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IoT社会を実現する エッジ/ クラウドコンピューティングのバランス デロイトトーマツ グループ テクノロジー・メディア・通信(TMT )インダストリー

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Page 1: IoT社会を実現する - Deloitte United States · IoTを活用した社会システムの効率化や企業オペレーションの高度化が世界中で加速してきている。IoTのエッジデバイスと

IoT社会を実現するエッジ/クラウドコンピューティングのバランスデロイト トーマツ グループ テクノロジー・メディア・通信(TMT)インダストリー

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原著:「Scaling IoT to meet enterprise needs Balancing edge and cloud computing」注意事項: 本誌は Deloitte Insights が2019年6月に発表した内容をもとに、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社が翻訳・加筆し、

2019年11月に発行したものです。和訳版と原文(英語)に差異が発生した場合には、原文を優先します。

IoT社会を実現するエッジ/クラウドコンピューティングのバランス

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IoTを活用した社会システムの効率化や企業オペレーションの高度化が世界中で加速してきている。IoTのエッジデバイスとなるスマホやカメラなどの機器、センサの数は2025年には400億個を超え、年間79.4ゼタバイトのデータが生成されると見込まれている*。生み出されたデータは多くの場合クラウドに送られ、解析処理を経て、エッジが存在する現場に効果的な示唆をフィードバックする。また、AIロジックの学習も並行して行われる。

一方で、映像画質の高精細化やセンサ種別の多様化、配置センサ数の増加など、様々な要因から、エッジデバイスで生成されるデータ量は膨大であり、生み出されたデータを全てクラウドへ送信する場合にはネットワーク負荷も過大なものとなる。これは応答速度が遅れることにもつながるので、リアルタイム性が求められるユースケース(工場の機器制御や自動運転等)では実用的でない。また、データ解析・AI学習の面では必ずしも全てのデータは要求されないし、データ保管・管理の視点ではコスト高につながることになる。

こうした理由から、エッジデバイスに物理的に近い場所でのデータ処理・応答が求められるため、エッジサーバーをクラウドに組み合わせた解決法に注目が集まっている。

また、日本国内でも5Gのプレサービスが始まり、新たな通信世代への期待が高まっている。5Gネットワークの特長として、高速・低遅延・多数接続が挙げられるが、現実のユーザー体験は必ずしも基地局から端末間のアクセス回線の性能のみによるものではなく、エンドツーエンドでの処理性能に依存する。ここでもユーザー体験を適正化・高度化する手段の一つとしてエッジコンピューティングが挙げられる。

この新たな市場における勝者はまだ決まっていないが、コネクテッド化する世界においては、通信機能は業種共通の水平統合されたものという位置付けだけでなく、用途市場ごとにアプリケーション~ネットワークまで垂直統合されたソリューションに組み込まれるケースが増加するものと推測される。パブリッククラウド市場を席巻する米国系企業は既に着々と動き出しているほか、通信機器業界の企業や、既存の通信事業者など通信業界に関わる事業者はもちろん有力な立場にある。一方で、ローカル5G市場にも近しいことが言えるが、地域に閉じたユースケースを描く地方自治体や、大規模製造事業者などリアルタイム性が求められるユースケースを牽引する立場の事業者が、エッジサーバー資産の他用途への事業展開として活用するケースなども想定される。

いずれも本稿にある、「クラウドとエッジコンピューティングのバランス」がビジネスケースに影響すると考えられるため、事業計画にあたっては対応するユースケースごとの顧客体験とエッジコンピューティングの利点を十分に考慮する必要があるであろう。本稿がそうした検討の一助になれば、この上ない喜びである。

* The Growth in Connected IoT Devices Is Expected to Generate 79.4ZB of Data in 2025, According to a New IDC Forecast, International Data Corporation, 18 Jun 2019: https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS45213219

日本語版発刊に寄せて

佐藤 通規Michinori Satoデロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 通信・メディア・エンタテインメントユニットリーダー

通信・メディア、IT業界を中心として、事業戦略、新規事業企画、デジタル化戦略、グローバル業務改革、M&A支援などのコンサルティングに数多く従事。特にデジタル時代における競争戦略やオペレーション改革、データマネジメント戦略、グローバル視点かつ現場を動かす経営改革の主導を得意とする。主な著書に『ハイリターン・マネジャー』(共著:東洋経済新報社)

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ほんの数年前まで、多くの人々はすべてのモノのインターネット(IoT)はクラウドに移行すると予想していた。実際に消費者向けIoTの多くは、クラウドに存在している。だが、企業規模のIoTソリューションを設計し構築する上で重要となる基本の一つは、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングをバランスよく使用することである1。現在、ほとんどのIoTソリューションは、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングとの組み合わせを必要とする。クラウドのみのソリューションと比較して、エッジを組み込んだ混合ソリューションは、応答時間を軽減し、スケーラビリティを向上させ、情報へのアクセスを向上させることができる。その結果、より優れた決定をより速く行うことが可能となり、企業はより俊敏に反応することができる。

しかし一方で、エッジコンピューティングがもたらす複雑さは、規模、スピード、および障害回復力といった、目下の目的に見合うものであるべきである。一方向に行き過ぎる選択は、概して大幅に運用を複雑化し、費用負担をもたらす。

