larsen & toubro(l&t)社とのボイラ/タービン合弁会...

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37 259 1.インド合弁会社設立の目的と経緯 2000年初頭から現在に至るまで,インドは急速な経 済発展下で深刻な電力不足に直面している。インドの人 口は日本の約10倍にも拘らず,インドの年間総発電量 は日本のそれとほぼ同等しかなく,電力需要に対して供 給が恒常的に10%程度不足しているため,電力供給能 力増強の強いニーズがある。 その電力不足を解消すべく,インド政府は5ヵ年計画 を策定し,発電設備導入を計画・実行している。第11 次5ヵ年計画 (2007-2012年 ) では年15GW 超の新規電 源増設を計画していた。それまでのインド国内の火力発 電設備市場はインド国営重電機メーカーであるBHEL 社が独占していたが,この新規電源増設計画全てを同社 だけで賄うのは不可能であり,市場参入のチャンスが十 分あることが期待された。 また,インドの新規電源増設計画は石炭火力が中心で あるが,環境負荷低減も重要な課題である。加えて,イ ンド政府の方針として原則インド国内生産,“Make in India”を掲げている。 これらインド国内の状況及びインド政府の方針を鑑 み,インド国内にて合弁会社を設立する必要があると考 えた当社は,石炭焚き超臨界圧発電プラントを提供する ため,発電設備製造事業への参入を目指していた Larsen & Toubro 社 (L&T) をパートナーとして合弁会 社を設立した。パートナーである L&T 社は,1938年に 設立され,酪農機器の輸入・製造からスタートし,現在 ではインド建設最大手であり,近年ではコンバインドプ ラントなどの発電プラントの建設や,圧力容器及び排熱 回収ボイラの製造事業も手掛けている。インド国内に 15拠点を有し,従業員数5万人規模の多業種を取り扱 う総合企業である。 2006年に技術ライセンス契約をL&T社と締結し, 2007年に超臨界ボイラの合弁会社であるL&T-MHPS Boilers Private Ltd. (LMB),超臨界タービン・発電機 の 合 弁 会 社 で あ る L&T-MHPS Turbine Generators 三菱日立パワーシステムズ株式会社(MHPS)はインド建設最大手のLarsen & Toubro社と 2007年に合弁会社を設立し、最新設備を備えた工場の建設及び技術ライセンスによる最新技術の 導入に加え、工場及びプラント建設現場に数多くの人員を派遣した。日本のもの造りマインドを根 付かせることによる高品質の製品の生産及び建設を目指した結果、工場では日本製品と同等の高品 質なもの造り、建設現場では高品質な石炭焚き超臨界圧発電プラントの建設を実現している。 Joint ventures (JVs) of Boiler & Turbine-Generator were established by Mitsubishi Hitachi Power Systems, Ltd.(MHPS) and Indian company Larsen & Toubro, Ltd in 2007. The manufacturing facility and factories were made by MHPS Technology. The facilities of the Joint venture factories are equivalent to MHPS facility which has been developed after a long term successive research and development. MHPS transferred not only Japanese state-of-the-art-technology for supercritical thermal power plant by technical license, but also “Japanese Spirits of Manufacturing”and quality which we call as “Monozukuri” . For example, MHPS deputed many engineers / managers to JVs factories and the construction site to give instruction to Indian engineers and to ensure the quality output. As a result, the most reliable and highest performance supercritical plants are made in India and supplied into Indian market. Larsen & Toubro(L&T)社とのボイラ /タービン合弁会社による インド向け石炭焚き超臨界圧発電プラントの建設 Manufacturing and construction of supercritical thermal power plant by Joint Ventures between Larsen & Toubro Ltd. and MHPS堂 本 和 宏 (K. Domoto)   三菱日立パワーシステムズ株式会社 MITSUBISHI HITACHI POWER SYSTEMS, LTD 原稿受領日:平成27年11月17日

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Larsen & Toubro(L&T)社とのボイラ/タービン合弁会社によるインド向け石炭焚き超臨界圧発電プラントの建設(堂本 和宏)

