オペレーショナルリスクアセット

総自己資本(Tier1+Tier2)

≧B% 信用リスク・アセット + マーケットリスク相当額 + オペレーショナルリスクアセット

Tier1

≧C% 信用リスク・アセット + マーケットリスク相当額 + オペレーショナルリスクアセット

普通株式等Tier1

資本項目 構成要素

普通株式等Tier1 (Common Equity Tier1)

普通株式に係る株主資本 (資本金、資本剰余金、利益剰余金)等

その他Tier1 特別目的会社等の発行する資本調達手段 Tier1 Tier2 特別目的会社等の発行する資本調達手段

総自己資本

<資本の構成>

バーゼルⅢ 自己資本比率規制 ④

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2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年

①最低水準

普通株等Tier1比率 3.5% 4.0% 4.5% 4.5% 4.5% 4.5% 4.5%

Tier1比率 4.5% 5.5% 6.0% 6.0% 6.0% 6.0% 6.0%

総自己資本比率 8.0% 8.0% 8.0% 8.0% 8.0% 8.0% 8.0%

②資本保全バッファー 0.625% 1.25% 1.875% 2.5%

③G-SIBs追加資本サーチャージ ※ 0.25% 0.5% 0.75% 1.0%

①最低水準 + ②資本保全バッファー + ③G-SIBs追加資本サーチャージ

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年

普通株等Tier1比率 3.5% 4.0% 4.5% 5.375% 6.25% 7.125% 8.0%

Tier1比率 4.5% 5.5% 6.0% 6.875% 7.75% 8.625% 9.5%

総自己資本比率 8.0% 8.0% 8.0% 8.875% 9.75% 10.625% 11.5%

完全施行

0%

2%

4%

6%

8%

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年

最低水準

資本保全バッファー

G-SIBs追加資本 サーチャージ

普通株式等Tier1比率 その他、景気過熱時には更に0~2.5%の「カウンタ

ーシクリカルバッファー」を各国当局の判断により上乗せ

※みずほFGの場合

バーゼルⅢ 自己資本比率規制 ⑤

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バーゼルⅢ 流動性規制 ①

■ LCR(流動性カバレッジ比率:Liquidity Coverage Ratio) 金融危機を踏まえ、銀行固有及び市場全体におけるストレスが1ヶ月間続いた場合に発生 し得るネットベースの資金流出額を上回る高品質な流動資産を保有することを求めるもの

≧ 100% 所要安定調達額 (=資産×流動性に応じた掛目)

利用可能な安定調達額 (=資本+預金・市場性調達の一部)

年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年

最低水準 - 60% 70% 80% 90% 100%

■ 規制導入の趣旨 金融危機を踏まえ、バーゼルⅢの枠組みにおいて、金融機関の流動性(資金繰り)に係る安定性を確保するための2つの指標を「第1の柱」として導入、最低基準の充足が必要

導入スケジュール

■ NSFR(安定調達比率:Net Stable Funding Ratio) 流動性を生むことが期待できない運用資産(所要安定調達額)に対し、流動性の源となる 安定的な資金調達額(自己資本、満期1年以上の負債等)をより多く保有することが必要

≧ 100% 30日間の資金流出- 30日間の資金流入

高品質な流動資産

2015年3月末より導入

2018年より導入

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バーゼルⅢ 流動性規制 ②

■ LCRの算出方法

≧ 100% 30日間の資金流出- 30日間の資金流入

高品質な流動資産

「高品質な流動資産」の項目 掛目

レベル1資産

現金・中銀預金 100% 国債・中銀発行証券、政府・中銀保証債等 100% レベル2A資産 RW20%の政府・中銀等の証券 85% AA-格以上の社債 85% レベル2B資産 RMBS(AA格以上) 75% 社債(A+~BBB-格)・上場株式 50%

「資金流出」の項目 掛目 個人預金 5%~10% 事業法人からの無担保調達 事業法人、政府・中銀等からの調達 20%~40% 金融機関からの調達 100% 事業法人からの有担保調達 レベル1資産を担保とした調達 0% レベル2A資産を担保とした調達 15% レベル2B資産を担保とした調達 25%~50% 中銀からの調達 0% 上記以外の有担保調達 100%

「資金流入」の項目 掛目 以下を担保とするレポ運用 レベル1資産 0% レベル2A資産 15% レベル2B資産(適格RMBS) 25% レベル2B資産(その他) 50% その他全資産 100% その他の流入 リテール向け健全債権 50% 事業法人、政府・公共部門向け健全債権 50% 金融機関・中銀向け健全債権 100%

