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Results, reports and refinements for life science researchers Issue 2,1999 CONTENTS REVIEW 全自動蛍光DNAシークエンサーによる高速ゲノム解析.......2 細胞内にマイクロインジェクションした GST融合タンパク質の抗GST抗体による検出......5 AFLPとマイクロサテライトマーカー解析による ヤナギの遺伝的多様性の検出.......7 新しいMMP-9活性測定法 -ELISAとの相関および生体試料測定への応用-.......9 二次元電気泳動とECLウェスタンブロッティング検出による 生殖細胞培養上清中のメタロペプチダーゼの同定.....11 ポリマー系逆相担体を用いた酸性および 塩基性分離条件下でのペプチドマッピング ....14 T7 DNAポリメラーゼと DNAプライマー複合体の分子モデル 71-1643-01 製品のご注文は左記の代理店まで 製品お問い合わせバイオダイレクトライン 電話番号:(03)5331-9336 FAX番号:(03)5331-9370 アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社 取扱代理店

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Results, reports and refinements for life science researchersIssue 2,1999

CONTENTS

REVIEW全自動蛍光DNAシークエンサーによる高速ゲノム解析.......2

細胞内にマイクロインジェクションしたGST融合タンパク質の抗GST抗体による検出......5

AFLPとマイクロサテライトマーカー解析によるヤナギの遺伝的多様性の検出.......7

新しいMMP-9活性測定法-ELISAとの相関および生体試料測定への応用-.......9

二次元電気泳動とECLウェスタンブロッティング検出による生殖細胞培養上清中のメタロペプチダーゼの同定.....11

ポリマー系逆相担体を用いた酸性および塩基性分離条件下でのペプチドマッピング ....14

T7 DNAポリメラーゼとDNAプライマー複合体の分子モデル

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製品のご注文は左記の代理店まで

製品お問い合わせバイオダイレクトライン電話番号:(03)5331-9336FAX番号:(03)5331-9370

アマシャムファルマシアバイオテク株式会社取扱代理店

はじめに

SangerらによってバクテリオファージφX-174ゲノムの全塩基配列5,386 bpが決定されたのは20年前のことです。彼らは32Pで標識したヌクレオチドを用いてこの仕事を達成しました(1)。その後20年の間に各種ゲノムプロジェクトが急速に立ち上がり、高速DNA塩基配列解析を目的とした場合、ラジオアイソトープ標識による方法は限界があることがはっきりしてきました。ゲノムプロジェクトの対象生物種が多様化するにしたがい、ラジオアイソトープ標識に代わって全自動化可能な手法が検討されてきましたが、現在では蛍光標識が最も適した手法として広く利用されています。また、ゲノムプロジェクトの進展に伴って、大量の塩基配列をより高速で解析する必要性が増大しており、得られたシークエンスデータを基にした発現解析・機能解析も盛んに行われています。このように、用途に応じて、自動DNAシークエンサーに求められる要件も多様化してきています(図1)。

蛍光標識色素とシークエンシング酵素の進歩

現在、DNAシークエンシング反応の主流はジデオキシ法です。この手法はサンガー法、チェーンターミネーション法ともよばれ、DNAポリメラーゼによるプライマー伸長反応をジデオキシヌクレオチドにより配列特異的に停止させることを利用しています(2)。蛍光色素を利用したシークエンシングには、蛍光標識プライマーを用いる方法と蛍光標識したジデオキシヌクレオチド(ダイターミネーター)を利用する方法があります。それぞれ異なる蛍光色素で標識した4種類(A, G, C, T)のジデオキシヌクレオチドを用いるダイターミネーター法の開発により、シークエンシング反応や泳動の効率化がなされました。また、近年、蛍光色素間のエネルギー転移(energy transfer; ET)を利用した手法(3, 4)が開発され、サイクルシークエンス法(5, 6)などの新規シークエンシング反応手法と相まって、検出感度の面でもラジオアイソトープに匹敵する高感度が達成されています。

蛍光標識の進歩とともに、反応に用いる酵素の改良も進んでいます。アマシャム ファルマシア バイオテクはT7SequenaseTM DNAポリメラーゼの開発(7, 8)以来、最高水準のシークエンシング酵素をご提供してまいりました。最新のThermo Sequenase II DNAポリメラーゼは、反応時間の大幅な短縮を実現した上に、塩基配列の偏りに左右されない高い解析能とダイプライマー法に匹敵する美しいピークパターンにより、解析精度を向上させることができます(9)。

全自動DNAシークエンシングと解析のためのプラットフォーム

アマシャム ファルマシア バイオテクは1980年代後半に、ALFTM自動DNAシークエンサーを発売いたしました。その後も、多様化するニーズに応じて、自動DNAシークエンサーのラインナップを充実させてまいりました。本稿では、様々な解析用途に応じたDNAシークエンサーをご紹介致します。DNAシークエンサーの標準機 ALFexpressTM II、パーソナルDNAシークエンサー GeneRapidおよび高速DNAシークエンサー Long-Read TowerTM、96本のキャピラリー電気泳動法による超ハイスループットDNAシークエンサーMegaBACETM1000の4機種です。

スタンダードDNAシークエンサーALFexpress II

ALFexpress II DNAシークエンサーシステム(図2)は、豊富な解析ソフトウェアと新開発のゲルと試薬、および便利なアプリケーションキットにより、DNA配列解析はもとより変異検出、マイクロサテライト解析、HLAタイピングなどのDNAフラグメント解析に最適な装置です。ALFexpress IIでは、単色の蛍光色素CyTM5を用いて固定検出器で蛍光を検出します。単色蛍光色素の検出に最適化されたシステム設計により、高感度で幅広いダイナミックレンジを得ることができます。このため、通常のポリアクリルアミド電気泳動では困難な微量サンプル中のDNAフラグメント比較定量や、DNA濃度が大きく異なる様々なサンプルの解析も1枚のゲルで同時に行うことができます。1回の泳動で、シークエンシ

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High throughput genome analysis by automated DNAsequencers―全自動蛍光DNAシークエンサーによる高速ゲノム解析―

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図1. ゲノム解析手法とシークエンサーに求められる要件

図2. スタンダードDNAシークエンサーALFexpress II

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ングは10サンプル、フラグメント解析は40サンプルまでの解析が可能です。泳動用のゲルは、ALFexpress II専用に開発されたプレミックスの光重合ゲル溶液ReproGelTMとReproSetTM UV boxにより、わずか十数分で均一なゲルを簡便に作製できます。ALFexpress IIの豊富なソフトウェア群は、多様なシークエンス解析およびフラグメント解析を可能にします。HLASequiTyperTMソフトウェアは、ALFexpress IIで得られたシークエンスデータをソフトウェア内蔵のマスターシークエンスと比較して自動的にH L A型を判別します。AlleleLinksTMソフトウェアは、ALFexpress IIから生データを直接取り込み、マクロ/マイクロサテライトなどのDNAフラグメントを定性的、定量的に解析して、対立遺伝子の同定や遺伝子型の判別を自動的に行います。MutationAnalyzerソフトウェアは、ゲノムDNAやcDNA/mRNA中の変異検出のために用います。

パーソナル高速DNAシークエンサーGeneRapid

GeneRapid(図3)は、パーソナルユースの高速シークエンシングを追求した装置で、1回の泳動で4サンプルまでの解析が可能です。シークエンシング反応には蛍光色素CyTM5.5で標識されたプライマーあるいはターミネーターとThermoSequenase DNAポリメラーゼを組み合わせて用います。ゲルの作製からデータを得るまではわずか60分で、判読長は約300 bpです。発現ベクターにクローニングされた遺伝子の読み枠チェックやクローン化遺伝子断片に導入した変異の確認などに最適な装置です。

ゲルは、専用プレミックスゲル RapidGelTMカートリッジとディスポーザブルのQuickFillゲルプレート、RapidSetTM

ゲルポリメライザーにより、わずか数分で作製することができます。GeneRapidには検出器の光学系に可動部分がなく構造的に安定なため、高S/N比のデータを得ることができます。解析パラメーターは専用のソフトウェアにより、泳動開始時に設定することができ、泳動中に生データをリアルタイムで表示することも可能です。ベースコールは自動的に行われますが、解析開始点と終了点、およびピーク間隔をユーザーがマニュアル設定することも可能です。どちらの場合も、数分で生データを整列し、塩基配列データに変換できます。塩基配列データは生データを書き換えることなく編集することができます。

