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JILPT 資料シリーズ 欧州諸国の解雇法制 ―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査― 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 The Japan Institute for Labour Policy and Training No.142 2014年8月

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  • JILPT 資料シリーズ

    欧州諸国の解雇法制―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―

    独立行政法人 労働政策研究・研修機構The Japan Institute for Labour Policy and Training

    No.142 2014年8月

  • 独立行政法人 労働政策研究・研修機構

    The Japan Institute for Labour Policy and Training

    欧州諸国の解雇法制―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―

    JILPT 資料シリーズ No.1422014年8月

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  • ま え が き

    本報告書は、厚生労働省の要請を受けて当機構が実施した「欧州諸国の解雇規制の現状の把握」に関する調査結果をとりまとめたものである。デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインの 4 カ国を対象に、2008年の金融危機後にこれらの国で実施された労働市場改革の内容と、その実態を中心に調査を行った。併せて、これら諸国が加盟するEUにおける解雇規制の現況を概観している。

    本報告書が欧州諸国の解雇規制の状況について理解を深める一助となれば幸いである。

    2014 年 8 月 独立行政法人 労働政策研究・研修機構

    理事長 菅 野 和 夫

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  • 2

    氏 名 所 属 担当

    濱口はまぐち

    桂一郎けいいちろう

    労働政策研究・研修機構 統括研究員 序章、附章

    猪木い ぎ

    祥司しょうじ

    デンマーク雇用省所管 労働環境改善・雇用安定推進基金 広報担当 第 1 章

    Aristea Koukiadaki マンチェスター大学 講師 第 2 章

    大木お お き

    正俊まさとし

    姫路獨協大学 准教授 第 3 章

    大石おおいし

    玄げん

    (独)国立高等専門学校機構 釧路工業高等専門学校 准教授 第 4 章

    執 筆 担 当 者(執 筆 順)

    ※2014 年 3 月 31 日時点

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  • 欧州諸国の解雇法制 ―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―

    目 次

    序章 欧州諸国の解雇規制の概観 ····································································· 1 はじめに ··································································································· 1 1 現行 EU 法における解雇規定 ·································································· 1 2 欧州各国の解雇法制の比較 ····································································· 3

    第 1 章 デンマーク ····················································································· 31 第 1 節 危機後の状況 ··············································································· 31 第 2 節 解雇法制の動向 ············································································ 32 第 3 節 雇用者と被雇用者(ホワイトカラー労働者)の法的関係に関する法の適用範囲 ·· 33 第 4 節 労使の評価 ·················································································· 34 第 5 節 終わりに ····················································································· 38 別添 1 ···································································································· 39

    第 2 章 ギリシャ ························································································ 49 はじめに ································································································· 49 第 1 節 危機前のギリシャにおける労働市場規制 ··········································· 50 第 2 節 債務危機の発生および第一回借款協定 ·············································· 53 第 3 節 第一回借款協定を踏まえた労働法改革 ·············································· 57 第 4 節 危機の悪化および第二回借款協定 ···················································· 63 第 5 節 第二回借款協定を踏まえた労働法改革 ·············································· 66 第 6 節 改革への厳しい評価 ······································································ 71

    第 3 章 イタリア ························································································ 79 はじめに ································································································· 79 第 1 節 解雇法制の発展 ············································································ 79 第 2 節 2012 年改正以前の規制内容 ···························································· 83 第 3 節 労働者憲章法 18 条改正の動き ························································ 87 第 4 節 2012 年改正の経緯と内容 ······························································· 89 おわりに ································································································· 96

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  • 第 4 章 スペイン ························································································ 99 第 1 節 はじめに ····················································································· 99 第 2 節 雇用契約の終了原因 ······································································ 99 第 3 節 集団解雇 ···················································································· 100 第 4 節 客観的原因による解雇 ·································································· 102 第 5 節 解雇紛争 ···················································································· 104 第 6 節 懲戒解雇 ···················································································· 105 第 7 節 欧州経済危機とスペインの労働市場改革 ·········································· 105

    附章 『雇用関係の終了-EU 加盟国における法的状況』(抄訳) ························ 109

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  • 序章 欧州諸国の解雇規制の概観

    はじめに

    欧州連合(EU)は、集団整理解雇に対しては指令(98/59/EC)によって一定の手続規制を加盟各国に求めているが、個別的解雇に対してはまったく規制をしていない。これは団結権やストライキ権、賃金などのように条約の制約によるものではない。むしろ欧州連合運営条約第 153 条第 1 項は、欧州連合の権限として「雇用契約終了時の労働者の保護」(第 d 号)を挙げている。EU レベルの解雇規制に条約上の制約は存在しない。1975 年に集団整理解雇指令が制定されたときの経緯を見ると、その準備のためにEC 委員会が 1972 年 5 月にまとめた加盟国の解雇規定の報告書は個別、集団両方の解雇を取り上げていたが、同年 6 月の閣僚理事会は集団解雇のみを扱うことを決め、それに沿って指令案が提出され、理事会で採択されている。 1990 年代にも個別解雇に関する EU レベルの立法への意欲が示されたことがある。1995 年の欧州委員会による中期社会行動計画では、個別解雇について各国の法制慣行を詳しく調査した上で、1996 年前半に労使団体への協議を開始する予定であると書かれており、その進捗状況報告でも 1997 年前半にも労使団体への第 1 次協議を行う予定と明記されていたのだが、調査報告書が 1997 年に出されただけで、お蔵入りとされた。以下に見るように加盟国間で法制があまりにも多様であり、限られた調和化すらも困難という判断があったものと思われる。この報告書はその後何回か改訂が加えられ、現時点の最新版は 2006 年版である。 もっとも、具体的な法規制としてではなく、一般的な理念の宣言という形では、不当解雇からの保護を謳う規定が存在する。2000 年に制定され、その後欧州憲法条約に盛り込まれたが仏蘭両国の国民投票で批准が否決され、現在は欧州連合条約第 6 条第 1 項により「本条約と同一の法的価値を有するもの」とされている EU 基本権憲章の第 30 条である。曰く:「すべての労働者は、EU 法及び国内法並びに慣行に従い、不当な解雇から保護される権利を有する」。直接裁判上援用しうる法的規範ではなく、何が不当な解雇に当たるかは国内法と慣行に委ねられているが、「不当な解雇」という概念がEU法として存在していることは確認されているということになる。

    1 現行EU法における解雇規定

    上述のように、集団整理解雇については EU レベルで指令が制定され、加盟各国の国内法となっているし、その他にも企業譲渡、男女平等など分野ごとの指令の中に、特定類型の解雇を規制する規定が盛り込まれている。ここではそれらを概観しておく。

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  • ( 1 ) 集団整理解雇指令(92/56/EC) 同指令は二つの柱からなり、一つは労働者代表への情報提供と協議の義務づけである。使用者が集団整理解雇を計画する場合には「合意に達する目的を持って」「集団整理解雇を回避、限定し、または結果を和らげる措置の可能性も含めて」協議をしなければならない。 今一つの柱は集団整理解雇の手続である。使用者はその計画する集団整理解雇について労働者代表への協議の状況も含めて管轄機関に書面で通知しなければならず、その際、労働者代表は意見を送付することができる。通知後 30 日間は解雇の効果は生じず、その間に管轄機関は問題の解決を試みる。 後者は日本の雇用対策法第 27 条の大量雇用変動の届出に似た面もあるが、もっぱら行政機関の対応のみを想定している日本法に比べて、EU 法は労働者代表の権限を前面に押し出している点が大きく異なる。集団整理解雇はその性質上、集団的労使関係によって解決を図るべきという思想が強いのであろう。

    ( 2 ) 企業譲渡指令(2001/23/EC) 同指令は企業や事業、事業の一部が譲渡される際に、労働者代表への情報提供・協議の義務と被用者の権利の譲受人への自動移転を定めたものである。その中に「企業譲渡はそれ自体としては譲渡人または譲受人による解雇の根拠とならない」という規定がある。ただし、「労働力の変化をもたらす経済的、技術的、組織的理由による解雇を妨げるものではない」。いわばジョブがそのまま他企業に移る限り、そのジョブに伴って労働者も移るのが当然というジョブ型労働社会の発想であって、企業籍を何より重視する日本の発想とは極めて対照的な法制である。

