lysis-filtration法...

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900 感染症学雑誌 第61巻 第8号 Lysis-Filtration法 による血液培養システムの研究について 横浜市立大学 医学部病院中央検査部 横浜市立大学医学部病院第一内科 (昭和61年12月25日受付) (昭和62年2月24日 受理) Key words: Lysis-Filtration Method, Blood culture, Hemodex 新 し い血 液 培 養 シ ス テ ム で あ るLysis-Filtration法(Hemodex,テ ル モ 製,以 下L-F法)の 有用性を 内 科 患 者227例 について検討 した結果,以 下 の 成 績 を 得 た. 1.菌 陽 性 例 は227例 中39例(17.2%)で,方 法 別 で はBCBシ ス テ ム法(Columbia brot 以下BCB法)で28例(12.3%),LF法で34例(15.0%)と 若 干L-F法 で 良い成績 が得 られた. 2.培 養後 菌 確 認 まで に要 した 日数 につ い て比 較 した と ころ,培 養 後1~2日 目で は差 が認 め られ BCB法 に 比 べLF法 の方 が よ り迅 速 に確 認で きた. 3.検 出 菌 を 比 較 す る とBCB法 では E. coli, K. pneumoniae, E. cloacae, P. aeruginosa, Bacteroides spp.な ど が,L-F法 では S. pneumoniae, A. calcoaceticus var. anitratus, Flavobacterium spp., Candida spp.な どが 若 干 で は あ る が優 位 に 分 離 さ れ た. 4.血 液1ml当 りの 細 菌 数 が10CFU/ml以 下 の 場 合 に は,L-F法 で の 検 出 がBCB法 に比べ優れて た.し か し,10CFU/ml以 上 の 場 合 に は 両 者 間 に 差 は 認 め られ な か っ た. 5.使 用 薬 剤 の 有 無 とBCB法,LF法 の 成 績 を 比 較 した と ころ,使 用 薬 剤 有 と さ れ た 例 で はLF法 成 績 が 優 れ,無 と され た 例 で は 両 者 間 に 差 は 認 め ら れ な か っ た. 細 菌 検 査 室 で 扱 う菌検 索 の た め の血 液 培 養 検 査 はそれ程多いものではない.し か し,敗 血 症,菌 血 症,心 内膜 炎 の凝 わ れ る患 者 の 診 断,治 療上最 も重 要 な検 査 で あ る.こ れ は血 液 が 元 来 無 菌 的 な もの で あ る こ と か ら,菌 が 検 出 され れ ば病 原 的 意 義 を 有 す る場 合 が 多 く,し か も患 者 は重 症 例 が 多 い こ とに よ る.特 に悪性腫瘍,血 液 疾 患,骨 髄腫 な どの患者の末期感染症 として敗血症は重要で主 要 な死 因の一つ ともな ってお り,原 因菌を適確に 検 査 し,そ の成 績 を 迅 速 に 臨 床 側 に報 告 す る こ と が 要 求 され る1)2). 血液 か らの菌検 索法3)~6)としては,(1)混 釈 培 養 法,(2)ヵ ルチ ャーボ トル ・チ ューブ法,(3)溶 血炉 過 法,(4)溶 血 遠 心 法,(5)Bactec法 な どが あ る (3)~(5)の方 法 につ い て は 本 邦 で は 実 用 化 に は至 ら ず,ほ とん ど諸外 国6)~16)でみ られ るのみで あ る.我 国 に お け る最 も一 般 的 な 血 液 培 養 法 と して は,採 取した血液を直接液体培地に入れて行うカル チ ャー ボ トル お よ び チ ュ ー ブに よ る方 法 の 普 及 が あ り,比 較的簡便で汚染の機会 も厳密に行えばそ れ 程 多 い もの で は な い.し か し,菌 検 出 にや や 日 数 を 要 す る こ と,発 育 確 認 に は 塗 抹,サ ブカル チャーなどが不可欠で若干手数を要す ることが知 られ て い る.ま た,こ れ らで使用 され る培地 には 選 択 に苦 慮 す る程 多 種 類 の もの が あ り,使 用 上 の 問 題,抗 凝固剤の問題,培 養 条 件 お よ び観 察 方 法 な どに関す る多 くの検討4)5)17)がな され,さ らに は 別刷 請 求先:(〒232)=横 浜 市南 区浦 舟 町3~46 横浜市立大学医学部病院中検 神永陽一郎

