ディジタル化時代の画像評価 アナログ画像とどこが異なるの...

8
ディジタル化時代の画像評価━アナログ画像とどこが異なるのか━ 名古屋大学 医学部保健学科 小寺 吉衞 はじめに 1895 11 8 日、 Roentgen がX線を発見 して以降、X線は医療に利用され、診断、治療 に欠かせない存在となった。診断領域では、当 初から CaWO4 を用いた蛍光板や増感紙が開 発され、1897 年には増感紙フィルム系が臨床 に用いられた。その後、Gd2O2S:Tb に代表さ れる希土類増感紙系が開発され、画質・感度共 に向上したが、画像としてはほぼ完成の域に達 していたと考える。しかし、フィルムは現像が 必要であり、個々のフィルムの形状も決まって いることから、コントラストの変化は望めない。 さらに、近年のモダリティの大量の画像の発生 による保管の問題は、大病院ほど深刻になって いた。これらの問題点を列記すると、 写真画像としてはほぼ完成 = 23L = 2 程度 今以上の感度の上昇は困難 任意の画像を作れない 現像処理が必要 ネットワークに対応できない 画像処理が不可 保管場所の確保が難しい などが挙げられる。 1.アナログ系からディジタル系へ このような問題に対する解決策の一つとし て、ディジタル画像の導入があった。ディジタ ル画像の構想は、1970 年代にすでにあったよ うであるが、ネットワークを含めたいわゆる PACS (picture archiving and communication systems) として知られる画像保存通信システ ムの概念は 1980 年代に入ってからで、一般に 1982 年の SPIE (International Society for Optical Engineering) Medical Imaging 会議で定義されたとされている。ディジタル画 像の利点は、 任意の画像処理が可能 現像処理が不要 ネットワークに対応(通信,保管など) モニタ診断に対応 コンピュータ支援診断(CAD)システムの 導入 経時的な画質の劣化がない などである。 画像がアナログ系からディジタル系に代わ ることで何が変わったのか。一番大きな違いは、 画質と感度の決定権が、システムを製作する企 業から撮影者(診療放射線技師)に移行したこ とであろう。また、画質や感度の考え方、定義 も幾分異なってきている。 2.感度と画質 アナログ画像の感度 S は国際的には ISO 定義され、以下の式で計算する K010 -3 Gy K S:ネット濃度 1.0 に必要なファントム下 の増感紙フィルム系に入射する X 線の エアカーマ(単位 Gyところが、ご存知のように、ディジタル系では 感度を定義することはできない。撮影条件は、 すべて撮影者に任されている。 アナログ画像の画質の評価は、コントラスト、 鮮明度、粒状性(雑音)で行われる。それぞれ、 S K K S 0 中四国放射線医療技術第7号 モーニングセミナー1 54