    ( 3 ) 差別禁止諸指令 性別、人種、その他の理由による差別を禁止する法制は EU 労働法の一つの核であるが、禁止される差別には当然、それらを理由とする解雇も含まれる。男女均等指令(2006/54/EC)は性別、人種・民族均等指令(2000/43/EC)は人種と民族、一般均等指令(2000/78/EC)は宗教・信条、障害、年齢、性的志向について、それぞれを理由とする解雇を禁止している。 このほか、母性保護指令(92/85/EC)は妊娠開始から産後休業終了までの解雇を禁止しているし、育児休業指令(96/34/EC)は育児休業の請求・取得を理由とした解雇からの保護を規定している。 条文上「解雇」とは書かれていないが、解釈上解雇も含まれる不利益取扱の禁止として、欧州労使協議会指令(94/45/EC)、一般労使協議指令(2002/14/EC)等における被用者代表の保護、労働安全衛生指令(89/391/EEC)における安全衛生活動を

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  • 行う労働者代表や重大かつ緊急の危険の際の職場離脱などがある。 これらはすべて加盟各国の国内法として「不当な解雇」を構成することになる。逆にこれを超えていかなるものが不当な解雇となるかは、各国の国内法に委ねられているわけである。

    2 欧州各国の解雇法制の比較

    現時点で欧州各国の解雇法制を比較検討した文献としては、上記欧州委員会雇用社会総局による報告書“Termination of employment relationships Legal situation in the Member States of the European Union”がもっとも包括的かつ詳細だが、2006 年 4 月刊行とやや古い。これに対し、欧州労働法ネットワーク(欧州の労働法学者の集まり)が 2011 年 11 月に刊行したテーマ別レポート“Dismissal -particularly for business reasons- and Employment Protection”は経済危機後にとりまとめられものであり、より現状を把握するのに有用である。また、2012 年 5 月には欧州委員会経済財政総局編から“Labour Market Developments in Europe 2012”が出されており、経済政策サイドからのまとめとして参考になる。このほかに、法務サービス企業である Deloitte が 2012年に刊行した“Deloitte Legal Perspective A comparative look at dismissal costs and issues across Europe”は、解雇コストという観点から各国法制を比較している。 ここでは、欧州労働法ネットワークの報告書を主に参考にしながら、各国の解雇法制の概要を項目ごとに略述する。報告書の性質上経済的理由による解雇に重点が置かれているが、それ以外のさまざまな解雇についてもかなり詳しい分析がされている。なお、欧州委員会経済財政総局の報告書により、適宜必要な情報を補う。

    ( 1 ) 予告期間

    日本の労働基準法は予告期間について全労働者に一律に 30 日と規定している(第 20条)が、欧州諸国ではそのような国は少なく、大部分の国で勤続期間に比例して予告期間が長くなる制度となっている。その水準はさまざまであり、最低期間にも 1 週間から3 か月まであり、最長期間も 8 週間から 7 か月まである。 その一覧表は以下の通りである。

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  • 表1.1 欧州諸国の解雇予告期間

    国名 勤続期間 予告期間 オーストリア

    2年未満 2年 15年 25年

    6週間 2か月 4か月 5か月

    ベルギー

    <ブルーカラー労働者> 6か月 5年 10年 15年 20年 <ホワイトカラー労働者> 5年 +5年ごとに

    35日 42日 56日 84日 112日

    3か月 +3か月

    ブルガリア

    無期 有期

    30日 3か月

    キプロス

    26週 52週 104週 150週 208週 260週 312週

    1週間 2週間 4週間 5週間 6週間 7週間 8週間

    チェコ 2か月 デンマーク

    <ホワイトカラー労働者> 6か月未満 6か月 3年 6年 9年 <ブルーカラー労働者> 労働協約による。

    1か月 3か月 4か月 5か月 6か月

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  • エストニア

    1年未満 1年 5年 10年

    15日 30日 60日 90日

    フィンランド

    1年未満 1年 4年 8年 12年

    14日 1か月 2か月 4か月 6か月

    フランス

    6か月 2年

    1か月 2か月

    ドイツ

    2年 5年 8年 10年 12年 15年 20年

    1か月 2か月 3か月 4か月 5か月 6か月 7か月

    ギリシャ

    <ホワイトカラー労働者> 1-2年 2-5年 4-6年 5-10年 10-15年 15-20年 20年以上 <肉体労働者>

    1か月 2か月 3か月 3か月 4か月 5か月 6か月 なし

    ハンガリー

    3年未満 3年 5年 10年 15年 18年 20年

    30日 35日 45日 55日 60日 70日 90日

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  • アイスランド

    1年 3年 5年

    1か月 2か月 3か月

    アイルランド

    2年未満 2年 5年 10年 15年

    1週間 2週間 4週間 6週間 8週間

    イタリア さまざま ラトビア 無期 1か月 リヒテンシュタイン

    1年未満 1年 9年

    1か月 2か月 3か月

    ルクセンブルク

    5年未満 5年 10年

    2か月 4か月 6か月

    マルタ

    1-6か月 6か月-2年 2-4年 4-7年 +1年ごとに

    1週間 2週間 4週間 8週間 +1週間、上限:12週間

    オランダ

    5年未満 5年 10年 15年

    1か月 2か月 3か月 4か月

    ノルウェー

    5年未満 5年 10年 +50歳以上 +55歳以上 +60歳以上

    1か月 2か月 3か月 4か月 5か月 6か月

    ポーランド

    6か月未満 6か月 3年

    2週間 1か月 3か月

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  • ポルトガル

    1年未満 1-5年 5-10年 10年以上

    15日 30日 60日 75日

    ルーマニア 20日 スロバキア

    1年未満 1-5年 5年以上

    1か月 2か月 3か月

    スロベニア

    5年未満 5年 15年 25年

    30日 45日 60日 120日

    スペイン 15日 スウェーデン

    1か月 2-4年 4-6年 6-8年 8-10年 10年以上

    2か月 3か月 4か月 5か月 6か月

    イギリス

    1か月 2年、+1年ごとに 12年

    1週間 +1週間 12週間

    ( 2 ) 試用期間

    日本の法律は試用期間そのものを定めておらず、労働基準法第 21 条が(14 日まで)解雇予告の例外として規定しているだけであるが、判例法理は長期雇用システムを前提として解約権留保付労働契約と把握し、その解雇に客観的合理性と社会的相当性を要求している。 これに対し、欧州諸国の多くでは試用期間中の解雇には正当な理由を要求していない。ジョブに基づき雇用される社会では、労働者の職業能力をテストする期間として試用期間が位置づけられていることがその背景にあろう。その性格からも、試用期間の設定には上限が付せられることが多い。その一覧表は以下の通りである。

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  • 表1.2 欧州諸国の試用期間の上限

    試用期間の上限 国名 14日 ベルギー(ブルーカラー労働者) 1か月 オーストリア、オランダ(有期) 2か月 オランダ(無期) 3か月

    チェコ、デンマーク(ホワイトカラー労働者)、ハンガリー(個別契約)、アイスランド、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ポーランド、スロバキア(通常)

    4か月 エストニア、フィンランド、ルーマニア 6か月

    ベルギー(ホワイトカラー労働者)、ブルガリア、キプロス、ドイツ、ハンガリー(労働協約)、 イタリア、ノルウェー、スロバキア(労働協約)、スロベニア、スウェーデン

    12か月

    ベルギー(ホワイトカラー労働者)、ギリシャ、アイルランド、マルタ

    24か月 キプロス

    ( 3 ) 解雇の理由

    日本の労働契約法第 16 条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」解雇を、権利を濫用したものとして無効と規定している。この規定は上記欧州基本権憲章と同じくらい抽象的であるが、累次の判例により個々のケースについての判断基準はある程度明確化されている。これに対し欧州諸国では、同様に抽象的な規定の国もあるが、解雇の正当な理由が実定法上もう少し明確化されている国も多い。 (イ) もっとも抽象的に規定している国は以下の通り。 ・フィンランド:「適切かつ重大な」理由 ・ポーランド:「正当」 (ロ) 解雇理由を大きく 2 つに類別している国は以下の通り。 ・フランス及びルクセンブルク:個人的理由、経済的理由(いずれも「真実かつ重大」

