imt-advanced に向けた無線実験装置の開発招待論文/imt-advanced...

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システム開発・ソフトウェア開発論文特集 IMT-Advanced けた Testbed Development for IMT-Advanced Radio Experiments Toshinori SUZUKI , Noriaki MIYAZAKI , and Satoshi KONISHI あらまし IMT-Advanced (あるい )に第 3 システム れる IMT-2000 システムを ITU-R ある.IMT-Advanced して 100 Mbit/s1 Gbit/s して されている. IMT-Advanced するために, らが した する. キーワード IMT-Advancedシステム,移 OFDMMIMO 1. まえがき される移 ,アナログから ディジタルに変わった第 2 て, サー サー する第 3 ている. に, ユーザインタ フェース ってアプリケーション し,より れた システ ムが 待されている. 3 サー スが まった 2000 しいシステムを International Telecommu- nication Union Radiocommunications Sector (ITU- R) Systems Beyond IMT-2000Beyond 3Gし,そ いわゆる Van diagram [1] され,多く められてきた.2005 ITU-R WP8F において,IMT-2000 システムを IMT-Advanced するこ 意された. 2005 された Evolved- UTRA (LTE) [2] UMB [3] IMT-2000 に位 づけられる.IMT-Advanced 100 Mbit/s 1 Gbit/s され, されてきた [4], [5] られた 帯域 ギガ ットオーダ するに ,マルチパス く帯域あたり (株)KDDI ,ふじみ KDDI R&D Laboratories, Inc. 2–1–15 Ohara, Fujimino-shi, 356–8502 Japan ットレートが いマルチキャリヤ /アクセ を大きく させる MIMO (Multiple-Input Multiple-Output) いパラメータ し運 するこ められる.また,ハード にあたって かせ いノ る.こ よう から, らが した IMT-Advanced システムを する. 2. 装置仕様 2. 1 全体構成と概要 した 帯域 じて モー ドを つ.大き 違い りリンク 帯域 がモード 1 100 MHz,モード 2 20 MHz るこ ある.モード 1 IMT-AdvancedIMT-2000 システム パラメータ づけてい る. お,ITU-R められた IMT-Advanced 40 MHz ある [6]にモード 1 する する. 1 す. お, R-OFDM (Rotational Orthogonal Frequency Division Multiplexing) らが 案している多 あり, につ いて 3.1 る. 1 す.オムニセル (BS) 1 (MS) 3 される.ただ し,モード 1 する移 1 (MS#1) ある. BS MS にモデム RF (Radio Module)854 電子情報通信学会論文誌 B Vol. J93–B No. 7 pp. 854–867 c (社)電子情報通信学会 2010

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Page 1: IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発 図4 上り物理チャネルの多重化構成 Fig.4 Multiplexing

招待論文 システム開発・ソフトウェア開発論文特集

IMT-Advancedに向けた無線実験装置の開発

鈴木 利則† 宮崎 功旭† 小西 聡†

Testbed Development for IMT-Advanced Radio Experiments

Toshinori SUZUKI†, Noriaki MIYAZAKI†, and Satoshi KONISHI†

あらまし IMT-Advanced とは,俗(あるいは一般)に第 3 世代携帯電話システムと呼ばれる IMT-2000

の後継システムを表す ITU-R での総称である.IMT-Advanced の最大伝送速度としては,高速移動環境で100 Mbit/s,低速移動環境で 1 Gbit/s 程度が目安として設定されている.本論文は,IMT-Advanced の主要無線技術を検証するために,筆者らが開発した実験装置を紹介する.

キーワード IMT-Advanced,実験装置,無線システム,移動通信,OFDM,MIMO

1. ま え が き

携帯電話に代表される移動通信は,アナログから

ディジタルに変わった第 2世代を経て,音声サービス

以外の多様なサービスも可能とする第 3 世代を迎え

ている.更に,携帯端末の処理能力やユーザインタ

フェースの向上に伴ってアプリケーションの高速大容

量化が進展し,より性能の優れた次の移動通信システ

ムが期待されている.

第 3世代の商用サービスが始まった 2000年代初頭,

来るべき新しいシステムを International Telecommu-

nication Union Radiocommunications Sector (ITU-

R) では Systems Beyond IMT-2000(通称 Beyond

3G)と称し,その特徴はいわゆるVan diagram [1]に

集約され,多くの議論が進められてきた.2005 年の

ITU-R WP8F会合において,IMT-2000の高度化と

その後継システムを IMT-Advanced とすることが合

意された.2005年前後に標準化が開始されたEvolved-

UTRA (LTE) [2]や UMB [3]は,IMT-2000の高度

化に位置づけられる.IMT-Advanced は,高速移動

環境下で 100 Mbit/s 以上,低速移動環境下で最大

1 Gbit/s程度が目標とされ,無線関連の研究報告がな

されてきた [4], [5]など.

限られた周波数帯域でギガビットオーダの移動通信

を実現するには,マルチパス伝搬に強く帯域あたりの

†(株)KDDI 研究所,ふじみ野市KDDI R&D Laboratories, Inc. 2–1–15 Ohara, Fujimino-shi,

356–8502 Japan

ビットレートが高いマルチキャリヤ系の変調/アクセ

ス方式や周波数利用効率を大きく向上させる MIMO

(Multiple-Input Multiple-Output)等の新たな無線技

術を今までにないパラメータで実装し運用することが

求められる.また,ハード規模や方式の評価は,実用化

にあたって欠かせないノウハウとなる.このような背

景から,本論文では筆者らが開発した IMT-Advanced

無線実験システムを紹介する.

