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に対する -「 に対する感覚」を に- 大学 第 26 287~295 2009 大学 育学 センター

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知的障害児に対する図形指導の実践例

-「図形に対する感覚」を視点に-

岡田明子 ・ 髙橋 玲

群馬大学教育実践研究 別刷

第 26 号 287~295 頁 2009

群馬大学教育学部 附属教育臨床総合センター

287

知的障害児に対する図形指導の実践例

―「図形に対する感覚」を視点に―

岡 田 明 子 ・ 髙 橋 玲

群馬大学教育学部附属特別支援学校

(2008 年 10 月 31 日受理)

Ⅰ.特別支援学校(知的障害)における図形指導

物の見方や考え方を獲得し、それらを自ら高めてい

く上で、数量・図形の感覚は極めて重要である。中で

も、図形に対する感覚は知的な営みの1つであり、そ

れを直接観察することはとても困難である。そのため、

図形を構成したり、分解したりする操作を伴う学習の

中で、図形に対する感覚を見ていくことが大切になる。

多くの特別支援学校では、算数の時間にせよ、領

域・教科を合わせた指導の中でにせよ、「形の分類」

や「大きさによる仲間分け」といった図形指導を行っ

ている。これらの指導は、子どもたちの図形に対する

感覚を高める学習である。自立活動の時間に「形の弁

別」を伴う型はめによって行っている「環境の把握」

に関する学習は、系統的なものではないため、区別し

て考えるべきであるが、こうした学習を算数の指導と

混同している教師は少なくない。

また、遊びの指導の時間に、子どもたちが積み木や

パズル遊びをしていることがある。この遊びを通して

子どもたちは、①積み木は固いという「物理的知識」

や、②投げてはいけないという「社会的知識」、③積

み木が2つあることやそれらが同じ形であるという

「数学的知識」(ピアジェが規定した3つの知識)を

獲得する。これら3つの知識は、図形に対する感覚の

上に成り立っているわけだが、こうしたことが学校現

場においては意識されていない。

「図形に対する感覚」という視点から、子どもの日

常の生活を観察し、そこから子どもの生活にある数学

的内容を教材化し、図形指導に生かすことができれば、

これまで以上に図形指導が充実し、子どもの生活の質

を高めていくことが期待できる。登校時に靴を下駄箱

にしまう子どもたちの姿について、その姿を教師が「き

れいな形(そろえるという操作による)」という観点

からとらえられれば、子どもが持っている「そろえる」

という考え方を駆使した「形の構成」といった学習が

充実するとともに、生活の中でいろいろなものをそろ

え、形を整えるという行動が表れるようになるだろう。

Ⅱ.「図形に対する感覚」を大切にした図形指導の実

践例

ここでの実践は、「敷き詰める」という数学的な考

え方に焦点をあてた事例である。子どもの実態、日常

生活の様子等の観察を基に、子どもの「図形に対する

感覚」を見取り、それを視点に授業を構想した。

子どもは、型はめの要領で、直線や曲線によって囲

まれた図形(例えば、「カニ」や「カエル」、「うさ

ぎ」の形など)の内側にパターンブロックを隙間のな

いように並べていく。教師は、子どもがパターンブロ

ックをどこから置くか、置き方に法則性があるか、必

ず 初に使うブロックの形があるのかなどについて観

察し、子どもの「図形に対する見方や考え方」をとら

えていくようにする。また、子どもの操作そのものが

子どもの思考として見て取れるので、子どもがブロッ

クの色属性を捨象して考えることができるかというこ

とも見取りやすい。子どもが形属性を 優先に考えて

いるのか、それとも色属性を優先しているのかなどを

観察することが容易にできるのである。

1.子どもの実態

Nさん(中2、女子)は、出窓の真ん中に置いてあ

る植木鉢を見つけると必ず右側の壁いっぱいにずらし

て置き直す。また、少しでも開いている引き戸を見つ

ければそれをピシッと丁寧に閉める。赤い色のカバン

群馬大学教育実践研究 第 26 号 287 ~ 295 頁 2009

288 岡田明子・髙橋 玲

やブラシ、タオル、本など、とにかく赤い物を手に持

てるだけ持って登校する時期もあれば、それが緑色の

物に変わる時期もある。こうした姿を「こだわりが強

い」と片づけてしまうことは容易であるが、なぜそう

するのか、教師として明らかにしたくなる子どもであ

る。

太田のステージ評価を見ると「ステージⅠ-3」(認

知発達の水準は1歳半)に相当するが、算数・数学実

態調査(群馬大学教育学部附属特別支援学校版)では、

領域「数の基礎概念」が3歳程度(○△□の弁別がで

きる。赤、青、黄、緑が分かる)、領域「図形」が2

歳半程度(真似て直線をかける。真似て○をかける)

