(1)世界の穀物等の需給動向と今後の見通し - …...1...

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世界の穀物等の需給動向 (1)世界の穀物等の需給動向と今後の見通し 世界全体の穀物等の国際需給の動向をみると、需要面では、開発途上国を中心とした人口の増加、経 済発展に伴う食生活の変化、畜産物消費の増加に伴う飼料用需要の増大、それに加え近年ではバイオ燃 料向け需要の増大等から、消費量は着実に増加している。一方、供給面では、生産量はトレンドとして は増加傾向にあるが、主要国の農業政策の変更や天候による作柄の増減等により大きな変動がみられる。 (低水準であった世界の期末在庫率の回復基調) 近年では、異常気象による世界的な減産に伴い、 2006/0707/08年度の期末在庫率がそれぞれ、 17.0%、 17.6%と低水準となったことが、2008年の穀物価格高騰の一因となっている。この高騰をきっかけに各 国が自国の食料安全保障対策に力を入れ、備蓄水準の拡大や、生産国を中心とした世界的な増産により 期末在庫水準は回復基調にある。2010年のロシアの干ばつによる小麦の供給不足が、中東や北アフリカ で「アラブの春」といわれる暴動を引き起こしたことや、 2012年の米国の高温・乾燥による減産で、とう もろこしや大豆の国際価格が史上最高値を更新するなど、世界の穀物等の需給をめぐる状況は依然とし て不安定な面はあるものの、ここ2年の期末在庫率は24%台で推移するなど落ち着きを見せている。 (増加する穀物需要) 世界の穀物需給はここ4年、生産量が消費量を上回る状態が継続しているが、消費量は2010年頃を境に 伸びが拡大しており、 2010/11年度の22.3億トンから2016/17年度の25.4億トンへと3.1億トン(約13.8%) 増加している。(図 Ⅰ-1) Ⅰ-1 穀物需給の推移と見通し 資料: USDA World Agricultural Supply and Demand Estimates」、「Grain World Markets and Trade」、 PS&D」(January 2017)をもとに農林水産省で作成。 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 2,200 2,400 2,600 2,800 1970/71 75/76 80/81 85/86 90/91 95/96 2000/01 05/06 10/11 15/16 2,560百万トン 2,537百万トン 生産量(左目盛り) 24.7% 期末在庫率(右目盛り) (百万トン) 期末在庫率(%) (年度) 消費量(左目盛り) - 4 -

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Page 1: (1)世界の穀物等の需給動向と今後の見通し - …...1 世界の穀物等の需給動向 (1)世界の穀物等の需給動向と今後の見通し 世界全体の穀物等の国際需給の動向をみると、需要面では、開発途上国を中心とした人口の増加、経

1 世界の穀物等の需給動向

(1)世界の穀物等の需給動向と今後の見通し

世界全体の穀物等の国際需給の動向をみると、需要面では、開発途上国を中心とした人口の増加、経

済発展に伴う食生活の変化、畜産物消費の増加に伴う飼料用需要の増大、それに加え近年ではバイオ燃

料向け需要の増大等から、消費量は着実に増加している。一方、供給面では、生産量はトレンドとして

は増加傾向にあるが、主要国の農業政策の変更や天候による作柄の増減等により大きな変動がみられる。

(低水準であった世界の期末在庫率の回復基調)

近年では、異常気象による世界的な減産に伴い、2006/07、07/08年度の期末在庫率がそれぞれ、17.0%、

17.6%と低水準となったことが、2008年の穀物価格高騰の一因となっている。この高騰をきっかけに各

国が自国の食料安全保障対策に力を入れ、備蓄水準の拡大や、生産国を中心とした世界的な増産により

期末在庫水準は回復基調にある。2010年のロシアの干ばつによる小麦の供給不足が、中東や北アフリカ

で「アラブの春」といわれる暴動を引き起こしたことや、2012年の米国の高温・乾燥による減産で、とう

もろこしや大豆の国際価格が史上最高値を更新するなど、世界の穀物等の需給をめぐる状況は依然とし

て不安定な面はあるものの、ここ2年の期末在庫率は24%台で推移するなど落ち着きを見せている。

(増加する穀物需要)

