局所クリーン化のスタンダードへ「ノーマリー・オフ・コンピュータ」の実現...

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KOACH導入の現場 【薬師寺】 研究室が新設され、そのクリーンル ーム内にあるウェハ成膜装置に対して KOACHを導入しました。ウェハをフー ※2 に格納する作業をKOACHの清浄 空間内で行います。従来は装置の前にク リーンブースをレイアウトして必要な空 間だけを囲って局所的にクリーン度を高 めるのですが、KOACHはその空間を挟 んでレイアウトするだけで同じ効果が得 られるので作業性が向上しました。 ※2フープ(FOUP):Front Opening Unified Podの略。 半導体製造装置間でウェハを搬送する際にウェハを収納 しておく容器であり、ミニエンバイロメント方式と同程度 のクリーン度を保つ密閉ポッド。 局所クリーン化のスタンダードへ —クリーンルーム内にKOACHを導入— 独立行政法人 産業技術総合研究所 つくばセンター   ナノスピントロニクス研究センター 様 独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は、日本の産業を支える環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・ エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、標準・計測、地質という多様な6分野の研究を行う国内最大級の公的研究 機関です。本部は東京とつくばにあり、研究拠点としてつくばセンターを中心に置き、全国8 ヶ所にはそれぞれ特徴ある研究 を重点的に行う地域センターがあります。研究機能の中核をなすつくばセンターは、産総研全体のおよそ70パーセントの施設 や研究者が集積する大規模研究拠点です。 このつくばセンター所属のナノスピントロニクス研究センターでは、電子機器の待機電力削減のための研究開発が行われて おり、昨年5月には半導体メモリの不揮発化に関する研究成果『スピンRAMの大容量化を可能にする垂直磁化TMR素子』 ※1 がプレス発表されています。 この度、ナノスピントロニクス研究センターにおいてオープンクリーンベンチ「KOACH」が採用されました。そこで、同研 究センター副研究センター長の福島章雄様と主任研究員の薬師寺啓様にご協力をいただき、KOACH導入についてのお話を伺 いました(以下、敬称略)。 ※1 http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100513/pr20100513.html参照 産業技術総合研究所 つくばセンター(中央第二) 囲わずにワンランク上の クリーン化 4 Safety NEWS 2011.1 No.624

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  • KOACH導入の現場【薬師寺】

     研究室が新設され、そのクリーンル

    ーム内にあるウェハ成膜装置に対して

    KOACHを導入しました。ウェハをフー

    プ ※2に格納する作業をKOACHの清浄

    空間内で行います。従来は装置の前にク

    リーンブースをレイアウトして必要な空

    間だけを囲って局所的にクリーン度を高

    めるのですが、KOACHはその空間を挟

    んでレイアウトするだけで同じ効果が得

    られるので作業性が向上しました。

    ※2フープ(FOUP):Front Opening Unified Podの略。半導体製造装置間でウェハを搬送する際にウェハを収納しておく容器であり、ミニエンバイロメント方式と同程度のクリーン度を保つ密閉ポッド。

    局所クリーン化のスタンダードへ—クリーンルーム内にKOACHを導入—

    独立行政法人 産業技術総合研究所 つくばセンター  ナノスピントロニクス研究センター 様 独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は、日本の産業を支える環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・

    エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、標準・計測、地質という多様な6分野の研究を行う国内最大級の公的研究

    機関です。本部は東京とつくばにあり、研究拠点としてつくばセンターを中心に置き、全国8ヶ所にはそれぞれ特徴ある研究

    を重点的に行う地域センターがあります。研究機能の中核をなすつくばセンターは、産総研全体のおよそ70パーセントの施設

    や研究者が集積する大規模研究拠点です。

     このつくばセンター所属のナノスピントロニクス研究センターでは、電子機器の待機電力削減のための研究開発が行われて

    おり、昨年5月には半導体メモリの不揮発化に関する研究成果『スピンRAMの大容量化を可能にする垂直磁化TMR素子』※1

    がプレス発表されています。

    この度、ナノスピントロニクス研究センターにおいてオープンクリーンベンチ「KOACH」が採用されました。そこで、同研

    究センター副研究センター長の福島章雄様と主任研究員の薬師寺啓様にご協力をいただき、KOACH導入についてのお話を伺

    いました(以下、敬称略)。※1 http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100513/pr20100513.html参照

    ▲産業技術総合研究所 つくばセンター(中央第二)

