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スポーツ庁委託事業(平成30年度「女性スポーツ推進事業(女性コーチの育成)」) 健やかに、美しく、 そして生活を楽しむ -スポーツ指導者・保護者・学校関係者の皆さまへ- 女性スポーツ 促進に向けた スポーツ指導者 ハンドブック

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Page 1: -スポーツ指導者・保護者・学校関係者の皆さま …...スポーツ庁委託事業(平成30年度「女性スポーツ推進事業(女性コーチの育成)」)

スポーツ庁委託事業(平成30年度「女性スポーツ推進事業(女性コーチの育成)」)

健やかに、美しく、そして生活を楽しむ

-スポーツ指導者・保護者・学校関係者の皆さまへ-

女性スポーツ促進に向けたスポーツ指導者ハンドブック

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はじめに日本スポーツ協会では、女性のスポーツ参加を手助けするスポーツ指導者などの支援者に向けて、女性を対象としたスポーツ指導や、スポーツへの参加を促す上で、留意すべき医・科学的知見をハンドブックにまとめました。

2017年 3月にスポーツ庁が策定した第 2期スポーツ基本計画では、今後 5年間に総合的かつ計画的に取り組む施策の一つに「女性」を対象とした施策が盛り込まれています。

女性を対象としたスポーツ施策が必要とされている理由は、女性特有の疾病予防を含む心身の健康増進や生きがいづくりにつながる運動・スポーツの実践が奨励されている一方で、女性のスポーツ実施(する)率、スポーツ観戦(みる)率、スポーツボランティア実施(ささえる)率は、全世代を平均すると男性と比較して低い現状にあるためです。

この背景には、月経周期異常を抱える女性競技者、運動不足の女子小中学生、スポーツを嫌いと感じる女子中学生、「面倒くさい」を理由にスポーツを実施しない女性など、女性とスポーツに関する様々な課題があると考えられています。

これらの課題を解決するためには、女性の発育発達や身体活動量に応じた指導や、年代・ライフステージ・志向などにより変化する女性の考え方に合わせた働きかけが求められます。つまり、女性特有の「身体的特徴」や「意欲・ニーズ」などへ配慮することが必要となります。特に、女性のスポーツ参加を手助けする「スポーツ指導者」「保護者」「学校関係者」といった支援者の皆さんが、女性の身体的特徴や意欲・ニーズに合った楽しみ方を理解し、女性と接することが重要であると考えられます。

このハンドブックを通じて、これらの支援者が女性スポーツに対する理解を深めることで、一人でも多くの女性が健やかに、美しく、そして生活を楽しむことができるスポーツ環境を創られることを願っています。

公益財団法人日本スポーツ協会

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女性とスポーツに関する課題と現状(一例)

月経周期異常の女性競技者

〔課題〕

〔現状〕する・みる・ささえるの男女差(全年代平均)

日本代表レベル、全国大会レベル、地方大会レベル等競技レベルを問わず

東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科(2018)Health Management for Female Athlete Ver.3-女性アスリートのための月経対策ハンドブック-(第3版)東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科.

約40%

スポーツ庁(2018)平成30年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査.

1週間の総運動時間が60分未満運動不足の10代女子

13.3%女子小学5年生

男子7.2%

女子中学2年生19.8%男子6.9%

運動やスポーツを「嫌い」 「やや嫌い」と回答した女子中学2年生

スポーツ庁(2018)平成30年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査.

21.3%男子11.4%

スポーツ庁(2018)平成29年度スポーツの実施状況等に関する世論調査.

スポーツ実施率(する) 女性 50.2% 男性 53.4%女性 25.1% 男性 27.2%

週 1回以上

週 3回以上

女性 21.6% 男性 32.3%スポーツ観戦率(みる)過去 1年間に直接現地へ足を運んだスポーツ観戦者

女性 8.3% 男性 13.0%スポーツボランティア実施率(ささえる)

過去 1年間のスポーツボランティア参加率

日本総合研究所(2018)平成29年度スポーツ政策調査研究事業(スポーツを通じた女性の活躍のための現状把握調査).

過去1年間に運動・スポーツを実施できなかった女性の理由

1位 面倒くさいから 37.6%2位 仕事や家事が忙しいから 34.0%3位 運動・スポーツが嫌いだから 22.4%4位 特に理由はない 16.0%5位 子供に手がかかるから 11.8%

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女性スポーツ指導の留意点

はじめに ページへ!1~2 女性スポーツ啓発の留意点

アイコンの意味使い方

ページへ!23

引用・参考文献 ページへ!44

スポーツ指導者、学校関係者

目 次

それぞれの対象者に合わせて、『関係の深い「年代」「志向」』については、アイコンで示しました。このアイコンを参考に興味のあるところをお読みください。

キーワード 関係の深い年代、志向 特に読んで欲しい方

1. 女性スポーツの医学

女性アスリートの三主徴、月経随伴症状、月経周期調節、摂食障害、貧血

1 月経の基礎知識2 女性アスリートの三主徴3 摂食障害

4 月経随伴症状とその対策5 貧血

10~30代の女性競技者

ページへ!5

4. 幼児~小学生まで

身体活動量、動機づけ、運動遊び、指導法・指導技術、アクティブ・チャイルド・プログラム

幼児~小学生

スポーツ指導者、学校関係者

2. 女性スポーツの栄養

利用可能エネルギー、エネルギー不足、エネルギー摂取、栄養素摂取

ジュニア競技者、身体活動量の多い競技者

ページへ!11

5. 中学生~成人まで

運動不足の健康リスク、痩せ、骨粗鬆症、寝たきり、糖尿病

10代の女子生徒、若年女性~中年女性

ページへ!29

スポーツ指導者、保護者、学校関係者

学校関係者

3. 女性スポーツにおけるハラスメント

セクシュアルハラスメント、ジェンダーハラスメント、性的マイノリティに関する差別

子どもから大人まで、愛好者から競技者まで

ページへ!17

6. 行動変容を促す方策

行動変容、動機づけ、自己効力感、ステージマッチド・アプローチ、逆戻り予防

若年女性~中年女性、高齢女性

ページへ!35

スポーツ指導者、スポーツ少年団関係者、学校関係者

スポーツ愛好者、スポーツ指導者

幼児・小学生 10代女子 若年・中年(成人女性)

高年(成人女性)

競技者 愛好者 未実施者

〔年代〕

〔志向〕

1 日本女性の運動不足の現状2 日本女性の体力と体格の推移3 運動不足、体力不足、  痩せがもたらす健康問題

4 運動していない女性が挙げる理由と  これからやりたいスポーツ5 good practice(好事例)など

1 ハラスメントの考え方2 ハラスメントや差別の影響

3 気をつけるべきポイント4 身体接触について

1 幼少年期における身体活動、運動の意義2 運動・スポーツ指導の実際

3 幼少年期の運動・スポーツのあり方

1 すでに行っている女性の継続を支援する2 行っていない女性の動機や  バリア要因を理解し、「開始」を促す

3 最後に:女性のスポーツ人口を  増やすヒント

1 スポーツ栄養の意義2 食事の基本3 エネルギー不足の考え方と評価4 FATの改善方法

5 FATの予防方法6 貧血の改善と予防7 疲労骨折の改善と予防

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女性スポーツ指導の留意点

はじめに ページへ!1~2 女性スポーツ啓発の留意点

アイコンの意味使い方

ページへ!23

引用・参考文献 ページへ!44

スポーツ指導者、学校関係者

目 次

それぞれの対象者に合わせて、『関係の深い「年代」「志向」』については、アイコンで示しました。このアイコンを参考に興味のあるところをお読みください。

キーワード 関係の深い年代、志向 特に読んで欲しい方

1. 女性スポーツの医学

女性アスリートの三主徴、月経随伴症状、月経周期調節、摂食障害、貧血

1 月経の基礎知識2 女性アスリートの三主徴3 摂食障害

4 月経随伴症状とその対策5 貧血

10~30代の女性競技者

ページへ!5

4. 幼児~小学生まで

身体活動量、動機づけ、運動遊び、指導法・指導技術、アクティブ・チャイルド・プログラム

幼児~小学生

スポーツ指導者、学校関係者

2. 女性スポーツの栄養

利用可能エネルギー、エネルギー不足、エネルギー摂取、栄養素摂取

ジュニア競技者、身体活動量の多い競技者

ページへ!11

5. 中学生~成人まで

運動不足の健康リスク、痩せ、骨粗鬆症、寝たきり、糖尿病

10代の女子生徒、若年女性~中年女性

ページへ!29

スポーツ指導者、保護者、学校関係者

学校関係者

3. 女性スポーツにおけるハラスメント

セクシュアルハラスメント、ジェンダーハラスメント、性的マイノリティに関する差別

子どもから大人まで、愛好者から競技者まで

ページへ!17

6. 行動変容を促す方策

行動変容、動機づけ、自己効力感、ステージマッチド・アプローチ、逆戻り予防

若年女性~中年女性、高齢女性

ページへ!35

スポーツ指導者、スポーツ少年団関係者、学校関係者

スポーツ愛好者、スポーツ指導者

幼児・小学生 10代女子 若年・中年(成人女性)

高年(成人女性)

競技者 愛好者 未実施者

〔年代〕

〔志向〕

1 日本女性の運動不足の現状2 日本女性の体力と体格の推移3 運動不足、体力不足、  痩せがもたらす健康問題

4 運動していない女性が挙げる理由と  これからやりたいスポーツ5 good practice(好事例)など

1 ハラスメントの考え方2 ハラスメントや差別の影響

3 気をつけるべきポイント4 身体接触について

1 幼少年期における身体活動、運動の意義2 運動・スポーツ指導の実際

3 幼少年期の運動・スポーツのあり方

1 すでに行っている女性の継続を支援する2 行っていない女性の動機や  バリア要因を理解し、「開始」を促す

3 最後に:女性のスポーツ人口を  増やすヒント

1 スポーツ栄養の意義2 食事の基本3 エネルギー不足の考え方と評価4 FATの改善方法

5 FATの予防方法6 貧血の改善と予防7 疲労骨折の改善と予防

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

1 月経の基礎知識

 月経周期に伴う精神的・身体的症状の変化や正常・異常月経の定義を理解することは、女子競技者のコンディショニングを考える上で重要であり、異常の早期発見につながります(図 1-1、表 1-1)。表 1-1 の月経異常に当てはまる競技者は、婦人科受診の対象となります。

