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Hitotsubashi University Repository Title �.�Vestibulum: �Author(s) �, Citation �, 5: 33-48 Issue Date 2014-07-30 Type Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://doi.org/10.15057/26862 Right

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Page 1: J.A.コメニウス原著『Vestibulum[前庭]』について · J.A.コメニウス原著『Vestibulum [前庭]』について ―初級段階・第二言語教科書の構成と変容―

Hitotsubashi University Repository

TitleJ.A.コメニウス原著『Vestibulum[前庭]』について

: 初級段階・第二言語教科書の構成と変容

Author(s) 松岡, 弘

Citation 一橋大学国際教育センター紀要, 5: 33-48

Issue Date 2014-07-30

Type Departmental Bulletin Paper

Text Version publisher

URL http://doi.org/10.15057/26862

Right

Page 2: J.A.コメニウス原著『Vestibulum[前庭]』について · J.A.コメニウス原著『Vestibulum [前庭]』について ―初級段階・第二言語教科書の構成と変容―

J.A.コメニウス原著『Vestibulum[前庭]』について ―初級段階・第二言語教科書の構成と変容―

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論文

J.A.コメニウス原著『Vestibulum[前庭]』について

―初級段階・第二言語教科書の構成と変容―

On the Vestibulum by J.A.Comenius (Komenský): Structure and transformation of elementary-level second-language textbooks

松岡 弘

要旨

1630 年代から 1750 年代にかけて出版された J.A.コメニウスの初級段階のラテン語教科書

『前庭』Vestibulum 9 種について、主に構成上の観点から調査を実施し、比較考察を試みた。

その結果、著者を「コメニウス」としていても、それぞれの間には構成・内容の改変やずれ、

それぞれの存在理由があること、また、そうした教科書の構成と変容には現代の第二言語教

育・日本語教育における教授理念や教材作成と共通するものがあることを明らかにした。

キーワード: コメニウス、vestibulum、eruditionis scholasticae、ラテン語教育、第二

言語教科書

0 はじめに

ヤン・アモス・コメンスキー[Jan Amos Komenský(1592-1670)、ラテン語名コメニ

ウス(Comenius)。以下これに従う]は、宗教家であり哲学者であり教育者であり、そし

て何よりもチェコ国民が も敬愛する偉人の一人である。このコメニウスに、整然と体系

づけられた精緻きわまる言語教育のための教科書・教材・辞書群がある。それらは、基本

的には当時のヨーロッパの共通言語であったラテン語の教育・学習のために、コメニウス

が時に協力者を得て考案・作成し、その多くは対訳を付し、物によっては挿画もつけて主

にヨーロッパ圏内で刊行された。そのいくつかは、コメニウスの生前のみならず死後もベ

ストセラーとなり、時を越えて世界に知られるようになった。(因みに、本稿の調査対象『前

庭』Vestibulum の本文は、すでに 18 世紀前半のロシアにおいて日本からの漂流民ゴンザ

により日本語(薩摩方言)に翻訳されてもいる1。)

本稿では、コメニウスが作成・刊行した多数のラテン語教育の教材・辞書の中から、一

般に Vestibulum(ラテン語名。ドイツ語名 Vortür。日本語訳は通称『前庭』)の名で呼ばれ、

ラテン語教育の初級段階・初学年レベルで用いることが想定されている教科書をとりあげ、

筆者が過去 2 年間に欧州の図書館・博物館において直接に手に取り中身を閲覧・調査でき

た 7 種の古典図書『前庭』を対象とし、それぞれの形態・内容等を報告するとともに、そ

れらの特徴・意義を、標準モデルともいうべき別の 2 種と比較対象の上、考察を行なう。 1 村山七郎著『漂流民の言語』(1964)「日本語会話入門」pp.81-128。井ノ口淳三「村山七郎

によるコメニウス研究への貢献」『日本語の探究―限りなきことばの知恵―』(2008)pp.77-78

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閲覧できた図書は、コメニウス生前の 1650 年代のものから 1752 年刊行のもの、すなわ