である。領域「量と測定」では、長さや多さ、重さを

区別できているが、それらの量の存在には気付いてい

ない段階である。例えば、30㎝の線分と15㎝の線

分を並べて提示して「どちらが長いですか」と尋ねて

も、Nさんが正しい答えを示すことは難しい。しかし、

長いバナナと短いバナナから長いバナナの方をとるこ

とができるし、2つのコップに注

いだジュースも多い方をとるこ

とができる。空き缶に水を入れた

ものと空のままのものを手渡せ

ば、空の方に水を入れられる。こ

のようにNさんは、生活の中で、

認知発達以上のことをたくさん

身につけることができている。

2.授業の構想

線に合わせるようにして物を

置いたり、決まった枠の中に物を

納めたりすることが得意なNさ

んにとって、形属性を優先して

(色属性を捨象して)物を見たり

考えたりできることが容易にな

れば、今後、属性に対する理解が

深まっていく。そうすることで未

測量の学習(大きい・小さい、多

い・少ない、長い・短い)に発展

することが可能になり、認知発達

の水準も高まっていくであろう

ととらえた。

そこで、型はめの要領で、直線

や曲線によって囲まれた図形の内側にパターンブロッ

クを隙間のないように並べていく活動に取り組むこと

にした。ここでは、凹凸を設けた型はめではなく、線

からはみ出すことを想定した台紙を用いることにした。

それは、Nさんが敷き詰める対象とする図形(外側の

線部分)の形を、敷き詰める際に用いるパターンブロ

ックの形よりも優先してとらえてほしいと考えたから

である。つまり、ピシッと置きたいNさんにとっては、

外側の線に合わせてパターンブロックを置こうと操作

すればするほど、パターンブロック自体の形や色に対

する意識の度合いは低くなり、「パターンブロックは、

外側の線に合わせて置くための『道具』にすぎない」

という状況を作り出せると考えたのである。

(1)指導段階の組み立て

授業を構想するにあたって、指導段階を以下のよう

に組み立てた。(図1)

289知的障害児に対する図形指導の実践例

(2)授業で見られたNさんの姿

①第1段階「正六角形を敷き詰めてカメを作るのが好きなNさん」(3時間)

1㎜程度の厚さのボール紙を切り抜いた、ハナ、人、カメ、ウマなどの下絵に、長方形、

ひし形、平行四辺形、正六角形などのピースをあてはめていく。ここでは、同じ形でも色

違いがあるようにした。

* * * * * *

「ハナ(花)がすぐにできたNさん」

数種類あるピースの中から矢印型のピース

を手にとって、下絵の外側の縁に沿って置き、

花の形を容易に完成することができた。

* * * * * *

「カメ(亀)の形を好んで選んだNさん」

カメの甲羅部分がいくつかの正六角形で構

成できる下絵をNさんは気に入り、いくつか

の下絵を提示するといつも一番にカメを選ん

だ。そして、たくさんのピースが入った箱か

ら正六角形のピースをまず取りだして、下絵

に合うようにピッタリ並べていた。

* * * * * *

「ウマ(馬)では置き方が変わるNさん」

ウマもカメと同様であったが、Nさんはカ

メとは違って、写真3のように、頭や脚、尾

からピースを置いていった。この下絵は、胴

体部分が4つの平行四辺形で構成できるよう

になっていたが、カメの甲羅と異なり、どこ

から置くのかが見出しにくかったのかもしれ

ない。置き方は異なっていたが、ウマも自分

の力で完成することができた。

* * * * * *

Nさんは、ウマの例のように見出しやすい形から置いていくことが多かった。これらの

課題は、いくつかのピースを置くことで隣の形が見出しやすいようになっているため、型

はめが得意なNさんにとっては、取り組みやすい課題であったと考えられる。Nさんは、

隣り合わせのピース同士が作り出す図形を見出すことについて学習したと考えられる。

写真1 花

写真2 カメ

写真3 ウマ

290 岡田明子・髙橋 玲

②第2段階「正六角形のパターンブロックから使うNさん」(4時間)

