moodleを利用した学校ポータルサイト構築の事例紹介とネットワーク化の提案...

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Moodle を利用した学校ポータルサイト構築の 事例紹介とネットワーク化の提案 白井 達也 正会員 鈴鹿工業高等専門学校 機械工学科(〒510-0294 三重県鈴鹿市白子町) E-mail:[email protected] 日々新しい情報通信機器やサービスが登場する現代,実践的なエンジニアを養成する高等専門学校 ではこれら ICT Information and Communication Technology)を正しく使いこなす学生の輩出が求められ ている.多くの高専には e ラーニングシステムが整備されつつあるが,学習用途への利用を前提とし ているため活用度合いが高くない.本論文では VLEVirtual Learning Environment)の一つ,Moodle 基盤システムとした学生用学校ポータルサイト構築の事例を報告する.併せて Moodle 同士を接続す Moodle ネットワーク機能を用いた高専間ソーシャルネットワークの構築を提案する. Key Wordse-learning system, LMS, VLE, Moodle, social network service 1. はじめに Moodle 1) など近来の e ラーニングシステム(以下, 意図的に欧米で使われる VLE: Virtual Learning Environment と呼ぶ)は教師と学生の双方向コミュニ ケーションを可能とする学校用グループウェアとし ての機能も備えている.ディジタル機器に囲まれた 環境で生まれ育った若者たちを指す「デジタルネイ ティブ」 2) という用語が 2008 年頃より国内でも使わ れ始めた.高等専門学校生(以下,高専生)はエン ジニアなどの専門職に就くことを考えて入学し,モ チベーションのベクトルは創造性発揮の方向に向い ている.少数ではあるが,文系・理系を問わずに創 作活動を行う学生が学内外に発表や交流の機会を求 めている.若者たちは新規の技術に対する適応性が 高いので,VLE などのインフラ整備と正しいメン ターによる誘導さえあれば自ら創造性を発揮して能 力を開花させるはずだが,いま最先端の ICT を積極 的に使う者と使わない者との新たなディジタルデバ イドが生じているように感じられる.これは教員に ついても同様である. 高等専門学校(以下,高専)は,独立行政法人国 立高等専門学校機構(以下,高専機構)管轄の 51 55 キャンパスで本科だけでも 242 学科に 50,162 名の学生が所属する.専攻科生も含めると 53,525 である(平成 22 4 1 日現在,機構ホームページ より).例えば早稲田大学の学部在校者数 44,893 2010 8 6 日現在,早稲田大学ホームページ/ 数字で見る早稲田より)よりも多い.確かに高専は 1校1校の規模は小さいが,公立/私立高専 7 校を 加えた 62 キャンパスが全国に散在する一つの高等 教育機関であると仮想的に考えれば,学生数および 教職員数の規模は極めて大きい.全国各地にキャン パスが点在するため各地域の文化や歴史の違いが各 高専の文化,制度,学生気質に地域性を与えている. いま一部の学生たちはクラブ活動や学生会活動とは 別に,高専の枠を超えて全国規模での学生間交流を 始めている.たとえば在校生および卒業生による企 画/運営のプレゼンテーション型研究会である高専 カンファレンス(http://kosenconf.jp/)は 2008 年度に 4 回,2009 年度に 6 回,2010 年度に 10 回全国各地 で開催され,多くの高専関係者が参加している.そ れを可能としたのは,mixi, Twitter, facebook, Skype などの ICT を活用したインターネット上のサービス である.情報化社会においてエンジニアとして働く には,これらのサービスを正しく使いこなすスキル を学生は身に付けなくてはならない.情報リテラシ 教育は最低限の素養として,在学中からこれらの

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日本高専学会誌(Journal of JACT), Vol.17, No.3, pp.63-69(2012)

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Page 1: Moodleを利用した学校ポータルサイト構築の事例紹介とネットワーク化の提案

Moodleを利用した学校ポータルサイト構築の

事例紹介とネットワーク化の提案

白井 達也

正会員 鈴鹿工業高等専門学校 機械工学科(〒510-0294 三重県鈴鹿市白子町)

E-mail:[email protected]

日々新しい情報通信機器やサービスが登場する現代,実践的なエンジニアを養成する高等専門学校

ではこれら ICT(Information and Communication Technology)を正しく使いこなす学生の輩出が求められ

ている.多くの高専には eラーニングシステムが整備されつつあるが,学習用途への利用を前提とし

ているため活用度合いが高くない.本論文では VLE(Virtual Learning Environment)の一つ,Moodle を

基盤システムとした学生用学校ポータルサイト構築の事例を報告する.併せて Moodle 同士を接続す

る Moodle ネットワーク機能を用いた高専間ソーシャルネットワークの構築を提案する.