各項目のバランスシート残高に、規制上設定されている掛目を 乗じて算出

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バーゼルⅢ レバレッジ比率規制

■ 規制導入の趣旨 自己資本対比で過大な資産の積上げを抑制するため、リスクベースの自己資本比率規制を補完するものとして、レバレッジ比率規制を導入 2018年からの第1の柱導入を視野に、2017年までに最終的な水準や定義を調整 2015年より、各銀行においてレバレッジ比率及び構成要素の開示が必要

■ レバレッジ比率の定義

≧3% エクスポージャー額(オン・オフバランス項目+デリバティブ・レポ取引等)

Tier1資本

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トレーディング勘定の抜本的見直し ①

■ 背景・目的 今般の金融危機において、現行のマーケット・リスク規制の枠組みでは、トレーディング業務におけるマーケット・リスクを適切に把握できなかった反省を踏まえ、 2012年5月および2013年10月、バーゼルⅢのマーケット・リスク規制を抜本的に強化する見直し案を公表、現在検討中

■ 見直し案の概要

1.トレーディング勘定とバンキング勘定の範囲の見直し

マーケット・リスク規制が適用されるトレーディング勘定の現行の定義は、銀行により主観的に決定される基準であり、一部の国においては、監督が難しくかつ健全性が不十分であったことを踏まえ、両勘定間の振替を厳格化し、規制裁定を困難とする枠組みを提案

トレーディング勘定に想定される商品を例示

(a) 会計上トレーディング勘定として保有される商品(日次で時価評価)、(b) マーケットメイク業務、(c) 引受業務、(d) ファンドへのエクイティ投資、(e) 上場株式、(f) ネイキッド・ショート・ポジション、(g) オプション

バンキング勘定に想定される商品を例示

(a) 非上場株式、(b) 証券化ウェアハウジング、(c) 日次でルックスルー・時価評価ができないファンドへのエクイティ投資

上場株や株式ファンドについてはトレーディング勘定に分類。但し、政策投資株については

各国裁量でバンキング勘定に分類可

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トレーディング勘定の抜本的見直し ②

損益の発生頻度

ある一定の信頼水準(2.5%)以下の確率で発生する損失額(網掛部分)の期待値(平均値)

97.5%損失 収益99%

VaR

期待ショートフォール(ES)

0

【損益分布とVaR・ES】

2.VaRから期待ショートフォールへ

VaRは一定の確率(99%)を前提とする最大損失額を計測する指標であるため、

残りの1%の確率で発生する「テイルリスク」 (金融危機のように、いざ実現すれば

巨額の損失が発生するケース)を捕捉できない

市場リスク計測指標であるVaRに代わり、期待ショートフォール(Expected Shortfall :

ある一定の信頼水準を超えた場合における、損失額の期待値)を提案

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3.基礎知識の確認と演習問題

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【基礎知識】

1.リスク管理

信用リスク、市場リスク、流動性リスク、オペレーショナルリスク

リスク管理の意義・目的

2.バーゼル規制

バーゼルⅠ ⇒ バーゼルⅡ ⇒ バーゼルⅡ.5 ⇒ バーゼルⅢ

の規制内容の変遷

【計算問題1】

以下の状況にある金融機関について、バーゼルⅠルールに基づく自己資本比率を

算出せよ。

自己資本(Tier1+Tier2-控除項目) : 1,500億円

貸出残高 : 事業法人向け 1兆円(リスクウェイト100%)

住宅ローン 1兆円(リスクウェイト50%)

マーケットリスク相当額 : 1,000億円(規制ベースのリスク量)

基礎知識、演習問題 ①

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【計算問題2】

下記の信用リスクウェイトの下記の算出式(調整項は省略)を用いて、

デフォルト率PD=1.0%、デフォルト時損失率LGD=40.0%、R=0.19

の場合の信用リスクウェイトを求めよ。

なお、

N()は、標準正規分布の累積分布関数(EXCEL関数は、NORMSDIST)、

N-1()は、 N()の逆関数(EXCEL関数は、NORMSINV)、

【論述問題】

バーゼルⅡ、バーゼルⅢの特徴について説明せよ。

基礎知識、演習問題 ②

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演習問題解答例 ①

【計算問題1】 当該金融機関のバーゼルⅠベースでのリスクアセットは、 1兆円×100%+1兆円×50%+1,000億円 =1兆6,000億円 よって、バーゼルⅠベースでの自己資本比率は、 1,500億円÷1兆6,000億円 = 9.375% (>8%)