    であることが必要) ・スウェーデン:個人的理由、剰員整理 ・スペイン:使用者の合法的な指示への不遵守、事業に関係する理由 ・ルーマニア:労働者に関係する解雇、それ以外

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  • ・デンマーク:労働者に関係する理由、使用者に関係する理由 (ハ) 解雇理由を 3 つに類別している国は以下の通り。 ・ハンガリー:能力、行為、使用者の事業運営 ・ドイツ:個人的理由、非行、事業上の理由 ・オランダ及びイタリア:事業経営、労働者の能力不足、雇用関係の深刻かつ恒常的な

    破壊 ・ノルウェー:企業、使用者、労働者 (ニ) 解雇理由を 4 つに類別している国は以下の通り。 ・スロベニア:事業場の理由、能力不足、重大な非行、障害による労務遂行不能 (ホ) 解雇が許される事由のリストを法定している国は以下の通り。 ・ブルガリア:企業(の一部)の閉鎖、人員の縮小、遂行すべき職務に必要な教育水準

    や資格を有さないこと、勤務する企業や部門に労働者が従わないこと、企業や部門の移転等。予告を要する 16 の理由と予告を要さない 11 の理由が列記されている。

    ・チェコ:7 つの理由が列記され、うち 3 つは事業上の理由。 ・キプロス:7 つの理由。 ・エストニア:個人的理由と事業上の理由に大別して列記。 ・イタリア:解雇の正当な理由として、極めて深刻な非行、契約上の義務の深刻な違反、

    生産、組織、その運営に関係する理由が列記。 ・ポルトガル:重大な非行、懲戒理由の解雇、集団解雇(市場の推移による職務の喪失、

    企業に関係する構造的・技術的変化、労働者が適応できないこと)。 ・ルーマニア:5 つの理由が列記。 ・フィンランド:正当と見なされない解雇理由が例示列挙。例えば、解雇の前後に同様

    の職務に新たな雇い入れをしている場合。 ・スペイン:懲戒解雇として 7 つの理由(欠勤、ハラスメント等)、客観的理由として

    5 つの理由(能率の欠如、経済的理由)、集団的解雇(経済的、技術的、組織的または生産上の理由)。

    ・イギリス:「公正であり得る」理由が実定法に列挙。能力及び資格(技能、適性、健康その他の心身の質)、剰員整理、「その他の実質的な理由」(剰員整理に準ずる状況)。

    ・アイルランド:解雇は能力及び資格、行為、剰員整理を理由にすることができる。他に実定法によって課された義務や制約に違反することなく労務を継続することができない場合も含む。

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  • ○ 自動的に違法となる解雇

    上記 EU 指令による差別的解雇の禁止のほか、各国法で自動的に違法となる解雇理由が規定されている。 (イ) 集団的労使関係:労働組合への加入や労働組合活動を理由とする解雇はすべての国で違法である。 (ロ) 他の差別的理由:兵役・公役務を理由とする解雇を禁止する国も多い。詳しくは巻末の欧州委報告を参照。

    ○ 自動的に合法となる解雇

    自動的に合法となる解雇理由はほとんど存在しない。イギリスで、国家安全保障に関わる解雇が自動的に正当とされる程度である。ドイツでは、刑事罰の対象となるような重大な非行の場合でも、解雇の「絶対的」理由とはならない。

    解雇が正当とされるか不当とされるかの判断基準については、欧州委員会経済財政総局編の“Labour Market Developments in Europe 2012”に一覧表が掲載されているので、それを引用する。

    表1.3 個別解雇が正当か不当かの条件

    国名 法規定 オーストリア

    正当:業績不良や能力の欠如を含む「重大な理由」による解雇、及び操業上の理由または他の事業の必要による解雇。操業上の理由による解雇の場合、裁判所は解雇が実際に必要であるか、他のポストに配置転換することが可能であったかを審査する。

    不当:「社会的に正当とされない」解雇(解雇された労働者に対し、企業の他の比較可能な労働者よりも不利益に影響するもの、または雇用関係を解消する企業の利益よりも大きな程度に労働者の利益を損なうもの)。勤続2年以上の高齢労働者の契約を解除しようとする使用者は、その労働者が他の職を得ることが困難であるかどうかを考慮しなければならない。

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  • ベルギー

    不当:ブルーカラー労働者の場合、労働者の能力や行為に何ら関係のない理由による解雇または企業、事業所若しくは部門の操業上の必要に基づかない解雇。ホワイトカラー労働者の場合、濫用的解雇という概念は規則上に存在せず、権利の濫用という一般概念に訴えることになる。整理解雇の権利はその目的すなわち企業の利益のために行使されなければならない。産休や教育休暇中の労働者、労働組合代表や労働者代表の解雇も不当。

    チェコ

    正当:業績要件に達しないゆえの解雇及び技術的・組織的変化を理由とする解雇。

    不当:差別(年齢、性別、皮膚の色、宗教、組合加入等)に基づく解雇。

    デンマーク

    正当:能力の欠如、経済的余剰人員は合法的な理由。 不当:恣意的な状況に基づく解雇(ブルーカラー労働者)ま

    たは「労働者や企業の状況に合理的に基づかない」解雇。人種、宗教、国民的出自等に基づく解雇や企業合併による解雇も不当。

    エストニア

    正当:労働量の減少、生産の再編成、事業の解散・倒産、労働者の職務不適合、満足しがたい業績、義務違反、腐敗、信頼喪失、長期労働不能、定年到達。余剰人員の場合、使用者は可能であれば他のポストを労働者に提示する必要がある。使用者は労働者を整理解雇する際、労働者代表、好成績労働者、労災被災労働者、長期勤続労働者、教育訓練受講労働者を残すようにしなければならない。

    フィンランド

    正当:解雇は個人的特性や緊急の事業上の必要を含む「特定の重大な理由」によって正当化される。経済的・個人的解雇は、労働者がその技能と能力の観点からみて配置転換したり再訓練することが合理的でない場合にのみ有効である。

    不当:労働者の病気、ストライキへの参加、組合活動、政治的・宗教的意見による解雇。

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  • フランス

    正当:真実かつ重大な理由による解雇。業績不良や能力欠如のような個人的特性、または経済的理由。経済的理由による解雇の場合、使用者は一定の基準(社会的特性、家族責任、職業資格など)を考慮に入れなければならない。労働者は解雇後の再雇用に際して優先権を与えられる。

    不当:真実かつ重大な理由なき解雇。労働者の病気や経済的理由による解雇の場合、使用者は労働者に他の地位を見つけるよう努めなければならない。

    無効:労働者の私生活に関わる理由による解雇、差別やハラスメントに基づく解雇。

    ドイツ

    正当:労働者の個人的特性若しくは行為に関連する要素(不十分な技能または能力)に基づく解雇、または経済的必要及び緊急の操業上の理由に基づく解雇。

    不当:労働者を同一事業所または企業内の他の地位で維持できる場合の解雇。「社会的配慮」(勤続期間、年齢、扶養責任)が十分になされなかった整理解雇。解雇の前にリハビリテーションがなされなければならず、さもなければ解雇は不当と見なされる。

    ギリシャ

    正当な解雇か不当(濫用的)な解雇かの定義は判例法に基づく。一般的に、業績不良や事業の必要に基づく解雇は正当と見なされる。大企業では、解雇は口頭または書面による警告、減給、停職、労働者代表との協議の後にのみ可能な最後の手段でなければならない。

    ハンガリー

    雇用契約は、(a)使用者と労働者の合意により、(b)通常の予告により(使用者の操業に関わる理由)、(c)特別の予告により(労働者が雇用関係の下の義務に故意または重大な過失により深刻な違反をし、または雇用関係の存続を不可能とするような行為)、(d)試用期間中に即時に、合法的に解雇することができる。上記の場合によらない解雇は不当・違法と見なされる。

