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はじめに ・安 われている.そ して, に対する まりが げられる. きていくために ・エネルギー あり,衛 する けれ い.しかし がら ,さまざま 題によ し, による されている. 17 による 1,545 あり, 1,065 ィル 275 106 58 48 ), 14 77 ,そ 8 あった 1する をみる りそ り, ある による いに しい.しかし ・安 からみた ,多く 題を している. 6 割を に依 する ,マイコトキシン(カ )汚 ある. おける による においてカ ,マイコトキシン ある アフラトキシン により, られている 多くみられる 2による アジア 20 %に する いわれ 3だけ く, から ある. そこ て, による マイコトキシン につい じる. 1.食品危害真菌 1.1 食品危害真菌の変化 くするために いられるように ってきた.また よう ,栄 め多 をみるこ きる.そ ため を汚 する しつつある. Aspergillus restrictusEurotiumWallemia よう ByssochlamysNeosartorya Bull. Natl. Inst. Health Sci., 124 Special report マイコトキシン Hazardous Food-Borne Fungi, and the Present and Future Approaches to the Mycotoxin Regulations in Japan Kosuke Takatori # Maki Aihara and Yoshiko Sugita Konishi In recent years various food related accidents and health scares have dissipated trust in the food industry Health hazards resulting from food contaminated with fungi is increasing Food contamination by fungi causes many problems especially in Japan which relies on foreign countries for about of its food the contamination of imported food by fungi and mycotoxins constitutes a serious problem As the quantity of imported food increases and changes in food distribution have occurred so too has the number and type of fungi causing food related damages osmophilic and thermotolerant fungi in addition to the mainstream fungi of genera Cladosporium Pecinillium and Aspergillus have become a problem Although European countries and the U S have recently conducted risk assessments for mycotoxins Japan has not attained an international level in the determination of baseline values However in addition to risk management for Aflatoxin M Ochratoxin T toxin HT toxin and Fumonisin determination of baseline values for mycotoxins is beginning in Japan In this review we summarize hazardous food borne fungi and present and future approaches to the mycotoxin regulations in Japan Keywords food borne fungi mycotoxin regulation # To whom correspondence should be addressed: Kosuke Takatori; Kamiyoga 1-18-1, Setagaya, Tokyo 158-8501, Japan; Tel: 03-3700-1141 ext.500; Fax: 03-3700-9048; E-mail: [email protected]

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食品危害真菌とマイコトキシン規制の現状と今後 21

はじめに

食の安全・安心が問われている.その背景として,国民の食に対する健康意識の高まりが挙げられる.食は健康で生きていくために必要不可欠な栄養・エネルギー源であり,衛生的で健康に寄与するものでなければならない.しかしながら近年,さまざまな食品事故・問題により食の安全への信頼が失墜し,食品摂取による健康被害が注目されている.厚生労働省平成 17年食中毒発生状況によると,発生

総数は1,545件であり,原因物質は細菌1,065件,ウィルス 275件,自然毒 106件(植物性 58件,動物性 48件),化学物質14件,不明77件,その他8件であった 1).食中毒に関する原因物質をみる限りそのほとんどは細菌であり,同じ微生物である真菌による食中毒報告はほとんどないに等しい.しかし食品の真菌汚染は,食の安全・安心からみた場合,多くの問題を有している.食料の約6割を諸外国に依存する我が国では,輸入食

品の真菌汚染,マイコトキシン(カビ毒)汚染は深刻な問題である.厚生労働省輸入食品監視業務の輸入届出における食品衛生法違反事例によると,輸入穀類や香辛料などにおいてカビの発生,マイコトキシンの一種であるアフラトキシン陽性により,廃棄,積み戻し等の措置が取られている事例が数多くみられる 2).真菌による穀類など備蓄食料の損失はアジアでは全農

業生産量の20%に達するといわれ 3),食品の真菌汚染は健康面だけでなく,経済面からも重要な問題である.そこで本稿は,食品の真菌に焦点を当て,真菌による

食品危害とマイコトキシン規制の取り組みと現状について論じる.