解析メニューにオプションを追加することで、ヘテロ接合体を簡便に検出することもできます。塩基配列はstandardchromatograph format (SCF) のファイルあるいはテキストファイルで保存でき、他のソフトウェアによる解析やデータベースサーチが可能です。印刷オプションを活用することで、報告書やプレゼンテーション資料のためにカスタマイズした出力が可能となります。

高速DNAシークエンサーLong-Read Tower

新製品のLong-Read Tower(図4)は、パーソナルDNAシークエンサーとしての高速解析能と簡便な操作性はそのままに、判読塩基長とサンプル処理数を向上させた装置です。シークエンシング反応には蛍光色素Cy5.5およびCy5で標識したプライマーあるいはターミネーターとThermo Sequenase DNAポリメラーゼを組み合わせて用います。2種類の蛍光色素を使用することで1回の泳動で8サンプルまでの解析が可能です。読み枠や変異導入の迅速チェックのみならず、プラスミドのインサートDNAやPCR断片の塩基配列をforwardおよびreverseから同時に確認もすることも可能です。

Long-Read Tower用のRapidGelカートリッジとRapidGel Quick Cassetteゲルプレートを用いることで、ゲル作製から泳動終了までわずか30分足らずで300 bpのシークエンスデータを得ることができます。Long-ReadMicroCellTMゲルプレートを用いれば、通常の泳動条件では2.5時間で約700 bp、高速泳動条件では80分で600 bpのシークエンスデータが得られます(図5)。このように従来のシークエンサーと比較して3倍以上の高速シークエンシングを可能にします。検出器などのハード構成は基本的にGeneRapidと同一なため、故障しにくくメンテナンスが容易です。解析ソフトウェアGeneObjectTMは、グラフィカルインターフェイスによる簡便な操作性とUNIXの能力が組み合わされています。GeneObjectは、データ管理システムを容易にカスタマイズできる柔軟性を持っており、複数のシークエンサーの制御や、データ収集・解析処理を同時に並行して行うことができる強力なソフトウェアです。

図3. パーソナル高速DNAシークエンサーGeneRapid

図4. 高速DNAシークエンサー Long-Read Tower

ハイスループットマルチキャピラリーDNAシークエンサーMegaBACE 1000

MegaBACE 1000(図6)は、大規模シークエンシングと自動化を目的として設計された最高水準のゲノムDNA配列解析装置です。機器設計技術、ソフトウェア、そして試薬にいたるまで、アマシャム ファルマシア バイオテクの技術の枠を集めて開発された装置で、企業・大学を問わず世界中の主要なシークエンシング解析施設で利用されています。

MegaBACE 1000では、96本のキャピラリーを用いて、ゲルマトリクスの交換からサンプルの泳動、検出、解析処理までを全自動で行います。キャピラリーは16本ずつ束ねられており、交換しやすく耐久性の高い設計で、100回以上の泳動に使用可能です。MegaBACE 1000では96 wellプレートを用いてサンプルの処理を行います。サンプル注入から泳動終了までは2時間程度で終了しますので、24時間で約1,100サンプルのシークエンシングが可能です。実際の手作業に要する時間は1回の泳動あたり10分以下で、操作性は抜群に優れています。96本のキャピラリーの泳動状況はリアルタイムでモニターでき、各レーンで得られたシークエンスデータは別のウインドウにより泳動中に表示することができます。シークエンシング反応には、MegaBACE 1000用に至適化された専用試薬が用意されており、4色の蛍光色素で標識されたターミネーターあるいはプライマーを使用します。キャピラリー電気泳動の担体として高いパフォーマンスを誇るLPA Matrixおよび専用試薬を用いることで、通常、サンプルあたり500 bp以上の判読長が得られます。このように、MegaBACE 1000は、データの大量解析のみならず多サンプルデータの最終確認にも向いており、最高度に自動化された多才なシステムとなっています。

まとめ

1990年代に入ってゲノム解析が本格化すると共に、DNA塩基配列解析にはよりハイスループットであることが求められるようになりました。この結果、DNA塩基配列解析の検出手法はラジオアイソトープ標識から自動化が容易な蛍光標識へと移り変わってきました。酵素や標識色素、さらには装置の開発改良により、DNAシークエンサーはデータを収集するだけの装置から、ゲル作製からデータ解析までを完全に自動化したシステムへと進化しつつあります。多様化するゲノム解析に応じて、最適な解析法と装置を選択することが今後ますます重要になると考えられます。

参考文献

1. Sanger, F. et al., Nature 265, 687-695 (1977)2. Sanger, F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 74,

5463-5467 (1977)3. Ju, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92, 4347-

4351 (1995)4. Ju, J. et al., Anal. Biochem. 231, 131-140 (1995)5. Carothers, AM., et al., Biotechniques 7, 494-6, 498-

499 (1989)6. Lee, JS., DNA Cell Biol. 10, 67-73 (1991)7. Tabor, S. and Richardson, C.C., Proc. Natl. Acad. Sci.

U.S.A. 84, 4767-4771 (1987)8. Tabor, S. and Richardson, C.C., J. Biol. Chem. 246,

6447-6458 (1989)9. Life Science News 1, 7-8 (1999), Amersham Pharmacia

Biotech.

ORDERING INFORMATION

GeneRapidシークエンサーシステム 問合せ システム価格 ¥3,700,000MegaBACE 1000 1式 問合せ ¥38,000,000ALFexpress II DNAシークエンサーシステム 問合せ システム価格 ¥6,900,000Long-Read Tower 問合せ システム価格 ¥7,000,000

製品名 包装 コード番号 価格

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図6. マルチキャピラリーDNAシークエンサーMegaBACE 1000

図5. Long-Read Towerでの解析例M13mp18をThermo Sequenase Cy5.5 ダイターミネーターキットで解析しました。700 bp以降においても明瞭なピークパターンが得られています。

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はじめに

細胞外から細胞内へのシグナル伝達には、スモールアダプタータンパク質として知られる数々のタンパク質が関与しています(1)。ほとんどの場合、これらのタンパク質はSrc相同性ドメイン(SH-domain)を持ち、なかでもSH2とSH3はそれぞれリン酸化チロシンあるいはポリプロリン領域に結合することが知られています。

Crkタンパク質ファミリーはレトロウィルスのがん遺伝子v-crkとして発見されたもので、スモールアダプタータンパク質に属します。このファミリーには、細胞側の相同タンパク質c-Crk I, c-Crk IIおよびc-Crk様(CRKL)タンパク質が含まれ、インテグリン、T細胞およびB細胞レセプター、ボンベシン、CSF-1、そしてSteel因子などによって引き起こされるシグナル伝達過程で重要な働きをしていることが知られています。これら3種類のCrkタンパク質は、Bcr-Abl融合腫瘍タンパク質の生成を特徴とするフィラデルフィア染色体陽性白血病の病態進行にも関与しています。また、ラット褐色細胞株 PC12において神経成長因子(NGF)によるシグナル伝達においてもCrkタンパク質の関与が示唆されています (2, 3)。

PC12細胞株は表皮細胞増殖因子(EGF)とNGFの両方に応答する性質があります。EGFは細胞増殖を促し、NGFは神経突起の成長や細胞分化を引き起こします。PC12細胞の形態変化は顕微鏡下で容易に観察することができるため、この細胞株はNGFが関与するシグナル伝達パスウェイの研究に広く用いられています。我々の研究室では、GST-Crk融合タンパク質を含め、

SH2やSH3ドメインを含む様々なGST融合タンパク質を発現させています。M. Matsuda氏との共同研究で、pGEX-2Tベクターを用いてGST-c-Crk I 融合タンパク質を発現させ、精製を行いました。このタンパク質をPC12細胞にマイクロインジェクションすると、神経突起を持つ細胞へ自発的に形態変化を起こします(2)。抗GSTポリクローナル抗体を用いた免疫蛍光顕微鏡観察によって、マイクロインジェクションした細胞を同定し、細胞へ注入された融合タンパク質の相対量の経時変化を推定しました。

