トップヒートとボトムヒートを 切替可能なヒートパ...

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1 トップヒートとボトムヒートを 切替可能なヒートパイプ 福井大学 大学院工学研究科機械工学専攻 教授 永井 二郎 [email protected] 第3回 関西ものづくり技術シーズ発表会(2015.5.26, 国民会館, 近畿経済産業局)

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トップヒートとボトムヒートを 切替可能なヒートパイプ

福井大学 大学院工学研究科機械工学専攻

教授 永井 二郎

[email protected]

第3回 関西ものづくり技術シーズ発表会(2015.5.26, 国民会館, 近畿経済産業局)

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弁の切替あるいは逆止弁設置により、トップヒート状態(上部で吸熱、下部で放熱)とボトムヒート状態(下部で吸熱、上部で放熱)を切替可能なヒートパイプ。 作動液の沸騰蒸気泡浮力に誘起される液循環により作動。 全長は数mまで可。 熱輸送量は温度差に依存するが、数十~数百W。

技術概要と説明の構成

1.ヒートパイプとは? (ヒートポンプとの違い) 2.新型ヒートパイプBACHとは? 3.本技術(切替可能BACH)とは? 4.本技術の特徴 5.想定される用途 (従来技術との比較も含めて) 6.実用化に向けた課題 と 企業への期待

3

ヒートポンプ と ヒートパイプの違い

3

高温部 TH

低温部 TC

ヒートポンプ or

冷凍機 電力 L

吸熱 QC

放熱 QH COP=QH/L

COP=QC/L

ヒートパイプ

吸熱 Q

放熱 Q

消費電力 ゼロ

1.ヒートパイプとは?

4

従来の代表的ヒートパイプ

ウィック式 (サーモサイフォン式) ヒートパイプ

自励振動式ヒートパイプ

蒸発と凝縮による潜熱移動により熱輸送

ウィック(金網)を用いた毛細管作用で液を循環させる。サーモサイフォン式は、重力により液を還流させる。

毛細管力には限界があり

姿勢や熱輸送量に限界

(トップヒートでは性能激減)

自励振動による液の顕熱・潜熱輸送

ウィック等の機構が不必要で、比較的高い

熱輸送特性

太いパイプでは作動しない姿勢や熱輸送量に限界

(長距離トップヒートでは性能激減)

ウィック(金網)

(熱抵抗0.05K/W程度、5千円/m程度)

CPU冷却、ボトムヒート地中熱利用、等で実用

宇宙関連機器等で利用

ヒートパイプとは、高温と低温の温度差があれば、外から電力や動力を加えなくても、熱エネルギーを〔高温→低温〕に輸送する機器

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新型ヒートパイプBACH 気泡駆動型循環式ヒートパイプ

Bubble-Actuated Circulating Heat pipe BACH H18に若狭湾エネルギー研究センター(新宮所長)が発明

(特許第4771964号,特開2008-194899,特開2009-52757)

・熱輸送の促進に限界 ・1m以上の長さでのトップヒートを実現できない。 ・実用対象が限られており、未利用熱利用or環境対応技術

としての新たな展開が期待されている。

従来ヒートパイプの課題

その状況下で

2.新型ヒートパイプBACHとは?

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・密閉ループ配管内を真空にした後、 作動液を注入

・吸熱部周辺を加熱、放熱部周辺を冷却 (温度差をつける)

・気泡生成部より、効率よく連続的に蒸気泡が発生

・その気泡の浮力により液循環が誘起

・蒸発による熱輸送に加えて、液循環の熱輸送がプラスされる

吸熱部

放熱部

気泡浮力により

液循環が誘起さ

れ、熱輸送

気泡生成部 new!

ボトムヒートBACH作動の概要

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• 左図のように、吸熱部から一部、上方へ管を伸ばすことによって液循環を誘起。再び管を下方に伸ばすことによって、擬似的にトップヒートが実現。

上昇管

トップヒートBACHは下方熱輸送距離に関わらず、作動液を揚液する必要がない。(必要体積力≒0)

熱を長距離(数m~)下方に輸送できる(従来型ヒートパイプの欠点克服)

トップヒートBACH作動の概要

気泡生成部

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気泡生成部の効用(低過熱度で蒸気泡生成)

0.0001

0.001

0.01

0.1

1

10

0.1 1 10 100

r [mm] 水r [mm] エタノール

蒸気泡半径(臨界半径) r [mm]

過熱度 ∆Tsat [K]

Tsat=320K

通常の金属表面の凹み

BACH気泡生成部の出口半径

沸騰気泡半径と過熱度の関係

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BACHと従来型ヒートパイプの性能比較

0

100

200

300

400

500

600

0 5 10 15

Q [W] BACH

Q [W] 従来型

Q [W] 従来型2本分熱

輸送

量 

Q [

W]

吸熱部と放熱部の平均温度差 ∆T [K]

(全てに共通の条件)作動液 HFC-134a管内径 22mm全長  約5m

本システムでの適用温度範囲

熱輸送量2.5倍!

