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●自由研究論文一
学級規範に関する子 どもの 捉 え方の
保育者 と小学校教諭 との 相違 川崎 医驅 期大学 中川 智之
くら しき作陽大学 西 山 修
岡山大学 高橋 敏之
1 問題
本研 究 の 目的 は , 幼保小 の 円滑 な接 続の 実現 を 目指 し, 保育者 (幼稚 園教
諭及び保育所保育士 )と小学校教諭 に見 られ る , 学級 規範 に 関す る 子 ど もの
捉 え方の 相違 を提 示す る こ とで あ る 。
近年 , 就 学前 教育 か ら小学校教育へ の 移行に 関す る 子 ど もの 不 適応 や , 小
学校 1年生 学級 にお ける授業の 混乱が 問題視 されて い る 。 例 えば 2008年度に
は , 東京都 公立 小学校の 内 , 約20%が 1年生学 級 にお け る不適応状 態 を経験
して い るω
。
一般 に 「小 1 問題 (小 1 プ ロ ブ レ ム )」 と呼 ばれ る こ の 現象 に
つ い て尾 木直樹 は , 学制以 来の 我が 国の 小 学校 教育史に お い て , 1 年生 の 授
業が不 成立 とな り, 「学級 崩壊」 に まで 至 っ た 経験 は今 口まで なか っ た と指
摘 す る〔2>
。 こ の よ うな状況 の 中 , 2008年 に は 「幼稚 園教育 要領」が 告示 され ,
今後 の 幼児教 育像 が 示 され た 。 民秋言 は, 今 回 の 幼稚 園教 育要領の 要 点の 1
つ と して, 幼小 の 円滑な接続 を目指 した , 発達や 学 び の 連続 性 を踏 まえた 幼
稚 園教育 の 充実 を挙げて い る(3)
。 さ らに 同年 に告示 され た 「保 育所保育 指針」
におい て も小学校 との 連携 に つ い て 明記 され ,こ れ ら連携 に 関す る 記載が ,
「小学校学習指導要領」に も新 たに盛 り込 まれ て い る 。 した が っ て, 幼保小
の 円滑 な接続は , 重要な実践的課 題 と して 共通理 解 され て い る と言 え よ う。
他 方 , 子 ど もの 規範意識 の 育成 も重要課題 とされ , 中央教育審議会は幼児
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の 現 状 に つ い て, 「自制心 や 耐性 , 規範意識 が 十分 に 育 っ て い ない 」 と指摘
して い る〔‘1,
。 2008年に改訂 され た 「幼稚 園教育要領 」及 び 「小学校 学習指 導
要領」で は, 道徳教 育にお い て , 幼稚 園で は 「規 範意識 の 芽生 え を培 うこ と」
が , 小 学校低 学年で は 「社会 生 活上 の きま りを身 に付 け , 善悪 を判 断 し , 人
間 と して して は な らな い こ と を しな い こ と」が, 従 来以上 に強調 され る こ と
とな っ だ5)
。 30年 ぶ りに取 りま とめ が進 め られ て い る 「生 徒 指導提 要」 に お
い て も , 規 範 意識の 醸成 が 重 要 な柱 と な っ て い る の は周知 の 通 りで あ る 。 幼
保小 の 接続の 問題 に お い て も, 無藤隆 は, そ の 重要なポ イ ン トの 1 つ に幼児
期 に お ける 「規範意識の 芽生 え」 を挙げて い る〔6,
。
小学校入学以 降 , 学習指導要領で 定め られ た 内容を , 限 られた 時 間や 条件
の 中で 学級集団の 全員が 習得 して い くた め に は , 子 ど もの 準備性 と して , 学
級 に お ける一
定の 規 範意識が 必要 と なる 。 小 学校 で は , 子 ど もの 生活 は ほ ぼ
学 級 集団にお い て 営 まれ, 学級 規範 を身に付け る こ とは必 須 と言 え る 。 しか
しなが ら , 幼稚 園や 保 育所 と小 学校 とで, 担任の 学級規範 に関わ る捉 え方が
異 な り, 子 ど もを戸惑 わ せ て い る可能性が あ る 。 こ こ に , 時間的な 連続性の
観 点か ら, 学級規範 に関す る子 ど もの 捉え方に つ い て , 保育者 と小 学校 教諭
との 相違 を , 実証的に示 す必要性 を指摘する こ とが で きる 。
従来の 幼保小の 接続に 関す る研 究や 実践 に は , 教育課程 に 関す る もの〔7’
,
幼児 と児童 との 交流 に 関す る もの(8)
, 職員問の 交流 に 関す る もの〔9)な ど多数
ある 。 しか し, 鈴木正敏 らが指摘す る 通 り,こ れ まで に明 らか に され た 課題
の 多 くは それぞれ の 実践 に 固有の もの と して 述べ られ るに 留ま っ て お り, 共
通 の 課題 や , 実践 に即 した具体 的手立 て を示 す た め に は, 保 育者 と小 学校教
諭が 了 ど もの 発達 を どの よ うに捉 えて い る か, そ の 共通点 と相違点を 明確 に
す る必要が ある
。 こ の よ うな , 保育者 と小 学校教 諭 にお け る考 え方や視点
の 違 い に 着 目した研 究 は少 な く,と りわ け , 学級経営上重要 となる学級規範