細胞培養

PC12細胞株(M. Chao氏提供, Cornell Medical School,New York, NY)の培養には、DMEM培地(6 % ウシ胎児血清(FBS)、3 % ウマ血清、50 mg/ml ゲンタマイシンを含む)を用いました。poly-D-lysineでプレコートしたカバースリップの上にPC12細胞を比較的低い細胞密度で播き、35 mmのディッシュに入れて培養しました。カバースリップ毎の細胞数を制限するのは、マイクロインジェクションした後の神経突起成長を容易に検出するためです。細胞が接着した後は0.5% FBSを含む培地で3日間培養しました。

GST-c-Crk I 融合タンパク質の調製とマイクロインジェクション

GST-c-Crk I融合タンパク質はGlutathione SepharoseTM

4Bにより精製しました(4)。さらに1 mM DTTを含むPBSに対して透析を行い、マイクロインジェクションのためにタンパク質濃度を3.6 mg/mlに調整しました。マイクロインジェクターはインナーフィラメントを持つガラスキャピラリー(GC 120 TF-10, Clark ElectromedicalInstruments)からFlaming/Brownマイクロピペット作製機(Sutter Instruments Co.)を用いて作製しました。マイクロインジェクションの前に、20 mM HEPESを培養液に加えました。Zeiss AIS自動マイクロインジェクションシステム(5)を使用して、カバースリップ1枚あたり約100細胞について、細胞体積の約10 %程度のタンパク質溶液を細胞質内に注入しました。

抗GST抗体による免疫蛍光染色

GST-c-CrkⅠ融合タンパク質をマイクロインジェクションした細胞は、15あるいは31時間培養した後に冷PBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液中、室温で10分間固定しました。続いて、PBSで1回洗浄した後に0.2 % Triton X-100*を含むPBS中に20分間浸しました。2%ウシ血清アルブミンと0.1 % Triton X-100を含むPBSで細胞をブロッキングし、この溶液で10倍に希釈した抗GST抗体と室温で1時間反応させました。PBSで洗浄後、蛍光色素で標識した二次抗体を反応させて、GST融合タンパク質を検出しました。抗GST抗体はヤギで作製したものなので、交差反応する抗ヒツジ抗体でも検出することができます。我々の実験では、FITC標識抗ヒツジ抗体(Jackson Immunoresearch)をブロッキング溶液で100倍に希釈して用いました。室温、暗室内で1時間インキュベーションした後、細胞をPBSで洗浄し、蒸留水でリンスした後に細胞切片作製のためにMoviolに包埋しました。細胞はZeiss IM35倒立蛍光顕微鏡により観察、分析しました。細胞の写真はcooled CCDカメラ(Hamamatsu)とコンピュータ制御の低輝度イメージ取込装置により撮影しました。

細胞質へGST融合タンパク質をマイクロインジェクションした後、注入した融合タンパク質の挙動を免疫染色と免疫蛍光顕微鏡観察することにより、高等生物におけるシグナル伝達パスウェイを解析することができます。GST融合タンパク質が注入された細胞は抗GST抗体を用いた免疫染色により、容易に識別され、細胞分化を観察することができます。また、融合タンパク質の注入量も相対的に推定することができます。ここでは、この手法を用いてGST-c-Crk I 融合タンパク質がラット褐色細胞株PC12において神経突起の自発的な一時的成長を促すことが示された例をご紹介します。

Detection of microinjected GST fusion proteins in cellsusing a polyclonal anti-GST antibody―細胞内にマイクロインジェクションしたGST融合タンパク質の抗GST抗体による検出―G. Posern and S. M. FellerLaboratory for Molecular Oncology, Institute for Medical Radiation and Cell Research, 97078 Würzburg, Germany

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結果と考察

図1に示したように、GST-c-Crk Iを注入したPC12細胞は、注入していない隣接の細胞に比べて、明るく染色されていることがわかります。細胞が本来持つラットGSTとの交差反応により低レベルのバックグラウンドが観察されますが、融合タンパク質を注入された細胞は相対的な染色強度から容易に識別することができます。

GST-c-CrkⅠ融合タンパク質を注入した細胞からの神経突起の成長と形態変化は、マイクロインジェクションの15時間後から明らかになります。一方、GSTタンパク質のみをマイクロインジェクションした細胞では、そのような形態変化は認められませんでした(データ省略)。しかしながら、31時間後には注入した細胞に対する染色細胞の割合は減少し、融合タンパク質は細胞質内で安定した状態では維持されないことが示唆されました。にもかかわらず、非常に強く染色された細胞のいくつかは、31時間後でも神経突起の成長を示しました(図2)。形態変化の持続は、細胞質内に残存する融合タンパク質の量と明らかに相関していることがわかりました。これらの結果から、c-Crk Iによって誘導されるNGF非依存性の形態変化は一時的で、c-Crk Iは可逆的に神経時の成長を促す効果を持つことが示されました。

まとめ

一般的に、GST融合タンパク質をマイクロインジェクションした細胞は、抗GSTポリクローナル抗体と免疫蛍光顕微鏡を用いて観察することができます。ここでご紹介したプロトコールは、多くのタンパク質の生物学的機能を解析する上で強力なツールとなり、様々な細胞株をもちいたシグナル伝達システムの研究に応用可能であると思われます。

参考文献

1. Feller, S. M. et al., Trends Biochem. Sci. 19, 453-458(1994)

2. Tanaka, S. et al., Mol. Cell. Biol. 13, 4409-4415(1993)

3. Hempstead, B. L. et al., Mol. Cell. Biol. 14, 1964-1971(1994)

4. Feller, S. M. et al., Methods in Enzymol. 255, 369-378(1995)

5. Ansorge, W. and Pepperkok, R., J. Biochem. Biophys.Methods 16, 283-292 (1988)

*Triton X-100はUnion Carbide Chemicals and Plastic Co. の登録商標です。

謝辞

We would like to thank M. Matsuda for generously providing the GST-c-Crk I construct and Elena Baraldi atthe EMBL for helpful discussions and reagents. Specialthanks are also extended to R. Saffrich and W. Ansorge atthe EMBL, where the microinjection and picture acquisition procedures were performed.

ORDERING INFORMATION

Anti-GST Antibody 0.5ml 27-4577-01 ¥27,000Glutathione Sepharose 4B 10ml 17-0756-01 ¥20,000Prepacked Glutathione Sepharose 4B 2 ml×2 17-0757-01 ¥15,000pGEX-2T* 25 µg 27-4801-01 ¥40,000

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図1. GST-c-Crk I融合タンパク質をマイクロインジェクションしたPC12細胞の免疫蛍光染色像マイクロインジェクション後、15時間の細胞を抗GST抗体を用いて免疫染色を行いました。右側の弱い染色像は融合タンパク質を注入していない細胞で、丸い形をしており、神経突起への形態変化は見られません。一方、強く染色された細胞では神経突起の成長が見られ、形態変化が観察されます。

図2. マイクロインジェクション後31時間での免疫染色像強く染色された細胞では形態変化が認められますが(左図)、弱く染まった細胞では神経突起の退縮が見られます(右図)。

* このほかにも多種のベクターがあります。詳しくはバイオダイレクトラインまでお問い合わせください。

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はじめに

バイオマス作物として、ヤナギ栽培の可能性が検討されはじめています。この研究を通して、育種プログラムの原種となる大部分のクローン系統の遺伝的バックグラウンドが解明されていないことや、多くの農業生態学的に重要な特性についての遺伝学的情報が限られていることなどの問題が明らかにされてきました。バイオマス産物のために開発されたヤナギ栽培種の多くは遺伝的に近接しており、古典的な形態学的基準によって区別することは困難です。それゆえに従来の育種プログラムを補助あるいは指導するために、ヤナギ種を遺伝学的に記述可能な分子マーカー技術が導入されてきています。

DNAフィンガープリントや遺伝子マッピングにはPCRを応用した手法が用いられていますが、これらの手法ではポリサッカライドなどを完全に除去して高純度のDNAを抽出精製することが成功への鍵になります。

