injector driver integrated fi-ecu for direct injection engines · electronic control unit(fi-ecu)...

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-60- 1.はじめに 一般的なエンジンでは燃料を「混合気」と して吸気ポートからシリンダ内に送り込む. 初期の自動車はこのためにキャブレタを利 用していた.しかし,排出ガス規制対応や 燃費向上のため燃料をより正確に供給する 必要が生じ,燃料噴射装置(インジェクタ) で燃料を吸気ポート内に噴射し高精度な混 合気を生成する燃料噴射(Fuel Injection: FI)システムが開発され,電子制御ユニット (Electronic Control Unit:ECU)とともに主 流となった.さらに近年,企業平均燃費規制 (CAFE)などの実現のために,さらに精密な 燃料の供給制御が必要となって来た.このた め吸気ポートから空気だけを吸い込み,直接 シリンダ内に高圧の燃料を噴射する直噴シ ステムが主流になりつつある.エンジンは複 雑な機械装置でありその制御を行う ECU も また高性能なマイコンを使用する精密な電 子製品であるので,動作温度範囲が限られて 直噴エンジン向けドライバ一体 FI-ECU Injector Driver Integrated FI-ECU for Direct Injection Engines 技術紹介 *1 開発本部 第六開発部  *2 事業統括本部 第二営業部  *3 生産本部 生産技術五部 *4 購買本部 第二購買部  *5 生産本部 品質技術部  *6 Keihin Carolina System Technology, LLC. ※ 2013 年 7 月 19 日受付 いる.一方,直噴システムは高圧で燃料噴射 するため,取り扱う電力が大きく発熱も大き い.そのため,従来は噴射量とタイミングを 決定する部分(FI-ECU)と大電力を取り扱う 部分(E l e c t r i c D r i v e U n i t:E D U)に分けて 制御を行っていた.今回,この二つを統合す る検討を行い,その中で熱の問題の解決に成 功し業界最小の統合 ECU として量産を実現 した. 2.小型化対応 今回開発した ECU を Fig. 1 に示す.統合 化により増加する部品数に対応するため実装 密度向上に有利な面実装品の使用を徹底した. コイルや電解コンデンサのようなリード品が 主流な大型部品についても全て面実装対応と した.これらの部品のはんだ付け性をひとつ ひとつ検証し,問題がある部品についてはそ の部品をはんだ付けする銅はく部の形状を再 設計することなどで対応した.直噴インジェ 森   正 光 *1 鈴 木 隆 広 *2 丸 子 和 良 *3 上 田 昭 寿 *1 Masamitsu MORI Takahiro SUZUKI Kazuyoshi MARUKO Akihisa UEDA 北 條 直 希 *4 目 黒 隆 弘 *5 Lisa Howland *6 荻 野 大 典 *6 Naoki HOJO Takahiro MEGURO Daisuke OGINO Direct Injection Engines are the better choice for ecosystem, for their ability of effective combustion control. But, to make fuel injection into the highly pressured engine cylinder, there must be a powerful fuel pump and fuel injection valves. Electric power consumption would increase and the temperature of the Fuel Injection Electronic Control Unit(FI-ECU) would also rise to drive the powerful actuators. For this, in our conventional system to protect the precise microcontroller, power driver part had been separated from the FI-ECU. In this development, the two units were successfully reintegrated, using the special heat dissipation structure. Minimal size in the world was achieved.

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Page 1: Injector Driver Integrated FI-ECU for Direct Injection Engines · Electronic Control Unit(FI-ECU) would also rise to drive the powerful actuators. For this, in our conventional system

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直噴エンジン向けドライバ一体FI-ECU

1.はじめに

一般的なエンジンでは燃料を「混合気」として吸気ポートからシリンダ内に送り込む.初期の自動車はこのためにキャブレタを利用していた.しかし,排出ガス規制対応や燃費向上のため燃料をより正確に供給する必要が生じ,燃料噴射装置(インジェクタ)で燃料を吸気ポート内に噴射し高精度な混合気を生成する燃料噴射(Fuel In j ec t i on:FI)システムが開発され,電子制御ユニット

(Electronic Control Unit:ECU)とともに主流となった.さらに近年,企業平均燃費規制

(CAFE)などの実現のために,さらに精密な燃料の供給制御が必要となって来た.このため吸気ポートから空気だけを吸い込み,直接シリンダ内に高圧の燃料を噴射する直噴システムが主流になりつつある.エンジンは複雑な機械装置でありその制御を行う ECU もまた高性能なマイコンを使用する精密な電子製品であるので,動作温度範囲が限られて

直噴エンジン向けドライバ一体FI-ECU※Injector Driver Integrated FI-ECU for Direct Injection Engines

技術紹介

*1 開発本部 第六開発部  *2 事業統括本部 第二営業部  *3 生産本部 生産技術五部

*4 購買本部 第二購買部  *5 生産本部 品質技術部  *6 Keihin Carolina System Technology, LLC.

※ 2013年7月19日受付

いる.一方,直噴システムは高圧で燃料噴射するため,取り扱う電力が大きく発熱も大きい.そのため,従来は噴射量とタイミングを決定する部分(FI-ECU)と大電力を取り扱う部分(Electric Drive Unit:EDU)に分けて制御を行っていた.今回,この二つを統合する検討を行い,その中で熱の問題の解決に成功し業界最小の統合 ECU として量産を実現した.

