パイロライザgc/msによる ポリエチレン中添加剤の分析

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パイロライザ GC/MS による ポリエチレン中添加剤の分析 <要旨> プログラム昇温加熱が可能なパイロライザ(熱分解装置)と質 量分析計(MS)を直結することで、添加剤成分の揮発温度及びポリマーの 熱分解開始温度を得ることができました。その結果から、ポリエチレン中 添加剤の熱脱着温度を容易に決定することができ、添加剤の分析に良好な 結果を得ました。 Key Words: ポリエチレン、添加剤、BHT、Irganox 1076、Irgafos 168、 DLTP、DMTP、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ダブルショットパ イロライザ、GC/MS * * * * * * * 1. はじめに 一般に、高分子材料には、ポリマー(高分子)の 劣化を抑制する目的やポリマーの物性、性質を改善 する目的で添加剤が配合されます。前者は安定剤で、 ポリマーの性質を損なわずに劣化を抑制することが 求められます。後者は機能付与剤や充填剤で、ポリ マーの特性を生かしつつ、他の特性や機能を付与す るものです。今日では、添加剤は高分子材料にとっ て欠くことができないものとなっています。高分子 材料中の添加剤分析は、一般にポリマーから添加剤 を分離し、次に添加剤相互の分離をする必要があり ます。ポリマーからの添加剤の分離は、従来、溶剤 抽出法や再沈殿法が用いられてきました。一方、昇 温が可能な熱分解装置では、高分子材料をプログラ ム昇温加熱することで、高分子材料全体の熱的特性 が得られるため、その結果をもとに、高分子材料中 の添加剤などの揮発性成分と基質ポリマーを識別し て分析を行うことができます。 本アプリケーションニュースでは、昇温加熱が可 能なパイロライザ(熱分解装置)及び GC/MS をポリ エチレン中添加剤の分析に適用した結果を報告しま す。 2. 実験 2.1 添加剤 フェノール系酸化防止剤(BHT、Irganox 1076)、 リン系酸化防止剤(Irgafos 168)、イオウ系酸化防 止剤(DLTP、DMTP)及び脂肪族アマイド系滑剤(ス テアリン酸アミド、オレイン酸アミド)の 7 種の添 加剤について検討を行いました。また、これらの添 加剤の構造式を以下に示しました。 2.2 測定条件 2.2.1 装置 パイロライザ:フロンティア・ラボ ダブルショッ トパイロライザ GC/MS:Agilent 6890GC/5973MSD 2.2.2 発生ガス分析(EGA)条件 Fig.1 に EGA 法の模式図を示しました。 EGA 温度:60℃(0min)-20℃/min-700℃(1min) カラム:不活性化金属キャピラリチューブ(2.5m, 0.15mm id) GC 注入口温度:300℃ スプリット比:50:1 OHBHT (MW: 220) OHBHT (MW: 220) OHOOC18H37Irganox1076 (MW: 530) OHOOC18H37Irganox1076 (MW: 530) OPOOIrgafos168 (MW: 646) OPOOIrgafos168 (MW: 646) OOSOOC12H25C12H25DLTP (MW: 514) OOSOOC12H25C12H25DLTP (MW: 514) OOSOOC14H29C14H29DMTP (MW: 570) OOSOOC14H29C14H29DMTP (MW: 570) C17H35NH2Oステアリン酸アミド (MW: 283) C17H35NH2Oステアリン酸アミド (MW: 283) C17H33NH2Oオレイン酸アミド (MW: 281) C17H33NH2Oオレイン酸アミド (MW: 281)

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パパイイロロラライイザザ GGCC//MMSS にによよるる

ポポリリエエチチレレンン中中添添加加剤剤のの分分析析

<要旨> プログラム昇温加熱が可能なパイロライザ(熱分解装置)と質

量分析計(MS)を直結することで、添加剤成分の揮発温度及びポリマーの熱分解開始温度を得ることができました。その結果から、ポリエチレン中

添加剤の熱脱着温度を容易に決定することができ、添加剤の分析に良好な

結果を得ました。 Key Words: ポリエチレン、添加剤、BHT、Irganox 1076、Irgafos 168、DLTP、DMTP、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ダブルショットパ

イロライザ、GC/MS

* * * * * * *

1. はじめに

一般に、高分子材料には、ポリマー(高分子)の

劣化を抑制する目的やポリマーの物性、性質を改善

する目的で添加剤が配合されます。前者は安定剤で、

ポリマーの性質を損なわずに劣化を抑制することが

求められます。後者は機能付与剤や充填剤で、ポリ

マーの特性を生かしつつ、他の特性や機能を付与す

るものです。今日では、添加剤は高分子材料にとっ

て欠くことができないものとなっています。高分子

材料中の添加剤分析は、一般にポリマーから添加剤

を分離し、次に添加剤相互の分離をする必要があり

ます。ポリマーからの添加剤の分離は、従来、溶剤

抽出法や再沈殿法が用いられてきました。一方、昇

温が可能な熱分解装置では、高分子材料をプログラ

ム昇温加熱することで、高分子材料全体の熱的特性

が得られるため、その結果をもとに、高分子材料中

の添加剤などの揮発性成分と基質ポリマーを識別し

て分析を行うことができます。

本アプリケーションニュースでは、昇温加熱が可

能なパイロライザ(熱分解装置)及び GC/MS をポリ

エチレン中添加剤の分析に適用した結果を報告しま

す。

2. 実験

2.1 添加剤

フェノール系酸化防止剤(BHT、Irganox 1076)、

リン系酸化防止剤(Irgafos 168)、イオウ系酸化防

止剤(DLTP、DMTP)及び脂肪族アマイド系滑剤(ス

テアリン酸アミド、オレイン酸アミド)の 7種の添

加剤について検討を行いました。また、これらの添

加剤の構造式を以下に示しました。

2.2 測定条件 2.2.1 装置

パイロライザ:フロンティア・ラボ ダブルショッ

トパイロライザ

GC/MS:Agilent 6890GC/5973MSD

2.2.2 発生ガス分析(EGA)条件 Fig.1 に EGA 法の模式図を示しました。 EGA 温度:60℃(0min)-20℃/min-700℃(1min)