との 関わ りに お い て , 子 ど もの 捉 え方 の 差違 に焦 点 を 当て た実証的研 究は殆
ど見 当た らない。 また研究方法 と して は
, 同一
の 子 ども集団を調査対象 とす
る こ とが 望 ま しい が , 実施上 の 困難 さの た めか , その ような研究は 見当た ら
ない。
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学級規範に 関する子 どもの 捉 え方の 保育者と小学校教諭 と の 相違
そ こ で 本論で は , 後述 す る よ うに, 対象 とな る子 どもが ほ ぼ同一 とな る よ
う, 集中的な大規模調査 を実施 し , 詳細 な分析 を行 う。 具体 的 に は , 剛 ii県
全域 の 現職の 保育者 と小 学校教諭 を対象 に , 探 索 的因子分析 に よ り学級規範
に 関す る子 ど もの 捉 え方を測定す る リス トを作 成す る 。 また この リス トを用
い て, 幼稚 園教諭 , 保育所保育士 及び小 学校 教諭 の 職種別 , 経験年数別 に よ
る 捉 え方の 相違 を分析 し, 合わせ て リス トの 適用 ロ∫能性 を検討す る 。
ll 方法
1 項 目の 収集及 び精選
実践 で の 有用 性 を確保す る た め, 作 業 は あ らゆ る段階 で 現職保 育者 及 び小
学校教 諭 と協働 で 進 め た。 先 ず 中堅か ら熟練 の 現 職保育者 4 名 (幼稚園教諭
2名 , 保育所保 育士 2名), 及 び小 学校 教諭 4 名に , 規 範 に 関 わ る 内容 で 子
ど もを捉 える視点 につ い て 自由記述 で 回答 を求め た 。 こ の うち 4 名 に は後 日
面接 を行い, 記述 の 意 味内容や 意味の 微細 な差異 等 を聞 き取 り,項 目リス ト
作 りの 参考 と した 。 整理 にあ た っ て は で きる限 り得 られ た表現 を活 か し, 重
複する 内容は縮約 した 。
こ れ らに加 えて 「幼稚 園教育要領」「保育所保育指針」「小 学校 学習指導要
領」の 記述 を参考 に , 学級規範に 関連す る表現 を抽出 し整理 した 。 学級規範
に 関す る 内容は広 範 に渡 る が , 学級 を経営 す る上 で 把握 が 必要 とな る子 ど も
の 状 態 とい う点 を意識 しなが ら,項 目に 偏 りや 不足 が ない か 注意 を払 っ た 。
ま た , 近年我 が 国で 出版 され て い る学級規範 に関す る概 説書等 よ り内容 を付
加 した 。
さ ら に項 目の 内容的妥当性 を高め る た め , 新 た に研 究協力者 と して 幼稚 園
教諭 1 名 , 保育所保育士 1名 , 小学校教諭 1名 に参加 を求 め, 筆者の うち 2
名 (元小 学校教諭) と徹底 した検討を行い, 議論 に よ り項 目 を精選 した 。 そ
の 結果 , 47項 目が精選 された 。 各項 目は表現 を順 次修正 し , 各項 目の 差異が
明確且 つ 簡潔な質問項 目となる よ う整理 した 。 こ れ らの 項 目は, 幼保小の 種
別 に か か わ らず , 学 級 で の 規 範 に 関 わ る行動 を視 る 視 点 と し て 有用 で あ
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り, 1 つ また は少数の 項 目の み 重視 される とい うよ りも,
し合 うもの と考え られ る 。
こ れ らが 深 く関連
2 調査対象 及び時期
保 育者 及 び小 学校教諭の 学級 規範に 関わ る 子 ど もの 捉 え方の 相違 を明 らか
にす る こ とを念頭 に , 十分 な被調査 者 を確保 する た め, 岡山県内の 全 て の 幼
稚 園 , 保 育所 , 小 学校に質問紙調 査 を実施 した 。 先 ず , 岡 山県の 公 立幼稚 園
一覧 , 私立学校
・覧 , 保育所
一覧を用い て , 2008年 3月中旬〜 下旬 に郵送 法
に よ る 質 問紙 調査 を実施 した (国立幼稚 園 1 園, 公 立幼稚 園299園 , 私立幼
稚 園34園 , 公 立 保 育所207園 , 私立 保育所194園)。 回収 率 は 園 数 ベ ース で
57.7% , 424園か ら回答 を得た 。 こ れ らの 回答の うち,年 長 児担任 の 保 育者
を分析対 象と した 。 そ の 結果 , 対象者 は445名 (園別 :幼稚 園教諭236名 , 保
育所 保育± 204名 , 幼保不明 5 名。 性別 :男性14名 , 女性431名) とな っ た 。
平均 年齢 は36.67歳 (標準偏 差10.46), 経験年数 の 平均 は 14.62年 (標準偏差
10.40) で あ っ た 。
次 に, 岡ILI県の 公立小 学校
一覧 , 私立 学校
一覧を用 い て , 2008年 5 月中旬
〜 下旬 に 郵送法に よ る質問紙調査 を実施 した (国立小学校 1校 , 公立小 学校
425校 , 私立 小 学校 3校 )。 回 収率は学校数ベ ー ス で 53.4% ,229校 か ら回 答
を得 た 。こ れ らの 回答の うち , 1年生担任の 教諭 を分析 対象 と した 。 そ の 結
果 , 対象者は307名 (性別 :男性 27名 , 女性280名)と な っ た 。 平均年齢 は41.42
