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MCC Technology Report CONTENTS 技術紹介 1:地形条件・施工条件を知る :『急峻な山地における橋梁計画の最適化2:流れを知り、表現する :『iRIC を用いた平面二次元・三次元モデルによる流況解析3:最適設計のために地盤を知る:『グラウンドアンカー工法を用いた矢板護岸についてバックナンバー 2017 No.39-1 【 自然を知る 】 ダム湖では、水生植物の栄養塩吸収能力を知り、 その能力を活かした水質浄化が行われる例が多く見られます。 MCC の技術も、自然条件を十分に踏まえた技術の適応を考えます。 三井共同建設コンサルタント株式会社 MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd.

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Page 1: MCC Technology ReportMCC Technology Report 2017 No.39-1 三井共同建設コンサルタント株式会社 巻 頭 言 最近、私自身、海外出張の機会が増えてきています。新たな建設コンサルタント業務を受注

MCC Technology Report

CONTENTS

技術紹介

1:地形条件・施工条件を知る :『急峻な山地における橋梁計画の最適化』

2:流れを知り、表現する :『iRICを用いた平面二次元・三次元モデルによる流況解析』

3:最適設計のために地盤を知る:『グラウンドアンカー工法を用いた矢板護岸について』

バックナンバー

2017年 No.39-1

【 自然を知る 】

ダム湖では、水生植物の栄養塩吸収能力を知り、

その能力を活かした水質浄化が行われる例が多く見られます。

MCCの技術も、自然条件を十分に踏まえた技術の適応を考えます。

三井共同建設コンサルタント株式会社

MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd.

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MCCは、MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd.の略称です

表紙写真:津久井湖の植物浄化施設(撮影:黒木利幸)

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MCC Technology Report2017 No.39-1

三井共同建設コンサルタント株式会社

巻 頭 言

最近、私自身、海外出張の機会が増えてきています。新たな建設コンサルタント業務を受注

するための海外渡航ですが、フィリピンのマニラ、マレーシアのクアラルンプール、ミャンマ

ーのヤンゴンへ渡航しました。これら東南アジア各国各都市は、それぞれ日本に無い特徴があ

り、非常に興味深く、私自身の見識も大いに広がったと感じられます。

社会資本整備の視点から見たこれらの国の最大の特徴は、交通手段のほとんどが自動車交通

であるということです。日本では 100年以上前の明治時代から整備されてきた全国鉄道網や都

市部での地下鉄網などはほとんど整備されてなく、近年の自動車社会が爆発的に発達したこと

による毎日の交通大渋滞が最も大きな社会問題となっています。

一度溢れかえってしまった自動車社会は、容易にもとの社会へ戻ることができません。大渋

滞解消の切り札として鉄道網の整備も考えられますが、都市部の土地利用は既に高度化してい

るため、地上での鉄道網の整備が困難となっています。このため、大都市での鉄道網の整備は

主に地下鉄網の整備となってしまい、莫大な建設コストが必要で、早期整備の妨げともなって

います。

また、治水整備など国民生活の防災

についても、大都市への人口の集中に

つれて甚大な被害が頻発してきていま

す。

これらの防災への社会資本整備につ

いても大渋滞解消のための整備と同様

に単純な河道拡幅や河床掘削整備の対

策は非常に困難で、地下河川やダム、

バイパス水路など、よりコストが必要

な整備となってきています。

このような途上国の現状に触れると数十年先をも見越した社会資本整備計画の重要性につい

て改めて痛感させられました。

私たちは、途上国の現状を把握し、100 年以上の歴史で培ってきた土木技術を現地に最適な

コーディネートを行ない、貢献できるよう協力していきたいと思います。

弊社も創立以来 51 年目に入り、100 年企業への折り返し点を過ぎた時点です。今までの日

本の土木技術、弊社の土木技術の蓄積は十分な量と質を持っています。この様な技術を国内だ

けでなく、今後は海外の社会資本整備の場においても積極的に活用できるようにしていくとと

もに、このことを通じて国際的な社会貢献を図っていきたいと思います。

今回のテクノロジーレポートは橋梁設計、流況解析、護岸設計の事例です。このレポートで

紹介される技術を知ることで少しでも皆様の技術向上に繋がれば幸いです。

(東京支社長 中條 優)

