interview 医療・介護の新事業を創造し 元気で幸せな社会を目指す€¦ ·...

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21 20 TSR情報2019 新春 TSR情報2019 新春 Part1 経営者に訊く事業特性と今後の成長戦略 (第3種郵便物認可) います。 事業のテーマを模索する中で、 医師免許と生命科学研究のキャリ アを持つということから、医療に 従事すべきだと考えるようになり ました。と言っても研修医の経験 はわずか1年。その後、片田舎で 週末に当直外来をしてきたレベル ですから、臨床医としては半人前 です。ただ、この当直では看護師 を通じて多くを学ぶことができま した。看護師たちは患者の状態を 的確に把握していて、急変の予測 や起きた時の適切な対処法も理解 している。しかも勉強熱心で私よ りよほど医療に詳しい。ではなぜ 当直医が必要なのか。 当直医に困っている病院は大 抵、慢性期・終末期の病床を提供 している病院でした。そんなこと があって、病床維持には24時間 365日、医師がいなければならな いという病院の定義・制度を問う てみてはどうかと思ったのです。 病院の機能を大胆に切り分け、慢 性期と終末期の患者への医療ケア に特化すればよいと考えました。 整備された看護体制のもとで病床 が管理されていて、診断、治療方 針が明確で、医師と本人、家族、 看護師の間で急変時の対応方法が 共有できていれば、医師はときど き来れば良いのではないかと。在 宅医療の訪問診療と同じロジック です。 今や社会現象として、過疎地域 では少子高齢化の進行、財政難、 医師不足により閉院する病院が 増加しています。これはいずれ都 市近郊でも起こりうる問題です。 その時の解決の一助になるのでは と、「地域医療の再生」をテーマ に設定し、そのアプローチを事業 目的化しました。 地域に必要とされる “病床”を提供する 「医心館」を全国展開 増大する一途である社会保障費 の抑制は、日本の医療制度を維持 するために避けられないミッショ ンです。医療法改正により長期入 院が難しくなり、加えて、急性期 中核病院、回復期リハビリ病院な ど病院の機能分化も進み始めまし た。その結果、余命3週間の末期 がん患者まで退院を余儀なくされ る事態が起こっています。 弊社はそのような困っている患 者の受け入れ先として、14年に三 重県に在宅型の“病床”「医心館 名張Ⅰ」を開設しました。これは 在宅型の“病床”事業モデルとし て看護師と介護士が外部の医師や ケアマネジャーと連携しながら運 営する施設です。以降、現在15施 設を運営。今後も順調に全国に施 設を立ち上げる予定です。 会社設立前は、研究室を5年が かりで閉鎖した後、2010年3月に 岩手県へ移住。閉院した県立病院 などを特別養護老人ホームとして 再生するなど地域医療再生事業に 従事しました。しかし、行政に掛 け合ってもなかなか納得が得られ ないジレンマがあり、まずは事業 を成功させて財政基盤を作り、信 頼を得てから、と順番を変えまし た。医心館は、がんの終末期や人 工呼吸器装着の患者の受け入れ体 制が整い、地域の在宅医療を変え たことについて高い評価をいただ いています。 また、看護師主体の「病院でも 介護施設でもない新しい職場」を 提案することで、資格を持ちなが ら休眠している約71万人とも推測 される潜在看護師の掘り起こしに も一役買っています。患者は主治 医を継続することができますが、 一人で活躍していることが多い開 業医は、24時間のオンコール対応 から解放され精神的、物理的な負 担が軽減されます。また、入居者 の主治医を全部外部のグループ外 の医師にお願いすることで、透明 性の高いケアの提供を心がけてい ます。それは地域の医師の“シェ アリング病床”とも言えるでしょ う。当社はこのように医療・介護 分野で新たな仕組みを創生してい ます。誰一人として、ひとりには しない。志とビジョンある医療・ 介護で社会を元気に幸せにする、 新しい医療のリーディングカンパ ニーを目指します。 地域医療の再生をテーマに アプローチを事業目的化 京都大学医学部大学院に進学 し、生命科学分野の研究を続けて 約20年。先日、本庶佑特別教授が ノーベル医学生理学賞を受賞し日 本中が沸きましたが、その免疫 チェックポイント阻害薬の創製に つながるPD-1を発見した私たち の論文が受賞対象になっていた。 その事実を知り、途中で辞めた研 究も、ようやく世の中に誇っても 良いのかなと思い始めました。 45歳になるまでは研究一筋。そ の一方で30代後半から事業家への 転身を考えていました。というの も、研究者と事業家の思考プロセ スが似ていると感じていたからで す。やるべきことをテーマとして 捉え、達成に向け直感ベースの仮 説を立て、頭の中で検証を繰り返 し実行に移す――この仮説検証思 考プロセスが経営にも生かされて 医療・介護の新事業を創造し 元気で幸せな社会を目指す 企業名:株式会社アンビスホールディングス TSR 企業コード:02-274555-6 事業内容:高質な在宅看護を提供する在宅型の“病床”「医心館」を全国に展開 設立:平成 28 年 10 月 住所:〒 103-0028 東京都中央区八重洲一丁目 9 番 8 号 ヤエスメッグビル TEL:03-6262-5105 WEB:www.amvis.co.jp TSR 新たな医療分野で成長するアンビスグループ 名古屋大学医学部卒、京都大学大学院(分子生物学)。 国内外の研究機関で遺伝情報の複製機構をテーマに研究。 2010年に研究室を閉鎖。以後、事業家の道を歩む。2013 年(株)アンビス、2016年(株)アンビスホールディングス を設立。2018年ノーベル医学・生理学賞受賞論文の共著者 でもある。医師、医学博士。 Profile 株式会社 アンビスホールディングス 代表取締役 しば はら けい いち Interview 社名の由来は“Ambitious Vision”(大志ある未来像)。当社の「医心館」では家族が悔いを残 さない看病ができるよう、医療依存度が高く行き場がない方々を積極的に受け入れています。