ち約 1 世紀間のものに限られ、この間の『前庭』の諸版本すべてを網羅するわけではない。

また、筆者の不十分なラテン語能力故に内容理解に至らぬ点を残している。こうした制約

下での調査はあるが、閲覧できた教科書の大半がこれまで取り上げられることのなかった

貴重なものであり、それらを日本語教育の現場にあった実践者の視角から眺めると、コメ

ニウスの、またコメニウスの時代の第二言語教育の変化・発展過程が、経験的ないし具体

的に把握できる可能性があると考える。

とりあえず本稿では、初級段階レベルの教科書『前庭』、中でも教科書の中核をなす「本

文」に限定して報告と考察を行なうが、参考までに、現代の第二言語教育(ここでは外国

人のための日本語教育)との比較を容易にするため、実際の初級日本語教科書における本

文構成を、現在海外で も広く使われているという『みんなの日本語:初級Ⅰ・初級Ⅱ』2

を例に示しておく。この教科書はⅠ、Ⅱ合わせて 50 課で構成され、各課に本文があり、

それは①平叙文で示される「基本文型」、②問答文からなる「例文」、③一定の場面・ストー

リーの中で交わされる「会話」とからなる。各課の新出語彙ならびに本文の対訳はすべて

分冊(各国語版がある)となり、日本語だけの本冊から分離されている。

1 『前庭』とは何か、その位置

ラテン語教育のためにコメニウスが、そして後の版によってはコメニウスの協力者が補

訂し刊行した教科書・教材は数も多く多岐にわたるが、それらの大まかな見取り図を現代

ドイツのコメニウス研究の泰斗クラウス・シャラ―が次のように図式化している3。

2 『みんなの日本語・初級Ⅰ』は『日本語の基礎』(初版 1973、海外技術者研修協会編)の改

訂版『新日本語の基礎Ⅰ』の姉妹編。筆者は『日本語の基礎』の作成チームの一員であった。

3 K.Schaller(2004)p.27

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この図が示すように、中央を上下に走る三本の線がコメニウスの言語教育体系の幹線で

ある。それは 下部の Vestibulum『前庭』から出発し、中央の Janua『扉』を経て 上

部の Atrium『広間』へと進む。『前庭』は入門・初級段階のクラス・学年の教科書であり、

『扉』は中級段階、『広間』は上級段階で使われる。幹線を表す実線は Nomenclatura(「分

類語彙表」に相当する。コメニウスにおいて語彙は文の中で示されるため、これを「テキ

スト」ないしはテキストの中の「本文」と読み替える)、点線は Lexicon(「辞書」または

「レキシコン」)と Grammatica「文法」である。コメニウスは、この三段階に対応する

テキスト・辞書・文法を全て自ら作成し刊行している。しかもそれは、彼の厖大な全著作

のわずかな一部でしかない。

前庭‐扉‐広間という言語教育段階と教科書との相互関係は、 終的にはそれらが

Eruditionis scholasticae pars I Vestibulum 「学校教育・第一部:前庭」

Eruditionis scholasticae pars II Janua 「学校教育・第二部:扉」

Eruditionis scholasticae pars III Atrium 「学校教育・第三部:広間」

という名のもとにコメニウスの晩年の『大教授学全集』OPERA DIDACTICA OMNIA

(1657)にも収められ、確定をみたと言えよう。

なお、『前庭』の成立事情・経過を示すならば、コメニウスはまず中級段階レベルの『扉』

を完成し、続いて『扉』の前段階としての『前庭』の必要性を感じ、これに着手した。し

かしその後、コメニウスは新たな理念・思想に基づいて両者の内容を大幅に変更した。そ

のために、例えば日本では「初級・前庭」「第 2 版・前庭」(もしくは「テクスト・前庭」)、

「初版・扉」「第 2 版・扉」(もしくは「テクスト・扉」)といった呼び方で改訂前と改訂

後を区別している4が、本稿では便宜的に前者を前庭(または扉)A、後者を前庭(または

扉)B とよぶことにする。

『前庭』と『扉』の、それぞれの初版の刊行年と刊行地名を以下に記す。

○ 扉 A 1631 年 ポーランド、レシュノ

○ 前庭 A 1633 年 同上

○ 扉 B 1641 年 ポーランド、レシュノ

○ 前庭 B 1641 年 同上

○ 学校教育・第一部(=前庭 B) 1652 年 ハンガリー、サーロシュ・パタク

○ 学校教育・第二部(=扉 B) 1652 年 同上

扉 A、前庭 A、学校教育・第一部、学校教育・第二部は、いずれも 1657 年の『大教授

学全集』(略称 ODO)に入っていて、その完全復刻版が 1957 年にチェコ・プラハで出版

された。さらに現在、チェコ科学アカデミーから刊行中の『コメンスキー全著作集』(略称

4 鈴木秀勇(1960)pp.242-243

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JAKOO)「第 15 巻Ⅰ」(1992)と「第 15 巻Ⅳ」(2011)に、ODO 所収のものが校訂を経

