hivとは?hivとは? ~hiv医療の実際~ 大阪市立総合医療センター...

46
HIVとは? ~HIV医療の実際~ 大阪市立総合医療センター 感染症内科 Dept. of Infectious Diseases, Osaka City General Hospital 白野 倫徳 Michinori Shirano, MD, PhD, DTM&H 感染症通訳養成講座 2021年1月16日(土)

Upload: others

Post on 20-Feb-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • HIVとは?~HIV医療の実際~

    大阪市立総合医療センター 感染症内科Dept. of Infectious Diseases, Osaka City General Hospital

    白野 倫徳Michinori Shirano, MD, PhD, DTM&H

    感染症通訳養成講座2021年1月16日(土)

  • 本日のおはなし

    1. ことばの意味と感染症の基本

    2. データからみる、通訳に期待されること

    3. どうやって感染する?

    4. HIVの検査とは

    5. HIVの治療と通院の実際

    6. これからの問題点

    7. 告知にまつわるあれこれ

  • 感染(かんせん)

    *検査していない*まだ陽性にならないウィンドウ期

    *知られていない感染症

    すべて

    ひょうじゅんよぼうさく

    標準予防策とはStandard Precautions

  • 感染症がうつるルート

    標準予防策

    空気感染(くうき)飛沫感染(ひまつ)接触感染(せっしょく)

    感染経路別

    空気予防策飛沫予防策接触予防策

    血液・体液(けつえき・たいえき)ベクター(蚊、ダニなど)

    HIVは血液・体液⇒標準予防策で十分

  • ひまつ くうき

    飛沫感染と空気感染のちがい

    飛沫感染

    飛沫核乾燥

    空気中をフワフワただよう

    吸い込むことで感染

    空気感染結核(けっかく), 麻しん(はしか)水痘・帯状疱疹(水ぼうそう)ウイルス

    空気感染

  • 咳エチケット 咳やくしゃみをしているときはマスクをする (正しくつける)

    咳やくしゃみをするとき、マスクをしていない場合は、

    ティッシュなどで口と鼻をおさえ、ほかの人から顔をそむけて

    1m以上はなれる

    鼻水・たんなどを含んだティッシュを、すぐにフタのついたゴミ箱に捨てられるようにする

    以上のようなことを咳やくしゃみをしている人にすすめる

  • Human Immunodeficiency Virus

    ヒト 免疫不全(めんえきふぜん)ウイルス

    Acquired Immunodeficiency Syndrome

    後天性(こうてんせい)免疫不全 症候群(しょうこうぐん)

    HIV

    AIDS(エイズ)

    エイズをおこすウイルスのなまえ

    HIVに感染したことにより、だんだん抵抗力が落ちてきて、健康な人ならかからないような弱い病原体によって、さまざまな感染症を起こした状態。(1~数年後)

    このような感染症のことを「日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)」とよびます。

  • AIDSにふくまれる病気ウイルス感染症(virus)

    13. サイトメガロウィルス感染症

    14. 単純ヘルペスウィルス感染症

    15. 進行性多巣性白質脳症

    ◆腫瘍(tumor/cancer)

    16. カポジ肉腫

    17. 原発性脳リンパ腫

    18. 非ホジキンリンパ腫

    19. 浸潤性子宮頸癌

    ◆その他(others)

    20. 反復性肺炎

    21. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成

    22. HIV脳症(認知症、または亜急性脳炎)

    23. HIV消耗性症候群

    (全身衰弱、またはスリム病)

    ◆真菌症(fungus)

    1. カンジダ症(食道、気管、気管支、肺など)

    2. クリプトコッカス症(肺以外)

    3. コクシジオイデス症

    4. ヒストプラズマ

    5. ニューモシスチス肺炎

    ◆原虫症(parasite/protozoa)

    6. トキソプラズマ脳症(生後1ヶ月以後)

    7. クリプトスポリジウム症

    (1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)

    8. イソスポラ症

    (1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの)

    ◆細菌感染症(bacteria)

    9. 化膿性細菌感染症

    10. サルモネラ菌血症

    (再発を繰り返すものでチフス菌

    によるものを除く)

    11. 活動性結核

    12. 非結核性抗酸菌症

    症候群(しょうこうぐん)とはさまざまな病気をまとめたよび方です

  • 主なエイズの病気(2019年)