DNAの抽出

植物からのDNA抽出は、SDS法(sodium dodecyl sul-phate)やCTAB法(cetyltrimethylammonium bromide)により行われてきました。SDS法ではDNAの抽出効率に問題があり、CTAB法では多量のポリサッカサイドの除去が困難であるという欠点があります。CTAB法における問題点はプロトコールの改善によりある程度は解決されますが、完全なものではなく、新しい精製法の開発が望まれていました。

Nucleon PhytoPure Kitではポリサッカライド結合レジン処理によって、フェノールを使用せずにより高純度のDNAを確実に精製することができます。純度の向上のみならず、回収量も約50 %増加し(植物組織0.1 gから10 µgのDNAを精製可能)、少量の組織からも高純度のDNAを精製するこ

とが可能です。また、CTAB法では1日で10サンプルしか処理できなかったものが、このキットを使用すると1日に75サンプル処理することができます。

分子スクリーニング技術

図1に示したAFLP解析では、まずDNAを2種類の制限酵素で消化して、得られたDNAフラグメントの末端にアダプターを結合します。この時、一方のアダプターはビオチン化したものを用います(1)。続いてマグネティック ストレプトアビジン ビーズによりDNAフラグメントを抽出し、アダプターと相補的なプライマーによって増幅します。プライマーの3'末端に1~3塩基の任意のヌクレオチドを付加することで、増幅されるフラグメント数を調整することができます。ビオチン化されていないアダプター側のプライマーを33Pで標識すると、両方の酵素によって消化されたフラグメントのみが検出されます。PCR産物(50~500 bp)をポリアクリルアミド変性ゲルにより電気泳動し、固定化後にゲルを乾燥させてX線フィルムに露光します。再現性の高いAFLP解析を行うには、制限酵素によるDNA消化を完全にする必要があります。図2はEU‐AIRプロジェクトによるバイオマス試験

Amplified fragment length polymorphism(AFLP)やマイクロサテライトマーカー解析(simple sequence repeats;SSRs)は、ヤナギ(Salix spp)の遺伝的多型の研究を行う上で有効な方法です。AFLP解析は1回の解析で数多くのデータをもたらし、密接に関連している個体を区別することができます。SSRマーカーは遺伝子の連鎖解析を行う上で非常に有用なツールで、この手法によりヤナギで高頻度に観察される多型マーカーが同定されました。これらの手法は共に出発材料として高純度なゲノムDNAを必要とします。そのためフェノールを使用せずに高純度なDNAを迅速に精製することができるNucleonTM PhytoPureTM Kitは非常に有効であり、PCRを応用した遺伝子解析の再現性を高め、しかもスループットを格段と向上させることができます。

Detecting genetic diversity of willow (Salix spp.) usingamplified fragment length polymorphism (AFLP) andmicrosatellite maker analyses―AFLPとマイクロサテライトマーカー解析によるヤナギの遺伝的多様性の検出―J. H. A. Barker and A. KarpIACR-Long Ashton Research Station, Department of Agricultural Sciences, University of Bristol, Long Ashton, Bristol, CBS41 9AF, UK

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制限酵素による消化�

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PCR増幅�

電気泳動 & オートラジオグラフィー�

植物組織�

図1. AFLP解析の概略図(1)

に使用されたヤナギ栽培種のAFLPのフィンガープリントを示したものです(2)。現在、AFLP解析はサビ菌(Melampsora spp.)耐性株の遺伝子マップ作成に使用されています。バルク法(Bulkedsegregant analysis)では(3)、特に興味のある遺伝子座に関連するマーカーを同定することができるため、サビ菌耐性マーカーを単離する目的でAFLP解析と併用されています。我々もまた、ヤナギ種の遺伝的多型解析にSSRマーカーの適用を検討しました。変異頻度が高い遺伝子座は、ゲノム中に広く分布する短いタンデムな繰り返し配列を含む場合が多いことが知られています。それぞれのSSR遺伝子座に隣接する領域はユニークな配列を持つため、SSR遺伝子座のクローニングやシークエンスには隣接領域の配列からプライマーをデザインすることができます(4)。これらのSSR領域は通常1つ遺伝子座ですが、高い突然変異率のために、しばしば複対立遺伝子として観察されます。またSSRは相互優性マー

カー(AFLPのマーカーとは対象的)であるため、PCRによって容易に検出することができます。SSR解析は強力なツールで、研究室間でデータの比較や交換も可能な上、これらのデータは非常に有益です。ただし、SSRは植物ゲノム中から発見することが困難な点や、種間でのクロス転移が少ないなどの欠点もあります。

Edwards らの手法により、SSRを高度に濃縮した小さなDNAインサートを持つヤナギのゲノムライブラリーを作成しました(5)。この手法で得られた大部分のSSRは[CA]nでした。我々は145クローンのDNA配列を決定し(~75%のクローンがSSRを含む)、異なるSSRタイプの隣接領域から35種類のプライマーペアーをデザインしました。これらを用いてヤナギゲノムのDNA解析における有用性を検討した結果、高頻度な多型が検出されました(図3)。30サンプルについてテストを行ったところ、18種類のプライマーペアーで多型が検出され、5種類のプライマーペアーでは2つの遺伝子座が、2種類のプライマーペアーでは単一遺伝子型が検出されました。8種類

のプライマーペアーについては十分な解析結果は得られませんでした。我々はヤナギの個体識別やマッピング種類のために、さらにSSR解析を続けています。

まとめ

Nucleon PhytoPure Kitは、少量の植物材料から高純度なDNAを精製することができ、これによって、PCRを応用した多くの分子マーカー解析において確実な結果が得られるようになりました。このキットの使用により操作時間が短縮され、DNA抽出処理数を増加することができます。このように、Nucleon PhytoPure KitはAFLPやSSRマーカーによるヤナギの分子多様性をハイスループットで解析する手法の開発に貢献しています。

参考文献

1. Zabeau, M. and Vons, P., European PatentApplication, publication no.: EP 0534858-A1, No.92402629.7. (1993).

2. Lindegaard, K. N. and Barker, J. H. A. Aspects ofApplied Biology 49, 155-162 (1997).

3. Michelmore, R. W. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA88, 9828-9832 (1991).

4. Morgante, M. and Olivieri, A. M., Plant J. 3, 175-182(1993).

5. Edwards, K. J. at al., BioTechniques 20, 758-760(1996).

謝辞

This work is part an EU-AIR project - Genetic improve-ment of willow (Salix) as a source of bioenergy for the EC- (AIR2-CT94-1617). ACR receives grant-aided supportfrom the Biotechnology and Biological Sciences ResearchCouncil of the United Kingdom.

ORDERING INFORMATION

Nucleon PhytoPure Kit 50 preps of 0.1 g RPN8510 ¥17,000Nucleon PhytoPure Kit 50 preps of 1.0 g RPN8511 ¥32,000

製品名 包装 コード番号 価格

Life Science News 2, 1999 Amersham Pharmacia Biotech

8

A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h

図2. Savolf Biomass Trial由来のヤナギ栽培種(16種)についてのAFLP解析フィンガープリント(2)

図3. SSR解析により検出されたヤナギ栽培の対立遺伝子変異プライマーはマイクロサテライト繰り返し配列[CA]39の隣接領域からデザインしました。

1 3 5 7 9 11 13 152 4 6 8 10 12 14 16

PCR (polymerase chain reaction) is covered by U.S. Patents Nos. 4,683,195 and 4,683,202 owned by Hoffmann-La Roche Inc.Use of the PCR process requires a license.Nothing in this catalog should be construed as an authorization or implicit license to practice PCR under any patents held by Hoffmann-La Roshe Inc.