Key Words:e-learning system, LMS, VLE, Moodle, social network service

1. はじめに

Moodle1)など近来の e ラーニングシステム(以下,

意図的に欧米で使われる VLE: Virtual Learning

Environment と呼ぶ)は教師と学生の双方向コミュニ

ケーションを可能とする学校用グループウェアとし

ての機能も備えている.ディジタル機器に囲まれた

環境で生まれ育った若者たちを指す「デジタルネイ

ティブ」2)という用語が 2008 年頃より国内でも使わ

れ始めた.高等専門学校生(以下,高専生)はエン

ジニアなどの専門職に就くことを考えて入学し,モ

チベーションのベクトルは創造性発揮の方向に向い

ている.少数ではあるが,文系・理系を問わずに創

作活動を行う学生が学内外に発表や交流の機会を求

めている.若者たちは新規の技術に対する適応性が

高いので,VLE などのインフラ整備と正しいメン

ターによる誘導さえあれば自ら創造性を発揮して能

力を開花させるはずだが,いま最先端の ICT を積極

的に使う者と使わない者との新たなディジタルデバ

イドが生じているように感じられる.これは教員に

ついても同様である.

高等専門学校(以下,高専)は,独立行政法人国

立高等専門学校機構(以下,高専機構)管轄の 51

校 55 キャンパスで本科だけでも 242 学科に 50,162

名の学生が所属する.専攻科生も含めると 53,525 名

である(平成 22 年 4 月 1 日現在,機構ホームページ

より).例えば早稲田大学の学部在校者数 44,893 名

(2010 年 8 月 6 日現在,早稲田大学ホームページ/

数字で見る早稲田より)よりも多い.確かに高専は

1校1校の規模は小さいが,公立/私立高専 7 校を

加えた 62 キャンパスが全国に散在する一つの高等

教育機関であると仮想的に考えれば,学生数および

教職員数の規模は極めて大きい.全国各地にキャン

パスが点在するため各地域の文化や歴史の違いが各

高専の文化,制度,学生気質に地域性を与えている.

いま一部の学生たちはクラブ活動や学生会活動とは

別に,高専の枠を超えて全国規模での学生間交流を

始めている.たとえば在校生および卒業生による企

画/運営のプレゼンテーション型研究会である高専

カンファレンス(http://kosenconf.jp/)は 2008 年度に

4 回,2009 年度に 6 回,2010 年度に 10 回全国各地

で開催され,多くの高専関係者が参加している.そ

れを可能としたのは,mixi, Twitter, facebook, Skype

などの ICT を活用したインターネット上のサービス

である.情報化社会においてエンジニアとして働く

には,これらのサービスを正しく使いこなすスキル

を学生は身に付けなくてはならない.情報リテラシ

教育は最低限の素養として,在学中からこれらの

Page 2: Moodleを利用した学校ポータルサイト構築の事例紹介とネットワーク化の提案

サービスを日常生活の中で用いることで自然とスキ

ルアップを図ることができる.VLE がこれらの創造

性を伸ばすツールとして学内に定着すれば,学習を

助けるだけでなく,教養を身に付け,社会性を磨き,

趣味を広げ,新しい発見と出会う機会も提供できる.

さらに各高専の VLE をネットワーク接続して相互

に学生が行き来できる状況が実現できれば,他高専

や学外の人々と意見交換や情報交換を行い,創造的

な活動がより活発化するだろう.

本論文では,今後 10 年の高専教育を考え,工学者

になるべく高専へ入学してきた学生たちの能力を開

花させる環境を整える必要性について述べる.具体

的には VLE の各校への整備の推進と,その障害とな

る VLE に対する誤った思い込みの払拭,本校におけ

る活用事例の紹介,全高専間 VLE ネットワーク結合

による学生および教職員の交流促進を提案する.