クアラルンプールの都市河川

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MCC Technology Report 2017 No.39-1

三井共同建設コンサルタント株式会社

キーワード:鋼トラス橋,ケーブルクレ-ン架設工法,ラーメン式橋台,全体施工計画

1.はじめに

広域道路ネットワ-クの形成,災害時の緊

急輸送路の確保,産業や観光などの地域活性

化を目的として,高規格幹線道路のミッシン

グリンクの整備が推進されている。

我が国の限られた国土において,それらの

道路は橋梁やトンネル等の構造物が必要とな

る山地に位置する場合が多く,橋梁形式の合

理化によるコスト縮減や施工性向上による事

業効果の早期発現が求められている。

●橋梁概要

この橋梁は急峻な山地に計画された道路の

うち,河川を渡河する橋梁である。

橋台背面にはトンネルが近接し,資機材は

幹線道路から 1.0km程度の距離を仮橋等の工

事用道路を使用して搬入する厳しい施工環境

である(図-1参照)。

2.存在した課題

【課題①】高価な仮設,周辺同時施工が困難

当初計画のPC3径間連結コンポ橋の場合

には,急峻な斜面部に橋脚高 30m(基礎は大

口径深礎杭)の大規模な橋脚を構築するので,

施工時の岩掘削や作業構台(約 1億円)がコ

ストや工期に及ぼす影響が大きい。

また,PCコンポ橋の架設(架設桁架設工

法)時には,トンネルや隣接橋梁への軌条設

備等の架設ヤードによる影響が生じるので,

周辺との同時施工が困難であった。

したがって,大規模な橋脚設置を回避し,

作業構台等を含めたコストの縮減と施工ヤー

ド縮小による前後区間との同時施工を実現し,

全体工期の短縮を図ることが課題であった。 【課題②】トンネルへの橋台施工時の影響

橋台はトンネルと近接

するので,一般的な逆T

式橋台の場合には,トンネ

ルへの掘削影響が生じる。

したがって,掘削影響

を回避可能な橋台構造を

立案することが課題であ

った(図-2参照)。 【課題③】全体施工手順を含めた施工実現性

急峻な斜面部でトンネルと近接した狭隘な

ヤードにおける施工であり,トンネル,隣接

橋梁及び土工部も同時期の施工となる。

したがって,トンネル,隣接橋梁および土

工部も含めた錯綜する各種施工が円滑となる

施工手順を立案するとともに,その妥当性を

検証する必要があった。

技術紹介 1

急峻な山地における橋梁計画の最適化

大林 篤史 OHBAYASHI Atsushi 道路・橋梁事業部 第四部 電話 03-6417-3238 FAX 03-6417-3063

日本の国土は全体の約 70%が山地であり,地域間の物流や災害時の輸送路を確保するため,山地に道路を計画せざるを得

ない特徴がある。山地においては,施工ヤ-ドや工事用車両の搬入などの施工制約が厳しいため,施工工法を含めた合理的

な構造の橋梁を計画することが重要である。この実施例では,施工制約や課題を明確化したうえで,橋梁形式および施工工

法の最適化により,コストの縮減と前後区間の工事を含めた全体事業工程の短縮を図ったものである。

図-2 橋台掘削の影響

図-1 当初計画の橋梁概要図

逆T式橋台

A2

トンネルへの掘削影響が生じる

平面図

●対象橋梁 L=107m

A1 P1 P2 A2A1 A2

側面図

●対象橋梁 L=107m

最大斜度50°程度の急峻な地形

橋脚施工時には,大規模な作業構台が必要

橋脚高30m&大口径深礎杭の大規模橋脚

トンネルと近接

幹線道路から1.0km程度の距離を仮橋等の工事用道路を使用し,資機材を搬入

A1 P1 P2 A2

当初:PC3径間連結コンポ橋

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MCC Technology Report 2017 No.39-1