て収められた。

2 調査内容

2.1 教科書『前庭』の標準モデル

『前庭』は「何度か書き換えられ」5、表紙の書名は「著者の知らないうちに様々な形に

変えられており」6、また前節で述べたように、前庭 A と前庭 B とでは、「スタイルはもと

より構成・叙述内容の点で根本的な変化がある」7。そこで本稿では、まず 初にコメニウ

スが決定版として自らの『大教授学全集』に収めたもの 2 種を標準モデルとした上で、そ

の時代に個別に教科書として刊行された 7 種の『前庭』の、主に構成・形態面での概要を

記すこととする。以下、1. 刊行年、2. 正式書名、3. 刊行地名、4. 著者/協力者、5. 紙

型、6. 本文の構成、7. 分量の順で示す。

まず、前庭 A の標準モデルとして

1. 1633年[以後 1636年、1657年(ODO)、1957年(ODO復刻版)、1992年(JAKOO)]

2. JANUAE LINGVARUM RESERATAE VESTIBULUM,quo primus ad Latinam

lingvarum aditus tircunculis paratur

3. Lipsia(現在の Leipzig、ライプチヒ)、ドイツ

4. Comenius

5. 初版未見。(JAKOO は、24.5×17cm)

6. 全 7 章、計 427 項目(通し番号付)

7. 現物未見。[JAKOO では、12 頁(1 頁 46 行)]

つぎに、前庭 B の標準モデルとして

1. 1652 年[以後 1657 年(ODO)、1957 年(ODO 復刻版)、2011 年(JAKOO)]

2. ERUDITIONIS SCHOLASTICAE PARS PRIMA VESTIBULUM rerum et

lingvarum fundamenta exhibens

3. Sárospatak(サーロシュ・パタク)、ハンガリー

4. Comenius

5. 現物未見。(JAKOO は、24.5×17cm)

6. 全 10 章、計 500 項目(通し番号付)

7. 1652 年版は未見。[JAKOO では、18 頁(1 頁 45 行)]

5 Steiner(2002)p.20 6 Brambora(1971)p.101

7 鈴木秀勇(1960)p.246

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なお、以下の調査対象教科書では、8. 調査地(所蔵書庫)、9. 標準モデルとの構成・内

容の相違点、10. 特記事項を加えて記す。

2.2 前庭 A の系列の教科書

① 1668 年版(便宜上、書名でなく刊行年度でよぶ。以下同様)

1. 1668 年

2. VESTIBULI Comeniani Editio novissima Cui accesserunt SENTENTIAE

QVAE DAM PROVERBIALES pro inferiorum Classium Tironibus

3. BEROLIN(Berlin、ベルリン)、ドイツ

4. Comenius/B.V.のイニシアルの人物

5. 16×9.5cm、厚さ 1.8cm

6. 本文全 7 章、計 853 項目(通し番号付)。見開き左頁に新出語彙の活用型とそのド

イツ語訳。右頁は二段組で左側ラテン語本文、右側ドイツ語訳。

7. 163 頁。諺・格言集 29 頁(ラテン語ドイツ語対訳)。中表紙等 7 頁。合計 199 頁。

8. Universitäts- und Landesbibliothek Sachsen-Anhalt, Halle. 図書番号 GC1113.

9. 項目数が大きく異なり(約 2 倍)、内容、特に冒頭部分に変更がある。(詳細は次節)

10. a. 表紙に Editio novissima( 新版)と銘打っているが、Methodus linguarum

novissima『 新言語教授法』(前庭 B 系列の教科書は、これに連動して変更

されている)の意味での「 新版」ではなく、旧版の前庭に則った修正版、つ

まり前庭 A 系列の改訂版である。

b. コメニウスの序はなく、イニシアル B.V.の署名付きの序文(1.5 頁)がある。

② 1685 年版

1. 1685 年

2. JANUAE LINGUARUM RESERATAE VESTIBULUM Germanico-Latinum a

JOH.AMOSO COMENIO primitus adornatum Eruditorum quorundam operâ

ac recensione ita de novo perpolitum, amplificatumque & in novum modum

3. Comenius/Gerogius Vechnerus(1590-1647)8

4. Lipsia(Leipzig、ライプチヒ)、ドイツ

5. 17.2×10.5cm、厚さ 3.4cm

6. 全 30 章、項目数 2,000(通し番号付)。見開き左右の頁番号は同一。左頁はドイツ

語、右頁はラテン語。

7. 本文 264 頁、インデクス(ラテン語とドイツ語)234 頁。序文(コメニウスとヴェ

ヒナーによる)12 頁。

8 M.Blekastad(1966) p.169,p.871、A.Molnár(ed.1987)p.368 に拠る。

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8. Muzeum Komenského,Přerov. 図書番号 Stk 92. Universitäts-Landes-bibliothek,

Sachsen-Anhalt,Halle. 図書番号 PonⅡg421.

