hairo koubo slide
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ソフト・ロボティクス的手法による燃料デブリへのアクセス
折り紙、インフレータブル、ワイヤ駆動による長尺ヘビ型アーム
荻野 ( @gmail.com )
はじめに(1)
筆者はロボット学会員、原子力学会員ではない一般
専門外の一般個人であり、技術、予算、機材等の制限からも、実試
験に耐える試作機の開発は不可能だったが、試行錯誤の一環として
安価な 3Dプリンタを複数台導入し、ラピッド・プロトタイピング
等を行った。
本公募を昨年 9月 4日に NHKで知り「専門外の一般個人からも何
か有用な提案ができないか?」との思いからスタートした。
また、社会人になって 20年近くソフトウェアにしか携わってこな
かったが、ハードウェアや機械に再挑戦したい気持ちもあり、小さ
くとも結果を出したいとの思いもあった。
はじめに(2)
しかし、筆者のハードウェアに関する技術力の低さに加え「インフ
レータブル」「折り紙」の方向性で更なる模索をする前に締め切り
が迫ってきてしまった。
(本公募後も個人的に市販のバルーンやヘリウム等でインフレータ
ブル・アームの試作を考えている)
今回は「では実際に「折り紙」を応用してどのような形状にするの
か?」といった、検証を伴った具体案が示せない結果となってしま
ったが、工程 [ 1 ]~ [ 8 ]を通して「ヘビ型アーム」は有効である
こと、及びその問題点を補うキーワード「折り紙」「インフレータ
ブル」「ワイヤ駆動」を提案させて頂く。
水中移動→長尺ヘビ型アーム
工程 [ 7 ]の水中移動は燃料デブリ近距離における強い放射線の影響
から困難ではないか?
代替案として「 PCV 1階から Open Hallを通じての長尺ヘビ型アー
ムによるアクセス」を考える。
長尺ヘビ型アームには Open Hall手前からデブリまでの長さが要求される。
ワイヤ駆動によるヘビ型アーム
劣駆動
古くから研究されている。
ヘビ型(索状能動体)といえば東工大の広瀬茂男が世界的権威
所謂「ローテク」の方が放射線の影響を受けにくいと判断
アニマトロニクス(映画「エイリアン」など)
近年は「ソフト・ロボティクス」という分類で再注目
ワイヤの伸縮はモータ、プーリによるウィンチ、スクリュジャッキ
(ボールねじ)等で行う。
Victor Anderson, "Tensor Arm", ﴾Marine Physical Laboratory ﴾MPL﴿ of the
Scripps Institute ofOceanography, 1968﴿
OC Robotics社ヘビ型アーム・ロボットを開発する英国ベンチャー企業
英セラフィールド、仏アレバが原子力関連施設内で同社ロボットを
用いて作業実験を行っている。
ヘビ型アームはモータ(マクソンモータ社製)、スクリュジャッキ
によるワイヤ(ロープ)駆動
OC Robotics社のロボット
本提案のイメージに近い水中活動の写真
OC Robotics, "Snake arm 101"
https://www.youtube.com/watch?v=Ij8VX9YUT_Y
同社ヘビ型アーム・ロボットの仕組みを解説した動画
ヘビ型アームロボットは、航空機や宇宙船の組み立て、原子力分
野、医療技術、セキュリティ分野などに活用されています。カスタ
マの要求に応じて、長さや直径をカスタマイズできます。標準サイ
ズは直径40~150mm、長さは1m~3.25mの範囲内ですが、要望
があれば、長さ10m、直径12.5mmまでの仕様が可能です。アー
ムの直径を大きくすればより重い物を持ち上げることができ、直径
により機能は決定されます。
ヘビ型アームロボットが狭いスペースに舞う ‑マクソンジャパン
http://www.maxonjapan.co.jp/maxon/view/application/SNAKE‑ARM‑ROBOT‑AB
↓
10mでアクチュエータパック(駆動源側)がどれぐらいの大きになるか?
が書かれていないが、それなりに大きくなるのではないか?