つまり、企業は、IoTソリューションを設計し構築する際に、そもそも自身の目的を反映するあらゆる要素を考慮することが求められる。

本稿では、企業がIoTソリューションにおいて、いつ、どのようにエッジとクラウドの両方を最適に活用できるかを議論する。また、エッジとクラウドコンピューティングの役割、エッジが必要とされる理由、およびソリューションを選択する方法についても説明する。また、エッジコンピューティングの複雑さを説明し、ユースケースを示す。

クラウドの爆発と応答時間の問題: エッジコンピューティングの開始

この10年間にクラウドの導入が急激に拡大した。多くの現代企業のIT機能は、クラウドにのみ存在するか、クラウドにその大部分が存在している2。クラウドインフラストラクチャに

企業が、データ分析を加速させ、より優れた決定をより迅速に行うために、エッジコンピューティングを用いてクラウドベースのIoTソリューションを補完するケースが増えつつある。

IoT社会を実現する エッジ/クラウドコンピューティングの バランス

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おけるメリットは数多くあり、例えば、費用対効果、規模、セルフサービス自動化、従来のバックオフィスシステムとの相互運用性、および集中機能が含まれる3。

同時に、センサが生成するデータの量も大幅に増加しており、今後もこの傾向が継続することが予想されている4。多くの場合、本質的にデータは生成後、ミリ秒以内に価値がなくなるため、組織がデータを洞察に変換し、その後行動に変換することができる速度を担保することが一般的には不可欠

であると考えられる。したがって、データ生成と決定またはアクションとの間において応答時間を最小にすることは、組織の俊敏性を保つために重要である。しかしながら、データ伝送の速度は、光の速度によって制限されるため、データの移動距離を減らすことによってのみ、応答時間の問題を軽減または完全に回避することができる。クラウドのみの世界では、データは数百マイル、さらには数千マイル移動することになるため、ソリューションにとって応答時間が重要である場合、エッジコンピューティングが鍵となる。

エッジ・コンピューティングとはエッジ・コンピューティングは、まさにデータのソース(生成元)近くに位置する、またはデータソース上における処理および記憶装置などの分散アーキテクチャ機能である。例としては、デバイス上で視覚処理を行うカメラや、Bluetoothを介して携帯電話にデータを送信する、着用可能な医療デバイスが挙げられる。これらの品質を前提とすると、エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの両方のバランスをとって使用することは、今や企業規模のIoTソリューションを設計し構築する際の重要な要件と考えられることが多い。

図1は、エッジで使用される代表的な機能である。

注:PLC:プログラマブルロジックコントローラ、ML:機械学習出所:Deloitte analysis

ローカルマイクロデータセンターまたは近くのエッジ/遠く離れた場所のエッジ

データポンド/データレイク

データ取込

可視化

ローカルアナリティクス

MLトレーニング

フィールドゲートウェイ

カスタムプロトコルドライバー

プロトコル変換およびデータマッピング機能

標準プロトコルコネクタ

エッジサーバー

データキャッシュ

データ取込

データ送出

データ送出

ストリーム処理

バッジ処理

ルールベースのアクション

ML推論

エッジ

エンドポイント/デバイス

カメラPLCアクチュエータ

クラウド

図1

エッジ処理層におけるIoT参照アーキテクチャ

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ある推定によれば、55%ものIoTデータが、近い将来デバイス上またはエッジコンピューティングを介してソースの近くで処理することが可能になるという。その規模の拡大が、こうしたシフトに拍車をかける。すなわち、データ需要の増大は応答時間の軽減を必要とし、応答時間が劇的に改善されることで、時間および費用の両方を節約することができる5。

図2は、典型的な応答時間をオンデバイスからパブリッククラウドまで比較したものである。

IoTソリューションにおけるエッジ コンピューティングのメリットは 応答時間だけではなく豊富にある応答時間は、IoTソリューションにエッジ機能の追加を推進する多くの理由のうちの一つにすぎない。エッジコンピューティングの潜在的なメリットに関するより体系的なリストを図3に示す。

エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングを活かすためには、現実世界の事例を理解することが重要である。5Gの可用性などの継続的な技術進化はしばしばコストと応答時間のバランスに影響を及ぼす。したがって、単純に従前の選択をデフォルトにするのではなく、決定を行う際に現在の条件を考慮することが適切である。IoTソリューションを設計している間、すべてのドライバーを念頭に置く必要がある。特定の状況において複数のドライバーが適用される場合があるためだ。

注:エッジゲートウェイ/サーバーは、本質的にデバイスと同じ場所に配置され、マイクロデータセンターを含むことができる「オンプレミス」型である。「近くのエッジ」は、通信企業がホストする近くのセルタワーにおけるマルチアクセスエッジコンピューティング(あるいは Mobile Edge Computing、MEC)能力に代表される。「離れたエッジ」は、データセンターに代表される。出所:Deloitte analysis