世界の穀物需給はここ4年、生産量が消費量を上回る状態が継続しているが、消費量は2010年頃を境に

伸びが拡大しており、2010/11年度の22.3億トンから2016/17年度の25.4億トンへと3.1億トン(約13.8%)

増加している。(図 Ⅰ-1)

図 Ⅰ-1 穀物需給の推移と見通し

資料:USDA「World Agricultural Supply and Demand Estimates」、「Grain:World Markets and Trade」、

「PS&D」(January 2017)をもとに農林水産省で作成。

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2,560百万トン

2,537百万トン

生産量(左目盛り)

24.7%

期末在庫率(右目盛り)

(百万トン) 期末在庫率(%)

(年度)

消費量(左目盛り)

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Page 2: (1)世界の穀物等の需給動向と今後の見通し - …...1 世界の穀物等の需給動向 (1)世界の穀物等の需給動向と今後の見通し 世界全体の穀物等の国際需給の動向をみると、需要面では、開発途上国を中心とした人口の増加、経

増大する世界の穀物等需要の中でも注目すべきは中国の輸入拡大傾向の動きである。中国は大豆の国

内自給を1997年頃から断念し、現在では国内消費量の8割以上を輸入に頼っているが、2016/17年度の消

費量は1億トンを超え、輸入量は8.6千万トンまで伸びると見られている。また、国内自給を原則としてき

た米についても近年徐々に輸入量が増えつつある。これらの需要増加に対応し、単収の伸びを中心に世

界全体の生産量も増加しており、2016/17年度の期末在庫率は24.7%と比較的高い水準となる見込みであ

る。

(2) 2016/17年度の穀物等をめぐる動向

(穀物全体の生産量は、前年度を上回り史上最高となる見込み)

世界の穀物全体の生産量は、大麦で減少するものの、小麦、とうもろこし、米で増加し、史上最高とな

る見込みである。品目別には、小麦は、EU、中国で減少するものの、ロシア、米国等で増加することか

ら、世界全体では前年度を上回り史上最高となる見込みである。とうもろこしは、中国、メキシコで減少

するものの、米国、ブラジル等で増加することから、世界全体では前年度を上回り史上最高となる見込み

である。大麦は、豪州、ウクライナ等で増加するものの、トルコ、EU等で減少することから、世界全体

では前年度を下回る見込みである。米は、インド、タイ等で増加することから、世界全体では前年度を上

回り史上最高となる見込みである。 一方、世界の穀物全体の消費量は、大麦で減少するものの、小麦、とうもろこし、米で増加し、史上

最高となった前年度を上回る見込みである。 品目別には、小麦は、インドで食料用需要、中国、ロシア

で飼料用需要がそれぞれ増加すること等から、世界全体では史上最高となる見込みである。とうもろこ

しは、米国、中国、ブラジル等で増加することから、世界全体では前年度を上回り史上最高となる見込

みである。大麦は、EU等で増加するものの、トルコ、中国で減少することから、世界全体では前年度

を下回る見込みである。米は、インドネシア等で減少するものの、インド等で増加することから、世界

全体では前年度を上回り史上最高となる見込みである。 この結果、世界の穀物全体の期末在庫量は前年度より増加して 6.3 億トンとなるものの、期末在庫率

は前年度に比べて 0.1ポイント低下し 24.7%となる見込みである。(図 Ⅰ-1、2)

図 Ⅰ-2 小麦、とうもろこしの需給の推移

資料:USDA「World Agricultural Supply and Demand Estimates」、「Grain:World Markets and Trade」、

「PS&D」(January 2017)をもとに農林水産省で作成。

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生産量

消費量

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期末在庫量

期末在庫率(右目盛)

(小麦)(百万トン)(百万トン)(百万トン)

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写真:米国カリフォルニア州ヨーロー渓谷 米の収穫作業(2016年11月)