    アイルランド

    正当:能力、職能、資格の欠如、行為または余剰人員による解雇。

    不当:人種、宗教、年齢、性別等に基づく差別を反映した解

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  • 雇。これらの要素が選択基準として用いられた剰員整理も含む。介護休暇、産休、育児休暇、養子休暇最低賃金の権利を行使したことによる解雇。

    イタリア

    正当:契約解除は「正当な事由」または「正当な理由」でのみ可能で、労働者の著しい業績不良や緊急の事業上の理由を含む。

    不当:人種、宗教、性別、労働組合活動等に基づく差別を反映した解雇。

    ルクセンブルク

    正当:重大な非行、労働者の能力、事業の経済的必要に基づく解雇。 不当解雇事案において労働者の行為を審査する際、裁判官は教育、職歴、社会的地位及び労働者の責任に影響する要素、解雇の帰結を考慮する。

    オランダ

    正当:労働者の行為または不適性、及び経済的人員余剰を理由とする解雇。後者の場合、企業の財務状況に関するデータ及び解雇に代わる措置が検討されたことの証明が必要であり、解雇労働者の選択が正当化されなければならない(年齢・性別のバランス)。

    不当:「明白に不合理」な解雇、妊婦、産婦、障害者、労働者代表の解雇。

    ポーランド

    正当:労働者に固有の要素(能力の欠如)または職務の余剰人員に基づく解雇。

    ポルトガル

    正当:経済的理由及び職業的・技術的能力の欠如による解雇が許される。能力の欠如による解雇は、新技術の導入または職務機能の変化の後にのみ可能である。

    不当:解雇理由が非正規(正規の手続を踏まないもの)または違法(解雇理由が見当たらないと裁判官が宣言し、若しくは基本的な手続が欠如しているもの)なもの。

    スロバキア

    正当:使用者は労働法典に特定された理由(個人的理由:職務規律の継続的な違反、満足しがたい労働成果、余剰人員:経済的・組織的理由)によってのみ解雇予告することができる。

    不当:使用者は差別のようなその他の理由によって解雇予告することができない。

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  • スロベニア

    正当:雇用契約の条件下で労働を継続することを妨げるような正当な解除の理由がある場合に解除は合法である。

    不当:解除は、差別的、使用者の脅迫若しくは欺罔によってなされ、その他の理由による場合は有効でない。不当な理由としては、傷病による一時的な欠勤、育児休業または他の家族の世話、使用者に対する訴訟手続への参加、労働時間外の組合活動への参加、合法的なストライキへの参加、労働者代表であること、使用者の変更、人種、国籍、民族的出自、皮膚の色、性別、年齢、障害、婚姻上の地位、家族責任、任審、宗教的・政治的意見、国民的・社会的背景、兵役や市民的役務への参加。

    スペイン

    正当:客観的な理由に基づく解雇。これには経済的理由、欠勤、職務能力の欠如、企業内の技術変化への 3 か月の訓練課程の後の適応の欠如、公的機関や非営利組織における公的計画への資金拠出の欠如を含む。

    不当:上記のいずれの理由も証明されない場合の解雇。 無効:差別に基づく解雇または基本的権利を侵害する解雇、

    妊娠、出産、育児に由来する状況に基づく解雇。 スウェーデン

    正当:「客観的理由」に基づく解雇、すなわち、経済的余剰人員及び能力の欠如を含む個人的状況。年齢、病気等による能力の低下の場合、使用者は職場を調整し、労働者をリハビリし、他の適切な仕事に異動することを試みなければならない。判例によれば、労働者の「就労能力の恒常的低下が著しいため使用者にとって意味のある労働を遂行することが期待できない」ときには正当な解雇である。人員整理の場合、解雇労働者の選択は正当(主として最後に入った者が最初に出て行く原則)でなければならない。

    不当:労働者が他の仕事に異動されることが合理的であるときや、3 か月以上も前の事件に基づく解雇は客観的な理由は存在しないと見なされる。

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  • イギリス

    正当:労働者の能力、資格または行為に関係する解雇、余剰人員、雇用の継続が違法な場合、その他の「実質的な理由」。不当解雇を訴えるためには通常1年の勤続期間が必要。

    不当:労働組合活動、安全衛生、内部告発、妊娠出産、最低賃金といった理由に関係する解雇。これらの理由の場合、訴えるのに勤続期間の制限はない。

    ( 4 ) 経済的理由による解雇(整理解雇)

    (イ) 経営大権

    経済的理由による解雇については、経営判断そのものについては原則として「経営大権」を承認し、司法判断を自己抑制している国がほとんどである。もっとも、「表見的整理解雇」は許さない国が多い。 (ⅰ) 経営判断それ自体の司法審査 ・ドイツ:経営判断が「明らかに不合理」、恣意的または明らかな権利の濫用である場

    合には司法審査の対象となる。例えば、解雇規制を潜脱する目的で別会社を設立して事業を移転するなど。

    ・ギリシャ:経営大権は濫用することはできず、信義誠実の原則に従って行使しなければならない。

    ・イタリア、デンマーク、スウェーデン等:使用者の経済的・組織的決定は、明らかに労働者の個人的理由に基づいていると認められる場合に限って審査される。

    ・フィンランド:経営上の理由が解雇の真の理由を覆い隠すための見せかけであるかどうかを審査する。

    ・アイルランド:剰員整理は、能力が劣ると見なされた者や健康や年齢上の問題のある者を排出するための隠れ蓑として用いてはならない。

    ・イギリス:裁判所は使用者の決定が「合理的反応の範囲内」であるかどうかを審査する。これは実質的公平性と手続的公平性の審査からなる。合理的反応の範囲内であれば経営上の決定は保護される。

    (ⅱ) 経営判断の実施の司法審査 ・ドイツ:使用者は、その職務が当該経営判断によって直接影響を受ける労働者のみが

    解雇されることを立証しなければならない。 ・チェコ、ギリシャ、スロベニア等:裁判所はリストラの決定と労働者が余剰となるこ

    ととの因果関係を審査する。

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  • (ⅲ) 事業上の必要性の審査 ・オーストリア:事業上の必要性と労働者の利益とが利益考量される。ただし事業所閉

    鎖や縮小の場合は前者が優先される。 ・ギリシャ:経営大権は企業の客観的な利益でなければならず、使用者の利己的な利益

    であってはならない。 ・フィンランド、スウェーデン:使用者は経済的に好調な事業単位であっても閉鎖する

    ことができる。 (ⅳ) 立証責任 ・オランダ:当局や裁判所は、公認会計士によって証明された書類に基づいて経済的理

    由の存否を判断する。ただし、関係労働組合が解雇が必要と言えば審査はしない。 (ⅴ) 司法の自己抑制の代償措置 ・スウェーデン、フィンランド、ノルウェー:剰員を理由に解雇された労働者は、(当

    該使用者が採用を再開する場合には)雇用終了後9か月以内(ノルウェーは12か月)に再雇用される優先権がある。

    ・ドイツ:経営判断がなされた時点では完全に合理的であったが、その後誤っていたことが明らかになった場合には、解雇された労働者は復職を要求することができる。

    (ロ) 比例原則

    (ⅰ)比例原則とは、 -解雇は、労働力需要に対応するよう人員を調整するという目的を達成するものでなけ

    ればならない(適切性)。 -解雇は、当該目的を達成するために利用可能な他の手段がないという意味で必要なも

    のでなければならない(必要性)。「最後の手段」原則とも言う。 -解雇は、労働者の負担と使用者の意図する結果が完全に均衡を失したものでないとい

    う意味で合理的ないし適切なものでなければならない(合理性または狭義の比例性)。 ・比例原則が重要な国:ドイツ、オーストリア、ギリシャ、スペイン、フランス、リト

    アニア、ノルウェー、スロバキア、スロベニア、スウェーデン ・比例原則が重要でない国:ベルギー、ルクセンブルク、デンマーク、フィンランド、

    アイルランド、リヒテンシュタイン、マルタ、オランダ、ポーランド、エストニア、ルーマニア

    (ⅱ) 最後の手段原則 ・最後の手段原則がない国:ブルガリア、チェコ、デンマーク、アイスランド、リヒテ

    ンシュタイン、キプロス、アイルランド ・同一事業場または同一企業内で他の雇用機会を提供する義務がある国:ドイツ、フィ

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  • ンランド、フランス、ギリシャ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン(この義務は、配置可能な地位と資格を有する労働者に限られる)