歳 (標準偏差9.62), 経験 年数 の 平均 は 17.82年 (標準偏 差9.95) で あ っ た 。
リス トの 構 成 に 関す る全 て の 質問項 目の 回答に欠損の なか っ た保育者 及 び
小 学校教諭752名 (性別 :男性 41名 , 女性711名)を こ れ 以降の 分析対象 とし
た 。 平均年齢 は38.61歳 (標準偏差 10.38), 経験年数の 平 均 は 15.93年 (標準
偏 差10.33)で あ っ た 。
3 調査内容
学級規範に 関わ る子 どもを捉える視点 を問う47項 目で あ る 。 年長児担任の
保育者へ の 質問は 「今年度卒園する 園児の 様子 に つ い て, 先 生の 考 えに合う
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学級規範に 関する子 どもの 捉 え方の 保育者 と小 学校教諭 との 相違
数字に○ を付 けて くだ さい 」 と した 。 1 年生担任教諭へ の 質問 は 「今年度入
学 した 1 年生 の 様 子 に つ い て (以 ド同 じ)」 と した 。 回答 は 「非常 に 当て は
まる」「当て は まる 」 「や や 当て は まる」「や や 当て は ま らない 」 「当て は ま ら
ない 」「全 く当 て は ま らない 」 の 6段 階 (6 〜 1 点)で 得点化 した 。 自己研
修等で の 活用 を意図 して, 小 さな変 化 も捉えや すい よ う6段 階評 定 と した 。
また, 規範意識 の 育 ち に 関 して , 「規 範意識 が 年齢相 応 に 育 っ て い る 」 か 否
か , 保育者 と小 学校教諭 の 捉 え方を尋ね る た め , 質問項 目を 1 つ 付 加 した 。
回答形 式 は同様 の 6段 階評定 と した 。
回答 は無記 名 と し, 基礎的事項 と して 保育者用 に は 「園名」「性 別」「年齢」
「経験 年数」等 , 小学校 教諭用 に は 「学校名」「性別」「年齢」「経験 年数」
等の 記入 を求め た 。
皿 分析 と結果
1 リス トの確定
先ず , 各項 目の 度数分布を検討 し偏 りが 見 られ た項 目を除外 した 。 また ,
冗長性 を項 目間の 相 関行列 に よ り検討 した結果 ,.70以 上 の 相 関係数が 存在
した た め , 項 目内容 を吟味 しい ずれ か一
方の 項 目を削除 した 。 本論で は , 残
っ た 43項 目 に対 して 最尤法 に よ る探索的因 子分析 を行 っ た 。 因子解 を順次検
討 した結 果 , 固有値 の 変化 , 寄与率 , 解釈 可 能性 に 基づ い て , 3 因子構造が
妥 当で あ る と考 えられ た 。
実用上 も研 究上 も , 少 な い 項 目数 で 学級規範 に 関わ る主要 な内容 を網羅 し
て い る こ とが 大切 で ある 。 そ こ で 当初 の Promax 回転後の 因子 パ ター
ン 行列
に着 目 して, 共通性や 因子負荷 量が低 い 項 目, 複 数の 項 目 にわ た っ て 因子負
荷が 高い 項 目な ど を削除 して い っ た 。 た だ し数値の み で 判 断せ ず , 項 目内容
やバ ラ ン ス を吟味 しつ つ, 取捨選択 を行 っ た 。 こ れ らの 作業は , 先 の 研究協
力者 と進 め た。 最終 的 に 各因子 7項 目 , 合 計21項 目を 「学級規範に 関わ る 子
ど もを捉 える 視点 リス ト (List of viewpoint that evaluates children for class
norm ;以 下 , 学級 規範 の 視点 リス トと称す)」 と して 確定 した 。 最終項 目,
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Promax 回転後の 因子パ タ ーン
, 固有値 , 及 び 累積寄 与率 を表 1 に 示す 。
多 くの 項 目の 因子所 属 は, 明瞭 で あ る 。 因子 負荷量 .40以 上 の 項 目に 着 目
す る と , 第 1 因子 は, 学級 に お ける きま りの 遵守や , 静か で 落ち着い た行動 ,
1幀番や並 び 方 な ど集 団場面 に お ける 行動 の 調節 に関連する項 目で あ る。 自己
統制の 力 を持ち , 周 囲の 状 況 に 合 わせ て 自律的に行動する こ とが 可能か ど う
か , とい う視 点 と も言 え る。 こ れ らを踏 まえて第 1 因子を 「自律的な集団行
表 1 学級規 範 に関 わ る子 ど も を捉 え る視点 リス トの 探 索的因子分析 の結果 (最尤
法 ・Promax回転)
項 目 FI F2 F3 h2
第 1 因子 「自律的 な集団 行動に 関す る視点」 1 静か に話 を聞 くこ とが で きる
4 落 ち着 い て待 つ こ とが で きる
7 まっ す ぐに 並ぶ こ とがで きる
10 きま りを守 っ て 生活する こ とが で きる
13 順番 を守る こ とが で きる
16 時 間が きた ら活動をや め る こ とが で きる
19 整理 整頓 をする こ とがで きる
第 2 因 子 「利己的 ・反社 会的 な行動 に 関す る視 点」