女性スポーツの医学能瀬 さやか・川原 貴

1. 女性スポーツ指導の留意点 競技者若年・中年10代女子

表 1-1. 正常月経と月経異常

初経

平均年齢(一般女性) 12.3 歳平均年齢(トップアスリート) 12.9 歳遅発月経 15 歳以上 18 歳未満で初経がきたもの原発性無月経 18 歳になっても初経がきていないもの

月経周期

正常 25 〜 38 日希発月経 39 日以上頻発月経 24 日以下続発性無月経 これまできていた月経が、3カ月以上止まっている状態

月経期間正常 3〜7日過長月経 8日以上

経血量

過少月経極端に少ない例・付着程度 ・多い日でも1日ナプキン1枚でたりる

過多月経

量が多い例・レバー状の血の塊がでる ・夜用ナプキンを1〜2時間毎に交換する ・3日以上夜用ナプキンを使用する ・タンポンとナプキンの併用が必要

東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科(2018)

東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科(2018)

下腹部痛、吐気、胃痛、腹部膨満感、体重増加、下痢、むくみ、肌荒れ、だるさ、頭痛 など

むくみ、イライラ、腰痛、乳房痛、頭痛、下腹部痛、肌荒れ、体重増加、食欲亢進、眠気 など

下腹部痛、出血、頭痛 など

体重

月経期 卵胞期 排卵期 黄体期 月経期

体重が1~2㎏増加

体重が落ちにくい時期

基礎体温

図 1-1. 月経周期に伴う心身の変化

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

2 女性アスリートの三主徴

 アメリカスポーツ医学会では、女性競技者に多い健康問題として、利用可能エネルギー不足(low energy availability:LEA)、無月経、骨粗鬆症を挙げ、これらを「女性アスリートの三主徴(Female Athlete triad:FAT)」と定義しています(De Souza et al.,2014)。この FAT のうち 1 つの疾患を認める場合 2.4から 4.9 倍、FAT 全てを認める場合 6.8 倍疲労骨折のリスクが高まることが明らかになっており、FAT への医学的介入は障害予防の点でも重要です(Mallinson et al.,2014)。LEA は、(食事から摂るエネルギー摂取量)-(運動によるエネルギー消費量)が 1 日除脂肪量 1kg あたり 30kcal/kg/ 日未満と定義され、この LEA の状態が長期間続くと、排卵を促すための黄体化ホルモンの周期的分泌が抑制され無月経となります(De Souza et al.,2014)。このため、日常的に基礎体温を測定し、排卵があることを示す高温期がみられない競技者では、運動量と食事量の見直しを行うことが LEA の早期発見の手がかりとなるケースがあります。しかし、実際にこのエネルギー摂取量や消費量を測定することは現実的ではなく、海外では下記の①〜③に当てはまる場合は LEA を疑うとしています

(De Souza et al.,2014)。 ①成人:BMI 17.5 以下 ②思春期:標準体重の 85%以下 ③ 1 か月以内の体重減少が 10%以上 無月経の原因は様々あるため、まずは医療機関を受診し、原因が LEA であるかを鑑別することが適切な治療につながる第一歩となります。 LEA による無月経の治療は、運動によるエネルギー消費量を減らす、かつ(または)食事からのエネルギー摂取量を増やすことであり、ホルモン療法が第一選択ではありません(De Souza et al.,2014 ; Mountjoy et al.,2014)。エネルギーバランスの改善については、2章(11 〜 16 ページ)を参照してください。 LEA の改善を行っても黄体化ホルモン値の改善や月経が再開しない場合、また低骨量 / 骨粗鬆症の競技者では、競技特性を考慮してエストロゲン製剤によるホルモン療法を行う場合があります。この際重要なことは、ホルモン療法施行中も LEA の改善は継続することです。

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

3 摂食障害

 摂食障害の頻度は一般女性で 5 〜 9%に対し、競技者では 18 〜 20%と高いことが明らかになっています。また、10 代後半から 20 代の若い競技者、持久系や審美系、体重 - 階級制競技の競技者で頻度が高いことが報告されています

(Joy and Nattiv,2016)。摂食障害になるきっかけとして、周囲からの極端な減量の指示や怪我による体重増加が多く、体重が減っていないと「もっと食事量を減らさなければいけない」、「練習量がまだ足りていない」という解釈につながり、さらに食事制限と練習量を増やし LEA から FAT の悪循環に陥っていく傾向にあります。また、摂食障害の競技者では、過食や自己嘔吐、下剤の乱用等を指導者やチームメイト、家族に隠す傾向にあり、競技者は競技力向上のために努力しているという意識で食事制限をしているため競技者自身が病的意識を持っていないことも多く、疑うまでに時間がかかることが多い現状にあります。このようなケースでは、無月経をきっかけに医療機関を受診し診断につながるケースも多く、チーム関係者を含まず第三者の視点から評価を行うことも重要です。競技力向上のために体重や食事の管理は重要ですが、過剰に体重について言及したり極端な減量の指示は、摂食障害や FAT を招く場合があることも念頭に置き指導することも予防を考える上で重要となります。

4 月経随伴症状とその対策

月経随伴症状a. 月経困難症

 「月経に随伴して起こる病的症状で日常生活に支障をきたすもの」と定義され、症状は下腹部痛、腰痛、頭痛、吐気、腹部膨満感、下痢、全身倦怠感等様々で、競技者のコンディションやパフォーマンスに影響を与える代表的な婦人科疾患となります。月経痛が強く頻繁に練習を休んだり、鎮痛剤の使用量が増えている競技者には、月経困難症の原因を調べるため一度婦人科で診察を受けるよう指導しましょう。

b. 月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS) 月経 3 〜 10 日前からいらいらや気分の落ち込み等の精神症状や、体重増加、

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

浮腫、食欲亢進、眠気等の身体的症状が出現し、月経が開始するとこれらの症状が改善するものを言います。毎月月経前にコンディションの低下がみられる競技者では、PMS を疑い 2 〜 3 か月基礎体温や気になる症状を記録し、月経周期と症状に関連があるかを調べてみましょう。

c. 過多月経  経血量が異常に多いものを指しますが、他人と比較することが難しく、目安としては表1-1(5ページ)を参考にしましょう。貧血を認める女性競技者では、過多月経の有無を確認します。過多月経による貧血に対し、漫然と鉄剤を投与されている競技者がいますが、根本的な治療にはなりませんので、(超)低用量ピルを用いて経血量を少なくしたり、月経の回数を減らす治療を行います。

d. 月経周期による主観的コンディションの変化 月経周期は、卵胞期、排卵期、黄体期に分かれ、多くの競技者が月経直後から数日後の卵胞期にコンディションが良いと感じています。このような競技者では、次に解説する一時的な月経周期調節法(月経をずらす)により、主観的コンディションの良い時期に試合を合わせることが可能です。月経随伴症状への対策 月経随伴症状への対策は、女性競技者のコンディショニングを考える上で重要となりますが、これらの症状がない競技者においても、試合や練習日程に合わせ月経が重ならないように月経周期調節を行うことが出来ます。月経対策を考える際、下記 a と b の方法に分けて考えると理解しやすくなります。この際使用されるホルモン剤で、吐気や頭痛、不正出血、一時的な体重増加、血栓症等の副作用がみられることもあるため、産婦人科医から正しい情報を得た上で服用するか否か、服用開始時期等を決めましょう。a. 一時的調節法(次回の月経のみを移動させる方法)

 月経を早める方法と遅らせる方法がありますが、競技者では原則早める方法をとります。この方法は、月経を移動させるのみであり、月経困難症等の治療にはなりません。一時的な調節法では中用量ピルを使用することが多く、移動させたい月経の1回前の月経5日目から7日目の間に1日1錠服用を開始し、月経を起こしたい日の2〜3日前まで服用します(図 1-2、9 ページ)。

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

b. 継続的調節法(年間を通して月経を調節する方法) (超)低用量ピルを服用する方法で、月経随伴症状の治療と同時に来て欲しい時期に自由に月経を起こすことが可能です。月経随伴症状を認める競技者には、一時的調節法ではなく継続的調節法をお勧めします。ピルと聞くと避妊薬という印象が強いですが、現在日本では、月経困難症に対し保険適用があり、また、PMS の治療や経血量が減少することから過多月経の治療としても日常的に使用されています。WHO では、初経がきたら低用量ピルの服用は可能であるとしています。

コンディションの良い時期:月経終了後

図 1-2. 一時的な月経周期調節法の例

東京大学医学部附属病院 女性診療科・内科(2018)

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの医学

女性スポーツ指導の留意点

5 貧血

 競技者に多くみられる貧血は鉄欠乏性貧血であり、鉄の排出や需要が増大し鉄の供給が追いつかないことが原因として挙げられます。ランニングなどによる繰り返す足底への衝撃により赤血球の破壊(溶血)が起こることが知られていますが、微量であり貧血をきたすことはありません。また、女性では、通常の経血量で貧血になることはありませんが、過多月経による貧血の際は、(超)低用量ピルを用いて経血量を少なくする治療を行います。症状として、めまい、立ちくらみ、頭痛、息切れ等があり、貧血により全身へ酸素を運搬出来なくなると有酸素運動能力が低下し持久力低下につながるため、これらの症状を認める場合は、血液検査で貧血のチェックを行いましょう。 鉄欠乏性貧血の治療は鉄剤の服用で、食生活の改善で再発を予防します(2章、11 〜 16 ページ参照)。軽度の貧血なら強度を落としてトレーニングを続けてもかまいませんが、日常生活で症状がある場合はトレーニングを中止します。鉄剤の注射が行われることがありますが、即効性を求めて安易に注射を続けることは危険です。鉄剤注射を繰り返すと鉄過剰となり、肝臓障害などを起こすことがあります。鉄剤は経口投与が基本であり、鉄剤注射は医師が必要と判断した場合のみ受けるもので、安易な回復手段として考えてはいけません。