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9

A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h

はじめに

マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の過剰発現や活性化、あるいは活性型MMPと内在性MMP阻害剤(TIMP)の不均衡は、細胞外マトリックスの分解を特徴とする疾患の発病、発症に関わる重要な要因であることが示唆されています。発現された酵素のトータル量のみならず活性化された割合や活性化可能な潜在型の割合を決定する技術はこれらの疾患の研究を行う上での鍵となっています。細胞培養上清、血清、血漿、唾液などの生体サンプル中のMMP-9活性を測定するための新規で特異性の高い抗原捕捉測定法が開発され、その有効性が確認されました。この測定法はMMP-9に特異的で、定量性にすぐれ、ザイモグラフィーのような煩雑な方法に比べ明らかに優れています。

MMP-9活性測定アッセイ

MMP-9活性の測定は、標品、生体試料、細胞培養上清からMMP-9を捕捉するために、抗MMP-9抗体を96穴マイクロタイタープレートに固定化したプレートを用いて行います。検出反応には、プラスミン認識配列(Pro-Arg-Phe-Lys↓Ile-Ile-Gly-Gly)をMMP認識配列(Arg-Pro-Leu-Gly↓Ile-Ile-Gly-Gly)に置換した修飾プロウロキナーゼを用います。修飾プロウロキナーゼは、固相に捕捉されたMMPで切断されて活性型ウロキナーゼになり、色素ペプチド基質S-2444TM*の発色、呈色で検出されます。その吸収は405 nmで確認できます。405 nmの吸収を標準曲線と比較することでサンプル中のMMP-9の活性を測定できます。検出反応は37℃で2~6時間行います。標準測定レンジは2~32 ng/ml(2時間インキュベーション)で、1 ng/mlの感度となります。更に高感度な測定を行う場合は、6時間インキュベーションを行うことにより測定レンジ0.5~8 ng/ml、最高感度0.5ng/mlを得ることができます。活性型および潜在型MMP-9のトータル活性量は、p-

aminophenylmercuric acetate (APMA)を含むバッファーで、内在性の活性型MMP-9はAPMAを含まないバッファーを使用することで、それぞれ測定することができます。トータルMMP-9は免疫学的に捕捉されたMMP-9をAPMAで処理した後に測定することで定量されます。どちらのタイプの測定でも活性化されるプロMMP-9を標準曲線の作成に用います。アッセイで使用される抗MMP-9抗体はプロ型および活性

型の両方を認識しますが、他のMMPやTIMPとは交差しません。プロ型および活性型MMP-9/TIMP-1複合体は、活性型MMP-9/TIMP-2複合体と同様に抗体と若干の反応性があります。この測定システムは、ヒトサンプルに加えてラビットやマウスのMMP-9測定にも利用できます。

評価実験

細胞培養上清細胞培養上清サンプルをMMP-9活性測定系とMMP-9ヒトELISA(RPN2614)を用いて同時に測定しました。ELISAはプロMMP-9に特異的で、測定レンジは1~32 ng/mlです(細胞培養上清プロトコール)。ELISAで検出されたプロMMP-9と活性測定系で検出されたトータルMMP-9のレベルには良好な相関があります(図1)。MMP-9活性の絶対値はELISAで測定した方が2倍高い結果になりました。これは活性測定の際に、MMP-9とTIMP-1のコンプレックス中のTIMP-1がMMPによる基質検出酵素(修飾プロウロキナーゼ)の活性化反応を阻害するためと考えられています。実際に活性測定系ではこのコンプレックスは理論上よりも低く検出されています(理論値の39 %)。TIMP-1に特異的なELISA(RPN2611)でこれらのサンプルを測定すると、TIMP-1レベルが非常に高いことが確認され、この仮説を裏付けています。(データ未記載)

血清と血漿図2はMMP-9活性測定系によって求められた血清中およびいくつかの方法で調製された血漿中のトータルMMP-9レベルを示しています。正常値はほとんどのサンプルで検出可能ですが、EDTA処理血漿サンプルの場合は、MMP-9のレベルが低いため、信頼性の高い測定は難しいことが示唆されます。これはEDTAがMMPの折り畳み構造と活性に阻害効果をもつためであると考えられます。活性測定系を用いて測定したMMP-9の血清レベルは

ELISAを用いて測定した文献上の値に近いものでした。血清中レベルは血漿中のそれよりも高く、これはおそらく凝集する際に可溶化した単核球、好中球、または他の細胞成分による何らかの影響によるものと予想されます。

シェーグレン症候群患者のMMP-9

Gaubius Laboratory(オランダ)で行われた研究では、この新しい測定システムを使用してシェーグレン症候群患者の唾液サンプル中のMMP-9レベルが測定されました。MMP-9活性測定結果は125I標識したゼラチンコラーゲンアッセイ法で得られた結果と比較されています(1)。コントロールとシェーグレン症候群患者との唾液サンプルのトータルMMPレベルは、ラジオアイソトープ標識された

生体サンプル中のトータルあるいは活性型MMP-9を測定するための、新規で特異性の高い免疫学的抗原捕捉活性測定法が開発されました。この測定法は定量性が高く、操作方法も簡便で、従来から頻用されているELISA法による定量性との相関も良好です。

A novel assay for MMP-9 activity-correlation with ELISA and application to biological fluid measurements―新しいMMP-9活性測定法-ELISAとの相関および生体試料測定への応用―S. Capper, V. Evans, R. Hanemaaijer*, M. Sully, H. Visser* and J. Verheijen*Amersham Pharmacia Biotech UK Ltd., Amersham Place, Little Chalfont, Buckinghamshire, UK*Gaubius Laboratory, TNO-PG, Leiden, The Netherlands

C

E

L

L

B

I

O

L

O

G

Y

A

S

S

A

Y

S

基質を用いたアッセイ法で測定した場合、大きな差は認められませんでした(表 1)。活性型MMPレベルはこの方法では検出できませんでした。しかしながら、MMP-9活性測定システムで測定すると、活性型MMP-9とトータルMMP-9の両方においてコントロールと患者の間で顕著な差が確認されました。

まとめ

MMP-9活性測定システムでは細胞培養上清、血漿、血清、唾液のような生体サンプル中のMMP-9活性を測定できます。この新しい活性測定システムの主な利点はシェーグレン症候群患者の研究で明らかにされています。MMP-9活性測定システムは活性型MMP-9の内在性レベルとトータルレベルを特異的に区別可能なため、これらの患者サンプル中のMMP-9の増加を特異的に検出することができます。

MMPがこの病気に関与することは従来から知られていましたが、今まで、どのMMPが特異的に活性化されるかを証明することは困難でした。加えて、従来の基質分解測定法と比較して、より高感度であることから、この新しい活性測定システムは活性型MMP-9の内在性レベルの測定を可能にします。また、このシステムを用いることにより、同じ基質に作用するMMP-2とMMP-9の活性を区別して測定することが可能になります。

参考文献

1.Hanemaaijer, R. et al., Matrix Biology 17, 657-665(1998)

ORDERING INFORMATION

ヒトMMP-9活性測定システム 96wells RPN2630 ¥98,000ヒトMMP-2活性測定システム 96wells RPN2631 ¥98,000ヒトMMP-2 ELISAシステム* 96wells RPN2617 ¥98,000ヒトMMP-9 ELISAシステム* 96wells RPN2614 ¥98,000ヒトTIMP-1 ELISAシステム 96wells RPN2611 ¥98,000

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A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h

*この製品は富士工業株式会社との提携により開発されました。

この記載の製品は試験研究用です。人体、動物への医療、臨床診断用としては使用できません。また、人体への投与は絶対にしないでください。有効期限のある製品ですので、実験スケジュールにあわせてご購入ください。出荷後少なくとも4週間は安定です。製品の特性上、返品、交換は原則としていたしかねますので、あらかじめご了承ください。ご注文の際は、製品名、コード番号のご確認をお願いいたします。

図1. U937細胞培養上清中MMP-9レベルをELISA と活性測定システムとで測定した場合の相関関係細胞培養液サンプルをMMP-9活性測定システム(RPN2630)とMMP-9 ヒトELISAシステム(RPN2614)により測定しました。潜在的(トータル)活性はMMP-9活性測定システムで、プロMMP-9はELISAシステムから求められました。U937培養細胞はphorbol 12-myristate 13-acetate (PMA),lipopolysaccharide (LPS), 1α,25-(OH)2D3 (TRK810), interferon-γ(IFN-γ), interleukin-4 (IL-4)で刺激した後に測定しました。

図2. MMP-9活性測定システムを用いた血清、血漿中のトータルMMP-9の測定血清、血漿は健常人から採血した全血から分離しました。血漿にはヘパリン、EDTA、クエン酸塩を加えました。すべてのサンプルは測定するまで -70℃で保存しました。血清、血漿サンプルは測定バッファーで1:32に希釈し、MMP-9活性測定システムの6時間インキュベーションプロトコールに従い測定しました。それぞれのサンプルの平均値はグラフ中に水平線で表示されています。グラフ中の数値は平均値の偏差を示しています。

