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ICH - M7 ガイドラインの紹介: (変異原性 ( 毒性 ) 評価面から) 本間 正充 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験センター・変異遺伝部 レギュラトリーサイエンス エキスパート研修会 2019225

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ICH-M7ガイドラインの紹介:(変異原性(毒性)評価面から)

本間 正充国立医薬品食品衛生研究所

安全性生物試験センター・変異遺伝部

レギュラトリーサイエンスエキスパート研修会

2019年2月25日

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ロッシュ社のビラセプト錠EMS混入

2007年3月~5月の製品ロットで一錠当たり約920ppmの混入

患者平均一日最大2.75mgのEMSを最長3ヶ月摂取

約2~2.5万人の患者(29カ国、フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガル、スペイン、英国を含む)が暴露

EMS(ethylmethanesulfonate)

2007年5月18日:錠剤から異臭がするとの苦情が患者から寄せられる(スペイン)

2007年6月4日:高い濃度のEMSが混入していることが判明

2007年6月5日: EU規制当局(EMEA)が製品の回収を指示

患者の発がんリスクは? ロッシュ社の対応は? EU規制当局(EMEA)の結論は?

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平成30年7月6日 厚生労働省HP

N-ニトロソジメチルアミン (NDMA)

バルサルタン

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医薬品中の不純物の安全性はどのように担保されるのか?

Base

+

toluene

Pd catalyst/ Ligand 1) conc H2SO4

LiOt-Bu THF

1) NaBH4 / MgCl2 /MeOH

F3C

XCN

NH2

F3C

NH

CN F3C

NH

O

NH2

F3C

NH

O

NH

O

O

2) aqHCl

F3C

NH

HN O

O

F3C

N

HN O

O

OO

Sodium carbonate Tetrahydrofuran

Cl

O

O

F3C

N

N

O

O

O O

F3C CF3

Br

F3C CF3

Methylene chlorideNaOH/TBAB

1)

2) Ethanol/water

2) Ethanol/water

1)

Step 1 Step 2

Step 3 Step 4 Step 5

Step 6

Cl

O

O

X=Cl, Br

3) Ethanol/water

2) toluene/heptane(1) (2)

(3) (4)

(5)

合成過程の合成過程の試薬、反応中間体、副産物

医薬品の分解物

変異原性・発がん性?

不純物

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医薬品の不純物に関するICH品質ガイドライン

ICH Q3A: 原薬の不純物に関するガイドライン

ICH Q3B: 製剤の不純物に関するガイドライン

最大一日投与量 構造決定が必要な閾値 安全性確認が必要な閾値

原薬 ≦2 g 0.10% 又は 1 mg/日の低い方 0.15% 又は 1 mgの低い方>2 g 0.05% 0.05%

<1 mg 1.0% 又は 5 μg/日の低い方1 mg ~10 mg 0.5% 又は 20 μg/日の低い方10 mg~2 g 0.2%又は2 mg/日の低い方>2 g 0.10%

製剤<10 mg 1.0% 又は 5 0 μg/日の低い方10 mg ~ 100mg 0.5%又は200 μg /日の低い方100 mg ~ 2 g 0.2%又は3 mg/日の低い方>2 g 0.15%

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医薬品の不純物に関するICH品質ガイドラインQ3A/Bの問題点 (1)

たとえば、Q3B(製剤)では

1日 2gの製剤を服用し、その0.15%に遺伝毒性不純物が含まれるとしても許容される。

最大3mg/dayの遺伝毒性物質を暴露

(0.06mg/kg/day:体重50kg)

NDMAは0.096mg/kg/dayでラットの50%にがんをつくる。

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医薬品の不純物に関するICH品質ガイドラインQ3A/Bの問題点 (2)

7.不純物の安全性の確認(Q3A)

本ガイドラインは、臨床試験段階で使用する新原薬に適用することを意図し

たものではないが、本ガイドラインに示した閾値は、開発の後期の段階にお

いて実生産を反映した工程で製造された原薬ロット中に認められた新たな不

純物を評価する上でも有用である。

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2006年6月

EMAガイダンス

医薬品の不純物に関する欧米のガイダンス

2008年12月

FDAガイダンス

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ICH-M7 (変異原性不純物ガイドライン)これまでの経緯