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

1 スポーツ栄養の意義

 競技者にとってスポーツ栄養の意義は、2つあります。 1つは、パフォーマンスの向上を目的に試合や練習の開始時刻や継続時間、強度等を考慮したエネルギー、栄養素や水分の摂取を効果的に実施するためです。競技者個人にあった摂取方法は、エビデンスを活用して、競技種目や競技者個人の特性に応じて公認スポーツ栄養士や管理栄養士がアレンジをします。 もう1つは、身体活動量の増加に伴うエネルギーや栄養素の摂取量に対応した栄養管理を行うためです。栄養管理の必要性は、①から③にまとめることができます。①身体活動量に伴って食べる量を多くしてエネルギーや栄養素の必要量を摂取しますが、食べることができる量には限界があるため、身体活動量が食べて補える量を上回ってしまうことがあります。②身体活動(骨格筋の運動)によって自律神経の交感神経が優位な状況となり、身体活動中、効率よく消化吸収ができないことがあります。③1日のうちで副交感神経が優位となり効率よく消化吸収することができる時間は、身体活動の時間が長くなれば短くなります。これら3 つの理由から、身体活動が増加することによって、エネルギーや栄養素の必要量を補いきれない時に栄養管理を行うことで栄養状態を良好に維持することができます。 食べることができる量に限界がある場合(①)の栄養管理は、摂取する栄養素の優先順位を考えなくてはいけません。糖質とタンパク質を優先順位として高く摂取すると、エネルギーは必要量を満たされるものの、野菜や海藻の量が少なくなり、ビタミンとミネラルの摂取量が必要量を満たされなくなります。このように、身体活動量が多くなり、その活動量にあった必要量を満たすバランスの良い食事を食べきれない状況になった時には、エネルギーの摂取量を満たすことを優先的に考えた食事とし、必要量を満たすことができないビタミンやミネラルについては、不足分をサプリメントで補うことになります。ただし、成長期の競技者については、サプリメントを利用せず、バランスよく食べることによって必要量

女性スポーツの栄養鈴木 志保子

2. 女性スポーツ指導の留意点 競技者若年・中年10代女子幼児・小学生

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

を摂取できるだけの身体活動量にすべきです(鈴木,2017)。エネルギーの摂取が不足した場合には、相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport(RED-S))の状態となります(13 ページ「3. エネルギー不足の考え方と評価」を参照)(Mountjoy et al.,2014)。消化吸収の効率をよくする栄養管理(②と③)は、練習に合わせた食事の量やタイミング、補食の活用などを用いて対応します。

2 食事の基本

 バランスの良い食事は、「食事の内容が整っていること 」と「自分にとっての必要量をとること」の両方を成立させる必要があります。食事の内容が整っていても、必要量以下であるならば、低栄養状態になり、逆に必要量以上の場合には過栄養状態となります。 食事の内容は、図 2-1 に示したように食事構成から考えることができます。食事構成は、「主食」「主菜」「副菜」「果物」「乳製品」です。そのそれぞれについて、目的に応じて「食材」を選び、調理方法を決めて、“ バランス良く ” 組み立てていきます。また、「必要量」が充足されていたかどうかは、結果でしか評価ができないため、毎朝、排尿後に体重を測定したり、コンディションを確認したりすることにより、必要量の感覚を習得することが必要です。食事の内容や食

図 2-1. バランスの良い食事構成日本体育協会(2012)

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

べる量を決める時に、「バランス感」を持つことによって、いかなる場面においても食事を整えることができるようになります。このバランス感とは、1食でバランスを取りきれなかった場合に、補食や間食で補ったり、次の食事で薄くなった部分を強化させたりすることができる能力と言えます。

3 エネルギー不足の考え方と評価

 エネルギー不足によって起こる症状は、多岐にわたります。国際オリンピック委員会 (IOC)は 2014 年に「スポーツにおける相対的エネルギー不足 (Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S)) 」による症状が出る組織や機能を図 2-2 のように示しています。相対的エネルギー不足とは、日常の生活を送るためにエネルギーが十分にない状態と言えます。図 2-2 からもわかるように相対的エネルギー不足は、さまざまな組織や機能に影響を与えます。特に女性は、エネルギー不足により、「女性アスリートの三主徴(Female Athlete triad:FAT)」が 起こります。 エネルギー不足は、利用可能エネルギー

(energy availability:以下 EA)を算出することで評価できます。EA は、2007年にアメリカスポーツ医学会(ACSM)が FAT を考える際に示したエネルギー不足の評価法です(Nattiv et al.,2007)。この評価の考え方は、女性だけではなく、男性競技者においても、また、競技者以外の一般の人においても活用することができます。 EA の計算方法は、摂取しているエネルギー量が、運動で使っているエネルギー以外にどのくらいあるのかを、体脂肪量を除いた量(除脂肪体重量)あたりで評価します。運動していないときに、どのくらい組織や臓器でエネルギーを使って生きていくことができるのかを示した数値と言い換えることもできます。EA が、45kcal 以上であれば、エネルギー不足ではない状態、30kcal 未満ではエネルギー

図 2-2. 相対的エネルギー不足によって引き起こされる健康問題

Mountjoy et al(2014)

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

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女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

利用可能エネルギー(energy availability)の計算方法エネルギー摂取量 ー 運動によるエネルギー消費量 >45 良好

<30 危険kcal/(LBM)kg/日

除脂肪体重(Lean Body Mass)

不足で危険な状態、30 ~ 45kcal ではさまざまな症状やコンディション不良が起こる状態であると言えます。

 EA は、エネルギー摂取量の数値や運動によって消費するエネルギー量の数値が必要であり、簡単には算出できません。また、正確に算出できるものではありません。EA の活用は、毎日どのように数値が変化するのかや、数値そのものが評価されるのではなく、どの状態であるかを把握するための評価であり、身体が生きたり、生活したりするために利用可能なエネルギーが日常的(平常化した状態)にどのような状況にあるのかを客観的に評価するためのものです。

4 FATの改善方法

 FAT は、エネルギー摂取量を多くすることで改善されます。例えば、体重 50㎏、 体脂肪率 18%、除脂肪体重 41㎏、エネルギー摂取量が 1800kcal、運動によるエネルギー消費量 600kcal の競技者の場合、EA は 29kcal です。FAT を起こしている状況にあると評価できます。この競技者の EA を 45kcal とするには、2400kcal 程度のエネルギー摂取量となります。摂取するエネルギー量を 600kcal 多くすることで解決すると考えることができますが、急にエネルギー摂取量を多くすることにより、1800kcal で適応して生きてきた身体は、600kcal を使い切れずにエネルギーが余った状態となり、体脂肪として貯蓄することになります(鈴木,2018)。そこで、適応しているエネルギー量を徐々に多くしていくことをします。徐々にエネルギー摂取量を増加させることで、半年から1年かけて適応を EA45kcal 程度に増やしていくとよいでしょう。 ジュニア競技者の場合には、エネルギー不足により成長に支障をきたしている可能性が高いため、成人の競技者よりも大胆にエネルギーの摂取量を多くしていくことが必要です。EA から評価するのではなく、成長曲線から成長の状況を把握して進めていくことをお勧めします。

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15

2 

女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

2 

女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

 

5 FATの予防方法

 FAT の予防は、エネルギー不足にならないことです。定期的に EA を算出して評価することで確認することができます。また、コンディションが良好な状況を維持できていることも評価できます。減量によって意図的にエネルギーの摂取量を減少させた場合においてもエネルギー不足となることから、エネルギー減少量の設定を多くし過ぎないことや、長期間に及ばないようにすることなどに注意しなくてはなりません。 成長期は、身長が高くなることにより、体重も増加することから、除脂肪体重量も、それに伴い増加している状況であると言えます。そのため、成長期のEAは、エネルギー摂取量が同じ場合には、低下していくことになることを知り、エネルギー不足にならないように食べること、食べる量が上限に達した場合には、運動量を少なくして対応しなくてはなりません。

6 貧血の改善と予防

 競技者の貧血の原因として主として 2 つ考えることができます。1つは、身体活動量に応じて鉄の必要量が増加するが必要量を摂取できなかった場合、もう1 つはエネルギー不足になった場合です(鈴木,2018)。 競技者が鉄の必要量を摂取できなかったために起こる貧血の原因は、激しい身体活動によって、溶血(赤血球が壊れてしまう)が起こったり、発汗量が多くなることによって鉄をはじめとするミネラルの損失が多くなったり、消化管から出血したりするためです。また、一般的な貧血の原因である胃腸の調子が悪い場合、痔やけがなどで出血がある場合があります。貧血は、赤血球やヘモグロビンの欠乏状態となっても造血によって補うことができれば起こりませんが、損失に比べ造血が下回ると鉄欠乏性貧血を起こすことになります。造血するためには、十分な鉄の摂取が必要ですが、運動によって消化吸収を効率よく行う時間が少なくなることから、食事として摂取している量が十分であっても吸収されなくては鉄の量が必要量以下になります。医師の診断により、貧血の状態を把握し、食事の改善や工夫、鉄の摂取量を多くすること、胃腸の状態を良好にすること、運動量や時間を少なくして強度も低くするなど、原因となることを解消・軽減させること

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2 

女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

2 

女性スポーツの栄養

女性スポーツ指導の留意点

が必要となります。鉄の摂取が食事からだけでは足りない場合には、鉄剤やサプリメントを使って補うこともあります。 競技者は、減量によって貧血になることを知っています。そのため、減量時には貧血予防として鉄のサプリメントを摂取する場合が多いようです。しかし、鉄のサプリメントを飲んでいても貧血になります。エネルギー不足から貧血になるのです。エネルギーが不足した状態では、エネルギーを節約するためにヘモグロビンを低くすると考えられます。この場合、鉄を必要量摂取しても貧血を改善させることはできず、エネルギー不足を解消させることが必要となります。 貧血の予防は、競技者がエネルギーや栄養素を必要量吸収できるように栄養管理をすることです。鉄の摂取量を増やしたり、吸収率を上げるための工夫をしたりするだけではなく、エネルギー不足にならないように毎食、バランスよく食べること、運動量を軽減させること、休息や睡眠をしっかりとること、生活リズムを崩さないことなど、日常生活を良好に確立させることが、確実な予防となります。

