mhps-tomoni® モータ駆動設備診断システムの開発,三菱重...
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三菱重工技報 Vol.57 No.1 (2020) 新製品・新技術特集
技 術 論 文 1
*1 総合研究所 サービス技術部 主幹
*2 三菱日立パワーシステムズ(株) PESB 本部ソリューション計画部 次長
*3 三菱日立パワーシステムズ(株)エンジニアリング本部プロジェクト総括部長崎プラント技術部
*4 MHPS エンジニアリング(株)知的生産統括部システムエンジニアリング部
MHPS-TOMONI® モータ駆動設備診断システムの開発
Development of Motor-Driven Equipment Diagnostics System on MHPS-TOMONI® Cloud Service
園 田 隆 * 1 森 下 靖 * 2 Takashi Sonoda Yasushi Morishita
渡 邊 博 行 * 3 露 木 和 弘 * 4 Hiroyuki Watanabe Kazuhiro Tsuyuki
産業界では,あらゆる用途にモータ駆動の回転機械が活用されているものの,保守は時間管
理となっていることが多い。回転機械の診断は,一般的に振動計で評価することが多く,現場の
センサ取付け,ケーブル工事など諸経費が嵩んでいたが,モータ駆動設備診断はモータを駆動
する電源線にクランプ式電流センサを挟む簡易な仕組みで回転機械及びモータの状態量を診
断し,さらに,将来(1年後)の診断予測を表示するシステムを開発した。保守担当者は,将来の
診断予測結果に基づき,定量化した指標で,回転機械及びモータの保守を容易に計画すること
ができ,過剰な保守費用を削減できる。
|1. はじめに
産業界では,あらゆる用途にモータ駆動の回転機械が活用されているものの,保守は時間管
理となっていることが多い。回転機械の診断は,一般的に振動計で評価することが多く,現場の
センサ取付け,ケーブル工事など諸経費が嵩んでいたが,モータ駆動設備診断は,モータを駆
動する電源線にクランプ式電流センサを挟む簡易な仕組みで回転機械及びモータの状態量を
診断し,さらには将来(1年後)の診断予測を表示するシステムとし,保守計画への反映と過剰な
保守費用の削減に貢献可能な指標を MHPS-TOMONI®のクラウド・サービスとして定量的に
表示・公開している。
|2. 火力発電プラントにおける電動機保守点検
プラントでは,多数の回転機械が稼働しているが,設備の多くの保守は時間管理(TBM:
Time-Based Maintenance)方式となっており,状態に応じた保守管理(CBM:Condition Based
Maintenance)となっていないのが実情である。某発電プラントにおける電動機分解点検記録(全
125 件)を取得し,電動機対象部位別に異常発生頻度を調査したところ,固定子では異常発生が
なく,回転子で 19%,その他部品で 26%の軽微な異常が認められた。図1に調査した電動機の
部品別外観写真を,図2に部品別異常発生数を示す。この調査結果から,全電動機の 60%以上
は,電動機内消耗品(軸受,パッキン,ボルト,塗装等)の交換のみで保守業者から返送されてき
たことが明らかとなった。電動機の保守を時間管理から状態管理に移行できれば,△60%のコス
ト低減が期待できる。
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図1 電動機の部品別外観例
図2 電動機の部品別異常発生数
|3. モータ駆動設備診断システムの概要
図3にモータ駆動設備診断システムの一例を示す。火力発電プラントにおけるモータ駆動設備
に関連するトラブルを未然に防止するため,設備を①モータ本体と②伝達装置,③回転機械本
体に分類し,時系列の診断結果とそれに基づく将来予測結果(1年後)をモニタリングする。保守
担当者は,日々の診断結果のみならず,将来予測結果を保守計画に反映し,状態量を見て保守
すべき設備を選定し,トラブル未然防止とコスト低減を兼ね備えた保守の計画が作成できる。
図3 MHPS-TOMONI® モータ駆動設備診断システムの一例 (遠隔監視 4~12 台)
三菱重工技報 Vol.57 No.1 (2020)
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3.1 MHPS-TOMONI®での Web 画面
図4にモータ駆動設備診断サービスの Web 画面を示す。画面は1階層から3階層に区分され,
第1階層では,設置された設備全体を総括して6ケ月前/5ケ月前/4ケ月前/3ケ月前/2ケ月前/
1ケ月前/現状/半年後/一年後の予測結果を,5段階で表示して総合評価する。第2階層では,
選択された設備の機器ごとに,①モータ本体と②伝達装置,③機械本体で現状/半年後/一年後
の予測結果を5段階で評価表示し,第3階層では,機器ごとに時系列の評価データを予測値を