2 ず る を して 嫌 な こ とか ら逃げ よ うとす る
5 うそ をつ い た りご まか した りす る
8 友達をい じめ る
11 先生 に さか らっ た り口答 えを した りす る
14 勝 手に人 の もの を使 っ た りとっ た りす る
17 友 達 をた たい た りけっ た りする
20 わ が ままをす る
第 3 因子 「利他的 ・向社会的な行動に 関する視点」
3 喜ん で 人の 役 に立つ こ とが で きる
6 よい と思 うこ とを進 ん で す る こ とが で きる
9 大 人の こ とを信頼 して い る
12 友達に 親切 にす るこ とが で きる
15 日常 的なあい さつ をする こ とが で きる
18 み ん な が使 うもの を大切 にす る こ とが で きる
21 きちん と した言葉を使 うこ とが で きる
.972 .072
.776 −.019
.751 .098
.615 −.049
.469 −.143
,445 −.026
.434 .059
.154
.218 ユ06−
,094一
ユ33−.271
− .236
.757.735
.644
.643。625
.609
.505
一.048 .106
.006 .035−.030 −
.148 .202 − .046
ユ99 .069
.170 − .159
.273 − ,063
一.102
.034.053.136ユ16.201240
一.088
− .035−
.148
.079.098.137
.052
.779
,778
.551
.518
.471
.459
.401
.747,658
.538.559
.427.385
.349
518
.414
.446
.436
.433
.519.410
.485
.584
.386
.494
.346.484.440
固有値
累積寄与率 (%)
8.530 2,013 1.20337.208 44.251 47895
注)項 目番号は リナ ン バ リン グ して い る ,,
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学級規範に 関す る子どもの 捉 え方の 保育者 と小 学校教諭 と の 相違
動 に 関す る視点」 と命名 した 。 第 2 因子 は , しな けれ ばな らない こ とを避 け
うま く立 ち回 る行動や , 友達 や 先生 に対す る 攻 撃的 な反社会 的行 動 な どに 関
する項 日群 と言える 。 また こ れ らの 項 目は, 自分の 利 益や 欲 求 を重視 した 自
己本位の 行動 とも考え られ る 。 そ こで 第 2 因子 は 「利己 的 ・反社 会的 な行動
に関す る視点」 と命名 した 。 第 3 因子 は , 他者の 利益 をも考 え , 公共性や社
会性の あ る対人 行動に 関する項 目群 と言 える 。 こ れ らの 点 で, 周 囲の 状況 に
応 じた 集団行動を示す第 1 因子 とは対照的に , 主 に対人場面 にお ける 道徳 的
判断や 内発的な意思 に基 づ い た向社 会 的な行動 を表す と考 え られ る。 そ こ で
第 3 因子 は 「利他的 ・向社会的 な行動に 関す る視点」 と命名 した 。 なお , 累
積寄与 率 は47.90% と比 較的 高 い 値 を示 した 。
適合度検定 の 結 果 は 有 意で あ っ た (κ 115。〕・381.99, p く.001)。 こ れ に よ り,
学級 規 範に 関す る子 ど もを捉 える視点 を, 3 因子構 造で 捉 え る こ との 有用性
を確認す る こ とが で きた 。 また, 各下位 リ ス トに つ い て α 係数を算 出 した
とこ ろ , 順 に 第 1 因子.876, 第 2 因子 .842, 第 3 因子.844で あ りい ずれ も高
い 値 を示 した 。 リス ト全 体に つ い て は .654で あ っ た 。 こ の こ とは , 各 リス ト
が一
貫 した概念 を測 定 して い る こ とを示す もの で あ り, 内的整合性 ,
一貫性
の 観点か ら十分 な信 頼性 を有 す る と言 える 。 た だ し , リス ト全 体 の α 係数
はや や低い 。 こ の た め 以下 の 分析 で は , リ ス ト全体得点 を用 い た分析 は避 け ,
下位 リス ト得点毎 の 分析 を中心 に結果 を提示す る 。
2 職種及 び経験年数 によ る学級規範 に 関わ る 子 どもの 捉え方の 相違
本論 の 目的の 1 つ で ある ,幼保小 の 職種 に よる学級規範 に関す る 子 ど もを
捉 える視点の 相違 を明 らか にす る た め,
以 下 の 分析で は , 学級規範 の 視 点 リ
ス トを援用 した 。 また, 幼保小 の 職種別 に よる相違 の 検 討 に加 えて
, 経験 年
数に よ る相違 に も注 目す る 。 学級規範 に 関わ る 子 ど もの 行動の 捉え方 は, 保
育者及び小学校教 諭の 教育観や信念 を反映する 内容だ けに, 教職経験 との 関
連が 予想 され る 。 そ こ で, 経験年数に よ っ て 視点に違 い が あ る か検討 す る た
め に , 岩立 志 津夫 ら(” :
な ど を参考に , 保育者及 び小学校教諭 を 3 群 に分 け
