media equation: マシンと人との認知的な境界(竹内 勇剛)

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Communication Media Equation マシンと人との認知的な境界 竹内勇剛 (静岡大学) 20141114京都工芸繊維大学

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Engineering


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Communication

Media Equation マシンと人との認知的な境界

竹内勇剛 (静岡大学)

2014年11月14日 京都工芸繊維大学

Communication

自己紹介

竹 内 勇 剛  / 博士(学術) 静岡大学大学院情報学研究科 (M)・情報学部 (B)     創造科学技術大学院 (D) 教授

これまで関係した機関 宇都宮大学工学部情報科学科(88.4-92.3)      大学院工学研究科情報工学専攻(92.4-94.3) 名古屋大学大学院人間情報学研究科社会情報学専攻(94.4-99.3) ATR知能映像通信研究所(96.11-01.3) ATRメディア情報科学研究所(02.4-04.3)

Communication

専門・関心

認知科学

音声対話・問題解決

自然言語処理・HCI

人工知能

人間の認知的な インタラクションの 構造の解明/デザイン

人間のコミュニ ケーションの 認知的構造

の理解

人間の認知・行動 特性を利用した メディアの 開発

Communication

エージェントの定義 字義的な意味

– 代理人,代行者,代理店(業者) – 諜報員,スパイ,捜査官 – 行為者,動作主 – 自律的プログラム

HAI研究におけるエージェントの定義

Agent is a being that human regards it as agent.

人間の認知によって生まれるもの

Communication

手段としてのHAI 目的としてのHAI

人間の「心」は我儘でやんちゃで天邪鬼 人間の本当の「心」を映す鏡としてのエージェント HAIを通して人間の対人コミュニケーションの認知過程を明らかにする

マシン,システム,メディアの高知能化 センシングによる環境適応型ロボット/サービスの出現と普及 人間と共生するエージェントとのインタラクションのデザイン手法を確立する

Communication

取組中の研究テーマ A.  エージェントの存在認知の ためのインタ ラクション構 造のモデル化

B.  自分の内部状 態に基づく他 者認知過程の モデル化とイ ンタラクションのデザイン

C.  エージェントとの共行為における自他認知過程のモデル化

D.  承認欲求をトリガーとした学習インタラクションの活性化

認知科学

音声対話・問題解決

自然言語処理・HCI

人工知能

Communication

他者認知と初期の相手モデルの形成のための原初的インタラクションの実験 教示なし条件 教示あり条件

教示内容:一方の実験協力者にロボットの動きが別の部屋の他者の動きに対応している. (Sakamoto & Takeuchi, 2014)

Communication

自分の内的状態を反映した自己投影像に対する共感形成に関する実験

実験協力者にとって恥ずかしい動きをしなくてはならないとき,デフォルメ(小)を他者として共感的反応を示した.

提示された映像と同じ動きをするように教示された実験協力者の動きを,隠したKinectで撮影し,骨格モデルでスクリーン上に表現する.骨格モデルは同じタスクをしている他者の映像として教示.

骨格モデルの表現方法 •  デフォルメ(大) •  デフォルメ(小) •  デフォルメなし

(熊崎, 竹内, 2014)

Communication

見立て能力 HAIに関連する人間の認知能力の1つ.

あるモノや事象,概念をこれら以外の表現を通して理解する認知能力.e.g. 比喩 対象とどのような関係を形成すべきか. その関係のもとで対象をどのような存在として認知するか.

対象に対して既知の概念を適用することで,対象の属性や取り巻く環境との関係を推測するための手がかりを与える.

Communication

見立て(メタファ/なぞらえ)

形態/形状の同形性から,そのものの内部状態や背後の思想的なものまでも象徴させた表現として,人間は見立てられる.

Communication

擬人化に関するエトセトラ 幼児期アミニズム(Piaget, 1929) 象とする事物から直接得られる情報に基づいて選択的に擬人化を通した理解を行なう.