【計算問題2】

=64.1%

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演習問題解答例 ②

【論述問題】 バーゼルⅡは、「3つの柱」から構成されている。 「第1の柱」は、定量的な自己資本比率規制であるが、リスク計測手法が精緻化され、オペレーショナルリスクなど対象を拡大。また、管理レベルに応じた手法が用意され、リスク管理の高度化を促す工夫がなされた。 「第2の柱」では、内部管理態勢の構築・高度化を促し、その有効性・妥当性を当局が検証・評価する枠組みとなった。 これらに加え、「第3の柱」として、情報開示を充実させることにより、市場からの外部評価の規律づけを強化した。 しかしながら、金融危機等によって明らかとなった脆弱性を踏まえ、トレーディング勘定や証券化商品の取扱いが強化されることとなった(バーゼルⅡ.5)。 さらに、バーゼルⅢでは、①資本の質の向上、②最低基準の拡充、③リスク捕捉の強化等、自己資本比率規制が強化されると共に、流動性規制が新たに導入され、流動性カバレッジ比率(LCR)・安定調達比率(NSFR)の最低基準の充足が必要。また、自己資本比率規制の補完的対応として、①レバレッジ比率、②システム上重要な金融機関への追加措置 等が検討されている。

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4.用語集

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用語 意味

デフォルト (Default)

債務不履行のこと。債務者が債務の履行遅延や不完全な履行をするなど、債務の本旨(法律の規定・契約の趣旨・取引慣行等)に従った履行をしないこと。

デフォルト率 (PD:Probability of Default)

債務者(貸出先であるお客様等)が、1年間にデフォルト(=債務不履行)となる確率。「デフォルト率」は、債務者毎に設定した格付に応じて適用。(格付の高い先ほど、低い「デフォルト率」が適用される。→リスクは小さくなる)

損失率 (LGD:Loss Given Default)

債務者がデフォルト(=債務不履行)となった時に、損失が発生する割合。「損失率」は、担保取得状況等を考慮して、個々の取引毎に異なる値を適用。(担保取得等により保全状況が良い案件は、低い「損失率」が適用される。→リスクは小さくなる)

信用VaR 現在の資産(取引)を一定期間保有(保有期間)すると仮定した場合、一定の確率の範囲内(信頼区間)で、どの程度の損失を被る可能性があるかを表す指標。信用リスクでは、「保有期間=1年、信頼区間=99%」を前提として、信用VaRを計算しており、これは「今後1年間に、99%の確率で生じ得る最大損失額」を表す。「信用VaR」は、「信用コスト(EL)」と「信用リスク量(UL)」で定義される。 「信用VaR」=「信用コスト」+「信用リスク量」

信用コスト 個々の取引について、今後1年間に生じる平均的な損失額。 [信用コスト:EL] = [エクスポージャー] × [デフォルト率:PD] × [損失率:LGD]

信用リスク量 クレジットポートフォリオから生じる損失額が、平均的な損失額(EL)を超えて、どれだけ増加するかを示す指標。(特定の取引先・業種・地域等に対する取引の集中度合いが高まると、増加する性質がある。→リスクは大きくなる)

信用リスクアセット 「先進的内部格付手法」あるいは「標準的手法」で計算した信用リスク額。自己資本比率算定式の分母に算入。

用語集(信用リスク関連)

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用語 意味

先進的内部格付手法 信用リスクアセットの計測手法の1つ。 借り手が債務不履行等に陥る確率(デフォルト率、PD)および、想定される損失率(デフォルト時損失率、LGD)等について内部実績データを用い、銀行自身がリスクアセットを算出する手法。

標準的手法 所定の掛け目を用いてリスクアセットを算出する手法。

リスクウェイト 信用リスクアセットの算出にあたり、先進的内部格付手法により計算、あるいは、標準的手法で 設定されたエクスポージャーに対する掛目のこと。高いリスクの資産ほどリスクウェイトは高くなる。 標準的手法では、日本国債:0%、一般の事業法人:100%等と定められている。 また、先進的内部格付手法では、PD/LGD(担保の取得状況等にも依存)/貸出期間等に応じ定めている。

用語集(信用リスク関連)

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用語 意味

バンキング取引/業務

貸出や預金とそれに係る資金の運用・調達による金利差や、国債や投資信託等の金融商品への投資等、金融機関が資産・負債の保有を通じ利益を得る取引/業務。

トレーディング取引/業務

国債や外国為替取引等の金融商品を対象に、市場価格の短期的な変動や、金融商品間の市場の値動きの差等を利用して利益を得る取引/業務。この取引は銀行法上「特定取引勘定」として区分し管理することが求められており、財務会計上も区分して管理される。バーゼル規制では、トレーディング勘定のVaRをマーケットリスク相当額として、自己資本比率算定に使用。

VaR (Value at Risk) 一定期間保有したときに想定される最大損失額を表す指標。現在の資産(取引)を一定期間保有(保有期間)すると仮定した場合、一定の確率の範囲内(信頼区間)で、どの程度の損失を被る可能性があるかを統計的手法で算出した指標。 計算したVaRは、100日の内1日はVaRを超える損失が発生する可能性があることを表す。例えば、ある資産について、その保有する期間を1日、一定の確率(信頼区間)を99%として計算したVaRは、100日の内1日はVaRを超える損失が発生する可能性があることを表す。