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Page 1: Interview 医療・介護の新事業を創造し 元気で幸せな社会を目指す€¦ · ケアマネジャーと連携しながら運 営する施設です。以降、現在15施

2120 TSR情報2019 新春 TSR情報2019 新春

Part1 経営者に訊く事業特性と今後の成長戦略 (第3種郵便物認可)

います。 事業のテーマを模索する中で、医師免許と生命科学研究のキャリアを持つということから、医療に従事すべきだと考えるようになりました。と言っても研修医の経験はわずか1年。その後、片田舎で週末に当直外来をしてきたレベルですから、臨床医としては半人前です。ただ、この当直では看護師を通じて多くを学ぶことができました。看護師たちは患者の状態を的確に把握していて、急変の予測や起きた時の適切な対処法も理解している。しかも勉強熱心で私よりよほど医療に詳しい。ではなぜ当直医が必要なのか。 当直医に困っている病院は大抵、慢性期・終末期の病床を提供している病院でした。そんなことがあって、病床維持には24時間365日、医師がいなければならないという病院の定義・制度を問うてみてはどうかと思ったのです。病院の機能を大胆に切り分け、慢性期と終末期の患者への医療ケアに特化すればよいと考えました。整備された看護体制のもとで病床が管理されていて、診断、治療方針が明確で、医師と本人、家族、看護師の間で急変時の対応方法が共有できていれば、医師はときどき来れば良いのではないかと。在宅医療の訪問診療と同じロジックです。 今や社会現象として、過疎地域では少子高齢化の進行、財政難、医師不足により閉院する病院が増加しています。これはいずれ都市近郊でも起こりうる問題です。その時の解決の一助になるのではと、「地域医療の再生」をテーマに設定し、そのアプローチを事業目的化しました。