第1段階で使った下絵に加えて、カニ、ウサギなど凹凸のない下絵にパターンブロック

を置いて形を構成した。

はじめの頃、敷き詰める面積が広い下絵は

少しハードルが高かったのか、2~3課題目

からおしまいのサインを出していたが、徐々

に形を見分けるポイントが分かってきた。ウ

サギの下絵では、ウサギの尾の部分にあたる

正方形や脚にあたるひし形も置くようになっ

てきた。

カニでは、写真4のように置いて、おしま

いにすることが2回続いたので、Nさんがブ

ロックを置かなかった胴体部分だけの下絵を

提示した。すると、ひし形が置けることを見

出して、胴体の上下→左右というように、ひ

し形のブロックを置き、次いで間を埋めるよ

うに、同じ形で敷き詰めていった。こうした

中で、ひし形の向きを一つだけ縦に置いたた

めに、隙間ができてしまったことがあった。

Nさんは、この隙間に正三角形を見出し、色

が異なる正三角形を置いて敷き詰めた。

* * * *

Nさんは、上→下→左→右というようにし

て、外側から敷き詰めていくことが多かった。

このことは、「外側から置く」という操作が、

敷き詰める対象とする図形(外側の線部分)

を認識しているから行われたととらえられる。

また、敷き詰めた中にポツリと違う色があっ

てもそれにこだわらず、「できた」という合図を教師に伝えた。このことは、敷き詰める

対象とする図形(外側の線部分)の内側に隙間なく敷き詰めることがNさん自身の課題と

なり、色を合わせるということをNさんは課題にしなかったからであると受けとめられる。

このように、「全体の形を示す外側の線分に注目するとブロックがはみ出さない」とい

う考え方が、Nさんにとって数学的なアイディアとして生きて働いたと考えられる。

写真4 カニ

写真5 ウサギ

写真6 違う色が混じっても、全体の

形を優先させる

291知的障害児に対する図形指導の実践例

③第3段階「正六角形のパターンブロックから使い始めるNさん」(4時間)

下絵に、チョウや大きな正六角形を加えた。

Nさんは、特にポイントが見つからないとき

には、正六角形のブロックから先に選び取り、

カメの甲羅のように、正六角形を敷き詰める

姿が多かった。チョウの下絵を提示したとき、

写真7のように敷き詰めた。また、写真8の

ように正六角形の外側の隙間には、台形やひ

し形を使って埋めることもできた。

教師は、Nさんのやり方を見守ったり、N

さんが今使っているのと同じブロックを手渡

して応援したりすることに徹していた。また、

Nさんが終わりと言えば、それを受け入れる

ことを基本としていたが、ある時、Nさんが

終わりと言い出す前に次のブロックを提示す

るなどして少し積極的に応援するようにした。

写真9のときは、正六角形のブロックを中

心に置いたので、他の正六角形のブロックを

端によけて、違うブロックも使ったらどうか

という提案をしてみた。すると、台形を取り

出して敷き詰め始めた。ひとしきりすると、

余った隙間に正三角形を埋めていった。同じ

色のブロックを続けて使う傾向があるNさん

だが、このときは、台形のブロックを置く向

きがいろいろだったため、色だけを見れば、

写真のようなまだら模様となったが、大きな

正六角形を敷き詰めて完成することができた。

* * * *

正六角形(黄色)を 初に使うことが多く、次に使う度合いの高いのがひし形(青色)、

空いた隙間を埋めるときに使うのが正三角形(緑色)であった。このことは、一度に埋め

ることのできる面積が大きい順にNさんが試行錯誤を行っているからであるととらえられ

る。このように、「外側(内側)から仕上げると構成しやすくなる」という考え方が、N

さんにとっての数学的アイデアとして生きて働いたと受けとめた。

写真7 六角形だけで敷き詰める

写真8 台形やひし形で隙間を埋める

写真9 六角形を中心に置く

292 岡田明子・髙橋 玲

④第4段階「異なるパターンブロックを組み合わせて形を構成するNさん」(5時間)