2. 学生と教職員のためのポータルサイト

2.1. 各高専で用いられているVLEの調査結果

2011 年 11 月に全国高専 62 キャンパス(公立,私

立含む)へ VLE 整備状況の簡単なアンケート調査を

行った.設問は,Q1) 調査結果を公表する際に学校

名を出して構わないでしょうか?(選択肢:Yes/No),

Q2) 貴校で使用している e ラーニングシステムは以

下の内のどれでしょうか?(複数選択可,選択肢:

Moodle, Blackboard, WebCT, WebClass,その他,導入

を検討中,導入の予定は無い),Q3) 高専における

ICT 活用教育についてご意見がありましたらご記入

下さい(任意)の三問のみである.Q2 は現在の活用

度合いではなくシステムが準備されているかどうか

のみを調べた.一カ月間で 30 キャンパスからの回答

が得られた.調査結果を表-1に示す.回答のあっ

た高専の半数が Moodle を既に導入済みである.続

いて数が多いのは WebClass である.未導入の 4 校は

将来的な導入を検討中で,その内の 2 校は Moodle

の導入を検討している.これら 4 校を含む 6 校の検

討中の高専の残り 2 校は他システムから Moodle へ

の変更を検討している.回答が過半数を満たさない

状況ではあるが,多くの高専で VLE の導入が進んで

いることが分かる.この結果にはまだ現れていない

が,平成 21 年度文部科学省大学改革推進等補助金

(大学改革推進事業)大学教育充実のための戦略的

大学連携支援プログラムに選定された K-Skill(超広

域連携に立脚した高専版組込みスキル標準の開発と

実践:仙台,函館,八戸,秋田,鶴岡,福島,長岡,

石川,長野,沖縄高専)は Blackboard を e ラーニン

グシステムとして用いている.

2.2. VLEによるポータルサイト構築

VLE の最も重要な機能はマルチメディア教材や

小テスト問題など自学自習のための学習補助教材の

提供および遠隔授業を実施できることである.これ

は正しいのだが,多くの教師は「eラーニング」=

「マルチメディア教材を用いた自主学習可能なビデ

オ・オン・デマンド型教材」と考え,学校運営者は

eラーニングシステムの価値を「コンテンツの量」

で計ろうとするため,学校にeラーニングが導入さ

れると教員はビデオ教材や問題集制作に忙殺される

と恐れる.これが最大の誤解である.次いで,マウ

スをクリックしてコンテンツを流し読みするだけで

は知識は定着しないと批判する.これらは昭和 60

年代に登場したコンピュータ支援教育(CAI:

Computer Aided Instruction) 3)から始まり,2003 年 9

月にマサチューセッツ工科大学が全講義をビデオス

トリーミング配信するオープンコースウェア

(OCW: Open CourseWare)サイトの運用開始といっ

た一連の流れの影響だろう.東京大学も UT オープ

ンコースウェアサイト(http://ocw.u-tokyo.ac.jp/)を無

償公開している.このサイトを見て分かるように,

必要なコンテンツは退屈なビデオ映像でも美麗かつ

インタラクティブな Javaアプリケーションでもなく,

授業中に配布したプリントやスライドの PDF ファ

イルや関連情報をまとめた外部サイトへのリンク集

で十分であり,過度な負担を教師に強いるものでは

ない.C・ストールが「ダメな教師が取って代わら

れるのは(コンピュータではなく)よい教師でなけ

ればならない」4)と指摘しているように,学生は教

師との対話を通じて知識を学び取るために通学して

いるのであって,百科事典を読むだけで学問は習得

できない.確かにコース開設時に一時的に業務は増

えるが,学生から繰り返し問われる基礎的な質問に

対する回答をコース上に蓄積していけば学生の基礎

的な躓きを未然に防ぐことが可能となり,結果的に

は教師の負担が低減し,教育の質が向上する.各学

生の学習の進捗状況や科目の理解状況を教師が把握

する LMS (Learning Management System)の機能も重

要である.教材の再生状況やオンラインテストの正

解率などを一望できるため,学習状況の遅れている

表-1 各校導入済み VLE調査結果

Moodle Blackboard WebCT WebClass その他

15 1 0 12 2

検討中 予定なし 未導入

6 0 4

Page 3: Moodleを利用した学校ポータルサイト構築の事例紹介とネットワーク化の提案

学生を早期に発見してケアできる.ただし,正規の

成績処理システムと VLE を直結して自動化を図ろ

うとする試みは挑戦的ではあるがシステムの柔軟性

を失わせ,VLE のバージョンアップへの対応を遅ら

せる原因になる.

