アルコール依存症の早期発見と介入(中頭hp.ver資料版) 130121
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アルコール依存症の早期発見と介入
~アルコール関連問題のTOPICSと
SBIRT/動機づけ面接 事始め~
2013/01/21
沖縄協同病院 心療内科・精神科
小松知己 (北大’84年卒)
TODAY’ POINTS
1. アルコール問題のコストアルコールは個人・社会・コミュニティに多大な損害を与える最も有害な薬物のひとつ
2. アルコール依存症の疾患概念
「分かっちゃいるけど止められない」がア症の中核症状
「しらふで人生を楽しむ」が治療のゴール
3. アルコール使用障害の
スクリーニング&簡易介入&紹介 (SBIRT)
WHOが開発した3分でできるスクリーニングテスト AUDIT
AUDITの得点結果でリスク分類して 5~7分で簡易介入
4. 動機づけ面接 motivational interviewing=MI
患者さんに「メリット」「デメリット」両方を挙げてもらう
OARSでチェンジ・トークを掬い上げる ! !
1-1.アルコール問題のコスト
4兆1483億円日本におけるアルコール乱用による社会的費用の推計値
2008年 1)
654万人
1-2. 男性の内科外来はアルコール外来 ! !
男性の
高血圧症患者の36% がアルコール症(注)
心疾患患者の36 %
肝障害患者の84%
高脂血症患者の77%
糖尿病・耐糖能異常患者の69%
痛風・高尿酸血症患者の60%注:定義内容はICD-10のアルコール有害使用+依存症とほぼ同じ
(仙台市郊外の一内科クリニックでの開院2年半の外来初診
患者4271名の全数調査 1989年) 2)
1-3. アルコール関連疾患 (1)
a)アルコール性急性肝炎・慢性肝炎・肝繊維症・
肝硬変 肝がん
胆石 胆嚢がん
b)アルコール性急性膵炎・慢性膵炎 糖尿病
すい臓がん
c)口腔がん 咽頭がん 喉頭がん
d)食道静脈瘤 マロリーワイス症候群 食道がん
e)胃炎 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 胃がん
f) 吸収不良症候群 大腸がん 直腸がん
下線を引いた疾患はアルコールが直接原因にならなくともコントロールの悪化につながる疾患
1-3. アルコール関連疾患 (2)
g)アルコール関連認知症 小脳障害
脳卒中 ウェルニッケ脳症 末梢神経障害
うつ病 ペラグラ
h)アルコール性心筋症 心不全
i) 高血圧症 高脂血症 高尿酸血症
j)大腿骨頭壊死 骨折
k)インポテンツ 不妊 貧血
胎児性アルコール障害スペクトラム
流産 早産
下線を引いた疾患はアルコールが直接原因にならなくともコントロールの悪化につながる疾患
1-4. 飲酒運転の影にはアルコール依存症が
飲酒運転経験の男性61.9% 女性57.1%が
純アルコール1日60グラム以上の多量飲酒者である
『免許取消処分者講習受講者を対象にした調査』
(樋口進、神奈川県警察本部交通部交通総務課 2007)より
一般成人では 男性12.7%、女性3.4%が
多量飲酒者である
厚生労働科学研究『成人の飲酒実態と関連問題の予防に関する研究』2003より
免許取消処分者のうち
飲酒運転検挙を経験した男性の36.9%、女性の42.9%にアルコール依存症の疑いがある
『免許取消処分者講習受講者を対象にした調査』
(樋口進、神奈川県警察本部交通部交通総務課 2007)より
1-5. アルコールと自殺
国民1人あたりの飲酒量と自殺率の間には相関がある
(日本・諸外国での報告)3)
多量飲酒が自殺の危険を高めるという調査報告もある
アルコール使用障害の有無にかかわらず
自殺者の多くが自殺の前に飲酒をしている
自殺既遂者の32.8%からアルコールが検出されている(伊藤ら、
1988)
この割合は海外の調査結果とほぼ同じ割合 3)
アルコール依存症者の方がうつ病よりも自殺の危険性が高いとする報告 がある
自殺で死亡するリスクはアルコール依存症で7%
気分障害(うつ病など)で6% 3)
1-6. アルコールの害 さまざまな研究
*英国研究チームが数十種類の薬物を
死亡率・依存度・
精神への影響・社会的影響・家庭的影響・経済的コスト・国際的存在・・・
等のカテゴリ に分けてそれぞれ数値化
↓
社会的に害のある薬物ワースト3 :アルコール ヘロイン クラック・コカイン
個人的に害のある薬物ワースト3 :ヘロイン クラック・コカイン