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  • 900 感染症学雑誌 第61巻 第8号

    Lysis-Filtration法 に よ る血 液 培 養 シ ス テ ム の 研 究 に つ い て

    横浜市立大学医学部病院中央検査部

    神 永 陽 一 郎

    横浜市立大学医学部病院第一内科

    伊 藤 章

    (昭和61年12月25日受付)

    (昭和62年2月24日 受理)

    Key words: Lysis-Filtration Method, Blood culture, Hemodex

    要 旨

    新 しい血 液培 養 シ ステ ムで あ るLysis-Filtration法(Hemodex,テ ル モ製,以 下L-F法)の 有用 性 を

    内科 患者227例 につい て検討 した結果,以 下 の成績 を得 た.

    1.菌 陽 性例 は227例 中39例(17.2%)で,方 法 別 ではBCBシ ステ ム法(Columbia broth,ロ シ ュ製,

    以下BCB法)で28例(12.3%),LF法 で34例(15.0%)と 若 干L-F法 で 良い成績 が得 られた.

    2.培 養後 菌 確 認 まで に要 した 日数 につ い て比 較 した と ころ,培 養 後1~2日 目で は差 が認 め られ

    BCB法 に比べLF法 の方 が よ り迅 速 に確 認で きた.

    3.検 出菌 を比 較す る とBCB法 では E. coli, K. pneumoniae, E. cloacae, P. aeruginosa, Bacteroides

    spp.な どが,L-F法 で は S. pneumoniae, A. calcoaceticus var. anitratus, Flavobacterium spp., Candida

    spp.な どが若 干 では あ るが優 位 に分 離 され た.

    4.血 液1ml当 りの細 菌 数 が10CFU/ml以 下 の場 合 に は,L-F法 で の検 出がBCB法 に比 べ優 れ て い

    た.し か し,10CFU/ml以 上 の場合 に は両者 間 に差 は認 め られ な か った.

    5.使 用 薬剤 の有 無 とBCB法,LF法 の成 績 を比較 した と ころ,使 用薬 剤有 とされ た例 ではLF法 の

    成績 が優 れ,無 とされ た例 で は両者 間 に差 は認 め られ なか った.

    細菌検査室で扱 う菌検索のための血液培養検査

    はそれ程多いものではない.し かし,敗 血症,菌

    血症,心 内膜炎の凝われる患者の診断,治 療上最

    も重要な検査である.こ れは血液が元来無菌的な

    ものであることから,菌 が検出されれば病原的意

    義を有す る場合が多く,し かも患者は重症例が多

    いことによる.特 に悪性腫瘍,血 液疾患,骨 髄腫

    な どの患者の末期感染症 として敗血症は重要で主

    要 な死因の一つ ともなってお り,原 因菌を適確に

    検査 し,そ の成績を迅速に臨床側に報告すること

    が要求 される1)2).

    血液 からの菌検索法3)~6)としては,(1)混 釈培養

    法,(2)ヵ ルチャーボ トル ・チューブ法,(3)溶 血炉

    過法,(4)溶 血遠心法,(5)Bactec法 などがあるが,

    (3)~(5)の方法については本邦では実用化には至 ら

    ず,ほ とんど諸外国6)~16)でみられるのみである.我

    国における最も一般的な血液培養法 としては,採

    取 した血液を直接液体 培地 に入れ て行 うカル

    チ ャーボ トルおよびチューブによる方法の普及が

    あ り,比 較的簡便で汚染の機会 も厳密に行えばそ

    れ程多いものではない.し かし,菌 検出にやや日

    数を要す ること,発 育確認には塗抹,サ ブカル

    チャーなどが不可欠で若干手数を要す ることが知

    られている.ま た,こ れ らで使用 される培地には

    選択に苦慮する程多種類のものがあ り,使 用上の

    問題,抗 凝固剤の問題,培 養条件および観察方法

    などに関する多 くの検討4)5)17)がなされ,さ らには

    別刷請求先:(〒232)=横 浜市南 区浦舟町3~46

    横浜市立大学医学部病院中検

    神永陽一郎

  • 昭和62年8月20日 901

    培 養 手 技,使 用 法 につ い て基 準 化 を 計 り,よ り確

    実 な 検 査 法 を 普 及 さ せ よ う と の 動 き も み ら れ

    る18)19).かか る現 状 に お い て,我 々 は〓 過 に よ り血

    液 中 の 細 菌 を 分 離 培 養 す る新 し い シ ス テ ムで あ る

    Lysis-Filtration法(Hemodex,テ ル モ 製,以 下

    L-F法)の 有 用 性 につ い て 検 討 した の で 報 告 す る.