7 疲労骨折の改善と予防

 栄養面からの疲労骨折の改善は、カルシウムとビタミン D の摂取量を適切にすること、日照不足などによる骨の形成の減少や骨密度の低下を起こさないことが考えられます。また、エネルギー不足からの疲労骨折の改善については、エネルギー不足の解消が必要となります。 疲労骨折の予防は、バランスよく食べるとともに、エネルギー不足にならないようにしなくてはいけません。特にジュニア競技者では、3 食と補食を十分に食べていても、成長に伴ってエネルギー摂取量の増加が行われていない場合には、エネルギー不足となり、疲労骨折の原因となることもあるので注意が必要です。

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3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

1 ハラスメントの考え方

 ハラスメントとは「相手の意に反して不快や不安な状態に追い込む言動、あるいはそうした環境や状況をつくること」と説明することができます。そして被害を受けている人がそうした言動や環境を拒否したりクレームをつける、あるいは反対に受け入れることによって、被害者に利益(受け入れることによってレギュラーに選ばれる)や損害(拒否することによってレギュラーから外される)が生じます。またハラスメントが行われる背景には加害者と被害者という当事者の間の権力関係や信頼関係がありますので、そう簡単には拒否したりクレームをつけられない状況になります。こうしてハラスメントはなかなか表面化せず、そこに潜む問題は見えなくなってしまいます。そして、例えば本来は競技力に基づいて決められるべきレギュラー選出といった競技者にとって大切な事柄が、権力の乱用や信頼関係の悪用によって決定されることになるのです。しかしこうした決定方法がスポーツという場において不適切であることは言うまでもありません。 ハラスメントが許されるスポーツ環境では、競技者は安心して競技に取り組むことができません。また指導者のハラスメントにクレームをつければクラブに居づらくもなります。こうした事態はつまり、競技者がスポーツに取り組む権利を侵害していることになります。 一方で、加害者が被害者を時間をかけて準備周到に手なづけることで、被害者自身が被害を受けていることを自覚できずにハラスメントを受け続けるという事例が報告されています。こうした事例は、スポーツという場の秩序を壊しているという点でやはり不適切であることに違いはありません。 すでに述べたように、ハラスメントは当事者間の権力関係や信頼関係を背景に行われますので、加害者が男性で被害者が女性といった性別の問題ではありません。また「○○をやったからハラスメント」といったように表面的な言動だけで決められるものでもありません。しかし、それでも典型的な例として報告されている多くの事例があります。表 3-1 にハラスメントをその内容によってタイプ

女性スポーツにおけるハラスメント高峰 修

3. 女性スポーツ指導の留意点 競技者若年・中年10代女子幼児・小学生 愛好者

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3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

分けし、いくつかの報告事例を示しました。

①セクシュアルハラスメント セクシュアルハラスメントは、その場に持ち込むべきではない性的な言動を行ったり、あるいは性的な環境をつくることです。この場合の「性的」とは性的欲求のことを意味しています。学校や職場と同じようにスポーツの場は基本的には公共的な場ですので、こうした個人的な欲求を持ち込むことは許されません。指導者と競技者はあくまでも競技上の人間関係に留まるべきでしょう。たとえ自由恋愛であっても、スポーツクラブ内やチーム内、運動部内において公平性の問題が生じる可能性もあります。②ジェンダーハラスメント ジェンダーハラスメントも性的な内容の言動ですが、この場合の性的とは「男らしさ」や「女の役割」といった文化 ・ 社会的な性の側面に関する事柄のことです。私たちの社会には確かにそのような「らしさ」や「性役割」と言われるものがありますが、同時に、そうしたことにはあまり縛られないような社会環境作りも進んでいます。後述するようにスポーツ環境は男性的な価値観が強く残っていますので、どうしても男性の視点から物事を判断しがちですが、そこには一般社会に

表3-1.スポーツ環境におけるハラスメントや差別の報告事例

セクシュアルハラスメント●ひわいなことばや性的な内容の冗談を言われる/メールを送られる●身体の性的な部分をじろじろ見られる  ●性的な部分のマッサージやテーピングをされる ●裸で練習をさせられる ●性的関係をせまられる ジェンダーハラスメント●飲み会で異性からデュエットやお酌を強いられる ●「男なんだから」といって痛みや屈辱に耐えることを強いられる ●女らしさ、男らしさに基づいた言動を求められる ●「結婚しないのか」「子どもを産まないのか」などプライベートに踏み込んだことを

言われる●女性のスポーツを評価しない性的マイノリティに関する差別的言動●同性愛であることを否定するような発言をされる●同性愛を理由にからかわれる/いやがらせをされる

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3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

おける判断とズレが生じている可能性があります。社会の価値観の変化や動向に敏感になり、一般社会でも通用する判断や言動をとるよう心がける必要があります。③性的マイノリティに関する差別的言動 最近、LGBT(Lesbian、Gay、By-sexual、Transgender の略称)をはじめとする性的マイノリティの存在が知られるようになってきました。Lesbian(レズビアン)と Gay(ゲイ)は同性愛者を意味しますが、By-sexual(バイセクシャル)は自分の性愛対象をどちらの性別にも限定しない人のことです。他方、Transgender(トランスジェンダー)は身体の性別と性自認に違和を覚える人、性同一性障害の診断を受けた人、さらには性別適合手術を受けた人などの総称です。さらには Intersex(インターセックス)と呼ばれる、生まれつきの身体の性的特徴が典型的な男性や女性にはおさまらない人がいます。 LGBT のうち Lesbian、Gay、By-sexual は性愛対象に関することですので、本来はスポーツ実践には関係のない事柄です。スポーツの場で同性愛者であることをからかったりするのは差別であり、そうした人たちのスポーツを行う権利の侵害になります。 Transgender と Intersex はいずれも身体の性別に関わることであり、スポーツの場では競技会出場時の性別枠組みの問題にどう対応したらよいのか積極的に検討する必要があるでしょう。また更衣室やシャワールームなどの使い分け、身につけるユニフォームなどについても配慮が求められます。巻末(44 ページ)の引用・参考文献リストにあげた井谷・來田(2016)が参考になります。

2 ハラスメントや差別の影響

 ハラスメントや差別的言動は身体 ・ 精神面や行動面、さらには社会生活面と、被害者の人生にまで悪影響を及ぼす可能性があります(表 3-2)。被害者が人格形成期にある未成年の場合、一般的に指導者の影響力は強くなり、ハラスメントによる悪影響はさらに深刻なものになるでしょう。 またその悪影響は被害者個人のレベルに止まらず、当事者が属する集団内のモラルの低下といった集団レベル、さらにはスポーツのイメージ低下といった社会レベルにまで及ぶことになります。

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3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

3 気をつけるべきポイント

①黙認と傍観 すでに述べたように、ハラスメントは加害者と被害者間の権力関係や信頼関係を背景に起こりますので、弱い立場にいる被害者は「いや」と言い出しにくいことになります。まさにこの点がハラスメントを理解する際の重要なポイントです。被害者自身が「いや」と明言しないことには周りの人たちも傍観せざるを得なくなり、そうした状況が積み重なることによってスポーツ指導場面のハラスメントは黙認されていくことになります。そしてそのような周囲の黙認や傍観は、さらに被害者が「いや」と言い出す気力を失わせることになるのです。被害者が「いや」と言わないからといって傍観や黙認をすると加害者を助けることになります。②指導するスポーツ環境全体に責任を持つ 指導者がハラスメントを行ってはならないのは言うまでもありません。しかし

表3-2. 反倫理的行為がもたらす影響

対個人身体・精神面●心身の健康状態の悪化 ●やる気や意欲の低下 ●自尊感情や自己評価の低下●不眠症、抑うつ感 ●摂食障害 など

行動面●スポーツや社会活動への参加の減少  ●競技成績や学業成績の低下 など

社会生活面●スポーツや社会生活からの離脱  ●自傷行為、自殺未遂  ●自殺 など

対集団●集団内に不愉快な環境を作り出す  ●権利侵害や権力濫用の放置●集団内のモラルや機能の低下 など

対社会●スポーツそのものや所属集団、スポーツ指導者の社会的イメージや評判を悪くする   など

日本スポーツ協会指導者育成専門委員会(2018)

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3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

自分がやらないだけでは指導者の役割を果たしたことにはなりません。指導者は自分が関わるクラブやチーム、運動部の活動場面が健全であることにも責任を持つべきです。つまり、競技者間でハラスメントや差別的な言動が行われていないかについて把握する努力をすべきですし、もしそうした言動が行われているのであれば黙認せず、競技者に対して適切な指導をすることも求められます。

4 身体接触について

 最近は社会におけるセクシュアルハラスメントに対する意識が高まってきました。このような状況において、スポーツ指導における身体接触の問題(注 1)をどのように考えればよいでしょうか。 まず考えたいのは「身体接触に代わる指導法はないのか」ということです。例えばあなたが別の指導者の背中に触れたり肘を動かすことによって競技者に身体の使い方を伝えることはできないでしょうか(図 3-1)。あるいはスマホなどのツールを使って模範となる指導者のフォームを撮影しておき競技者に見せる、さらには競技者自身の動きを撮影し、その映像を使って動きの矯正点をフィードバックするなどの方法も考えられます。注 1:ここでは落下や転倒予防などの安全確保、つまり緊急時における身体接触は対象外とします。

 スポーツの活動現場では、競技者のマッサージやテーピングをする場面もあるでしょう。しかし一方で、マッサージやテーピングは指導者によるセクシュアルハラスメントを正当化する言い訳として利用されてしまってもいます。そもそも