9. 前庭 A に従っているが、章数・項目数とも分量が大きく増大し、内容も大幅に変

更されている。例えば、「学校」の章の項目数は、標準モデルの 32 に対して 101

項目、「生き物」の章では、標準モデル 13 に対して 94 項目である。

③ 1702 年版

1. 1702 年

2. JANUAE LINGVARUM Reseratae Aureae VESTIBULUM,quo Primus ad

Latinam aditus Tirunculis paratur Cum versione interlineari Germanica,

Hungarica et Slovonica

3. Comenius

4. Letschovia(現在の Levoča、レヴォチャ)、スロヴァキア

5. 16.5×10cm、厚さ 2cm

6. 項目数 860(通し番号は付けられていない)。項目ごとにラテン語文・ドイツ語訳・

ハンガリー語訳・スロヴァキア語訳が縦に並ぶ。

7. 本文 109 頁、インデクス 71 頁、序文 4 頁。

8. Universitäts- Landesbibliothek,Sachsen-Anhalt,Halle. 図書番号 UngⅢA135.

9. 標準モデルと基本的に一致するが、変更・追加部分も多い。

10. 1715 年、1722 年、1747 年、1753 年、1769 年に重版されている9。

④ 1752 年版

1. 1752 年(表紙では発行年の印刷部分が欠損している。1749 年の可能性もあり)

2. IANVAE LATINITATIS VESTIBULUM QUO Primus ad Latinam Linguarum

aditus tirunculis paratur CUM VERSIONE INTERLINEARI GERMANICA

EDTUM

3. Comenius

4. Dretzden(現在の Dresden、ドレスデン)、ドイツ

5. 17×11cm、厚さ 2cm

6. 項目数 885(通し番号なし)。見開き左右頁は同一番号、左側頁にラテン語文とド

イツ語訳とが縦に並ぶ。右側頁は新出語彙の活用型の表示と語彙のドイツ語訳があ

る。

7. 本文 200 頁、目次(Register)24 頁、序文(コメニウスによる)5 頁

8. Eriziehungsbibliothek von Universität Halle-Wittenberg. 図書番号 Ad75c.

9 H.Glück,et.al.(2002) p.37

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9. 標準モデルと同一であるが、1668 年版、1702 年版と共通の変更点がある。

10. 表題・副題ともに 1702 年版とほぼ一致する。

2.3 前庭 B の系列の教科書

⑤ 1649 年版

1. 1649 年

2. VESTIBULUM Latinae Linguae:Rerum & Linguae cardines exhibens (ad leges

Methodi Lingaurum novissima concinnatum) Vor=thür Der Lateinischen

Sprache

3. Comenius

4. おそらく Lesno10(レシュノ)、ポーランド

5. 15.5×10.5cm、厚さ 5cm

6. 本文全 7 章、計 500 項目。

7. 本全体で 917頁。そのうち『前庭』の部分は 336頁。その内容は、序文・案内(Invitatio)

7 頁、全文ドイツ語訳付。本文 50 頁、対訳なし。「利用指針」(Informatorium ad

Paedagogos)36 頁、辞書 128 頁(語彙数約 4,000)、文法の基礎 38 頁。基盤語彙

集 70 頁(abc 順のドイツ語語彙リスト約 2,300)

8. Franckesche Stiftungen-historische Bibliothek(フランケ財団歴史図書館)、

Halle. 図書番号 156J20.

9. 前庭 B の標準モデルよりも早く出版されたものであるが、内容はほぼ同一。但し、

通し番号 500 には 初にずれがあり(1649 年版の項目 1 は ODO では 41)、それ

が中間部で調整され、ODO 終項目 500 の内容は、1649 年版の 499 に相当する。

10. 本の後半 3 分の 2 は、『扉』本文と辞書・文法編である。

⑥ 1658 年版

1. 1658 年

2. JOH.AMOS.COMENI Eerste Deel DER SCHOOL-GELEERTHEYD, HET

PORTAEL:VESTIBULUM Inhoudende De Grondveste der dingen,en onser

Wijsheyd omtrent de dingen als mede der Latijinschen Tael met de

Moeder-tael;Toegeschickt Nae de Wetten des laetsten Spraeck-weeghs,en met

beel Beelden verlicht/met verlof en goetvindinge van den Schrijver(オランダ語)

3. Comenius/Jakob Redinger11 & J.S.、挿絵は Crispin de Pass12

4. Amsterdam、オランダ 10 実物では確認を見落とし、Brambora(1971)p.101 に拠る。 11 Johann Jakob Redinger(1619-1688)。A.Molnár(1987)p.364 に拠る。 12 Brambora(1971)p.55 に拠る。