    材 料 お よ び方 法

    昭和59年12月 よ り60年8月 末 日ま で の 当 院 内 科

    の患 者 血 液227検 体 に つ い て 日常 検 査 法 と して は

    BCBシ ス テ ム(Columbia broth,ロ シ ュ製,以 下

    BCB法)を 用 い,L-F法 に つ い て は 専 用 の 培 地

    (Table 1)入 り採 血 管 に無 菌 的 に 所 定 量 採 取 した

    も の に つ い て,そ れ ぞ れ 以 下 の通 り行 っ た.な お,

    分 離 菌 の 同 定 は 当 院 の 常 法 に基 づ い て行 った.

    Table 1 Composition of medium

    (1) Tryptone (OXOID) 10g

    (2) Soya Peptone (OXOID) 3g

    (3) Meat Extract (OXOID) 3g

    (4) Yeast Extract (OXOID) 5g

    (5) Liver Digest (OXOID) 1g

    (6) Dextrose 2.5g

    (7) Dipotassium Phosphate 0.15g

    (8) Sodium Chloride 4g

    (9) Sodium Carborate 2g

    (10) L-Cysteine Hydrochloride 0.45g

    (11) Para-aminobenzoic acid 0.05g

    (12) Hemin 0.005g

    (13) Gelatin 12g

    (14) Sodium Polyanetholesulfonate 1g(SPS, Roche)

    (15) Saponin (MERCK) 8g

    (1000ml) pH7.3•}0.2

    1. BCB法

    スライ ド取付は行なわず培養1日 後に無菌的に

    内容液を注射器で採取 し,グ ラム染色と共に好気,

    嫌気の両法でサ ブカルチャーを行 うと同時にガム

    半流動培地(日 水)に 接種 し,平 板は3日,ガ ム

    半流動培地は1週 間観察した.2日 目以後 につい

    ては肉眼的観察 と同時に,上 記の方法で隔 日的に

    確認 したが,L-F法 で先に菌が認められた ものは

    随時グラム染色,サ ブカルチャーを行いチェック

    した.

    2. L-F法

    検査手順をFig. 1に 示 した.先 づ2ml培 地入 り

    採血管に4m1の 血液を無菌的に採取 し,10回 程度

    転倒混和 し十分溶血させた後,別 の注射器で内容

    液をとり吸水剤入 りフィルター容器2つ にそれぞ

    れ3mlず つ注入 し,吸 引することなく1つ はその

    まま炭酸ガス培養で,1つ は嫌気的(ガ スパック

    法,BBL)に 培養し,最 終的には1週 間まで観察

    した.な お培養後発現 したコロニーをFig.2に 示

    した.

    成 績

    1. BCB法 とL-F法 の比較

    BCB法 およびL-F法 の培養結果の比較につい

    てTable 2に 示 した.そ の結果227例 中菌陽性例

    は39例(17.2%)あ った.こ の うちBCB法 とL-F

    法の好気,嫌 気の両法で菌陽性を示 したものは11

    例(4.8%),BCB法 とL的F法 の好気のみ陽性が12

    例(5.3%),BCB法 のみ陽性5例(2.2%),L-F

    法のみ陽性11例(4.8%)で,L-F法 のみ陽性例の

    Fig. 1 Test procedure

    (1) (2) (3) (4) (5) (6)

    Blood collection Injection Aspiration Inoculation Incubation at 37•Ž Observation

  • 902 感染症学雑誌 第61巻 第8号

    Fig. 2 Enterobacter cloacae colonies growthed on

    membrane filter (Hemodex Terumo)

    うち好 気,嫌 気 の 両 法 陽 性 は3例(1.3%),好 気

    の み 陽 性 は8例(3.5%)で あ った.す な わ ち,菌

    陽 性 率 はBCB法12.3%, L-F法15.0%で あ った.

    2. 菌 確 認 まで の 日数 に つ い て

    培 養 後 菌 確 認 まで に要 した 日数 に つ い てTable

    3に 示 した.BCB法 で は依 頼 後1日 目で 確 認 され

    た もの が28例 中15(53.6%),2日 後4(14.3%),

    3日 後6(21.4%),4日 後3(10.7%)あ った.