図3-1.身体の動きを伝えるための例

指導者がもう一人の指導者の身体に触れ、競技者に動きを説明する

■直接的身体に触れない指導法を工夫しましょう

動画を撮ってフィードバックする

動画等の教材を活用する

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3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

3 

女性スポーツにおけるハラスメント

女性スポーツ指導の留意点

マッサージやテーピングは正確な深い知識に基づいて行わないと効果が得られにくいか、場合によっては症状をより悪化させる可能性すらあります。したがってマッサージやテーピングはあくまでも有資格者が行うものとして考えるべきです。 以上のような点について検討した結果、どうしても身体接触が必要だというのであれば、まずはその必要性を説明することが求められます(説明責任)。その競技種目の指導において身体接触が必要な理由を、競技者をはじめ保護者や第三者にも理解してもらう必要があり、そのためには説明することば

4 4 4

を指導者がもたなければなりません。これまでの経験や感覚から一方的に押しつけるのではなく、合理性、論理性があり、場合によってはエビデンス(証拠)も示し、素人を相手にしても理解してもらえることば

4 4 4

が必要です。 さらには透明性の確保も重要なポイントです。実際に身体接触を伴う指導の場が密室ではなく、他者の目が行き届く範囲にある、そうした環境を整えるべきです。体育館内での指導であれば、基本的には練習の様子を保護者や関係者に公開する状態を作っておくことが望ましいでしょう。

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4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

1 幼少年期における身体活動、運動の意義

①身体活動、体力における現状と問題点 スポーツ庁の調査によると、体育の授業を除く1週間の総運動時間が60分未満の割合は、小学5年生の女子では13.3%(男子7.2%)、中学2年生の女子では19.8%(男子6.9%)でした。近年における子どもの体力低下の原因として、身体活動量の減少が問題視されていますが、特に女子においてより深刻であることが理解できます(図4-1)。

幼児〜小学生まで青野 博

4. 女性スポーツ啓発の留意点 愛好者 未実施者幼児・小学生

図 4-1. 1 週間の総運動時間 体育の授業を除く

小学 5 年生

中学 2 年生

●男子

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100

15(%)

10

5

0(分)

1週間の総運動時間60分未満:7.2%

●女子

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100

15(%)

10

5

0(分)

1週間の総運動時間60分未満:13.3%

●男子

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100

20

15

(%)

10

5

0(分)

1週間の総運動時間60分未満:6.9%

●女子

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100

20

15

(%)

10

5

0(分)

1週間の総運動時間60分未満:19.8%

競技者

スポーツ庁(2018)

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4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

 また、女子については、発育に伴い不活発な子どもの割合が増加する傾向が見られます。この要因として、男子に比べて女子特有の身体的、精神的変化が発育発達期にあるとともに、女子に特化した意識や嗜好の変化があると考えられます。 この対策として、中学生の女子をターゲットとする取り組みはもちろんですが、より低年齢の段階から運動・スポーツに親しんでもらうような取り組みも効果的であると考えます。そこで本章では、幼少年期における運動、スポーツの普及・啓発方策として、日本スポーツ協会が制作したアクティブ・チャイルド・プログラム(ACP)について、紹介、解説することとします。※�日本スポーツ協会は、子どもが様々な運動遊びを通して、楽しく、積極的に身体を動かす中で、動きの量と質を引き出すためのプログラムとしてACPを制作しました。以来、日本国内外において、ACPの普及を図っています。

② 幼少年期における運動・スポーツの意義 幼少年期は心身全体を働かせて様々な活動を行うため、心身の様々な側面の発達にとって必要な経験が相互に関連し合い積み重ねられていきます。このため、幼少年期において、遊びを中心とする身体活動を十分に行うことは、多様な動きを身につけるだけでなく、心肺機能や骨形成にも寄与するなど、生涯にわたって健康を 維持したり、何事にも積極的に取り組む意欲を育んだりするなど、豊かな人生を送るための基盤づくりとなることから、表4-1のような様々な効果が期待されます。 子ども時代の身体活動は、子ども時代の健康に貢献すると考えられます。同様に、大人になってからの身体活動は、大人になってからの健康に貢献すると考えられます。さらに、子ども時代の身体活動は、大人になってからの身体活動や健康にも影響を及ぼすと考えられます。すなわち、子ども時代の身体活動は、その年代だけでなく、生涯にわたる運動習慣や健康状態にも影響すると考えられます(図4-2、25ページ)。

表 4-1. 幼少年期における運動の意義

文部科学省(2012)一部改変

① 体力・運動能力の向上 �調整力、危険回避能力② 健康的なからだの育成 �生活習慣、丈夫な身体③ 意欲的なこころの育成 �意欲、有能感④ 社会適用力の発達 �感情のコントロール、友人関係⑤ 認知的機能の発達 �脳の発達、空間認知能力

ACP 総合サイト

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4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

2 運動・スポーツ指導の実際

① 運動・スポーツ指導の留意点(どのように伝えるか) 前述の通り、運動・スポーツは、体力・運動能力や基礎的な動きの発達に寄与するだけでなく、人間関係やコミュニケーション能力が育まれるなど、子どもの心身の発達に効果的であることが知られています。しかし、これらの効果はあくまでも活動の結果として得られるものであり、子どもへの働きかけとしては、「遊び」の要素をふんだんに取り入れて、身体を動かすことそのものに魅力を感じてやる気にさせることが求められます。 ところで、このやる気(動機づけ)について、大きく外発的動機づけと内発的動機づけに分類されます(図4-3)。ACPの最大のポイントである、楽しく積極的に身体を動かす経験は、内発的に動機づけられた状態であるといえます。なお、けして外発的動機づけがまったく悪いわけではありません。事実、外発的動機づけがきっかけとなり、結果として内発的に動機づけられることも想定されます。実際は、内発と外発が双方に動機づけられており、その時々に応じてこのバランスが変化していると考えられます。ともかく、

動機 行動(運動)外的報酬(目標)により意欲が引き出される

行動それ自体が報酬(楽しさや達成感)となり意欲を引き出すよう働く

動機行動(運動)

行動(運動)

行動(運動)

目標

外発的動機づけ

内発的動機づけ

目標

図 4-3. 動機づけの分類

大人になってからの

身体活動

CE

子ども時代の健康

大人になってからの

健康

D

A

B

子ども時代の身体活動

図 4-2. 身体活動・健康状態の持ち越し効果Boreham�and�Riddoch(2001)一部改変

杉原(2003)一部改変

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4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

子どもにとって、運動することそのものが目標となるように、運動したいから運動するといった状態に導きたいものです。 そこで、子どもが自ら運動したいと思わせる(内発的に動機づけさせる)ための行動科学的アプローチとして、以下の3点が有効であると考えられています。

 ● 有能感:�������自分はできる、成功体験 ● 自律性:�������自己決定、UnderContorol ● 関係性:�������人間関係、Communication      ��Deci�and�Ryan(1985)一部改変

 子どもが楽しく遊ぶ中でこれらを満たしてあげるように働きかける必要があります。そこで、これらを実現させるための、指導法・指導技術として、表4-2のような観点をもって子どもに接すると良いでしょう。② 運動・スポーツあそびの紹介(何を伝えるか) ACPでは、遊びとしての運動に注目しています。指導者の役割として、子どもが楽しく夢中になって取り組めるような運動遊びを提供することが求められます。そこでACPでは、指導者が子どもに対する指導を通して何を提供するべきか提案しています。具体的には、様々な運動遊びについて、遊び方の紹介はもちろん、発達段階に応じた遊びの展開例や活用法について解説しています。多くは、特別な道具を必要としない遊び、スキンシップや仲間作りの効果が期待できる遊び、そして、子どもが夢中になって遊ぶ中で多様な動きを引き出すことができる遊びを紹介しています(図4-4、4-5、4-6、27ページ)。

表 4-2. よい指導者としての観点① 多様な動きを経験させる(その大切さを保護者に伝える)楽しく遊ぶことを通して多様な動きを経験する② 一定の身体活動量と活動強度を確保する楽しく遊ぶことを通して活動量と活動強度を確保する③ 発育発達の個人差に配慮する発育発達速度の個人差を理解する、時には「見守る」「待つ」④ 次々にプログラムを展開させる多様なプログラムを設定する、ゲーム性の高い遊び、「レパートリー」×「バリエーション」⑤ できるようになったことを認めてあげる肯定的な言葉の積み重ね、こころや社会性の成長もほめる、具体的にほめる⑥ いつも元気で楽しい雰囲気をつくる表情や感情の表現に気をつかう⑦ こころの発達や社会性の獲得にも配慮する運動有能感の形成、約束、話し合い

⑧ 異年齢交流を積極的に利用する思いやり、リーダーシップ、年上の子どもに対する指導的な配慮

日本スポーツ協会(2018)

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4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

 子どもの運動・スポーツへの関心を高めるための取り組みについて、基本的には男女共通ですが、特に女子については、ACPの活用が有効だと考えられます。幼少年期に男女の区別なく群れて遊ぶことが、女子のスポーツ推進に繋がると期待されます。男女が性差を意識する前に、運動・スポーツが楽しいという体験をする。この際に、女子だけで実践するのではなく、男子と混じって楽しめる工夫が求められます。

 子どもの運動・スポーツへの関心を高めるための取り組みについて、基本的には男女共通ですが、特に女子については、ACPの活用が有効だと考えられます。幼少年期に男女の区別なく群れて遊ぶことが、女子のスポーツ推進に繋がると期待されます。男女が性差を意識する前に、運動・スポーツが楽しいという体験をする。この際に、女子だけで実践するのではなく、男子と混じって楽しめる工夫が求められます。

図 4-6. 運動遊びの一例(オニ遊び:ことろことろ) ネズミ逃がしの発展型

図 4-5. 運動遊びの一例 (オニ遊び:ねずみ逃がし)

右へ行くと見せかけて左へ!

ネズミを逃がせ!

図 4-4. 運動遊びの一例(オニ遊び:さかなとり)

漁師にタッチされたら網になって魚を捕まえるよ!

漁師にタッチされないように反対側の安全地帯まで逃げるよ!