Upload: others

Post on 28-Feb-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

ディジタル化時代の画像評価━アナログ画像とどこが異なるのか━

名古屋大学 医学部保健学科

小寺 吉衞

はじめに

1895年 11月 8日、Roentgen がX線を発見

して以降、X線は医療に利用され、診断、治療

に欠かせない存在となった。診断領域では、当

初から CaWO4 を用いた蛍光板や増感紙が開

発され、1897 年には増感紙フィルム系が臨床

に用いられた。その後、Gd2O2S:Tb に代表さ

れる希土類増感紙系が開発され、画質・感度共

に向上したが、画像としてはほぼ完成の域に達

していたと考える。しかし、フィルムは現像が

必要であり、個々のフィルムの形状も決まって

いることから、コントラストの変化は望めない。

さらに、近年のモダリティの大量の画像の発生

による保管の問題は、大病院ほど深刻になって

いた。これらの問題点を列記すると、

写真画像としてはほぼ完成

= 2~3、L = 2 程度

今以上の感度の上昇は困難

任意の画像を作れない

現像処理が必要

ネットワークに対応できない

画像処理が不可

保管場所の確保が難しい

などが挙げられる。

1.アナログ系からディジタル系へ

このような問題に対する解決策の一つとし

て、ディジタル画像の導入があった。ディジタ

ル画像の構想は、1970 年代にすでにあったよ

うであるが、ネットワークを含めたいわゆる

PACS (picture archiving and communication

systems)として知られる画像保存通信システ

ムの概念は 1980年代に入ってからで、一般に

は 1982年の SPIE (International Society for

Optical Engineering) のMedical Imagingの

会議で定義されたとされている。ディジタル画

像の利点は、

任意の画像処理が可能

現像処理が不要

ネットワークに対応(通信,保管など)

モニタ診断に対応

コンピュータ支援診断(CAD)システムの

導入

経時的な画質の劣化がない

などである。

画像がアナログ系からディジタル系に代わ

ることで何が変わったのか。一番大きな違いは、

画質と感度の決定権が、システムを製作する企

業から撮影者(診療放射線技師)に移行したこ

とであろう。また、画質や感度の考え方、定義

も幾分異なってきている。

2.感度と画質

アナログ画像の感度 S は国際的には ISO で

定義され、以下の式で計算する

K0:10-3Gy

KS:ネット濃度 1.0に必要なファントム下

の増感紙フィルム系に入射する X線の

エアカーマ(単位 Gy)

ところが、ご存知のように、ディジタル系では

感度を定義することはできない。撮影条件は、

すべて撮影者に任されている。

アナログ画像の画質の評価は、コントラスト、

鮮明度、粒状性(雑音)で行われる。それぞれ、

SK

KS

0

中四国放射線医療技術第7号 モーニングセミナー1

54

フ ィ ル ム の 特 性 曲 線 (H&D curve) 、

MTF(modulation transfer function)、ウィナ

ースペクトル(WS: Wiener spectrum)を用い

ている。かつての医用X線画像による診断の主

流は高コントラスト、高鮮鋭のシステムであっ

た。これは骨折など骨の診断には適していたで

あろうが、低コントラストの診断には向いてい

ない。

図1 増感紙フィルム系の見え方の例

図1は感度は同じであるが、左の系は高鮮鋭

であり、高コントラストの針はよく見えるが低

コントラストのビーズ玉はよく見えない。右は

低鮮鋭の系で、針はボケているが、ビーズ玉は

よく見える。最近のシステムの傾向は、この右

側の系の考え方に近いであろう。

3.ディジタル化時代の画像評価

先に述べたように、ディジタル画像は、その

撮影条件と得られる画質の多くを撮影者にゆ

だねている。では画質評価はどのように変わっ

たのか。まず、ディジタル系では画像処理が可

能であることから、ボケは逆フィルタなどを用

いて簡単に改善できる。しかし、雑音の除去は

大変難しいことが知られている。これは、X線

画像の雑音の大半がX線量子のゆらぎによる

量子モトルであるからである。ところが、最近

の画像は低コントラスト画像の診断に移行し

ていることから、この雑音の存在が非常に大き

くなってきている。雑音自体の評価はディジタ

ル系であってもWiener spectrumを用いるこ

とができる。しかし、ディジタル系ではシステ

ムの特性により、アナログ系と若干求め方が異

なることがあるので注意が必要である。

3.1 アナログ系の Wiener spectrum:

ここで、 :距離、 :試料長

:空間周波数、 :虚数単位

である。

PVはディジタル系の出力のピクセル値、

は非線形システムの特性曲線の傾きである。

3.2 ディジタル系の Wiener spectrum

非線形システム:

線形システム:

4.SNRの考え

現在、これらの低コントラスト画像の評価には、

信号対雑音比(SNR: signal-to-noise ratio)を用

いることが行われている。ICRU REPORT

54 : Medical imaging – The assessment of

image qualityでは、画像系をX線検出器と画

像表示系に分け、前者を純粋に物理的な評価で

あるNEQ(noise-equivalent number of

quanta)を用い、後者には人が見て評価するこ

とから ROC曲線 (receiver operating

characteristic curve)を用いることを薦めてい

る。

以上、ディジタル系の画質特性の評価で注意

しなければならないことを述べた。

ビーズ玉

両者の感度は同じ

高先鋭 低鮮鋭

ビーズ玉

2),(

1lim),( vuF

XYvuW A

XY

2/

2/

2/

2/

)(2),(),(X

X

Y

Y

vyuxj

A dxdyeyxDvuF

yx, YX ,

),( yx yNYxNX

j 1

vu,

2

,2

10

2),(lim

log

1),( kiDNL

yxNN

ki

E

E vuFNN

yx

evuW

yx

)(21

0

1

0

),(),( tksi yvxujS

s

T

t

tskiDNL eyxPVvuF

2

,),(lim),( kiDL

yxNN

ki

E

E vuFNN

yxvuW

yx

)(21

0

1

0

),(),( tksi yvxuj

S

s

T

t

tskiDL e

E

yxEvuF

中四国放射線医療技術第7号 モーニングセミナー1

55

次回診療報酬改定は介護報酬との同時改定

である。持続可能な医療提供体制ならびに制度

を堅持し、効率的かつ効果的な医療資源の配分

をめざし計画的な対応を段階的に実施すると

いう意味で24年度改定は26年度とのパッ

ケージ改定とも言われている。個別技術評価も

重要であるが、制度の骨格・枠組みを再構築す

るための各種仕掛けを充実することも重要な

ことと捉えている。

画像診断領域では前回改定後、個別技術の評

価・再評価に関しての改定要望を行政等へ提起

しているが、特に基本的骨格形成に係わる事項

として「安全保証」「精度保証」「運用保証」と

いう「三保証」を軸足とした論点を整理し、さ

らに「三原則」「三責任」の論点を加えた相互

運用に対する評価付けが最も重要な課題と位

置づけ、さまざまな意見交換の場において主張

を繰り返してきた。

一方で画像診断領域では「撮影手技」「診断

技術」「保存管理」とそれぞれ評価されている

が特に「撮影」という手技はどのように整理さ

れているのか。中医協総会では、「技術」と「も

の」いずれも含む「混在」と定義づけられてい

る。問題は「技術」に限りなく近い手技なのか?