典型的な応答時間

応答時間場所

即時

< 1ms

< 1ms–4ms

< 50ms–55ms

< 3ms–6ms

オンデバイス

エッジゲートウェイ/サーバー

パブリッククラウド

エッジクラウド近くのエッジ離れたエッジ

図2

エッジの台頭応答時間の短さおよび帯域幅最適化は、エッジコンピューティングの重要なドライバーである

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図3

エッジコンピューティングは、数々の潜在的なメリットを提供するメリット 説明

帯域幅の可用性と 利用

インターネットを通じた長距離通信のための帯域幅は改善しているが、生成されるデータの量も指数関数的に増加しており、間もなくこの帯域幅を上回る可能性がある6。処理をデータソースに近づけることは、平準化するのに役立ち、ローカル処理(圧縮、フィルタリング、および優先順位付けを含む)は、利用可能な帯域幅を効果的かつ効率的に使用するのに役立つ。

ネットワークの接続性 エッジに機能を持たせることで、ネットワーク接続の問題が発生したときにアプリケーションが中断される可能性が低くなる。例えば、ネットワーク接続性破壊のリスクが高い沖合掘削プラットフォームにおいて使用される重要なアプリケーションは、エッジ処理によるメリットを得ることができる。

ネットワークセキュリティ ハブ・アンド・スポーク・クラウド/エッジ・アーキテクチャの形態を使用することは、デバイスの秘密情報(トークン、鍵、証明書など)を一つの場所に格納するのではなく、複数のノードにローカライズまたは区画化するのに役立ち、それによってセキュリティが改善される。

自律性 多くのIoTソリューションは、エンドポイントが単独で動作するか、またはローカルレベルで監視、管理、応答するために十分な処理能力および記憶能力を提供するゲートウェイおよびエッジサーバーとともに動作する場合、自律性を必要とする。一般的な例としては、接続が失われた場合であってもシステムが自律的に動作し続けなければならない自律走行車、心臓モニタ、および類似の医療装置ならびに発電所が挙げられる。

データプライバシー 各データ・ポイントには、著しいプライバシー、セキュリティ、および規制要件があり、またそれらの多くは、データが生成される場所の近くに置かれる必要がある。これはエッジコンピューティングによって可能になる。データプライバシーは、プライバシーが最重要(例:ヘルスケア)、かつデータ移動を管理する規制が厳しい(例:ドイツ)特定の分野に特に関連する。

データの正規化/ 均質化

データが生成されると、そのデータの解釈が必要となる。そしてサポートが一般的に必要な多数のプロトコルと、広範なデバイスが存在している7。多様なデータ種別を効果的に管理するために、センサデータを標準化されたデータに変換して、正規化する必要がある8。このような均質化は、クラウドではなく、エッジまたはより一般的にはゲートウェイにおいて、より効果的に実施することができる。この場合、処理リソースは、データから値を導出するために非常に効率的に利用される。エッジでのこのようなデータ正規化または均質化は、フィルタリングおよび他のデータ「圧縮」機能と組み合わせることが多く、それによって、利用可能な帯域幅をより効率的に使用するのにも役立つ。

データフィルタリング/ 優先順位付け

一般的に、IoTデバイスによって生成された巨大なデータの一部のみが関連するため、冗長な、またはその他役に立たないデータをフィルタリングして除外することは、データ転送コストおよび帯域幅だけでなく、クラウドコンピューティングおよびストレージコストも節約することができる。多くの場合、フィルタリングおよび優先順位付けは、生のセンサデータを変換することも意味する。エッジ・コンピューティングは、企業が不必要なデータを蓄積し、送信することを防ぐことができる。

単純で安価なデバイス ゲートウェイ(あるいはエッジサーバー)があればより小さくて安価なデバイスをデータ・ストレージとして利用可能である。センサやデバイスにそうした機能をもたせることなく、処理することが可能だからだ。

応答時間 組織がデータを洞察に変換し、行動に変換するスピードは、特に危機管理・安全維持のユースケースの際に重要である。光のスピードを超えることは現実的ではなく、大量のデータが長距離を横断しなければならない時に、ネットワークホップとネットワーク機器の存在が更にスピードを遅らせる。エッジコンピューティングは、データの生成する場所により近いところで処理を行うことによって、この課題を解決するのに役立つ。

出所:Deloitte analysis

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IoTソリューションにおけるクラウドとエッジコンピューティングのバランスIoTは、組織がより俊敏に反応する能力に劇的な効果を引き起こす可能性がある。以下は、エッジとクラウドが、IoTによって接続された企業のためにデータを集約し、送信するのに役立ついくつかの方法である。

スマートファクトリー9

企業は、イベント駆動型アーキテクチャおよびリアルタイム自動化デジタルプロセスに向かって急速に進んでいる10。しかし、多くの製造業者が地理的に複数の工場を有し、通常それぞれが固有の特徴と機能的要件を有していることを考えると、クラウドや企業のデータセンターでのデータ分析能力を集中的に維持することが課題になる。

確かに、クラウド・コンピューティングは多くのメリットを提供し、スマート・マニュファクチャリングにおいてほぼ間違いなく役割を果たしている。集中運用施設は、クラウド内のデータを用いて、大きな、おそらくグローバルなポートフォリオにわたって、システムおよびプロセスを監視することができる。また、全ポートフォリオにわたる比較分析を行い、最適化の可能性を決定することも可能である。

それでもなお、統合されたエッジ-クラウドアーキテクチャは、スマートファクトリーが必要とする、迅速かつほぼ妨害されることのないコネクティビティを実現すると考えられる。