三井共同建設コンサルタント株式会社

3.解決する技術

①鋼トラス橋による橋梁計画の最適化

橋脚設置時の作業構台や上部構造架設時の

大規模ヤードがコストおよび全体工期に及ぼ

す影響が大きい橋梁である。

したがって,橋脚および作業構台の削減と

上部構造架設時の重機・ヤードの最小化によ

り,トンネル等との同時施工も可能な橋梁形

式の変更案として,ケーブルクレ-ン架設工法

による鋼単純トラス橋を提案した(図-3 参

照)。

その結果,①コスト縮減(約 0.5 億円)と

②前後区間を含めた工期短縮(約 6ヶ月)を

実現した。

②トンネルへの影響を回避する橋台構造立案

急峻な斜面部におけるトンネルへの掘削影

響を回避するために,一般的に平地部で道路

と交差する場合に選定されるラーメン式橋台

をフーチング分離構造とし,斜面部に適用す

る構造を立案した。

その結果,トンネルへの掘削影響の回避と

ともに,橋長の短縮(各橋台で 10m:トータ

ル 20m)を図り,コストの縮減も実現した。

③3D施工ステップ図による全体施工検証

急峻な山地でトンネルに近接した狭隘なヤ

ード,トンネル,隣接橋梁および土工部への

工事用車両の通行や同時施工の実現などの厳

しい施工制約条件下での各種工事間の影響や

その手順が二次元の施工図のみでは不明確で

あった。

そこで,橋梁前後区間を含む全体施工計画

を立体的(三次元)に表現した 3D施工ステ

ップ図により検証し,施工の実現性および妥

当性を明確化した(図-5参照)。

4.まとめ

この実施例では,当該橋梁のみならず前後

区間を含めた全体施工手順を踏まえた橋梁形

式の最適化により,コスト縮減,施工性向上

および全体工期の短縮を実現した。

今後も現地状況を踏まえた幅広い目線で,

橋梁計画に取り組んでいきたい。

図-3 コスト縮減と施工性向上を図った橋梁計画

図-4 橋台構造の立案

●3D施工ステップ図:全13ステップ

橋台施工 ステップ3 上部架設&トンネル施工ステップ6 完 成 ステップ13

図-5 3D施工ステップ図

●鋼単純トラス橋 L=87m

大規模な橋脚や作業構台が不要

ケ-ブルクレ-ン架設工法

切土部施工のための工事用車両通行を確保

大規模なクレ-ンが不要なため,トンネルとの同時施工が可能

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三井共同建設コンサルタント株式会社

キーワード:iRIC、平面二次元不定流解析、三次元解析

1.はじめに

これまで、河川の平面二次元不定流解析で

は、モデル構築や計算結果の分析に多大な時

間を要していた。フリーソフトである iRICは、

モデル作成機能、可視化機能に優れており、

大学や研究機関などの様々な研究に利用され

ている。そこで、iRICを業務に活用できない

か、実際にモデル作成や可視化などのツール

がどのようなものかを確認するとともに、

iRICに搭載されている解析ソルバーの計算結

果の検証を行った。

2.iRICとは

iRIC(International River Interface Cooperative)