    ・スウェーデンでは、最後に入った者が最初に出る年功原則に加え、最後に出た者が最初に入る原則(上記再雇用優先権)もある。

    ・同一企業グループ内で他の雇用機会を提供する義務がある国:フランス、フィンランド

    ・ドイツでは、雇用契約上グループ内の他の企業で就労する義務が規定されている場合に限る。

    ・オーストリアでは、労働者が労働条件の変更(賃金の15%減少まで)を拒否したときは解雇が合理的と判断される。

    (ハ) 対象者の選択

    (ⅰ) 使用者に委ねる国:ベルギー、デンマーク、フィンランド、アイスランド、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、スペイン、イギリス (ⅱ) 選択基準のある国 ( a ) 年功基準(「最後に入った者が最初に出る」) ・スウェーデン:原則として、解雇の順番は、同一の労働協約が適用される同一の生産

    単位(剰員整理単位)の勤続期間の短い順であり、解雇された者は再雇用の優先権がある。この例外として、10 人以下企業の使用者は、企業の将来の活動に特に重要である労働者 2 人までを免除することができる。選択基準違反の解雇は損害賠償をもたらす。実際には使用者と労働組合はこの基準を逸脱することができる。

    ・オランダ:解雇の順番は年功による。 ( b ) 社会的基準 ・ドイツ:勤続期間、年齢、家族扶養義務及び障害の有無が基準となる。ただし使用者

    は、知識、能力、業績を理由に、あるいは企業の均衡のとれた人員構造を維持するために、その継続雇用が合法的な企業の利益に照らして適切であると認められる場合には、労働者をこの基準から除外することができる。社会的基準に違反する解雇は無効である。

    もっとも、労働協約で具体的な基準の考量を規定している場合には裁判所の審査は限定される。また、事業所委員会との間で誰を解雇するかについて協定(いわゆる「名前のリスト」)を結べば、それは法的に「緊急の事業の必要」によるものと見なされる。

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  • ・イタリア:法律は集団解雇についてのみ、勤続期間と家族負担という基準を規定している。ただし判例は個別解雇にも適用している。

    ・オーストリア:社会的基準(子供の有無、将来見通し、年齢)は、事業所委員会が解雇を拒んだ場合にのみ適用される。

    ・フランス:剰員整理の順番は、扶養家族数、とりわけシングルペアレント、勤続期間、再就職が困難な状況、とりわけ障害者や高齢者、職業上の技能といった法律上の基準に従って決めなければならない。

    ( c ) 年齢パターン ・オランダ:いわゆる「反省ルール」による。これによる同じ役割を果たしている労働

    者は 5 つの年齢グループに分けられる。企業の全労働者に対する各グループの労働者の比率に応じ、各年齢グループから選択される労働者数が決定される。各グループ内では年功基準が適用される。専門的な知識や能力の故に欠けると企業の業績に問題を生じるような労働者は除外することができる。

    ( d ) 公平性 ・イギリス:使用者は原則として対象者を自由に選択できるが、その基準は公平で、透

    明で、整合的で、差別的でなく、不公正解雇に該当しないものでなければならない。使用者は伝統的に「最後に入った者が最初に出る」基準を用いてきているが、年齢差別との疑義が提起されている。

    ( 5 ) (正当な解雇の場合の)解雇手当、(不当な解雇の場合の)救済、争訟

    (イ) 正当な解雇の場合の解雇手当

    (ⅰ) 解雇予告期間と解雇手当と失業給付の関係 ・これら 3 つの制度の目的はなにがしか重なる。 ( a ) 解雇予告期間と解雇手当の関係 ・多くの国では無関係 ・ドイツ:使用者は予告期間を遵守すれば解雇手当を払う必要はない。ただし、社会計

    画に規定されれば解雇手当を支払う。 ・ベルギー:予告期間が 3 か月以上の場合、解雇手当はその分減額される。 ・ギリシャ:予告期間が遵守されればその分法定解雇手当から減額される。 ( b ) 解雇手当と失業給付の関係 ・多くの国では無関係 ・ベルギー:労働者は解雇について訴えている間、暫定的に失業給付を受給できるが、

    勝訴したときは解雇手当の権利が得られるので、失業給付は返還しなければならない。

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  • (ⅱ) 解雇手当の規制 ・実定法上に解雇手当を規定する国:オーストリア(旧制度)、ブルガリア、キプロス、

    エストニア、フランス、ドイツ(経済的解雇)、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、イギリス

    ・労働協約でのみ規定する国:ベルギー、ドイツ、マルタ、スウェーデン ・個別契約で規定する国:アイスランド、マルタ、ノルウェー、スウェーデン ・伝統による国:フィンランド

    (ⅲ) 解雇手当の範囲 ( a ) 解雇理由 ・経済的解雇の場合にのみ解雇手当の支払いが義務づけられる国が多い。 ・例外はブルガリア、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、オランダ、スロベニア、スペ

    イン ・ドイツ:予告期間を遵守すれば解雇手当はなし。 ・オランダ:行政庁の許可による解雇の場合は解雇手当は不要だが、裁判所による解除

    の場合には解雇手当が必要となる。 ( b ) 企業規模 ・ポーランド:経済的解雇の場合、20 人以上企業のみ解雇手当あり。 ( c ) 勤続期間 ・ギリシャ:近年の改正で、12 か月以上勤続の者にのみ解雇手当の権利あり。 ・スロベニアは 1 年、フランスは 2 年。

    (ⅳ) 解雇手当の計算方法と上限、税金 ・計算方法には大きく 2 種類ある。 ○解雇手当額=勤続期間×賃金(の一定割合):アイルランド、イギリス、オースト

    リア、キプロス、フランス、ドイツ(判例)、オランダ、ポルトガル、スペイン、イタリア

    ○解雇手当額=勤続期間×定額 又は 賃金月額:デンマーク、エストニア、ギリシャ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ポーランド、スロバキア、スロベニア

    ・解雇手当の上限額が設定されている国が多い。

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  • 表1.4 解雇手当の上限

    解雇手当の上限 国名 1か月 ブルガリア 3か月

    チェコ(経済的解雇)、デンマーク、エストニア、ポーランド

    4か月 ベルギー、ラトビア 6か月 ハンガリー、リトアニア 8か月 リヒテンシュタイン 10か月 スロバキア 12か月

    チェコ(能力不足解雇)、ルクセンブルク、スペイン(経済的解雇)、(旧)オーストリア

    24か月 ギリシャ 42か月 スペイン(不当解雇) 上限なし キプロス、フランス、オランダ その他

    アイルランド:31,200ユーロ。 イギリス:1週あたり380ポンドで上限30週、20年。上限額は11,800ポンド。

    ・オーストリアの制度:旧制度では、他の諸国と同様、使用者が解雇手当を支払わなければならないが、2003 年に導入された新制度では、使用者は毎月被用者給付基金に払い込みを行い、被用者は離職時にそれを全額受給することもできるし、毎月の年金払いにすることもできる。いわば、解雇手当を第二年金にするものである。

    ・解雇手当への課税は、非課税とする国(ベルギー、キプロス、ルクセンブルク)、通常に課税する国(ブルガリア、チェコ、エストニア、ハンガリー、アイスランド、ラトビア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア)、社会保険料の対象としない国(デンマーク、フランス)など、さまざまである。

