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このページは株式会社菱化システムによるPR記事です.
MOE を活用したタンパク質工学
甘利真司,片岡良一,岡田晃季 (株式会社菱化システム 科学技術システム事業部) 1. MOE とは カナダ Chemical Computing Group (CCG) 社
が 開 発 し た MOE (Molecular Operating Environment) は,タンパク質モデリング,受容体構造に基づくドラッグデザイン,ケムインフォ
マティクス等を目的とする様々なアプリケーショ
ンを搭載した分子設計支援ソフトウェアです(図1).PDBデータや,GPCR,キナーゼ,抗体などの標的毎のタンパク質立体構造データ,化合物デ
ータなど目的別に整理されたデータコンテンツも
提供されています.直感的でわかりやすいユーザ
ーインターフェイスを備えており,シンプルな操
作で高度な分子シミュレーションを行うことがで
きます. MOE は,計算化学のエキスパートから実験研
究者まで目的に応じて幅広くご利用いただけるソ
フトウェアです.
ここでは MOE のタンパク質設計機能を用いて,
抗体のアミノ酸変異がもたらす抗原‐抗体の親和
性への影響を検証した結果について紹介します.
2. タンパク質設計機能 タンパク質の変異体を網羅的に実験するには,
膨大な労力と費用が必要です.そのため,最近で
は変異体を作製する候補を計算化学的手法であ
る程度絞り込み,その結果を踏まえて実験 (部位特異的突然変異誘発 (site-directed mutagenesis) )
で変異体の作製と検証を行う手法が取り入れら
れています.このように人工的にタンパク質を改
変する技術は一般にタンパク質工学と呼ばれて
います.MOE には,タンパク質工学を支援する機能としてタンパク質の変異体モデル構造を作
成し,その物性を推算するタンパク質設計機能が
搭載されています.この機能は目的に応じた変異
体解析を容易に行えるように設計されています. 機能の一つである「網羅的変異体スキャン」は,
任意の点変異あるいは複数個所の変異を導入し
た変異体構造を網羅的に構築し,更に各変異につ
いて様々なタンパク質の物性値への影響を予測
します.その他アラニンスキャン,ジスルフィド
スキャン,変異耐性スキャンを行うことができま
す.目的に応じた方法を選択後,変異導入部位を
指定するだけで,タンパク質の変異体構造を得る
ことができます.
網羅的変異体スキャンは,解析結果として「変
異体の安定構造」,「熱安定性変化」,「環境分子と
の親和性」等を出力します.野生型と変異体の重
ね合わせ構造を MOEの画面に表示することで,原子レベルでそれらの構造的差異を確認するこ
とができます.
図 1 MOEに搭載された代表的なアプリケーション
図 2 網羅的変異体スキャン
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3. 網羅的変異体スキャンによる抗体の親和性変化 抗体は抗原と特異的に結合する特徴があり,医
薬品としても注目されています.抗体医薬の開発
において,標的抗原に対する親和性向上の検討は,
重要課題の一つです. ここではニワトリ卵白リゾチーム-マウス抗体
複合体の結晶構造 (PDB: 1VFB) を用いて,MOEで抗体の重鎖の Ser28を変異させ,リゾチームとの親和性の変化を調べました. 野生型 (図 3b) に対して S28E変異体のモデル
構造 (図 3c) は,リゾチームの Lys116 との水素結合が新たに形成され,親和性の向上が期待でき
ます.実際に行われた変異体解析の実験結果でも
S28E 変異体は抗原との親和性が向上しました 1) . また,Ser28を網羅的に各アミノ酸に変異させ
た時の親和性スコアと実験値を比較しました (図4).その結果,S28R 変異体についても,リゾチームの Arg112 と弱い水素結合を形成しており,親和性を向上させる新たな変異体として予測で
きます (図 3d).
4. おわりに MOEのタンパク質設計機能は,タンパク質の
安定性や相互作用に重要な残基の探索,タンパク
質/ペプチドのデザインにおける変異導入時の影響を解析することができます.操作手順も簡便化
されており,変異導入部位を指定し変異する残基
を選ぶだけで,目的の変異体解析を自動的に行う
ことができます. また,関連機能であるタンパク質の物性推算,
分子表面の正電荷・負電荷・疎水性領域の解析,
相互作用解析,タンパク質および抗体モデリング
などと組み合わせることで,タンパク質の研究に
おいて,MOEをさらに幅広くご活用頂けます. ご紹介した機能以外にもMOEにはライフサイ
エンス研究に活用できるツールが多数搭載されて
います.詳細は弊社並びに開発元 CCG社のウェブサイトをご覧ください. 菱化システム URL: http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/
CCG社 URL: http://www.chemcomp.com/
文 献 1) Lippow, S. M., et al. (2007) Nature Biotechnology, 25,
1171-1176.
図 4 リゾチーム抗体の重鎖の Ser28を各残基に変異した際の親和性変化
図 3 リゾチーム抗体の野生型と変異体
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実験値はN, D, Q, Eのみ論文に記載
(a)リゾチーム‐抗体複合体構造. (b)野生型.(c)S28E変異体.(d)S28R変異体.(b),(c),(d)の表示領域はそれぞれ(a)の破線部分に相当します.