1.食品危害真菌

1.1 食品危害真菌の変化

食品の保存期間を長くするために保存料や日持向上剤,脱酸素剤などが用いられるようになってきた.また以前のような食品に比べ,現在では嗜好性,味,栄養などを含め多様な食品をみることができる.そのため食品を汚染する真菌も変化しつつある.例えば,Aspergillus restrictus,Eurotium,Wallemiaの

ような好稠性・好乾性真菌やByssochlamys,Neosartorya

Bull. Natl. Inst. Health Sci., 124, 21-29 (2006) Special report

食品危害真菌とマイコトキシン規制の現状と今後

高鳥浩介#・相原真紀・小西良子

Hazardous Food-Borne Fungi, and the Present and

Future Approaches to the Mycotoxin Regulations in Japan

Kosuke Takatori#, Maki Aihara and Yoshiko Sugita-Konishi

In recent years, various food-related accidents and health scares have dissipated trust in the food industry.Health hazards resulting from food contaminated with fungi is increasing. Food contamination by fungi causes many problems, especially in Japan, which relies on foreign countriesfor about 60% of its food: the contamination of imported food by fungi and mycotoxins constitutes a seriousproblem.As the quantity of imported food increases and changes in food distribution have occurred, so too has the

number and type of fungi causing food-related damages; osmophilic and thermotolerant fungi, in addition tothe mainstream fungi of genera Cladosporium, Pecinillium, and Aspergillus, have become a problem. Although European countries and the U.S. have recently conducted risk assessments for mycotoxins, Japanhas not attained an international level in the determination of baseline values. However, in addition to riskmanagement for Aflatoxin M1, Ochratoxin, T-2 toxin/HT-2 toxin, and Fumonisin, determination of baselinevalues for mycotoxins is beginning in Japan. In this review, we summarize hazardous food-borne fungi, and present and future approaches to the

mycotoxin regulations in Japan.

Keywords: food-borne fungi, mycotoxin, regulation

#To whom correspondence should be addressed: Kosuke Takatori; Kamiyoga 1-18-1, Setagaya, Tokyo 158-8501, Japan; Tel: 03-3700-1141 ext.500; Fax: 03-3700-9048; E-mail: [email protected]

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国  立  衛  研  報

などの耐熱性真菌,さらにMoniliella,Phomaといった真菌も多く検出されるようになった.すなわち,食品加工技術が進むほどに今まで主流であったCladosporium,Penicillium,Aspergillusなどに加え多種多様の真菌が汚染原因として挙げられるようになった.また,食品の多くを諸外国に依存するようになり,こ

の輸入食品の流通事情が真菌の世界にも影響を及ぼし,Aspergillus,Penicilliumだけでなく,食品汚染性の強い接合菌もはびこりつつある.

1.2 主な食品危害真菌

食品には古くから真菌がいることは知られている.しかし,食品形態や流通の変化,輸入食品の増加により食品真菌にも変化がみられる.その変化ある真菌を含めて主な食品危害真菌の特徴をまとめてみる.1)Cladosporium:食品で汚染事故の多い真菌である 4).水分の多い食品を好んで汚染する.大気中に多く,食品の事故で最も多い真菌であるが,空気中からの汚染が主である.事故として多い理由は,日持ち期間が長くなったこと,包装材料の変化,流通の複雑さ,衛生に対する安易な作業現場の考え方などがある.ただし,Cladosporiumは乾燥や熱に弱く容易に死滅することから衛生管理次第で除去が可能である.2)Penicillium:Cladosporium同様に汚染事故が多い.また国内外を問わず,果実や飲料といった水分の多い食品での事故も多く,汚染は食品原料や空気中を介して起こる.近年,特に飲料での事故が多く,製造環境の不備によるものが多い.パツリンを産生する種も知られている 5-7).Penicilliumは種類が多く共通して乾燥に強いが,熱には弱く容易に死滅する種類が多い.3)Aspergillus:食品での汚染事故は特定のAspergillus種によることが多く,A. nigerがその代表である.A.flavus,A. ochraceusは国内産の食品ではほとんどみられないが,輸入穀類や香辛料などに多く,この中には有毒種や株があり,アフラトキシン,オクラトキシン産生菌として知られる 3,5,6,8).一般に乾燥や熱に強い特徴を持つ.4)Fusarium:水分の多い食品,野菜,果実,ムギなどに多い.国内で普遍的分布をとることから高湿環境にある食品及び野菜,果実の保蔵には注意を払う必要がある.高湿下では長期にわたり生存するが,乾燥に弱い.