    ( v ) 解雇手当以外の正当な解雇の場合の権利 ( a ) 再雇用優先権 ・使用者が解雇の後に再び雇用を増加させる場合、経済的理由で解雇された者は他の者

    よりも優先的に採用される権利を有する国:キプロス、フィンランド、ルクセンブルク、スウェーデン

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  • (ロ) 不当な解雇の場合の救済

    ・不当な解雇に対する救済としては、復職、解雇補償金、解雇予告補償金、損害賠償金の 4 種類がある。それぞれの仕組みを有する国は重複しつつ次の通りである。

    表1.5 不当解雇の救済手段

    救済手段 国名 復職

    オーストリア、ブルガリア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン

    解雇補償金

    ブルガリア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、イギリス

    解雇予告補償金

    オーストリア、ベルギー、キプロス、エストニア、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、ラトビア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロバキア

    損害賠償金

    チェコ、エストニア、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スウェーデン、イギリス

    ・救済手段として復職を有する国は多く、復職がない国の方が、ベルギー、フィンランド、イギリスなどごくわずかである。とはいえ、実際に復職がなされるのはそれほど多くない。

    ・多くの国で一般的な解雇の救済は解雇補償金ないし解雇予告補償金である。 ・解雇補償金の額は、エストニアやポーランドの 3 か月分からスペインの 42 か月分まで

    さまざまである。 欧州労働法ネットワークの報告書には、不当解雇の場合の補償金額に関する表が掲載されていないので、欧州委員会経済財政総局編の“Labour Market Developments in Europe 2012”から表を引用する。この表の金額は 20 年勤続の場合の典型的な補償金額であることに注意が必要である。

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  • 表1.6 不当解雇の補償金と関係規定

    国名 不当解雇の補償金と関係規定 20年勤続の典型的な補償金額オーストリア

    労働者は復職と補償を選択する権利があるが、労働者は滅多にこの選択肢を選ばない。社会的に不当な解雇の場合、労働者は解雇と事案の法的解決までの期間の賃金に相当する額を受け取る権利がある。中間収入は控除される。

    6か月

    ベルギー

    復職の権利はない。補償金は(予告がされなかった場合でも)少なくとも予告期間に等しい。ホワイトカラー:裁判官の判断により追加的な損害賠償 ブルーカラー:6 か月分の賃金に相当する追加的な損害賠償

    14か月

    チェコ

    労働者にとって復職は常に可能である。不当解雇は復職の権利を伴う。復職が双方によって拒否されたときは、補償金は解雇手当及び裁判中の逸失利益(上限 6 か月)となる。中間収入は控除される。補償金に上限はない。

    8か月

    デンマーク

    復職命令は可能であるが、稀である(復職の可能性は1981年の基本協約でブルーカラーに導入された。しかし現在まで、審判所が解雇労働者を復職させるよう命じた事案はごくわずかである)。ブルーカラー労働者については補償金額は52週間に制限されている。デンマーク労働総連合によると、平均は10.5週間である。ホワイトカラー労働者については補償金額は年齢と勤続期間に応じて増加し、30歳以上で15年以上勤続なら 6 か月が上限となる。

    9か月

    エストニア

    雇用契約の終了が違法とされた時には、労働者は原職に復帰するよう求める権利がある。この場合、労働紛争解決機関は原職復帰を決

    6か月

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  • 定する。補償金は雇用契約や侵害の状況に応じて、6 か月分の賃金が上限である。

    フィンランド

    復職はない。3 か月から24か月分の補償がある。補償金額の決定に当たっては、次の要素が考慮される:失職期間、逸失利益、勤続期間、使用者側の罪の重さの程度。最高補償額は重大な不正義の場合にのみ用いられる。

    14か月

    フランス

    復職の選択肢が可能なのは、差別的解雇の場合のみである。通常の解雇手当に追加される補償金は最低 2 年勤続で11人以上規模企業では最低 6 か月(通常、12-24か月)である。勤続 2 年未満または11人未満企業の労働者に対しては、裁判官が損害に応じて補償を命ずるが下限はない。

    16か月

    ドイツ

    復職は可能であるが、労働者は滅多に選ばない。補償金は勤続期間に応じて上限12か月であるが、50歳以上で勤続15年以上では15か月、55歳以上で勤続20年以上では18か月となる。補償は訴訟の間に、雇用の継続が当事者の一方にとって不合理であるとして、労働者または使用者によって要求されなければならない。予告期間の末日から訴訟の弁論の終結までの間の賃金が追加的に命じられることもある。

    18か月

    ギリシャ

    復職命令が頻繁で、これに伴って予告期間から訴訟終結までの期間の損害賠償がされる。解雇手当が要求された場合は復職はない。補償金は通常の解雇手当に加えて、解雇から事案の法的終結までの間の賃金額に等しい額である。判例法によれば、使用者の合法的な事業利益によって正当化されない解雇は、不当解雇を構成し、無効とされる。不当解雇が無効とされる帰結は、雇用契約が中断なく(従って復職の法的強制も必要ない)継続し

    6か月

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  • ていると見なされ、使用者は無効となった解雇の日からの全期間について未払いの賃金を支払うよう義務づけられる。

    ハンガリー

    裁判所が雇用は違法に終了したと判断した場合、労働者は希望すれば原職に復帰される。使用者の申出により、使用者が補償金を支払うことを条件として、裁判所は原職への復帰を命じないこともできる。復職の代わりに、裁判所は(すべての状況、とりわけ違法行為とその帰結を勘案して)使用者に対して、賃金 2 か月以上12か月以下の範囲で支払うよう命ずる。

    10か月

    アイルランド

    解雇の日からのバックペイを伴う復職命令が可能である。解雇の日からのバックペイなしの復帰も可能である。決定機関は、補償金が支払われる場合、復職が適用されない理由を特定しなければならない。2007年、復職と復帰の件数はそれぞれ1件、4件であった。補償金の上限は104週間分の賃金である。補償金は金銭的損失に基づいて増加する。損失がない場合は上限4週間である。雇用控訴審判所における平均補償額は2007年に7,280ユーロであった。

    24か月

    イタリア

    復職の選択肢はかなりしばしば労働者にとって利用可能である。事業所若しくは同一市町村で15人超を使用する企業または60人超を使用する企業の労働者は(15人以下の生産単位または市町村に分散していても)、復職か15か月分の金銭補償(解雇と判決の間の期間について最低 5 か月分を上乗せ)を選択できる。上記以外の事業所の場合、使用者が再雇用(解雇と判決の間の期間の補償は含まれないので復職とは異なる)か2.5-6か月分の補償(勤続期間と企業規模による)を選択で

    15か月

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  • きる。これは10年勤続で10か月分、20年勤続で14か月分にまで増加しうる。

    ルクセンブルク

    不当解雇に判決を下す際、裁判官は労働者を復職させるよう求めることができる。使用者が労働者の復職を望まないときは、使用者追加的に 1 か月分の賃金を支払うことができる。解雇が不当と判断された場合は、使用者は労働者に損害賠償を支払う。損害額の決定に当たっては、裁判所は労働者が新たな職を見つけるのに十分な期間を考慮に入れる(通常4-6 か月)。解雇された労働者は自らが新たな職を見つけるのに必要な行動に踏み出していることを示さなければならない。裁判所は勤続期間、年齢及び家族状況などさまざまな要素を考慮に入れる。

    5か月

    オランダ

    復職の選択肢が労働者に利用可能なのは稀である。職安を通じた雇用終了の場合、労働者は裁判所に不当解雇を訴えることができる。裁判所が解雇不当との判断に至れば、通常解雇手当の算定式から当局の処理期間中及び予告期間中に支払われた賃金を差し引いた金銭補償を命ずる。裁判所を通じた雇用終了の場合、裁判所が雇用終了は不当だが契約の維持はもはや不可能と判断すれば、修正要素は 1 以上となる。近年の調査によれば、契約解除の平均補償額は約 7 か月分の賃金に相当する。

    7か月

    ポーランド

    復職は可能であるが、裁判所はあまり利用しない。判決時までに他の職場で得た賃金額に応じて、3 か月分の賃金までの補償がされる。

    3か月

    ポルトガル

    非正規解雇:復職は可能でない。バックペイも復職もなく、勤続 1 年に付き7.5-22.5 日分(通常勤続 1 年に付き15日)の賃金の補償を受ける権利のみである。