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5. 18×11cm、厚さ 2.5cm

6. 全 7 章、計 500 項目(通し番号付)。項目 1~284 には見開き左側に本文、右側に

対応する挿絵があり、項目 285~500 は挿絵を欠き、左右頁とも本文掲載。各項目

は、ラテン語文とそのオランダ語訳が縦に並ぶ。

7. 序文・使用法 8 頁、本文 115 頁、文法 132 頁。索引はオランダ語 34 頁、ラテン語

24 頁、アペンディクス 7 頁。

8. Muzeum Komenského, Přerov. 図書番号 Stk19.

9. 本文の内容は、前庭 B の標準モデルと一致するが、項目 1~284(挿絵のある項目)

には、疑問詞(何、何処など)を含む質問文が付加されている。

10. 表紙タイトルにはオランダ語とラテン語が併記されている。

⑦ 1673 年版

1. 1673 年

2. JOH.AMOS COMENI Erster Teil DER SCHUL-GELEHRHEIT genennet DIE

VORTUHRE:Welche begriffet Die Grundlage der Dinge/und unserer Weisheit

um die dinge/als auch der Lateinishcen Sprachen/mit der

Muttersprache;zugerichtet Nach den Gesetzten der neuesten Lehrahrt/und mit

vielen Bildern erklärt(ドイツ語タイトル)

3. Comenius/Jakob Redinger&J.S. 挿絵は Crispin de Pass

4. Amsterdam、オランダ

5. 21.5×12cm、厚さ 2.5cm

6. 本文全 7 章、計 500 項目(通し番号付)項目 1~284 には、見開き左側に本文が右

側にそれに対応する挿絵がある。項目 285~500 には挿絵を欠き、左右頁とも本文

を掲載。各項目には、ドイツ語訳・ラテン語文・オランダ語訳が縦に並ぶ。

7. 序文 8 頁、使用指針 6 頁、左頁にのみ頁番号が入り、284 項まで 78 頁、500 項ま

で合わせて 112 頁。文法 86 頁、オランダ語索引 30 頁、ラテン語索引 23 頁、ドイ

ツ語索引 22 頁、アペンディクス 13 頁。

8. Muzeum Komenkého,Přerov. 図書番号 Stk20.

9. 1658 年版にドイツ語訳が追加されたもの。内容・挿絵は全く同一。

10. 表紙タイトルには、オランダ語・ラテン語・ドイツ語が併記されている。

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J.A.コメニウス原著『Vestibulum[前庭]』について ―初級段階・第二言語教科書の構成と変容―

41

3 考察

前章の調査結果に基づき、以下の比較考察を行なう。

3.1 本文と対訳・語彙との関係

本文と対訳を縦に並べる、またはそれらを左と右に分離し横並びとする、その場合、本

文が左、対訳が右、あるいはそれを逆にする、こうしたことは些細なことのように見える

が、実は教科書作成者の言語教育観や授業方法がそこに反映する。縦に並べることは、対

訳(学習者の母語)とラテン語(第二言語)の棒暗記が、左右に分離されれば、一方から

他方への翻訳作業が期待される。もしラテン語から母語への翻訳、つまり読解という受容

作業が優先されるならば、左・ラテン語、右・対訳の配置が自然だろうが、母語からラテ

ン語へという産出作業が重視されれば、その逆の配置となるだろう。こうした上下併記法

(Interlinear-methode)13か、読解重視か、作文重視かといったことは、その後のヨーロッ

パの伝統的な言語教育の世界でしばしば議論されてきたが、(例えばラテン語の練習用教科

書と銘打ったものがドイツ語の文章で埋め尽くされたりしているのは、産出活動が重視さ

れたことを物語る14)が、コメニウスが作成し、出版され続けた『前庭』が後に異なった

形態・形式をとるのは、その時々の教科書作成者や教師の教授観・経験の反映に他ならな

い。同様に、語彙とその対訳の欄を各頁に設ける、または本文の横(右頁、または左頁)

に置く、さらにはテキストに載せないといったことも教授法や業の進め方と関連する。コ

メニウスは詳細な辞書と文法を別に準備したが、もし語彙欄を項目ごとに設けるとなれば、

辞書は、少なくともクラスでは必要がないことを意味する。さらに進めば、対訳そのもの

をテキストから完全に除外し別冊にする方向があるが(『みんなの日本語』が採用したやり

方)、当時においても考えられたであろうか。いずれにしても、こうした『前庭』の変容の

過程に、現代の言語教育とも共通する、本文・対訳・新出語彙の配置に教師たちが苦心し

模索する様を見ることが可能である。

3.2 項目数の増加と番号付けの意味

標準モデルでは前庭 A でも前庭 B でも、基本的に単文、複文、さらには複数の文を一つ

の単位としてまとめて 1 項目とし、それに番号が振られている。ここで両者の本文の開始

部分をみておこう。

前庭 A(ODO、JAKOO) (1~5 は前置きの文章)

