ibdにおいて腸管エコーは患者さんへの負担なく、有⽤な検査...

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2. 研究の概要 2019年3⽉までに報告されたIBDに関与する腸管エコーと内視鏡を⽐較され た研究論⽂、研究学会抄録を検索し、該当する研究の質を評価。 ⼤腸の部位(右側結腸、横⾏結腸、左側結腸、直腸)ごとの腸管エコーで 炎症を⾒つける能⼒(診断精度)について検討。 3. 研究の結果 1) 2320個の研究から該当する19個の研究を評価し、質が⾼い7つの研究 に含まれた504⼈についてメタ解析(今までの研究のまとめ)を⾏いま した。 2) 腸管エコーの腸壁の厚みは⼤腸 の内視鏡所⾒で直腸以外の炎症がある こと 予測できましたが、直腸 の炎症は予測困難でした。 3) 腸管エコーの腸壁の⾎流増加(Doppler信号)や層構造消失(正常の腸 管は5層構造で描出されます)を伴った場合には炎症 がある可能性が⾼ ことがわかりました。 4. 将来の展望 この研究から経腹壁腸管エコー直腸の炎症は⾒えにくい⽋点がわかりまし た。しかし、当院で⾏なっている経会陰腸管エコー( Aliment Pharmacol Ther. 2020 Jun;51(12):1373-1383. )を組み合わせることで腸管エコーで⼤腸 全体を正確に観察が可能です。 謝辞 最後に、この度の研究にご協⼒いただきました先⽣⽅、腸管エコーのデータを共 有してくださった研究者の皆様、本当にありがとうございまし た。皆様のご協⼒なく して今回の研究を成し遂げることはできませんでした。今後この研究の結果が、この疾 患に悩む多くの患者さんの助けになれば幸いです。 (⽂責:佐上 晋太郎IBDにおいて腸管エコーは患者さんへの負担なく、有⽤な検査です。今回、我々は 腸管エコーで⼤腸の炎症を正確に評価できるか検討したところ、直腸以外の全ての ⼤腸の部位で正確に評価できることがわかりました。以下が内容になります。 Accuracy of Ultrasound for Evaluation of Colorectal Segments in Patients With Inflammatory Bowel Diseases: a Systematic Review and Meta-analysis. IBDにおける腸管エコーの診断精度(⼤腸部位別):系統的レビューとメタ解析 Sagami S, Kobayashi T, Miyatani Y, Okabayashi S, Yamazaki H, Takada T, Kinoshita K, Allocca M, Kunisaki R, Ramaswamy PK, Shiraki M, Hibi T, Kataoka Y. Journal: Clin Gastroenterol Hepatol. 2020:S1542-3565(20)31077-6. 佐上晋太郎(炎症性腸疾患先進治療センター、消化器内科) 『大腸の炎症を正確に評価できる』 (直腸は少しだけ不正確)腸管エコー 1. 研究の背景 炎症性腸疾患(IBD)の患者さんは 腹痛や下痢があっても⼤腸内視鏡で 異常がなかったり、逆に症状がなく ても⼤腸に潰瘍があることもありま す。 潰瘍があるとその後症状も悪 化し⼊院や⼿術を必要とする可能性 が上がるため、症状のない時にも内 視鏡で炎症がないことを確認するの が⼤切ですが、頻回の内視鏡はあま り気が進まない⽅も多いでしょう。 腸管エコー検査は痛みがなく、絶 ⾷や下剤も必要としないため、繰り 返し⾏うことが容易であり、内視鏡 の代⽤になる可能性が報告されてい ます。直腸に関しては経腹壁(お腹 から観察)エコーで描出しづらいと ⾔われていますが、実際の⼤腸の場 所ごとの診断の精度についてはよく わかっていません。

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Page 1: IBDにおいて腸管エコーは患者さんへの負担なく、有⽤な検査 ...kitasato-ibd.com/news/87/IBDにおける腸管エコー...1)2320個の研究から該当する19個の研究を評価し、質が

2. 研究の概要• 2019年3⽉までに報告されたIBDに関与する腸管エコーと内視鏡を⽐較され

た研究論⽂、研究学会抄録を検索し、該当する研究の質を評価。• ⼤腸の部位(右側結腸、横⾏結腸、左側結腸、直腸)ごとの腸管エコーで

炎症を⾒つける能⼒(診断精度)について検討。

3. 研究の結果1) 2320個の研究から該当する19個の研究を評価し、質が⾼い7つの研究

に含まれた504⼈についてメタ解析(今までの研究のまとめ)を⾏いました。

2) 腸管エコーの腸壁の厚みは⼤腸の内視鏡所⾒で直腸以外の炎症があること予測できましたが、直腸の炎症は予測困難でした。

3) 腸管エコーの腸壁の⾎流増加(Doppler信号)や層構造消失(正常の腸管は5層構造で描出されます)を伴った場合には炎症がある可能性が⾼いことがわかりました。

4. 将来の展望この研究から経腹壁腸管エコーは直腸の炎症は⾒えにくい⽋点がわかりまし

た。しかし、当院で⾏なっている経会陰腸管エコー( Aliment Pharmacol Ther. 2020 Jun;51(12):1373-1383. )を組み合わせることで腸管エコーで⼤腸全体を正確に観察が可能です。

謝辞 最後に、この度の研究にご協⼒いただきました先⽣⽅、腸管エコーのデータを共有してくださった研究者の皆様、本当にありがとうございました。皆様のご協⼒なくして今回の研究を成し遂げることはできませんでした。今後この研究の結果が、この疾患に悩む多くの患者さんの助けになれば幸いです。

(⽂責:佐上 晋太郎)

IBDにおいて腸管エコーは患者さんへの負担なく、有⽤な検査です。今回、我々は腸管エコーで⼤腸の炎症を正確に評価できるか検討したところ、直腸以外の全ての⼤腸の部位で正確に評価できることがわかりました。以下が内容になります。

Accuracy of Ultrasound for Evaluation of Colorectal Segments in Patients With Inflammatory Bowel Diseases: a Systematic Review and Meta-analysis.IBDにおける腸管エコーの診断精度(⼤腸部位別):系統的レビューとメタ解析

Sagami S, Kobayashi T, Miyatani Y, Okabayashi S, Yamazaki H, Takada T, Kinoshita K, Allocca M, Kunisaki R, Ramaswamy PK, Shiraki M, Hibi T, Kataoka Y.

Journal: Clin Gastroenterol Hepatol. 2020:S1542-3565(20)31077-6. 佐上晋太郎(炎症性腸疾患先進治療センター、消化器内科)

『大腸の炎症を正確に評価できる』(直腸は少しだけ不正確)腸管エコー

1. 研究の背景炎症性腸疾患(IBD)の患者さんは

腹痛や下痢があっても⼤腸内視鏡で異常がなかったり、逆に症状がなくても⼤腸に潰瘍があることもあります。 潰瘍があるとその後症状も悪化し⼊院や⼿術を必要とする可能性が上がるため、症状のない時にも内視鏡で炎症がないことを確認するのが⼤切ですが、頻回の内視鏡はあまり気が進まない⽅も多いでしょう。

腸管エコー検査は痛みがなく、絶⾷や下剤も必要としないため、繰り返し⾏うことが容易であり、内視鏡の代⽤になる可能性が報告されています。直腸に関しては経腹壁(お腹から観察)エコーで描出しづらいと⾔われていますが、実際の⼤腸の場所ごとの診断の精度についてはよくわかっていません。