    15か月

    - 25 -- 24 -

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  • 違法解雇:労働者に復職の選択肢はあるが、労働者 9 人以下の企業または経営者や管理職の場合、使用者は裁判所に復職を拒否する旨を提出することができる。バックペイは 1 年に制限され(裁判所がより長い判決を下したときは国が負担する)、復職か通常勤続1 年に付き 1 か月(下限は 3 か月)の補償かの選択となる。

    スロバキア

    使用者が労働者に無効な解雇予告をし、労働者が雇用の継続を主張した場合、裁判所が使用者にこれ以上労働者を雇用し続けることを求めるのは公正ではないと判断した場合を除き、雇用関係は終了しない。不当解雇に対する強制的な補償は12か月分の賃金額である。使用者が労働者の就労を許さない場合または不当解雇訴訟が12か月以上に及んだ場合には、裁判所によってさらなる補償が命じられる。

    12か月

    スロベニア

    裁判所が使用者による解除を不法と判断したが、労働者は雇用を継続したくないときは、労働者の申出により、雇用の期間を定め、在職期間及び他の雇用関係から生ずる権利を与え、適当な金銭補償を命ずることができる。裁判所が雇用の継続がもはや不可能と判断したときは、労働者の申出の有無にかかわらず、同じ判決を下すことができる。復職がない場合は、裁判所は労働者に在職期間及び他の雇用関係から生ずる権利、解雇前の 3 ヶ月間の平均賃金の18か月分を上限とする金銭補償を与えることができる。

    18か月

    スペイン

    不当解雇の場合、使用者はバックペイ(解雇から裁判所の最終判決までの期間の賃金)付きの復職とバックペイ(勤続 1 年に付き45日分の賃金で、上限は45か月分の賃金)付きの

    22か月

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  • 補償を選択することができる。解雇された労働者が法的な労働者代表や労働組合代表であれば、労働者が復職と補償を選択できる。解雇が差別的であった場合、労働者は常に復職される。1997年以降の新常用契約では、補償額は勤続 1 年に付き33日分に固定され、上限は24か月分の賃金となる。

    スウェーデン

    裁判所は復職または損害賠償、さらに加えて解雇から事案の法的決着までの期間の賃金相当額の支払いを命じることができる。復職の選択肢が労働者に利用可能であるのは稀である。使用者が復職命令を拒否した場合、損害賠償額は 5 年勤続までで16か月、10年勤続までで24か月、10年超では32か月となる。

    32か月

    イギリス

    使用者は復職を義務づけられないが、雇用審判所が相当する職への復職または復帰を命じ、使用者がそれを拒否したときは、審判所は基本補償額に加えて追加的な補償を命ずることができる。補償額は基礎裁定(7,800ポンドまで)、補償裁定(53,500ポンドまで)、及び追加裁定(13,520ポンドまで)からなる。解雇が安全衛生事項や内部告発に関わるものである場合には上限はない。差別禁止法における補償額にも上限はある。

    8か月

    (ハ) 争訟

    ・解雇紛争を解決するための争訟手段としては、通常(民事)裁判所、労働裁判所、労働審判所、調停、その他がある。

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  • 表1.7 各国の争訟手段

    国名

    通常(民事)裁判所

    労働裁判所(三者構成)

    労働審判所

    調停

    オーストリア ○ ベルギー ○ ブルガリア ○ キプロス ○ チェコ ○ デンマーク ○ ○ ○ ○ エストニア ○ フィンランド ○ ○ ○ フランス ○ ドイツ ○ ギリシャ ○ ハンガリー ○ ○ アイスランド ○ ○ アイルランド ○ ○ イタリア ○ ○ ラトビア ○ リヒテンシュタイン ○ リトアニア ○ ルクセンブルク ○ ○ マルタ ○ ○ ○ オランダ ○ ノルウェー ○ ○ ポーランド ○ ○ ポルトガル ○ ルーマニア ○ スロバキア ○ スロベニア ○ スペイン ○ スウェーデン ○ ○ イギリス ○ ○

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  • ・通常、解雇紛争の争訟を提起することができる期間が制限されている。この期間を過ぎると、当該解雇は有効かつ合法と見なされる。

    表1.8 争訟提起可能期間

    期間 国名 5日 ポルトガル 7日 ポーランド 2週間

    オーストリア、ノルウェー(使用者との交渉要求)、スウェーデン(無効の訴え)

    20日 スペイン 3週間 ドイツ 30日 1か月

    エストニア、ハンガリー、ルーマニア、スロベニア ラトビア、リトアニア

    60日 2か月

    イタリア、ポルトガル(個別解雇) ブルガリア、チェコ、オランダ、ノルウェー(無効と損害賠償の訴え)、スロバキア

    3か月 ギリシャ、ルクセンブルク、イギリス 4か月 マルタ、ノルウェー(無効の訴え)、スウェーデン(損害賠

    償の訴え) 180日 リヒテンシュタイン 6か月

    アイルランド、オランダ、ノルウェー(損害賠償のみの訴え)、ポルトガル(集団解雇)

    270日 イタリア 1年 ベルギー、ルクセンブルク 2年 フィンランド 5年 フランス

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  • 第 1 章 デンマーク1 第 1 節 危機後の状況

    1990 年台後半から低下を続けていたデンマークの失業率は、2007 年にサブプライムローン問題を発端にした世界金融危機のために経済が減速し、2008 年の後半より上昇を始めた。2010 年には欧州ソブリン危機が勃発したため、経済の減速は続き失業率は 7%台で高止まりする結果となった。しかしながら、2013 年に入り経済の回復への見通しは明るくなっており、失業率は再び低下の方向に向いており、2013 年 8 月のデンマーク政府見通しによれば、テンポは遅いながらも 2013・2014 年を通し失業率は若干低下する見込みである。

    デンマークでは経済危機の影響による失業率の上昇は見られるものの、今回の調査に取りあげられている国(特にスペインおよびギリシャ)に比べると影響は決して大きくない。また失業率は、EU 全体・ユーロ圏に比べても低いレベルにあることがわかる。

    図表 1-1 失業率の動向

    出所: ユーロスタット

    1

    本レポートは、デンマーク雇用省の公式見解ではなく、完全に著者本人の私的見解に基づくものです。

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    EU28カ国 ユーロ圏 ユーロ圏12カ国 デンマークギリシャ スペイン イタリア 日本

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  • 第 1 章 デンマーク1 第 1 節 危機後の状況

    1990 年台後半から低下を続けていたデンマークの失業率は、2007 年にサブプライムローン問題を発端にした世界金融危機のために経済が減速し、2008 年の後半より上昇を始めた。2010 年には欧州ソブリン危機が勃発したため、経済の減速は続き失業率は 7%台で高止まりする結果となった。しかしながら、2013 年に入り経済の回復への見通しは明るくなっており、失業率は再び低下の方向に向いており、2013 年 8 月のデンマーク政府見通しによれば、テンポは遅いながらも 2013・2014 年を通し失業率は若干低下する見込みである。

    デンマークでは経済危機の影響による失業率の上昇は見られるものの、今回の調査に取りあげられている国(特にスペインおよびギリシャ)に比べると影響は決して大きくない。また失業率は、EU 全体・ユーロ圏に比べても低いレベルにあることがわかる。

    図表 1-1 失業率の動向

    出所: ユーロスタット

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    本レポートは、デンマーク雇用省の公式見解ではなく、完全に著者本人の私的見解に基づくものです。

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    EU28カ国 ユーロ圏 ユーロ圏12カ国 デンマークギリシャ スペイン イタリア 日本

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  • 経済危機の影響は上記のように、他のユーロ諸国(特に南欧諸国)に比べ大きくない。その一方、輸出の 60%以上は対 EU 諸国である等、欧州経済への依存度は高い。依存度が高いにもかかわらず、影響が大きくない理由として、

    ①危機前のデンマーク経済(経常収支・政府収支・対外債務等)が全般的に健全であったこと

    ②デンマーククローネをユーロに非常に狭い変動幅で連動させているものの、ユーロには参加しておらず、他の北欧諸国とともに資金の避難先になったこと

    ③EU への輸出では、ドイツ・スウェーデン・イギリス・オランダへの輸出が大きく、これら諸国への経済危機の影響がデンマークと同様に南欧諸国に比べて大きくなかったこと