「もの」に限りなく近い手技なのか?というこ

とである。後者の比率が大きくなれば断層領域

のように単に機器の性能差のみの評価となり

「撮影」を行う技術という本来評価すべき事項

は埋没してしまう。一方前者であれば「デジタ

ル撮影料」を創設したように診療放射線技師の

撮像技術の違いで明確に評価することになる。

重要なことは「撮影手技」をより可視化し技術

として評価させるエビデンスと主張が今求め

られているということである。

ではここでは前述の三つの保証の観点から

それぞれの論点を整理する。

●「安全保証」では「保守維持管理コストの明

確化・明文化」と「医療機器安全管理料の適用

拡大」である。医療法での機器の保守管理が義

務化されて4年が経過しているが、未だに医療

機関での「特定保守管理医療機器」の保守点検

実施率が低い現状である。一方で保守に係わる

コスト吸収構造も曖昧であり保険収載上での

明文化が求められる。かかる費用は従来より広

く各種点数に含まれているとされているが、明

確な表記は存在しない。そうであれば画像診断

分野の通則内に「保守維持管理コストが含まれ

る」旨の表記、もしくは通知文書の発出での明

確化が必要である。また、患者安全上の視点か

ら、特に緊急を要する造影剤注入器・ 磁気共

鳴画像診断装置・診断用核医学装置・医用エッ

クス線CT装置・アンギオ検査装置・心臓カテ

ーテル検査装置等、対象となる特定保守管理医

療機器をまずは精選し「医療機器安全管理料1」

への適用拡大、あるいは新たな「医療機器安全

管理」に関する評価位置づけの必要性を訴えて

きた。同時に実施者である「診療放射線技師」

の施設基準においての明確化は必要である。ま

た届出の要件化も必須といえる。長期間繰り返

し使用される多くの診断機器の保守において

は同様な視点での議論が必要である。

「診療報酬改定における重要論点について」

・・・・・「安全保証」「精度保証」「運用保証」・・・・・

(社)日本画像医療システム工業会/JIRA

経済部会 部会長 野口雄司

中四国放射線医療技術第7号 モーニングセミナー2

56

●「精度保証」では、「デジタル撮影」におけ

る「検像」に係る「画像精度管理料」の新設で

ある。高度化する難易度の高い「検像」作業は

大きく一次検像と二次検像に分かれるが、一次

検像は「撮影」と不可分であり、二次検像は「画

像管理」と密接な関係にある。一次検像の撮影

における「画像精度保証」は「デジタル撮影料」

という新たな手技評価の必要性が求められ前

回改定において新設されることになった。一方、

二次検像は画像保管管理における「画像精度保

証」として現状は「電子画像管理加算」となって

いる。今後多くの診断画像の精度の向上や管理

運用の効率化を意図とした場合、ホスピタルフ

ィーの位置付けとして「画像精度管理料」とい

う新たな概念の新設が必要である。即ち、「フ

ィルム」か「電子画像管理加算」かの選択を単

なる「モノ」として位置付けるのではなく、「検

像」を含めた「精度保証」という「技術」評価

としての位置付けにするべきと考えている。こ

れは、責任の所在の明確化と同時に、将来の電

子点数表化に向け、患者視点からみた請求の簡

素化・わかり易さを評価する新体系でもあり、

将来的にはデジタルCADe(コンピューター

支援検出技術)評価への道筋の整備にも繋がる

と考えている。特に「検像」作業は技術を伴っ

た多くの「診療放射線技師」によって行われて

いるのであり、その明記も必要となる。精度保

証認定施設や技師の明確化は今後の「質」の差

別化につながる重要視点である。

●「運用保証」では断層撮影料(CT・MRI)