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4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

4 

幼児〜小学生まで

女性スポーツ啓発の留意点

3 幼少年期の運動・スポーツのあり方

 一般的に、幼少年期の男女において遊びの嗜好の違いがあると考えられるため、�男女間で遊びの偏りが生じてしまいます。この遊びの偏りが運動経験の差となってしまい、やがて運動能力の差へと繋がってしまいます。能力差が生じてしまうと、さらに遊びの嗜好の差へと繋がり、その結果として、女子は男子に比べて、例えばボール運動や集団遊びを好まなくなってしまう傾向にあります。これが女子における運動離れの一因にもなっているようです。そこで、指導者は、時には個人の嗜好に関係なく意図的に運動を経験させる機会を提供する必要があります。また、遊びの嗜好に性差があることとも関連して上手にできる運動にも性差があり、例えば一般的に投げることが上手なのは男子ですが、リズミカルに身体をコントロールする要素を持った運動などは女子の方が上手だといわれます(スキップなどの動き、リズム運動、ダンスなど)。活動性の高さを中心に考えると、「男子が好むものを女子も一緒にやる」という構図に(多くの場面で)なりがちですが、時には女子が好むもの、得意なものを考慮した遊び・運動を提案できるとなお良いでしょう。 運動・スポーツ指導の現場へ、遊びを取り入れることによって、子どもの身体活動の量(歩数)と質(運動強度)が高められることが期待されます。楽しく身体を動かすことができる遊びを取り入れることは、運動・スポーツの得意、不得意に関わらず、子どもの身体活動量を増加させることに効果的だと考えられます。

時には楽しく遊ぶ中で意図的に運動を経験させる必要があります。

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5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

1 日本女性の運動不足の現状

 女性では、体力や運動に対する考え方、体格、なりやすい病気など、様々な面で男性と違いがあります。例えば、小学校から40代前半まで、男性と比較し女性では運動実施率が低い傾向がみられます。特に10代後半ではその差が20ポイント程度まで開いていることが分かります(図5-1)。

中学生~成人まで田村 好史

5. 女性スポーツ啓発の留意点 若年・中年10代女子

図5-1. 実施状況が「週1日以上の者」の年齢別割合(平成27年度)

6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20|24

25|29

30|34

35|39

40|44

45|49

50|54

55|59

60|64

65|69

70|74

100%

80%

60%

20%

40%

0%(歳)75|79

小学校 中学校 高校

男子 女子

スポーツ庁(2016)

 このように女性の運動実施が低いことと同様に注目されているのが、運動実施の二極化です。中学2年生の女子では、1週間の総運動量が60分未満である割合が19.8%にまで達している一方で、もう一つのピークは1週間に1000分くらいに認められています。つまり、女子中学生では運動をする子はするし、しない子はしない、という二極化が顕著であるということを意味しています。このような傾向は男子生徒ではあまり認められず、女子特有の傾向と考えられます(図5-2)。 二極化をきたす原因として、「運動やスポーツが好き」であるか、ということが大きな原因になっているようです。実際に、運動やスポーツがやや嫌い、または、

愛好者 未実施者競技者

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30

5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

嫌いと答えた中学2年生の女子は全体の 21.3%おり(男性は 11.4%)、そのような人ほど放課後や休日に運動やスポーツを行う機会が極めて少ないことが分かっています(図5-3)。何かのきっかけで「スポーツが嫌い!」となってしまうと、その後にずっとその気持ちが続いてしまいかねません。そのため、「新学習指導要領」においては、学校体育がどんな生徒でも楽しめるような方針が取られはじめましたし、また、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」でも、友達と楽しめるなど、多様なニーズに応じた活動を行なうことができる運動部を校長が設置すると明記されるようになりました。実際にユニークな部活動は全国に広がりつつあります(後述)。

2 日本女性の体力と体格の推移  

 女性の体力は年代ごとに違った変化があります。特に30代後半の体力の低下が進んでいます。子育てや仕事などで運動する時間や余裕がないことが原因なのではないかと推測されています(図5-4、31ページ)。また、図5-4(31ページ)で表れているのはあくまで平均値ですので、先ほど触れた二極化も念頭に置く必要があります。つまり、スポーツや運動をしていない人はほとんどしていな

図5-3. 中学2年生の「運動やスポーツが好き」と「放課後や休日に運動やスポーツを行う機会」のクロス集計スポーツ庁(2018a)

0 20 40 60 80 100(%)

●女子

好き

やや好き

やや嫌い

嫌い

よくある ときどきある あまりない 全くない

26.4

7.83.2

2.318.7 41.3 36.9

9.2 22.0 66.4

35.5 38.7 18.0

44.2 22.5 6.9

図5-2. 中学2年生の運動実施時間の分布

●女子20

15

(%)

10

5

0 0 300 600 900 1200 1500 1800 2100(分)

1週間の総運動時間60分未満:19.8%

スポーツ庁(2018a)

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5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

図5-4. 新体力テストの合計点の年次推移(成年女子) スポーツ庁(2017)

(注)1. 図 5-4 は、3点移動平均法を用いて平滑化してある。 2. 合計点は、新体力テスト実施要項の「項目別得点表」による。

10 12 14 16 18 20 22 24 26

42

40

38

36

34

32

30

28

26

24

22

(点)

(年度)28

25~29歳女子 35~39歳女子45~49歳女子 55~59歳女子

図5-5. 痩せた人(BMI<18.5kg/m2)の割合の年次推移(20〜59歳、女性)

昭和56年(1981)

61年(1986)

平成3年(1991)

8年(1996)

13年(2001)

18年(2006)

23年(2011)

30

20

0

10

(%)

28年(2016)

20~29歳30~39歳

※移動平均*により平滑化した結果から作成。 *「移動平均」とは、各年の結果のばらつきを少なくするため、  各年次結果と前後の年次結果を足し合わせ、  計3年分を平均化したもの。  ただし、平成29年については単年の結果である。

(参考)「健康日本21(第二次)」の目標    適正体重を維持している者の増加   (肥満(BMI25以上)、痩せ(BMI18.5未満)の減少)    目標値:20歳代女性の痩せの者の割合 20%)

40~49歳50~59歳

13.4

21.7(平成29年)

13.410.6

10.17.76.3

4.0

厚生労働省(2018)

い、している人はしている、その平均値が図5-4のような推移を作り出している可能性があります。 これと共に注目されているのが、日本人女性の体格です。我が国では、痩せた女性(体格指数(BMI)18.5kg/m2未満)が先進国の中でも突出して多く、増加傾向です。特に20代の痩せの比率は顕著です(図5-5)。中学2年生

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5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

図5-6. 女子中学生の体格と体力・運動時間の関連

0 20 40 60 8010 30 50 70 90 100(%)

痩身(47.1)普通

(51.0)肥満

(45.0)

※( )内の数値は体力合計点。

A

20.5

33.6

16.6 32.727.7 18.1

32.9 23.5 8.5

32.0 31.4 13.6

4.9

1.5

2.6

B

体力総合評価高 低

C D E

0 20 40 60 8010 30 50 70 90 100(%)

16.8

13.3

17.8 26.48.6 47.2

5.7 18.0 63.0

7.4 21.3 54.5痩身

普通

肥満

0分 1分以上60分未満 60分以上420分未満 420分以上

●女子

スポーツ庁(2018a)

の女子でのデータを見ると、普通の体格の人よりも肥満している人だけでなく、痩せている人でも体力レベルが低く、運動習慣も少ないことが示されています(図5-6)。つまり、現在増えている痩せた若年女性は、おそらくエネルギー摂取量が低く、運動習慣も少なく、体力が低いような方が多いことが予想されます。

3 運動不足、体力不足、痩せがもたらす健康問題  

 運動不足や体力低下は様々な病気の原因になると考えられており、我が国では運動不足は喫煙に次いで死亡の原因となる悪い生活習慣として知られています。特に、男性では、食べすぎや運動不足によりメタボリックシンドロームをきたすことが多く、運動などの介入により、将来寝たきりに繋がる脳卒中などを減らそう、という取り組みがすでに行われています。しかし、女性ではメタボリックシンドロームになる方が男性ほど多くなく、運動不足・筋力不足・骨粗鬆症による転倒・骨折、膝・股関節の変形性関節疾患が要介護となる主要な原因として挙げられています(図5-7、33ページ)。また、骨粗鬆症や転倒・骨折のリスクとして痩せがあるため、痩せて運動不足の女性は特に注意が必要です。さらにこれだけでなく、運動不足は認知症や乳がん、子宮体がんのリスクとしても知られているなど、万病のもととして認識する必要があります。

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5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

内閣府(2018)(注)熊本県を除いたものである。

図5-7. 65歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要になった主な原因

4 運動していない女性が挙げる理由とこれからやりたいスポーツ  

 10代から30代の女性で運動・スポーツをしていない共通する理由として、「仕事や家事で忙しいから」「面倒くさいから」が多いですが、年代によって若干違いがあります。10代では、「運動・スポーツ以上に大切なことがあるから」「場所や施設が無いから」「仲間がいないから」、20代では「お金に余裕がないから」、30代では「子どもに手がかかるから」が比較的多い回答となっていました。 今後行ってみたい運動・スポーツの種目は10代から30代で多い順に「ウォーキング」「エアロビクス・ヨガ」「ランニング・マラソン・駅伝」「トレーニング」となっており、10~20代ではこれに加えて、「ダンス」や「水泳」が挙げられています(図5-8)。 両方を併せて考えますと「手軽に」「楽しく」というところがキーワードになりそうです。

図5-8. 今後始めてみたい運動やスポーツ

ウォーキング エアロビクス・ヨガ

トレーニング ランニング・マラソン

水泳 ダンス

4035302520151050

10代 20代 30代 40代

スポーツ庁(2018b)より作成

0 20 40 60 8010 30 50 70 90 100(%)

総数

男性

女性

骨折・転倒脳血管疾患(脳卒中)

高齢による衰弱心疾患(心臓病)

その他・不明・不詳関節疾患 認知症

15.1 4.7 10.2 18.7 12.5 13.8 24.9

23.0 5.4 5.4 15.2 7.1 10.6 33.2

11.2 4.3 12.6 20.5 15.2 15.4 20.7

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5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