地域に必要とされる“病床”を提供する「医心館」を全国展開 増大する一途である社会保障費の抑制は、日本の医療制度を維持するために避けられないミッショ

ンです。医療法改正により長期入院が難しくなり、加えて、急性期中核病院、回復期リハビリ病院など病院の機能分化も進み始めました。その結果、余命3週間の末期がん患者まで退院を余儀なくされる事態が起こっています。 弊社はそのような困っている患者の受け入れ先として、14年に三重県に在宅型の“病床”「医心館名張Ⅰ」を開設しました。これは在宅型の“病床”事業モデルとして看護師と介護士が外部の医師やケアマネジャーと連携しながら運営する施設です。以降、現在15施設を運営。今後も順調に全国に施設を立ち上げる予定です。 会社設立前は、研究室を5年がかりで閉鎖した後、2010年3月に岩手県へ移住。閉院した県立病院などを特別養護老人ホームとして再生するなど地域医療再生事業に従事しました。しかし、行政に掛け合ってもなかなか納得が得られないジレンマがあり、まずは事業を成功させて財政基盤を作り、信頼を得てから、と順番を変えました。医心館は、がんの終末期や人

工呼吸器装着の患者の受け入れ体制が整い、地域の在宅医療を変えたことについて高い評価をいただいています。 また、看護師主体の「病院でも介護施設でもない新しい職場」を提案することで、資格を持ちながら休眠している約71万人とも推測される潜在看護師の掘り起こしにも一役買っています。患者は主治医を継続することができますが、一人で活躍していることが多い開業医は、24時間のオンコール対応から解放され精神的、物理的な負担が軽減されます。また、入居者の主治医を全部外部のグループ外の医師にお願いすることで、透明性の高いケアの提供を心がけています。それは地域の医師の“シェアリング病床”とも言えるでしょう。当社はこのように医療・介護分野で新たな仕組みを創生しています。誰一人として、ひとりにはしない。志とビジョンある医療・介護で社会を元気に幸せにする、新しい医療のリーディングカンパニーを目指します。

地域医療の再生をテーマにアプローチを事業目的化 京都大学医学部大学院に進学し、生命科学分野の研究を続けて約20年。先日、本庶佑特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞し日本中が沸きましたが、その免疫

チェックポイント阻害薬の創製につながるPD-1を発見した私たちの論文が受賞対象になっていた。その事実を知り、途中で辞めた研究も、ようやく世の中に誇っても良いのかなと思い始めました。 45歳になるまでは研究一筋。その一方で30代後半から事業家への

転身を考えていました。というのも、研究者と事業家の思考プロセスが似ていると感じていたからです。やるべきことをテーマとして捉え、達成に向け直感ベースの仮説を立て、頭の中で検証を繰り返し実行に移す――この仮説検証思考プロセスが経営にも生かされて

医療・介護の新事業を創造し 元気で幸せな社会を目指す

企業名:株式会社アンビスホールディングスTSR 企業コード:02-274555-6事業内容:高質な在宅看護を提供する在宅型の“病床”「医心館」を全国に展開設立:平成 28 年 10 月住所:〒 103-0028   東京都中央区八重洲一丁目 9 番 8 号 ヤエスメッグビルTEL:03-6262-5105WEB:www.amvis.co.jp

TSRの

眼 新たな医療分野で成長するアンビスグループ

名古屋大学医学部卒、京都大学大学院(分子生物学)。国内外の研究機関で遺伝情報の複製機構をテーマに研究。2010年に研究室を閉鎖。以後、事業家の道を歩む。2013年(株)アンビス、2016年(株)アンビスホールディングスを設立。2018年ノーベル医学・生理学賞受賞論文の共著者でもある。医師、医学博士。

Profile

株式会社アンビスホールディングス代表取締役

柴し ば

原は ら

 慶け い

一い ち

Interview

社名の由来は“Ambitious Vision”(大志ある未来像)。当社の「医心館」では家族が悔いを残さない看病ができるよう、医療依存度が高く行き場がない方々を積極的に受け入れています。