6 神(Deus)は無限(aeternus)で、この世(mundus)は有限(temporarius)で

ある。

13 Aronststein(1926)p.41

14 特に例示しないが、ハレ大学図書館でそうしたラテン語教科書を数点確認した。

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一橋大学国際教育センター紀要第 5 号(2014)

42

7 天使(Angelus)は不死(immortalis)で、人(homo)は死ぬもの(mortalis)

である。

8 体(Corpus)は目に見え(visibile)、精気(spiritus)は見えず(invisibilis)、霊

魂(anima)も同じ(iidem)である。

9 天(Coelum)は一番上(supremum)、大気(aër)は中間(medius)、大地(terra)

は一番下(infima)である。

(後略)

前庭 B(ODO、JAKOO) (1~40 は「案内」の文章)

41 全て(OMNIA)、何か(ALIQVID)、無(NIHIL)は、それぞれ名前がある。

42 全て(Ómnia)は、神(Deus)、この世(mundus)、人(homo)である。

43 何か(Aliquid)は、物(res)、さま(módus)、動き(mótus)である。

44 物に、総体(tótum)、部分(pars)、欠如(deféctus)がある。

45 動きに、原因(causa)、力(vis)、方法(instrumentum)がある。

(中略)

56 精気(Spiritus)は、霊魂(ánima)、天使(ángelus)、悪霊(diábolus)である。

(後略)

現代の第二言語教育に携わる者には、これらが初級段階教科書の冒頭とは信じ難いかも

しれないが、本稿では内容の問題に立ち入る余裕がない。ここでは、こうした形式で番号

を付した文が連続し、その総数が前庭 A では 427、前庭 B では 500 あるという事実を確

認しておこう。しかし、前庭 A 系列の 1702 年版と 1752 年版にはその通し番号がなく、

筆者が数えたところ、それぞれ項目数が 860、885 に増えており、番号付きの 1668 年版

でも 853、1685 年版では一挙に 2000 に増大している。

なぜ項目が増えたか。それは複文を分割し、多くの場合、1単文=1項目となったから

である。そこには細かく区切った方がすっきりして見やすいことと、番号を付すことで学

習内容全体が数量で示され、学習者に到達目標を示す効果があるからであろう。(日本語教

育において、習得すべき漢字は 500 字、と入門期の学習者に示すのに似ている)、だが、

その数が 2 倍、3 倍となったらどうであろうか。学習内容が厖大との印象を与え、やる気

を殺ぐのではないか。番号を振らない版が出てきたのは、そのためでもあろう。

3.3 内容の変更

内容は、前庭 A と前庭 B とで大きく変わったほかは、1685 年版を例外として、基本的

に標準モデルと大同小異である。ただ、1668 年版、1702 年版、1752 年版に共通して標準

モデルと異なるのは、本文の冒頭部分である。それは、3.2 で示したものではなく、次の

ように変えられている。

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1 神は無限である。

2 (それは)本質(エッセンティア)において唯一である。

3 (それは) 形相(ペルソナ)において三位一体である。

4 創造主なる御父

5 救世主なる御子

6 成聖主なる精霊

7 この世は有限である。

(後略)