メチルアンフェタミン
↓
総合して有害な薬物ワースト 3 :
アルコール (有害ポイント 72ポイント)
ヘロイン (同 55 ポイント)
クラック・コカイン (同 54 ポイント)
・・・・・
タバコ (26 ポイント)
覚せい剤 (23 ポイント) 大麻 (20 ポイント)
『Lancet』 2010年11月1日より
*飲酒の強要 暴言・暴力 セクシャルハラスメント などの被害人口は 約3040万人
(2002年の推計調査) 1)
1-7. アルコールは薬物です* 非選択的な中枢神経抑制剤
作用のしかたは麻酔薬に近いが
作用量と致死量が近接している
→ 危険で“麻酔薬”としては落第
アルコールの致死量は作用量の約4倍
クロルプロマジン(第一世代抗精神病薬)の致死量は
作用量の20倍以上
* それぞれの文化で
危険性を減らすための「つきあい方」が工夫されてきた
合法化された向精神薬
日本:「お天道様が明るいうちは 呑まない」=飲酒時間を制限して
飲酒量を制限
ヨーロッパ:「呑んでも 決して乱れない」=酔いの深さを制限して
飲酒量を制限
*
アルコールは
個人にも
社会・コミュニティにも
多大な損失を与える
最も有害な薬物のひとつ
2-1.アルコール依存症 (ア症)
疾患概念-1
*アルコール依存症の中核症状は
アルコール摂取のコントロール喪失(広義)である。
つまり
身体の病気・社会経済的問題・対人関係に支障等の問題があり、
アルコールを減らす or 止める必要があると分かっているのに、
飲み始めると適量で切り上げられず or 飲むことを止められず
問題を繰り返す疾患である。
*脳内のアルコールに
関するブレーキが
壊れている病気と
患者さんに説明すると
理解されやすい。
2-1.アルコール依存症(ア症)
疾患概念-2
*アルコールを飲める人なら老若男女誰でもなりうる病気で、
皇族の寛仁殿下が2007年にア症であるとカミングアウトされた。
日本には何らかのアルコール関連問題をもつ人が654万人
ICD-10診断基準でア症と診断される人が80万人(注)いると推計
されている。 注:サンプルバイアスによる過小推計の可能性大
*慢性・進行性・致死性の病気であり、
いったん壊れた脳内のブレーキは現代医学では修復できない。
アルコール依存症の5年生存予後は下記のとおりで
(国立久里浜アルコール医療センターでの大規模な追跡調査 4)
断酒・準断酒群 問題飲酒群
アルコール依存症のみ 93% 70%
ア症+糖尿病 88% 22%
ア症+肝硬変 86% 19%
きちんと治療しなければ、進行がん並みの5年生存予後である。
2-2. ア症の診断基準 ICD-10
例・解説・注を追加したもの
最近1年間に以下の6項目のうち3項目があれば、アルコール依存症と診断される。
1) 飲酒への強い欲望、または強迫感。
例:医師から禁酒・節酒を指導されて、守ろうとするが守れない。
隠れてでも飲む。
仕事が終わると、帰宅まで待ちきれずに途中で飲む など
2) 飲酒量・飲酒開始・飲酒終了のどれかのコントロール障害。
例:臓器障害を起こす量まで飲む。日中から飲み始める。
「一杯だけ」と決めて飲み始めても、結局は自分の「定量」
あるいは「あるだけ」飲む。 など
3) アルコールを中止または減量した時に離脱症状が出現する。
または、離脱症状を軽減・回避するために飲酒する。
2-2. ア症の診断基準 ICD-10(続)
3) 解説:
離脱症状には、
手指の振戦・発汗・嘔気・頻脈・高血圧・微熱
・こむらがえり・不眠・頭痛・いらいら
集中力の低下 などや、
振戦せん妄(意識が曇り 振戦を伴って興奮す
る状態)および
離脱時のけいれん発作(てんかん のような発
作を起こすが 本物のてんかんではない)
がある。
4) 耐性の証拠。
飲み始めの時期に得られていたのと同じ程度の酔い
を得るのに より多い量のアルコールを必要とする。
注:DSM-4の診断基準では1.5倍以上
2-2. ア症の診断基準 ICD-
10(続)
5) 飲酒のため、ほかの楽しみや趣味をしだいに無視し、
飲んでいる時間や酔っている時間が長くなり、
飲酒中心の生活になっている。
6) 明らかに有害な結果が起きていると分かっているのに、
アルコールを飲む。
解説:有害な結果とは、
アルコール関連疾患や、
飲酒・酩酊による「トラブル」を指す。
ICD-10では離脱症状は診断の必須項目ではない。
→身体依存が生じていなくても
飲み方が病気になっていれば依存症 !