観察可能な対象の性質に対する擬人化は行なわれない.(Inagaki, 1987)

擬人化は他の知識や直接的な観察などから得られた知識と矛盾しない場合に受け入れられる傾向がある.(Holyoak, 1995)

Communication

擬人化の特徴

対象の振舞いの背後に想定される内的状態に対しても人間と同様の内的状態をもつと見立てる.

�������� �����

�����

����

��� ����

行動の背後に意図が存在する(はず) という前提が成立する

Communication

反響的な模倣に対する反応

(Suzuki, Kakehi, Takeuchi, & Okada, 2004)

Communication

エージェントに対する対人的反応

エージェントを人格的な存在として位置づけて社会的な関係のもとでの対応を行なう. A.  自覚を伴っている場合

B.  自覚を伴っていない場合

エージェントをあたかも人間すなわち“こころ”をもった独立した主体として取り扱っている状態

そんなことが あるのか?

Communication

SRCT研究プロジェクト (Social Responses to Communication Technologies)

Reeves, B. & Nass, C.: “The Media Equation,” Cambridge University Press (1996).

人間がコミュニケーション技術と接するときは,根本的に社会的かつ自然なものになる.

Communication

Media Equation

•  敬意 •  性格 •  専門家性

•  チーム •  ジェンダー

などの社会的要因

コミュニケーション技術に対して,人間と同様の社会的な反応を示し,そのような反応を自然な経験として無自覚的に受け入れてしまう認知的反応.

Communication

Media Equationを体験する

Communication

何が起きたか コップの中のジュースがこぼれてしまうのではないかと身構えてしまった. モニタ(メディア=コミュニケーション技術)の中の出来事が,現実の出来事として認知したための反応.

���������

メディアの中の出来事 = 現実の出来事

Communication

HAI研究におけるMedia Equation Human-Agent Interaction (HAI) 研究における公理的概念のひとつ. 人間の認知姿勢と適応性を顕在化する現象を引き起こすため,HAI研究における仮説設定の前提となる.

いったいMedia Equationとは 何なのだろう?

Communication

Media EquationとHAI

認知的体験     → 身体的体験 傍観者・外部観察者 → 当事者・内部観察者 技術(マシン)   → 社会的存在・人間

Communication

なぜMedia Equationが起きるのか?

“Old Brain”(古い脳)の所為 ← Nassら –  脳がテクノロジーを理解できていないため –  動物的な反応(本能?)

Mirror Neuron System が寄与している? –  霊長類のレベルの脳にある神経細胞 –  自ら行動するときと他の個体が行動するのを見ている状態ので同じ活動電位を発生させる.

–  他者の意図や共感に寄与している可能性 →社会的インタラクション

まだよくわかっていない

Communication

Media Equationが起きづらいもの 機構が単純で容易に理解できるマシンやシステム

振る舞いが単調であったり,反応の規則性が明白なマシンやシステム

振る舞いが人間にとって有意味なものではないマシンやシステム

人間の“こころ”とは対極的な様相を示すもの

Communication

Media Equationが起きづらいもの 機構が単純で容易に理解できるマシンやシステム

振る舞いが単調であったり,反応の規則性が明白なマシンやシステム

振る舞いが人間にとって有意味なものではないマシンやシステム

人間の“こころ”とは対極的な様相を示すもの

複雑化・高度化する情報通信技術のもとでは,Media Equationが起きやすい状況が増加していることに伴って,HAIが成り立つ可能性も向上してきている.

Communication

MEDIA EQUATION実験の例

Communication

メニューリスト A. ロボットの視線による対話制御

B. 画面上のクリーチャの会話モダリティ

C. 同意による仲間意識

D. 画面上の間仕切りの効果

E. 対話による専門家性の帰属

D

E

B

C

A

Communication

まとめ 人間は,必ずしも外界の事物を客観的に理解しているのわけではなく,むしろ自己本位(主観的)に捉えている.

したがって対象がモノであろうと,マシンであろうと,人間であろうと同列に扱うことができる.

それゆえ,人間の認知に基づいたインタラクションをデザインする必要ことが重要となる.