写真提供:Mike DeWitt氏

(油糧種子の生産量も、史上最高となった前年度を下回る見込み)

世界の油糧種子全体の生産量は、なたねで減少するものの、大豆、綿実等の増加により、前年度を上

回る見込みである。品目別には、大豆は、米国、ブラジル、インド等で増加することから、世界全体で

は前年度を上回り史上最高となる見込みである。なたねは、インド、豪州等で増加するものの、EU、

中国等で減少し、世界全体では前年度を下回る見込みである。 また、世界の油糧種子全体の消費量は、堅調な搾油需要から、前年度を上回る見込みである。品目別

には、大豆は、EUで減少するものの、中国、インド等で増加し、世界全体では前年度を上回り史上最

高となる見込みである。一方、なたねは、インド、カナダ等で増加するものの、中国、EU等で減少す

ることから、世界全体では前年度を下回る見込みである。 この結果、世界の油糧種子全体の期末在庫量は前年度より増加して 0.9 億トンとなり、期末在庫率は

前年度に比べて 0.1ポイント上昇し 17.1%となる見込みである。(図 Ⅰ-3)

図 Ⅰ-3 大豆、なたねの需給の推移

資料:USDA「World Agricultural Supply and Demand Estimates」、「Oilseeds:World Markets and Trade」、「PS&D」(January 2017)をもとに農林水産省で作成。

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生産量消費量

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期末在庫量

期末在庫率(右目盛)

(なたね)(百万トン)

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(3)主要輸出入国をめぐる動向 (中国の食糧政策の動向) 中国共産党中央と国務院は、毎年、その年の最重要課題として位置づけられる中央第一号文件を発表

しており、2004年以降継続して「三農(農業、農村、農民)問題」が取り上げられている。食糧価格政

策については 2004 年の一号文件で言及され、以後、政府による主要食糧の買付けが実施されてきた。

同政策は、農家の穀物栽培意欲を高めるとともに、国内の穀物供給量を増やし、国内市場の安定に中心

的な役割を果たしてきたが、その反面、穀物の国内価格が国際市場を上回ることによる国際競争力の低

下、政府備蓄量が積み上がることによる国家財政の圧迫という弊害を引き起こした。このため、中国政

府は、積み上がった政府備蓄の解消と国家財政負担の軽減を目的として、一部の品目については従来の

買付制度を順次廃止し、政府が市場価格に介入しない目標価格制度に移行している。 2007年、世界的に穀物価格が高騰したことを受け、2008年以降、中国政府は買付価格を引き上げ農家

の食糧増産意欲を刺激した。この手厚い支援策により、主要穀物の生産量は12年連続で増加してきたが

(図 Ⅰ-4)、買付価格の引き上げにより、主要穀物の国内価格は2012年頃から恒常的に輸入価格を

上回るようになった。

図 Ⅰ-4 中国の主要穀物等の生産量の推移 図 Ⅰ-5 中国の主要穀物等の期末在庫量の推移

資料:USDA「PS&D」(January 2017)をもとに農林水産省で作成。

農家は収穫物の大半を買付価格で政府に売り渡すようになり、その結果、政府在庫は記録的な水準ま

で膨れあがった。2015/16年度の中国の米、小麦、とうもろこしの3品目の期末在庫量の合計は、2.7億トンと世界全体の48%を占め、中でもとうもろこしは、1.1億トンと世界全体の53%を占めるに至って

いる(図 Ⅰ-5)。そこで、2014年以降、中国政府が新たに導入を開始しているのが「目標価格制度」

である。最低買付価格制度や臨時買付備蓄制度が価格支持制度であるのに対し、目標価格制度は不足払

い制度であり、政府は目標価格を設定し、その目標価格に対し市場価格が高すぎる時は低所得消費者へ、

市場価格が低すぎる場合は生産者へ、補助金が交付されるというものである。本制度は、2014年度から

大豆と綿花の主産地において試験的に導入が開始され、2015年度からは、なたねに関しても臨時買付備

蓄制度が廃止され、買付主体を中央政府から地方政府に移管し、地方政府の指定した企業が市場価格で

買付けを実施することとした。

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6.0 大豆米(精米)小麦とうもろこし

(億トン)