(初任 0 〜 5 年 , 中堅 6 〜20年 , 熟練 21年以 上 )群 間の 相違 を検討 す る 。 以
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下 の 分析 に は , 経験年数 な どに 記入漏 れ の な い 747名 (性 別 :男性40名 , 女
性 707名 。 平 均 年 齢38.64歳 , 標 準 偏 差 10.39。 経 験 年 数 15.95, 標 準 偏 差
10.35) を対象 とす る 。
学級規範の 視点 リス トに お ける下位 リス ト毎 の 得点 を従 属変数 , 職種 (幼
稚 園教諭 , 保育所保育士 , 小学校教 諭), 及び 経験 年数 (初 任 , 中堅 , 熟練)
を被 調査者 間 要因 と した 2 要 因分散分析 を行 っ た 。 表 2 に は, 群毎 に 学級規
範 の 視点 リス トの 下位得点の 平均値 , 標 準偏差及 び分散分析 の 結果 を示 した 。
(1) 「自律的な集団行動に関す る視点」の相違
学級規範 の 視 点 リス ト群 の 1 つ で ある 「自律的な集団行 動 に 関す る視 点」
につ い て, 職種(3)× 経験年数(3)の 2 要因分散分析 を行 っ た 。 そ の 結 果 , 職種
表 2 職種 ・経験 年数 に よ る下 位 リス ト等の 平均 得点 , 標準偏差 及び 分散 分析 の 結
果 (F 値) N = 747
主効果幼稚 園教諭 保育所保育± 小学校教 諭 交 互作用 職種 経験年数
1 第 1 因子 「自律的 な集 団行動に 関す る視点」
任
堅
練
初
中
熟
30.85 (4.50) n =61
32.29 (4,40) n = 92
32.59 (3.73) n = 83
18,21 (4,04)17.29 (4.68)17.20 (4.35)
33.41 (3.23)33.(〕4 (3.74)32,64 (3.37)
4.70 ( .78)479 ( .76)
4.80 ( .66)
28、53 (5ユ1) tl = 5329.06 (4,50) n =11228.05 (5、66) n =39
26.72 (4.08) n =5827.61 (5.{)2) n =lO926ユ6 (4.79) n =140
2 .第 2 因子 「利己的 ・反社会的な行動 に関す る視点」
3 .第 3 因子 「利他 的 ・向社会 的な行動に 関す る視点」
任
堅
練
任
堅
練
初
中
熟
初
中
熟
4 .規範意識の 育ち に 関す る認知
任
堅
練
初
中
熟
23.11 (5.25)21.78 (4.58)22.87 (5.48)
3L26 (3.84)31.31 (3.74)29.59 (473 )
4.47 ( .91)4.40 ( 80)
4.38 ( .94)
20.19 (4.98)19.39 (4.76)20.42 (5.06)
30.31 (3,48)29.94 (3.55)28.64 (3.84)
4.24 ( .92)4.17 ( .91)3.96 ( .98)
75.69* *
2.82
53.81* *
2.8ユ
1.67
.56
53,17”
7.94’ *
.73
34.67* *
.66 1,07
*“P〈 .OI
“P <.05
注)( )内は標準偏差を示す 。 人数 (n )は 1.の み示 した 。 各群 の 人数は,全 て 同 じ 。
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学級規 範 に関す る子 ど もの 捉 え方の 保育者 と小学校教諭 との相 違
の 主効果 が 1 %水準で 有意で あ っ た (F〔,、 73s) ” 75.69,
p <.01)。 交互 作用 は ,
有意 で は なか っ た 。 そ こ で 多重比 較 (Bonferroni法 。 以 下 , 全て 同 じ)を
行 っ た と こ ろ , 全 て 有意で あっ た (p < . 01)。 「自律 的 な集 団行 動 に 関す る視
点」 は, 総 じて どの 経験年数にお い て も, 幼稚園教 諭 , 保育所保 育士 , 小学
校教諭 の 順 に得点が 高い と言 える 。 解 りや す さの た め, 図 1 に こ れ を 図示 した 。
(2) 「利己的 ・反社会的な 行動に 関する 視点」の相 違
「利 己的 ・ 反社 会的な行動 に 関する視点」 に つ い て, 職種〔3)× 経験 年数(3)
の 2 要因分散分析 を行 っ た 。 その 結果 , 職種の 主効果が 1 %水準で 有意 で あ
っ た (F〔:,,、)= 53.81
, p 〈.01)。 交互 作用 は有意 で は なか っ た 。 そ こ で 多重比
較 を行 っ た とこ ろ , 全て 有意で あ っ た (p <.01)。 「利己 的 ・反社 会 的 な行動
に関す る 視点」は , 総 じて どの 経験年数 にお い て も, 保育所保育士 , 小学校
教諭 , 幼稚 園教諭 の 順 に 得点が 高い と言 える (図 2)。
40
35
30 25 20
「
自律的な
集団行動に
関す
る
視点」
得点の
平均
値
図 1 職種 及び経験年数に よる 「自律的 な集 団行動 に 関 する視点」得点 の 平 均値
1齧:: Bk 得 焚 ・・
雛:図 2 職種及び経験年数に よる 「利己的 ・反社会的な行動に関する視点」得点の平均値