は、清水康行教授(北海道大学)と Jon Nelson

博士(USGS)の提唱により、(財)北海道河川

防災研究センターと USGS(アメリカ地質調

査所)でこれまで開発された機能を統合した

河川の流れ・河床変動解析ソフトウェアであ

る。iRICは計算格子の作成や計算条件を設定

する機能(プリプロセッサ)、解析機能(ソル

バー)、計算結果の可視化や分析をする機能

(ポストプロセッサ)から構成されている。

ソルバーには、平面二次元、三次元の流況・

河床変動解析、氾濫解析、津波解析など、様々

な研究者が開発した解析ソルバーが無償で提

供されている。これらの工程をGUIで一貫し

て行うことができる。

3.解析結果の検証

(1)解析条件

河川の湾曲部では、局所的な水位上昇や、

項目 諸元

水路延長 約 900 m

水路断面 幅 100 m、水深約 4 m

水路床勾配 1/1,000

粗度係数 0.03

流量 1,200 m3/s

遠心力に起因する二次流(三次元的流れ)が

発生する。そこで、湾曲した水路モデルを構

築し(表-1、図-1)、平面二次元、三次元解析

ソルバーによる解析を行った。平面二次元解

析ソルバーには、構造格子によるNays2DHと

非構造格子によるMflow_02を用いて比較を行

った。三次元解析ソルバーは、NaysCUBE(構

造格子)を用いてNays2DHとの比較を行った。

(2)構造格子、非構造格子の格子サイズ比較

構造格子は、四角形格子が縦断、横断の各

軸方向に同数並び、計算速度に優れている。

非構造格子は、不規則に格子が配置され、河

道形状の再現性に優れており、Mflow_02では

三角形を採用している。各解析ソルバーにお

いて、格子サイズ別の比較検討を行った。

構造格子、非構造格子ともに、格子サイズ

を変えると計算結果が異なり、水深に関して

は内岸 10m程度に差は見られるものの、それ

より外岸側では同様の結果となった(図-2)。

技術紹介 2

iRICを用いた平面二次元・三次元モデルによる流況解析

篠崎 知美 SHINOZAKI Tomomi 河川・下水道事業部 第一部 電話 03-6417-3222 FAX 03-6417-3064

iRICソフトウェアは、計算格子の作成、計算条件の設定から計算結果の可視化までをGUIで一貫して実施可能な河川の流

れ・河床変動解析ソフトウェアである。河川の流況解析において、これまではモデル構築、計算結果の可視化に多大な時間

を要していたが、iRICを活用することにより、作業効率の向上が期待できる。本稿では、iRICの業務への活用に向けた、平

面二次元解析および三次元解析ソルバーの検証結果について報告する。

表-1 水路モデルの諸元

図-1 水路平面および断面

GUI(Graphical User Interface):画面上にウインドウやアイ

コン等を表示し、マウス等で直感的に操作する方法

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MCC Technology Report 2017 No.39-1