2. 装 置 仕 様

2. 1 全体構成と概要

開発した実験装置は伝送帯域幅に応じて二つのモー

ドをもつ.大きな違いは,下りリンクの帯域幅がモード

1では 100 MHz,モード 2では 20 MHzとなることで

ある.モード 1は IMT-Advanced,後者は IMT-2000

の高度化システム相当のパラメータと位置づけてい

る.なお,ITU-Rで定められた IMT-Advancedの帯

域幅の要求条件は 40 MHz 以上である [6].本論文で

は主にモード 1 に関する内容を紹介する.表 1 に主

要諸元を示す.なお,表中の R-OFDM (Rotational

Orthogonal Frequency Division Multiplexing) とは

筆者らが提案している多重伝送技術であり,詳細につ

いては 3.1で述べる.

実験装置の全体構成を図 1に示す.オムニセル基地

局 (BS) 1台と移動局 (MS) 3台で構成される.ただ

し,モード 1で動作する移動局は 1台 (MS#1)のみで

ある.BS及びMSは,主にモデムとRFの機能を有す

る無線部 (Radio Module),無線部の操作・監視用端末

854 電子情報通信学会論文誌 B Vol. J93–B No. 7 pp. 854–867 c©(社)電子情報通信学会 2010

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招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発

(OMT:Operation and Maintenance Terminal),無

線区間のプロトコルを終端し IPアプリケーションサー

バにインタフェースを提供するRLP-PC (Radio Link

Protocol-Personal Computer)で構成される.図 1に

は,ネットワーク側の通信パス経路にあるアプリケー

ションサーバ,基地局 RLP-PC 及び無線部のプロト

コルスタックも示している.移動局側も同様の構成で

ある.

また,実験装置にはセルラシステムで用いられる基

本的な制御機能を備えている.これらは,無線要素技

術をシステムの観点でも検証することを意図して実装

表 1 実験装置の主要諸元Table 1 Major radio parameters of the testbed.

図 1 実験装置の全体構成Fig. 1 Testbed system architectures.

されている.主な制御機能を以下に示す.• 適応変調制御:伝送路状態を受信側から送信側

に報告し,その報告に基づいた変調方式と符号化率を

適応的に用いる.データチャネルに採用されており,

伝送路情報はサブフレーム長である 0.5ミリ秒ごとに

4ビットでフィードバックされる.制御遅延は 6ミリ

秒である.この機能は,ユーザ視点でのスループット

特性や通信品質を評価する際に用いる.• 送信電力制御:下り送信電力はディジタルゲイ

ン設定による固定値が用いられる.上り送信電力は,

リンク確立までのオープンループ制御とリンク確立後

のクローズドループ制御により調整される.55 dBの

電力範囲を 0.25~2.0 dB刻みで,0.5ミリ秒ごとに制

御することが可能である.この機能は,送信電力と通

信品質の関係や与干渉の評価の際に用いる.• 多元接続:モード 2の場合の機能として,最大

3台の移動局と同時接続することができる.各移動局

に割り当てる無線チャネルは,装置立上げ時に操作者

が指定し,その割当情報が報知チャネルで移動局に通

知される.

上記以外に上りタイムアラインメント機能等も有して

いる.

2. 2 チャネル構成とフレーム構成

実験装置の無線区間では図 2の物理チャネルが定義

されている.• F-SCH:移動局がシステムタイミングを捕そく

するためのチャネルで,基地局がプリアンブルを送出

するチャネル.プリアンブルパタンや送出アンテナは

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電子情報通信学会論文誌 2010/7 Vol. J93–B No. 7

操作者が設定可能である.フレーム先頭の 1 サブフ

レーム内に 1~3シンボルの範囲で割り当てられる.• F-CCH:移動局に対する制御情報を運ぶチャ

ネルである.すべての移動局が用いる共通制御チャネ

ル (F-CCCH;Forward-Common Control Channel)

と,制御対象の移動局を指定する個別制御チャネル (F-

DCCH;Forward-Dedicated Control Channel)があ

る.前者はフレーム先頭の 1 サブフレーム内に 2~4

シンボルの範囲で割り当てられる.後者は,各サブフ

レームの第 1,第 5シンボルのいずれか若しくは両方

に割り当てることができる.• F-CPICH:すべての移動局が用いる下りパイ

ロット信号を運ぶチャネル.各サブフレームの第 1シ

ンボルに割り当てられ,更に高精度なチャネル推定が

必要な場合に第 5シンボルにも割り当てることができ

る.F-CCHと異なるサブキャリヤを用いることで周

波数領域で多重化される.• F-DCH:ユーザが通信に用いる下りチャネル.

フレーム先頭でないサブフレームの第 2,3,4,6,7

シンボルに割り当てられる.F-CCHと F-CPICHが

第 5 シンボルに割り当てられていなければ,F-DCH

を割り当てることもできる.• R-ACH:リンク確立前に移動局がネットワー

クにアクセスするのに用いるチャネル.競合するチャ

ネルである.• R-CCH:基地局に対する制御情報を運ぶチャネ

ル.リンク確立後のサブフレーム内先頭シンボル(第

1LB;Long Block.後述,図 6 参照)に割り当てら

れる.• R-PICH:上りパイロット信号を運ぶチャネル.

図 2 無線区間の物理チャネル構成Fig. 2 Physical channel structure on the air inter-

face.

リンク確立後のサブフレーム内の二つの SB(Short

Block.後述,図 6参照)に割り当てられる.• R-DCH:ユーザが通信に用いる上りチャネル.