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(3) 「利他的 ・向社会的な行動に 関する視点」の 相違
「利他的 ・向社会 的 な行動 に 関す る視 点」につ い て , 職種(3)× 経験年数(3)
の 2 要 因分散分析 を行 っ た 。 そ の 結 果 , 職種 と経験年数の 主 効果が それ ぞれ
]%水 準 で 有意 で あ っ た (職種 , 経験 年数 の 順 に , F(2,738)
・53.17, 7.94,
全
て p 〈 .01)。 交互 作 用 は有 意 で は なか っ た 。 そ こ で 多重比 較 を行 っ た と こ ろ,
職種 に つ い て は全 て 有意 で あ っ た (p <.01)。 経験年数に つ い て は , 熟練 と
初任 ・中堅 との 問の 差 が有 意 で あ っ た (p < .01)。 こ れ らの こ とか ら , 「利他
的 ・向社会的な行動 に関す る視点」 は , 総 じて どの 経験年数 にお い て も, 幼
稚園教諭 , 保育所保育士, 小 学校 教諭 の 順 に得点が 高 い と言 える 。 また , ど
の 職種 にお い て も, 熟練の 得 点が低 い と言 える (図 3)。
(4) 「規範意識の 育ち に 関する認知」の相 違
年齢相 応の 「規範意識の 育ち に 関す る認知」に つ い て, 職穂 3)x 経験 年数
如
35
30 25
20
「
利他的・
向社会
的な
行動に
関する
視点」
得点の
平均値
図 3 職種及び経験年数による 「利他的 ・ 向社会的な行動に 関する視点」得点の平均値
6
5
4
3
「
規
範意識の
育ちに
関する
認知」
得点の
平均値
図 4 職種及び経験年数に よる 「規範意識の 育 ちに 関す る認知」得点の平均 値
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学級規範に 関する子ど もの 捉え方の 保 育者 と小学校 教諭 と の 相違
(3)の 2 要 因分散分析 を行 っ た 。 その 結果 , 職種の 主効果が 1 %水準で 有意 で
あ っ た (F〔、.73s}=34.67,
p <.01)。 交 互作用 は有意 で は なか っ た 。 そ こ で 多重
比 較 を行 っ た と こ ろ , 全 て 有意で あ っ た (p <.01)。 「規範 意識 の 育 ち に 関す
る 認知」 は , 総 じて どの 経験 年数 に お い て も, 幼稚 園教 諭 , 保 育所保育士 ,
小 学校 教諭 の 順 に得 点が 高い と言え る (図 4)。
IV 考察
本論で は対象 となる 子 ど もが ほ ぼ 同一となる よ う, 集中的な大規模調査 を
実施 し , 学級規範 の 視点 リス トを作成 した 。 最 も注 目すべ きは , 学級規範に
関す る子 ど もの 捉 え方に , 職種毎の 明 らか な相違 が 示 され た点 で あ る 。
職種 毎の 捉 え方の 相違 は , 2 種類存在 した 。 1 つ 目は, 「自律的 な集団行
動 に 関す る視点」及 び 「利他 的 ・向社会的 な行動 に 関す る 視 点」 に お ける ,
幼稚 園教 諭, 保 育所保育士 , 小 学校教諭 の 順 に得 点が有意 に 高い もの で ある 。
具体的 に は , 学級にお け る きま りの 遵守や 行動 調節 な ど , 周 囲の 状 況 に合 わ
せ た 自律的 な行 動に 関する視点 と, 他者の 利益 を も考える, 向社 会 的行動 に
関す る視 点で ある 。こ れ らに つ い て は , 保育者 に 比べ 小学校 教諭が 厳 しい 捉
え方 を して い る と言え る 。 「規範意識 の 育 ち に 関す る 認知」で も同様の 傾向
が 見 られ , 規範意識の 育 ちに関する捉 え方 も, 保育者 に比 べ 小 学校教諭 は厳
しい と言 える 。
小 学校 入学以 降, 学級 集団や 班 で の 学習活動, 利他的な行動や責任が 求め
られ る係活動や 当番 活動 な どの 活動 が 増加 す る 。 小学校教 諭 の 要 求水準は ,
それ に 沿 っ て 規定され , 保育者 よ りも高い 水 準 に あ る と言 え よ う。 子 どもに
と っ て は , 小 学校へ の 入学 を契機 に様 々 な学級規範 を意識 した行動 を強 く求
め られ る よ うに な る と考 え られ る 。 こ れ らの 結 果は, 小学校教諭が 保育者 に
対 して , 子 どもに集団行動 を身に付 け させ る こ とを強 く望 ん で い る とい う調
査結果 とも合致する もの で あ る(12)
。 幼稚 園 ・保育所か ら小学校へ の 時 間的な ,
い わ ば 「タ テ の 連続性」 を考 える上 で,
こ れ らの 相違 を意識 する こ とが 大切
で ある 。
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2 つ 目は , 「利 己的 ・反社 会的な行動に 関す る視点」 に お け る, 保育所保
育士 , 小学校教 諭 , 幼稚 園教 諭 の 順 に得点 が有意 に高い もの で あ る 。 友 達や
先生 に 対す る反社会 的な行動や , 自分 の 利益 や欲 求 を重視 した 自己本位 の 行