2.小型化対応

今回開発した ECU を Fig. 1 に示す.統合化により増加する部品数に対応するため実装密度向上に有利な面実装品の使用を徹底した.コイルや電解コンデンサのようなリード品が主流な大型部品についても全て面実装対応とした.これらの部品のはんだ付け性をひとつひとつ検証し,問題がある部品についてはその部品をはんだ付けする銅はく部の形状を再設計することなどで対応した.直噴インジェ

森   正 光*1 鈴 木 隆 広*2 丸 子 和 良*3 上 田 昭 寿*1

Masamitsu MORI Takahiro SUZUKI Kazuyoshi MARUKO Akihisa UEDA

北 條 直 希*4 目 黒 隆 弘*5 Lisa Howland *6 荻 野 大 典*6

Naoki HOJO Takahiro MEGURO Daisuke OGINO

Direct Injection Engines are the better choice for ecosystem, for their ability of effective combustion control. But, to make fuel injection into the highly pressured engine cylinder, there must be a powerful fuel pump and fuel injection valves. Electric power consumption would increase and the temperature of the Fuel Injection Electronic Control Unit(FI-ECU) would also rise to drive the powerful actuators. For this, in our conventional system to protect the precise microcontroller, power driver part had been separated from the FI-ECU. In this development, the two units were successfully reintegrated, using the special heat dissipation structure. Minimal size in the world was achieved.

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ケーヒン技報 Vol.2 (2013)

Fig. 1 ECU for Direct Injection Engines developed by authors. Device with heat conduction to the top surface (Red circle), Large coils and capacitors (Yellow circle).

Fig. 2 Heat dissipation structure of the PCB

Fig. 3 Heat dissipation structure of the ECU. Blue Parts on the PCB are the power devices with heat conduction to the bottom surface. Their heat passes through the PCB and thermal grease, then flows into the heat sink.

heat-generating chip

printed-circuit board

heat-generating chip

Upper housing with Fins

Heat spreader

Devices with heat conductionto the top surface

Devices with heat conductionto the bottom surface

Thermal grease

Thermal grease

Via hole construction for heat conduction

Heat current

Heat spreader

クタ制御実現のため,専用 ASIC を使用した.高密度化により発生する放射ノイズ低減のため,部品配置や基板パターンを最適化した.この中のいくつかの項目にて特許を出願中である.

3.放熱構造

高発熱の EDU 部を統合した ECU から熱を外へ逃がすため Fig. 2 のようにアルミダイキャストの上蓋に作りこまれた放熱フィンに向け熱流を作る放熱構造を採用した.発熱部品が基板の表,裏どちらの面に実装されても

上蓋の方に放熱させる.この方式を実現するために基板表面に実装する発熱部品は Fig. 2右側のように上面から放熱できるものを採用した.一方,基板裏面に実装する発熱部品は基板を通して放熱せねばならないため基板垂直方向の熱抵抗を極力小さくする必要がある.そこで Fig. 2左側のような基板内ビア構造を採用し基板垂直方向の熱抵抗を大幅に下げることに成功した.

Fig. 1 の基板表の右下コーナ部にある IC は上面に放熱部があり,グリスを介して上蓋に接触し放熱している.Fig. 3 に基板裏側発熱部品の状況を示す.

Heat Spreader

Power devices

Thermal grease

Thermal grease

Power devices

PCB

Bottom cover

Upper housing with Fins

Waterproof adhesive

Waterproof adhesive

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直噴エンジン向けドライバ一体FI-ECU

著 者

森  正 光

近年,燃費や環境性能を向上させるべく,直噴エンジンが急速拡大しております.そこで,廉価な直噴エンジンシステムを実現するために『ドライバ一体 FI-ECU』が必要となってきました.

本プロジェクトでは,EDU特有の課題に対し・ 大型部品の面実装化・ 直噴専用 ASIC 採用による回路集積化・ 高発熱であるEDU部の熱を逃がす放熱構造を採用し,ケーヒン初の『ドライバ一体 FI-ECU』を“業界最小サイズ”で実現することに成功しました.

これからもさらに高い要求仕様に応えつつ,コストを両立させた製品開発を行い,社会に貢献したいと思います.

最後に,本誌面をお借りして,本プロジェク

また,基板と上蓋の加工誤差により部品上面と上蓋間距離にはばらつきがあるため,グリスの選定,放熱構造部の異物噛み込み,放熱フィンの付いた上蓋の鋳造性,基板コーティング塗布,グリス塗布など各工程ごとにばらつき要因をつぶしこみ量産品質を確保した.

4.まとめ

EDU を統合した直噴エンジン向け一体 FI-ECU の問題点を上記手法にて解決し開発に成功した.また,開発のプロセスにおいては,発熱を低減する回路設計,放熱性能を向上させる筐体設計,その放熱構造を実現するものつくりの協業開発が問題解決の推進力となった.

トにご協力いただきました皆様に感謝の気持ちを伝えたいと思います.

「皆様の協力のおかげで,胸を張って本製品を世に送り出すことができました.ありがとうございました.」(森)