2-3. アルコール依存症 回復のイメージ*回復の3段階
I can’t drink. = 私は飲めない
外部から強制されてイヤイヤ止めているレベル。
「ちょっとくらいなら良いのでは?」という節酒志向がある。
I won’t (will not ) drink. = 私は飲みたくない
自ら心の中から止めたいと願い、止めているレベル。断酒のメリットを
実感しているので、明瞭に断酒志向である。
アルコールなしで上手に生活するスキルが不充分なために、時に
再飲酒したり、別の問題を起こすことが認められる。
I don’t have to drink.= 私は飲む必要がない
ムリなく止め続けて、しらふの人生を楽しんでいるレベル。
ストレス解消や日常の問題処理・対人関係をアルコールなしで
上手にこなすスキルを身につけており、もはやアルコールは本人の
生活に必要なものではなくなっている。
3つめの回復レベルに到達するには、とても順調に治療が進んでも5年間
は必要 ! !
2-4. アルコール依存症 治療の三本柱
*2013年1月現在の日本で
アルコール依存症治療の三本柱(標準治療セット)
と考えられているのは、以下の組み合わせである。
1.専門治療機関への継続的通院
2.自助グループへの継続的参加
3.抗酒剤の内服
*三本柱の中で、
特に中心的役割を持つと考えられるのが
自助グループへの継続的参加である。
*今後は標準治療セットが大きく変化していく予兆
がある。
ex :新しい作用機序の薬(抗渇望薬)の開発
再発予防プログラムなど
2-5. 自助グループはなぜ効果的なのか?
*同じ病気を抱える仲間の共感的雰囲気のなかで 安心して正直に自分を振り返ることができる
→「あぁ、自分と同じ体験をしているひとが、こんなにいるんだ。自分も、やっぱりアル中なのかなぁ・・・・」
*良いモデルも悪いモデルもいる中で 自分の新しい生き方を模索して希望を見出せる
→「へぇ~、あのひとも 酒を止められたんだ!! 自分だって、ここに通っていたら酒を止め続けられるかもしれないな・・・」
「1年たったらAさんみたいになれたら、いいなぁ」
*仲間としらふで語り しらふで行動する生活を続けるなかで飲酒以外のストレス対処行動を身につけ しらふの対人関係を学べる
このような認知・行動の変化はグループの中 メンバーどうしの相互作用の中で最も効果的に生じうる!!
「自助グループって、傷を舐め合うところだよ。傷は舐め合ったほうが早く治るよ」(苫小牧市植苗病院 院長 芦沢Dr.の言葉)
アルコール依存症は「ひとによって癒される 最も人間くさい病」なのです
2-5. 自助グループに関する最低限の常識
*自助グループ:日本のアルコール依存症では 断酒会・AAが代表的なグループ。「体験談に始まり、体験談に終わる」(断酒会)「言いっぱなし、聴きっぱなし」(AA) の原則で運営されている
=何を話しても、指導・批判はされない 論争もない「経験と知恵と力を分かち合う場」(AA) であり当事者(患者さん)による当事者のためのグループ。
*治療グループと自助グループの違い
治療グループは援助職が司会をして、自助グループは当事者が司会をするのが大きな違い。グループがメンバーを傷つけず安全なものであるように工夫されたのが上記の運営原則
*自助グループについて 知っておきたい特徴断酒会は「会費制・会員名簿を公開」AAは「献金制・匿名性を重視」という違いはあるが、
「新しい会員・メンバーは、長く断酒を続けている会員・メンバーにとって最も大切な先生なのです」という
姿勢には変わりがないし、ともに断酒を志向している。
「断酒の指針と規範」は「AAの12ステップ・伝統」を日本流に翻案したもので 基本は全く同じ
治療開始後2年間は尐なくとも週1回以上の参加が必要!