図4は、エッジおよびクラウドが、一般的に製造フロア上のセンサおよびデバイスとともにどのように機能するかを示す。

• デバイスレイヤーは、即応性のため、ローカルオペレーショナルテクノロジーおよびIoT能力に接続された個々の機器を表す。このレイヤーでは、クラウド内でトレーニングされたモデルに基づく機械学習(ML)スコアリングまたは推論が行われる。多量の生のデバイスデータもここに記憶される。

• デバイスレイヤーは、個々の機器の可視性および制御を提供するが、プラントアプリレイヤーは、プラント内のすべての接続された機器全域にわたって可視性および制御を提供する。エッジコネクティビティレイヤーは、個々の機器とプラントアプリとの間に必要なコネクティビティを提供する。

• クラウドホスト型であるエンタープライズレイヤーは、主に、複数のプラントにわたる可視性およびある程度の制御、すなわちポートフォリオビューを提供する。企業分析およびMLアルゴリズムは、このレイヤーで開発され、判断基準となる情報を予測し、提供する。すなわち、ここでトレーニングおよび再トレーニングされたMLモデルは、プラント設備のポートフォリオ全体からのデータを利用し、次いで、各設備において、エッジに、また最終的にはIoTソフトウエアに「プッシュ」され、情報を用いて運用をよりスマートにする。

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出所:Deloitte analysis

エンタープライズレイヤー(クラウド、オンプレミス、またはハイブリッド)

集合プラントインフラストラクチャ、マイクロデータセンター

エンタープライズデータセンタープラットフォーム

サーバー

プラントアプリレイヤー

エッジサーバー エッジサーバー

エッジコネクティビティレイヤー

ゲートウェイ ゲートウェイ WLAN IAP

デバイスレイヤー

図4

製造業における典型的なクラウドおよびエッジコンピューティングスタック

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スマートビルディングスマートIoTデバイスおよびユビキタス接続の台頭は、オフィス、小売店、工場、または病院などのビルを、その居住者に対して比類のない体験を提供するための、費用効率および応答性の高い環境に変える機会を生み出した11。スマートビルディングは、最適化されたビルディングおよび運用自動化をインテリジェントスペースマネジメントと組み合わせて、ユーザ体験を強化し、生産性を向上させ、コストを削減し、物理的およびサイバーセキュリティリスクを軽減する、デジタル的に接続された構造である。

スマート・デジタルビルディングは、様々な産業や用途にまたがるが、それらのすべてが同一の基本的な能力を提供する。すなわち、人間を結びつけること、施設や運営をより良く管理すること、デジタルなコラボレーションを支援すること、および所有者が宇宙、エネルギー、水、従業員を含む資源を節約することができることである。これらの4つの能力の各々は、測定可能な利益をもたらすスマートビルディング戦略を構成する。図5は、スマートビルディングで利用することができる様々なタイプのセンサおよびアプリケーションを示す。

出所:Deloitte analysis

ライトセンサ人感センサ

デジタルサイネージ

ビーコン

Wi-Fi

ビデオセンサ

NFC/RFIDタグ

フライト発着情報

利用報告およびアナリティクスプラットフォーム

部屋予約システム

カレンダーシステム

モバイルアプリケーション

ウェブアプリケーション

図5

スマートビルディングは、複数のタイプのセンサおよびアプリケーションを使用する

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例えば、建物のライフサイクルコストの75~80%は、建物の運営に関連している。すべての既存の商業用および大規模住宅建物は、HVAC(暖房、換気および空調)など制御する何らかの形態のビルディングオートメーション(または管理)システムを有する。人感センサがライトに埋め込まれたスマートライティングのようなスマートビルディング機能を導入し、これらを主システムと連携させるためには、少なくとも、通常エッジサーバーに付随する何らかの追加の能力を有するゲートウェイが必要とされる。

エッジは、戦略的に配置されたセンサからのデータ(例えば、人感データ)を、何らかの専門的な分析を実行するクラウドホスティングサービスに提供することができる。これらの分析からの結果は、メインシステムに接続された機器のスケジュールを変更し、運用を最適化するために、ゲートウェイまたはエッジサーバーを介して返すことができる。この構成はまた、建物の運営および条件のポートフォリオの全体像を得るために必要である。エッジコンピューティングとクラウドは、よりスマートなリソース管理を可能にする。

エッジコンピューティングとクラウド コンピューティングの両方を使用して IoTソリューションをスケーリング する際の複雑さと課題

エッジコンピューティングは、確かなメリットをもたらす一方、動作および設計の複雑さをもたらすこともある。エッジ処理は高度に分散されており、オフィス、プラント、キャンパス、パイプライン、および様々な遠隔現場におけるセンサ/アクチュエータおよびゲートウェイで構成され、遠方ならびにアクセスが困難な場所で利用されることが多い。組織は、数千のデバイスおよび数百の関連するゲートウェイを有する場合がある。これらのエッジノードはすべて、ファームウエア、オペレーティングシステム、何らかの形態の仮想化やコンテナ、およびインストールされたソフトウエアを有し、そのうちのいくつかは製造業者によって、いくつかはソリューションプロバイダによって提供される。これらは、エッジノードのそれぞれの所有者/管理者によって適切に管理・維持される必要があり、(バックアップ、パッチング、更新、および監視などのための)膨大な自動化が求められる。