リンク確立後の第 2~6LBに割り当てられる.

各チャネルはディジタルゲインによる振幅重み付けが

された後に,多重化される.それらの様子を図 3 と

図 4 に示す.上りリンクでは Single Carrier FDMA

(SC-FDMA)を採用しており,R-PICHを除いては離

散フーリエ変換を用いて信号を生成している.また,

F-DCH と R-DCH は考案技術である回転多重(3.1

参照)が適用される.

フレーム構成は,LTE規格策定前に 3GPPで議論

されていた内容に沿って構成しており,7 OFDM シ

ンボルで構成される,長さ 0.5 ミリ秒のサブフレー

ム(注1)と,20サブフレームで構成されるフレームを規

定している.ただし,上りサブフレームにおいては,

サブキャリヤ間隔を下りサブキャリヤ間隔の 2倍とし,

シンボル長が半分になるショートブロックにより,6

ロングブロックと 2ショートブロックで 1サブフレー

ムが構成される(注2).フレーム構成と物理チャネルの

マッピング規則を図 5と図 6に示す.

DCHは 400サブキャリヤを 1単位とし,それをサ

ブチャネルと呼ぶ.DCHの 1無線パケットは(400サ

図 3 下り物理チャネルの多重化構成Fig. 3 Multiplexing structure for downlink physical

channels.

(注1):現 LTE 規格ではサブフレームが 1 ミリ秒である.(注2):現 LTE 規格ではショートブロックは規定されていない.

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招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発

図 4 上り物理チャネルの多重化構成Fig. 4 Multiplexing structure for uplink physical channels.

図 5 下りフレーム構成と物理チャネルのマッピングFig. 5 Downlink frame structure and physical channel mapping.

図 6 上りフレーム構成と物理チャネルのマッピングFig. 6 Uplink frame structure and physical channel mapping.

ブキャリヤ ×1サブフレーム)に相当する.

2. 3 接続シーケンス

図 7 にリンク確立までのシーケンスを示す.通信

開始までのフェーズとして,下り同期確立 (Forward

synchronization),上り同期確立 (Reverse synchro-

nization),下りリンク確立,及び上りリンク確立の

各フェーズがある.下り同期確立フェーズでは,移動

局が F-SCHと F-CPICHを用いて下りタイミングの

捕そくと追従を行う.この間,F-CCCH ではオープ

ンループ電力制御のための下り送信電力情報(図 7の

“open-loop Power Control info.”)が報知されてい

る.移動局は次のステップである上り同期確立フェー

ズにおいて,R-ACH を送信する際に,F-CPICH の

受信電力とこの下り送信電力情報から伝搬損を求めて

オープンループ電力制御を行う.

図 8 に下り同期アルゴリズムを示す.SCH サーチ

1では,7.68 MHzクロックで F-SCHに用いられてい

る CAZAC 系列との相関値を検出し,しきい値 1 を

超える振幅を大きい順に二つ求め,それらを候補タイ

ミングとする.次に,候補タイミングの周辺 ±16 サ

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電子情報通信学会論文誌 2010/7 Vol. J93–B No. 7

図 7 リンク確立までの制御シーケンスFig. 7 Control sequence to connect the data link.

図 8 下り同期捕そく・追従シーケンスFig. 8 Flow chart to synchronize the downlink signal.

ンプルの中から相関値が,事前に設定したしきい値 1

を超えるサンプルタイミング(これを候補タイミン

グ群と呼ぶ)の数を求め,その数が多い方の候補タイ

ミングをドミナントとみなす.ドミナントな候補タイ

ミング群の中で最先行のタイミングを同期点として

F-SCHによるタイミング捕そくを完了する.タイミン

グ捕そく以後は,サンプリングレートを 122.88 MHz

に上げ(モード 1の場合.モード 2では 30.72 MHz),

F-CPICHを整合フィルタにより相関検出してタイミ

ング追従し,その相関値がしきい値 2 を連続して下

回った場合に,F-SCHによるタイミング検出に戻る.

移動局が下り信号に対して同期を確立した後,R-

ACHを用いて基地局にアクセスし,基地局は上り同

期確立する.その後,F-DCCH を用いて基地局が移

動局に対して R-ACH停波を命じ,更にタイムアライ

ンメント (TA)とクローズドループ送信電力制御を行

う.移動局は R-ACHを停波した後に R-PICHと R-

CCHを送出して下り信号品質 (CQI:Channel Quality

Indicator)を基地局に報告する.基地局は下りCQIに

基づいて F-DCHのMCS (Modulation and Coding

Scheme)を選択して送出する.R-DCHに関しても同

様の手順が適用される(2.1「送信電力制御」の項も

参照).

3. 主要要素技術

3. 1 R-OFDM

マルチキャリヤ伝送方式はマルチパス干渉に強く,

屋外環境での高速データ伝送に適しているとされて

いる.代表的なマルチキャリヤ方式として OFDMと

MC-CDM (Multi Carrier-Code Division Multiplex-

ing)がある.チャネル符号化の符号化率と伝送路の周

波数選択性に依存して,周波数ダイバーシチ効果が

符号間干渉による劣化を上回る場合は MC-CDM の

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招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発

誤り率特性が優れ,逆の場合は OFDM が優れる [7].