における新たな評価体系の提言である。今まで

のような単に機器の性能のみの判断基準によ

る断層撮影料の評価体系の見直しである。JI

RAが以前に医師向けに実施したアンケート

による利用実態からみた価値評価においては、

高性能の機器を用いる評価がある一方で、汎用

性能の機器でも十分診断できているという結

果が出ました。この結果に基づき一つの例とし

て撮影部位別・目的別(従来の頭部・躯幹・四

肢)の評価手法の再検討としての「基礎点数+

部位別疾病別加算点数」の考え方の導入を要望

している。この評価方法は「冠動脈CT」・「心

臓MRI」・「外傷全身CT」にあるような「診

断目的」を主におき、求められる施設要件等を

加味した加算評価の考え方に基づいている。結

果として機器の性能・機能評価がされることが

筋である。この様な評価方法は今後の断層撮影

における理に適ったものであると確信してい

る。

以上、「撮影領域」の位置づけと同時に、三

つの保証に基づいた考え方を整理した。診療報

酬改定は単に点数の増減だけではない。こっち

を上げてそれ以外を下げ帳尻を合わせる時代

は、「診療放射線技師」の技術としての評価を

曖昧にするだけではなく、ゆがんだ機器の選定

評価を促すことになる。医療安全も画像の精

度・品質管理、そして運用の円滑化も技術を持

った「診療放射線技師」によって担保されてい

る。ということを可視化させ、制度上で明確に

表記させる努力の継続が重要といえる。

中四国放射線医療技術第7号 モーニングセミナー2

57

福島県での技師の対応

(社)福島県放射線技師会会長 鈴木憲二

代行 副会長 遊佐 烈

平成23年3月11日(金)14時46分に東

北地方三陸沖でM9.0 の地震が発生し、東北で

は岩手・宮城・福島で地震による建造物の倒壊

と、その後に襲った津波の被害も相まって、行

方不明者も含めると二万人余りとなる被害を

被ってしまった。更に福島県には原発があり、

ここから関東方面への電力の供給を行ってい

た。地震とそれに伴う津波が、国や東電が想定

したものよりはるかに大きなものであったた

めに、それまで安全と言われていた原発も地震

直後の制御棒の挿入で臨界は停止したものの、

その後の津波による全電源損失により燃料融

解となり、圧力容器や格納容器の破損により、

放射性物質が広い範囲に飛散する事態となっ

てしまった。毎年行われる原子力防災訓練に福

島県放射線技師会からも放射線技師を8~9

名派遣していたが、想定していた原発事故は施

設内の小規模漏洩やJCO臨界事故程度の想

定で、福島県も原子力委員会に準じて小さな事

故しか考えていなかった。そのため救護所も少

人数の住民しか来ない設定であった。しかし今

回の大規模災害においては初期被ばく医療機

関も壊滅的な打撃を受け、年間積算線量

20mSv を超える地域は福島第一原発から半径

20km以内の警戒区域に加え20kmを超える計

画的避難区域にまで及んだ。

これほど大々的な避難となると住民の方々の

スクリーニング検査を福島県のみでは対応出

来ず、日本放射線技師会からのスクリーニング

隊の派遣に助けられながら今日まで対応して

きた。福島県放射線技師会単独では、35か所

の避難所に47日間に渡り297人の福島県

放射線技師会会員が鈴木会長の指示の下で2

9286人の避難住民のスクリーニングが行

われた。

更に検案前遺体線量測定では4月11日より

7月4日までに23人の福島県の放射線技師

と日放技の派遣隊と合わせて366体に及ん

だが、震災後一カ月を経て開始された遺体収容

作業は遺体の損傷も激しく、ストレスが大きく

かかる作業であった。今後は、住民の不安をい

かに取り除いてあげられるかであり、住民から

の放射線に関する質問に対しては、専門的な知

識を生かし積極的に関わらねばならない。福島

県民が故郷に戻り、前の生活に戻れる日が訪れ

るのを信じて、我々放射線技師が正しい情報発

信基地となり県民の健康と安心に寄与出来る

職業として認めてもらえるように努力してい

かなければならない。最後にこの大震災の中、

奮闘された福島県放射線技師会長の鈴木憲二

氏が7月16日に急逝されたが、我々は今回の

震災における犠牲者のお一人と認識しており、

一日も早い原発事故の収束を願うのみである。

中四国放射線医療技術第7号 震災シンポジウム

58

②環境測定(CR を用いた環境モニタリング調査研究班-中間報告-)