三井共同建設コンサルタント株式会社

平面流速分布に関しては、構造格子(図-2

①~④)では、最も格子サイズの大きいケース

(図-2 ①)を除いて、概ね同様の結果となった。

構造格子が格子サイズ約 78m2(図-2 ②)以下

で同様の結果になるのに対し、非構造格子で

はその 1/10 程度まで小さくすると同様の結

果が得られ(図-2 ⑦:10m2、一辺約 4.8m)、計

算時間は約 10倍を要した。以上の結果から、

格子サイズはある程度細かくする必要がある

が、計算時間との相反関係となるため、事象

を捉えることのできるサイズ設定が重要であ

る。また、構造格子は湾曲部で歪むため、格

子サイズが大きく変化しないよう注意が必要

であるが、非構造格子は地形の変化に対して

柔軟に対応できるというメリットがあり、検

討対象によって使い分けることが有効である。

(3)二次元解析と三次元解析

二次元、三次元解析ソルバーにおける湾曲

部の流況を確認した。格子は図-2 ②と同サイ

ズとした。水深は概ね同様の結果となり(図-3

右)、三次元解析では、湾曲下流で水面付近の

高流速を外岸側へシフトする二次流の影響が

見られ(図-3左、図-4上)、湾曲部の横断流速

ベクトル図を見ると、二次流(旋回流)が確

認できた(図-4下)。

4.まとめ

本稿では、3 つの解析ソルバーの検証で、

iRICの有用性が確認できたが、複雑な地形形

状を有した実河川での活用に関しては、さら

なる検証を進めたい。また、iRICはソルバー

に自社プログラムも搭載可能であり、今後の

展望として、iRICのモデル作成、可視化機能

と自社プログラムを組み合わせたシステム構

築により、作業の効率化が期待できる。

図-2 構造格子、非構造格子の格子サイズ比較

図-3 二次元、三次元の比較

図-4 三次元解析結果

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三井共同建設コンサルタント株式会社

キーワード:矢板護岸、グラウンドアンカー、施工検討

1.はじめに

河川堤防は、連続した長大線形構造物であ

るため、材料の調達や修復の容易性等により

土堤が原則である。一方、護岸は、堤防や河

岸を洪水等による浸食から保護するために設

置されるが、背後地の用地制約や河岸部の水

深等による地形上の制約がある場合には鋼矢

板式護岸を採用する場合が多い。

設計対象箇所は、取水堰上流の湛水部であ

り、且つ必要壁高が約 6mの区間である。

さらに、河岸沿いには地域住民の避難路を

兼ねた管理用通路が存在しており、堰解放時

の引落し流による河岸浸食、および浸食の進

行による河岸の崩落の恐れがあるため、護岸

の設置が求められた。

図-1管理用通路と露出した岩盤

護岸形式は、通年取水が行われていたため、

施工時に水位を低下させることが出来ない点

や湛水深が約 7m と深い点等を配慮した比較

検討を実施し、グラウンドアンカー工法によ

る鋼矢板式護岸工を採用した。

本工法は良質な地盤(岩盤)に期待した工

法であるため、縦断的・横断的な岩盤層の位

置を明確に把握する必要があった。そこで岩

盤層の位置を把握するための各種調査の立案、

設計の事例について述べる。

2.存在した課題

地表付近に確認された岩盤は、本工法の安

定上では優位に働くものである。ただし、こ

の岩盤層は、護岸背後の山側から河川側に向

かって傾斜しており、鋼矢板法線部にて実施

している既往調査のみでは以下に挙げる課題

が存在した。

①鋼矢板の計算手法であるフリーアースサポ

ート法において、河道側から確実に受動土

圧が作用するものとは考えにくい。

図-2 モーメントの釣り合いモデル図

②鋼矢板の長さは、岩盤層の深さにより決定

される。また、アンカーの定着位置も岩盤

層に確実に貫入する必要がある。 ③岩盤の位置を把握する為に行う地質調査が

必要であるが、やみくもに調査することは

調査費用も高くなり合理的ではない。

技術紹介 3

グラウンドアンカー工法を用いた 矢板護岸について

財部 淳 TAKARABE Jun 河川・下水道事業部 第五部 電話 092-441-3941 FAX 092-441-3886

インフラ整備において、地盤状況や背後地の形状・利活用状況は多種多様であり、これらの地域状況を考慮し

た設計が求められる。本稿は壁高が高く鋼矢板が自立構造にて安定しないため、比較的浅い位置に岩盤が存在

する現地特性を活かしたグランウンドアンカー工法を用いた矢板護岸工採用すると共に、岩盤層の深さを詳細

に調査し確実な効果の発現を図った一例を紹介する。

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MCC Technology Report 2017 No.39-1