Fusariumはムギやトウモロコシの赤カビ病の原因菌であり,圃場での事故は生産者に大きな打撃となる.汚染すると着色することが多く,トリコテセン系マイコトキシンやフモニシンを産生する種も知られている 3,5,6).5)好稠性真菌(Osmophilic fungi):Aspergillus restrictus,Eurotium,Wallemiaがその仲間である.一般には饅頭,カステラ,甘納豆,塩蔵食品,干物などのような高糖,

高塩,乾燥した食品や穀類原料での汚染事故が多い 9).特に甘味の強い食品に多く,饅頭などの土産品での大量汚染の事故が多く,製造者に経済的な影響を及ぼす.乾燥に対して抵抗性があり,数ヶ月~数年間食品中で生存していることもある.6)接合菌:湿った環境に多く,水分の多い食品で事故を起こすことが多い.Rhizopus,Mucor,Thamnidium,Syncephalastrumなどが代表である 9,10).いったん汚染し始めると猛烈な速さで拡がり,食品全体を覆ってしまう.そのために二次汚染性が強く,経済的損失を伴う.近年輸入食品や食肉での汚染原因菌として注目されている種もある.また接合菌の中にはマイコトキシン産生種も知られており注意が必要である.乾燥に弱いが,熱や薬剤に抵抗性がある.

1.3 耐熱性真菌による食品危害拡大

近年,耐熱性真菌による食品危害が拡大しているため,耐熱性菌について詳述する.食品を汚染する耐熱性真菌の最初の記録は,イギリス

で発生した果実の缶詰・瓶詰製品におけるByssochlamysfulva事故である 3).Byssochlamysは子嚢(しのう)菌であり,子嚢と胞子がさらに子嚢果という殻で包まれているために,胞子全体が厚く保護され,子嚢胞子自体の耐熱性に加えて,より強い熱抵抗性を発揮することができる 6,9,11).また,不完全菌類の中にも分生子と同じ無性生殖器官

でありながら,厚膜胞子や菌核のような耐久性細胞を形成する真菌があり,これらの器官によって耐熱性を示すことがある.

Byssochlamys及びその他の耐熱性真菌による果実加工品の変敗については,1970年代以降に活発に研究され,次第にByssochlamys以外の耐熱性真菌による事故もクローズアップされるようになった 12).わが国でも,1980年代後半から食品由来の耐熱性真菌に関心が向けられるようになったが 13),事故多発の背景には,レトルト食品,缶詰,ペットボトル詰飲料の増加,原材料を含めた輸入の増大など多くの要因が関わっている.1990年代から加熱工程のある加工食品全般にも被害が拡大し始めた 14,15).果汁飲料やスポーツドリンクなどpH 4.0未満の容器詰

酸性飲料では,加熱殺菌した後,缶や瓶で熱間充填法が行われている.ところが,最近このような加熱殺菌後にも耐熱性真菌による事故が多発している.また,茶系飲料,ゼリー,ベビーフード,乳製品,ゆでめん,たれ類などにも耐熱性真菌の汚染事故は拡大している.最近,耐熱性真菌による事故が多くなってきた乳製品

では,Byssochlamys nivea及び他の耐熱性真菌の子嚢胞子が生乳を汚染し,加熱殺菌では死滅せず生残してしま

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うことも知られている.これらの耐熱性真菌汚染で今後問題視する必要がある

のは,加熱殺菌によって活性化された子嚢胞子が容易に発芽し,条件次第ではマイコトキシンや二次代謝産物などを産生することである.特に重要なマイコトキシンと考えられるものは,パツリン,フミトレモルゲン(fumitremorgens),ベルクロゲン(verruculogen)などである.

2.マイコトキシン規制の取り組みと現状

マイコトキシンに関しては近年その重要性が認識され,欧米諸国や国際機関等でマイコトキシンに関するリスクアセスメントなどが活発に行われるようになってきた.国際機関によるマイコトキシンのリクスアナリシスは

主にFAO(国連食糧農業機関)及びWHO(世界保健機関)が合同で運営している CAC(合同食品企画委員会:コーデックス委員会),CCFAC(コーデックス食品添加物汚染物質部会),科学者の専門会議である JECFA(合同食品添加物専門家会議)とWHO,UNEP(国連環境計画)及び ILO(国際労働機関)が運営しているIPCS(国際科学物質安全性計画),IARC(国際癌研究機関)が行っている(図 1).そのうち,JECFAは毒性評価,IPCSは化学物質の環境保健クライテリア,IARCは発ガン性に関する評価を担っている.1990年以降,それぞれの機関が6種類のマイコトキシンに関してリスクアセスメントを行っている(表1).我が国においてのマイコトキシンのリスクアセスメン