近年のVLEの特徴は社会的構成主義に基づく学生

の主体的な学習活動を補助する機能の充実である.

同じ科目を履修し,同じ課題に取り組む学生同士が

コミュニケーションを取る機能を備え,学生相互の

教え合いや共同作業を通じて学習成果の定着を強化

する.NTL(National Training Laboratories)の平均学

習定着率 1

近年の VLE が備えるコミュニケーション機能や e

ポートフォリオの機能は,別の角度から見ると mixi,

Twitter, facebook,DropBox,Skype,Ustream などの

Web サービスが備える機能と共通する.具体的に

VLE が提供できる機能は,(1)教職員および学生間で

相互に確実に連絡が取れる手段(メッセージ,電子

メール),(2)教職員から不特定多数の学生に対する

情報伝達手段(PDF ファイルや画像などのリソース

(Average Learning Retension Rates)の学習

ピラミッドでは,学生の学習過程と定着率の関係を

以下のように表現している.講義を聴く(5%),資

料を読む(10%),映像を観る/音声を聴く(20%),実演

を見る(30%),集団討論する(50%),実践する (75%),

他人に教える/すぐに利用する(90%)の順で知識が身

に付くとされている.特に初期教育において反復学

習は重要だが,OJT (On the Job Training),PBL

(Project/Problem Based Learning), 構成主義に基づく

教授法,発見的教授法 (heuristics)など,適切なコン

トロール下における学生同士の教え合いや共同作業

が長期に亘る学習定着率の向上に効果があることは

経験的に明らかである.ただ,PBLなど多人数の学

生を同時に長時間拘束するのは学生および教師に負

担である.VLEは学生および教職員の自由な時間に

自分のペースで討論や情報交換を行うことができる

ため,無理なく経験を通した学習の定着を図ること

ができる.ただし,学生のモチベーション低下は活

動への参加率を下げることになるので,教師はLMS

を活用して各学生の活動率を細かく監視する必要が

ある.近年,学生自身が各科目の学習目標に対する

自分の達成状況を一望し,電子媒体のレポートなど

学習成果物を効率よく管理して振り返ることができ

るeポートフォリオの機能が注目されている.これは

学生のモチベーション低下の防止に役立つ.

1 エドガー・デールの”経験の円錐”(Dale's Cone of Experience)を元にした概念.NTLは平均学習定着率の数

字の根拠は示しておらず,概念だけが独り歩きしている

ので取り扱いは注意が必要である.

を提示する機能,電子掲示板など),(3)誰もが自由

に意見を述べられる場(ブログなど),(4)誰もが相

互に意見や情報交換できる機能(電子掲示板),(5)

限られたメンバーのみで情報交換できる場(コース),

(6)プロジェクトメンバが共同で議論した成果を電

子媒体でまとめる機能(Wiki,データベース),(7)

リアルタイムでのディスカッション(チャット,ビ

デオ会議)などであろう.近年の VLE は標準あるい

は機能拡張により上記機能を備えており,直ぐに学

校ポータルサイトとして活用可能な状態にある.

2.3. Moodleを推奨する理由

Moodle はオーストラリア在住の Martin Dougiamas

氏が 1999 年に開発を開始したオープンソースの

VLE である.GPL(GNU Public License)の元に,一切

の契約や費用の発生なしに,Linux, Windows, Mac

OS をサーバ OS として,誰でも手軽にサイトを立ち

上げられる.2011 年 11 月末の段階で Moodle HQ に

オンライン登録されているだけでも全世界 223 の国

と地域で 70,394 サイトが稼働中である.メニューや

ヘルプファイルなどは日本語を含む 86 種の言語

パックの形式で公開・更新されている.英国の The

Open University では約 168,000 人の学部生,約 16,000

人の大学院生が Moodle を用いたブレンデッド型学

習を行っている(2007 年データ).放送大学が e ラー

ニング普及拡大のために行っているオンライン学習

大学ネットワーク事業(UPO-NET)でも Moodle 向

けにコンテンツの配信を行っている.高等教育機関

だけではなく企業(例:アドビシステムズ社)や公

的機関(例:横浜市消防局)での活用事例も報告さ

れている.社内教育用コースウェアによる退屈な教

育システムからの脱却を模索している企業ニーズに

マッチした結果である.特に例として挙げた組織で

は Moodle の用途をポータルシステムにも拡張し,

業務システムの単一化を実現している.国内外で

Moodle が高等教育機関の VLE としてだけでなく企

業などのポータルシステムとしても広く活用される

に至った要因と,高専において VLE として Moodle

の利用を推奨する理由を以下に述べる.