潜在的な問題の数は膨大であり、トラブルシューティングは、高度に分散されたモデルでは非常に困難かつ複雑である。

多くの場合、現場サービス技術者は、アップグレードまたは一般的なメンテナンスの結果生じる問題に対処するために、定期的に現場にいる必要がある。ソフトウエアアップグレードは、ハードウエアアップグレードに比べて容易かつ便利に行われるため、これらのドライバーはまた、広範囲にわたる“Software-Defined Everything”アプローチの必要性が生じる傾向にある。

継続的なアップデートクラウドコンピューティングは、課題があるにもかかわらず、多くの重要なITに関する懸念を取り除き、ある程度のセルフサービスおよび自動化を提供する。エッジ処理は、他の高レベルの機能(デバイス管理、機械学習モデルの更新など)に加えて、共通のデータセンター運用(プロビジョニング、更新、変更管理、および監視)が、エッジノードおよびクラスターのすべてにおいて同様に実施されることを必要とする。これは負担のかかる仕事であり、企業はビジネスニーズだけでなく、エッジ部分の最新状態の維持にも留意すべきである。

方針・慣行従来のデータセンターで使用されるポリシーおよび慣行は、複数のロケーションにわたって分散され、従来のデータセンターよりさらに動的であるエッジ配備には、容易に適用することができない場合が多い。このようなシステムの運用管理を行うことは、複雑な課題である。

コストクラウドは、必要に応じた拡張性を提供し、かつ容易に構成可能であり、自動化されており、障害回復力を有するが、エッジでこれらの能力を提供するには費用がかかり、複雑になる可能性がある。既存のエッジ配備の拡張に対応して、デバイスおよびエッジノードの数を増加させることは、追加のハードウエアおよびソフトウエアへのかなりの投資を必要とし、また、非常に複雑な作業を伴う可能性がある。

サイバーセキュリティクラウドおよびデータセンターを複数のノードおよびデバイスを有するエッジに拡張することは、サイバー攻撃のターゲットを指数関数的に増加させる。デバイスおよびエッジ・ノードなどの安全でないエンドポイントは、企業ネットワーク内の貴重な資産へのエントリ・ポイントとして、およびDDoS(分散型サービス拒否攻撃)などの他の悪意のある目的のために使用することができる。すべての資産の物理的/サイバーセキュリティをエッジで維持することは、複雑で重大な課題である。

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IoTソリューションにおけるエッジ処理の必要性を決定する方法ソリューションに必要のない複雑さは、多大な費用、リスク、無駄を伴う可能性があるため、IoTソリューションにエッジ処理を追加するかどうかは、リスクや利益評価に基づいて、注意深く決定されるべきである。図6は、この目的を達成する助けとなるガイドラインである。

多くのIoTユースケースにおいて、エッジは、既存のオペレーショナルテクノロジーを考慮するとソリューションの必要、あるいは必須の部分である。

IoTソリューションのクラウドホストコンポーネントを追加するには、たとえそれが主にゲートウェイであっても、ある程度のエッジコンピューティングの存在が必要である。同様に、既存のビル管理システムインフラストラクチャにスマート機能を追加し、クラウドベースの不動産ポートフォリオビューを提供することを望む場合、何らかのエッジ処理能力の使用を必要とする。

図6

IoTソリューションにおけるエッジ処理の検討 必要な能力と理論的根拠

必要な能力 エッジ処理を選択する根拠

自律性・回復力 ソリューションは自律性を求められ、接続中断は許容できない。

緊急・安全性 意思決定と行動のスピードが重要であり、安全性は重要な関心事または成果である。

プライバシー、セキュリティ、 コンプライアンス、規制遵守

データによっては、生成される場所の近くに保存されることが必要とされる

オペレーショナル・テクノロジーおよびその他のプロトコル

これらのプロトコルはデバイスの性質(あるいは単純さ)のために存在し、少なくともエッジゲートウェイの使用を必要とする。

データ量と帯域幅 帯域幅、クラウドまたはデータセンター資源を効果的かつ経済的に使用するために、特にボリュームが大きい、または生成されたデータの大部分が不要である場合、ローカル処理が必要になってくる。データをクラウドに送信する前にフィルターをかける、圧縮する、または他の方法で変換するなどが通常行われる。

出所:Deloitte analysis

エッジのみまたはクラウドのみを使用したIoTスケーリングの課題エッジでは本質的に何もせず、アクションの実行のためにすべてのデータをクラウドに送信する大規模なIoTソリューションを設計すると、多くの場合、帯域幅使用に関して拡張性の課題が生じ、ネットワークインフラストラクチャのアップグレードを必要とする可能性がある。さらに、ソリューションが拡大するにつれて、クラウドの排他的使用は、手動介入による取込みエンジンの再構成および負荷分散を必要とする可能性がある。

排他的エッジベースの分散アーキテクチャ(特に、分散処理を伴うもの)は、これと同様に複雑であり、その規模とともに増加する。システムおよびアプリケーション管理は非常に複雑であり、これらに必要なツールはまだ成熟していない。多くの場合、エッジ配備は、拡張性を適切に考慮しておらず、より多くのデバイスやより多くのデータのサポートを複雑にする。