5 中学生〜成人まで

女性スポーツ啓発の留意点

5 good practice(好事例)など  

部活動 部活動は基本的に大会に参加するような競技スポーツを中心に作られてきましたが、最近では、そのようなことを目標としないような「ゆる部活」という体力向上や運動の楽しさを実感するための部活が誕生してきています。例えば、東京都世田谷区立東深沢中学校では、「体力向上部」が2011年に発足して、平日の4日間、朝に45分だけ、走ったり、馬飛びしたり様々な運動を行っています。東京都練馬区大泉学園中学校では、レクリエーション部があり、週2回1時間くらい、その時その時で球技など、いろいろな種目の運動を行い、楽しく身体を動かす部活があります。部員は全校生徒468名中、110名が加入しているそうです。その他、神奈川県厚木市にある厚木北高校では「ヨガ同好会」が作られるなど、全国的にこのような、今までとは違う新しい部活動が始まりつつあります。

FUN+WALK PROJECT FUN+WALKPROJECTは、最も手軽に出来て、一番次に取り組みたいと皆が考えている歩くことを、もっと楽しく取り組めるようにする、スポーツ庁の官民連携プロジェクトです。例えば、通勤ではスニーカーを履いて、少し長めに早足で歩くなど、ちょっとした毎日の習慣の中で身体を動かす、そんな所から身体活動を上げていくことを提案していて、実際に企業が率先して取り組んでいる事例も出てきています。

ゆる部活(スポーツ庁Web

広報マガジン)

FUN+WALK PROJECT

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6 

行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

6 

行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

竹中 晃二

 女性がスポーツや運動を行う理由や目的は何でしょうか。これらの理由や目的が明確になれば、指導者は対象となる女性に合わせて、関わり方や働きかけを工夫し、彼女たちの「継続」を支えることができます。一方で、運動・スポーツを全く行っていない女性も世の中には数多く存在します。彼女たちに運動・スポーツの実践を勧めるには何が必要でしょうか。残念ながら、運動・スポーツを当然のように行っている人には、行っていない彼女たちの気持ちを理解できないかもしれません。本章では、女性の運動・スポーツについての行動変容、すなわち始めさせること、続けさせること、そして逆戻りを予防すること、についての考え方を紹介します。

1 すでに行っている女性の継続を支援する

①対象者に応じた指導を行う スポーツ指導者も含めて一般の人たちは、すでに運動・スポーツを行っている女性の姿、例えば競技スポーツで華々しく活躍している女性競技者、あるいは仲間と楽しくスポーツを行っている女性スポーツ愛好者(競技志向も含む)の姿をイメージすることができます。彼女たちは、子ども時代、また学生時代から競技スポーツに親しみ、その後も習慣として継続し、同じ競技を行う仲間とともに、他者と競うことも含めて、スキルやタイムの向上に動機づけられている人たちです。この層は、すでに自分で動機づけがある程度できており、指導者はスキルやタイムの向上などを目的にした指導・アドバイスを提供すればよいことになります。 2 番目に浮かぶイメージは、一部中年層を含むものの、若い世代を中心に、自身の容姿への執着が強く、減量や体型改善を目的に、フィットネスクラブに通ったり、パーソナルトレーニングを受けている女性たちです。中には、痩身願望が強く、外見への執着、例えば「美尻」を目的としたパーソナルトレーニングも需要があって、この分野も商業的に成り立つようになっています。ここでの指導者

行動変容を促す方策6. 女性スポーツ啓発の留意点 高年若年・中年 愛好者 未実施者競技者

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

は、きわめて動機づけの高い女性受講者に対して強固な関わりを持ちながら、時には叱咤激励し、しかし受講者の動機づけの高さゆえに彼女たちの継続が促されています。 第 3 の層は、いわゆる健康志向の中・高齢女性であり、友人と一緒にスポーツや運動を楽しんで、日常生活の質を向上させながら、将来への健康不安を払拭できている女性ではないでしょうか。この層には、いかに受講者を楽しませるか、また受講者同士の交流を強め、健康の恩恵を自覚させていくことに指導者は腐心していると思います。

②逆戻りに備えさせる すでにスポーツを行っている女性については目的別の指導を考えていけばよいのですが、指導者は、「続けてもらう」とは別の観点で、彼女たちをやめさせない工夫、すなわち逆戻り予防についても考えておく必要があります。運動やスポーツを定期的に行ってきた実践者が停止する状況が明らかになっています。調査研究(竹中・大場・満石 , 2010; 竹中・藤澤・満石 , 2011)では、定期的に運動・スポーツを実践してきた人が「一時的停止(専門用語ではスリップやラプス)」してしまうきっかけや予防法が明らかになっています。一時的停止については、その後の長期的な停止(リラプス)や完全な停止(コラプス)に移行するきっかけとなるために、あらかじめ予防する必要があります。一時的停止には、これら停止を導く「危険な状況」が存在し、それらの状況に遭遇する際にどのような対処を行うかによって、その後の長期的な停止に移行するかどうかが決まってきます。

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

6 

行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

 この危険な状況は、男女で異なっています。女性は、特に天候によって行動が左右されやすく、また男性と比べて、人間関係のトラブルに対して停止を導きやすいことがわかっています。そのため、女性競技者・愛好家には、あらかじめ停止に導きやすい危険状況の内容を知らせ、その際の対処方法についてアドバイスしておく必要があります。例えば、天候が悪い日には、室内や自宅内で行える「代替活動」のメニューを示して準備しておくように伝えるとか、人間関係のトラブルが生じた際には、逆に運動・スポーツを行うことによってストレス解消になることを伝えておくのです。また、停止することによる罪悪感を持たせないようにすることも重要です。指導者はもちろん、生理痛など女性特有の原因によって実践が困難であることを理解し、女性本人もまた、心理的負担感を高めないように、誰もが停止によって責められることがないような配慮が必要です。 以上、すでに運動・スポーツを行っている彼女たちには、続けてもらう、一度停止してもまた戻ってこれるよう、指導や普及の方法が女性特有の内容になっているかどうかについて再確認する必要があります。③��指導に役立つ心理社会的要因を理解する:�自己効力感の強化と計画づくり

 女性のスポーツ指導に役立つ心理社会的要因を紹介します。一つは、自己効力感の強化です。自己効力感とは、「自分がある具体的な状況において、適切な行動を成功裏に遂行できるという予測および確信のこと(竹中・上地,2002;2003)」です。対象者の『できる』という見込み感が高ければ、その行動を生じさせやすくなり、また継続も容易になります。自己効力感を高める 4 つの情報源には、1)遂行行動の達成、2)代理的体験、3)言語的説得、および 4)心理・生理的喚起、があり、これらの情報源を強化することで対象者の行動継続が強まります。遂行行動の達成とは、いわゆる成功体験の『すり込み』であり、成功体験を積み上げられるように目標値を対象者のレベルに合わせ、それらを徐々に高めていきます。そこに、指導者の言葉がけが重要になります(言語的説得)。対象者が「できた」と自覚できているところを指導者が言葉がけで強めてあげるのです。代理的体験とは、自分と同じ能力・体型の人が成功している行動を観察してもらい、自分も「できそうだ」と思ってもらうことです。その際のモデルは、対象者と同じレベルでなければなりませんし、そのモデルが成功した内容も対象者が望むものと合っていなければなりません。最後に、心理・生理的喚起とは、

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6 

行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

6 

行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

うまくできた、上達したということを身体で感じてもらうことです。タイムや距離などの数字は上達の基準にはなりますが、それ以上に身体の内部情報に意識を持たせることです。前よりも疲れにくくなった、目覚めがよくなった、身体の動きが軽快になった、など、「よくなった」という自覚を促すことです。これらの情報の強化によって自己効力感が高まり、その後の継続性によい効果をもたらします。 継続を支え、上達を強化するためには綿密な行動計画を立てる必要があります。たいていの場合、目標が「勝利すること」や「タイムを短縮すること」になってしまうのですが、実際にはそれらの目標を達成するために何を継続的に行っていかなければいけないのかを明確に決めておかねばなりません。if-then plan として知られる行動計画は、if(いつ、どこで、どういう状況で)ならば、then(その際に何を行うかの反応)、この行動を行うという組み合わせを想定しています。例えば、仕事帰りで自宅にもどったら(if)-着替えて自宅周辺を散歩する(then)、幼稚園・保育園等から子どもを迎えて帰宅したら(if)-子どもと一緒にストレッチをする(then)、というような組み合わせです。要は、行動継続のために、いつ、どこで、何を、どの程度行うのか(誰とも含む)という取り決めをしっかりしていないと行動の継続が難しくなるのです。 もう一つの計画づくりは、対処計画です。行動を妨げる事柄はいつでも存在します。例えば、会社帰りにフィットネスクラブに立ち寄るつもりが急に残業がはいった、食事に誘われた、などです。そういう場合には、妨害がはいることをあらかじめ想定しておき、その際にどのような「代替活動」を行うかを計画しておくことで行動の停止を予防することができます。例えば、残業がはいって予定通りにフィットネスクラブに立ち寄ることができない場合には、自宅に帰った際に家の周りを 5 周早足で歩く、などの「代替活動」を行い、翌日からはもとの if-then plan にもどすようにすればよいのです。 このように if-then plan と対処計画を一緒に立てておくことで、行動の継続を促すことができ、指導者は対象者に対して事前に書面でこれらの計画を立てるように指導しましょう。

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

2 行っていない女性の動機やバリア要因を理解し、「開始」を促す

 たとえ運動・スポーツを行っていない女性であったとしても、彼女たちはすでに運動やスポーツを行うことが心身の健康に役立つということを理解しています。ただ、開始するための動機が、時間を取られる、汗をかいて不快、お金がかかる、などの負担感を上回っていないために行動実践に繋がらないのです。そのため、スポーツタイプではない女性に対して、従来のように、スポーツの華やかさ、格好よさだけをアピールしたとしても、「見るスポーツ」は活性化できるとしても、