「分かっちゃいるけど止められない」が
ア症の中核症状
「しらふで人生を楽しむ」が
ア症治療のゴール
3-1. スクリーニング&簡易介入&紹介(SBIRT)
SBIRT とは?
・WHOやNIAAAが提唱している
アルコール関連問題への介入方法
Screening & Brief Intervention
& Referral to Treatment の略
・AUDITなどのスクリーニングテストを用いて
対象者のリスクを評価
・それぞれのリスク危険度に応じて
パッケージ化された
短時間の介入(概ね1回5分~10分)と
フォローアップおよび専門医への紹介を行うもの
・日本ではWHOマニュアル 5)を翻案して開発された
HAPPY プログラムがある
3-2. ところで AUDIT って何?
Alcohol Use Disorders Identification Test の略称
・WHO が1989年に作成したテスト
・10個の質問でできてている → 3,4分で実施可能
・アルコール関連問題をもつ人を
得点によりグループ化できる
・危険な飲酒者 有害な飲酒者=依存症予備軍を特定できる
・パッケージ化された介入 (BI ) 5)とセット
3-3. AUDITによる リスク評価(日本における一般的なCUT OFF 値)
リスクレベル 介入 AUDIT得点
Ⅳ群 専門医への紹介 20-40
Ⅲ群 簡単なアドバイス+簡易カウンセリング+継続的観察
16-19
Ⅱ群 簡単なアドバイス 10-15
Ⅰ群 アルコール教育 0-9
3-3.AUDITによるリスク評価(続)
(WHOマニュアルのCUT OFF 値)
3-4. アルコール教育
・対象はAUDITのリスクⅠ群 (スコア 0~9 点)
=非飲酒者+低リスク飲酒者
・行うことは3つ
ⅰ:スクリーニングテスト結果をフィードバック
「このままであれば、アルコール関連問題については
あなたは低リスクです」
ⅱ:低リスク飲酒のなかみとそれを越える飲酒の危険
について教育
配布資料の『低リスク飲酒ガイド』を用いて
「低リスク飲酒とは
1日に1単位以下注・週に5日以下の飲酒です」
「これらのレベルを超えるひとは、
事故・けが・高血圧・肝臓病・心臓病のような
アルコールに関連した健康問題が起きる機会が増えます」
ⅲ:ガイドラインを遵守していることを讃える
注:1単位は ビール500ml or 25度泡盛100ml or 日本酒1合
3-4. アルコール教育(続)
低リスク飲酒者で
家族や友人について心配している人への援助
・共感的に傾聴する
・情報=ひとつのサポート を提供する
問題の重大度に応じて
専門治療の情報 or 『低リスク飲酒ガイド』
・サポートして
共同で問題解決する
ことを奨励
(詳細は BI 日本語版18p)
3-4. 簡易カウンセリング
簡易カウンセリングの4つの要素
ⅰ:簡単なアドバイスから始める
ⅱ:変化のステージを評価して
それに合わせたアドバイスをする
Miller の準備性尺度(1全然重要でない 10とても重要)
「あなたの飲酒を変えることは、あなたにとって
どのくらい重要ですか?」を用いて評価
ⅲ:自助ブックレットをつかって
スキルを供給する
ⅳ:フォローアップ
(詳細は BI 日本語版 27-30p を参照)
3-4. WHOマニュアル 日本語版 (参考文献5)
3-5. 専門医への紹介
「その気」にさせる3つの手法
・周囲みながイネイブリングを中止する
・家族にCRAFT法を教える ← 詳細省略(参考文献6)を参照のこと)
・動機づけ面接 MI の技法で面接する ← さわりだけ紹介!
3-5. イネイブリング って何?これがイネイブリング=enabling =問題飲酒を可能にする行動だ!!