    LF法 で は好 気 例 で1日 後 確 認 され た も の が34例

    中22(64.7%),2日 後7(20.6%),3日 後2

    (519%),5日 後1(2.9%),7日 後2(5.9%)

    で,嫌 気 例 で は1日 後 が14例 中10(71.4%),2日

    後3(21.4%),6日 後1(7.1%)で あ った.

    Table 2 Comparison of blood culture bottle

    method and lysis-filtration culture method for

    blood cultures

    1) BCB: Blood culture bottle method (Columbia

    broth, Roche)

    2) Hemodex, Terumo

    な お,5日 以 後 認 め られ た も の はFlavobacter-

    ium, spp., Candida spp.の2菌 属 の み で あ った.

    3. 分 離 菌 につ い て

    BCB法 お よ びL-F法 の成 績 に つ い て 分 離 菌 種

    別 に 比 較 した も のをTable 4に 示 した.培 養 陽 性

    39例 よ り44菌 株 が 検 出 さ れ,BCB法 で は32菌 株

    (72.7%)が,L-F法 で は37菌 株(84.1%)が 分 離

    され た.BCB法 で はE.coli, K.pneumoniae,

    E. cloacae, P. aeruginosa, Bacteroides spp. など

    で そ れ ぞれ1菌 株 ず つ 多 く,L-F法 で はS.pnm-

    moniae, A. calcoaceticus var. anitratus, Flavo-

    bacterium spp., C. albicans A, C. tropicalis,

    C.parapsilosisな どが1~4菌 株 の範 囲 で 多 く認

    め られ た.

    4. L-F法 陽 性 例 の コ ロ ニ ー 数 とBCB法 の 成

    績(Table 5)

    Table 3 Days required for detection of organism

    1) BCB: Blood culture bottle (Columbia broth. Roche;

    2) Hemodex Terumo

  • 昭和62年8月20日 903

    Table 4 Number of isolates from blood cultuer bottle method and Lysis-filtration

    cultuer method

    1) BCB: Blood culture bottle (Columbia broth, Roche)

    2) L-F: Lysis-filtration culture method (Hemodex, Terumo)

    Table 5 Relationship between number of colonies per lml blood in lysis-

    filtration cultuer method and result of blood cultuer bottle method

    1) L-F: Lysis-filtration culture method (Hemodex, Terumo)

    2) BCB: Blood culture bottle (Columbia broth, Roche)

    L-F法 で 菌 陽 性 例 は34あ り,そ の 内 容 を 血 液1

    ml当 りの コ ロ ニ ー数 で 分 け る と,1~5個 で あ っ

    た も の14例,6~10個4例,11~50個8例,51~100

    個2例,101個 以 上6例 で あ った.ま た,L-F法 陽

    性 でBCB法 で も 菌 陽 性 で あ った も の は23例

    (67.0%)で あ った.こ の 成 績 をL-F法 で の コ ロ

    ニ ー数 との 関 係 で み る と,1ml当 り10個 以 下 と少

    な い 場 合 に はBCB法 で は50.0%の 陽 性 率 を,

    11~50個 の場 合 は75.0%,51個 以 上 の 場 合 は100%

    であった.

    5. 使用薬剤の有無 と培養成績

    菌陽性例 について検体採取時の使用薬剤の有無

    とBCB法,LF法 の成績を比較 した ものをTable

    6に示 した.菌 陽性39例 中採取前 に使用薬剤有 り

    とされたのは30例(76.9%),無 しであったものは

    9例(23.1%)で,使 用薬剤有 りとされた例では

    BCB法21例,LF法27例 が陽性で後者で の成績

    が優れ,無 しであった例では両者間に差は認めら

  • 904 感染症学雑誌 第61巻 第8号

    Table 6 Results of blood culture among two

    different method and effects of preceding ther-

    apy

    1) BCB: Blood culture bottle method (Columbia

    broth. Roche)

    2) L-F: Lysis-filtration culture method (Hemodex,

    Terumo)

    れなかった.

    6. 菌検出症例について

    菌陽性例患者の年齢,性 別,基 礎疾患,培 養回

    数,検 出菌名,使 用薬剤の有無および転帰につい

    て一覧表 にした(Table 7).

    期間中菌が検出されたのは15名 の患者で,約 半

    数は白血病などの血液疾患を有し,し かも年齢的

    には高齢者で1人 当 りの培養回数は1回 から多い

    ものでは11回 におよんだ.

    また,培 養陽性例は39件 で44菌 株が分離され,

    転帰は悪 く半数以上が死亡例であった.