    ニューモシスティス肺炎,

    201

    カンジダ症, 83

    サイトメガロウィルス感染症, 58

    HIV消耗性症候群, 27

    HIV脳症, 19

    活動性結核, 14

    カポジ肉腫, 13

    単純ヘルペスウィルス感染症, 13

    非ホジキンリンパ腫, 11

    その他, 31

    厚生労働省エイズ動向委員会「2019年エイズ発生動向年報」より作成

  • 免疫(めんえき)とは

    免疫

    病原性の低い異物☞アレルギー

    細菌やウイルスなどの病原体☞正常な免疫反応

    自分の体の一部☞膠原病(こうげんびょう)

    自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)

    自分でないものが体にはいってきたときに、戦う力

  • 免疫にかかわる細胞(さいぼう)

    リンパ球

    好中球単球好酸球好塩基球

    T細胞

    B細胞

    CD4陽性

    CD8陽性

    白血球

    (WBC)

    CD4=白血球数×リンパ球(%)×CD4(%)で計算される。(単位:/mm3 )健康な人は300-1500 /mm3程度

    液性免疫(えきせいめんえき)

    細胞性免疫(さいぼうせいめんえき)

    http://2009.igem.org/File:HIV_absorb_cd4_and_ccr5.png

  • ①AIDSの原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)はCD4陽性細胞に感染します。

    ③感染したCD4陽性細胞は数日でこわされてしまい、だんだん数がへってきます。

    ②HIVは感染したCD4陽性細胞の中でふえて、外に出ていきます。

    HIV

    HIV

    HIV

    HIVに感染したら

  • HIV感染症「治療の手引き」第24版 http://www.hivjp.org/

    HIVに感染してから

    CD4はふえる

    ウイルス量はへる

    治療

    CD4が200を下回ると、AIDSになるリスクが高まる。

  • まとめ

    CD4(シーディーフォー)

    • 免疫のはたらきでとくに大切な細胞

    • だいたい500以上が正常

    • HIVに感染すると、だんだんへってくる

    • 200を下回ると、エイズになるリスクが高い

    ウイルス量(りょう)

    • Viral Load, HIV-RNA量ともいう

    • HIVの薬をのんでいるひとの多くは

  • 日本の新規感染者数(しんきかんせんしゃすう)※凝固因子製剤による感染は除く

    (人)

    (年)0

    200

    400

    600

    800

    1000

    1200

    1400

    1600

    85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19

    HIV感染者

    エイズ患者21739

    9646

    すべての合計(2019年末現在)

    約30%がエイズ発症

    毎年1200-1500人徐々に減少

    厚生労働省エイズ動向委員会「2019年エイズ発生動向年報」より作成

  • 22.7%

    61.4%

    0.5%

    0.1%15.3%

    男性 (n=28,009)

    66.0%

    0.3%

    0.4%

    0.8%

    32.5%

    女性 (n=3,376)

    異性間

    同性間

    静注薬物

    母子

    その他

    不明

    厚生労働省エイズ動向委員会「2019年エイズ発生動向年報」より作成

    男性の6割以上は同性間

    感染経路(かんせんけいろ)別(全国)(2019年末現在・全国・累積)

  • HIV/AIDS-Male(国籍別こくせきべつ)

    0

    200

    400

    600

    800

    1000

    85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19

    (人) HIV日本男HIV外国男

    AIDS日本男

    AIDS外国男

    (年)

    厚労省エイズ動向委員会「平成31年エイズ発生動向年報」より作成

    外国籍:2019年は計153名少しずつ↑

  • HIV/AIDS-Female(国籍別こくせきべつ)

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19

    (人) HIV日本女

    HIV外国女

    AIDS日本女

    AIDS外国女

    (年)厚労省エイズ動向委員会「平成31年エイズ発生動向年報」より作成

    外国籍⇒2019年は計23名

  • HIV/AIDS-Female(国籍別こくせきべつ)

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    00 02 04 06 08 10 12 14 16 18

    (人)

    HIV日本女

    HIV外国女

    AIDS日本女

    AIDS外国女

    (年)厚労省エイズ動向委員会「平成31年エイズ発生動向年報」より作成

  • HIV感染者およびAIDS患者の国籍別、性別合計

    7798

    995 422 431

    17208

    2008 1025 1498

    0

    2000

    4000

    6000

    8000

    10000

    12000

    14000

    16000

    18000

    20000

    22000

    24000

    26000

    日本国籍男 外国国籍男 日本国籍女 外国国籍女

    人数HIV

    AIDS

    31%

    33%

    2018年末現在(厚労省エイズ動向委員会「平成30年エイズ発生動向年報」より作成)