トを踏まえた基準値策定等への取り組みは,現時点では残念ながら国際水準には至っていない.しかし,2001年に開催された第 56回 JECFA特別部会でアフラトキシンM1,オクラトキシンA,デオキシニバレノール,T-2トキシン/HT-2トキシン,フモニシンのリスクアセスメントがなされたことを契機として,我が国においてもマイコトキシンの基準値策定に動き始めた.まず,トリコテセン系マイコトキシンであるデオキシニバレノールの暫定基準値が小麦に対して設定され,続いてパツリンの基準値が清涼飲料の規格基準として設定された.

本稿ではその経緯をまとめながら,主なマイコトキシンに関してその毒性と我が国における取組みについて説明する.

2.1 デオキシニバレノールの暫定基準値

Fusariumはムギやトウモロコシなどの赤カビ病の病原菌として知られているが,寄生主においてマイコトキシンを産生するため,ヒトや家畜は造血臓器障害や胃腸障害を主症状とする中毒症を起こす.このマイコトキシンはトリコテセン系化合物と呼ば

れ,共通構造(トリコテセン環)を持つ(図 2).類似化合物は約70種類存在するが,そのうちT-2 トキシンとその代謝物であるHT-2トキシン,デオキシニバレノール及びニバレノールは食品から検出される頻度が高いため食品衛生上問題とされている.トリコテセン系マイコトキシンのヒトにおける急性中

毒例としては,ATA症(alimentary toxic aleukia:食中毒性無白血球症)が挙げられる.この事例は,1940年代に旧ソビエト連邦シベリア,アムール地区で頻発した中毒で,原因はFusarium sporotrichioidesが産生するマイコトキシンであると考えられ,後にこのマイコトキシンはT-2 トキシンであることが動物実験で明らかになった.我が国の事例としては1946~1963年にかけて,北海

道,東京,高知,神奈川,静岡,鹿児島で起こったうどんや米飯の食中毒が挙げられる.それらの食材からニバ

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国  立  衛  研  報

レノールやデオキシニバレノールなどのトリコテセン系マイコトキシンが検出されていることから,赤カビ中毒症とも呼ばれている.世界的には,1960~ 1991年の間に大規模な中毒事件

が中国やインドで 53件も記録されている.1991年に起こった中国での食中毒事例では 13万人の中毒患者が発生し,多くの原因食品からデオキシニバレノールが検出された.しかしデオキシニバレノールの汚染量が 0.4~13 mg/kgであっても急性中毒が認められなかったという報告があり,ニバレノールやデオキシニバレノールは,前述のような急性毒性を引き起こすには,数十 mg/kg単位の毒素量が必要であると考えられる.実際にカナダでは小麦と小麦製品で最高レベルが1~ 10 mg/kgの汚染が継続して認められており,ドイツにおいても1~20mg/kgの汚染が報告されている.我が国やその他の国でも100 mg/kg程度の汚染は常に検出されるにもかかわらず,これらの地域でのヒトの急性中毒の報告がないことから,数 mg/kgの汚染量では急性中毒を招来しないと推測される.一方,トリコテセン系マイコトキシンの慢性毒性とし

ては,動物実験で最も感受性高く現れるのは摂食障害,体重減少である.JECFAで設定した暫定耐容摂取量(PMTDI)もこのNOEL(無作用量)が根拠となっている 16).また,免疫抑制作用も重要な慢性毒性である.実験動物の結果から,感染抵抗性の低下や IgA産生異常による IgA腎症を起こすことが実証されている.最近ではニバレノールの発ガンプロモーター作用も実験動物で報告されており,今後もより詳細な毒性試験が必要なマイコトキシンである.