    考 察

    新 しい血液培養システムであるL-F法 は,0.8%

    のサポニンを含む培地入 り採血管に無菌的に血液

    を採取し,これを転倒混和 して溶血させた後,メ ン

    ブランフィルターを用いた吸水剤付き炉過器 にあ

    け,吸 引す ることなく静置しそのまま培養するシ

    ステムである.今 回は当院内科の227例 について,

    一般的方法であるBCB法 と,新 しいシステムで

    あるL-F法 による成績を比較 し,そ の有用性を検

    討 した.

    その結果延べ数で39例(7.2%)の 培養陽性例が

    あ り,検 出率を比較するとBCB法12.3%,L-F法

    15.0%と 後者でわずかなが ら良い成績が得 られ

    た.ま た,血 液培養では迅速性が特 に望まれると

    ころから,培 養後菌確認までの日数について検討

    した ところ,培 養後1日 目,2日 目では差が認め

    られ,L-F法 でやや早 く菌確認ができた.こ れは

    L-F法 での菌確認は培養器上に発現す るコロニー

    をみ るのみでよいのに反し,BCB法 では肉眼的観

    Table 7 Summary of clinical cases with positive culture

  • 昭和62年8月20日 905

    察 と共にグラム染色,サ ブカルチャーなどを同時

    に行わなけれは確認できない場合があるので,こ

    れらの違いによるものと思われ る.す なわち,L-F

    法で1日 後に菌確認ができたものが,BCB法 では

    同じ日には発見できず,数 日後のグラム染色,サ

    ブカルチャーで認め られるなどの例があった.し

    かも,同 じ日に確認できてもL-F法 ではコロニー

    として認められるので,同定,感 受性へのアプロー

    チがその分早 くできる利点がある.一 方,手 技を

    簡便化した血液培養システムとしては,す でにボ

    トルにスライ ドを取付けサブカルチャーをなくし

    た方法,寒 天平面付二相培地などがある.し かし,

    これ らはボ トルを反転するタイミングにより早期

    検出に至 る場合 と,従 来法 と変わらない場合があ

    る.L-F法 ではこれらの問題はないので迅速性,簡

    便性 とい う面から特に注 目されよう.一方,検 出菌をみるとブ ドウ糖非発酵性グラム

    陰性桿菌,Candida spp.な どの比較的好気性の強

    いものはL-F法 が優れ,腸 内細菌,嫌 気性菌では

    BCB法 で良い結果が得 られた.ま た,血 液採取前

    に何らかの抗生剤が使用 されていた例は約77%あ

    り,そ の中ではBCB法 に比べL-F法 でわずかな

    がら良い成績が得られた.し か し,薬 剤投与時に

    はL-F法 では血液が培地で希釈 され る割合はボ

    トル法に比べ少ないことから考えると,む しろ逆

    の場合が考えられよう.従 って,こ れ らの結果に

    ついては例数 も少ないのでさらに基礎的な研究を

    含めた検討が望まれる.

    L-F法 の特徴の1つ には,血 中細菌数の大まか

    な把握がある.し かしなが らこれらの研究は諸外

    国には多いが6)~12),本邦 では少な くわずかに荒

    井20)の報告があるのみである.今 回,我 々が検討 し

    たL-F法 は諸家 の方法6)~12)20)とは手技が若干異

    なることから一概に比較はできない.方 法は異な

    るが荒 井20)はウサギの人工菌血症例 でconven-

    tionalな 方法 と比較 し,フ ィルター法 は血液1ml

    当 りの細菌数が1個(1CFU/ml)以 下 の10wer

    levelの 場合に検出率が高かったが,実 際例では両

    者に差が認められない とした.Gill12)も 同様 なこ

    とを指摘 している.L-F法 では採取 した血液中に

    1個 の菌があれは,理 論的にはフィルター上に補

    集 され る はず で あ り,そ こに 発 育 支 持 性 の 高 い培

    地 が あ れ は容 易 に コ ロニ ー と し て認 め られ よ う.