Communication

APPENDIX

実験1:身体的機能の帰属

•  エージェントの対面対話場面において,人間はエージェントを独立した個体として認知しているかを対話モダリティへの反応を通じて検証する. w カメラ → エージェントの「目」の“像”

w スピーカ → エージェントの「口」の“像”

w マイクロフォン → エージェントの「耳」の“像”

エージェントの身体像に対して人間は直接その“像”に身体的機能を帰属させるか�

実験設定

•  人間は対話相手をどこに帰属させているか? w エージェント: エージェントに対して直接働きかける

w コンピュータ: AV機器に対して働きかける

•  実験条件群(情報系大学生61名) w エージェント条件: 画面上にエージェントが表示されて

いる場合

w コンピュータ条件: 画面上にエージェントが表示されていない場合

Talking Modalities Interact with Agent

Mic. Speaker Camera

Interact with Computer

Ear Mouth

Eye

Listening Speaking

Seeing

Appearance of Agent

Audiovisual Devices

実験の様子(例) 2.エージェントの身体と身体的機能の帰属�

Microphone Camera

Speaker Speaker

19in CRT

実験結果

3つの対話モダリティ(視認・聴取・口述)に対してそれぞれ統計的な有意差が確認された. w  エージェント条件群の被験者は

エージェントが表示されていないコンピュータ条件群の被験者に比べ,AV機器に対する行動をしない傾向.

w  AV機器に向かった被験者の大半は,実際はエージェントに対して反応した直後に“気が付いて”途中でAV機器に反応していた.

0%

20%

40%

60%

80%

100%

Computer Agent

Conditions

Reac

tion r

ates

to I/O

devi

ces.

Seeing Listening Speaking

z=1.969 (p<.05)

z=4.593 (p<.01)

z=2.588 (p<.01)

エージェントが複数の場合

•  1体のエージェントと関わる場面は一般的

•  集団としてのエージェントとのインタラクションの検討の必要性 w エージェントは容易に複製が

できる

w 人間の社会的な行動を通して,エージェントの個体性の帰属を検討する

多数決の結果�

実験2:数は力なり

•  同時に同じ画面上に表示された異なる外観をもった複数(今回は2体)のエージェントがある提示された問題に対してある見解を示したとき人間はどのように反応するか. w  2体のエージェントともそれぞれ人間と異なる見解だった場合

w  2体のエージェントとも人間と異なる見解で一致していた場合

w  1体が人間と同じ見解をもちもう1体が異なる場合

w  2体のエージェントと人間がすべて同じ見解で一致していた場合

複数のエージェントをそれぞれ社会的存在として個別に認知しているか�

実験条件

関係1 2 3

不一致 不一致

不一致

A2 A1

関係3 1 2

一致 不一致

不一致

A2 A1

関係4 1 1

一致 一致

一致

A2 A1

関係2 2 2

不一致 不一致

一致

A2 A1

情報系大学生78名を無作為に4等分して各条件にアサイン�

1.  1度目の回答は被験者が直観的に答える.

2.  2体のエージェントがそれぞれの回答結果を表明する(実験条件ごとに異なる).

3.  被験者は1度目の回答を変更する機会を与えられる.

4.  1回目と2回目の回答を変更した割合を観察. •  エージェントは正しい回答をするための特別な知識は有し

ていないことが教示されている.

•  与えられた3択問題をできるだけ高得点になるように解答を選択することが求められる.

実験手続き

実験の様子

実験結果

•  関係(1)と(2)のとき,被験者は2度目の回答の機会に答を変える傾向が他の関係に比べて有意に高い.

•  関係(2)においてエージェントが表示されたインタラクションをした場合の方が非表示に比べて有意に高い.

•  エージェントが表示されてインタラクションする場合,関係(1)では関係(2)と異なる反応を示す.

関係1 関係2 関係3 関係4

significant

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

意見の変更割合

エージェント表示�エージェント非表示�

関係(1) �関係(2) �関係(3)� 関係(4)

関係1

2 3

不一致 不一致

不一致

A2 A1

関係2 2 2

不一致 不一致

一致

A2 A1

実験3: 社会的インタラクション

•  複数のエージェントはそれぞれ独立であるか?

•  コンピュータ本体との関係はどのようになっているか?