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3.5 大豆米(精米)小麦とうもろこし

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図 Ⅰ-6 中国の穀物等買付価格の推移

資料:国家発展改革委員会資料をもとに農林水産省で作成。

今般、政府在庫が歴史的な水準にまで積み上がったとうもろこしに対しても、9年間続いた臨時買付

備蓄制度を取り止め、2016年10月から目標価格制度へ移行した。これにより、農家の生産性や商品の品

質を高め、国内と海外の価格差を縮小させることで輸入を抑える計画とされる。また、政府は、積み上

がった在庫を削減するため、同国北部と東北部で2020年までにとうもろこしの播種面積を約300万ヘク

タール縮小する計画を発表している。2016年10月20日、中国国務院は、農業分野の近代化5カ年計画の

中で、とうもろこしの播種面積を縮小し、大豆を拡大する方針を明らかにした。とうもろこしの播種面

積は、今後5年間で年0.7%ずつ縮小し、2020年までに33.3百万ヘクタールに縮小する一方、大豆は、6.6百万ヘクタール(2015年実績)から9.4百万ヘクタールに拡大する計画という。

(ロシア小麦の生産・輸出と中国向け小麦輸出の解禁) 2016/17年度のロシア小麦の生産量は7,000万トン超の史上最高となり、輸出量は3,000万トンとEU

を上回り、世界最大の輸出国となる見込みである。同国の小麦輸出の大半は黒海沿岸近くの南部連邦管

区等で生産されたものだが、2015年12月の中国との検疫条件合意により、これまであまり輸出されてこ

なかった内陸のシベリア連邦管区からの中国向け輸出が可能となった。 シベリア連邦管区は内陸で輸送コストがかかるため、大半が地元で消費・加工されており、豊作年に

は値崩れが起きやすい地域でもある。そのような中、2015年12月7日、中国国家質量監督検験検疫総局

(ACSIQ)の代表団が訪露し、ロシア連邦動植物衛生監督局(ロスセリホズナドゾル)との間で、ロシ

ア産穀物及び油糧種子に関する中国での輸入手続きに合意し、同年12月17日に輸入検疫条件に関する議

定書に署名した。これに伴い、1976年以降、品質に問題があるとして禁止されていた小麦の中国向け輸

出が解禁され、ACSIQが視察を行ったシベリア連邦管区のアルタイ地方、クラスノヤルスク地方、ノヴ

ォシビルスク州、オムスク州からの輸出が可能となった。なお、当初案では、輸送中の水分混入やこぼ

れ防止のために袋詰め又は穀物専用の輸送手段の使用が義務付けられる予定であったが、ロシア側の当

局及び市場関係者からの要請により最終合意ではバラ輸出が可能となった。

大豆

ジャポニカ米

インディカ米

(中晚稲)

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(黒龍江省)

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(元/トン)

(年)

小麦、米:2004年導入

とうもろこし:2007年導入

大豆:

2008年導入

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図 Ⅰ-7 ロシア連邦管区図

2016年6月25日、プーチン大統領の北京訪問に際し、ロシアの有限会社「ザバイカリスク穀物ターミナ

ル」と中国の大手農業設備メーカー「牧羊」は、両国の国境にあるザバイカリスク鉄道駅における穀物ター

ミナル建設に関する覚書に署名した。このターミナル建設により、両国のレール幅が異なることによる

輸送上の課題を解決する工夫がなされることが期待されているが、建設は未だ始まっていない模様。 アルタイ地方では、現時点で中国向けに輸出しようとする動きが大きくなるとは考えられていないが、

ノヴォシビルスク州では、アルタイ地方ほど加工業が発展しておらず、豊作時の仕向け先の多角化の一

環として、中国向け輸出を前向きに検討していると見られる。2016年5月、州内の穀物加工・保管業者 22社が合同で、設備更新と中国向け輸出を目的とした「ノヴォシビルスク・エレベータ協会」を設立し