食品での汚染例は主に穀類が多く,小麦,大麦,ハダカ麦等のムギ類,トウモロコシ,コメなどが主な汚染源となっている.産生菌は,アメリカ,カナダ,ヨーロッパなど世界中でみられ,我が国にも全国的に生息している.我が国では,JECFAにおいてデオキシニバレノール

のPMTDIが 1 mg/kg体重/日と設定されたことを受けて,厚生労働省が平成 13年から平成14年にかけて我が国での汚染実態調査と暴露評価を行った.まずPMTDI(1 mg/kg体重/日)を充たすのに必要な我が国の穀物中のデオキシニバレノール汚染量の許容される最大汚染量を推定するため,①小麦のみが汚染されている場合,②米の汚染が麦の約 40%の汚染率である場合(JECFAの報告による)③米の汚染が麦と同等である場合の3つの仮定に対し,製粉及び加工に伴う減衰率を 30%及び 50%の 2通りで算出し,6つのシナリオを描いた(表 2).同時に輸入小麦,国産麦類及び米についての実態調査を開始した.我が国では,小麦においてデオキシニバレノ

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ールとニバレノールの汚染が比較的起きやすいことから,両者の汚染を調査した.平成13年度調査では,輸入品については3カ国由来の

小麦玄麦を,国産品については2地域由来の小麦玄麦をそれぞれ分析した.輸入小麦のデオキシニバレノールの汚染濃度は検出未満から740 mg/kgの範囲であり,国産小麦では一地域は検出未満から10 mg/kgの範囲であったが,他の地域では2 mg/kgから2,248 mg/kgの範囲であった.この高値を呈する小麦の出現頻度に関しては,流通量に比例したサンプル数を用いていないことから推定することはできないが,表2で示したシナリオのうち小麦のみが汚染されておりかつ加工によるデオキシニバレノールの減衰率が 50 %とした場合の許容される最大汚染量1,110 mg/kgを越える玄麦が 4検体も検出されたことから,今後小麦についてデオキシニバレノール摂取による健康危害を未然に防止するための対策を検討する必要があると考えられた.そのため,このシナリオから算出された許容最大汚染

量を丸めた値である1,100 mg/kgを,平成14年5月に小麦玄麦を対象にデオキシニバレノールの暫定基準値として設定した 17).同時に分析法に関してもコラボラティブスタディを行い通知した 18).一方,ニバレノールは全ての小麦で 29 mg/kg以下,

ハダカ麦についても110 mg/kgを示した1検体以外はすべて 48 mg/kg以下であった.これらの汚染結果でデオキシニバレノールより低レベルであること,ニバレノールに関しては毒性影響に関する知見が未だ限られているため JECFAで毒性評価が行われていないことなどから,今すぐ緊急的に対策を取る必要はないと考えられた.しかし今後毒性影響に関する知見を蓄積しながら汚染実績を監視し,その結果によってはしかるべき対策が必要になることも考えられる 19).平成 14年度の研究調査では,加工による減衰率,米

の汚染度の寄与率,小麦,小麦粉における汚染実態調査を行い,既に設定された暫定基準値の検証を行った 20).国産米のデオキシニバレノール平均汚染濃度は 2.64

mg/kg,ニバレノールは2.37 mg/kgであった.米の精白に伴う減衰率はデオキシニバレノールで 36 %,ニバレノールで44 %であった.日本人の平均体重を52.6 kgとしたとき,米からのデオキシニバレノール,ニバレノールの摂取量は体重 1 kg当たりそれぞれ 0.0029 mg/日,0.0032 mg/日となる.1~6歳の幼児では体重15.9 kgとすると,体重1 kg当たりデオキシニバレノールが0.0052mg/日,ニバレノールが0.0056 mg/日となる.この摂取量は非常に少なく,無視できるものと考えられた.国産小麦においてのデオキシニバレノール平均汚染濃

度は160 mg/kg,ニバレノールは59 mg/kgであった.輸入小麦のデオキシニバレノール平均汚染濃度は,農林水

産省の輸入穀物検査資料から 60 mg/kgと算出された.国産小麦のデオキシニバレノールの汚染濃度が暫定基準値1,100 mg/kg以上の汚染が認められたのは199検体中6検体のみであった.輸入量から加重計算をした結果,我が国の全体的な平均汚染濃度は71 mg/kgと算出された.小麦粉における残存率は玄麦の 44.6 %とした.加工によるデオキシニバレノールの残存は麺類では28.9%,パン類では97.1%であった.以上の前提のもとに,より詳細な許容される最大汚染

量を算出したところ,表3で示したように全年齢平均での玄麦中のデオキシニバレノールは1,913 mg/kgまで許容できることから,暫定基準値に問題がないことが検証された.幼児に対しての許容最大値は暫定基準値より低い値が算出されたが,現在の汚染状況から850 mg/kg以上を超える小麦が全体の1割未満と少ないこと,デオキシニバレノールの推定摂取量のPMTDIに対する割合が8.3 %であることから直ちに問題となる実態ではないと考えられた(表4).今後暫定基準値から基準値にする場合には,ニバレノ

ールの毒性評価,乳幼児用食品に対する基準値策定の有無等を考慮に入れて,科学的根拠に基づき慎重に進める必要がある.