MMP-9活性測定法 MMP-9型 コントロール シェーグレン症候群患者

MMP-9活性測定 活性型 0.8±0.3 2.5±1.3システム(RPN2630) (p < 0.05)

潜在型(トータル) 9.4±1.2 26.2±3.2(p < 0.0001)

125I-コラーゲン分解法 活性型 0 0潜在型(トータル) 36.3±6.5 44.5±4.6

(p = 0.11)

0 5 10 15 20 25 300

5

10

15

20

proMMP-9 by ELISA (ng/ml)

tota

l M

MP

-9 b

yA

ctiv

ity

Ass

ay

(ng

/ml)

r = 0.7784y = 0.432x + 0.685

plasmacitrate

plasmaheparin

plasmaEDTA

serum

80

70

60

50

40

30

20

10

0

MM

P-9

con

c. (

ng/m

l)

sample

17.3 ± 8.0(n = 5)

18.6 ± 7.6(n = 5)

6.7 ± 5.4(n = 5)

38.4 ± 21.3(n = 5)

表1. シェーグレン症候群患者の唾液中のMMP-9活性

*S-2444はChromagenix AB社の登録商標です。

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A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h

はじめに

過去10年間、齧歯類の減数分裂と精子形成の各過程におけるタンパク質の発現パターンの変化を二次元電気泳動により解析した数多くの研究が報告されています(1-4)。しかしながら、これらの研究に使用された二次元電気泳動システムおよび画像解析ソフトウェアは開発途上にあり、得られた結果は十分なものではありませんでした。その後の二次元電気泳動・画像解析技術の向上により、現在では複雑なタンパク質の発現パターンを検出し、詳細に比較解析することが可能になりました。我々は高感度な銀染色法、金コロイド染色法、ウェスタンブロッティング法、ECLウェスタンブロッティングによる検出システムを組み合わせ、アマシャム ファルマシア バイオテクの高分離能二次元電気泳動システムを用いて、生殖細胞の培養上清中のメタロペプチダーゼ、N-arginine diba-sic (NRD) convertase (narlysin, EC 3.4.24.61)、aminopep-tidase B (ApB, EC 3.4. 11.6)とthimet oligopeptidase (TOP,EC 3.4.24.15)の解析を行いました。これらのタンパク質はすべて、生殖細胞から産生されることが明らかにされています。

生殖細胞培養上清(germ cell-conditioned medium: GCCM)の調製

全生殖細胞(germ cell: GC)は、成熟Sprague-Dawleyラット(Elevage Janvier, Le Genest Saint Isle, France)の精巣からPineauらの手法により単離し、GCCMを調製・濃縮しました(5)。ただし、精細管はトリプシン消化ではなく、機械的に破砕しました。

一次元目の電気泳動:等電点電気泳動

一次元目の電気泳動には、アマシャム ファルマシア バイオテクの装置およびゲルを使用しました。GCCMから濃縮した全タンパク質50 µgを400 µlの膨潤バッファー(8Mウレア、0.5 % TritonTM X-100、0.2 % DTT、0.5 % [v/v]PharmalyteTM 3-10、Orange G適量)に溶解しました。この溶液中で18 cmのImmobiline® DryStrip(IPGストリップ)

pH3-10 NL (Non-Linear)を膨潤し、等電点電気泳動はMultiphor® II水平型電気泳動装置を用いて泳動を行いました。泳動条件を表1に示します。

二次元目の電気泳動:SDS-PAGE

二次元電気泳動の前に、IPGストリップを6Mウレア、2%SDS、10 %グリセロール、0.5 % DTTを含む50 mM Tris-HCl, pH 6.8で10分間振盪し、SDS平衡化を行いました。続いてDTTの代わりに4.5 % ヨードアセトアミドを溶解したバッファーで10分間振盪し、平衡化しました。二次元目のSDS-PAGEはMultiphor II水平型電気泳動装置を使用し、ExcelGelTM SDS XL 12-14を用いて行い、分子量マーカーにはECLタンパク質分子量マーカーを使用しました。

銀染色と金コロイド染色による検出

二次元目の電気泳動が終了したゲルは、銀染色を行いました(6)。PVDFメンブランに転写したタンパク質は、AuroDyeTM Forte kitにより、金コロイド染色を行いました。

タンパク質の転写

ゲル中のタンパク質はNovaBlotTMセミドライトランスファー装置を用いてPVDFメンブランに転写しました。転写は0.8 mA/cm2、1時間の条件で行いました。

ウェスタンブロッティングとECL検出

ECL検出システムを用いたウェスタンブロッティングの条件は、少量のサンプルを高感度に検出できるよう至適化しました。使用する抗体の最適希釈率は、ミニゲルを用いたSDS-PAGEとウェスタンブロッティングにより決定しました。転写終了後、メンブランは3 % (w/v)のBSAを含むTBS

(50 mM Tris-HCl, pH 7.6、150 mM NaCl)中で、室温

様々なクラスの精巣由来の生殖細胞から産生・分泌されるタンパク質を、二次元電気泳動とECLTMウェスタンブロッティング検出システムにより解析しました。二次元電気泳動の後、ゲルよりタンパク質をメンブランへ転写し、抗メタロペプチダーゼ抗体を用いてウェスタンブロッティングを行いました。この手法により、過去に報告されている数種類の生殖細胞由来のメタロぺプチダーゼを同定することができました。

Identification of metallopeptidases from germ cell-conditioned medium using pH gradient 2D-electrophoresisand ECL-immunodetection―二次元電気泳動とECLウェスタンブロッティング検出による生殖細胞培養上清中の

メタロペプチダーゼの同定―B. Evrard, E. Guillaume, C. Pineau and A. Dupaix GERM-INSERM U.435, Campus de Beaulieu, Université de Rennes I, 35042 Rennes Cedex, France

P

R

O

T

E

O

M

I

C

S

Voltage Current Power TimeStep (V) (mA) (W) (h:min)

一次元目(IEF)1 500 1 5 5:002 500 1 5 5:003 3500 1 5 9:30

二次元目(SDS-PAGE)1 1000 20 40 0:452 1000 40 40 0:053 1000 40 40 2:40

表1. 電気泳動条件

(1時間)もしくは4 ℃(一昼夜)で振盪し、ブロッキングした後、TBS-T (0.1% [v/v]Tween 20を含むTBS)で洗浄しました。つづいてメンブランは、1% BSAを含むTBS-Tで希釈した一次抗体と1時間反応させました。すべての一次抗体(抗NRD convertase抗体、抗TOP抗体、抗ApB抗体)はウサギで作製されたもので、8000倍に希釈して用いました。一次抗体との反応後、メンブランを洗浄し、3000倍に希釈したHRP標識抗ウサギ抗体(二次抗体)と1時間反応させました。シグナルはECLウェスタンブロッティング検出試薬を使用し、化学発光を30秒間、X線フィルムのHyperfilmTM -ECLに露光することで検出しました。

抗体の除去とリプロービング

ECL検出試薬を用いてシグナルの検出を行なった後のメンブランを100 mM 2-メルカプトエタノールと2 % (w/v) SDSを含む62.5 mM Tris-HCl, pH 6.7で50 ℃、30分間インキュベートして、結合した抗体を除去しました。メンブランをTBS-Tで10分、2回洗浄し、3 % (w/v) BSAを含むTBS-Tで室温、1時間ブロッキングを行いました。免疫検出は、前述と同様に行いました。

結果および考察

二次元電気泳動ゲルの銀染色結果とブロッティングメンブランの金コロイド染色、ECL検出試薬によるウェスタンブロッティングの結果の比較から、GCCM中のメタロぺプチダーゼのスポットが同定されました(図1)。例えば、図2にみられるTOPのスポットは、図1で示した二次元電気泳動ゲルの銀染色パターン上で同定することができます。今回の実験では、金コロイド染色を行ったメンブランと行っていないメンブランとで、ECL検出試薬を用いたウェスタンブロッティングの結果に全く差異が見られませんでした。従って、金コロイド染色は、ウェスタンブロッティングの結果に全く影響をおよぼさないことが示されました。同定された主要スポットの物理化学的な性質を表2に示しました。図3はリプロービングの結果で、メンブラン上の主要スポットは、リプロービング後も大差なく検出されました。抗原サンプル量が限られる場合には、数種類の抗体を用いて免疫検出を繰り返し行なう必要があります。このような場合、リプロービングは非常に有効な手法です。再生したメンブランを金コロイド染色した結果、ECLタンパク質分子量マーカーを除いて、タンパク質のパターン検出感度に変化がないことが確認されました。ECLタンパク質分子量マーカーのシグナルが検出されなかったのは、マーカータンパク質とビオチン間の結合が切断されたためと考えられます。