動 に 関す る視 点で ある 。 小 学校教 諭の 捉 え 方は , 幼稚 園教 諭 と保 育所保 育士
の 中間的な もの で あ り, む しろ幼稚 園教諭 と保育所保 育士 との 捉 え方の 違い
を浮 き彫 りにす る結 果 とな っ た 。 本 論 の デ ー タは, 幼稚 園 と保育所で は別の
子 ど もを対象 と して い る こ と に 留意 は必 要 で あ る が , 他の 2 つ の 視 点 と異 な
る特 徴 を示 して い る 点 は 注 目に値する 。
幼稚園教諭 と保 育所 保育士 との 提 え方の 違 い が , 子 ど もの 過ご す人 的な環
境 を異 なる もの と して い る の で あれ ば , 小 学校 へ の 円滑 な接続に つ い て 検討
する際に も, それ ぞ れ別の 方策 を講 ずる こ とが 有効 と考 え られ る 。 また , 時
間的な タ テ の 連続性 に加 え, 幼稚園と保育所 との 連携 ・交流 に よる 「ヨ コ の
連続性 」の 確保 も必要 で あ ろ う。 しか しなが ら一 般 的に は , 学級規範 に関 し
て 幼保 小が 連携 ・交流 す る 機会 は ほ とん どない 。 そ こ で , 例 えば , 幼保小 そ
れ ぞ れ の 学級場 面 にお け る観察 と協議 の 場 を合 同で 設 け , 互い の 相違点 を認
識す る とと もに , 白身の 捉 え方 を見 直す機会 とする こ とが 考 え られ る 。 相互
理 解や 連携を 一一層深 め
, 幼保小 の 接続 を意識 した新た な実践 が展 開する こ と
が期待 され る 。
他方 , 担任の 経験 年数 に よ る相 違 はほ とん ど見 られず , 「利他的 ・向社会
的な行動 に関する視点」の み , 熟練 の 得点が 有意 に低か っ た 。 利他的 ・向社
会 的な行動は ,ロ∫視的な行動 だ けで な く, 状況 や子 ど もの 内的な心情 と も密
接 な 関連 を もつ もの で ある 。 保 育者や小 学校教諭 と して 様々 な経験 を積む こ
とに よ っ て , 真 に利 他的 ・向社会 的 な行動 を判別 し得 る と言える 。 こ の た め,
熟練 の 保育 者 ・小 学校 教 諭 ほ ど捉 え方が厳 し くな っ た と も考え られ る 。 しか
しなが ら全般 的 に は, 子 どもの 捉 え方に経験 年数 に よ る相 違 は ほ とん どな い
と言 え よ う。 学級規 範 に 関す る 3 つ の 視 点か ら見 た と き, 初任 , 中堅 , 熟練
に, 子 ど もの 捉 え方の 大 きな違い が ない こ とは特筆すべ き点 と言える 。
本論で は , 学級規範に関す る子 ど もの 捉 え方に職種毎の 明 らか な相違が示
され , 幼保小の 隔た りや段差が 示唆 された 。 こ れ らが , 学校園 ・施設に お け
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学級規 範に 関する子 どもの 捉 え方の 保育者 と小 学校 教諭 と の 相違
る 目的を効果 的に達 成す る た め の 生活様式の 相違 に起 因する もの で あ る可能
性や , 小 学校入学 時の 段 差が , 子 ど もの 発 達 の 契機 と して意味が あ る とい う
主張〔13)
もある 。 しか し学級 は,
一旦 不 適応 な状況 に陥 る と
, 平常 な状 態に 回
復する こ とが極め て 困難で あ り(’4)
, 子 ど もへ の 影響 を考 える と き決 して 看過
で きない。 入学児 を受け入 れ る小学校教 諭に お い て は , 先ずは どこ に 隔 た り
が ある の か を理解 し, 年度 当初 は, 入 学児 に相応 しい 活 動 を周到 に 用意 し,
子 ど も自身に入学後求め られ る行動様式につ い て 意識化する 働 きか けが 重要
で ある 。 卒園児 を送 り出す保 育者 にお い て は , 卒園後の 生活 と園で の 生 活 と
の 相違点や , 入 学後必要 と なる行動様式に つ い て , 子 どもや 保護 者 に 周知 し ,
準備性 を高め る こ とが 有益 で あ ろ う。
保育者 と小 学校教諭 にお ける子 どもの 捉え方の 相違や , 学校園 ・施設に お
い て 求め られ る 行動様式 へ の 理解 を深 め る ため, 本論で 作成 され た リス トを
有効活用 す る こ とが 期待 され る 。 今回 の リス トに基づ く 「自律的 な集団行動
に関す る視点」 「利 己的 ・反社会的な行動 に 関す る 視 点」及 び 「利他的 ・向
社会的な行動に 関す る視点」 とい う 3 つ の 視 点 は, 子 ど もを捉 え る際 の 保育
者 と小学校教諭 との 相 違 を相互 理 解す るた め の 視点 を提供 し, 今後の 保育 ・
教育を検討す る際 の 共通基盤 とな り得 る 。 また本 リス トは, 保育者が 卒園 後
の 生活 を見据 えた成長を促す活動 を考 える際や , 子 ど もの 成長に つ い て 確認
す る際 に も活用す る こ とが で きよ う。
V 総括 と課題
本論 は , 幼保小 の 円滑 な接続 につ い て検討す る 際 に , 利用可能 な学級 規範