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Vol. 67 No.4 259

1.インド合弁会社設立の目的と経緯

 2000年初頭から現在に至るまで,インドは急速な経

済発展下で深刻な電力不足に直面している。インドの人

口は日本の約10倍にも拘らず,インドの年間総発電量

は日本のそれとほぼ同等しかなく,電力需要に対して供

給が恒常的に10%程度不足しているため,電力供給能

力増強の強いニーズがある。

 その電力不足を解消すべく,インド政府は5ヵ年計画

を策定し,発電設備導入を計画・実行している。第11

次5ヵ年計画(2007-2012年)では年15GW超の新規電

源増設を計画していた。それまでのインド国内の火力発

電設備市場はインド国営重電機メーカーであるBHEL

社が独占していたが,この新規電源増設計画全てを同社

だけで賄うのは不可能であり,市場参入のチャンスが十

分あることが期待された。

 また,インドの新規電源増設計画は石炭火力が中心で

あるが,環境負荷低減も重要な課題である。加えて,イ

ンド政府の方針として原則インド国内生産,“Make in

India”を掲げている。

 これらインド国内の状況及びインド政府の方針を鑑

み,インド国内にて合弁会社を設立する必要があると考

えた当社は,石炭焚き超臨界圧発電プラントを提供する

ため,発電設備製造事業への参入を目指していた

Larsen & Toubro社(L&T)をパートナーとして合弁会

社を設立した。パートナーであるL&T社は,1938年に

設立され,酪農機器の輸入・製造からスタートし,現在

ではインド建設最大手であり,近年ではコンバインドプ

ラントなどの発電プラントの建設や,圧力容器及び排熱

回収ボイラの製造事業も手掛けている。インド国内に

15拠点を有し,従業員数5万人規模の多業種を取り扱

う総合企業である。

 2006年に技術ライセンス契約をL&T社と締結し,

2007年に超臨界ボイラの合弁会社であるL&T-MHPS

Boilers Private Ltd. (LMB),超臨界タービン・発電機

の合弁会社であるL&T-MHPS Turbine Generators

  ●  

三菱日立パワーシステムズ株式会社(MHPS)はインド建設最大手のLarsen & Toubro社と

2007年に合弁会社を設立し、最新設備を備えた工場の建設及び技術ライセンスによる最新技術の

導入に加え、工場及びプラント建設現場に数多くの人員を派遣した。日本のもの造りマインドを根

付かせることによる高品質の製品の生産及び建設を目指した結果、工場では日本製品と同等の高品

質なもの造り、建設現場では高品質な石炭焚き超臨界圧発電プラントの建設を実現している。Joint ventures (JVs) of Boiler & Turbine-Generator were established by Mitsubishi Hitachi Power

Systems, Ltd.(MHPS) and Indian company Larsen & Toubro, Ltd in 2007. The manufacturing facility and factories were made by MHPS Technology. The facilities of the Joint venture factories are equivalent to MHPS facility which has been developed after a long term successive research and development. MHPS transferred not only Japanese state-of-the-art-technology for supercritical thermal power plant by technical license, but also “Japanese Spirits of Manufacturing” and quality which we call as “Monozukuri”. For example, MHPS deputed many engineers / managers to JVs factories and the construction site to give instruction to Indian engineers and to ensure the quality output. As a result, the most reliable and highest performance supercritical plants are made in India and supplied into Indian market.

  ●  

Larsen & Toubro(L&T)社とのボイラ/タービン合弁会社によるインド向け石炭焚き超臨界圧発電プラントの建設

(Manufacturing and construction of supercritical thermal power plantby Joint Ventures between Larsen & Toubro Ltd. and MHPS)

堂 本 和 宏*

(K. Domoto)  

*三菱日立パワーシステムズ株式会社 MITSUBISHI HITACHI POWER SYSTEMS, LTD 原稿受領日:平成27年11月17日

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Private Ltd.(LMTG)を設立した。当社の高度な発電