提案するロボットの概要
「長尺ヘビ型アーム」+「移動機構」
「移動機構」は移動機能を持ち、アーム駆動源のモータ等を搭載
移動機能は複数のクローラで実現
パンタグラフ機構、バネダンパ等でクローラを管に押し当てること
でグリップさせる。(加 Inuktun社の ROVを参考)
移動機構は燃料デブリから長ヘビ型アームの長さ分だけ距離を保つ
形になる。(放射線防護 3原則の 1つは「距離」)
アームのリンク周囲に滑りやすくする工夫(受動の車輪等)
Inuktun社の管内検査用 ROV
https://www.youtube.com/watch?v=oaUQbN47q1M
移動機構側の参考にしたもの。
これに駆動源のモータ等を載せ、ヘビ型アームを取り付けたものが本提案に近い。
提案するロボットの概要図
セグメント数を 2にしたもの。アームはインフレータブル(後述)にする。
提案するロボットの俯瞰図
スケール感を把握するため CADで簡易作成。左下が直径 30 cmの曲がり管断面、
中央が 5mのアーム、右上に移動機構を 4台つなげた状態を想定。
主にアームを尾のようにして(上図では右上方向へ)前進移動することを想定。
象が鼻で物を掴むようなアーム形状の実現
本提案では細かい節を「リンク」、複数のリンクをまとめて区分け
したものを「セグメント」と呼ぶ。
(文献により定義がまちまちでややこしいが)
セグメントごとに、セグメントの先頭でワイヤを固定、末端から根
元まで長さが不変のパイプ ( cable conduit )を通す。
このパイプを通るワイヤの長さは一定であるため、セグメントごと
に独立して動作することが可能になる。(分割して劣駆動)
セグメントが独立して動作することにより、象が鼻で物を掴むよう
な形状が実現できる。
Yang, Jingzhou, et al. "Synthesis and analysis of a flexible elephant trunk
robot." Advanced Robotics 20.6 (2006): 631‑659.
Kris Temmerman, "Snake Arm / Elephant’s Trunk experiment"
https://www.youtube.com/watch?v=EUEp‑AfvvzE
ワイヤ駆動の触手型アームの仕組みが分かりやすい簡易の実験動画
Joshua Vasquez, "Homebrew Two‑Stage TentacleMechanisms"
https://www.youtube.com/watch?v=_zE‑RMDYHGs
作者が自作のレーザーカッターで作成したもの。
彼の 3本の連続記事はどれも内容が充実しており、非常に参考になる。
Joshua Vasquez, "THE BOOTUP GUIDE TO HOMEBREW TWO‑STAGE
TENTACLE MECHANISMS"
https://hackaday.com/2016/09/13/the‑bootup‑guide‑to‑homebrew‑two‑stage‑
tentacle‑mechanisms/
(文中の "cable conduit"が上述の長さを一定量キープするパイプのこと)
3Dプリンタによるプロトタイピングワイヤ駆動のヘビ型アームに個人的興味もあったため、PLAのみ出力可能の安価な子供用 3Dプリンタを 2台購入
ワイヤ駆動ヘビ型アームを幾つか作成
タミヤの工作キット(遊星ギヤ等)を活用
試作したヘビ型アームの一例
試行錯誤の一環として 3Dプリンタによる試作を繰り返した。
(僭越ながら、写真は多くの金属バネを購入
すると費用がかさむため、輪ゴムで代用する
ことでバネダンパの効用を試すために設計し
たもの)
プロトタイピングを通しての所感
実物大では、フレキシブル・シャフトの様な部材が存在しないので
は?と考え、ユニバーサル・ジョイント(以下 UJ )を採用した。
UJの外側にワイヤを通す設計が多いように思われるが、ジョイン
ト間の間隔が大きいと、ワイヤがジョイントを下回って逆方向に曲
がってしまうことがあった。そこで、UJの内側にワイヤを通すことを考え、その状態を起こらないようにした。