の 視点 リス トの作成を試み ,い くつ か の 分析 と考 察 を行 っ た 。 そ の 結果 , 次
の 点 が示 唆 された 。
(1) 「自律的 な集団行動 に 関す る 視 点」 「利 己 的 ・反 社 会 的 な行 動 に 関す る
視 点」及 び 「利他的 ・向社会的 な行動 に関す る視点」で 子 ど もを捉 えた と
き, 保育者 と小学校教諭の 間に は , 明 らか な相違が ある 。 幼稚園教諭 と保
育所保育士 との 問 に も, 子 ど もの 捉 え方に相違が あ る可能性が あ る。
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(2) こ れ ら職種 に よ る子 どもの 捉え方の 和 違が , 就学前か ら小学校へ の 接続
に影響 を及 ぼ して い る可能性 が あ る 。 た だ し学級規範 に 関す る子 ど もの 捉
え方 に , 経験年数 に よ る相違は ほ とん ど ない 。
(3) 本 論で作成 され た学 級規範 の 視点 リス トに よ り , 幼保小 の 相違 を 明示 す
る こ とが可能 で あ る 。 幼保小 の 円滑 な接続 を考える た め の 基本的 な視点 と
して 有 用で あ る 。
今後 , 本 リス トを援用 した 研 究 を展 開 し , 子 ど もの 捉 え方に 関する相違が
生 じる要 因や , それ が実 際の 保 育法や 指導法 に 及ぼ す 影響 を調査す る必 要が
ある 。 そ して , そ れ らが 子 ど もの 行動や 成 長に及 ぼす 影響 を検討 し , 研究を
蓄積す る中で, 幼保小 の 円滑 な接続の 実現 に 向けた提言 を重ね て い くこ とが
肝 要 で ある 。
[キーワ
ード]
学級規範 , 円滑 な接続 , 保育者 , 小学校教諭,子 ど もの 捉 え方
〈注〉
(1) 東京都教育委員会 『東京 都 公立小 ・中学校 にお ける 第 1 学 年の 児 童 ・生徒 の
学 校生 活へ の 適応状 況 に か か わ る 実 態 調査』東 京都教 育委員 会ホー
ム ペ ー
ジ,2009年 , 1 頁。
(2) 尾木直樹 『「学級崩壊」を ど うみ るか』H 本放 送出版協会 ,1999年 ,
4 − 5 頁 , 32
頁 。
(3) 民 秋 言 『幼稚 園教育要 領 ・保 育 所 保 育 指 針 の 成 立 と 変遷』萌 文 書 林 , 2008
年, 8 頁 。
(4) 中央教 育審議 会 『子 ど もを取 り巻 く環 境 の 変化 を踏 まえた 今後 の 幼児教 育の
在 り方 に つ い て 子 ど もの 最 善の 利益 の た め に幼児教育 を考え る』文部 科学省
ホ ーム ペ ー
ジ, 2005年 c
(5) 文 部科学省 『小 学校 学習 指 導要領 解説 道 徳編 』東 洋館 出版社 , 2008年 , 4
頁 ,139頁 。
(6) 無藤 隆 「幼小連携の 充実 に向けて 現場が取 り組む べ きこ と」ベ ネ ッ セ 次世代
育成研究所 『こ れ か らの 幼 児教育 を考 える 2009春号』ベ ネ ッ セ コ ーポ レ ー シ ョ
ン, 2009年 , 1 − 5 頁 。
(7) お茶の 水女 子大学附属幼稚 園小 学 校 『子 ど もの 学 び を つ な ぐ 幼稚園 ・小学
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学級規 範に関す る子 ど もの 捉 え方の 保育者 と小学校教諭 との相違
校の 教師で作 っ た接続期 カ リキ ュ ラ ム 』東洋館出版社 ,2006年 。
(8) 東京都 中央区立有馬幼稚園・小学校 『幼小連携 の カ リ キ ュ ラ ム づ くりと実践
事例 』小学館 , 2002年 。
(9) 三 重県津市 (リポ ー ト/ 矢ノ浦勝之)「1 学期 限定で 幼稚 園教 諭を小 学校に 派
遣 す る一 三 重県津 市の 取 り組み 」『総合教育技 術』第58巻 第10号 ,2003年,
68−
71頁 。
鈴木正 敏 ・秋田 喜代美 ・芦田 宏 ・角出 理 世 ・野 口 隆 子 ・小 田豊 「ビ デ オ再生
刺激法 を用 い た幼稚 園・小 学校教師の発達観の 比較研 究」『乳幼児教育学研究」
第 17号 , 2008年 , 117− 126頁 。
(11) 岩立 志津夫 ・諏訪 きぬ ・土 方弘子 ・金 田利子 ・木下孝司 ・齋藤 政子 「『3 歳未
満児用保 育の 尺度案1997』 に よる公 私 立差 ・地域差 ・保母の 年齢差 の 検討」『保
育学研究 』第36巻第 2 号 , 1998年, 87−93頁 。
板橋 区教育委員 会事務局学務課 『板橋区に お ける幼 児教 育振 興 の あ り方 に つ
い て』板橋区教育委員会事務局学務 課 , 2003年 , 28−29頁 。
秋出喜代美 ・佐 々 木晃 「小 学校 との 連携 に求 め られ る こ と (対 談)」無藤隆 ・
柴崎正行 ・秋 田 喜代美 『平成20年改訂幼 稚 園教 育要領 の 基本 と解説』 フ レ ー ベ
ル 館 , 152− 162頁 。
(14) 例 えば , 前掲書(1)で は , 不適 応状 況 が発 生 した 1年生 学級 の 内54.5%が , そ
の 状況が 年度末まで継続 した こ とが報告 されて い る 。
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