•  デスクトップ環境を人はどのような空間とみなしているか?

エージェントの自律性とコンピュータとの���関係について検証する�

実験手続き

1.  画面上の仮想的な境界(CG)の右側に表示されたエージェントA1が,厳正な態度で被験者に“社会的モラル”に関する質問をしてくるので,被験者はそれに答える.

2.  実験条件に従って,別のエージェントA2が自己開示を誘発させるような態度で“社会的モラル”に関する質問をしてくるので,被験者はそれに答える.

状況として,“社会的モラル”に沿った回答となる�

必ずしも“社会的モラル”に沿った回答をしなくてもよい状況�

実験条件

•  被験者 大学生43名(男24,女19)

•  実験条件(3条件):被験者を無作為に配分

別領域条件� 同領域条件� 片側出現条件�

A1 A2

実験条件 (1)

•  別領域条件

エージェントA1は仮想的な壁をはさんでA2が登場しても,そのまま画面上に残る.A1とA2は異なる領域にそれぞれ表示される.

Agent A1 and A2 appear on

respective partitions.

実験条件 (2)

•  同領域条件

エージェントA1はA2が登場しても,そのまま画面上に残る.A1とA2は同じ領域に表示される.

Agent A1 and A2 appear on same

partitions.

実験条件 (3)

•  片側出現条件

エージェントA1は,A2が登場するのと同時に画面上から消える.A2は画面上に単独で表示される.

Agent A2 appears after A1 was

disappeared from other partition.

仮説と予測

【仮説】  被験者は個々のエージェントをそれぞ

れ独立した人格として見なし,現実の社会と同様なインタラクションを行なう.

【予測】 w  同領域条件では,2回目の面接の際,1

回目の面接と同様に社会的モラルに沿った回答をする割合が高くなるだろう.

w  別領域・片側出現条件では,同領域条件に比べて必ずしも同じような回答をするとは限らないだろう(社会的モラルに沿わない可能性が高い).

人間同士の社会的インタラクションにおいて,他者が自己開示を行なった場合,その他者に対して自身も自己開示を行なう傾向がある.�

同一人物に対して,一度発した言葉を即座に変えるということは,誠意の欠如,礼儀知らずと捉えられる恐れがある.�

実験結果

どの条件のときに,質問に対する回答を変化させたか?

0

.5

1

1.5

2

5質問中の本音の個数の平均値

別領域 同領域 片側出現

Condition

Significant

F(2,37) = 4.349, p<.05

結果と考察

•  同領域条件において回答を変える割合よりも,別領域条件・片側出現条件で回答を変える割合の方が高くなっていた.

•  エージェントとのインタラクション後の筆記調査の結果,被験者は別領域条件でも同領域条件と同様に,インタラクションは可能であるという回答が多くみられた.→行動とは異なる反応

•  仮説の通り,人は複数のエージェントをそれぞれ独立した人格と見なしている.

•  エージェントとのインタラクションの場合,コンピュータの存在は透明化される.

•  画面上の仮想的な「壁」を現実の壁と同様に扱う.�

Focus

•  Focus on the social dynamics of multi-party interaction

•  Examination of whether people interact with agents according to relationships already established with these agents

This study attempts to elucidate the nature and the effectiveness of social persuasion in human-

computer interaction environments.

Whether or not users can appropriately understand the content described in Web pages

through social inter-agent interaction.

Proposed Interaction Model

Inter-Agent ① and User-Agent ②,③ Interaction

Web page Useful contents in here. User

Conductor Agent

Expert Agent

Respectful / Carelessly Interaction

① ②

Credible / Ordinary Information ③

assigned

Hypothesis and Predictions

•  When the CA respectfully interacts with the EA, the user can accurately and properly understand the Web page content.

•  When the CA carelessly interacts with the EA, the user might unsatisfactorily understand the Web page content.

The user can recognize each EA’s authority and conform to the treatment towards the EA by the CA.

Predictions

•  Baking performance

Authorized > Non-authorized

•  Recollection test

Authorized > Non-authorized

Practical Performance

Authorized Condition Non-authorized Condition

Which custard pudding do you want?