金利デルタ 金利の水準が変化した際の、国債等の金融商品の時価の動きを表す指標。例えば、金利水準が0.1%上昇した際の時価の動きを表したものを指標として使用。

証券化商品 ローンやリース、不動産など、将来にわたり利息収入や家賃収益等の一定の収益が見込まれる資産を裏付けとして発行される有価証券。 裏付け資産の違いに下記の呼び方をする場合が有り。 RMBS:住宅ローン CMBS:商業用不動産からの家賃収入等 ABS:消費者ローン・自動車ローン・クレジット債権・リース料債権等

用語集(市場リスク関連)

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用語 意味

オペレーショナルリスク

内部損失データ・シナリオデータ・訴訟データを使用し、計測単位毎に、今後1年間に発生しうる最大損失額を計測したもの。

内部損失データ オペレーショナルリスク事象に起因して、社内で発生した、1円以上の損失情報に係るデータ。オペレーショナルVARを計測する際に使用するデータ。

シナリオデータ オペレーショナルVaRを計測する際に使用するデータ。今後発生する可能性のある、低頻度で高額な損失について、内部損失データ、外部損失データ、内部統制・業務環境の状況を勘案し、発生頻度と損失金額の情報を数値化したもの。

基礎的手法 (BIA…Basic Indicator Approach

バーゼルⅡにおいて導入されたオペレーショナルリスクの3つの計測手法のうち、下位の手法。粗利益の直近3年間の平均値×15%(掛目)で算出。

粗利益配分手法 (TSA…The Standardized Approach)

バーゼルⅡにおいて導入されたオペレーショナルリスクの3つの計測手法のうち、中位の手法。8つの業務区分毎に、粗利益の直近3年間の平均値×12~18%(掛目)で算出。

先進的計測手法(AMA…Advanced Measurement Approach)

バーゼルⅡにおいて導入されたオペレーショナルリスクの3つの計測手法のうち、最上位の手法。損失データやシナリオ等を考慮したうえで、統計的な手法に基づき、今後1年間に発生しうる最大損失額を計測。

用語集(オペレーショナルリスク関連)

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用語 意味

普通株等Tier 1 清算にあたり最も劣後する請求権である普通株(資本金)等を資本調達手段とした、バーゼルⅢ規制における自己資本の区分の一つ。普通株(資本金)の他、資本剰余金、利益剰余金、包括利益、少数株主持分等で構成。普通株等Tier1に、その他Tier1を合算したものがTier1。

その他Tier 1 清算にあたり最も劣後する請求権ではないものの、配当を実施する・しないについて常に自由度を持っていること等の条件に該当する、バーゼルⅢ規制における自己資本の区分の一つ。 優先株の他、少数株主持分(普通株等Tier1に算入されないもの)等で構成。その他Tier1に、普通株等Tier1を合算したものがTier1。

Tier 2 その他Tier1と異なり、配当を実施する・しないについての自由度に制約があるものの、清算に当たっては請求権が預金者、債権者に劣後し、永続性の観点でステップアップ金利(償還へのインセンティヴ)がないこと等の条件に該当する、バーゼルⅢ規制における自己資本の区分の一つ。 優先出資証券・劣後債務(いずれもステップアップ金利無し)の他に、貸倒引当金、少数株主持分(その他Tier1に算入されないもの)等で構成。

用語集(資本関連)

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用語 意味

システミック・リスク(Systemic Risk)

金融システム全体が機能不全に陥るリスクのこと。企業の破綻やシステム事故、テロ行為等の様々な要因から、決済業務が連鎖的に不安定化することで、金融システム全体が本来の機能を果たさない危機に直面すること。

プロシクリカリティ(Procyclicality )

景気が良いときに銀行が貸出等の与信行為を拡大し、景気が悪くなると縮小させることで、景気循環をさらに増幅してしまうこと。プロシクリカリティは、銀行への監督や規制のあり方にも影響を受けると考えられており、規制の制度設計上の大きな問題と見なされている。

用語集(その他)

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5.参考文献

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参考文献

検証 BIS規制と日本 氷見野良三 金融財政事情研究会 バーゼルⅡと銀行監督 新しい自己資本比率規制 佐藤隆文 東洋経済新報社 よくわかる 新BIS規制 バーゼルⅡの理念と実務 吉井一洋、古頭尚忠 金融財政事情研究会 詳解 バーゼルⅢによる新国際金融規制 みずほ証券バーゼルⅢ研究会編 中央経済社

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