M7

• 2010年 6月 タリン会議

• 2010年11月 福岡対面会議(1)

• 2012年11月 サンディエゴ対面会議(5):Step 2

• 2014年 6月 ミネアポリス対面会議(7):Step4

• 2015年11月 ICH-M7の国内発出:Step 5

• 2016年 1月 ICH-M7ガイドラインの適用開始

M7 (R1)

• 2014年 6月 Addendum1(化合物特異的な許容摂取量)議論開始

• 2015年 6月 ICH-M7 (R1); Addendum: Step 2

• 2017年 6月 ICH-M7 (R1): Step4

• 2018年 6月 ICH-M7 (R1)の国内発出: Step5

M7 (R2)

• 2017年 7月 Addendum 2 議論開始(ラポーター:本間正充)

• 2018年11月 シャーロット対面会議,Q&A議論開始

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ICH-M7 Step4ガイドライン

2014年6月

ICH-M7 国内発出(Step5)

2015年11月

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ICH-M7 ガイドラインの主なポイント(安全性)

対象は低レベルもDNAに直接損傷を与え、突然変異を誘発する変異原物質(Mutagens)のみ

変異原性(突然変異誘発性)はゲノムの不可逆的変化で有り、元に戻らない。たった1つの突然変異でもがんを引き起こす可能性があるため閾値が設定できない。

構造活性相関(QSAR)による変異原性の評価

毒性学的懸念の閾値(TTC)の適用

リスクの特性解析による管理レベルの緩和

HO

HN

O

Cl

変異原性試験(エームス試験)

QSARによる予測

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• コンピュータによる毒性評価は、細菌を用いる変異原性試験の結果を予測する(Q)SAR 法を用いて実施するべきである。互いに相補的な2種類の(Q)SAR予測モデルを用いるべきである。1つは専門的な経験に基づくルールベースの方法、2つ目は統計ベースの手法である。

• 相補的な二つの(Q)SAR 法(専門的経験に基づくルールベースの方法及び統計ベースの方法)において警告構造のないことが示されれば、その不純物には変異原性に関する懸念がないと結論するのに十分であり、更なる試験を推奨するものではない。

• 必要に応じて、陽性、陰性、相反又は結論不可能な予測結果に関連する更なる根拠を示すとともに、最終結論を支持する合理的な根拠を示すため、コンピュータシステムに基づく全ての解析結果は専門的な知識によりレビューすることができる。

構造活性相関((Q)SAR) 解析

Derek NexusSARPYTIMES_AMESToxtree

CASE UltraLeadscope (LSMA)Sarah NexusADMEWORKS

ルールベース 統計ベース

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2種類の発がん物質

ゼロリスクでは無いがリスクレベルは極めて低い

用量

発が

ん性

閾値(NOEL)

安全性量

ADIPDE

非変異原性発がん物質閾値あり

用量

閾値なし

安全性量?

変異原性発がん物質閾値なし

発が

ん性

用量実質安全性量(VSD)

VSD発

がん性

安全性マージン(10~1000)

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VSDの算出法

ICH-M7ではTD50からの直線外挿により、VSD(10-5~10-6リスク)を求める。

Tum

or O

ccur

renc

e

Dose

0

0.2

0.4

0.6

0.8

10-6

TD50VSD(LMS)VSD(TD50)

Multi-Stage Model

Linear extrapolation fro

m TD50

Tum

or O

ccur

renc

e

Dose

0

0.2

0.4

0.6

0.8

10-6

TD50VSD(LMS)VSD(TD50)

Multi-Stage Model

Linear extrapolation fro

m TD50

VSD with 10-5 risk (μg/person/day ) = Weight (kg) X TD50(μg/kg)/50,000e.g., 1.5 mg/kg/day (TD50) → 1.5 µg/day

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Generic VSD (TTC)の考え方

発がん性が最も感受性の高い毒性エンドポイントであるという仮定に基づいて、発がん性データベース(Carcinogenic Potency Database: CPDB)から得られるTD50データの分布解析から求められている。