R-OFDMは,周波数ダイバーシチと符号間干渉がトー

タルの効果として最大となるように周波数拡散の度合

を調整することができる点に特徴がある [8].具体的に

は,拡散次数 D = 2 の場合,式 (1) に従う回転直交

符号を用いて変調シンボル (A, B)を拡散して多重し,

シンボルに変換する.変換後のシンボルは異なるサブ

キャリヤ (F1, F2)にマッピングされる.その様子を図

9に示す.周波数選択性を有する伝送路を介して信号

を受信すると,同図に示すように,サブキャリヤ F1,

F2 の受信電力が異なる.受信側では等化器や MLD

(Maximum Liklihood Detection) 等を用いて,サブ

キャリヤシンボル (X, Y)から変調シンボル (A, B)の

確からしさを検出する.(X

Y

)=R2

(A

B

)=

(cos θ1 sin θ1

− sin θ1 cos θ1

)(A

B

)

(1)

本実験装置では,R-OFDM は F-DCH と R-DCH

に適用されており,QPSK の場合は拡散次数 D が 2

または 4,16QAM と 64QAM では D = 2 に対応し

ている.D = 4 の場合は,四つの変調シンボルを式

(2)の回転直交符号を用いて拡散多重し,四つのサブ

キャリヤにマッピングする.F-DCH は OFDM 信号

であり,受信側(移動局)では MLD を適用してい

る.SC-FDM信号となる R-DCHの場合は,MMSE

(Minimum Mean Squared Error)規範に従い等化処

理を施した後に復調している.

R4 =

(R2 cos θ2 R2 sin θ2

−R2 sin θ2 R2 cos θ2

)(2)

図 9 R-OFDM 伝送ブロック図Fig. 9 Block diagram of R-OFDM transmission.

R-OFDMは UMB [3]にオプション採用されている.

3. 2 ツインターボ

受信性能を改善する技術として,復調処理とターボ

復号を融合させたツインターボ方式が提案されてい

る [9].ツインターボ復号は,復調器とターボ復号処理

の反復演算ではなく,図 10 に示すようにターボ復号

における要素符号レベルでの反復復調を行うことに特

徴がある.通常のターボ復号は事後値 Lp のみが反復

演算による更新対象であるが,通信路値 Lc も更新す

ることで効果的な復号を目指している.

図 10 において,DEC1 と DEC2 はそれぞれ要素

符号 1と要素符号 2のMAP復号器であり,情報ビッ

トの事前値 La と通信路値 Lc から情報ビットの事後

値 Lp が出力される.事後値から事前値を差し引いた

値 (Lp − La) は,チャネルインタリーバ π 若しくは

逆インタリーバ π−1 を経た後に,次若しくは前の要

素符号復号器に事前値として引渡される.ツインター

ボではこの反復演算に加えて,通信路値 Lc の更新も

行うことで,更に効果的な誤り訂正を実現する.通信

路値の更新は,多値変調方式や周波数選択性のある伝

送路におけるマルチキャリヤ拡散多重(R-OFDMや

MC-CDM)に効果がある.課題としては,変調多値

数や拡散多重数の増大時に,通信路値更新に要する

演算量が増大することにある.最近の研究 [10] では,

16QAM の 2 倍拡散多重 (D = 2) において演算量が

通常のターボ復号器に比べて約 1.3倍までに抑えるこ

とができると報告されているが,この実験装置では

64QAMまで対応するため送受信の Duty比を 0.5に

抑えている.

3. 3 MIMO

基地局,移動局ともに 2系統の送受信回路を有して

おり,2×2 MIMOによる空間多重が可能である.操作

者の切換により SISO (Single-Input Signle-Output),

SIMO (Single-Input Multiple-Output),MISOにも

対応する.

図 10 ツインターボ復号器の構成Fig. 10 Structure of twin turbo decoder.

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電子情報通信学会論文誌 2010/7 Vol. J93–B No. 7

MIMO-OFDM 受信信号処理は,行列の QR 分解

と Mアルゴリズムを組み合わせた QRM-MLD (QR

Decomposition and M-algorithm-Maximum Likeli-

hood Detection)を用いる [11], [12].生き残りシンボ

ル数は可変であり,設定によりすべてのシンボルを生

き残らせる QR-MLD [13], [14]も可能である.

上り SC-FDMの受信信号処理では,各サブキャリ

ヤをMMSE等化した後で復調する.その結果,得ら

れた受信シンボルに対しては,MIMO-OFDM と同

様 [10]に QRM-MLDを適用している.

4. 無線実験設備ハードウェア構成

図 11に基地局架の外観を示す.基地局は 2架構成

で,RF (Radio Frequency),BB (Baseband),ファ

ンシェルフ,電力増幅器,電源ブレーカから構成され

る.移動局も 2架構成で,基地局と同様の構成である.

RFシェルフは,RFフロントエンド送受信機,上り/

下り信号多重のためのデュプレクサからなり,詳細は

4.1で述べる.

BBシェルフは,BB基板,LIF (Line Interface)基

板など,複数の基板を有する.LIF基板は簡易MAC

(Medium Access Control)レイヤの機能を有し,RLP

(Radio Link Protocol) PCから送られた RLPパケッ

トからMACパケットを構築し,BB基板へ転送する.

BB基板では,物理レイヤの全信号処理を行う.ハー

図 11 基地局架の外観Fig. 11 Photograph of BS (Base Station) cabinets.

ドウェアの観点では全 BB基板同一であるが,FPGA

(Field Programmable Gate Array)や DSP (Digital

Signal Processor) などのプロセッサに異なるプログ

ラムをインストールすることにより,各基板の処理内

容を変えている.BB基板の外観を図 12に,BB基板

に実装されている各プロセッサの仕様を表 2 に示す.

ベースバンド処理の詳細に関しては,4.2にて述べる.