*本人に代わって謝まる本人に代わって、欠勤の言い訳の電話をかける。本人に代わって、会社や近所の苦情などに対応して、謝罪する。本人が飲酒で約束違反したときに、嘘でかばう。 など
*本人に代わって問題を解決する生活費が不足した分を補うために更に働く。親戚・実家に援助を求める。本人が飲酒(or二日酔い)で仕事のミス・事故を起こした場合など、本人の代わりに問題を処理する。 など
*本人の不始末のあとしまつをする泥酔や二日酔いの看病をする。 ←本人の安全確保以上のお世話は不要酔って壊した器物・ガラスなどを痕跡なくかたづける。 ←家族がケガしない程度の片付けで充分嘔吐や失禁した場合に周囲をきれいに掃除して着替えさせる。玄関で寝込んだ本人を寝室まで運ぶ。 ←冬期北海道の路上で寝込んでいたら凍死防止で玄関までは
運ぶ必要あり
*本人がアルコール関連疾患の悪化で入院必要になった時
にアルコール問題のスクリーニング&介入をせずに身体治療だけして退院させる ←Professional enabling
3-5. イネイブリングはなぜマズイのか?
本人が
問題を持っていることに気づくのが遅れる
+
周囲(家族・職場)が
援助すればするほど問題が助長されるため
疲弊して
本人にますます悪感情をいだき
回復の可能性があることにも絶望してしまう
↓
本人にも周囲にもプラスになることがない!
これぞ 文字通り
「骨折り損のくたびれもうけ」
3分でできるスクリーニングテスト
AUDITを施行する
AUDITの得点結果でリスク分類をして
リスクレベルに応じて
5~7分で簡易介入する
4-1. 「動機(モチベーション)がない」の実態とその解決策
「問題を否認している」はては「やる気がない」という表現が従来はよく用いられた・・・。
しかし・・・そもそも、大切な変化を決めるのに迷わないひとがいるのか?
むしろ、迷うのが当然ではないか? 例:結婚・就職・離婚・転職
両方(現状維持か変化か)に心が引かれて、選択ができない・決められない状態を
「両価的な状態(アンビバレンス)」という。
患者さんの価値観にしたがって両価性を解決する過程で
人生の目標や方向性が明確になり
行動の変化を選ぶ動機が引き出され 形成される!!
4-2. 動機づけ面接とは
*W・R・ミラーとS・ロルニックにより開発された援助技法
*1991年 MI 1
「Motivational interviewing・Preparing People to Change
Addictive Behavior」(日本語版未翻訳)が初版。論文は1982年が初。
2008年
「Motivational Interviewing in Health Care 」
(日本語版『動機づけ面接法 実践入門』星和書店)
2012年 MI 3
「 Motivational interviewing・Helping People Change 3rd Ed」
(現在翻訳中 2013年秋以降出版予定)
*単純な理論ではあるが、実際の面接で実施できるように習得する
には、楽器演奏のように教習と実地訓練が必要。
世界的なトレーニング・ネットワークとリソースがある。
4-2. 動機づけ面接は 目標を選ばない
患者さんの必要性に応じて目標は変化
服薬 治療アドヒアランス
食事療法 運動療法 安全なセックス 歯磨き
断酒 節酒 禁煙 減塩 などなど
話し合いで目標を深化させることもできる
患者さんに決定権があると強調するスタンス
→あらゆる慢性疾患患者さん
の介入に有効!
