公的セクターでのfoss活用の可能性 山形県水土里...

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山形県水土里情報システムの運用事例 山形県水土里情報システムの運用事例 -QGISの活用事例- -QGISの活用事例- 09 62 63 ARIC情報No.123 2016-10 ARIC情報No.123 2016-10 1.はじめに 水土里情報利活用促進事業は、 平成 18 年度から全国一斉にスター トし山形県も農地の筆区画・耕区・ 水利施設情報やオルソ画像等を地 図情報として整備することにな り、平成 22 年度までの 5 年間で ほぼ県内全域を整備することがで きました。 本 連 合 会 の 場 合、GIS ソ フ ト ArcView や日本水土総合研究所が 開発した NN プランの活用実績、 更には、農地流動化水利用調整事 業で土地改良区管内の筆区画情報 や水利施設情報を地図情報として 整備した実績があったため、担当 職員も何をすべきかを的確に理解 しており、あとは、市町村・土地 改良区がこの事業の趣旨に賛同し 情報提供を行うかどうかにかかっ ていました。 最終的には、県内の全市町村・ 全土地改良区からの情報提供があ りました。山形県の支援協力が あってこそと感謝しております。 2.独自システムの開発 当初の水土里情報システムの GIS データ配信は、国が開発した Web 版であり、地図情報と各団体 が所有する台帳のテーブル結合が ユーザーレベルでできないため、 台帳情報を連合会のサーバーに登 録し、それをインターネット経由 で閲覧する仕組みとなっていまし た。 これでは、台帳にある個人情報 が、インターネット経由となるた め、本会で運用する場合、非公開 となるべき情報に対して十分なセ キュリティを確保できないと判断 したため、各団体の台帳情報を本 会のサーバーに収納しないで利用 することに決めて運用しました。 更に、このシステムでは、利用 者が全員同じ情報を閲覧すること から、公開情報を自由に編集する ことを禁止せざるを得なくなり、 利活用が限定的となってしまいま した。 以上の状況から新たなシステム を独自に開発提供する必要がある と判断し、必要条件を整理して優 先順位をつけました。 ①個人情報がインターネットを 経由しない ②地図と台帳結合がユーザーレ ベルで可能 ③ GIS データ編集がユーザーレ ベルで可能 ④ OS の変更にそのつど対応が 可能 ⑤ユーザーのハード仕様が標準 レベル ⑥イニシャルコスト、ランニン グコストが安価 ⑦連合会の技術力でシステム管 理が可能 以上の条件を設定して新たなシ ステムを検討したところ、これら を満足させるには、GIS エンジン がユーザーサイドにあることが前 提であるとの結論がでました。 しかし、市販の GIS エンジンは 1ライセンス 40 万円程度と非常 に高額であることから、これを全 ユーザーに購入していただくわけ にはいかない。そのため、自由に 利用できるオープンソース GIS ソ フトウェアの検証を実施した結果 QGISが世界的に利活用されてい ること。更に、国内のユーザーが 多いことから、OSの変更対応や 日本語対応を行う組織の存在があ ることが確認できたため、QGIS をメインエンジンとしてシステム 開発をすることにしました。 開発にあたって留意したこと は、QGIS のエンジンをインストー ルする必要がありユーザーの負担 があることから、本会のホーム ページでわかり易く紹介し、直接 ダウンロードできる体制の外、研 修会をとおして体験していただく ことにしました。 また、公開情報には、ユーザー が編集する必要のあるものと不要 なものを区分し、オルソ画像等の 編集を必要としないものは、ユー ザーの容量負担を少なくするた め、連合会のサーバーに格納する ことにしました。 以上により、必要条件を満足す るばかりでなく、GIS エンジンが ユーザーの PC にあるため、より 高速に処理可能なシステムが完成 し、平成 25 年度より運用を開始 しています。 山形県土地改良事業団体連合会 ⻆田 五郎 (表 -1)利用可能な GIS データ