含めて表示する。さらにデータ分析結果として,①から③を関連する2変数を組合せて2次元座
標で表示,可視化し将来予測の挙動を分かり易く提示する (2)(3)(4) 。
図4 モータ駆動設備診断の Web 画面例
3.2 遠隔簡易モータ駆動設備診断サービスの導入
図5にお客様で計測して頂いたモータ電流データを,MHPS-TOMONI®のプラットフォームで
診断・分析するサービスシステムを示す。本システムは,電流計測装置(クランプ電流センサ,デ
ータ収集装置,タブレット等)を一式レンタルするシステムで,安価に導入できる仕組みが特徴で
ある(50 台/月の制限有)。月ごとに診断結果の傾向監視を遂行し,交換時期の検討に活用可能
である。タブレットの画面とデータ収集装置を図6に示す。
図5 MHPS-TOMONI® 遠隔簡易モータ駆動設備診断システムの一例
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図6 遠隔簡易モータ駆動設備診断の構成機器一例
|4. モータ駆動設備診断の診断事例
モータ駆動設備診断による,異常の予兆検知事例を下記に示す。
(1) モータ回転子の異常を検知
某発電プラントのモータ駆動設備診断で,モータ回転子異常の診断結果を取得し,定期検
査で電動機保守業者の開放点検結果を図7に示す。開放の結果,回転子に打痕傷が複数あ
ることを目視確認できた。また,回転子を良品に交換し,運用中のモータ電流診断結果から,
良好な診断結果が得られ,モータ駆動設備診断の定検前後診断結果からも設備が改善でき
たことが確認できた(1)。
図7 モータ駆動設備診断のモータ回転子異常検知例
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(2) モータ固定子の異常を検知
図8に国内某所での遠隔監視データで,モータ固定子の異常予兆を検知した例を示す。3
相電流バランスの評価値(Iub)が上昇傾向を示し,1年後に交換推奨領域に突入することを確
認した(5)(6)。
図8 モータ駆動設備診断のモータ固定子異常検知例
(3) ベルト緩みの異常を検知
伝達装置のベルト緩み異常を,本モータ駆動設備診断で検知した例を図9に示す。ベルト
調整前は,モータ電流値 FFT 解析のベルト緩み周波数帯域で高いピーク値(-38dB)を示して
いたが,ベルトの緩みを締め上げ,規定値以上のテンションに調整後は,低い値(-48dB)の通
常状態に戻っていることを確認した(1)。
図9 モータ駆動設備診断の伝達装置異常検知例
|5. まとめ
産業界で,種々の用途に活用されているモータ駆動回転機械の保守は,概ね時間管理方式と
なっていることが多く,過剰な品質管理で,良品状態の設備を保守していた傾向がある。また,回
転機械の診断は,一般的に振動計で評価され,現場のセンサ取付けやケーブル工事など諸経
費が嵩み,コスト高で導入が遅れる要因の一つとなっていた。
開発した MHPS-TOMONI®モータ駆動設備診断サービスは,モータを駆動する電源線にクラ
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ンプ式電流センサを挟む簡易な仕組みで回転機械全般の状態量を診断し,さらには将来(1年
後)の診断予測値を表示する。保守担当者は,モータと回転機械の保守に関し,保守計画作成
の容易化と過剰な保守費用の削減効果が期待できる。今後,種々のモータ駆動設備のデータを
取得し,機械学習により将来予測の精度を高め,無駄な保守費用を削減し,状態に応じた保守
管理を推進していく。
MHPS-TOMONI は,三菱日立パワーシステムズ(株)の米国及びその他の国における登録商標または商標です。
参考文献 (1) 豊田利夫,電流徴候解析 MCSA による電動機駆動回転機の診断技術,TAKADA TECHNICAL
REPORT Vol.20 2010
(2) 平崎大二郎ほか,MHPS-TOMONI®:デジタルソリューションによる発電プラント運用の高度化,三菱重
工技報,Vol.56 No.3 (2019)
(3) 相木英鋭ほか,機械学習を適用したボイラデジタルツイン,三菱重工技報,Vol.55 No.4 (2018)
(4) 石垣博康ほか,MHPS-TOMONI:火力発電 Digitalization プラットフォームクラウド/エッジサービスとシ
ステムアーキテクチャ,三菱重工技報,Vol.55 No.4 (2018)
(5) Alejandro Paz Parra,et al., Online Electric Current Based Diagnosis of Stator Faults on Squirrel Cage
Induction Motors, International Scholarly and Scientific Research & Innovation 10(12) 2016
(6) 岩永英樹 ほか,誘導電動機の零相電流分析による絶縁劣化診断システムの開発,電気学会論文誌
D(産業応用部門誌)Vol.132 No.12(2012)p.1084~1090