Log 10 Dose

Rela

tive

Fre

quen

cy

Distribution of TD 50Distribution of VSD(10-6 from TD 50)

0.15 ug/day(≒0.0025 ug /kg/day)

85 % ile

Log 10 Dose

Rela

tive

Fre

quen

cy

Distribution of TD 50Distribution of VSD(10-6 from TD 50)

0.15 μg/day(≒0.0025 ug /kg/day)

85 % ile

63 %le

1.5 μg/day

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毒性学的懸念の閾値(Thresholds of Toxicological Concern;TTC)

全ての化学物質について、その値以下では明らかな健康被害が無いとするヒトでの包括的な安全性閾値(Virtual Safety Dose; VSDの設定について述べた概念

1.5μg/日 未知の化学物質の10%が発がん物質と仮定して、その99%が

10-5の発がんリスクで担保される設定閾値

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交通事故 6×10-3(千分の6)

水難 7×10-4(1万分の7)

火災 6×10-4(1万分の6)

自然災害 3×10-5(10万分の3)

落雷 2×10-6(100万分の2)

日本での死因の生涯リスク(中央環境審議会報告書より引用)

生涯でがんで死亡する確率は、男性25%、女性16%

生涯でがんに罹患する確率は、男性62%、女性47%

日本人のがん死亡率・がん罹患率(国立がん研究センター・がん情報サービス)

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構造アラートにより強力な発がん物質であってTTCアプローチが不適切なもの(Cohort of Concern)

VSDの分布

Log10Dose

発が

ん物

質の

相対

的頻

(10-5 from TD50)

1.5 ug/ day

懸念すべきクラス(COC)

15 ug/ day

• アフラトキシン類• アゾキシ化合物• ニトロソ化合物

・2,3,7,8-dibenzo-p-dioxin(TCDD)類・ステロイド類

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ハザード評価

I. 不純物の分類

II. 構造活性相関(SAR) 解析

III. エームス試験

IV. In vivo 試験によるフォローアップ

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不純物分類 定義

予想される管理方法

カテゴリー 1 変異原性発がん物質

カテゴリー 2

変異原性不明、親化合物関連しないアラート構造を有するカテゴリー 3

変異原性を有するが発がん性不明

カテゴリー 4 変異原性不明、親化合物と類似したアラート構造を有する

カテゴリー 5 構造アラートの特徴なし

VSDor

PDE

非変異原物質として評価

変異原性不純物の分類と管理方法

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DNA反応性不純物の安全性確認のためのフローチャート

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医薬品中に含まれる不純物の許容値

非変異原性不純物 (Q3A,B) 変異原性不純物 (M7)

2006年12月 2014年3月

1 mg/日(原薬の場合) 1.5 μg/日

約700倍も厳しい管理が必要!

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リスクの特性解析による管理レベルの緩和

1.曝露期間に応じた許容レベル(Less than Lifetime TTC)

2.化合物の特徴に応じた許容レベル(Compound-specific VSD、AI)

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Haberの法則

曝露期間

曝露

レベル

T1 T2

C1

C2

C1 x T1 = C2 x T2

曝露期間

曝露

レベル

高濃度短期間曝露と低濃度長期間曝露の生涯累積用量は同価である

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Haberの法則を考慮したTTCレベル(10-5リスク)

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ICH-M7で提唱する許容摂取レベル

治験薬

上市医薬品

28

投与期間 ≤1ヵ月 >1~12ヵ月 >1~10年 >10年、一生涯にわたる

1日摂取量(μg/day) 120 20 10 1.5

投与期間 ≤1ヵ月 >1~12ヵ月 >1~10年 >10年、一生涯にわたる

1日摂取量(μg/day) 120 60 30 5

個々の不純物に対する許容摂取量

全不純物に対する許容摂取量

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許容摂取量を適用する様々な投与期間の臨床使用シナリオの例

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VSDの分布

Log10Dose

発が

ん物

質の

相対

的頻

度(10-5 from TD50)

1.5 ug/ day

懸念すべきクラス(COC) 懸念が少ない(COLC)