屋外実験の場合は,図 13 に示す電測車に移動局を

積載し,移動実験を行う.電測車には,移動局や測定

器等の設備を駆動するため,31 kWの発電機が搭載さ

れている.

4. 1 RF送受信処理の詳細

図 14 に,RF 送受信処理のブロック図を示す.

RF 送信機では,入力されたベースバンド I/Q (In-

/Quadrature-phase) 信号を波形整形し,DA (Digi-

tal/Analog)コンバータに入力する.DAコンバータ

では,ディジタル直交変調を行い,245.76 MHzのディ

ジタル IF (Intermediate Frequency)信号を生成する.

更に,ローカル発信機とミクサを使って,IF 信号を

アップコンバートし,4485/4770(下り/上り)MHz

の RF 信号を出力する.RF 送信機から出力された

RF 信号の出力レベルは −10 dBm であり,電力増幅

器 (PAU:Power Amplifier Unit) によって増幅され

る.電力増幅器は,4増幅素子を用いることによって,

50 dBの利得を達成している.したがって,電力増幅

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招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発

図 12 ベースバンド基板の外観Fig. 12 Photograph of baseband package.

表 2 ベースバンド基板のプロセッサ仕様Table 2 Specifications of signal processors on base-

band package.

後の出力レベルは 40 dBmとなる.

RF受信機は,ダブルスーパヘテロダイン方式を用

いており,2回のダウンコンバートを行って,IF信号

を生成する.IF 信号は,ディジタル直交復調を行っ

て,ディジタル IF信号に変換される.ディジタル IF

信号の出力レベルを IF信号処理部に実装された VGA

(Variable Gain Amplifier) にフィードバックするこ

とにより,AGC (Auto Gain Control)を行っている.

また,本 RF送受信機では,開発当時としては最速の

DAコンバータ (1 Giga-Sample Per Second (sps))と

AD コンバータ (250 Msps) を採用し,ディジタル領

域での直交変復調を 100 MHz の広帯域信号に対して

実現している.

図 13 電測車の外観Fig. 13 Photograph of measurement truck.

4. 2 ベースバンド送受信処理の詳細

図 15 にベースバンド送受信処理のブロック図を示

す.なお,ここでは,下りリンクを対象とし,基地局

での送信処理と移動局での受信処理について述べる.

RLP PCから送出される RLPパケットは,複数まと

められ,IP フレーム化されて基地局に届くので,ま

ず,基地局では,LIF-M基板にて,IPフレームから

RLPパケットのみ取り出し,ラウンドロビンで四つの

LIF-S基板に転送する.シリアル処理では,0.5ミリ秒

間隔で 100 MHzの広帯域信号処理を行うのは難しく,

処理をパラレル化している.LIF-S基板では,MCS,

MACパケットを構成する RLPパケットの数やパディ

ングビット数などのパケッティング情報から,MAC

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電子情報通信学会論文誌 2010/7 Vol. J93–B No. 7

図 14 RF 送受信処理のブロック図Fig. 14 Block diagrams of RF transmission and reception.

図 15 ベースバンド送受信処理のブロック図Fig. 15 Block diagram of baseband transmission and reception.

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招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発

パケットを生成し,MOD基板へ転送する.MOD基

板では,ターボ符号化と QPSK などの一次変調,回

転多重などの二次変調を行って,MIMO BTX基板に

出力する.MIMO BTX基板では,変調シンボルの周

波数サブキャリヤへの割当を行って,IFFT基板へ出

力する.IFFT基板では,複数のデータチャネルを周

波数多重,IFFTして OFDMシンボルを生成すると

ともに,それらと制御チャネルやパイロットチャネル

を時間多重して,無線フレームを構築し,RF送信機

に出力する.

移動局の RF受信機を介して到達したベースバンド

受信信号は,RF 受信機にて複製され,一方は FFT

基板に,もう一方は SYNC MS 基板に入力される.

SYNC MS基板では,トレーニング系列を使って,無

線フレーム/サブフレーム同期を行い,タイミング情

報を FFT基板と CCH MS基板に出力する.FFT基

板では,タイミング情報を使って,サブフレームを

OFDMシンボルに分割し,FFT処理を行って,周波

数領域の信号に変換し,DETECT 基板に出力する.

DETECT基板では,多重された物理チャネルを分離す

るとともに,パイロットチャネルから伝搬路推定値を算

出し,データチャネルと伝搬路推定値をMIMO MRX

基板に出力する.MIMO MRX基板では,多次元復調

や最ゆう検波を行ってゆう度を算出し,ターボ基板に

てターボ復号を行う.受信側の LIF-S/M基板は,送

信側の LIF-S/M基板の逆処理を行って,RLPパケッ

トを RLP PCへ出力する.

5. 実 験 結 果

本章では,無線実験装置の実験結果として,基地局,

移動局架の RF特性測定結果,RFケーブルとフェー

ジングシミュレータを介した無線通信特性評価結果,

フィールドテスト結果を示す.

5. 1 RF特性測定結果

図 16 に下り送信パワースペクトルの測定結果を示

す.本測定結果は,基地局架のアンテナコネクタにス

ペクトルアナライザを接続して取得した.図 16より,

基地局の送信波形が,スペクトルマスク仕様どおりに,

モード 1 (96 MHz),2 (18 MHz)の帯域を占有し,全

帯域にわたり 2 dB 以内のレベル差に収まっているこ

とが分かる.

表 3 にモード 1(100/40 MHz(下り/上り))のと

きの基地局,移動局の RF特性の測定結果を示す.基

地局では,増幅器とアンテナの距離を 20 [m] に抑え,

両者を低損失の 20D の高周波同軸ケーブルで接続す

ることでケーブルロスを 4 dB 台にとどめた.また,

広帯域信号にもかかわらず 2 dB 程度の雑音指数に収

まっている.