香川大学医学部附属病院 朝原 正喜

【はじめに】

平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震

災を原因とする福島第一原子力発電所事故に

伴う放射線物質の飛散により、東北、関東エリ

アの診療施設において CR 画像に黒点が発生

した(Fig.1)。そこで技術学会では、この現象を

詳しく調査するとともに、臨床に用いている

Imaging Plate( 以下、IP )で飛散した放射能の

環境モニタリングが可能かどうか調査する研

究班が組織された。シンポジウムでは、この研

究班のこれまでの活動内容を平野浩志班長に

代わって報告した。 【研究班の活動内容】

全国 63 の協力施設に依頼し、CR カセッテ

を屋内および屋外に 9:00~17:00 の間、受

光面を上にして設置し、黒点の発生状況を調査

した。測定は3月下旬から約1カ月間、月・水・

金曜日の隔日で行われた。また施設内の土壌を

採取し、CR カセッテ上に 72 時間配置して黒

点の発生状況を調査した。さらに黒点が認めら

れた施設では、検査室周辺のほこりなども調査

した。中国・四国部会からは 9 県 11 施設が調

査に参加した。 【研究班の中間報告】

3 月 12 日~4 月 28 日までに黒点発生の報告

のあった 137 施設を Fig.2 に示す。中四国では 1施設を除いて黒点は認められず、その1施設

も原発事故由来のものか現在検証中である。 黒点の原因はカセッテ表面に付着した放射

性物質からのγ線とカセッテ内に入り込んだ

放射性物質のβ線によるものと考える。しかし

黒点を発生させた核種の同定が不可能である

ため、黒化度から放射能の量を算出することは

不可能と思われる。

今後、IP による環境モニタリングとして、

原発からの放射性物質の飛散の有無のチェッ

クや、地表の放射性物質の含有量の経時的な変

化を観察することに利用が期待できる。 【謝辞】

今回の環境調査にご協力いただいた施設お

よび調査を担当された会員の方に感謝いたし

ます。

Fig.1 黒点が発生した臨床画像の1例

Fig.2 黒点発生の報告のあった 137 施設

中四国放射線医療技術第7号 震災シンポジウム

59

震災時の機器管理・労務管理

東北大学病院診療技術部放射線部門 梁川 功

マグニチュード 9.0 という未曾有の大震災に対

しまして、全国の皆様から緊急医療支援、支援物

資、義援金、そして多くの励ましのお言葉をいた

だきました。深く御礼申し上げます。

去る 3 月 11 日(金)の東日本大震災発生時の

14:46 には、放射線部内のほとんどの撮影室で検

査が行われていた。CT、MR 等の検査室では撮影を

直ちに中断し、技師、看護師が患者さんに駆け寄

り、傍らについて狭いテーブルから落ちないよう、

患者の身体や血管確保部位を押えて安全を確保

した。恐ろしいほどの大きな地震の揺れの中では、

患者テーブルを引き出すことさえも容易ではな

いことを実感した。

装置電源はすべて落ち、停電でエレベータも使

えず、ストレッチャーの患者さんは担架で階段を

上り病棟へ戻した。非常用では動力系の電源は供

給されず、100V 電源で使用できるポータブル装置、

画像処理装置、プリンタの稼働確認を行い、急患

対応、トリアージ体制に備えた。病院情報システ

ム、放射線システムが停止したため、撮影依頼は

紙伝票、フィルム出力の運用とした。さらに放射

線部内に黒エリアの設置を要請され、カンファレ

ンス室他 3室の物品を出し、何とか対応した。

また、PET 棟の電源がパワーセンターから供給

されていることがわかり、たまたまメンテナンス

をしていたメーカーの方に、装置が稼働できるよ

う余震の続く中、困難な調整をしてもらい、その

夜には 2名の頭部 CT 検査を行った。

発災翌日の 3 月 12 日(土)には、商用電源が

回復し(大学病院を優先した)、放射線部の中診

棟も午前 11 時過ぎには復電した。放射線部全装

置のブレーカーの遮断、漏水等がないことを確認後、

装置に通電し、直ちに点検を行った。CT は救急セン

ターを含む全 4台、MRI は 6台中 2台、一般撮影、

透視、血管撮影装置の大部分が使用可能となった。

検査オーダーには、放射線診断科の医師が CT

装置に張り付くなど、装置本体でのモニタで読影

とコメントをすることで対応した。

3 月 13 日(日)には、放射線システムも回復し、

オーダリング、画像配信も行えるようになったが、