カラム:不活性化金属キャピラリチューブ(2.5m, 0.15mm

id)

GC 注入口温度:300℃

スプリット比:50:1

OH

BHT (MW: 220)

OH

BHT (MW: 220)

OH

O

O

C18H37

Irganox1076 (MW: 530)

OH

O

O

C18H37

Irganox1076 (MW: 530)

O

POO

Irgafos168 (MW: 646)

O

POO

Irgafos168 (MW: 646)

O

O

SO

O

C12H25C12H25

DLTP (MW: 514)O

O

SO

O

C12H25C12H25

DLTP (MW: 514)

O

O

SO

O

C14H29C14H29

DMTP (MW: 570)O

O

SO

O

C14H29C14H29

DMTP (MW: 570)

C17H35NH2

O

ステアリン酸アミド (MW: 283)

C17H35NH2

O

ステアリン酸アミド (MW: 283)

C17H33NH2

O

オレイン酸アミド (MW: 281)

C17H33NH2

O

オレイン酸アミド (MW: 281)

GC オーブン温度:300℃

キャリアガス:ヘリウム(0.8ml/min)

質量範囲:m/z 10-700

Fig.1 EGA 法の模式図

2.2.3 熱脱着(熱抽出)条件 熱脱着温度:60℃(0min)-20℃/min-380℃(0.1min)

カラム:Ultra Alloy-5 (30m, 0.25mm id, 0.25μm film

thickness)

GC 注入口温度:300℃

スプリット比:50:1

GC オーブン温度:35℃(3min)-15℃/min-380℃(5min)

キャリアガス:ヘリウム(1.0ml/min)

質量範囲:m/z 10-700

熱脱着時は発生ガスを一旦トラップするために、カラム先

端を液体窒素で冷却しました。

3. 結果及び考察

Fig.2 に、添加剤標準品 7 種各 2µg の発生ガスプロファイルを示しました。各添加剤成分に特徴的な

m/z によるイオン電流のプロファイル(横軸は温度

に換算)と全イオン電流(TIC)を表示しました。Fig.3

にポリエチレンの発生ガスプロファイルを示しまし

た。

Fig.2 添加剤標準品 7種の発生ガスプロファイル

各添加剤成分の揮発温度は、BHT 60~120℃、オレ

イン酸アミド 140~220℃、ステアリン酸アミド

140~240℃、Irgafos 168 180~約 320℃、DLTP 220

~270℃、Irganox 1076 210~280℃、DMTP 220~

290℃でした。ポリエチレンの熱分解開始温度は、約

370℃でした。添加剤の熱脱着温度はポリエチレンの

熱分解成分の影響をほとんど受けない範囲で高く設

定し、60℃-20℃/分-380℃としました。Fig.4 に、

その熱脱着温度で添加剤標準品 7 種各 2µg を GC/MSで分析した結果を示しました。Fig.5 に、ポリエチ

レン(約 10mg)中 Irganox 1076 の分析を行った結

果を示しました。熱脱着温度を 380℃まで上げても

ポリエチレンの熱分解成分の妨害は小さく、各添加

剤ピークを確認することができました。ポリエチレ

ンの熱分解は、ジオレフィン、オレフィン、パラフ

ィンの三本組のピーク群が全クロマトグラム上に多

数検出されるため、瞬間熱分解で微量の添加剤成分

を見つけ出すことは困難でした。

Fig.3 ポリエチレンの発生ガスプロファイル

Fig.4 添加剤標準品 7種の GC/MS 分析結果

Fig.5 ポリエチレン中添加剤の GC/MS 分析結果

4. まとめ

EGA 法より得られた発生ガスプロファイルから、

各添加剤成分の揮発温度及びポリエチレンの熱分解

開始温度が分かり、その結果から容易にポリエチレ

ン中添加剤の熱脱着温度を決定することができまし

た。

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BHT Irganox1076Irgafos168

DLTPDMTP

ステアリン酸アミド

オレイン酸アミド

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m/z 220m/z 281m/z 283m/z 646m/z 241m/z 531m/z 269

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BHT Irganox1076Irgafos168

DLTPDMTP

ステアリン酸アミド

オレイン酸アミド

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BHT

Irgafos168

DLTP + Irganox1076

DMTP

ステアリン酸アミド

オレイン酸アミド

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TIC: ADD04.D

Irganox1076

【MS-200705-001】

本資料に記載の情報、説明、製品仕様等は予告なしに

変更することがあります。

アジレント・テクノロジー株式会社 〒192-8510 東京都八王子市高倉町 9-1

www.agilent.com/chem/jp

MSD

GC OVEN

PY

ダブルショットパイロライザ(昇温加熱)

不活性化金属キャピラリチューブ2 . 5m, 0 . 15mm id

300℃MSD

GC OVEN

PY

ダブルショットパイロライザ(昇温加熱)

不活性化金属キャピラリチューブ2 . 5m, 0 . 15mm id

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