5. 2 RFケーブルを介した無線通信特性評価結果

本節では,RFケーブルを介した無線通信特性とし

て,下り 100 MHz通信の評価結果を示す.図 17に実

験系を示す.基地局からの送信RF信号は,パワーアッ

テネータにて減衰した後に,フェージングシミュレー

タに入力される.フェージングシミュレータとノイズ

発生器により,基地局からの送信信号はマルチパス伝

送路を介して白色雑音(熱雑音に相当)が加わること

になる.測定中,希望波信号の受信電力を −40 dBm

に保ち,ノイズ発生器の出力レベルを調整することに

より,SNR (Signal to Noise power Ratio)を変化さ

せた.前述のとおり,希望波信号の受信レベルが移動

局の熱雑音レベルよりも十分高いため,熱雑音は無視

できる.MIMOの場合は,ストリームごとに受信電力

を測定し,受信アンテナ間での受信レベルをそろえた.

図 18にR-OFDMの PER (Packet Error Rate)特

性の実験結果を示す.アンテナ構成は SISOとし,マ

図 16 下り送信パワースペクトルの測定結果Fig. 16 Measured forward transmission power spec-

trum.

表 3 基地局,移動局 RF 特性の測定結果Table 3 Measured BS and MS (Mobile Station) RF

performances.

863

Page 11: IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発 図4 上り物理チャネルの多重化構成 Fig.4 Multiplexing

電子情報通信学会論文誌 2010/7 Vol. J93–B No. 7

図 17 実 験 系Fig. 17 Overviews of experimental configurations.

ルチパスモデルとして ITU-Rの 6パス TU (Typical

Urban) [15]を用いた.フェージングシミュレータに設

定する移動局の移動速度は 30 km/hとした.MCSは

QPSKの 3/4符号化率で,ターボ復号により誤り訂正

を行った.パケット誤りの有無は,16ビットの CRC

(Cyclic Redundancy Check) [16]により判定した.図

18 には,R-OFDM だけでなく,OFDM の PER 特

性もプロットし,シミュレーション結果もプロットし

ている.測定,シミュレーションとも,R-OFDM の

回転次数は 4 で,回転角 θ(= θ1 = θ2) は,0.4(単

位:π/4 [rad.])とした.本実験前に,1 %程度の PER

が得られる SNR にて,回転角を変えて PER を測定

し,0.4 の回転角が最小の PER を与えることを確認

している.図 18より,R-OFDMは OFDMに比べて

1 %の PER が得られる所要 SNR を 1.1 dB 程度改善

できることが分かった.シミュレーションでの改善量

も 1.0 dB 程度であるから,妥当な結果といえる.ま

た,シミュレーションに対する実測の所要 SNRの劣

化量も 0.5 dB 程度にまで抑えられており,実測とシ

ミュレーションの結果はよく一致しているといえる.

図 19にツインターボ復号の PER特性の実験結果を

示す.ここでは,ツインターボ復号の基礎特性を把握す

るため,伝搬路はAWGN (Additive White Gaussian

Noise)とした.MCSは 16QAMの 1/3符号化率であ

る.図 19 には,ツインターボ復号だけでなく,ター

ボ復号の PER特性もプロットし,測定結果だけでな

く,シミュレーション結果もプロットしている.図 19

より,ターボ復号の代わりにツインターボ復号を用い

ることによって,所要 SNR が改善でき,AWGN 環

図 18 R-OFDM の PER 特性の RF ケーブル接続実験結果

Fig. 18 Measured PER performance of R-OFDM in

lab. experiment.

図 19 ツインターボ復号の PER 特性の RF ケーブル接続実験結果

Fig. 19 Measured PER performance of T2 decoder in

lab. experiment.

境であっても,0.8 dB程度の利得が得られることが分

かった.シミュレーションでの改善量も 0.7 dB 程度

であること,シミュレーションに対する実機の劣化も

0.1 dB程度であることから,問題なく実装できたとい

える.図 18に示す R-OFDMの PER特性を含め,シ

864

Page 12: IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発 図4 上り物理チャネルの多重化構成 Fig.4 Multiplexing

招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発

ミュレーションに対する実測の劣化量を 1 dB 未満に

抑えられた要因として,図 16から明らかなように,広

帯域信号にもかかわらず,数 dB程度の高い周波数フ

ラットネスを実現できたこと,受信機の量子化誤差な

ど,ハードウェア制約による SNR の上限値を 28 dB

程度と高く保てたことが挙げられる.