2.2 パツリンの基準値

パツリンは,主にリンゴに病原性をもつPenicilliumが産生するマイコトキシンである(図 3).パツリンの汚染事例の大部分はリンゴジュースやリンゴの加工品が占めており,その原因としては真菌や虫食いなどで傷んだ果実をジュース等の原料に用いることによる.毒性としては,非常に高濃度において多くの動物に対

して致死的毒性を持つが,変異原性,催奇形性,発ガン性などは明白ではない.パツリンの中毒例はヒトでは報

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国  立  衛  研  報

告がないが,1950年代に我が国でウシにおいて中毒事件が起き,その原因物質としてパツリン産生菌が検出された.しかし,パツリンが関与しているかどうかは定かではない.パツリンの国際規格はコーデックス委員会においてす

でに50 mg/kgと設定されていることから 21),我が国でも平成15年11月26日に清涼飲料水の成分規格の一部にパツリンの規格基準を加えて改正された 22).その根拠となったパツリンの汚染実態調査は農林水産省が調査したものである(表 5).ストレート果汁では,国産 42件すべてに汚染が認められなかったが,輸入品及び産地表示のないもの88件からは6件検出限界以上のパツリンが検出された.しかしコーデックス基準を超えたものはなかった.濃縮果汁では輸入品 17件から1件 50 mg/kgを超えるものが検出された.このため,厚生労働省はパツリンによる健康被害を未然に防ぐために,基準値を設けるに至った.なお分析法は本研究所がコアラボとなりコラボラティブスタディを実施し,妥当であることを検証し確立した 23).今のところ,この基準値はリンゴジュースのみに適応

となり,ジャムや缶詰などのリンゴ加工品には設定されていない.我々は平成 15年度にリンゴ加工品及びベビーフードについてパツリン汚染調査を行ったが,ベビーフードについては汚染濃度は低いもののやや検出率が高かった(表 6).幼児は体重が少ないわりにリンゴジュースなどの消費量が多いため,今後も汚染実態を監視し,その結果によってはしかるべき対策が必要になることも

考えられる.

2.3 今後規格基準値が検討されるべきマイコトキシン

1)アフラトキシン

アフラトキシンは,発ガン性を有するマイコトキシンとして知られているが,我が国ではまだ基準値が設定されていないことはあまり知られていない.現状においては,我が国での食品中のアフラトキシン

はB1のみを対象としており,食品衛生法第6条で規制されている.昭和48年通知の環食128号においてアフラトキシンB1が検出されてはならないこととされていることから,当時の検出限界であった10 mg/kgが実質上の規制値となっている.分析法は平成14年3月に改正が行われ,高速液体クロマトグラフィーを用いた方法により,10 mg/kg以上検出されたものを違反としている.しかし,この規制は基準値として設定されたものではない.世界的動向としては,トータルアフラトキシン(B1,

G1,B2,G2)に対して規制値を設定している国の数は年々増加している.CCFACは,ツリーナッツ(アーモンド,ピスタチオ,クルミなど)に対してトータルアフラトキシンとして基準値を設定する準備に入っている.また毒性学的にいっても,アフラトキシンの発ガン性はアフラトキシンB1が最も高いが,アフラトキシンG1もその 10分の 1であるとされている 24).アフラトキシンB2,G2の毒性はまだ確証はされていないが,健康被害を未然に防ぐ目的としてはトータルアフラトキシンでの

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食品危害真菌とマイコトキシン規制の現状と今後 27

規制は有効であろう.その基準値については実態調査を踏まえた我が国の暴露実態を正確に把握した後に科学的な手法を用い最も適切な値を設定する必要があろう.この規制に対象となるものとしては,食品,畜産品,

飼料等が挙げられる.多くの国でアフラトキシンの規制はトータルアフラトキシン(B1,G1,B2,G2)として,特にヨーロッパ連合ではこの規制にさらにアフラトキシンB1の規制を組み合わせて設定している.2)オクラトキシン