2 から 6 までの項目が新たに付け加えられたが、これはよりキリスト教の教義に近づけ

るためのものであり、言語教育上の配慮ではないだろう。だが、項目数 2000 を数える 1668

年版は、他との違いが甚だしい。項目の多さは、その他の版と同じく標準モデルの項目を

さらに細かく分割したからでもあるが、さらに加えて、コメニウスの原著に 2 倍以上の新

たな内容が追加されたためである。これは Georg Vechner(ドイツ名)によってなされた

ようで、もはやコメニウスの著作とは言えないかもしれないが、しかし基本的には前庭 A

の構成と内容を踏襲しているし、かつ改作・追加部分には、言語教育の立場から興味深い

点が指摘できる。それは、良かれ悪しかれ百科全書的内容で語彙の羅列的になっているも

との文章を、一定の意味・ストーリーのもつ文脈に作り替える試みがなされた、という点

である。これは、総合的な前庭Aが分析的な前庭Bへと転換したのとは全く逆の方向であっ

たといえる。例えば、本文冒頭の部分は、次のようになっていて、これが先に示した教科

書の変更部分の前に置かれている。

26 事物の全世界にあらわれるものは、

27 神か、神のものか、神の下にあるもので、

28 それぞれが自らの自然と個性と違いをもち、

29 同時に互いに一致する。

30 以上の 高の規定を保持せよ。

31 それでは、神と自然は空しく何もしないのか。

32 そうではなくて、確かな原因からすべて何であれ物事は始まる。

33 そして正しい利用と効果を目指す。

34 お前は全てにおいてこれに学びなさい。

35 さらに神のみが無限であり、全能であり、全知であり、至聖であり、 も自由なも

のであり、

36 創造主にして全事物の保持者、全世界の審判者、 強の処罰者なのだ。

37 エッセンティアは唯一であり、ペルソナは三位一体だ。

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キリスト教に詳しくない筆者にはわからないところだらけだが、1668 年版、1702 年版、

1752 年版に追加されている項目 37 一文のために、それをさらにわかりやすくするための

試みとして、新たな文脈・ストーリーが追加されたと理解することは可能である。このよ

うな形で、前庭 A の他の部分も膨れあがるわけであるが、言語の教育・学習内容を一定の

つながりのある文脈で提示する、このことは、会話であれ読み物であれ、現代の第二言語

教育が常に腐心していることである。(『みんなの日本語』では、「文型」「問答」の後に「会

話」がある。)こうした点は、コメニウス自身が『扉』他の教科書でも実行しているが、そ

れを『前庭』においてもコメニウスの仲間が試みたことは、大変示唆的である。

3.4 ラテン語名言集補充の意味

1668 年版の特異性は、ラテン語の諺・格言集がつけ加えられていることである。そこで

は計 355 の文章が abc 順に並べられている。コメニウスには、『ラテン語の前庭の捕逸』

と称される abs 順に並んだ 700 の単文集があり、それは「小処世訓」のような内容で、「『前

庭』の学習を終えた後に『言語の扉』の入り口へとつながるものとして用意された著作」15

という。このラテン語の諺・格言集を加えた B.V.氏は、あるいはこの『捕逸』を意識し、

その形式に倣って、授業を楽しくするために諺・格言集を作成したのかもしれない。語弊

があるかもしれないが、コメニウスの作る教科書の内容はいずれも生真面目すぎて、現代

においてこれを実行すれば放り出したくなるだろう。一方、諺・格言は人生訓の、また隠

喩・暗喩などレトリックの世界であり、言葉遊びの面を濃厚にもつ。これが「いろはがる

た」のように言語学習の分野で利用されるまでの距離は近い。コメニウスは上級の教科書

ATRIUM『広間』でふんだんにレトリック表現を取り入れ、教えることになるのだから、

このような諺・格言集が『前庭』に加わることに違和感はなかったであろう。この点はさ

らに検証の必要があるが、1668 年版の追加部分は、『前庭』の一つの発展形態を示唆する。

3.5 前庭 B の系列教科書の項目数 500 の意味

今回の対象となった B 系列の『前庭』の項目数はいずれも 500 である。しかしながら、

標準モデルに先立つ 1649 年版は、おそらく初版であるが、番号の開始は本文の冒頭の

INVITATIO(前書き部分)の文章からではなく、実質的な本文からである。すなわち、

1 全て(OMNIA)、何か(ALIQVID)、無(NIHIL)は、それぞれ名前がある。

となっている。一方、標準モデルも 1658 年版も 1673 年版も、上記の文の番号は 41 であ

る。そして、これらは全て 終項目の番号は 500 である。このことは、前庭 A の場合、項

目が細分化され増えていったのとは逆に、1649 年版の 500 項目は、それに続く後の版に

おいて 460 項目に縮小されたことを意味する。調査の結果、それは主に本文の前半部分の

15 井ノ口(1998)p.131

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複数の項目が一つにまとまることで調整され、280 あたりからは、両者の内容は 1~2 番

