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新製品紹介 52 日立金属技報 Vol. 33(2017) MIM(粉末射出成形)製ガスタービン静止翼 Gas Turbine Stator Vane by Metal Injection Molding 三次元形状で小型の金属部品に適 した製法である金属粉末射出成形法 ( 以 下 MIM と 示 す )は OA 機 器, 自動車,一般産業機械,医療機器な どの分野に広く使用されている。 日立メタルプレシジョンは独自に MIM 技術の研究に着手し,1988 年 より製品の販売を開始した。MIM で製造可能な最大サイズは 30 g 程 度とされるが,弊社では 1 g 以下の 小部品から 200 g を超える製品まで 製造している。 大型の MIM 製品の実例のひとつ を以下に紹介する。 鍛造素材を総加工していたガス タービン翼のうち小型(最大約70 g) の翼( 図1)を耐熱ステンレス材で 製作するため,MIM による製造技 術の開発を行った。 本製品は厚肉の土台から流線形の 翼(厚さ 0.5 ~ 2 mm,高さ 20 ~ 50 mm)が立ち上がり,MIM 製法では 加熱脱脂によって,添加したバイン ダが軟化し,自重で変形が発生しや すい形状であった。そこで独自の脱 脂法と焼結後の矯正によって,変形 を抑制し,製造可能とした。また, MIM と鍛造材ではミクロ組織の差 により,機械的特性に差が生じる。 よって,その差を測定して使用可否 を判定することが重要となる。図2 にMIM と鍛造材の引張強さの比 較,図3 に衝撃値の比較を示す。 引張強さは鍛造材より大きな値が 得られたが,衝撃値は大幅に低く なっている。 このデータを基に顧客と検討を行 い,静止翼に使用が可能と判断した。 製品の試作と耐久試験を行い,製品 化を実現した。 顧客の大きな要望のひとつである コスト削減に関しては,MIM の表面 粗さが Rz規格で平均 7 μm 程度であ るため,従来品の機械加工後に行う 磨き加工を省略でき,工数削減に伴 うコストダウンが可能となった。 図4 に MIM と鍛造素材の総加工 品とコスト差を示す。非常に大きな コストダウンを達成しており,顧客 からも良好な評価を得ている。 (株式会社日立メタルプレシジョン) 10 mm Tensile strength (MPa) Test temperature (℃) 0 100 200 300 400 500 600 1,400 1,300 1,200 1,100 1,000 900 800 700 600 Wrought MIM Machine work MIM (Machine work items are 100) 120 100 80 60 40 20 0 Impact strength (J/cm 2 ) Test temperature (℃) -100 0 100 200 300 400 500 160 140 120 100 80 60 40 20 0 Wrought MIM 図1 ガスタービン用静止翼 Fig. 1 Stator vanes of gas turbine 図2 引張強さの比較 Fig. 2 Comparison of tensile strength 図4 従来製法( 加工品)とのコスト比較 Fig. 4 Comparison of production cost 図3 衝撃値の比較 Fig. 3 Comparison of impact strength

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新製品紹介

52 日立金属技報 Vol. 33(2017)

MIM(粉末射出成形)製ガスタービン静止翼Gas Turbine Stator Vane by Metal Injection Molding

 

 三次元形状で小型の金属部品に適した製法である金属粉末射出成形法(以下MIMと示す)はOA機器,自動車,一般産業機械,医療機器などの分野に広く使用されている。 日立メタルプレシジョンは独自にMIM技術の研究に着手し,1988 年より製品の販売を開始した。MIMで製造可能な最大サイズは 30 g 程度とされるが,弊社では 1 g 以下の小部品から 200 g を超える製品まで製造している。 大型のMIM製品の実例のひとつを以下に紹介する。 鍛造素材を総加工していたガスタービン翼のうち小型(最大約 70 g)の翼(図 1)を耐熱ステンレス材で

製作するため,MIMによる製造技術の開発を行った。 本製品は厚肉の土台から流線形の翼(厚さ 0.5 ~ 2 mm,高さ 20 ~ 50 mm)が立ち上がり,MIM製法では加熱脱脂によって,添加したバインダが軟化し,自重で変形が発生しやすい形状であった。そこで独自の脱脂法と焼結後の矯正によって,変形を抑制し,製造可能とした。また,MIMと鍛造材ではミクロ組織の差により,機械的特性に差が生じる。よって,その差を測定して使用可否を判定することが重要となる。図 2にMIMと鍛造材の引張強さの比較,図 3に衝撃値の比較を示す。 引張強さは鍛造材より大きな値が

得られたが,衝撃値は大幅に低くなっている。 このデータを基に顧客と検討を行い,静止翼に使用が可能と判断した。製品の試作と耐久試験を行い,製品化を実現した。 顧客の大きな要望のひとつであるコスト削減に関しては,MIMの表面粗さがRz規格で平均7 μm程度であるため,従来品の機械加工後に行う磨き加工を省略でき,工数削減に伴うコストダウンが可能となった。 図 4にMIMと鍛造素材の総加工品とコスト差を示す。非常に大きなコストダウンを達成しており,顧客からも良好な評価を得ている。(株式会社日立メタルプレシジョン)

10 mm

Tensile stre

ngth (M

Pa)

Test temperature (℃)0 100 200 300 400 500 600

1,400

1,300

1,200

1,100

1,000

900

800

700

600

WroughtMIM

Machine work MIM

(Machine work items are 100)

120

100

80

60

40

20

0

Impa

ct stre

ngth (J

/cm

2 )

Test temperature (℃)-100 0 100 200 300 400 500

160

140

120

100

80

60

40

20

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WroughtMIM

図 1 ガスタービン用静止翼Fig. 1 Stator vanes of gas turbine

図 2 引張強さの比較Fig. 2 Comparison of tensile strength

図 4 従来製法(加工品)とのコスト比較Fig. 4 Comparison of production cost

図 3 衝撃値の比較Fig. 3 Comparison of impact strength