まとめ

IPGストリップを用いた高解像度二次元電気泳動とECLウェスタンブロッティング検出システムの組み合わせにより、精巣由来の生殖細胞から培養上清中に分泌される様々なメタロペプチダーゼを高感度に検出することができました。また、今回示された手法ではメンブランを再生してリプロービングすることができるため、サンプルが貴重な場合などに非常に有効な手法です。このように、1枚のブロットメンブランを用いて複数のタンパク質を免疫検出することができます。今回ご紹介した方法は、微量タンパク質の同定に有効であり、プロテオーム解析においても大いに貢献するものと期待されます。

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図1. 生殖細胞の培養上清に含まれるタンパク質の二次元電気泳動50 µgのGCCMタンパク質を、一次元目にImmobiline DryStrip pH3-10NL、二次元目にExcelGel SDS XL 12-14を使用して二次元電気泳動を行いました。ゲルは、PlusOne® Protein銀染色キットにより染色しました。図中に示したメタロペプチダーゼのスポットはウェスタンブロッティングにより検出しました。

図2. コンピュータ処理画像:TOPのウェスタンブロッティング(A)とGCCMタンパク質の金コロイド染色パターン(B)電気泳動は図1で示した手法と同様に行いました。ECLウェスタンブロッティング検出システムで検出されたスポットは長方形枠で示しました。図中の7210はスタンダードタンパク質で、N末端アミノ酸配列分析によりホスファチジルエタノールアミン結合タンパク質であることが明らかにされています。分子量マーカーはECLタンパク質分子量マーカーを使用しました。(97.4,68,46,31,20.1,14.4 kDa)

3.6 4.4 5.2 5.6 6.0 6.4 7.0 8.0pH (non-linear)

分子量(kDa)90 –80 –70 –60 –50 –

40 –

30 –

20 –

15 –

kDa

97.4

68

46

31

20.1

14.4

97.4

68

46

31

20.1

14.4

参考文献

1. Boitani, C. et al., Cell Differentiation 9, 41-49 (1980).2. Kramer, J. M. and Erickson, R. P., J. Reprod. Fert. 64,

139-144 (1982).3. Jutte, N. H. P. M. et al., J. Exp. Zool. 233, 285-290

(1985).4. O'Brien, D. A., Biol. Reprod. 37, 147-157 (1987).5. Pineau, C. et al., J. Androl. 14, 87-98 (1993)6. Heukeshoven, J. and Dernick, R., Electrophoresis 9, 28-

32 (1988).

謝辞

This work was funded by INSERM, Ministère del'Éducation Nationale de la Récherche et de laTechnologie, Région Bretagne and Fondation Langlois.Antibodies were generous gifts from A. R. Pierotti,Depertment of Biological Sciences, Caledonian University,Glasgow G4 0BA, Scotland (anti-TOP) and T. Foulon,Laboratorie de Biochimie des Signaux RégulateursCellulaires et Moléculaires, Université Pierre et MarieCurie, 96 Boulevard Raspail, 75006 Paris, France (anti-NRD convertase, anti-aminopeptidase B).

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Immobiline DryStrip pH3-10 NL, 18cm*1 12本 17-1235-01 ¥13,300Multiphor II 1ユニット 18-1018-06 ¥330,000ExcelGel SDS gradient 8-18 6枚 80-1255-53 ¥24,000ExcelGel XL SDS 12-14 3枚 17-1236-01 ¥17,000ExcelGel SDS Buffer Strip 6セット 17-1342-01 ¥6,000ECLタンパク質分子量マーカー 25 µl, 25回分*2 RPN2107 ¥11,000Hybond-P 20×20 cm, 10枚*2 RPN2020F ¥19,000HRP標識抗ウサギIg 1ml NA934 ¥38,500ECLウェスタンブロッティング検出試薬 メンブラン1000 cm2分*2 RPN2109 ¥11,000Hyperfilm-ECL 18×24 cm, 25枚*2 RPN2103H ¥7,700AuroDye Forte kit メンブラン(10×15 cm) 15枚分*3 RPN490 ¥21,000PlusOne Protein 銀染色キット 20回 / 125ml 17-1150-01 ¥19,800

製品名 包装 コード番号 価格

*1 その他7 cm、11 cm、13 cmの長さやpH3-10 L (Linear)、pH4-7 L、pH6-11 Lもご用意しております。*2 その他の包装単位もご用意しております。詳細はバイオダイレクトラインまでお問い合わせください。*3 キットには500mlの金コロイド溶液と10mlのTween 20が含まれます。

図3. リプロービングによるNRD convertaseの検出一次抗体に抗NRD convertase抗体を用いて免疫検出を行った結果(A)と、本文中に記載の方法により2回のリプロービング操作を行った後で、再度同じ抗体によりNRD convertaseを検出した結果(B)を比較しました。リプロービング操作後もシグナル強度はほとんど低下しないことがわかります。いずれの場合も、二次抗体としてHRP標識抗ウサギ抗体を用いました

Multiphor II水平型電気泳動装置

タンパク質 分子量(kDa) 等電点Thimet Oligopeptidase 74.4~75.2 5.46~5.59NRD convertase 23.5~25.4 5.05~5.31Aminopeptidase B 11.3~11.9 4.60~4.62

表2. ECLウェスタンブロッティング検出システムにより同定されたメタロペプチダーゼの物理化学的性質

はじめに

タンパク質の構造解析のためのペプチドマッピングは、通常、C8あるいはC18 シリカ系逆相クロマトグラフィーカラムを用いて行われます。シリカ系カラムによるクロマトグラフィーは酸性条件下に限られるため、移動相には0.025~0.15%トリフルオロ酢酸(TFA)とアセトニトリルが一般的に用いられます。しかし、酸性条件でのペプチド分離にはいくつかの問題点があります。たとえば、分離そのものは良い場合でも、TFAが質量分析スペクトルのシグナルを抑制することが報告されており(6)、また、ある種のペプチドでは低いpH条件で分離することが大変困難なことも知られています。それゆえに、塩基性条件下でのペプチド分離手法は、多くの場合で大変有効な選択肢の1つになります。ここでは、還元ピリジルエチル化したウシ血清アルブミン

(BSA)のトリプシン消化物をサンプルとして、ポリマー系逆相クロマトグラフィーカラムを用いて酸性条件と塩基性条件下でペプチドマッピングを行った例をご紹介いたします。

逆相カラムクロマトグラフィー

塩基性条件のペプチド分離には、移動相として揮発性溶媒(アンモニア/ギ酸/アセトニトリル)を使用し、従来の酸性分離条件には(TFA/水/アセトニトリル)を用いました。逆相カラムはSOURCE 5RPC ST 4.6/150 と、比較のために他社製ポリマー系逆相カラム(2種)とシリカ系カラム(1種)を用いました。ただし、シリカ系カラムは塩基性条件下での耐性が低いため、酸性条件下でのみ分離を行いました。

還元ピリジルエチル化BSA の調製

BSA(Sigma A-4503)を還元ピリジルエチル化し、定法によりトリプシン消化しました(7)。BSA (100 µg)を89 µlの250 mM Tris-HCl, pH 8.5, 6 M 塩酸グアニジン, 1 mM

EDTAに溶解し、10 µlの5 µg/µlジチオスレイトール(Boehringer Mannheim No.708992)溶液を加えて30 ℃で1~2時間インキュベートしました。続いて、1 µlのビニルピリジンを加えて30 ℃で1時間インキュベートしました。還元ピリジルエチル化したBSA溶液(1 mg/ml)は、PD-10カラムによって100 mM炭酸アンモニウム溶液にバッファー交換した後、Modified Trypsin (Promega,V5111)(酵素/基質1:100)を加えて、37 ℃で1晩インキュベートして消化しました。酵素反応は、終濃度1 %のTFAを加えて停止しました。