    著 者 らは 血 中細 菌 数 の 問 題 に つ い て は厳 密 に行 っ

    た も の で は な い が,得 られ た 成 績 は 諸 家 と 同 様

    lower levelで の検 出 が 若 干 優 れ て いた.ま た,血

    液1ml中 の細 菌 数 は数 個 か ら数 え きれ な い程 多 い

    場 合 な ど さ ま ざ ま で あ った.多 数 認 め られ た 例 に

    つ い て は,血 液 採 取 後 速 や か に フ ィル タ ーへ 接 種

    で き な い な ど時 間 的 な も の が原 因 で あ った と思 わ

    れ る.従 っ て,よ り的 確 な 数 を 把 握 す るた め に は,

    血 液 採 取 後 で き る だ け 速 や か に フ ィル タ ーへ 接 種

    す る こ とが 必 要 で あ る.そ れ か ら,操 作 過 程 で の

    contaminationが 懸 念 され た が,炭 酸 ガ ス 培 養 器

    中 の エ ア ゾル 汚 染 とみ な され る もの 以 外 は,特 に

    な か った よ うに 思 わ れ た.

    現 在 の 方 法 は,血 液 採 取 時 に採 血 管 を よ く振 ら

    な い と凝 固 しや す い,一 部 の 菌 種 で は コ ロニ ーが

    小 さ く複 数 菌 検 出 時 に は鑑 別 が 困難,幹 燥 しや す

    い,嫌 気 培 養 時減 圧 式 チ エ ンバ ー が 使 用 で き な い

    な どの 問 題 が あ る.し か し,採 血 量 も少 な く,カ

    ル チ ャー ボ トル の 様 なconventionalな 方 法 と比

    較 して も検 出率 は 劣 らず,簡 便 性 に富 み,よ り短

    期 間 に発 育 確 認 が で き,か つ血 中 細 菌 数 の 大 ま か

    な把 握 が 可 能 で あ るな ど利 点 も多 い.以 上 の如 く,

    本 シ ス テ ム に は い くつ か の 問題 点 は あ るが,注 目

    され る培 養 シ ス テ ム と思 わ れ る.今 後,基 礎 的 な

    研 究 を 含 め た 若 干 の 改 良 が期 待 され る.

    稿を終 えるに望 み,サ ンプルを提供 して下 さったテルモ

    株式会社 に深謝の意を表 します.な お,本 論文の要 旨は第

    59回東 日本感染症学会で発表 した.

    文 献

    1) 小林芳夫: 敗血症. 最新医学, 38: 1732-1737,

    1983.

    2) 安達桂子, 島田 馨: 菌血症 ・敗血症. 臨床検査,

    27: 1302-1305, 1983.

    3) 藪内英子: 細菌感染症の迅速診断法. 日本医事新

    報, 3131: 12-16, 1984.

    4) 坂 崎 利 一, 吉 崎 悦 郎: 血 液 培 養-カ ル チ ャー

    チ ューブお よびボ トルについて. 臨床 と細菌, 5:

    87-95, 1978.

    5) Washington, J: A. II著, 坂崎利一監訳: 臨床 と治

    療 のための医学微生物学. 近代出版, 東京, 1981,

    p.41-60.

    6) Washington, J. A. II.: Blood cultures princi-ples and new approaches. J. Med. Technology,

  • 906 感染症学雑誌 第61巻 第8号

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    Evaluation of Lysis-Filtration Method as a Blood Culture System

    Yoichiro KAMINAGAClinical Laboratories of Yokohama City University

    Akira ITOThe First Department of Internal Medicine, School of Medicine, Yokoyama City University

    The newly introduced Terumo Lysis-Filtration method (L-F method) as a blood culture systemwas applied to 227 patients at the Department of Internal medicine. The usefulness of the method wasevaluated as follows:

    1) Thirty-nine (17.2%) of 227 cases were found positive by the test for the bacterial presence.Positive results were obtained in 28 cases (12.3%) with the culture bottle method (Rosch) and 34 cases(15.0%) with the L-F method. Thus, slightly better detection rates were obtained with the L-F method.

    2) Bacterial growth was quicker after one or two days in incubation with L-F method than withthe culture bottle method.

    3) Forty-four strains from the 39 patients were isolated. E. coli, K. pneumoniae, P. aeruginosaand Bacteroides were isolated a little, more frequently by the culture bottle method and S. pneumoniae,A. calcoaceticus var. anitratus, Flavobacterium spp. and Candida spp. were isolated a little morefrequently by the L-F method.

    4) Bacterial counts per 1 ml blood in positive case by the L-F method, in cases of less than 10counts per 1 ml blood, positive cases by the culture bottle method were decreased to half.

    5) In cases under a drug therapy, the L-F method revealed a higher detection rate than that of theculture bottle method. However, no difference was noted in cases without any drug treatment.