のずれでほぼ同内容になることが確認された。前庭 A の系列の教科書のような大きな内容

変更は前庭 B の系列には生じていないことが、今回の調査範囲内ではあるが認められた。

3.6 挿絵と質問文をもつ『前庭』

コメニウスの『世界図絵』(1657)は、挿絵付の言語教育・学習教材、あるいは世界初

の教育絵本として有名である。しかしながら、それはシャラ―の図で『扉』のヴァリエー

ションとして位置づけられているものの、『扉』の本文そのものの視覚化ではない。また『前

庭』の本文を視覚化したものでもない。ここにとりあげた前庭 B の系列の 1658 年版と 1673

年版に添えられた挿絵は、実に『前庭』本文の忠実な視覚化の試みである。『世界図絵』の

中の挿絵との比較等検討すべきことは多いが、その一部を例示する(次頁)にとどめ、今

後の研究課題としよう。一つだけ補足すると、筆者はかつて言語教育の中で利用される「絵」

の意味・役割を考察した際に、コメニウス以後の絵の利用は、バセドウにせよヘルツェル

にせよ、総合的な利用に向かうのに対し、コメニウスにあっては分析的理解・方法が維持

されたとした16。1658 年版も 1673 年版も同一の挿絵を利用しているが、これらは、その

分析的方法をさらに徹底化したもの、と言ってよいかもしれない。

なお、これら挿絵付の文には疑問詞を含む質問文が新たに添えられている。絵は単に語

彙・概念・基本文型を学ぶためだけの補助ではなく、これをめぐって問答が成立すること

が重要である。第二言語教育における対話文・対話教育の意義とヨーロッパの伝統、その

中におけるコメニウスの位置については既に論じてきたが17、現代の代表的な初級日本語

教育教科書の本文構成「基本文型」「問答」「会話」が示すように、コメニウスの時代の『前

庭』の利用においても、問答が語彙や基本文型の習得と同様に重視されるべきものと認識

されたことの、一つの証しであろう。

コメニウスの完成した『前庭』は、誕生して以後1世紀間の修正・変容の歴史を含めて、

現代の第二言語教育の変遷と現実を映す鏡として存在している。

4 おわりに

本稿では、2013 年 9 月から 2014 年1月までドイツ・ハレ市のハレ・ヴィッテンベルク・

マルチン・ルター大学で日本語教育に携わるかたわら、同大学図書館ならびにフランケ財

団歴史図書館で閲覧できたものと、2012 年 6 月と 11 月にチェコ・プシェロフ市コメニウ

ス博物館で撮影を許されたものを中心に、調査報告ならびに一通りの考察を試みた。今回

は、形態・構成上の観点からの考察が主であり、内容にはほとんど及んでいない。また、

教科書の使用に関しては、コメニウス自身が、またその協力者が詳細な利用方法を序文や

16 松岡(2008) 17 松岡(2012)

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著作で示していて18、本来ならばそれを踏まえるべきであり、協力者の役割や分担の範囲

についても検証の余地がある。ただ、今回の筆者の関心は、コメニウスの言語教育観やそ

れを支える哲学理念・宗教思想を純粋に探り出し確定することではなく、コメニウスを中

心として作成・刊行された教科書が、その後ほぼ 1 世紀の間にどのような姿をとっていっ

たかを具体的に捉えることにあった。そしてそこに、現代の第二言語教育が共有できる認

識と試みが確実に存在していたことは、若干指摘できたと思う。

Dankesworte

Ich habe in dieser Abhandlung 7 verschiedene alte Drucke von J.A.Komenský (Comenius)’s

“VESTIBULUM” behandelt und aus der Sicht eines Sprachlehrer für Japanisch als fremde

Sprache ihre Eigenschaften und ihre gegenwärtige Bedeutung herauszufinden versucht.

Ich möchte bei dieser Gelegenheit den zugehörigen Bibliothekarinnen & Bibliothekar von

Universitäts- und Landesbibliothek Sachsen-Anhalt, Martin-Luther Univerisität Halle

Wittenberg, von der Historischen Bibliothek in der Franckeschen Stiftungen und von

Muzeum Komenského v Přerově meinen aufrichtigen Dank aussprechen. Sie haben mir bei

meiner Forschungsarbeit freundlich geholfen und alle notwendige Materialien und alte

Bücher zur Verfügung gestellt.

参考図

1) 1658 年版 224、225(「学校」の章)のオランダ語対訳・ラテン語本文と挿絵

2) 1668 年版 511、512(「学校」の章)語彙表とラテン語本文及びドイツ語対訳

18 これについては松岡(2001)で、藤田輝夫訳コメニウス著『ラテン語学習についての教授学

研究』(私家版)に拠りつつ、コメニウスの指示による『前庭』の使い方を紹介した。

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3) 1685 年版『前庭』1255~1257(「学校」の章)ドイツ語対訳とラテン語本文

4) 1702 年版(「学校」の章)ラテン語本文とドイツ語・ハンガリー語・スロヴァキア語対訳

5) 1752 年版(「学校」の章)ラテン語本文・ドイツ語対訳と語彙表

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絵」のない『世界図絵』までの風景―」『東海大学紀要 国際教育センター 第 2 号』東海

大学

(まつおか ひろし 商学研究科 MBAコース日本語担当講師)