    ④輸出で上位にくる製造業・薬品業の輸出において、米国・BRICs 諸国・他の新興国への輸出が過去 10 年間活発となり、欧州市場の占有率が低下していること

    ⑤伝統的にデンマークの主要輸出品が、食料品・医薬品・風力発電機等景気に影響を受けない産品が多いこと

    等が挙げられる。 このレポートにおいては、経済危機後のデンマークにおける解雇法制分野での最新の

    動向をまとめる。

    第 2 節 解雇法制の動向 デンマークの労働市場に関する規定は、基本的に労働協約において定められているが、

    一部休暇・機会均等については法律によって定められている。解雇については、労使協約と法的規制の中間にあたり、雇用者と被雇用者(ホワイトカラー労働者)の法的関係に関する法(通常、ホワイトカラー法と呼ばれる)によって法的に定められており、解雇について最低基準を定める法と一般的に認識されているため、この法を紹介する。しかしながら、法の名称からもわかるように、労働者全員に適用されるものではない。そのため、法を紹介した後、この法の適用範囲について紹介する。

    この法律は、2007 年の世界金融危機を原因とした経済の減速以降、 解雇の分野についての改正は行われていないため、経済危機による解雇分野の法改正はないといってよい。

    以下が解雇および辞職の通知に関する規定を簡単にまとめたものである。

    図表 1-2 解雇および辞職の通知時期 勤続期間 雇用者側の解雇通知 被雇用者側の退職通知

    0~6 カ月 1 カ月。(解雇通知は、5 カ月目の月末までに実施されなければならない。) 1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    6 カ月~3 年 3 カ月。(解雇通知は、2 年 9 カ月目の月末までに実施されなければならない。)1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    3 年~6 年 4 カ月。(解雇通知は、5 年 8 カ月目の月末までに実施さなければならない。)1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    6 年~9 年 5 カ月。(解雇通知は、8 年 7 カ月目の月末までに実施されなければならない。)1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    9 年を超える場合 6 カ月。 (解雇通知は、解雇実施月の 7カ月前の月末に行われなければならない。)

    1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    労働契約に 含まれる最高 3 カ月の試用期間

    14 日。(14 日は、試用期間に含めることができる) 通知期間なし。

    最高 1 カ月の期間限定の労働契約 通知期間なし。 通知期間なし。

    出所:雇用省ホームページ

    解雇以外に同法は、

    ①退職金 ②雇用者または被雇用者側の労働契約の不履行 ③病休 ④兵役 ⑤被雇用者の死亡 ⑥妊娠および出産

    等に規定を行っているが、詳細は別添資料の同法の翻訳を参照されたい。

    第 3 節 雇用者と被雇用者(ホワイトカラー労働者)の法的関係に関する法の適用範囲 デンマーク国内において、同法は解雇について最低基準を定める法と一般的に認識さ

    れているものの、1 条が示す通り同法の適用範囲は主に事務職の者に限られている。しかしながら、正確な適用範囲を示した文献はない。2009 年に HK Privat(民間企業で事務職に就く、大学卒業資格を持たない労働者のための労働組合)の依頼で、南デンマーク大学商業学部のスティン・シュア教授が作成したレポートが、適用範囲に関して分析を行った直近のレポートと言える。依頼主が労働組合であることから、労働者側に有利な分析である可能性もあるが、適用範囲を示した数少ない資料である。

    このレポートでは、同法が直接的に適用される業務に就労する労働者は、労働者人口の半数強である 53%としている。これに加え、法的には、同法が適用される職種・業務でないものの、ホワイトカラーとしてのステータスが労働協約に含まれており、同法の

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  • 図表 1-2 解雇および辞職の通知時期 勤続期間 雇用者側の解雇通知 被雇用者側の退職通知

    0~6 カ月 1 カ月。(解雇通知は、5 カ月目の月末までに実施されなければならない。) 1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    6 カ月~3 年 3 カ月。(解雇通知は、2 年 9 カ月目の月末までに実施されなければならない。)1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    3 年~6 年 4 カ月。(解雇通知は、5 年 8 カ月目の月末までに実施さなければならない。)1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    6 年~9 年 5 カ月。(解雇通知は、8 年 7 カ月目の月末までに実施されなければならない。)1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    9 年を超える場合 6 カ月。 (解雇通知は、解雇実施月の 7カ月前の月末に行われなければならない。)

    1 カ月。 (辞職願は、辞職前月の月末までに提出しなければならない。)

    労働契約に 含まれる最高 3 カ月の試用期間

    14 日。(14 日は、試用期間に含めることができる) 通知期間なし。

    最高 1 カ月の期間限定の労働契約 通知期間なし。 通知期間なし。

    出所:雇用省ホームページ

    解雇以外に同法は、 ①退職金 ②雇用者または被雇用者側の労働契約の不履行 ③病休 ④兵役 ⑤被雇用者の死亡 ⑥妊娠および出産

    等に規定を行っているが、詳細は別添資料の同法の翻訳を参照されたい。

    第 3 節 雇用者と被雇用者(ホワイトカラー労働者)の法的関係に関する法の適用範囲 デンマーク国内において、同法は解雇について最低基準を定める法と一般的に認識さ

    れているものの、1 条が示す通り同法の適用範囲は主に事務職の者に限られている。しかしながら、正確な適用範囲を示した文献はない。2009 年に HK Privat(民間企業で事務職に就く、大学卒業資格を持たない労働者のための労働組合)の依頼で、南デンマーク大学商業学部のスティン・シュア教授が作成したレポートが、適用範囲に関して分析を行った直近のレポートと言える。依頼主が労働組合であることから、労働者側に有利な分析である可能性もあるが、適用範囲を示した数少ない資料である。

    このレポートでは、同法が直接的に適用される業務に就労する労働者は、労働者人口の半数強である 53%としている。これに加え、法的には、同法が適用される職種・業務でないものの、ホワイトカラーとしてのステータスが労働協約に含まれており、同法の

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  • 定めるルールが完全に適用される者が、11%となっている。つまり、労働人口の約 2/3に同法が適用されていると言える。

    労働人口の 32%は、同法の規制が完全に適用されないものの、同法の一部が適用されることが労働協約に組み込まれている。同法が適用されている分野が解雇の分野であるかどうか不明であるが、労働協約には何らかの形で解雇規制がされている。例えば、製造業の工員の労働協約に定められている解雇規制は、解雇通知期間が同法の半分程度である。

    また労働人口の 4%は、当該労働者本人の労働契約のみによる規制である。この 4%に含まれる労働者は、主に企業幹部・記者および編集者・エージェント契約等の外交販売員である。企業幹部等、同法と同等以上の保護を自分自身で確保できる経歴を持っているものも少なくない。

    第 4 節 労使の評価 解雇の規制に関して、現在労使からの改正要請はなく、同時に近年この分野での改正

    がないために、労使は現行の規制について満足していると考えられる。2013 年になり、労働組合等から、競業避止義務について改正要求があったが、解雇部分に関しての改正要求はない。

    この背景には、デンマーク労働市場についての政策が、フレキシキュリティー(Flexicurity)の考えに基づいていることがあると考えられる。

    フレキシキュリティーは、英語の柔軟性(フレキシビリティ)と保障(セキュリティ)の造語であり、柔軟性と保障を組み合わせた労働市場政策を実施することである。

    柔軟性および保障についての定義は、以下の通り各 4 種があげられる。

    柔軟性 ① 従業員数に関する柔軟性(従業員数を調整する際の融通性) ② 業務に関する柔軟性(異なる業務に従事する際の柔軟性) ③ 勤務時間に関する柔軟性 ④ 賃金に関する柔軟性

    保障 ① 職の保障(同じ職を保障すること) ② 雇用の保障(職に関係なく、雇用されている状態を保障すること) ③ 収入の保障(失業または疾病等の際に、収入が保障されていること) ④ ワークライフバ