学習を積み重ねると、1単位時間で構成できる図

形の数が少しずつ増えていった。この段階に進む

頃には、第1段階の下絵に加え、ハナ、カニ、チ

ョウ、カタツムリ、大きな正六角形になっていた。

どの下絵を選ぶかもNさんが自分で決めた。

Nさんは、見出しやすい形の部分にブロックを

置いた後、同じブロックを続けて並べる傾向があ

るが、同じカニの下絵でも、毎回、同じように置

いていくわけではなかった。

写真10では、台形を途中に入れた。写真11のと

きは、胴体部分に置いた正六角形の組合せが前日

とは異なった。ちょうど線対称的な敷き詰め方に

なり、「できた」と合図をしたところの画像である。

* * * *

この頃には、シンメトリーが完成し始め、図形

の中心から上下左右へとブロックを敷き詰めてい

く操作が多く見られるようになった。色属性を捨

象しつつも、色属性によるリズムの美しさを味わ

うことができているように受けとめられた。

* * * *

このように、「隙間ができてしまったときには、

その部分を埋めることのできるブロックを見つけ

ればよい」という考え方が、Nさんにとっての数

学的アイデアとして生きて働いたと受けとめた。

* * * *

この実践の後、平成20年2月4日~3月11日に

は発展的な学習として、また、定着の度合いを測

ることを目的に授業を組んだ。そのときには、写

真12や写真13のような敷き詰め方もできるように

なった。写真12では、カメの甲羅の中心に台形2

つを組み合わせた正六角形を置いた。写真13では、色属性はほとんど気にしていないので

はないかと見える敷き詰め方で、色属性を捨象してカメの形を完成させることができた。

写真10 4つの形を使って

写真11 3つの形を使って

写真12 新しい置き方

写真13 初めて亀が完成

293知的障害児に対する図形指導の実践例

3.Nさんの変容

Nさんが、このような学習に取り組んだのは、2007年の 11 月下旬から 12 月下旬までの1ヶ月間と、2008年の2月中旬から3月中旬にかけての1ヶ月間であっ

た。

Nさんが、出窓の端に植木鉢を移動する行動は、こ

の授業と並行して減少した。このような変容は、ブロ

ックを敷き詰めて形を構成することを通して、Nさん

の「図形に対する見方や考え方」が少しずつ変化して

きたから起きたのではではないかとも考えられる。シ

ンメトリやものの形の美しさ、リズム等々、さりげな

く生活の中に存在する多くの図形に対する感覚が高ま

ったのではないだろうか。Nさんは、同じ色のブロッ

クを両手に一つずつ取り出し、カニの目や足のように

左右対称的な位置に置くことが多かった。はじめは、

それだけ置いておしまいにすることもあった。次第に、

正六角形を中心に置き、そこからまわりに広げていく

姿も見られるようになった。このことは、図形の見方

という点で、大きな変化といえよう。このような中心

からの広がりを見るという見方ができるようになった

ことによって、端の線に揃えることへのこだわりは薄

れ、同じ色を並べたいという色に対するこだわりは、

異なる色が並んでもそこに何らかの規則性がある色の

リズムへという、より高次な感覚に発展していくとい

うことになったと考える。

4.Nさんの発展的な学習

今回は、1つの箱の中からパターンブロックを取り

出して、台紙に置ければそのまま使うし、使えなけれ

ば元の箱に戻すようにした。

発展の1つには、「使えなかったパターンブロック

を違う箱に移す」という操作を加えることがある。こ

れによって、使えたか、使えなかったかという単なる

試行錯誤の段階から、使える物と使えない物を区別す

るという考え方へと発展させていくことができる。

また、発展の2つには、敷き詰めて作り上げた図形

で使っているパターンブロックを、異なる形の図形の

中に敷き詰めていくという操作である。つまり、「こ

れに使ったパターンブロックを、こちらにも使う」と

いう考え方への発展である。これは、推移律に対する

理解を促し、「あめ」の「あ」は、「あしか」の「あ」

といった音韻分解指導や文字指導にも通じる学習にな

る。

Ⅲ.Nさんの姿をもとにした指導計画モデルの提案

Nさんのような人は、線にあわせて物を置きたいと

思ったときに、一方向からしか見られず、自分が基準

とする位置とのずれが気になり、生活しにくい思いを

していると考えられる。同様の子どもは少なくないの

ではないだろうか。靴はぴしっとそろえて置かなけれ

ば次の行動へ移れないし、他人の胸元のファスナーが

下りているのが気になって、ファスナーを上げたいと

いう衝動に駆られて他者とのトラブルになることも少

なくない。このような子どもの図形に対する見方や考

え方が今より少しでも広がれば、こだわりによる混乱