オクラトキシンAはAspergillusやPenicilliumが産生するマイコトキシンであるが,世界中の広い範囲で汚染がみられるマイコトキシンである.2001年に開かれたJECFAによってリスク評価がなされ,1週間暫定耐容許容量が100 ng/kg体重/週と設定された 25).汚染食品としては穀類,豆類,ぶどう,コーヒー豆,

そば,豚肉加工品,ビール,カカオなどと幅広い.疫学的にはユーゴスラビア,ブルガリア及びルーマニアなどのバチカン諸国の特定地域の農村で風土病的に多発した腎臓疾患(バルカン腎症)の原因物質である可能性も指摘されている.そのため,ヨーロッパ諸国では厳しい規制が行われている.発ガン性も動物実験では立証されており,1993年 IARCにおいてグループ2B(ヒトに対して発ガン危険性の可能性がある)に分類されている 26).今のところ発ガンメカニズムに関しては不明な点が多いことから,CACにおいて基準値を設定するまでに至っていないが,早急に対処しなければならないマイコトキシンの一つである.3)フモニシン

フモニシンはFusariumが産生するマイコトキシンで,馬の大脳白質部液化性壊死症やブタの肺水腫の原因物質として知られている.ヒトでは食道ガンとの因果関係が

あるとの報告もあることから 27),最近 JECFAによってリスク評価がなされ,一日暫定耐容許容量が2 mg/kg体重/日と設定された.フモニシンの発ガン性は実験動物を用いて既に実証さ

れているが,ヒトでの発ガン性との因果関係を確証付ける疫学調査はまだ出されていない 28).最近のトピックスとしては,フモニシンと新生児の神

経管欠損との関連性が挙げられる.1990年代はじめにテキサス-メキシコ国境付近でまれな出生時欠損が多発したが,汚染されたトウモロコシが原因であるとする強力な証拠が示された 29).1990年から神経管欠損の乳児が増加し,キャメロン郡だけで 6週間のうちに6人の無脳症又は脳不全児が生まれた.調査の結果,国境近くのほとんどすべての郡で神経管欠損発症率が高いことがわかったが,テキサス保健当局はその年のトウモロコシにフモニシンが高濃度に含まれていたことやテキサスの馬にフモニシンによる致死性脳疾患が流行していたことから,フモニシとの因果関係が疑われた.フモニシンは胎児の葉酸利用を阻害し,新生児の神経管欠損のリスクを高めることは以前から実験的に示唆されていたことや,発症率が摂取していたトウモロコシのフモニシン汚染量に依存していることがその根拠として挙げられている.フモニシンは比較的最近発見されたことから,標的細

胞や毒性機序など未解明のことが多く,ヒトへの発ガン性も疫学的研究が必要である.しかし高頻度でトウモロコシから検出されているため,今後規制を視野に入れた研究が国際的に進むことが望まれている.以上3つのマイコトキシンに関しては既に我が国に流

通する食品を対象に 3年間通年で実態調査を行っており,これらの結果をもとに基準値策定の必要性について検討される予定であるが,マイコトキシン汚染は気象条

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国  立  衛  研  報

件に大きく影響されるため,長期間の監視が必要である.これらのマイコトキシン以外にも,ゼアラレノンのように内分泌かく乱作用を有するものや,トリコテセン系マイコトキシンのように共汚染を視野に基準値策定に取り組まなくてはいけないものも残されている(表7).また,分析法においてもより迅速かつ正確な分析法の

開発が急務となっている.マイコトキシン汚染は食の安全性に関わる重要な問題だけに,科学的根拠をもって基準値を策定し,それが守られているかのモニタリングを行うことが今後の課題である.

おわりに

食品は一般には無菌ではない.量的な差はあるが食品原料,加工食品にはどのような過程であれ生息することを知る必要がある.防御の観点からいえば,食品中の微生物制御は衛生学的に重要な対策であるが,食品という性質上必ずしも防除することに対して過剰なほど無菌を意識することはない.真菌のもつ基本的な性質,熱に弱い,乾燥に弱い,酸

素を要求する,表面を汚染する,真菌と食品との関係は特異的である,すべての汚染真菌がマイコトキシンを産生するとは限らない.しかし,食品危害真菌によるマイコトキシンは食品の安全性の観点から国際的に規制の方向にあり,我が国でも食品安全委員会及び審議会で独自の規制値が議論されてきている.こうした食品危害真菌の制御とマイコトキシン規制は共に食品衛生学的に重要な課題であり,今後も取り組んでいく.