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どこから始めるべきか

最初のステップは、そもそもエッジコンピューティングが必要であるかどうかを評価することである。最良のソリューションは、純粋にクラウドのソリューションであるかもしれない。次のステップは、エッジ処理がデバイス、ゲートウェイ、エッジサーバー、おそらく複数のレイヤー、またはマイクロデータセンター上で行うことが可能であることを考慮して、エッジで必要とされる能力を決定し、続いて、最も適切な展開モデルを決定することである。計算能力、応答性、および配置には大きなばらつきがみられる場合がある。

場合によっては、単一の商品としてパッケージ化された、事前構成されたソリューションは簡潔であるかもしれないが、柔軟性を犠牲にする可能性がある。逆に、最良の構成要素から自身でソリューションを構築する柔軟性は魅力的であるが、これらはソフトウエア/製品の開発および安定化を犠牲にし、ソリューションを提供するための時間を長くし、いくつかの固有のリスクをもたらす。

エッジコンピューティングのランドスケープの変化に注意を払うことが重要であるのと同様に、関連する実装備設計を用いてPoC(Proof of Concept)を行い、関与するユースケースに対する最も適合した選択を行うことも重要である。

エッジコンピューティングベンダーのランドスケープも注視しなければならない。これは急速に変化している。ほとんどのIoTインフラストラクチャまたはプラットフォームベンダーは、エッジコンピューティングが、いくつかのデータ処理、分析、およびローカルストレージ機能を有する、ゲートウェイまたはサーバーなどの多くのIoTソリューションおよび配信ハードウエアの重要な要素であることを認識している。これらのハードウエアベンダーは、デバイス管理、プロトコル処理、および変換、その他の能力を他のものに頼る傾向がある。ベンダーはエンド・ツー・エンドのソリューションを提案しようとする傾向にあるため、この分野では大幅な統合が起こる可能性が高い12。

重要なポイント

IoTデバイスとそれらが提供できるデータは、世界を変え、我々がどのように連携するかを変革する。ネットワーク接続する消費者向けIoTの世界の大部分は、主にクラウド上に存在するが、これはその大きなメリットによるものである。しかしながら、ほとんどの場合、IoTソリューションは、エッジとクラウドとの何らかの組み合わせを伴う。これをエッジに持っていくことで、応答時間を軽減し、スケーラビリティを高め、情報へのアクセスを増やすことができ、その結果、より優れた決定をより速く行うことができ、組織はより俊敏に反応することができる。

IoTソリューションにおけるエッジとクラウド機能の正しいバランスを決定する一方で、エッジコンピューティングは様々な構成を有し、そのすべてにおいて利益がもたらされるが、独自の課題を呈する可能性があることにも留意すべきである。運用上の相当な複雑さおよび費用が瞬時に発生する可能性があるため、企業は、IoTソリューションを設計、構築する間に、あらゆる要素を考慮に入れるべきである。

しかし、それでもIoTソリューションは、必要とする単純さのみを有するべきであり、それ以上単純であるべきではない。反対に、必要とする複雑さのみを有するべきであり、それ以上複雑であってはならない。これらの一見明白かつ本質的な点は、ソリューションの成功に違いをもたらすものである。

明らかに、IoTコンテキストにおけるクラウド対エッジ評価には、単一の正解がない。どのような状況もユニークである。しかし、明らかなことは、クラウドとエッジコンピューティングのバランスが明日のIoTアーキテクチャを構成する可能性が高いということである。

IoT社会を実現するエッジ/クラウドコンピューティングのバランス

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1. For more information, read Deloitte Insights’ suite of articles on Internet of Things.

2. Barb Renner, Curt Fedder, and Jagadish Upadhyaya, The adoption of disruptive technologies in the consumer products industry: Spotlight on the cloud, Deloitte Insights, April 4, 2019.

3. Ibid.

4. Muhammad Syafrudin, “Performance analysis of IoT-based sensor, big data processing, and machine learning model for real-time monitoring system in automotive manufacturing,” Sensors 18, no. 9 (2018): 2964, DOI: 10.3390/s18092946.

5. Michael Kanellos. “Edge or cloud? The five factors that determine where to put workloads,” CloudTech, June 20, 2018.

6. Jeff Hecht, “The bandwidth bottleneck that is throttling the internet,” Scientific American , August 10, 2016.

7. Examples of such protocols include Modbus, OPC-UA, Zigbee, BACnet, and LWM2M.

8. Examples of such standards include AMQP and MQTT.

9. For more on smart factories, read: Rick Burke et al., The smart factory: Responsive, adaptive, connected manufac- turing, Deloitte University Press, 2017.

10. Gartner, “Gartner says CIOs must define an event-centric digital business strategy,” press release, July 10, 2017.

11. Surabhi Kejriwal and Saurabh Mahajan, Smart buildings: How IoT technology aims to add value for real estate companies, Deloitte University Press, 2016; Paul Wellener et al., Smart buildings: Four considerations for creating people-centered smart, digital workplaces , Deloitte Insights, December 13, 2018.

12. Param Singh and Brian Buntz, “IoT technology: A platform for innovation, but not a market,” IoT World Today, Sep-tember 28, 2018.