リンク、UJのコマ両方にワイヤを通す穴を空け、コマもリンクと
して扱うように設計した。
リンク、コマの中心に大きめの穴を空け、ワイヤの長さを一定キー
プするパイプを通した。エンドエフェクタへの電気系統も通せる。
リンクを真っ直ぐに保とうとするバネはあった方が良いようだ。
プロトタイピングも通しての懸念
リンクごとにテコの原理が逆の意味で働き、かなり強力なモータが
必要になると思った。移動機構が大きくなると工程 [ 1 ]~ [ 4 ]を
通れない大きさになる可能性がある。
当初はヘビ型アームをただ引きずるつもりだったが、ワイヤ駆動に
よりアーム側にモータ等がない分軽いにしても、工程 [ 6 ]の移動で
不整地、障害物に引っ掛かる可能性は高い。
(アーム自体を回避に活用することも可能かもしれないが、アーム
は軽く、移動機構はその分以上に重いため、アームによる移動機構
の脱出は困難と思われる)
遠藤玄「シビアアクシデント後の遠隔計測技術」 (東工大, 2016)
http://www.lane.iir.titech.ac.jp/ared/images/20160122‑endo.pdf
本提案に非常に似た図を見つけた。
やはり、移動機構(左上)はそれなりに大きく描かれている。
↓
しかし、この大きさだと [ 1 ]~ [ 4 ]の連続曲がり管を通れない。
解決案
概念図のヘビ型アームの方向性は同じままで、
アームに働く水中での浮力
移動機構を分割して数珠つなぎ
アームのインフレータブル( inflatable)化
「折り紙」技術の応用
アームに働く水中での浮力
水中は体積に対して浮力が働くため、宇宙飛行士の船外活動訓練の
ように無重力に近く調整できる。
工程 [ 7 ] [ 8 ]の水中活動に関しては、モータの力が非力でもなん
とかなるのではないか?
水中での作業が無重力に近くなるように Open Hall手前で気体を抜く(後述)等調整する。
工程 [ 6 ]の不整地移動、障害物回避等、地上の方が問題?
移動機構の分割、数珠つなぎ
「提案するロボットの概要図」を再度参照のこと
移動機構を分割(例えば 1セグメントごとに 1台を割り当て)
移動機構の中心に穴を空け、後続車両へ担当セグメントのワイヤを
通して渡す。
ワイヤは担当車両まで、セグメントを独立して動かすためのパイプ
( cable conduit)に通す。
アームのインフレータブル( inflatable)化
リンクをバルーン、アーム全体を蛇腹のバルーンにする等
(金属、樹脂のリンク内にバルーンを入れる、空気より軽い気体を
入れるスペースを設けるのもあり?)
アームを軽くすることで、モータも非力で済み、工程 [ 6 ]の不整地
移動、障害物回避がやりやすくなるのでは?
完全に伸縮可能なバルーン等であれば、帰還困難時にアームを廃棄
しても、次回のロボット投入で邪魔にならない。(栓を抜くだけ)
後述する「ジャコメッティ・アーム」のように気中で完全に浮く必
要はない。(理想は無重力だが、少しでも軽くできればいい)
工程 [ 7 ]の前に Open Hall手前で、水中作業の都合に良いように
アームの気体を抜く等して調整する。
Othrelab, "Inflatable Robot Arm"
https://www.youtube.com/watch?v=SjJkt0zypkw
「バルーン型ジャコメッティアーム」(東工大鈴森・遠藤)
https://www.youtube.com/watch?v=INTHRNcyW9w
↓
ぶっちゃけ、この方向性でもっと剛性があり、水中活動可能なアームが作れないか?
というのがインフレータブル案である。
iRobot, DARPA, "AIRarm Inflatable Robotic Arm"
https://www.youtube.com/watch?v=b1gcwTXm7oE
「折り紙」技術の応用
筆者が思い付くだけでも、日本にはミウラ折りの三浦公亮を始め、
三谷純、舘知宏など、今日では世界中に折り紙研究者が多くいる。
インフレータブルな長尺ヘビ型アームを「折り紙」の技術を応用し
て折り畳めるようにできないか?