参 考 文 献

1) 厚生労働省: 食中毒・食品監視関連情報(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html)

2) 厚生労働省 : 輸入食品監視業務ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-

1.html)3) 宇田川俊一 編:食品のカビⅠ 基礎編 食品のカビ汚染と危害,幸書房(2004)

4) 藤井建夫 編:食品微生物Ⅱ 制御編 食品の保全と微生物,幸書房(2001)

5) 宇田川俊一ら:食品安全セミナー5 マイコトキシン,中央法規出版(2002)

6) Samson R. A. et al.: Introduction to food- and airbornefungi, 7th ed., CBS, Utrecht (2004)

7) Samson R. A. et al.: Penicillium subgenus Penicillium:new taxonomic schemes, mycotoxins and otherextrolites, CBS, Utrecht (2004)

8) Klich M. A.: Identification of common Aspergillusspecies, CBS, Utrecht (2002)

9) 高鳥浩介 監:かび検査マニュアルカラー図譜,テ

クノシステム(2002)10)李憲俊:カビの同定Ⅱ,防菌防黴,33,307-310(2005)

11)相原真紀:カビの同定Ⅲ,防菌防黴,33,373-377(2005)

12)芝崎勲 監:有害微生物管理技術,第Ⅰ巻,フジテクノシステム(2000)

13)内藤茂三:食品保存へのオゾンの利用に関する研究(第 37報)菓子に生育する糸状菌とオゾン水殺菌.愛知食品工技年報,39,57-65(1998)

14)Pitt J. I. et al.: Fungi and food spoilage, 2nd ed,Blackie Academic & Professional (1997)

15)酒井綾子,川上久美子,高鳥浩介,齋藤行生:真菌汚染による苦情食品とその喫食による健康被害.食衛誌,45,201-206(2004)

16)WHO: Safety Evaluation of Certain Mycotoxins inFood, WHO Food Additives Series 47, 419-555Geneva (2001)

17)厚生労働省:小麦中のデオキシニバレノールに係る暫定的な基準値の設定について,平成 14年 5月 21日,食発第0521001号(2002)

18)Sugita-Konsihi, Y., Tanaka, T., Tabata, S., Nakajima,M., Nouno, M., Nakaie, Y., Chonan, T., Aoyagi, M.,Kibune, N., Mizuno, K., Ishikuro, E., Kanamaru, N.,Minamisawa, M., Aita, N., Kushiro, M., Tanaka,K.,Takatori, K., Mycopathologia, 161, 239-243 (2006).

19)熊谷進ら:平成 13年度厚生科学特別研究事業総括・分担報告書(2002)

20)熊谷進ら: 平成14年度厚生労働科学特別研究事業総括・分担報告書(2003)

21)WHO: Safety Evaluation of Certain Mycotoxins inFood, WHO Technical Report Series, 859, 377-402,Geneva (1995)

22)横田栄一:りんごジュースおよび原料用りんご果汁に含まれるパツリンに関する規格基準の設定,食品衛生研究,54(3),7-10(2004)

23)Sugita-Konsihi, Y., Tanaka, T., Sugiura, Y., Tabata, S.,Nakajima, M., Sakurai, H., Nakaie, Y., Sato, K., Kitani,Y., Fujita, K., Hayashi, S., Iizuka, T., i Hirakawa, Y.,Mochizuki, N., Hoshino, M., Sato, Y., Takahashi, N.,Takatori, K.: J. Food Hygien. Soc. of Japan, 46 (5), 224-227 (2005)

24)WHO: Safety evaluation of certain food additives andcontaminants. WHO Food Additives Series, 40, 361-452, Geneva (1998)

25)WHO: Safety Evaluation of Certain Mycotoxins inFood, WHO Food Additives Series, 47, 281-415,Geneva (2001)

28 第124号(2006)

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食品危害真菌とマイコトキシン規制の現状と今後 29

26)IARC: Some Food Items and Constituents, HeterocyclicAromatic Amines and Mycotoxins, IARC Monographson the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans,56, Lyon, IARC (1993)

27)Chu F. S. and Li G. Y.: Appl Environ Microbiol, 60,847-52 (1994)

28)WHO: Safety Evaluation of Certain Mycotoxins inFood, WHO Food Additives Series, 47, 103-279,Geneva (2001)

29)Marasas, W. F. O., Riley, R. T., Hendricks, K. A.,Stevens, V.L., et al., J. Nutr., 134, 711-716 (2004)