三井共同建設コンサルタント株式会社

3.解決する技術

前述した課題に対して、下記に示す工夫を

行い、現地に合った適切な調査の提案、設計

及びコスト縮減を図った。 (1)良質な岩盤の設定

岩盤の傾斜については、杭基礎の設計に用

いられる水平支持力の考え方を参考に、矢板

からの水平力に抵抗できる岩盤の傾斜角及び

岩盤の風化を考慮した貫入深さを設定した。

(2)横断方向の調査位置

横断方向の調査については、岩盤の傾斜を

把握するため、通常矢板法線の川表側と川裏

側の 2本の調査を実施するが、計算において

水平抵抗力が十分確保できる位置を検証し、

矢板法線より川表側に 2m の箇所で調査する

ことを計画した。この調査方法と(1)に示した

の貫入深さの設定により、岩盤の受動土圧を

確実に期待できるものとなる。

図-3 岩盤の評価及び調査位置の設定

(3)矢板縦断方向の調査位置

縦断方向の調査については、設計上下流端

部に加え、背後地の山付の状態よりから想定

される岩盤のせり出し部の3箇所の追加調査

を提案し実施した。この結果、詳細な岩盤の

縦断深さを把握することができた(図-4)。

(4)グラウンドアンカーの岩盤定着位置

グラウンドアンカーは、定着部を確実に岩

盤に貫入させる必要があり、岩盤の深さを把

握することが重要となる。

既往調査及び今回実施した矢板法線上の追

加調査から想定される岩盤層の状況を踏ま

え、サウンディングによる岩盤線の補助調査

を提案し実施した。全体的な把握のために

25mピッチにて計画したが、先行実施したボ

ーリングより把握した岩盤の傾斜が著しい

箇所においては調査間隔を細かくして、より

詳細な岩盤の高さを把握した(図-4、図-5)。

図-5 横断調査位置

4.まとめ

施工会社からの報告では、鋼矢板が岩盤に

定着した深さが想定した岩盤の深さとほぼ一

致していた。結果的に既往地質調査のみで計

画した場合より矢板長を短くできたことから、

調査費に要した費用を含めても、コスト縮減

を図ることできたと考える。 この経験から培った着眼点を活かし、地形

状況がさまざまな条件においても、安全性や

経済性等を総合的に検討し、最適な設計計画

に努めていきたい。

図-4 縦断調査位置の立案

先行着手ボーリング サウンディング

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MCC Technology Report 2017 No.39_1