脚注

IoT社会を実現するエッジ/クラウドコンピューティングのバランス

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中央管理型と分散型 ~ITアーキテクチャトレンドの歴史~

ITアーキテクチャトレンドの歴史を辿ると、技術進化に伴って、中央管理型と分散型の間を振り子のように行き来している。ホストコンピュータ(中央管理)、Windows等の汎用端末OS普及(分散型)、そしてGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)によるクラウド普及(中央管理型)といった変遷を経てきた。昨今は、クラウドから“エッジ”側(分散型)にトレンドが再びシフトしつつあり、いよいよ、中央管理(クラウド)と分散型(エッジ)のそれぞれの長所を組み合わせた最適なITを実現できる段階に達してきたと言える。

日本の製造業の強みクラウド領域に関しては、上記のようにGAFAMを中心とする巨大IT企業が覇権を握っており、キャッチアップすることはかなり難しい。しかし、本稿でもフォーカスされているスマートファクトリーのような、ロボット・センサ等エッジコンピューティングにフォーカスされる領域は、機械と制御ソフトウエアを組み合わせる技術が非常に重要な市場であり、日本はその中でも特に、人命に関わる自動車市場、ミッションクリティカルな産業用ロボット市場において、高いシェアを持つⅰ。加えて、歴史的にも家電・AV機器市場を席巻した経験を持つ日本企業には、家電などの非ミッションクリティカルな製品が中心の中国・韓国の製造業、IT企業で機械制御経験に乏しいGAFAMと比較しても、優位な組み込み技術ノウハウがあると言えるのではないだろうか。現状、エッジ領域の覇権を握っているプレイヤーはいないものの、クラウド覇権プレイヤーであるGAFAMもエッジに本腰を入れ始めている。Amazonは、2017年に、AWSサービスをエッジでも展開できるAWS Greengrassを提供開始、Googleは、2018年に、エッジでコネクト機器を開発するためのハードとソフトの両方のツールを提供開始しているⅱ。

オペレーション効率化からその先へIoT全盛の時代には、エッジ技術活用先は、スマートファクトリーのようなオペレーション効率化市場だけではなく、エッジ活用による付加価値向上が期待できるエンドユーザー向けの市場が挙げられる。そこではコネクテッドカー、コネクテッドホーム、スマートシティなど、リアルタイム性、高セキュリティ等エッジコンピューティングの特性を活用できる領域が多く立ち上がりつつある。とはいえクラウド側のGAFAMに、またしても市場の覇権を握られてしまう可能性が高まっている。例えば、自動運転は、リアルタイム性、セキュリティが強く求められ、エッジコンピューティングが最も活用可能な市場である。日本企業は既存の自動車市場では世界トップクラスの実力を持つにも関わらず、自動運転技術ではGoogleに大きく後塵を拝している状態であるⅲ。同様に、コネクテッドホームに関しても、元来、家電に強かった日本企業であるが、AmazonとGoogleにHomeの情報を司るスマートデバイスで先行を許している。両社はプラットフォーマーとして、様々な家電、車とコネクトし、エンドユーザーデータを収集し、新たなビジネスを計画していると考えられるⅳ。

IoT時代の高付加価値ビジネス・サービス検討の要諦エッジコンピューティングが注目されている今こそ、日本企業は上記のようなエンドユーザー・生活者向け市場で元来強みを発揮していたことを踏まえて、ユニークなポジションを再構築すべき時期に来ていると言える。そのためには、新たな付加価値創出に向けたビジネス・サービス検討が重要になる。検討すべきポイントは以下の4点と考えられる。

① エンドユーザーセントリックコネクテッドカー、コネクテッドホームの様な市場では、供給者目線の“モノ売り”から需要者目線の“コト売り”が求められる。クラウドとエッジを組み合わせ、柔軟なビジネス・サービスデザインができるからこそ、技術的実現性、ビジネス的フィージビリティ観点の供給者論理だけではなく、エンドユーザーの論理に沿ったエクスペリエンスを提供することが必須になってきている。

日本の視点:エッジがレバレッジする 日本の製造業の強み

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② エコシステムデザインクラウドとエッジを組み合わせたIoTの世界は広大であり、一社で戦略・サービス実現できるリソースを確保できる可能性は低く、サービサー、通信事業者、ソフトウエアベンダー、システムインテグレータ、デバイスメーカー等の最適プレイヤーとエコシステムを形成し、差別化することが鍵となる。また、GAFAMのようなプラットフォーマーを直接競合とみるのではなく、うまく提携することによって、より早く市場参入を狙う打ち手もあり得るのではないだろうか。その際に、日本の強みであるエッジデバイスが、データを発生し保有しているポジションを生かして、最適なアライアンスを構築できる可能性も考えられる。

③ アジャイルなオペレーティングモデルの再構築上記を最適な状態で構築・運用するためには、クラウドとエッジ双方の最適配置が必要になるが、ひな形のような正解はなく、ビジネス・サービス構築、運用面において技術的な腕の見せ所になる。また、技術的観点だけでなく、ビジネス観点に関しても、ユーザーセントリックに対応でき、エコシステムを柔軟に運用するためのアジャイルな組織構築と人材準備が欠かせない。この二つの面に合わせて、ビジネス・サービスを評価する基準と時間軸に関してはオペレーティングモデルの大幅な変更を要する場合が多い。

