東ヨーロッパ平原の土壌と農業...研究標本館土壌モノリスで見る東ヨーロッパ平原の土壌と農業...

Click here to load reader

Upload: others

Post on 12-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • |研究標本館|展示ポスター解説シリーズNo.l

    土壌モノリスで見る 東ヨーロッパ平原の土壌と農業

    Soils and Agriculture in the East-European Plain

    浜崎忠雄事・小原 洋柿

    Tadao Hamazaki and Hiroshi Obara

    1 .はじめに

    東ヨーロッパ平原には、北極地ツンドラの永久凍土(クリオソノレ)、タイガのポドゾルから

    ステップ地帯の黒土(チェルノーゼム)、栗色土(カスタノーゼム)まで多様な土壌が分布し

    ている口土壌・気候帯に応じてそこに適した農業が行われており、特にステップの黒土、栗色

    土は世界で最も肥沃な土壌で、この地帯は世界の穀倉地帯の一つになっている。

    東ヨーロッパ平原は、気候・植生と土壌の分布がよく対応しているところで、ロシアのドク

    チャーエフ(1846"-'1903)は、ここでの広範な土壌調査を通じて土壌を一つの自然体として認

    識し、自然科学の一部門として現代土壌学を築いた。現代土壌学の父と呼ばれる。

    2. 解説

    東ヨーロッパ平原は、北極圏バレンツ海から黒海・カスピ海に至る南北約 2800kmに広がる

    ヨーロッパ東部の平原で、ある。緯度は北海道の北部に相当する北緯44度から北にある。最高標

    高は 350m弱、平均標高 170mの丘陵、高地、低地、盆地からなり、およそ 400万km2もある

    広大な地域である O ここにある主要な国は、ロシアとウクライナである。

    展示ポスターは、中央に世界土壌資源照合基準 (WRB) に基づく FAOの土壌図を配置し、

    各土壌帯の土壌景観と営まれている農業を絵と写真で示し、その上下に対応する土壌をマイク

    ロ土壌モノリスまたは断面写真で示しである。さらに、東ヨーロッパ平原の主要土壌の生成環

    境とそこで営まれている農業の状況の詳細を表にまとめて示しである。(表1)0

    東ヨーロッパ平原の北端は、パレンツ海に面するアルハンゲリスク州ネネツ自治管区である。

    ネネツは、北極圏のツンドラ地帯にあり、永久凍土が広がっている。永久凍土は、 WRBではク

    リオソルと呼ばれる。ここでは、土壌には夏でも浅い位置に凍結層があり、作物は育たない。

    短い夏にコケや地衣類のみが成長し、これらを餌に、 トナカイが放牧されている。

    南へ下がると、次に現れるのは北方及び中央タイガである。 トウヒ、モミ、マツなどの針葉

    樹の林である。年降水量は 400"-'600で少ないが、蒸発散量も少ないので土壌水分は洗浄的であ

    る。ここに現れる土壌は氷河堆積物を母材にしたポドゾルで、ある。ポドゾルは強酸性で、アル

    ミニウム毒性、リンの固定力も強いため作物生産には適さない。ここでは飼料作物が栽培され、

    畜産が営まれている。次に現れる南方タイガは針広混交林である。土壌水分は、春秋に洗浄的、

    *名誉研究員,柿農業環境インベントリーセンター

    Honorary Fellow, Natural Resources Inventory Center

    インベントリー,第 10号, p 55・56(2012)

    -54-

  • 研究標本館土壌モノリスで見る東ヨーロッパ平原の土壌と農業

    夏に非洗浄的である。土壌は、氷何堆積物を母材にして、粘土の洗脱作用が強く起こり、粘土

    の洗脱層と集積層が明瞭に分化したアノレベルピソルが発達する。表層の洗脱層は痩せているが、

    集積層は肥沃である。ライ麦、春小麦、馬鈴薯などが栽培され、都市近郊では野菜の栽培も盛

    んである。この土壌はロシアでは、ジョールンポドゾル性土と呼ばれる。

    さらに南下して、降水量と蒸発散量が同じ程度になる地帯は、森林ステップと呼ばれ、オー

    夕、カエデなどの落葉広葉樹林左草原が混在する。森林部には氷河堆積物・レス様物質を母材

    にしてルピソル(灰色森林土)が発達し、草原部には厚い表層腐植層を持つチェルノーゼムが

    発達する。ここまでは春小麦の地帯である。農業は大規模になり、ライ麦のほか大麦やピート

    も栽培されるようになる。

    森林ステップから南は、気温が上がり蒸発散量が増える反面、降水量が減少するため、土壌

    水分は一般に非洗浄的となり、ステップが広がる。ステップは、南へ下り湿度係数が小さくな

    るほど草丈が低くなる。ステップにはチェルノーゼムが発達するが、表層腐植層の厚さと有機

    物含量は南下するほど小さくなり、湿度係数が 0.5以下になるあたりから土壌はカスタノーゼ

    ム(栗色土)に変わる。これらの土壌は、肥沃な腐植質表層を持っとともに下層に石灰の集積

    層を持つ。石灰集積層の出現位置は湿度係数が小さくなるほど浅くなり、その下に石膏の集積

    層が出現するようになる。ここでは冬小麦の栽培が可能となり、トウモロコシ、ヒマワリのほ

    か濯瓶下で野菜、ワリ類、果樹も栽培される。耕地化率は 70%を超え、世界を代表する穀倉地

    帯となっている。カスタノーゼム地帯には鞘状の窪地にソロネッツ(アルカリ土)も発達する。

    クリミア半島の山岳地は、雨がやや多く落葉広葉樹林下でルピソル(褐色山岳森林土・肉桂

    色土)が発達している。

    表 1 東ヨーロッパ平原の主要土壌の生成環境と鹿業

    参考文献

    1) Glazovskaya M. A. Ed. (1974) : Guide to soil excursion. The East-European plain. Forest-Steppe and

    Steppe Zones. Dokuchaef Soil Institute, Publishing House Nauka, Moscow.

    問い合わせ先

    農業環境インベントリーセンター小原洋

    電話:029-838-8353、E-皿副1: obara@a飴 c.gto.jp

    55