    外国籍の方が、AIDSの割合が高い

    女性の総数は外国籍の方が多い

  • 国籍別CD4数平均値

    330.6 332.3

    246.2

    321.9

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    1994-2004年 2005‐2015年

    日本国籍

    外国籍

    t検定

    n=180 22 614 26p=0.443 p=0.858

    (/μL)

    当院データ日本エイズ学会誌2017:19(3):p176-179

    最近は差が小さくなっている

  • 健康保険(けんこうほけん)とCD4数平均値

    302.2372.3

    124.7 154

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    400

    1994-2004年 2005‐2015年

    あり

    なし

    t検定

    n= 13 9 20 6

    p=0.128 p=0.097(/μL)

    当院データ日本エイズ学会誌2017:19(3):p176-179

    保険がないとやはりCD4が低い

  • 医療通訳に期待されること

    受診が遅れる理由は

    お金の壁

    ことばの壁

    によるものがほとんど。

    医療通訳に期待するものは大きい。

    お金の問題も、ことばが通じることで、

    ある程度解決することもある。

  • はやく病院にいくのが大切

    薬をのまないとエイズを発症してしまう

    進行してからだと、治療に失敗する可能性が高くなる

    がんや心臓の病気など、ほかの病気のリスクも高くなってしまう

    パートナーに感染させてしまうことがある

    症状がなくても、必ず病院には行く!

  • HIVはどうやって感染するの?HIV陽性の人の体の中でHIVが存在するところ

    血液(けつえき)精液(せいえき)

    膣分泌液(ちつぶんぴつえき)母乳(ぼにゅう)

    粘膜(ねんまく)性器・直腸・口・傷口(せいき・ちょくちょう・くち・きずぐち)

    HIVが体の中に入るところ

    ふれる

  • HIVに感染する確率

    さまざまな行為1回あたりの感染リスク

    NEJM 336, 1072-8;1997

    性行為 針刺し 注射針共用

    0.1

    1

    10

    95

    50

    0.02

    0.01

    (%)

    女→男

    男→男

    男→女

    ウイルス量や接する表面積によって変わります

  • Undetectable = Untransmittable

    Un-detect-able = Un-transmitt-able

    非 検出 できる 非 伝播(感染) できる

    検出できない=感染の可能性がない

  • U=Uの状態

    https://www.janpplus.jp/topic/599

    JaNP+ニュースレター第40号より引用

    国際的には200コピー/mL未満

    https://www.janpplus.jp/topic/599

  • HIV検査ってどこで受けられるの?

    http://www.hivkensa.com/

    http://chotcast.com/

    「HIV検査相談マップ」では検査を受けることができる場所を検索できます。

    「chotCAST」では夜間、休日検査をしています。

  • HIVの検査(けんさ)0.1%の割合で

    偽陽性(ぎようせい)が出る

    保健所などの検査では、感染してから2カ月程度でないと検出できません

  • 検査の流れ• 即日検査(そくじつ=その日に結果お知らせ)

    検査の説明→採血

    →(陰性:negative)→結果説明→おわり

    →(陽性:positiveの場合)

    →よりくわしい検査が必要であると説明

    →1週間後結果説明→陽性なら病院紹介

    • 通常検査(つうじょう=1週間後結果お知らせ)

    検査の説明→採血

    →1週間後結果説明→陽性なら病院紹介

  • 診療のながれ

    はじめての受診時

    ・これまでの経過、今までにかかった病気、

    生活習慣などの問診

    ・検査の説明

    ・血液・尿などの検査、レントゲン検査

    ・制度の説明、生活指導、薬の説明など

    日々の受診時

    ・薬をのめているか、体調の変化などの問診

    ・生活習慣や薬の副作用についての検査、結果説明

  • チーム医療

    看護師(かんごし)

    薬剤師(やくざいし)

    MSW(医療ソーシャルワーカー)

    ⇒さまざまな制度の手続き

    心理(しんり)カウンセラー

    ⇒さまざまな制度の手続き

    言語聴覚士(げんごちょうかくし)

    ⇒脳やことばの評価、リハビリ

    栄養士・管理栄養士

    (えいようし・かんりえいようし)

    ⇒食生活の指導、アドバイス

  • HIV感染症治療の手引き第24版(2020年11月)