④ 自社のコアバリューの棚卸最後に非常にベーシックではあるが、自社のコアバリューを再認識して、それを中心にビジネス・サービス展開する必要がある。“自社の歴史を遡り、なぜそれが強みになり得たのか”、“ユーザーはなぜ、競合他社ではなく、自社を評価してくれるのか”、などの問答をお勧めする。この議論がないまま、論理的に市場・競合分析を進めても、他社と差別化できるユニークなビジネス・サービスにはなり得ないからだ。

まとめエッジコンピューティングが普及することによって、いよいよIoT/AIを活用した“Connected World”実現に向けた技術的ピースが出揃ってきた。ただし、エッジコンピューティングはあくまでも技術的ピースであり、エッジのみの活用にフォーカスするのではなく、クラウドも最適に組み合わせることが重要であり、更にはオペレーション効率化を超えた高付加価値領域への活用を目指したい。日本の製造業は、家電、自動車に始まる歴史を持ち、現在も、ミッションクリティカル領域の産業用ロボットのトッププレイヤーでありつづけており、機械と制御ソフトウエアの組み込み技術ノウハウが非常に重要な当市場において、一日の長があると言える。但し、現在のモメンタムで戦えば勝てるとか言えば、否であり、強みを基点とした、GAFAM等クラウドプレイヤーとの柔軟な提携等、戦略的オプション検討が必須なのではないだろうか。

三浦 貴治シニアマネジャーハイテク、自動車、IT、メディア業界の大手企業に対して、デジタルテクノロジーを活用したビジョン、戦略、トランスフォーメーションプロジェクトを多く手掛けている。近年は、デジタル戦略、サービスデザインに関して、クライアントメンバーを巻き込んだワークショップを実施し、PoC(Proof of Concept)を取り入れたプロジェクトを推進。

ⅰ 各種公開情報よりⅱ What Is Edge Computing?, CB Insights, August 8, 2018: https://www.cbinsights.com/research/what-is-edge-computing/ⅲ なぜ日本の「自動運転」は遅れているのか, PRESIDENT Online, 2019/05/24: https://president.jp/articles/-/28779ⅳ デロイト, Predictions 2019, 「日本の視点:日本におけるスマートスピーカーの現状と今後の課題」, 2019: https://www2.deloitte.com/jp/ja/

pages/technology-media-and-telecommunications/articles/et/tmt-predictions-2019-smart-speaker.html

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松永 鋭太郎

Ken CarrollSenior Manager Leader in Deloitte’s Smart Buildings, IoT, and Cloud Practices Deloitte Consulting LLP

Mahesh ChandramoulSenior ManagerDeloitte Digital’s IoT PracticeDeloitte Consulting LLP

Andy DaecherPrincipal and Internet of Things Practice leader

三浦 貴治

佐藤 通規

戸部 綾子

真鍋 裕之

デロイト トーマツ グループ テクノロジー・メディア・通信(TMT) インダストリーグループ当グループでは、業界に精通したプロフェッショナルがクライアントのニーズに応じて、監査、税務、法務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー等を提供しています。デロイトのグローバルネットワークや業界の知見を活用し、クライアントの直面する課題解決や企業価値の向上に貢献します。

問い合わせ先デロイト トーマツ コンサルティング合同会社テクノロジー・メディア・通信(TMT)インダストリーグループ〒100-8361 東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビルディングTel: 03-5220-8600 Fax: 03-5220-8601E-mail: [email protected]/jp/dtc

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デロイト トーマツ グループは、日本におけるデロイト アジア パシフィック リミテッドおよびデロイトネットワークのメンバーであるデロイト トーマツ合同会社並びにそのグループ法人(有限責任監査法人トーマツ、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、デロイト トーマツ税理士法人、DT弁護士法人およびデロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社を含む)の総称です。デロイト トーマツ グループは、日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり、各法人がそれぞれの適用法令に従い、監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務、法務等を提供しています。また、国内約40都市に1万名以上の専門家を擁し、多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています。詳細はデロイト トーマツ グループWebサイト(www.deloitte.com/jp)をご覧ください。

Deloitte(デロイト)とは、デロイト トウシュ トーマツ リミテッド(“DTTL”)ならびにそのグローバルネットワーク組織を構成するメンバーファームおよびそれらの関係法人のひとつまたは複数を指します。DTTL(または“Deloitte Global”)および各メンバーファーム並びにそれらの関係法人はそれぞれ法的に独立した別個の組織体です。DTTLはクライアントへのサービス提供を行いません。詳細は www.deloitte.com/jp/aboutをご覧ください。デロイト アジア パシフィック リミテッドはDTTLのメンバーファームであり、保証有限責任会社です。デロイト アジア パシフィック リミテッドのメンバーおよびそれらの関係法人は、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、東ティモール、ミクロネシア連邦、グアム、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ニュージーランド、パラオ、パプアニューギニア、シンガポール、タイ、マーシャル諸島、北マリアナ諸島、中国(香港およびマカオを含む)、フィリピンおよびベトナムでサービスを提供しており、これらの各国および地域における運営はそれぞれ法的に独立した別個の組織体により行われています。

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