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Page 1: 公的セクターでのFOSS活用の可能性 山形県水土里 …aric.or.jp/03_book/121_130/no123/topics/123-5.pdf公的セクターでのFOSS活用の可能性 0008 山形県水土里情報システムの運用事例

公的セクターでのFOSS活用の可能性公的セクターでのFOSS活用の可能性

0008

山形県水土里情報システムの運用事例山形県水土里情報システムの運用事例-QGISの活用事例--QGISの活用事例-

0009

62 63ARIC情報|No.123 2016-10 ARIC情報|No.123 2016-10

1.はじめに水土里情報利活用促進事業は、

平成 18 年度から全国一斉にスタートし山形県も農地の筆区画・耕区・水利施設情報やオルソ画像等を地図情報として整備することになり、平成 22 年度までの 5 年間でほぼ県内全域を整備することができました。

本 連 合 会 の 場 合、GIS ソ フ トArcView や日本水土総合研究所が開発した NN プランの活用実績、更には、農地流動化水利用調整事業で土地改良区管内の筆区画情報や水利施設情報を地図情報として整備した実績があったため、担当職員も何をすべきかを的確に理解しており、あとは、市町村・土地

改良区がこの事業の趣旨に賛同し情報提供を行うかどうかにかかっていました。

最終的には、県内の全市町村・全土地改良区からの情報提供がありました。山形県の支援協力があってこそと感謝しております。

2.独自システムの開発当初の水土里情報システムの

GIS データ配信は、国が開発したWeb 版であり、地図情報と各団体が所有する台帳のテーブル結合がユーザーレベルでできないため、台帳情報を連合会のサーバーに登録し、それをインターネット経由で閲覧する仕組みとなっていまし

た。これでは、台帳にある個人情報

が、インターネット経由となるため、本会で運用する場合、非公開となるべき情報に対して十分なセキュリティを確保できないと判断したため、各団体の台帳情報を本会のサーバーに収納しないで利用することに決めて運用しました。

更に、このシステムでは、利用者が全員同じ情報を閲覧することから、公開情報を自由に編集することを禁止せざるを得なくなり、利活用が限定的となってしまいました。

以上の状況から新たなシステムを独自に開発提供する必要があると判断し、必要条件を整理して優先順位をつけました。

① 個人情報がインターネットを経由しない

② 地図と台帳結合がユーザーレベルで可能

③ GIS データ編集がユーザーレベルで可能

④ OS の変更にそのつど対応が可能

⑤ ユーザーのハード仕様が標準

レベル⑥ イニシャルコスト、ランニン

グコストが安価⑦ 連合会の技術力でシステム管

理が可能以上の条件を設定して新たなシ

ステムを検討したところ、これらを満足させるには、GIS エンジンがユーザーサイドにあることが前提であるとの結論がでました。

しかし、市販の GIS エンジンは1ライセンス 40 万円程度と非常に高額であることから、これを全ユーザーに購入していただくわけにはいかない。そのため、自由に利用できるオープンソース GIS ソフトウェアの検証を実施した結果QGIS が世界的に利活用されていること。更に、国内のユーザーが多いことから、OS の変更対応や日本語対応を行う組織の存在があることが確認できたため、QGISをメインエンジンとしてシステム開発をすることにしました。

開発にあたって留意したことは、QGIS のエンジンをインストールする必要がありユーザーの負担があることから、本会のホーム

ページでわかり易く紹介し、直接ダウンロードできる体制の外、研修会をとおして体験していただくことにしました。

また、公開情報には、ユーザーが編集する必要のあるものと不要なものを区分し、オルソ画像等の編集を必要としないものは、ユーザーの容量負担を少なくするた

め、連合会のサーバーに格納することにしました。

以上により、必要条件を満足するばかりでなく、GIS エンジンがユーザーの PC にあるため、より高速に処理可能なシステムが完成し、平成 25 年度より運用を開始しています。