    利用できる制度

    自立支援医療じりつしえんいりょう

    身体障害者手帳しんたいしょうがいしゃてちょう

  • いつから治療を始めるか

    厚生労働省研究班 抗HIV治療ガイドライン 2020年3月HIV感染症「治療の手引き」第24版 2020年11月

    CD4陽性リンパ球数にかかわらず、すべてのHIV感染者にARTの開始を推奨する。

    ただし、治療を受ける意思と能力を確認すること。医療費助成制度の活用についても十分に検討すること。

  • 実際のくすり

    厚生労働省研究班 抗HIV治療ガイドライン 2020年3月版3種類の薬の組み合わせ

  • 飲み忘れがダメな理由

    ACC患者ノート 2019年版

    たいせい

    耐性

  • Futures Japan調査結果より

    https://survey.futures-japan.jp/

    医療スタッフに相談したいことができなかった経験(%)

    n=881

    相談できなかった理由第1位→「医療スタッフの前では良い患者を

    演じてしまうから」(45.5%)

  • HIV陽性者の寿命

    PLoS ONE 6(7): e22698.

    生存率コントロール良好:HIV-RNA:50copies/ml未満

    and/or CD4 200以上

    0 20 40 60 80 100

    薬物乱用のある陽性者

    合併症のある陽性者

    コントロール不良の陽性者

    コントロール良好の陽性者

    非感染者

    25-65歳にかけての生存率

  • これからの問題点• がん

    • 心臓(しんぞう)や脳(のう)の病気

    • 糖尿病(とうにょうびょう)、脂質異常症(ししついじょうしょう)など生活習慣病(せいかつしゅうかんびょう)

    • 腎臓(じんぞう)の病気

    • 骨がもろくなる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

    などなど…

    ⇒介護(かいご)、透析(とうせき)などの問題が多い

    エイズとはまったく関係ない理由での受診が増える

  • 病院でよくかわされる会話

    • 血糖値(けっとうち), コレステロールなど

    • 肝機能(かんきのう), 腎機能(じんきのう)など

    • 喫煙(きつえん), 飲酒(いんしゅ), 運動(うんどう)など生活習慣

    • 薬がきちんとのめているか、のみわすれなど

    • 気になる副作用(ふくさよう)はないか

    • 梅毒(ばいどく)、淋菌(りんきん)、クラミジアなど、

    ほかの性感染症(せいかんせんしょう)

    • 性行為(せいこうい)について

    • 生活の中でのストレスについて, 不眠(ふみん), メンタルの問題、家族やパートナーとの関係など

  • 用語の言いかえ例• 受診(じゅしん)⇒びょういんにいく

    • 服薬(ふくやく)⇒くすりをのむ

    • 処方(しょほう)⇒くすりをだす

    • 食後(しょくご)⇒ごはんのあと

    • 症状(しょうじょう)⇒ねつやげりなど

    • 副作用(ふくさよう)⇒くすりのせいでおこる症状

    • 皮疹(ひしん)⇒からだにぶつぶつができる

    • 検査(けんさ)⇒いろいろしらべること

    • 採血(さいけつ)⇒ちをとってしらべること

    • 会計(かいけい)⇒おかねをはらうばしょ

    医療従事者にとっては、それが専門用語だと思っていないこともあります。

  • 受診・内服中断(ちゅうだん)

    CD4が高いので油断

    多忙(休みが取れない…)

    自覚症状がないため、必要性を感じない

    メンタルヘルスの問題

    違法薬物使用

  • HIV陽性の人の妊娠(にんしん)

    男性が+⇒

    精子からウイルスを取り除く方法がある

    女性が+⇒

    薬によりウイルスを抑え、生まれるときに予防策をとることで、母子感染は防ぐことができる

  • 陽性告知から病院紹介まで

    最低限伝えること

    • 生命予後はよくなっている

    ⇒いのちにかかわる病気ではない

    • まずはCD4数、ウイルス量などくわしい検査

    • お金の負担は手続きにより軽くなる

    • 大切なことはすぐに決定しない

  • まとめ• ことばやお金の壁を解消するため、医療通訳への期待は大きい

    • 検査会場、病院など、付き添う場面は多い

    • HIV陽性者も、合併症がなければ感染していない人と同じように長生きできるようになった

    • 生活習慣病など、HIVとは関係のない病気のコントロールが大切になっている

    • 治療もシンプルになってきている

    • 病気のことを知られたくない人が多く、プライバシーへの配慮が必要

    • 日常生活においては、特別な感染対策は不要