15 ug/ day

化合物の特徴に応じた許容レベル

• モノ塩化アルキル化剤

-懸念すべきクラス vs. 懸念が少ないクラス-

• アフラトキシン類• アゾキシ化合物• ニトロソ化合物

• 2,3,7,8-dibenzo-p-dioxin(TCDD)類・ステロイド類

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注4

化合物特異的許容摂取量も、適切な生涯

リスクレベルである10-5を用い、世界保健

機関(WHO、International Program on

Chemical Safety [IPCS] Cancer Risk

Assessment Program)などの国際的に認

知された機関が公表した推奨値から求め

ることができる。一般に、規制上の限度値

として適用される値は最新の科学的に裏

付けされたデータ又は方法に基づいてい

る必要がある。

化合物の特徴に応じた許容レベル(2)

2017年6月:最終化(Step 4)2018年6月:国内発出(Step5)2018年11月~補遺の追加(R2)

補遺: ICH-M7ガイドライン原則の化合物特異的な許容摂取量算出への適用

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化合物特異的な許容摂取量の設定(acceptable intake (AI), permitted daily exposure (PDE))

用量

発が

ん性

非変異原性発がん物質(閾値有り);非線形作用機序によるPDEの算出

変異原性発がん物質(閾値無し);直線作用機序によるTD50からAIの算出

0.5

10-5

TD50AI

X1/50,000

無作用量PDE

X不確実係数(1/100)

閾値

発が

ん性

用量

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Compound CAS# Chemical Structure AI or PDE(µg/day)

Comment

Linear extrapolation from TD50

Acrylonitrile 107-13-1 6 TD50 linear extrapolation

Benzyl Chloride 100-44-7 41 TD50 linear extrapolation

Bis(chloromethyl)ether 542-88-1 0.004 TD50 linear extrapolation

1-Chloro-4-nitrobenzene 100-00-5 117 TD50 linear extrapolation

p-Cresidine 120-71-8 45 TD50 linear extrapolation

Dimethylcarbamoyl chloride 79-44-7 50.6 (Inhalation)*

TD50 linear extrapolation

Ethyl chloride 75-00-3 1,810 TD50 linear extrapolation

Glycidol 556-52-5 4 TD50 linear extrapolation

Hydrazine 302-01-2 390.2 (Inhalation)*

TD50 linear extrapolation

Methyl Chloride 74-87-3 Cl-CH3 1,360 TD50 linear extrapolation

CH2

N

Cl

N

O

Cl

CH3

CH3

H3C Cl

O

HO

H2N NH2

OCl Cl

N+

O

O –

Cl

O

NH2

CH3

H3 C

(I) 変異原性が発がんに関与すると考えられるもの:閾値なし(10化合物)

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Compound CAS# Chemical Structure AI or PDE(µg/day)

Comment

Threshold-based PDEAnilineAniline HCl

62-53-3142-04-1

720 PDE based on threshold mode of action (Hemosiderosis)

(II) 変異原性がないと考えられる発がん物質:閾値あり(1化合物)

H2N

(III)内因性、もしくは他の要因によっても暴露しうる発がん物質(1化合物)

Compound CAS# Chemical Structure AI or PDE(µg/day)

Comment

Endogenous and/or Environmental ExposureHydrogen peroxide 7722-84-1 68,000 or

0.5% whicheveris lower

68 mg/day is 1% of estimated endogenous productionOHHO

許容1日暴露量 (PDE)

過酸化水素は閾値がある作用機序(すなわち、酸化ストレス)を介する遺伝毒性があり、口腔ケア及び他のパーソナルケア製品による摂取量を上回る高い水準で体内で生産されている。したがって、がん原性試験データに基づいてPDEを計算することは適切でないと考えられた。1日につき内在的に生産される過酸化水素6.8 gの1%、すなわち、68 mg/day(68,000 μg/day)を摂取しても、内在

的に生産された過酸化水素による曝露量を大幅に増やすことはないが、医薬品の品質に基づく限度値を通常上回る。ICH M7ガイドラインは、化合物特異的なリスク評価から許容摂取量を算出する場合、上限値は0.5%、例えば、一日当たりの最大用量が100 mgの薬剤では500 μgと定めている。