図 20にMIMO-OFDMの F-DCHスループット特

性の実験結果を示す.F-DCHは 2.2で述べたように,

ユーザが通信用に用いるデータチャネルであり,パイ

ロットチャネルや制御系チャネルは除かれている.マ

ルチパスモデルは 6 パス TU とし,複数アンテナ間

の伝搬路変動は無相関とした.安定した伝搬路状態の

ユーザにMIMOが提供されると想定し,移動速度は

3 km/hに設定した.16QAMと 64QAMの変調方式

と,1/2 と 3/4 の符号化率を組み合わせ,計 4 通り

の MCS について評価している.MIMO ストリーム

多重は,一つのパケットを 2 本のアンテナで送信す

る,SCW (Single-Codeword) とした.フィードバッ

クを用いないオープンループ MIMOを仮定し,スト

リーム多重において,プレコーディングは行ってい

ない.受信機では,QR-MLD により,ビットゆう度

を算出し,ターボ復号により,復調した.図 20より,

64QAM の 3/4 符号化率の MCS のとき,実機にお

いて,512.7 Mbit/s の平均スループットを達成でき

ることが分かった.このときの平均 PER は 6.3 %で

あったが,瞬間的にはエラーフリーになるときもあ

り,547.2 Mbit/s の瞬時スループットも確認してい

る.16QAM の 3/4 符号化率と 64QAM の 1/2 符号

化率は,同一の帯域効率を有するが,ダイバーシチ

効果の高い周波数選択性環境下であっても,16QAM

の方が 64QAM より低い SNR で最大 364.8 Mbit/s

に到達していることが分かる.なお,本実験装置は,

図 20 MIMO-OFDM の F-DCH スループット特性のRF ケーブル接続実験結果

Fig. 20 Measured F-DCH throughput performance

of MIMO-OFDM in lab.

チャネル全体の最高ビットレートが 1 Gbit/s 相当に

なるように 2 × 2MIMO を採用し,符号化率も最大

で 11/12としている.すなわち,64QAMでの最大正

規化ビットレートが 6 [bit/Hz/stream]×2 [stream]×11/12 = 11 [bit/s/Hz] となり,CP のオーバーヘッ

ド (4.7 μs/66.7 μs = 0.07) を考慮して,100 MHz の

信号帯域幅で約 1 Gbit/s となる.しかし,帯域幅が

100 MHzのままでユーザが通信に使用するチャネルの

ビットレートを最大 1 Gbit/s程度にするには,MIMO

多重数を 4程度に増やす必要がある.

5. 3 フィールドテストによる無線通信特性評価結果

フィールドテストは YRP(横須賀リサーチパーク・

神奈川)[17] にて実施した.図 21 にフィールドテス

トコースと基地局,移動局アンテナの外観を示す.基

地局アンテナはオムニアンテナで,YRP センター 3

番館の屋上に設置した.地表面からのアンテナ高は

26.1 m,垂直面チルト角は 4度である.アンテナ利得

は 11.5 dBiであり,EIRP(等価等方ふく射電力)は

46.4 dBm となる.基地局は 1 局のみであり,他セル

干渉の影響は受けない.移動局アンテナもオムニ型

であり,アンテナ利得は 5.1 dBi,アンテナ高は 3.5 m

で,アンテナから移動局までのケーブルロスは 1.6 dB

である.電測車は図 21の地点 Aから Dに向かって,

30 km/h強の速度で走行させた.コース 1(AからB),

コース 3(Cから D)は,見通し外が支配的な伝搬環

境,コース 2(BからC)は,見通しが支配的な伝搬環

境である.コース 1,2,3の平均 SNR/遅延スプレッ

図 21 フィールドテストコースと基地局,移動局アンテナの外観

Fig. 21 Field test course and photographs of BS and

MS antennas.

865

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電子情報通信学会論文誌 2010/7 Vol. J93–B No. 7

ドは,それぞれ,22.3 dB/0.60 μs,25.6 dB/0.18 μs,

15.9 dB/0.43 μsであった.

図 22に R-OFDMの PERの CDF特性を示す.図

22 (a)がコース 1の CDF特性,図 22 (b)がコース 3

の CDF 特性である.MCS は RF ケーブル接続実験

と同じで,3/4 符号化率の QPSK としており,PER

は,そのときのパケット誤りの有無を 10 [m]間隔でカ

ウントすることにより算出している.図 22 より,実

伝搬環境においても,R-OFDMの方がOFDM(回転

角 θ が 0.0のときの R-OFDMに同じ)より優れるこ

とが明らかとなった.コース 1に着目すると,OFDM

において 1 %未満の PERが得られる場所率が 69 %で

あったのに対し,R-OFDMでは,回転角 θ が 1.0の

ときに場所率が最大 12ポイント改善し,81%の場所

率を達成できることが分かった.θ が 0.2のときの場

所率は 76 %程度であるが,θを 0.4まで大きくすると

79 %の場所率に達し,十分な改善量が得られることが

分かった.一方,コース 3に着目すると,コース 1に

おいて最大の改善量が得られた θ = 1.0での特性が劣

化し,OFDMと同程度の場所率であることが分かる.

回転角を大きくすると,R-OFDMの伝送特性は伝搬

路状態に大きく依存するようになるため,適当な回転

角を設定する必要があり,実伝搬環境でも同様の傾向

図 22 R-OFDM PER の CDF のフィールドテスト結果Fig. 22 CDF of measured R-OFDM PER in field

test.

が確認できた.θ が 0.2のとき,18 %の最大の場所率

が得られ,θ が 0.4のときでも,17 %の場所率が達成

できている.0.4 の回転角は,5.2 で述べた RF ケー

ブル接続の屋内実験において,6パス TUマルチパス

モデルを適用したときの最適回転角である.このよう

に,屋内実験で求めた最適回転角が屋外の実伝搬環境

でも適用可能であり,優れた特性を引き出すことを確

認した.文献 [18]では,回転多重されたシンボルを十

分離れたサブキャリヤに配置すれば,最適な回転角は

マルチパス伝送路の条件に依存せず,MCS によって

決まることが,計算機シミュレーションにより示され

ている.この最適な回転角に関する性質は,実環境に

おいても成立することを本実験により確認できた.

6. む す び

ギガビットクラスの伝送レートを目指して筆者らが

開発した IMT-Advanced 実験装置の全体構成と通信

にかかわる仕様,要素技術検証のための装置構成や実

験結果等を述べた.

