mil-std-882から学ぶ...リスクアセスメントを主体とするリスクベースドアプローチの概念...

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リスクアセスメントを主体とするリスクベースドアプローチの概念 は、1960年代の米国で生まれた「System Safety: システム安全」に 遡る。「システム安全」とは、システムの全ライフサイクルの各フェー ズを通じて、運用上の実際面と適合性、および時間とコスト面で拘束 される中で、事故の潜在的な大きさと発生確率の視点から、容認でき るリスクを達成するためのエンジニアリングおよびマネジメントの原 則、基準、技術を適用することを言う。 このシステム安全の原点は MIL-STD-882 であり、1969 年に MIL- STD-882が発行され、全ライフサイクルの概念が導入され、シス テム安全の要求事項の再構築が求められた。以降改訂が行われ、最 新 版 は、2012 年 に 発 行 さ れ た MIL-STD-882E “Standard Practice System Safety” となる。 システム安全の定義に大きな相違は無く、システム安全の核となる キーワードは次の3つと識別できる。 ①システムのライフサイクル全段階を通じて ②工学とマネジメントの手法を用いて ③安全に係る事故等のリスクを小さくすること MIL-STD-882Eで、大きな変更となった点は、システム安全が 「Systems Engineering: システムズエンジニアリング(SE)」との関 MIL-STD-882から学ぶ 安全安心社会研究センター 客員研究員  大賀公二 客員研究員活動報告 120 安全安心社会研究

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Page 1: MIL-STD-882から学ぶ...リスクアセスメントを主体とするリスクベースドアプローチの概念 は、1960年代の米国で生まれた「System Safety: システム安全」に

リスクアセスメントを主体とするリスクベースドアプローチの概念は、1960年代の米国で生まれた「System Safety: システム安全」に遡る。「システム安全」とは、システムの全ライフサイクルの各フェーズを通じて、運用上の実際面と適合性、および時間とコスト面で拘束される中で、事故の潜在的な大きさと発生確率の視点から、容認できるリスクを達成するためのエンジニアリングおよびマネジメントの原則、基準、技術を適用することを言う。

このシステム安全の原点はMIL-STD-882 であり、1969 年にMIL-STD-882が発行され、全ライフサイクルの概念が導入され、システム安全の要求事項の再構築が求められた。以降改訂が行われ、最新版は、2012年に発行されたMIL-STD-882E “Standard Practice System Safety”となる。

システム安全の定義に大きな相違は無く、システム安全の核となるキーワードは次の3つと識別できる。

①システムのライフサイクル全段階を通じて②工学とマネジメントの手法を用いて③安全に係る事故等のリスクを小さくすることMIL-STD-882Eで、大きな変更となった点は、システム安全が

「Systems Engineering: システムズエンジニアリング(SE)」との関

MIL-STD-882から学ぶ安全安心社会研究センター 客員研究員 大 賀 公 二

客員研究員活動報告

120 安全安心社会研究

Page 2: MIL-STD-882から学ぶ...リスクアセスメントを主体とするリスクベースドアプローチの概念 は、1960年代の米国で生まれた「System Safety: システム安全」に

連が強く打ち出されたことにある。104頁の文書中の42箇所にSEが記載されている。

システムとは、ある目的を達成するために組織化された機能要素の集合であり、組織化により単なる要素和以上の特性を発揮するものと定義される。システムズエンジニアリングは、このようなシステムの目的を実現するための工学的方法論である。この一連の活動を示したのがVカーブである。(図参照)

IEC61508に代表される機能安全においても、「全安全ライフサイクル」、安全関連系の「V字モデル開発」が採用されている。

重要なことは、Vカーブ全体を常に見通して一貫した開発計画を立て、そしてそこに内在するリスクを識別し、できる限りの低減策を講じ、さらにQCDとのバランスを考慮するマネジメントである。

MIL-STD-882Eでは、ほかにもライフサイクルに従った活動がTaskとして記載されており、安全確保のための活動を進める上での参考となろう。ぜひ一読されたい。

図 システムズエンジニアリングとプロジェクトマネジメント

P121,図

要求分析・定義

システム設計

サブシステム設計

コンポーネント設計

製造

システム運用

システム試験

サブシステム試験

コンポーネント試験

要求検証計画

システム

試験計画

サブシステム

試験計画

コンポーネント

試験計画

システムズエンジニアリング

準備

(定義・計画)

実行

(設計・製作・試験・運用)

終了

(廃棄・知識化)

成果

資源スケジュール

プロジェクトマネジメント

P121,図

要求分析・定義

システム設計

サブシステム設計

コンポーネント設計

製造

システム運用

システム試験

サブシステム試験

コンポーネント試験

要求検証計画

システム

試験計画

サブシステム

試験計画

コンポーネント

試験計画

システムズエンジニアリング

準備

(定義・計画)

実行

(設計・製作・試験・運用)

終了

(廃棄・知識化)

成果

資源スケジュール

プロジェクトマネジメント

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