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ロッシュ社のビラセプト錠EMS混入事件

その後

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EMSのリスク評価のための,2007年7月にCHMPと議論合意された非臨床プログラム

Study 1:EMSのラット4週間反復投与毒性試験

目的:EMSの臓器毒性,血液学および血液生化学的評価と暴露データの取得

Study 2:EMS及びENUの1週間投与のマウス骨髄小核試験

目的:EMSとENUの低濃度領域での染色体異常誘発性の用量反応

Study 3:EMS及びENUの4週間反復投与時のMutaMouseを用いた変異原性試験(検索臓器:消化管,肝,骨髄)

Aim:EMSとENUの低濃度領域でのlacZ遺伝子変異誘発性の用量反応

Studies 4:EMSのin vitro及びin vivoでの暴露の種差 (マウス,ラット,サル,ヒト)

Aim:Viracept服用患者でのEMS暴露量を後追いで検討

CHMP: The Committee for medicinal products for human use

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マージンX455

患者の暴露量 遺伝毒性NOEL

閾値?

マウス小核試験TGマウス突然変異試験

動物を使った変異原性試験(TG突然変異試験)結果と閾値

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ビラセプト錠に含まれるEMS (2.75 mg/day) の発がんリスク評価ー発がん試験のデータがないケースー

ICH-M7の許容値

① TTC: 1.5 µg/day (1830倍)ー 1.8 X 10-2

② 最大3ヶ月服用の場合M7に従ったLTL-TTC (3ヶ月):20 µg/day (138倍)ー 1.4 X 10-3

③最大3ヶ月服用の場合生涯70年→3ヶ月(X280の緩和):420 µg/day (6.5倍)ー 6.5 X 10-5

安全マージン=455倍

ロッシュ社の追加試験結果からの解析

マウスで変異原性を示す閾値:25 mg/kg/day

患者の曝露量:0.055 mg/kg/day

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EU規制当局の結論 – 2008年7月

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バルサルタン(あすか製薬)錠NDMA混入事件

その後

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バルサルタン錠に含まれるNDMAの発がんリスク評価ー発がん試験のデータがあるケースー

ICH-M7に基づく許容値(AI)

あすか製薬の報告書から、高濃度の原薬を用いた160mg錠を毎日一錠服用した場合のNDMA摂取の最大量は10.7 µg/dayとした。

バルサルタン錠「AA」の服用による曝露量

• NDMA極めて強い発がん性を示す可能性がある(cohort of concern)ため許容摂取量は本ガイドラインに規定された許容摂取量よりも著しく低い値となることが見込まれる。

• NDMAのTD50は発がん性データベースより0.0959mg/kg/dayとされている。10万分の1のリスクに相当するAIは、0.0959 µg/day と算出される。

NDMAの発がんリスク評価

• 生涯服用の場合: 10.7 / 0.0959 = 111.5; 発がんリスクレベル:1.1 X 10-3

• 最大4年間服用の場合①;M7に従ったLTL(生涯→10年以下;10/1.5の緩和):1.7 X 10-4

• 最大4年間服用の場合②;(生涯→4年以下;70/4の緩和): 6.3 X 10-5

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ICH-M7 ガイドライン(安全性)のまとめ

対象は低レベルでDNAに直接損傷を与える変異原物質(Mutagens) 変異原性はエームス試験によって評価される

エームス試験の替わりに構造活性相関(QSAR)を用いて評価しても良い

毒性学的懸念の閾値(TTC)の適用

10万分の1の発がんリスクを考慮した1.5μg/日を許容値とする

強力な発がん物質(COC) は除外する

リスクの特性解析による管理レベルの緩和

曝露期間に応じて許容値を緩和することができる

1ヶ月以内、1年以内、10年以内

化合物の特徴に応じて許容値を緩和することができる

モノ塩化アルキル化剤(10倍の緩和:15μg/日)

化合物特異的許容値の設定→補遺の策定

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ACEM/JEMS

第6回アジア環境変異原学会/第48回日本環境変異原学会

2019年11月18-20日一ツ橋ホール、東京