「剛体折り紙」であれば、折り畳み可能でありながら硬い構造物が
実現できる。
建築物のような単に硬い構造物でなく、柔軟に曲がる構造にできる
必要がある。
さらに、工学的な応用を考える場合などには、折り線に囲まれた領
域も変形しない(硬いパネルであるとみなす)とした方が都合がよ
いことが多いです。このようなモデルを「剛体折り紙」と呼びま
す。剛体パネルとヒンジで構成されたものをイメージするとよいで
しょう。
下の写真の「ミウラオリ」は、剛体折り紙であって、硬いパネルを
ヒンジで連結することでも開閉ができます。
折り紙研究ノート(2)動き編 ‑三谷純
http://mitani.cs.tsukuba.ac.jp/origami2/
Vander Hoff, Evan, Donghwa Jeong, and Kiju Lee. "OrigamiBot‑I: A thread‑
actuated origami robot formanipulation and locomotion." 2014 IEEE/RSJ
International Conference on Intelligent Robots and Systems. IEEE, 2014.
https://www.youtube.com/watch?v=bEBA5uUeIiQ
( "Twisted Tower"を使っている)
Zhang, Ketao, ChenQiu, and Jian S. Dai. "An Extensible Continuum Robot
With IntegratedOrigami ParallelModules." Journal ofMechanisms and
Robotics 8.3 (2016): 031010.
https://www.youtube.com/watch?v=yaKASG‑nnj0
(折り紙のような構造物にバネが入っている)
アーム・ロボットを助ける補助機構
ヘビ型アーム・ロボットを補助する(概要説明の A4別紙参照)
主な役割はアーム・ロボット帰還時に引っ張り上げるためのロープ
を滑りやすくするすることである。
補助機構は中心に穴の開いた複数の円筒からなる。
円筒の外周には管内を滑るためのローラ、ローラを外周に押し当て
るバネ等が取り付けられている。
補助機構の手前側端点はウィンチに接続
補助機構の進行側端点はヘビ型アームの先端に接続
工程 [ 1 ]~ [ 4 ]においては、曲がり管に間隔を空けて円筒を配置
するように、ヘビ型アーム・ロボットが牽引していく。
連結方法は鉄道の「密着連結器」、磁石等が使えないかと考える。
補助機構の概要図
(概要説明の A4別紙参照)
まとめ(1)
工程 [ 7 ]の水中移動は燃料デブリの放射線により困難と考え、代替
案として「 PCV 1階から燃料デブリへの長尺ヘビ型アームによるア
クセス」を提案した。
ワイヤ駆動の長尺ヘビ型アームにより、以下の懸念を抱いた。
強力なモータ等アクチュエータが必要になる。
よって、移動機構が [ 1 ]~ [ 4 ]の曲がり管を通れない大きさ
になるのではないか?
単なる剛体を引きずると [ 6 ]の不整地移動、障害物回避で引
っ掛かるのではないか?
まとめ(2)
懸念事項に対し以下の解決案を考えた
水中活動では浮力があるため、その分モータを非力にできる。
移動機構を分割、数珠つなぎにして大きなモータ等も分割配置
することで移動機構を細く、細切れにする。
アームを(完全もしくは半)インフレータブルにする。
「折り紙」技術の応用で(可能であれば剛性があり)伸縮自在
にする。それにより帰還困難時もアームをコンパクトにして撤
退でき、次回の投入に支障が出なくなる。
最後に
バルーンでは、ジャコメッティ・アームのように撮影は可能だろう
が、デブリのサンプリング・回収に伴う「切削」は困難と考える。
よって、剛体折り紙という発想につながったのだが、時間が足りな
くなってしまった。
また、ワイヤ駆動は一部で非常に不評である。筆者も試作でトラブ
ルが多かった。ワイヤ駆動を選択したのは放射線対策が主な理由で
あるため、耐放射線性に優れ、本提案のヘビ型アームに適したアク
チュエータがあるならば、ワイヤにこだわる必要はないと考える。
今後も廃炉ロボットについて考えていきたいと思う。