たが、国境鉄道駅のターミナルが未完成であること等によりバラ輸出が実質的に無理な現状では、まだ

ビジネスとして成立する状況とは見られていない。

(タイの米生産支援政策)

籾担保融資制度は、収穫物を担保として国庫に納入することで、肥料などの生産資材向け資金を短期

的に融資する仕組みである。タイでは1982年に導入され、市場価格と融資単価が大きく乖離することな

く実施されてきた。しかしながら、2011年8月に発足したインラック政権下で導入された籾米担保融資

制度によって政府が市場価格を大きく上回る価格での買上げを急拡大し、民間の輸出業者に流れるコメ

が極端に減少したことから輸出量は大幅に減少した。同制度は、稲作農家から強い支持を受けた一方、

高値で買い取った米と国際価格との乖離が大きいために輸出は減少し、政府米在庫が積み増しされたこ

とで負債は巨額なものとなり、ついに2013年度の雨期米では農民への融資資金の供与が困難となり、制

度は2年半で破綻することとなった。その後プラユット政権下で2014 年に制度が廃止されるとともに、

政府米在庫の放出により、輸出量は制度導入以前の水準に回復してきている。

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プラユット政権下では、籾米担保融資制度に代わる農民支援策として、水田地代、収穫作業請負料金、

肥料価格等の値下げを地主等に要請するとともに、雨季米に対して、生産費の一部補填や、主要産地で

ある北部・北東部地域に限定して香り米ともち米を担保に資金の融資を行った。この融資では、農家1戸あたりの融資額に上限が設けられ、収穫後30日間の農家保管を義務づけ、その間は保管料を支払うと

いうものであるが、保管庫を保有する農家は少なく、東北部の一部農家に限られると見られる。

図 Ⅰ-8 タイの米輸出量の推移

資料:国際貿易センター(International Trade Centre, ITC)

2016年の入札によるタイの政府備蓄米の放出は400万トンに達したが、新穀が出回る11月の市場価格

の下落を回避するため、9月1日を最後に在庫米の放出を控えている。約820万トンといわれる在庫米は

インラック政権時代のもので劣化が進んでいるとみられ、これらの在庫米はアフリカ市場に輸出される

ほか、一部タイ国内でも流通するといわれているが、破砕5%米などグレードの高いコメ価格への影響は

少ないと見られている。

写真:タイ中部パトゥムタニー県 登熟期の雨期米(2016年 12月)

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コラムⅠ ◇ 世界の面積単位 ◇

米国で穀物等の作付面積や収穫面積に使用される単位はエーカー(acres)。日本では馴染み

が薄いですが、雄牛2頭引きの犂(すき)を使って1人が1日に耕すことのできる面積として作

られたそうで、1エーカーの面積は約4,046.9㎡、おおよそ63.6m 四方の正方形となります。 世界有数の生産国である中国の面積単位はムー(亩)。中国で「一亩三分地」(1.3ムー)と

いえば個人がかろうじて暮らせるだけの狭い畑を指す言葉とのことで、1ムーの面積は666.7㎡(約6.7a)となります。 世界第1位の米の輸出量を誇るタイ王国の面積単位はライ(rai)。 1ライの面積は1,600㎡、

40m四方の正方形となります。 現在の日本で、作物の面積を表す単位は平方メートル(㎡)やアール(a)。10m四方の面積

が1a、100m四方の面積は 1haとなります。

acre(エーカー) 亩 (ムー) rai (ライ)(米国) (中国) (タイ)

1acre 1 6.07 0.40469 40.469 2.52934

1亩 0.1647 1 0.06667 6.667 0.0416667

1ha 2.471 15 1 100 6.25

1a 0.02471 0.15 0.01 1 0.0625

1ライ 0.36536 2.4 0.16 16 1

ha a

1ヘクタール=2.471エーカー

100m

100m

1エーカー約63.6m

図Ⅰ-9

表 Ⅰ-1 面積換算

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