プラント技術の移転を受けた「MHPSの分身」として

インド市場に参入した両合弁会社の製作拠点は,長崎工

場とほぼ同規模のボイラ工場,ミル工場,タービン・発

電機工場,鋳物工場がグジャラート州の臨海部であるハ

ジラ地区に設立された。2011年1月には当時グジャ

ラート州知事であったModi現インド首相もご来所頂

き,盛大に開所式を執り行った(写真1)。その後,各

種国際認証資格を取得し,工場設備を拡充,現在ではボ

イラ・タービン共に年間4GWの生産能力を有する

MHPSの一大生産拠点となっている(写真2)。日本で

育んだ高効率・低環境負荷技術を導入し,インドのマー

ケットのニーズに対応する一方で,MHPSのグローバ

ルな設計・生産・調達の拠点としても活用されている。

 また,デリー地区のファリダバッド及びボイラエンジ

ニアの人材が豊富なチェンナイにボイラの設計オフィス

を構えている。

2. インドの石炭焚き超臨界圧発電プラントの特徴

 インドにおける初期の石炭焚き超臨界圧発電プラント

は,プラント容量が660MW機/800MW機の2種類,

蒸気条件は圧力が25MPa級,温度が566℃ /593℃級

と標準的な仕様が採用され,ボイラ,タービンの設備仕

様要求も標準化されていた。従って,ボイラ,タービン

ともに標準モデルに合わせた設計を行うことでスムーズ

な技術移転を行うとともに,先行機の実績反映により標

準設計を継続的に改善している。

 近年では,より一層の性能向上のニーズにより,蒸気

条件が28MPa×600℃ /600℃級のUSC案件及び出力

1000MW級案件等もあり,更なる設計技術移転を推進

している。

 ボイラの設計では,灰の含有量が非常に多いインド炭

を使用することからボイラ伝熱部への灰の付着防止,摩

耗防止対策及び摩耗した伝熱面の取替えのための搬出入

ルートの確保といったインド特有の考慮が必要であっ

た。

 タービンについては,インドでは自然通風式冷却塔が

採用されており,インド国内プラントの復水器真空度に

適した低圧タービン標準フレームと,660MW機と

800MW機に共通の高中圧タービン標準フレームを設定

し,標準フレームの組合せによる設計を行ったことで,

同型フレームの連続生産によるスムーズな技術移転を実

施できた。

写真2 インド合弁会社ハジラ工場全景(上:タービン・発電機工場,下:ボイラ・ミル工場)

3.高品質なもの造りの実現に向けた取り組み

 日本と同等の高品質なもの造りを実現するには技術ラ

イセンスによる最新技術の導入が必要であり,そのため

に最新鋭の設備であるタービン高速バランス設備(写真

3)を導入した。この設備では1,000MW級のタービン,

発電機両方のバランス試験が可能となる。

 また,このような最新設備の導入に加えて,設計~調

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写真1 開所式にご出席されたModi現首相(当時は州知事)