結果

ペプチドマッピングの結果を、図1~3に示しました。図1は酸性条件下(pH 2)の分離で、SOURCE 5RPCと他社のポリマー系カラムは、ほぼ同様な分離能を持つことがわかります(図1a-c)。この条件下ではシリカ系カラムが高い分離性能を示しており(図1d)、酸性条件下のペプチド分離ではシリカ系カラムが最も適しているといえます(8)。しかし、このような酸性条件ではTFAが質量分析シグナルを抑制する可能性があるため(6)、シリカ系カラムがタンパク質の同定や特性解析を行う際の最も高感度で理想的なカラムであるとはいえないかもしれません。塩基性条件下におけるクロマトグラフィーでは、3種類のポリマー系担体カラムの間で大きな違いが見られました。pH 8.0とpH 9.5ではSOURCE 5RPC ST 4.6/150の分離が最も優れていることがわかります(図2, 3)。この条件では、移動相として揮発性バッファーを用いているので、質量分析への影響はほとんどないと考えられます。塩基性条件下でのSOURCE 5RPC ST 4.6/150を用いたペプチドマッピング手法は、分離性能が高く質量分析への影響も少ないことから、LC/MS分析のために非常に強力なツールとなるかもしれません。このカラムは、また、酸性条件下で溶解困難なペプチドを塩基性条件下で溶解し、分離するうえでも非常に有用です(9-11)。

まとめ

新開発のポリマー系逆相クロマトグラフィーカラムSOURCE 5RPC ST 4.6/150は、酸性条件から塩基性条件まで、幅広いpH範囲で使用することができ、高い分離性能を示すことがわかりました。プロテオーム解析では、アミノ酸配列データベースの充実と共に、タンパク質の一次構造解析に質量分析計を用いることが一般化しています。塩基性条件下の逆相クロマトグラフィーでは揮発性の移動相を使用することができるため、質量分析精度への影響を最小限に抑えたペプチドマッピングを行うことができます。SOURCE5RPC ST 4.6/150は、溶媒やpH条件を考慮することなく様々な分離条件下で使用することができるので、プロテオミクスの研究に大いに貢献するものと思われます。

Life Science News 2, 1999 Amersham Pharmacia Biotech

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近年、タンパク質の一次構造は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動や二次元電気泳動により分離されたタンパク質をゲル中で消化(in gel digestion)し、ペプチドマッピングの後にアミノ酸配列分析や質量分析により解析されています(1, 2)。そして、これらのデータをアミノ酸配列データベースで検索して、タンパク質を同定することも可能になっています(1-4)。プロテオームの研究では、ペプチドマスマッピングと組み合わせたこの解析手法が主要な技術になっており、培養細胞や患者サンプルにおいて、タンパク質の制御関係を解明するための有効な手段になっています (5)。ここでは、逆相クロマトグラフィーによるペプチドマッピングに焦点をあて、さまざまな条件下で高い分離性能を示す新開発のポリマー系逆相カラムSOURCETM 5RPC ST 4.6/150によるペプチドマッピングの例をご紹介いたします。

Peptide mapping at low and high pH using a polymer stationary phase―ポリマー系逆相担体を用いた酸性および塩基性分離条件下でのペプチドマッピング―Staffan Renlund Amersham Pharmacia Biotech AB.

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a)SOURCE 5RPC ST 4.6/150pH 2

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b)A社ポリマー担体�pH 2

c)B社ポリマー担体�pH 2

d)B社シリカC18担体pH 2

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a)SOURCE 5RPC ST 4.6/150pH 8

—— 215 nm—— 254 nm—— 280 nm

—— 215 nm—— 254 nm—— 280 nm

—— 215 nm—— 254 nm—— 280 nm

b)A社ポリマー担体pH 8

c)B社ポリマー担体pH 8

図1. 酸性条件下 (pH 2.0)でのペプチドマッピング還元ピリジルエチル化ウシ血清アルブミンをトリプシンで消化し(RVP-BSA-mT)、酸性分離条件(pH 2.0)でSOURCE 5RPC ST 4.6/150 (a)、A社ポリマー担体(b)、B社ポリマー担体(c)、B社シリカC18担体(d)を使用してペプチドマッピングを行いました。

システム: ÄKTATM purifierサンプル: RVP-BSA-mT, ca 750 pmolカラム: 4.6×150mm溶出液A: 0.065% TFA溶出液B: 0.05% TFA+アセトニトリルグラジエント:0~40% B / 115ml (46 CV)流速: 0.5ml/min

図2. 塩基性条件下(pH 8.0)でのペプチドマッピング還元ピリジルエチル化ウシ血清アルブミンをトリプシンで消化し(RVP-BSA-mT)、塩基性分離条件 (pH 8.0)でSOURCE 5RPC ST 4.6/150 (a)、A社ポリマー担体(b)、B社ポリマー担体(c)を使用してペプチドマッピングを行いました。

システム: ÄKTA purifierサンプル: RVP-BSA-mT, ca 750 pmolカラム: 4.6×150mm溶出液A: 10mM ギ酸アンモニウム, pH 8.0溶出液B: 溶出液A+60%アセトニトリルグラジエント:0~67% B / 115ml (46 CV)流速: 0.5ml/min

参考文献

1. Hellman, U. et al., Anal. Biochem. 224, 451-455(1995)

2. Shevenchenko, A. et al., Anal. Chem. 68, 850-858(1996)

3. Jensen, O. N. et al., Anal. Chem., 69, 4741-4750(1997)

4. Haynes, P. A. et al., Electrophoresis, 19, 939-945(1998)

5. Wilkins, M. R. et al., (Eds) Proteome Research: Newfrontiers in Functional genomics, Springer-VerlagBerlin Heidelberg 1997, ISBN 3-540-62753-7.

6. Eshraghi, J. et al., Anal. Chem. 85, 3528-3533 (1993)7. Renlund, S. et al., J. Chromatogr. 512, 325-335

(1990)8. Application Note, code 18-1119-53, Amersham

Pharmacia Biotech9. Application Note, code 18-1130-92, Amersham

Pharmacia Biotech10.Application Note, code 18-1132-63, Amersham

Pharmacia Biotech11.Science tools, vol-3 (4) 5-7 (1998), Amersham

Pharmacia Biotech

謝辞

This work was done in collaboration with Professor UlfHellman at the Ludwig Institute for Cancer Research, Box595, SE-751 24 Uppsala, Sweden.

ORDERING INFORMATION

SOURCE 5RPC ST 4.6/150 0.46×15 cm 17-5116-01 ¥78,000PD-10 30本 17-0851-01 ¥26,500ÄKTApurifier * ¥6,700,000 ¥6,000,000**ÄKTAexplorer 10S* ¥8,300,000 ¥7,000,000**

製品名 包装/カラムサイズ コード番号 価格 キャンペーン価格

Life Science News 2, 1999 Amersham Pharmacia Biotech

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* 価格にはコンピュータ、カラープリンタ、UNICORNソフトウェア、電気伝導度モニター、pHモニター、フラクションコレクターが含まれます。**キャンペーン価格は2000年3月31日まで。システムにRESOURCE 1mlカラム各種(全6本)を含んだ価格となります。詳細はバイオダイレクトラインまでお問い合わせください。

図3. 塩基性条件下(pH 9.5)でのペプチドマッピング還元ピリジルエチル化ウシ血清アルブミンをトリプシンで消化し(RVP-BSA-mT)、塩基性分離条件 (pH 9.5)でSOURCE 5RPC ST 4.6/150 (a)、A社ポリマー担体(b)、B社ポリマー担体(c)を使用しペプチドマッピングを行いました。

システム: ÄKTA purifierサンプル: RVP-BSA-mT, ca 750 pmolカラム: 4.6×150mm溶出液A: 10mMぎ酸アンモニウム, pH 9.5溶出液B: 溶出液A+60%アセトニトリルグラジエント: 0~67% B / 115ml (46 CV)流速: 0.5ml/min

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b)A社ポリマー担体pH 9.5

c)B社ポリマー担体pH 9.5

SOURCE 5RPC ST 4.6/150とÄKTApurifier 生体分子精製装置