    囲わずにワンランク上のクリーン化

    4 Safety NEWS 2011.1 No.624

  • KOACHを知ったきっかけ【福島】

     一昨年の12月に開催された「セミコン・

    ジャパン」に産総研が出展したのです

    が、何か面白いものはないかと会場内を

    見て回っていたところ、展示されていた

    KOACHを目にしたのが始まりです。囲

    わずにISOクラス5の清浄度を実現でき

    るというKOACHを見て、クリーンルー

    ムの中でもうワンランク上のクリーンな

    環境が欲しい場合に良いのではないかと

    思い説明を聞きました。

    【薬師寺】

     福島副研究センター長よりKOACHの

    話を聞いて、色々な用途が想像できまし

    た。例えば大学の研究室などのクリーン

    ルームがない施設で局所的に清浄環境

    が求められる場合にKOACHが使えるの

    ではないかと思いました。

     また、クリーンルームを整備するのと

    比較して格段にコストダウンになると思

    います。

     当研究センターではクリーンルーム内

    でKOACHを使用していますが、クリー

    ンルームは一般的に人の出入りが激しく

    なるとそれに伴い粉じんの混入などが発

    生してしまうことから、KOACHはそう

    いった状況の対策にもなると思います。

    KOACH採用の経緯【薬師寺】

     当初はクリーンベンチの導入を検討し

    ていましたが、基礎研究レベルなら問題

    がなくても量産装置となるとウェハのハ

    ンドリングの際に四方を囲われた狭い空

    間ではぶつけたり落としたりという問題

    が生じます。その点KOACHは開放的に

    清浄度を得られるのでかなりのメリット

    を感じました。クリーンブースでの対応

    策も考えられますが、人が入って作業す

    ることを想定するとクリーンブースはあ

    まり効果がありません。ファンの容量が

    小さいので十分な換気サイクルが得られ

    ないようです。また、クリーンブースは

    思った以上に場所を取りますし、ずっと

    ▲成膜装置の手前にKOACHをレイアウト

    5Safety NEWS 2011.1 No.624

  • 「ノーマリー・オフ・コンピュータ」の実現ナノスピントロニクス研究センター

    電子機器の消費電力を抑制するために、電子機器が仕事をしていない“入力待ち”時間の消費電力(待機電力)を大幅に

    削減する必要があり、そのためには電源を切っても記憶が保持される「不揮発性メモリ」の開発が不可欠となります。ナ

    ノスピントロニクス研究センターでは、電子スピンを活用したスピントロニクス技術とナノテクノロジーを融合し、大容量・

    高速かつ高信頼性を有する不揮発性メモリの開発を行っており、この技術を中核にして、待機電力ゼロの究極グリーン IT

    である「ノーマリー・オフ・コンピュータ」の実現を目指しています。

    中で作業するとなると天井部に圧迫感

    があります。

    【福島】

     今のクリーンルームは、実際のクリー

    ン度はそれほど高くなく、局所的にクリ

    ーン度を高めたいという考え方が主流に

    なっています。例えばポッドの取り出し

    口を特にクリーンにしたいという要求に

    対して、KOACHはコスト面でもメンテ

    ナンスの面でも有効と思われます。クリ

    ーンブースのような箱物を作ってしまう

    と後々大変ですが、KOACHはキャスタ

    ーで使いたい場所に移動できるし、レイ

    アウト変更にも簡単に対応できます。

    【薬師寺】

     部屋の中に入れやすいということもあ

    りました。

     クリーンブースだと中で組み立てなけ

    ればならないのですが、これが結構大変

    です。

     KOACHはそういったことが不要です

    し、部屋の中のレイアウトが制限されな

    いという点が非常に良いです。あと、成

    膜装置が大きいので装置へのアクセス

    ルートを既製のクリーンブースでカバー

    することはできないため個別設計するし

    かないのですが、KOACHはそこに置く

    だけでいいのですからこれは大きなメリ

    ットです。価格的にも導入しやすかった

    です。

    KOACH導入後の感想【薬師寺】

     使用を始めてからまだそんなに時間は

    経っていませんが、クリーン化の効果に

    ついては問題ないと思います。また、作

    業性については、先程も触れたようにク

    リーンブースと比較してかなり向上して

    います。

     クリーンブースの場合は、作業を終

    える度にクリーンブースを回りこんでフ

    ープを戻さなければならないのですが、

    KOACHなら囲われていないのでダイレ

    クトにアクセスできます。

    副研究センター長理学博士

    福島 章雄 様

    主任研究員工学博士

    薬師寺 啓 様

    KOACHはインパクトのある製品

    6 Safety NEWS 2011.1 No.624

  • ▲コーチを導入したクリーンルーム ▲以前使用していたクリーンブースをウェア保管に再利用

    【福島】

     半導体製造の現場ではポッドの出し入

    れの箇所をとにかくクリーンにしたいと

    いう要求があるので、局所的にクリーン

    化できるKOACHはすごいインパクトの

    ある製品です。成膜装置は非常に高額

    なものですから、そこにKOACHを導入

    するだけで環境がすごく良くなると思え

    ば、みんなKOACHを設置したいと考え

    るでしょう。また、最近のポッドは差圧

    対策として隙間が空いているので、そこ

    から粉じんが入るのを防ぐという用途も

    あると思います。

    【薬師寺】

     クリーンルームは常時稼動しており電

    源を切ることはできませんが、KOACH

    はスイッチを入れてすぐに清浄空間が形

    成されるので、使わないときは電源を切

    ることが出来るのも良いと思います。現

    在、産総研ではクリーンルームの消費電

    力低減にも取り組んでいますが、クリー

    ンルームを作らなくでも同等の環境が得

    られるKOACHには将来性を感じます。

    【福島】

     KOACHの 模 造 品などが出てくるか

    もしれませんが、クリーン化に関しては

    粗悪なものを導入するとコンタミの発

    生にもつながるわけですから、クリーン

    ルームの中で性能が出せるKOACHは

    真似できない製品ではないでしょうか。

    KOACHは簡便に設置できますから、こ

    れから製品の充実を図っていけばポッド

    の取り出し口にKOACHを置くというの

    がスタンダードになってくるかもしれま

    せん。

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