IMT-Advanced向けバンドがWRC07で特定され,

IMT–Advanced へ向けた機運が高まりつつある.

OFDMA や MIMO 等の主要な要素技術は LTE や

WiMAX で先行して採用されており,それら方式を

ベースとする新たな方式が IMT-Advanced の要件を

満たすものとして ITU-Rへ提案されている.今後は

評価作業を経て 2011年に標準方式が認定される予定

である.

昨今の状況として,ビット単価の更なる低減が求め

られており,設備と運用の両面から様々な研究開発が

行われている.無線は移動通信に欠かせないメディア

であるが,その機能は今やコモディティ化し,「モデム」

の一言で片づけられることが多い.しかしそこには多

くの技術と IPRが詰まっており,今後も進化し続ける

であろう.技術力の維持向上のためにも継続した研究

開発が望まれる.

謝辞 日ごろ御指導頂くKDDI研究所伊藤会長,秋

葉所長,松本副所長,野本執行役員に感謝する.

文 献[1] ITU-R, M.1645, “Framework and overall objectives

of the future development of IMT 2000 and systems

beyond IMT 2000,” June 2003.

[2] 3GPP, TR 25.814 Ver. 7.1.0, “Physical layer aspects

for evolved UTRA (Release 7),” Sept. 2006.

[3] 3GPP2, C.S0084-001 Ver. 1.0, “Physical layer for ul-

tra mobile broadband (UMB) air interface specifica-

866

Page 14: IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発 図4 上り物理チャネルの多重化構成 Fig.4 Multiplexing

招待論文/IMT-Advanced に向けた無線実験装置の開発

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[4] Y. Kishiyama, N. Maeda, K. Higuchi, H. Atarashi,

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formance above 100-Mbps in forward link for VSF-

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[5] K. Higuchi, H. Kawai, N. Maeda, H. Taoka, and M.

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transmission using MLD-based signal detection in

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June 2006.

[6] ITU-R, M.2134, “Requirements related to technical

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[8] N. Miyazaki, Y. Hatakawa, T. Yamamoto, H.

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[9] N. Miyazaki, Y. Hatakawa, T. Yamamoto, H.

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mation method taking account of mutual information

in multi-level symbol—A proposal of twin turbo de-

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[10] Y. Hatakawa, N. Miyazaki, and T. Suzuki, “Perfor-

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decoder,” IEICE Trans. Commun., vol.E92-B, no.1,

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[12] H. Kawai, K. Higuchi, N. Maeda, M. Sawahashi,

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[13] A. van Zelst, R. van Nee, and G.A. Awater, “Space

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Proc. VTC 2000 Spring, pp.1070–1074, May 2000.

[14] X. Zhu and R.D. Murch, “Performance analysis

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tenna system,” IEEE Trans. Commun., vol.50, no.2,

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[15] 3GPP, TS 45.005 Ver. 7.9.0, “Radio transmission and

reception (Release 7),” Feb. 2007.

[16] 3GPP2, C.S0024 Ver. 4.0, “CDMA2000 high rate

packet data air interface specification,” Oct. 2002.

[17] http://www.yrp.co.jp/en/index.html

[18] 3GPP, R1-061460, “Text proposal for enhanced mod-

ulation scheme for OFDMA,” May 2006.

[19] N. Miyazaki, T. Komine, Y. Hatakawa, and T.

Suzuki, “Development and experiments of 100MHz

bandwidth testbed for IMT-advanced systems,”

Proc. VTC 2007 Fall, 5P #13, Sept. 2007.

[20] N. Miyazaki, Y. Hatakawa, and T. Suzuki, “Im-

plementation and experimental results of rota-

tional OFDM transmission—Rotational OFDM per-

formance with turbo decoder,” Proc. VTC 2008 Fall,

5C-2 #2, Sept. 2008.

[21] N. Miyazaki, T. Matsumoto, Y. Hatakawa, S.

Konishi, and T. Suzuki, “Field experiment results

for rotational OFDM transmission implemented on

100MHz bandwidth testbed toward IMT-advanced

system,” Proc. VTC 2009 Fall, 3C #2, Sept. 2009.

(平成 21 年 12 月 21 日受付,22 年 2 月 17 日再受付)

鈴木 利則 (正員:シニア会員)

昭 62東北大・工・電気,平元同大大学院工学研究科博士課程前期了.同年,国際電信電話(株)(現 KDDI(株))入社,衛星通信所勤務を経て 91 年より KDD 研究所(現 KDDI 研究所)に配属.以後,主として移動通信方式に関する無線技術の研究開

発に従事.現在,KDDI 研究所コグニティブ無線グループリーダ.平 17 本学会論文賞受賞.平 17 博士(工学)(東北大).

宮崎 功旭 (正員)

平 12 横浜国大・工・電子情報卒.平 14

同大大学院前期博士課程了.同年 KDDI

(株)入社.現在,移動通信におけるディジタル無線伝送技術に関する研究開発に従事.平 21 本会学術奨励賞受賞.

小西 聡 (正員)

平 5 電通大大学院・電子・博士前期課程了.同年国際電信電話(株)(現,KDDI

(株))入社.平 7 より,同社研究所(現,(株)KDDI 研究所)にて,衛星通信や固定無線通信,セルラシステムなどの無線通信システムの無線資源割当・無線資源管理

に関する研究開発に従事.現在,(株)KDDI 研究所無線通信方式グループリーダ.平 18 博士(工学)(早大).平 12 本会学術奨励賞受賞.著書『無線通信技術大全』(リックテレコム社,共著).IEEE 会員.

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