三井共同建設コンサルタント株式会社

<バックナンバー>

掲載 分野 論文タイトル

2010 年32_1

橋梁 複雑な平面扇形を有する鉄道跨線橋の設計

道計 橋梁架替工事に伴う交通渋滞対策

河計 小規模集落のコミュニティの維持に配慮した治水対策

河計 世界遺産と調和した治水対策案の検討

32_2

道設 道路冠水対策における迂回路設定と交通規制手法

河設 河川護岸の変状調査と要因検討

下水 下水道施設耐震事業化計画(雨水)について

港設 傾斜堤上部工(防波堤)の破壊確率について

32_3

道設 地域が抱える問題を回避しコスト縮減と合意形成を得た設計

河計 トンネル放水路整備による海域への影響評価

河設 樋門改築に伴うコスト縮減の提案

環境 閉鎖性海域における環境改善手法の検討 -透過型防波堤-

32_4

道計 市民感覚に近い指標で検証した道路整備効果の広報資料作成

道設 現道交通(重交通)下での伸縮装置の緊急補修対応と取替設計

河設 オープン調整池を併用した雨水ポンプ場の設計

港計 港湾の 24時間供用を支える夜間標識

2011 年33_1

河計 急流河川における隔壁工設置に伴う橋脚周辺の流況解析

河計 特定都市河川浸水被害対策法を中心とした総合的な水害対策の検証

道設 道路建設における既存水路トンネルへの影響検討

河計 河口部におけるかわまちづくり

33_2

橋梁 鉄道と立体交差する橋梁の最適化設計

砂防 学識経験者との連携による周辺環境(天然記念物)に配慮した急傾斜地対策

地盤 条件の厳しい軟弱地盤における真空圧密工法の計画事例

まち 代替地を例とする大規模工事に伴う新しいまちづくり支援

33_3

橋梁 パイルベント基礎を有する既設橋梁の耐震補強

河計 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)低平地の減災ソフト対策「浸水センサ」について

道設 高速自動車国道と立体交差するアンダーボックスの計画・設計

河計 X バンドMPレーダ雨量を活用した都市部における洪水予測

33_4

道設 道路拡幅計画に伴う橋のボックスカルバート化

河設 液状化が生じる軟弱地盤におけるRC擁壁のL2耐震設計事例

河設 河道拡幅と地下河川シールドの施工計画

情報 スマートフォン、クラウド、WebGIS技術を活用した現地情報共有システムの構築

掲載 分野 論文タイトル

2012 年34_1

河計 数値解析による遊水地への流入特性の検討

道計 高速道路整備における周辺環境に配慮した排水計画

環境 規模の大きい魚道での利用状況の把握と遡上改善のための提案

港設 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)による漁港施設の災害復旧設計

34_2

再エ 小水力発電導入の可能性検討について

河設 地域の実情に配慮した排水機場の撤去事例

河計 住民に分かりやすい水位危険度レベルの表示方法

橋梁 インターチェンジに計画された曲線半径の小さいランプ橋の最適化設計

34_3

橋梁 既設橋の損傷事例を踏まえて長寿命化に配慮した新設橋の設計事例

河計 分布型流出予測モデルを活用した氾濫予測

公園 利用者ニーズと現況地形を活かした国営公園遊びのゾーン造成・遊具設計

環境 自然海浜の保全・代償を考慮した埋立形状の検討

34_4

橋梁 H24 道路橋示方書の改定を踏まえた橋梁設計の対応について

河計 河川模型を活用した中小河川における多自然川づくりへの取り組み

道計 共同溝における簡易点検の実施および共同溝補修計画の策定

港設 東日本大震災で被災した漁港施設の災害復旧設計

2013 年35_1

道設 3次元VR技術の活用-道路設計での事例と展望-

河設 排水機場の長寿命化計画について

情報 スマートフォン、タブレット端末を使った街頭聞き取りアンケートアプリの開発

港設 仙台湾南部海岸堤防設計-粘り強く効果を発揮する堤防構造の工夫-

35_2

情報 公共システムにおけるクラウドの利用について

道設 硬岩切土掘削における施工計画検討

河設 中小河川に関する河道計画の技術基準に基づいた多自然川づくり事例

河計 低平地市内派川における治水対策

河計 ため池決壊に伴う洪水流出予測手法の提案

35_3

河計 分布型洪水予測システムの一斉点検実況レーダ雨量データに関して

河設 一関遊水地初期越流堤の実物大越流実験

道計 河川敷における緊急輸送道路の計画

情報 あめみずMap Web サービスの構築

35_4

砂防 土砂移動を考慮した洪水予測システムの開発

道設 地下構造物の耐震設計における適用基準と解析手法の検証

環境 遮音壁設置に伴う電波障害対策

河設 周辺住民の意向を反映した護岸改修設計の事例

河設 九州北部豪雨による災害と復旧設計 ~被災要因分析と今後の維持管理~

※分野は次の 14 に区分した

道計(道路計画)、道設(道路設計)、橋梁(橋梁設計)、河計

(河川計画)、河設(河川構造物設計)、港計(港湾計画)、港設

(港湾施設設計)、下水(下水道)、まち(まちづくり)、環境、情

報(情報システム)、地盤(地盤対策)、再エ(再生可能エネルギ

ー)、海外

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Page 11: MCC Technology ReportMCC Technology Report 2017 No.39-1 三井共同建設コンサルタント株式会社 巻 頭 言 最近、私自身、海外出張の機会が増えてきています。新たな建設コンサルタント業務を受注

MCC Technology Report 2017 No.39_1

三井共同建設コンサルタント株式会社

掲載 分野 論文タイトル

2014 年36_1

橋梁 周辺環境を踏まえた道路構造の最適化(盛土から橋梁へ)