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達~製造~品質管理~据付~試運転の全てのプロセスに

ついても,4M視点に基づきMHPSの技術を導入して

いる。Method(MHPSと同じ手順の導入),Material

(MHPSと同じ調達基準の導入),Machine(MHPSの

工場同様の設備導入)を基調としながらも,Man,“も

の造りは人づくり”の観点に立ち,会社を育成してきた。

 営業,設計,製造,品質管理,財務・経理の常駐コン

サルタントを配置しただけでなく,設計,調達,製造,

品質管理のプロセスにおいて多くのスペシャリストをテ

クニカルアドバイザーとしてインドに派遣して,MHPS

の安全管理,資材管理,据付工法,品質管理,異物管理

及び溶接管理など,多岐に亘るプラント技術の徹底的な

伝承や,整理整頓及びトラブル発生時の原因分析・水平

展開といった広範な技術指導を実施した(写真4)。単

なる技術指導に留まらず,日本のもの造りマインドの定

着も根気よく目指し,工場に於ける小集団活動として

MHPSの日本各地の工場で実施されている改善活動,

5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾),QCサークル活動

やなぜなぜ分析等に代表されるTPM活動(Total

Productivity Management活動:工場の生産性を向上

させるための取組)などPDCA(Plan,Do,Check,

Act)に基づく継続的改善につながる風土が醸成され,

自発的かつ持続的な改善活動が根付いている。

 現場レベルでの技術導入に加えて,合弁会社のトップ

マネジメント層に対しても,取締役会にて取締役会メン

バー及びMHPSからの派遣者がL&T社と完全に対等な

関係を維持し,相互の完全なる意思統一を図るとともに,

品質向上に向けた各種改善活動の必要性を浸透させるこ

とに尽力し,プロジェクトの円滑な管理・運営ができる

体制を構築する様に働きかけた。

 このように各階層に多数のスペシャリストを日本から

派遣したことに加え,これまでMHPSが長年に亘って

独自開発してきたプロジェクトの円滑な業務管理・運営

の為のデータベース「Project Management Tool

(PMT)」を合弁会社に導入した。このPMTを用いて計

画と実績を登録することでPJの進捗状況の見える化を

図ることができる。また懸案事項やトラブルが発生した

際に解決に至るやり取りも登録でき,情報共有化による

問題解決の加速と他プロジェクトへの水平展開を可能と

する。PMT導入により,(1)リアルタイムでの各種情

報の共有化(2)工程進捗の見える化(3)プロジェク

ト管理制度の統一化(4)勘や経験に頼る判断からの脱

却(5)問題点・リスクの早期洗い出し,の5つの効果

により,後戻り追加作業の大幅な削減が可能となり,プ

ロジェクトの円滑な遂行と後続プロジェクトへの水平展

開を実現させることが出来た。上記のような一般的なプ

ロジェクト管理を漏れなく行うことのみならず,MHPS

の経験をデータベースで活用できることや,合弁会社の

プロジェクトをMHPSとして常時モニタリングできる

等のメリットも得られた。

 これらの取り組みにより,インド工場においては日本

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写真3 タービン高速バランス設備

写真4 MHPSによる指導(上:設計,下:製造)