外来診療は急患対応のみであった。

3 月 14 日(月)には、使用不能だった装置もメ

ーカーの点検、修理を行い、幸いにも大きな損害

も無く復旧した。しかし、統合画像システムの損

害や医療用高精細モニタの転倒によるパネル部

の破壊、キズ等甚大な被害が報告された。

また、福島原発関連の緊急被ばくに対する放射

能汚染対策チームが結成され、福島県の避難者や

患者さんへの放射線サーベイ、必要に応じて除染

作業を開始した。

今回の大震災の特徴は、家屋の倒壊が少ない、

クラッシュ症候群がほとんどみられない、初期の

負傷者が予想以上に少ない、津波による被害が激

烈だったなどが挙げられる。このため、大学病院

が野戦病院化せず、最前線の病院を支援する体制

を比較的早期に整えることができた。すべてのラ

イフラインを失い、これまでの日々の当たり前の

生活が突然奪われたが、職員全員が一丸となり、

手を取り、何とか国難を凌いだ感である。

今後とも復興へのご支援をお願いいたします。

中四国放射線医療技術第7号 震災シンポジウム

60

大震災 -我々は何ができ、何をすべきか-

放射線計測

京 都 医 療 科 学 大 学 西 谷 源 展

はじめに 3月 11 日に発生した東日本大震災による福

島原発事故は大量の放射性同位元素を放出し、

これによる汚染や放射線被曝を引き起こした。

これにより放射線の測定が緊急の課題となった。

私たちは「放射線」を専門とする集団として放

射性同位元素による汚染や被曝線量の測定に関

与することになった。しかし、日常の業務で放

射線測定を頻繁に行うことは少ない。私たちは

サーベイメータや被曝線量計の特性や取り扱い

を熟知し、正しい測定法を知っておくことが必

要である。 1.サーベイメータによる測定 一般に使用されているサーベイメータには次

のようなものがある。①電離箱式サーベイメー

タ ②GM管式サーベイメータ ③シンチレー

ション式サーベイメータ (1) 電離箱式サーベイメータ : 電離箱内での電離電流を測定するために、基本的には照射線量

の測定に適している。空気吸収線量とも直接関

係付けられ原理的に Sv 単位で測定ができる。しかし、感度が低く、 1~ 3μ Sv/h が測定の限界で自然放射線の 0.1 μ Sv/h 以下の測定は市販の機器では測定できない。 (2) GM 管式サーベイメータ : 主にβ線の測定に使用される。GM管内に入射したβ線は管内で電子なだれを起こして大きなパルス電流を生

じる。従って、GM管内に入射した数を数えることができ、一般にはcpm単位で目盛られている。cpm単位では計数効率などの補正をしなければ Bq 単位では求めることはできない。また、パルスの高さは一定で入射したβ線のエネルギ

ーには無関係であるために線量を測定すること

はできない。GM管式サーベイメータは他の測定器に比較して長い不感時間を持つために高計

数率では数え落としを生じ誤差の原因となる。

また、GM管自身にも有限の寿命がある。最も多用されているGM管式では放射能の有無や多い、少ないが判る。μ Sv/h で目盛られている場合は一般には 137Cs のγ線に対して目盛られておりエネルギーが異なる場合は誤差を生じる。 (3) シンチレーション式サーベイメータ NaI(Tl) シンチレータを使用したものが多く使用される。感度が高く、近年では電子回路に

よりエネルギー特性が改善されているために、

低エネルギー用のもので良好な性能のものが市

販されている。出力パルスはγ線のエネルギー

比例するために線量測定もできる。また、パル

ス数からcpmで測定することもできる。 2.個人被曝線量の測定 個人被曝線量の測定は、長期間の積算線量を

測定する蛍光ガラス線量計や光刺激ルミネセン

ス線量計が多く使用されているが、事故時の場

合の短期間ではポケット線量計が直読式でもあ

り、最も有効である。この中でも近年は半導体

式の電子ポケット線量計が最も多く使用されて

いる。電子式ポケット線量計では電磁シールド

が弱い場合には携帯電話、 PHS, 高出力トランシーバ等で誤動作原因となる。また、機種によ

っては方向依存性が大きいものがある。医療用

では線源に向かって作業するために前方に感度

が強く出るが側方からは弱い。このために一般

用のほうが今回の原発事故等では測定に適して

いる。その他、測定機器全体については測定値

を正確に得るために、測定器の校正は欠かすこ

とはできない。

中四国放射線医療技術第7号 震災シンポジウム

61