山形県土地改良事業団体連合会

⻆田 五郎

(表 -1)利用可能なGIS データ

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3.利用可能なGISデータ水土里 GIS のシステムで利用可能なデータは、農地筆区画情報をはじめ(表 -1)の情報が自由に利活用できます。背景画像としては、オルソ画像(精度 1/2,500)、地形図(精度1/25,000)、更には、市町村・土地改良区所有の管内図やゼンリン住宅マップ、標高モデル等も利用で

きます。オルソ画像、地形図に関しては、

5 年に 1 度全面更新をする計画としており、平成 27 年度に更新を実施したところです。市町村等所有の管内図は、その

都度要望があれば無償で更新を行っております。また、農業農村整備事業で実施

完了した地区の概要表や実施設計

書等のファイルと、地図情報を連結させた水土里ファイリングシステムで過去の事業内容の閲覧が可能となっています。

4.運用状況について平成 27 年度までの水土里 GIS

のユーザー数は(図 -1)、・山形県     1/1 団体・市町村     23/35・土地改良区   24/55・農業共済組合  1/1・農業協同組合  7/17以上の 56団体と利用契約を結び

システムの運用を行っています。利活用の把握を行うため、シス

テムへのアクセス数を管理した結果、(図 -2)のとおり年間利用件数が平成 27 年度は、平成 23 年度の約 2.6 倍の 26,000 件以上の結果となっており、着実に利用が拡大されてきております。更に、水土里 GIS 利用者を対

象として操作サポートを実施した結果も、平成 25 ~ 27 年度で合計106 団体、329 名に受講していただきました。今後も研修内容をより

充実させて、ユーザーの要望を取り入れて実施していく予定です。

5.今後の課題現在運用している筆区画情報は、平成 26 年度のデータ、つまり平成 27 年 1 月 1 日現在のデータを主にして運用しております。どうしてもデータ更新のため 1年以上の期間が必要となります。筆区画情報は、毎日変化していることから、今後も市町村からの筆区画情報の提供が必要不可欠です。また、耕区情報(水田 1枚ごとの地図)は、地番までの整備となっているため、1 筆に同一地番の耕区が複数存在している状況です。耕区情報を有効的に活用するため、庄内農業共済組合のご協力により地図に水稲共済細目書の番号を付け、平成 28 年 7 月よりテスト運用を開始しております。これを実施することにより、今まで台帳しか共有できなかったものが、共済組合・市町村・農業協同組合等の関係機関において、地

図情報での共有が可能となり、各機関の事務の合理化が実現するものと期待しています。今後も、共済組合さんと連携をとり県内全域に拡大していきたいと思っております。

更に、昨今のスマートフォンは、めざましく進化しており閲覧機能に十分な性能を有しています。水土里 GIS の開発計画では、タブレットを活用しての利活用を検討しておりましたが、県内の水田 8 万 ha の作付確認を一斉に実施した場合、旧町村単位で仮に 1台ずつ配置したとすると、255 台のタブレットが必要となり、

維持費が高額となります。そのため、スマートフォンですと、契約容量内で閲覧した場合、電話代に追加費用がかからないことから、スマートフォンに変更して実施、現在運用中です。スマートフォンには、GPS 機能が搭載していることから、筆区画情報や水稲共済細目書情報とGPS 情報を同時に表示することで、現地確認が容易となります。水土里 GIS の活用を促進するために、年に 1 度協議会を開催し、ユーザーへの情報提供や要望事項を精査しシステムへの反映を行い、利活用に優れたシステムになるよう努力していく所存です。

H23

H23

6050403020

2937 41

4756

国・県・農業共済・JA等土地改良区

市町村

土地改良区農業共済

その他

市町村

( )内%は対前年比

(128%)

10,37811,552

16,31620,547

26,832

(111%)(141%)

(126%)(131%)

(110%)(115%)

(119%)

100

0

10000

20000

30000

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H24

H25

H25

H26

H26

H27

H27( )内%は対前年比

(図 -1)ユーザー数の推移

(図 -2)システムアクセス件数

いつでも利用可能なGIS 研修

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