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製品と同等の高品質なもの造りが可能となり,建設現場

に於いてもインド市場における高効率の石炭焚き超臨界

圧発電プラントの建設を実現している。

4.インドプロジェクトのプラント建設状況

 合弁会社を設立して以降,2008年にタービン,2009

年にボイラを初受注し,2015年7月までに15缶のボイ

ラ,15機のタービンを受注,そのうちボイラ4缶,ター

ビン6機が成功裏に営業運転を開始している(図1)。

図1 インドプロジェクト現地概要

 合弁会社は着実に実績を積み重ねてきているが,プロ

ジェクト実行の裏には関係者の多大なる苦労と努力が

あった。プロジェクト実行は合弁会社が担い,MHPS

はボイラ及びタービンのコアパーツを供給する体制で

あったが,プロジェクト遂行と運営において発生する問

題に対しては,MHPSとしても合弁会社メンバーと共

に額に汗を流すことで,プロジェクトを完成に導くこと

ができた。

 設計段階では,ボイラ本体の基本計画・設計から鉄骨

や配管,プラント補機類の詳細設計に至るまで多数の技

術者を長期に亘り合弁会社に派遣してインド人技術者を

指導することで,これらの作業を完遂させることができ

た。

 現地工事段階では,安全,品質,工程の確保が大きな

課題であった。技術契約は石炭焚き超臨界圧発電プラン

トの製造を主としたものであったが,ともすると,現地

では工程を急ぐあまり,重要な据付手順を無視し,品質・

安全が蔑ろにされる事もあった。加えて,設立間もない

合弁会社の不慣れなプロジェクト管理,多くの地元作業

員を活用しないといけない事情等,様々なインド特有の

問題点が山積していた。

 また,技術的にも,インドでは山元発電が主体であり,

国内内陸部での発電所建設にあたって,輸送制限に合せ

た荷姿の大幅見直し(小ブロック化)が必要であり,ま

た,輸送時のダメージの頻発に対して,現地での補修作

業及び補修部品の据付手順の見直しが適宜必要であっ

た。また,輸送制限による小ブロック化と同様に,重機

と比べ労働力が安く,可能な限り重機を使わずに据付を

行いたいという現地ニーズに合わせ,ウインチを多用し

て小ブロックを据付ける工法に変更する必要があった。

 他にも,雨季には現地及び周辺が水浸しとなり,作業

効率の著しい低下により工程遅延の原因となった(写真

5)。

 以上のような問題点を克服し,試運転まで辿り着いた

としても気を抜くことはできなかった。試運転を実施す

る上で苦労したことの一つに極低品位なインド炭の性状

がある。インド炭の品質は極めて悪く(高灰分,低発熱

量)かつバラツキが大きい。発熱量が大きく変動(2,000

~4,000kal)し,給水と燃料のバランスが重要な超臨

界ボイラの運転調整としては大変苦労した。

写真5 雨季のプロジェクト現地

 試運転で苦労した2点目としては,不安定なグリッド

である。系統が日本のように安定しておらず,周波数の

変動などの外乱によりユニットの運転状態が不安定にな

り易く,異常な運転が頻発してユニットのトリップや機

器の損傷などを経験した。それらの外乱からプラント機

器を保護するために,当社が採用してきた従来実績以上

にインターロック等の条件を厳しくし,運転を改善した。

また,次の案件では運転を改善したインターロックの条

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件を最初から標準としてロジックに組み込む方針として

いる。

 3点目としては先を急ぐ試運転工程が挙げられる。一

日も早く運開して発電による利益を急ぐお客様に対し,

正しい手順に沿った試運転の遂行・業務手順を指導し続

け,必要な試運転をきちんと実施するように説明を繰り

返す必要があった。

 これらの諸問題に対し,当社の建設現地におけるプラ

ント技術を伝承し,必要な安全と品質を確保するため,

現地据付が最盛化した2011年以降,インドの建設現地

にも多くのテクニカルアドバイザーを派遣し,工事工程・

品質の監査・改善指導を実施した(写真6)。また,現

地においては合弁会社だけではなく,顧客,EPCコン

トラクター,現地据付業者に対しても高い信頼性の実現

のために各種プロジェクト管理の徹底が重要であること

を粘り強く教育していった。

 昼夜を問わない技術者の指導や,経営層・エキスパー

トによる定期的な現地監査並びに合弁会社のメンバーの

努力により,インド合弁会社のプロジェクトの初号機が

2014年2月1日に営業運転開始し,契約通り納期48ヶ

月でのお客様引渡しした。インドで最も効率と信頼性の

高い発電所として現在も営業運転を継続中である(写真

7)。

 初期のプロジェクトで徹底的にインド人技術者を指導

した結果,最新のプロジェクトではMHPSのテクニカ

ルアドバイザー・コンサルタントが常駐することなく,

MHPSから伝承された各種プロジェクト管理が実践さ

れている。

 また,初期のプロジェクトにおいて各種管理の必要性

を説いた際に,合弁会社のメンバーから「インドの市場

が求めているのはインド品質であって日本品質ではな

い」との意見もあったが,他社が手掛ける多くのプラン

トが品質トラブルや工程遅延により営業運転が開始でき

ない現状と合弁会社が成し得た結果を鑑みるに,グロー

バル品質の実現に向けた地道な活動が如何に重要である

かが実証されたと考える。

5.インド合弁会社のグローバル活用

 インド市場への参入を目的として設立した合弁会社で

あったが,各種取組の成果によりグローバルに通用する

品質を備えた製品の製造が可能となったため,インド市

場だけでなく,MHPSの日本国内,輸出案件における

ボイラ耐圧部,ミル及び蒸気タービンのグローバル調達

拠点の一つとして積極的な活用を展開中である。

 2015年3月までに米国,サウジアラビア,エジプト

向けに合弁会社の製品を出荷済みであるとともに,日本,

米国,フィリピン向けの製品を製造中である(写真8)。

 MHPSの日本国内,輸出案件で合弁会社を活用する

に当たり,合弁会社のメンバー,MHPSのメンバーが

一丸となり,キックオフミーティングから定期的な工場

監査,時にはMHPS検査員による直接的な製品検査を

行い,MHPS案件と変わらぬ品質を確保している。

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写真6 スペシャリストによる現地指導

写真7 インドプロジェクト初号機のボイラ性能試験達成時(上:ボイラ全景,下:中央制御室での集合写真)

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 当社プロジェクトでの合弁会社製品の活用にあたって

「われわれが欲しいのはインド製品ではなく日本製品で

す」と仰られるお客様も,実際に工場をご覧になってい

ただくことで,合弁会社のグローバル品質を認識してい

ただけており,それは単に製造設備や技術の移管だけで

はない日本のもの造りマインドが定着してきたものと考

える。

当社のボイラ/タービン製造拠点の一つとして,当社プ

ロジェクトにおいて合弁会社の活用を拡大していくにあ

たり,MHPSの定期的な監査で合弁会社の品質向上活

動をサポートしているだけでなく,これまでの当社から

合弁会社への指導という段階から,当社と合弁会社が一

体となり両社の技術,ノウハウを共有しながらの改善活

動へと深化を進めている。

 また,直接的にインド国内プロジェクトを成功させる

為に石炭焚き超臨界圧発電プラント全体の支援を実施し

たことが,その中での効果的な技術伝承に繋がり,合弁

会社に高い技術力を有する多くの技術者を育てられたこ

とも大きな収穫であった。今後は,MHPSが育成した

合弁会社の人材をMHPSグローバル案件にて有効活用

することも検討していく。

 最後に,合弁会社活用によりMHPSのグローバル化

を更に促進させ,合弁会社のビジネスの二本柱(インド

の石炭焚き超臨界圧発電プラント,MHPSグローバル

案件へのパーツ供給)を進めていきながら,MHPS全

体のEPC競争力強化に繋げる所存である。

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写真8 合弁会社からの出荷

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