4-3. 動機づけ面接の本質:チェンジ・トーク→行動変容を引き出す
最も簡潔な定義は「行動変容への動機を形成・強化する協働的で
来談者中心的な面接スタイル」(MI3)
「ふたりの専門家がいる それは本人&援助職である」というスタンスで
「正したい反射」=相手が気づかず間違った事を言うと正したくなる
「自己動機づけ」=自分から行動変容を言い始めると そう行動する
などの人間の一般的性質を利用して
OARS(後述)などのスキルを用いて患者さんのチェンジ・トーク
=変わりたい言動 を引き出す
4-3. OARS (櫂)OARS
Open Question 開かれた質問
ー「はい」「いいえ」で答えられない質問
Affirmation 是認
ー現状維持方向の言動でも受容的に応答して
言語行動全体を強化する
Reflecting 聞き返し ←MI の核心的スキル
ー相手の言葉をそのまま
または治療者の理解した内容で 返す
Summary サマリー
ー相手の言動や考えを 箇条書きのように
述べていく
4-3. 開かれた質問 (O) & 是認(A)
O :はい・いいえ では答えられない質問
「なぜ?」「どうして?」
(ただし「なぜ(望ましい行動を)しないの?」は禁句)
「どのように?」「もう尐し詳しく?」「具体的には?」
等 考えないと答えられないような質問
← 両価性をそのままに 患者さんのより深い情報を拾う
A :患者さんの言語行動・面接への関与自体を促し認め誉める
言語的にも非言語的にも
さらに患者さんの強み・長所を探そうとする心の姿勢
← 認められ誉められることは 自信と良好な関係を育て
その後の援助のすべての基礎を作る
4-3. 聞き返し(R)
Pt . 「体に悪いのは分かるけど、仕事でイライラすると、どうしても
吸ってしまいます」
単純な聞き返し:言葉の明確化
= オウム返しや別表現による言い換え
Dr. 「体に悪いのは分かっている・・・」
「健康に影響があると・・・」
複雑な聞き返し:意味や感情の明確化 =意訳
Dr. 「このまま吸っていると、いろいろな病気になってしまうかも
しれない・・・」
「イライラした時にも、禁煙を続けられたら・・・」
なるべく具体的かつ簡潔に返すことで、状況を明確化する。
反意語を使って なるべく「ない」を除く。
4-3. サマリー(S)
それまでに患者さんが語った言葉や、聞き返しにより合意に達した言葉を、箇条書きのように列挙して聞き返す。
ー 複雑な問題を概観して明確化する
ー 堂々巡りや脱線の防止
適宜 複雑な聞き返しを織り込む
チェンジ・トークを拾い上げて花束にする「そうすると、仕事の気分転換になるからタバコは必要だと思わ
れている。一方で、半年間やめていた時には仕事がはかどった。
家でも奥さんとお子さんが喜んで、できればやめられたらと
思うこともある。今考えておられることをまとめると、こんな感
じ・・・。他に何かつけたすことは?」
矛盾する内容を並べる時は「そして」「一方で」という接続詞を使う
もっと MI のことを知りたくなった あなた
もっと依存症のことを知りたくなったあなた・・・
毎月 第1火曜日 午後7時~
沖縄大学本館 多目的学習スペースにて
沖縄ANDOGネットワーク(愛称:沖縄アンドーナツ)例会を
開いています。
Alcohol + Nicotine +Drug +severe Obesity +Gamble
という五大依存症回復支援のノウハウを共有し
MI のスキルを楽しく磨く場です。守秘義務を
もつ援助職なら誰でも参加可能です。
MLの参加希望は小松か清水隆裕Dr.へメールを!
参考文献・サイト
1) 『アルコール関連問題基本法推進ネット』サイトhttp://alhonet.jp/
上記トップページ (バナーあり) から
「アルコール関連問題」→ 「日本のアルコール関連問題の規模」
2)「仙台市の一内科無床診療所の外来患者のアルコール症に関する統計的研究」
『アルコール医療研究』6(4) , 303~310p, 1989下記サイトから 全文無料ダウンロード可能
http://www.geocities.jp/m_kato_clinic/
3) 『簡易版アルコール白書』日本アルコール関連問題学会等 編 2011年刊下記サイトから 全文無料ダウンロード可能
http://www.j-arukanren.com/
4) 『医学のあゆみ』 156号 , 1991
5) 『AUDIT ~アルコール使用障害特定テスト使用マニュアル』『Brief Intervention ~危険・有害な飲酒への簡易介入:
プライマリケアにおける使用マニュアル』WHO 発行 2001年英語版刊 2011年日本語訳刊下記の 沖縄協同病院サイト(トップページにバナーあり)から全文無料ダウンロード可能
http://oki-kyo.jp/
参考文献・サイト(続)
6) 『CRAFT 依存症患者への治療動機づけ~家族と治療者の
ためのプログラムとマニュアル』
J・スミス、R・メイヤーズ著
境 泉洋、原井宏明 他 監訳 金剛出版 2012年刊
7) 『動機づけ面接法 実践入門』
S・ロルニック、W・ミラー他著 後藤 恵 監訳
星和書店 2010年刊
←初心者向け プライマリケア場面での多様な実例
が多く掲載されている
8) 原井宏明の情報公開
http://harai.main.jp/
←MIに興味を持ったらまず覗く価値あり
9) 『方法としての動機づけ面接』
原井宏明 著 岩崎学術出版社 2012年刊
←上級者向け