河計 道路アンダーパス部のポンプ更新対策

環境 神通川自然再生事業(サクラマス等の生息環境の再生)の効果検証

河設 自己完結型貯留浸透施設について

36_2

港設 港湾施設の現状調査と健全度評価

砂防 UAVを用いた斜面地形解析に関する精度検証

河計 法華山谷川総合治水推進計画 まち ダム水源地域の活性化支援(地域の自立的・

持続的な活動の活性化に向けて)

36_3

再エ 小水力発電の有望地点の選定と公表に関する報告

道設 道路ストックの長寿命化に向けた道路施設点検の実施

河設 泥上掘削機による湖沼の掘削方法について

港設 長寿命化を目指した海域における鋼構造物の最適設計 ~矢板防砂壁を例として~

2015 年37_1

橋梁 軽量床版による橋梁拡幅構造の合理化

港計 地域特有の制約条件を考慮した旅客船就航率の向上策の検討

道計 交通安全事業におけるきめ細やかな対応

砂防 砂防関係施設の長寿命化計画に関する提案

37_2

河計 氾濫解析モデルの高度化による浸水想定区域の検討

情報 河川事務所でのテレメータシステムの移行方式について

河設 河川管理施設の維持管理への取り組み

再エ 都市低平地部における小水力発電導入の取り組み

砂防 三次元解析による貯水池周辺の地すべり検討

37_3

道設 道路施設点検における課題と解析方法の活用

河設 水門の長寿命化計画策定について

下水 雨水ポンプ設備長寿命化計画における事業平準化

まち 地域住民との協働による津波浸水表示板の設置に関するモデルケースの検討

37_4

道計 道路事業におけるストック効果について

河計 国内河川における降雨流出氾濫モデル(RRI モデル)の適用

まち ファストトラック方式で取組む震災復興事業~南三陸町志津川地区での CM 業務を経験して~

海外 モルドバ共和国バイオマス燃料有効活用計画における品質管理、工程管理の取組み

掲載 分野 論文タイトル

2016 年38_1

砂防 三次元動画(VR)技術を用いた砂防事業の住民説明

情報 電気通信施設の維持管理計画作成における実行性を高める取組みの紹介

港計 バルクターミナルの継続利用を前提とした段階施工手順の効率的・効果的検討手法

河設 耐震化・長寿命化基本計画の策定について

38_2

河設 既設樋門函体の耐震補強設計について

道設 箱形函渠改良設計における道路機能充実とコスト縮減の実現

港設 防波堤の機能向上を目的とした改良検討 ~施工検討により提案した越波対策~

港計 臨海部に整備された大規模橋梁に対する景観事後評価

38_3

橋梁 戦前(昭和 10 年)に施工された鋼単純トラス橋の長寿命化計画

砂防 火山地域の山地河川における土砂流出特性の予測

道設 雨安全性・経済性を考慮した空港の道路駐車場の利便性向上整備に係る施工検討

まち 復興事業における官民連携手法の導入

38_4

道計 ラウンドアバウトのこれまでとこれから

情報 スマートデバイスを用いたソリューション展開

まち 生田緑地における指定管理業務の JV としての取り組みについて

海外 ODA を活用した中小企業海外展開支援事業への取り組み

2017 年39_1

橋梁 急峻な山地における橋梁計画の最適化

河計 iRICを用いた平面二次元・三次元モデルによる流況解析

河設 グラウンドアンカー工法を用いた矢板護岸について

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Page 12: MCC Technology ReportMCC Technology Report 2017 No.39-1 三井共同建設コンサルタント株式会社 巻 頭 言 最近、私自身、海外出張の機会が増えてきています。新たな建設コンサルタント業務を受注

MCC Technology Report

2017 年 No.39-1

2017年3月 1 日発行

三井共同建設コンサルタント株式会社 MCC研究所

〒141-0032 東京都品川区大崎一丁目11番1号

TEL 03-3495-1321(代) FAX 03-3495-1330

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