「やるスポーツ」には発展しにくいかもしれません。①動機に合わせる 若い女性に共通する動機は、見栄えをよくしたい、減量したいなどで、これらをアピールすれば実践に結びつきやすくなります。中年女性ならば、何か人生に自信をつけるものを探しており、それを運動やスポーツに求め、自信を高めて他の行動(例えばビジネスなど)に般化させるというのもよいと思います。もちろん、高齢女性は健康増進、将来への健康不安の低減、そしてなによりも楽しみやコミュニケーションづくりを強化することでしょうか。このように、女性を新しく参加させるためには、年齢やライフステージごとに共通して見られる動機に合わせることを前提に、さらに個々の女性が持つ動機を探り、そこに合わせた勧誘が必要となります。②行動実践を妨げるバリア要因に配慮する もう一つ重要なことは、行動の開始に関わるバリア要因、すなわち行動を妨げる要因を見極めることです。もちろん、進学、就職、結婚、出産、育児というライフイベントに関わるバリア要因が存在しますが、それらに伴う心理的なバリア要因にも配慮しておく必要があります。一般には、女性という「標準」として運動・スポーツをしないで家にいて何かをする人、綺麗で可愛く着飾る人という『時代遅れのステレオタイプ』が女性の運動・スポーツの開始を妨げている社会的バリア要因です。このステレオタイプには、社会だけでなく、女性自身も知らないままに影響を受けています。例えば、子育て期にある女性では、役割規範に縛られ、子どもの世話をしないで、また家事をしないでスポーツに時間をかけることに「罪悪感」を感じることもあります。また、男性からのプレッシャーもまだ根強いために、伝統的なスポーツ観、例えば努力や辛抱というイメージを持たせな

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

いことも重要です。多くの女性にとって、家族や友人からのサポート体制、また保育サービスが整っていないことには、これらのバリア要因に負けてしまうことになります。そのため、女性のスポーツ人口を増やすためには、単にライフイベントに目を向けるのではなく、さらに掘り下げて、個々の女性についてバリア要因の克服方法を一緒に考えていかなければなりません。③行動変容を生じさせる「重要度」と「自信」に注目する 行動変容を生じさせるレディネス(こころの準備状態)は、「重要度」と「自信」のベクトルで決定されます。運動・スポーツを行うことが自分にとって「重要」であるとわかっていても、始めるための「自信」が伴わなければ行動開始に結びつきません。一方、「自信」があったとしても、自分にとって行うことが「重要」と思えないならば行動開始につながりません。そのため、「重要度」の認識が低い女性には、なぜ運動・スポーツを行う必要があるのかを平易な言葉で述べ、一方、

「自信」のない人には実践のハードルを低くし、応援体制としてソーシャルサポートを強化したり、その見つけ方をアドバイスすればよいわけです。女性において、自転車エルゴメータをこいだり、トレッドミルの上を歩くことを「できない」と判断する人はいません。また、ボッチャなどの軽スポーツを紹介したり、さらには週に何回・何分という頻度や時間にこだわらずに、まずは始めてもらうことに焦点を絞るべきです。

3 最後に:女性のスポーツ人口を増やすヒント

①行動変容ステージで対象者をセグメント化する 運動・スポーツを行う女性を支えるには、対象者を特徴によって分割した関わり方を考える必要があります。行動変容のステージには、前熟考ステージ(現在、運動を行っていないし、将来も行うつもりがない)、熟考ステージ(現在、運動を行っていないが近い将来行うつもりがある)、準備ステージ(目の前で行っている、行い始めている、不定期で行っている)、実行ステージ(定期的に運動を行っているが、まだ 6 ヶ月未満である、逆戻りの危険性が大)、維持ステージ(6 ヶ月以上定期的に行っている、逆戻りもあるかもしれない)の 5 ステージがあります。すでに実践している実行ステージや維持ステージの女性に対しては、やめさせない工夫を伝えたり、他者に支援してもらったり、さらに強度や頻度を増加

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

させるなどの支援が考えられます。しかし、彼女たちはすでに行っているために、スポーツ人口を増やすという観点では対象となりません。一方、行う気が全くない前熟考ステージ者は、最初から聞く耳をもたない状態であるため、指導者の思いが伝わりづらいのです。 では、どのステージの女性に焦点をあてれば、運動やスポーツの実施人口を増やせるかを考えてみましょう。熟考ステージの方は、その気があるのに、実際何を行ったら良いかがわからないので、まずは彼女らができるハードルの低い内容を指導し、その気にさせることが重要です。つぎに、準備ステージの方は始めているが、固定化しない状態なので、いかに習慣化させるかが課題となってきます。そうです、女性のスポーツ人口を増やすために重点となるターゲットは、まさに熟考ステージと準備ステージの女性なのです。

竹中(2005)

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

②�行っていない女性にアピールする 現在、運動・スポーツを行っている人とは別に、行っていない女性に行ってもらうためには工夫が必要です。現在スポーツを行っていない女性について、彼女たちは何に興味を持っているのか、その興味と運動・スポーツとの接点は何か、また運動・スポーツを行わない理由は何か、実践を妨げている理由などを知らなければなりません。女性のスポーツ人口を増やすには、このような情報を把握し、その後に対策が練られるべきです。しかし残念なことに、私たちはスポーツを行っていない女性の気持ちを十分に把握しているとはいえません。英国最大のスポーツ団体である「Sport England」は、女性の運動・スポーツ実践者を増やすために、過去の研究や経験から洞察を行うこと、すなわち女性や少女を観察し、運動・スポーツに関連する要素を見抜く努力を行っています。「Go where women are」(https://www.sportengland.org/media/10083/insight_go-where-women-are.pdf)と名付けられた活動や資料では、女性と少女に焦点を絞り、彼女たちに運動・スポーツに参加してもらうために、指導者や政策担当者が理解すべき内容をチェックリストとしてまとめています。それらは、以下の7 点です。1.�提案内容を対象としている女性に適合させる:女性が従来の運動・スポーツの価値観に適合すると期待しない。

 現在の運動・スポーツについての提案内容は、多くの女性に関連させてアピールしていない、または彼女たちに適合しているとは言えない。彼女たちが気にかけていることを聞き出し、彼女たちが望む情報を提供する必要がある。2.�スポーツのことだけを話さない:多くの女性にとって、スポーツはお荷物(負担)でしかない。

 多くの女性にとって、「スポーツ」という用語とその伝統的なイメージはネガティブな連想を引き起こす。女性が持つ経験をどのように提供するのかを考えることによってこの問題にあたる。3.�運動・スポーツの実践によって付加的な恩恵を促し、他の興味と区別させる:女性が求めるものを売り込む。

  運動・スポーツの実践による健康への恩恵に加えて、人との交流、スキルの発展、家族と一緒に時間を過ごすこと、というような恩恵を提供する。多くの女性にとって、運動・スポーツの実践が他の活動よりも優先させるように工夫

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

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行動変容を促す方策

女性スポーツ啓発の留意点

する。4.�女性にとってスポーツを行うことを「標準」とするためには、彼女たちが単に活動的になるというだけではなく、行うこと自体を褒め、他の女性にも加わるように勧めさせることである。

  女性たちが加わるのをただ待つのではなく、運動・スポーツを日常的な生活の一部分にさせることによってコミュニティの中に活動を取り入れ、新しい人々を引きつけることができる。5.�行動を引き出すためにポジティブな内容や激励を行う:できないと恥ずかしいというプレッシャーを与えない。

  対象となっている女性や少女には、安全・安心できることが重要である。彼女たちが能力を持っていないということで傷つけるようなことをしない。6.�容易に行動を起こさせるようにする:ふさわしい時間帯に、ふさわしい場所で、ふさわしく歓迎されて、ふさわしい仲間と、ふさわしい用具で。

  実際的な、また感情的な妨害要因が活動的になりたいという動機を上回らないように、一緒に問題を解決する。7.�経験が成否を握る:対象者が途中で適切にサポートされているかどうかを確かめる。

  なじみであろうとなかろうと、最近通うのをやめてしまったとしても、彼女らが歓迎されるように扱われ、定期的にコミュニケーションがはかれるようにする。

 以上、我が国においても同様に、女性に限定した普及・啓発のあり方を様々な観点で探る必要がありそうです。

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44

1 女性スポーツの医学De Souza,MJ.,Nattiv,A.,Joy,E.,Misra,M.Williams,NI.Mallinson,Rebecca JM,Gibbs,J.C.,Olmsted,M.,Goolsby,M.,Mathes

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プロジェクト会議メンバー(制作メンバー)ヨーコ ゼッターランド 日本スポーツ協会女性スポーツ委員会委員長川原 貴 女性アスリート健康支援委員会会長鈴木 志保子 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授高峰 修 明治大学政治経済学部教授竹中 晃二 早稲田大学人間科学学術院教授田村 好史 順天堂大学大学院スポートロジーセンター・代謝内分泌内学科准教授能瀬 さやか 東京大学医学部産婦人科学教室病院診療医青野 博 日本スポーツ協会スポーツ科学研究室室長代理

本冊子は、スポーツ庁委託事業「平成 30 年度女性スポーツ推進事業(女性コーチの育成事業)」で作成しました。

本冊子の複製、転載、引用等にはスポーツ庁の承認手続きが必要です。

-スポーツ指導者・保護者・学校関係者の皆さまへ-

女性スポーツ促進に向けたスポーツ指導者ハンドブック健やかに、美しく、そして生活を楽しむ

発 行 日 平成 31年 2月 25日発   行 公益財団法人日本スポーツ協会問 合 せ 先 公益財団法人日本スポーツ協会スポーツ推進部国内課

〒 150-8050 東京都渋谷区神南 1-1-1TEL03-3481-2215http://www.japan-sports.or.jp

制作・印刷 図書印刷株式会社

平成 30 年度「女性スポーツ推進事業(女性コーチの育成事業)」

アンケートへのご協力のお願い本冊子について、皆様の声をお聞かせください。頂戴したご意見については、今後の事業をより良いものにするために活用させていただきます。回答〆切は、2019年5月31日迄となっております。

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