から少しでも解放されるのではないかと考える。

そこで、今回の実践で見られたNさんの姿をもとに、

先に組み立てた指導段階を指導計画モデルとして作成

することにした。それは、このモデルを基に実践を積

み上げることによって、知的障害のある子どもたちの

図形に対する感覚を高めていく指導計画を明らかにし

ていきたいと願ったからであり、図形指導が知的障害

のある子どもたちにとって、とても価値ある学習であ

ることを確かめたいと考えたからである。

「形をつくろう」指導計画モデル 対象:発達年齢3歳~4歳

ねらいと数学的アイデア 主な学習活動 留意点

【第1段階】

○辺の長さや形の違いを見出す

こと

・敷き詰めるために、色属性を

捨象する

○2種類のピースを用いて、型は

めの要領で、「ハナ①」や「ウ

マ」をつくる

・一度うまく敷き詰められたピー

スと同じ色のピースを選んで、

・ハナ①(参考:写真1)では、

長方形6と正六角形1を用いて

敷き詰める

・ウマ(参考:写真3)では、大

きいひし形5と小さいの6を用

294 岡田明子・髙橋 玲

・2種類のピースを用いないと

きれいに敷き詰めることが

できない

それを敷き詰める

・同形同色のピースが足りない場

面で、同形異色のピースを用い

て敷き詰める

いて敷き詰める

・色は、赤青黄緑の4色を用いる

【第2段階】

○線分で囲まれた形を見出すこと

・外側から敷き詰める

・へりを合わせる

○凹凸がない下絵(ハナ②、カニ、

ウサギ)の外側の線に合わせて

パターンブロックを置く

・線分で描かれた図形の内側に隙間

をつくらないように敷き詰める

・ハナ②

図2

・カニ(脚、目、はさみ)

・ウサギ(頭、耳、脚、尾)

・ハナ②(図2)では、正三角形

6と正六角形1を用いる

・へりを合わせることをとらえや

すくするために、隣り合わせに

置くブロックを2種類にする。

・カニ(参照:写真4)やウサギ

(参照:写真5)では、正六角形、

台形、ひし形、正三角形の中から

2種類を提示し、それらを用い

て敷き詰めるようにしていく

【第3段階】

○隙間に合う形を見出すこと

・置けなかったところと同じ形の

ブロックをみつける

○外側の線から特徴を見出して、

同じブロックで形を敷き詰める

・外形と同形のパターンブロック

を用いて敷き詰める

・できてしまった隙間に合う形の

パターンブロックを選んで

はめる

・チョウ、大きな正六角形

・1つの図形を構成するブロック

は、2種類とする

・チョウ(参照:写真7、写真8)、

大きな正六角形(参照:写真9)

では、正六角形、台形、ひし形、

正三角形の中から2種類を提示

し、それらを用いて敷き詰める

ようにしていく

【第4段階】

○同じ形をより小さい基本図形で

構成すること

・左右対称にする

・中心から置く

○3~4種類のパターンブロック

を使って敷き詰める

・馴染みのある形のパターンブロ

ックをいくつか置いて、そこか

ら放射状に敷き詰める

・カニ、カメ、大きなひし形、他

・1つの図形を構成するブロック

は、3~4種類とする

・下絵を半分に折るなどして補助

線をいれ、線対称にブロックを

置くきっかけをつくる

中学部2年生のNさんが正六角形を好んだように、

子どもにはそれぞれ馴染みのある好みの形がある。例

えば、小学部1年生のY君にとってはそれがひし形で

あり、4年生のK君にとっては正三角形である。図形

指導にあたって、そうした子どもたちの好みの形を、

教師は大事にしたい。そのためには、日頃から、子ど

もたちの生活を観察し、子どもがどんな形に触れてい

るのか、どんなときに形に注目しているのかを観察し、

その子にとって馴染みのある形を発見していくことが

肝要である。子どもの馴染みのある形を教師が発見で

きたとき、図形指導の第一歩は始まるのである。

指導中には、子どもがどのような形を如何に操作し

ているのかということについて細心の注意を払って見

守り、1つ1つの操作を見取ることに全神経を集中さ

せたい。それは、操作そのものが子どもの思考であり、

一度通り過ぎてしまえば再現のきかないその子の表現

だからである。例えば、ブロックによる形の構成では、

接着剤ではって形を保存するか、画像に記録して残す

295知的障害児に対する図形指導の実践例

ようにしない限り再現することは難しい。ここに教師

の工夫が必要となるのだ。

このように、教師が、子どもと図形との出会いをよ

りよく演出し、子どもの図形に対するかかわり方を目

に見える形で表す工夫ができれば、子どもの「図形に

対する感覚」は一層高まる。「図形に対する感覚」が

高まれば、物の見方や考え方が広がるので、子どもは

自身の生活を豊かにしていけるようになるのである。

(おかだ あきこ・たかはし あきら)