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越前市内防火水槽の融雪状況

BACH設置側

従来型ヒートパイプ設置側 • 2つのヒートパイプ

設置部は、良好に融雪。

→ 迅速な投入孔の発見が可能

• BACH設置側の方

が、良好に融雪。 → 熱輸送特性の違

いに起因

2010/1/16午後3時の写真

BACHは、同程度サイズの従来型ヒートパイプと比較して、高い熱輸送特性(2倍以上)

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外周は トップ時:高温 ボトム時:低温

外周は トップ時:低温 ボトム時:高温

外周は トップ時:高温 ボトム時:低温

外周は トップ時:低温 ボトム時:高温

弁の状態 トップ時:SV-1=開 SV-3=閉 ボトム時: 逆

弁の状態 トップ時:SV-1=開 ボトム時: =閉

構成-ロ 構成-イ

3.本技術(切替可能BACH)とは? 1つの装置で、トップとボトム両方の状態を実現可能なBACH

12 (色付きの部分は、ほぼ常時流れがある管をしめす)

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(構成-イ)の熱輸送 作動流体:エタノール+水

(エタノール=70%)

トップヒート時

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

20 40 60 80 100

熱輸

送量

(kw

)

高温水入口温度(℃)

熱輸送量(冷水が得た熱量)

ボトム SV-1閉 12/7

ループNo3:ボトムヒート

SV-1閉

冷水の温度は21℃

ボトムヒート時

(構成-ロ)でも同様の熱輸送量を確認

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4.本技術の特徴 • 簡易構造のヒートパイプとして、全長が数mの

トップヒート状態で初めて数百Wの熱輸送量を実現。

• そのトップヒート状態とボトムヒート状態を、簡単な弁切替操作や逆止弁設置により初めて切替可能とした。

• ヒートポンプを使用しないので、消費電力ゼロ。 その熱輸送能力は、吸熱部・放熱部間の温度差と物理法則に従い定まる。

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本技術を地中熱利用空調に適用(実証試験中)

地中

夏季:中間放熱部冬季:動作無し

夏季:吸熱部冬季:放熱部

年間通じて

約16℃

一定

約5m

夏季:放熱部冬季:吸熱部

5.想定される用途 (従来技術との比較も)

H23~H24 NEDO新エネルギー

ベ ン チ ャ ー 技 術 革 新 事 業(フェーズA~B) ・松本鉄工所(若狭湾エネ研) ・共和製作所 ・MDI ・福井大学

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本技術・システム 競合技術・従来技術

切替可能BACHによる地中熱源活用システム

地中熱利用ヒ ー ト ポ ンプシステム

空 気 熱 源ヒートポンプ

従来のヒートパイプ(サーモサ イ フォン 式 、 ウィック式)

省電力性 ◎(ゼロ) ○ △ ◎(ゼロ)

新エネ利用 ◎ ◎ × ---

初期コスト ?⇒○ △ ◎ ○

運転コスト ◎ ○ △ ◎

冷暖房能力 △⇒○ ◎ ◎ ---

地上→地中放熱 △⇒○ ○ --- ×

普及率 ×⇒○ △ ◎ △

従来技術との比較 (本技術を地中熱利用空調に適用した場合)

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製作した切替可能BACH (地上部の写真) 切替可能BACH中間放熱部と切替弁

地中熱交換用の鋼管杭 外径165mm

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BACH地中埋設部 吸熱部(ボトム時)、放熱部(トップ時)

BACH地上熱交換部 放熱部(ボトム時)、吸熱部(トップ時)

BACH配管 SUS304 作動液 HFC134a

6m

4m 2m

→ ボトムヒートでQ=0~180W、 トップヒートでQ=0~120W

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その他の想定される用途

• 地表から数m下の地中熱源利用として、夏季のヒートアイランド対策や、冬季の路面凍結防止・融雪。

• 排熱の有効利用。 ヒートパイプの吸熱部は「冷却効果」を、放熱部は「加熱効果」を持つことになる。 離れた2地点間で、一方では「冷却」を必要とし、片方では「加熱」を必要とする用途があれば、ベスト。

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6.実用化に向けた課題と企業への期待 • 製品や用途に応じたBACHの吸熱部・放熱部

の熱交換部の設計手法が確立していない。 → 今後、各種用途に応じたプロトタイプ装置

の設計・試験を行い、設計方法の確立を目指す(汎用的熱設計ツール作成も含めて)。

• トップヒート状態で作動する場合、中間放熱部の冷却方法が課題。

→ 空冷・水冷等、いくつかの方法を検討中。さらには中間放熱部が不要のタイプも検討中。

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• 無動力で作動するヒートパイプのメリットは大きいと思われるが、CPU冷却等の一部の実用化に留まっている。

→ これまでヒートパイプを全く利用する必要の

無かった業界・企業においても、ヒートパイプ(特に本技術)の特徴をふまえると、意外な用途が見つかる可能性もある。

ぜひヒートパイプ(特に本技術)適用のご検討と、

事業化へ向けた共同開発を希望しております。

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本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :熱輸送方向を切替可能なヒート パイプ、及び逆止弁により熱輸 送方向の自動切替が可能な ヒートパイプ • 出願番号 :特願2011-75859 • 出願人 :若狭湾エネルギー研究センター 福井大学 • 発明者 :鳥取章二、永井二郎