1)オープンソース

メジャーな VLE の内,オープンソースは Moodle

のみである.Linux,Apache,MySQL など大企業の

基幹システムでも用いられているオープンソースプ

ロダクツ同様に,Moodle も Moodle HQ (HeadQuarter)

がロードマップを策定し,その方針に従って全世界

の公式プログラマが改良し,利用者から報告される

不具合報告や機能向上の要望に応えて日々改善を続

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けている.オープンソースに対する以下二つの誤解

が根強く残っている.(1)全てのソースコードが公開

されているので攻撃者がソースを解析して侵入を試

みる恐れがあるという誤解.確かにソースコードに

脆弱性があった場合は侵入される恐れはあるが,全

世界で 7 万サイト以上が稼働しているシステムなの

で脆弱性は速やかに発見されて改善される.もし自

サイトに脆弱性が発見された場合は開発メーカの対

応を待つことなくサイト管理者の手によって対策可

能である.(2) 費用が一切掛からないという誤解.

Moodle のソフトウェアの利用は無料かつ特別な契

約も不要で,その後の更新費用も発生しない.しか

しサービスの安定的な運用には教職員による継続的

なメンテナンスが必要である.教職員によるメンテ

ナンスが負担や不安である場合は Moodle のサイト

管理を請け負う業者へ業務を委託するべきである.

国内ではブルゴスアソシエイツ,ミツテックコンサ

ルティングの二社が Moodle Partner としてサーバの

物理的な管理も含めた Moodle ホスティング業務を

Moodle HQ から正式に認められている.

Moodle のソースコードは大半が PHP で記述され,

一部に HTML, JavaScript が用いられている.Ajax へ

の依存も少なく,過度に高度なテクノロジを用いて

いないため可読性は悪くない.情報系の学生であれ

ば十分に Moodle 本体のソースコードを改善したり,

新しいブロックを開発できる.ユーザコミュニティ

も活発なので,問題点や疑問点について広く意見を

求め情報を収集できる.

2)優れた拡張性と先進技術への対応

Moodle は世界中のさまざまな組織で必要とされ

る機能が開発され,GPLに基づいて公開されている.

複数のインターネット上のサービス間をシングルサ

インオン(以下,SSO)で利用可能とする Shibboleth

認証などさまざまなユーザ認証方式に対応し,イン

ポート可能な小テスト問題のデータ形式も多数用意

されている.数式を用いた小テスト問題に対応可能

とする STACK や Web ブラウザを介して容易に音声

データをアップロード可能な NanoGong も Moodle

に対応している.他の VLE 同様,Moodle もプラグ

インにより機能の追加が可能である.システムの

ソースコード,データベース構造,API が全て公開

されているためユーザによる自作も容易なため,世

界中で数多くのブロックやモジュールが活発に開発

され,ソースリストが公開されている.

Moodle2.0(2010 年 11 月月公開)以降で強化され

た API を利用したスマートフォンやタブレット端末

用のアプリケーション( mTouch, MoodleTouch,

Official Moodle Mobile App,)も公開された.DropBox,

Flickr,YouTube などの外部リポジトリ上のファイル

や動画も取り扱い可能になった.それ以外にも,携

帯電話から Moodle を利用可能とする Moodle Lite,

モバイル機器の狭い画面でも Moodle の全機能を利

用可能とするモバイルモードを装備した fs_moodle5)

も公開されている.米マイクロソフト社からも

Office製品からMoodleサイト上のファイルへダイレ

クトにアクセス可能とするプラグインが公開されて

いる.

3)Moodle ネットワーク機能

Moodle は学校単位,学科単位,研究室単位あるい

は個人単位でサイトを自由に立ち上げることができ

る.各サイトは独立して運用するだけではなく,

Moodle ネットワーク機能を用いた相互接続による

SSO も可能である.2 台の Moodle サイトを簡便に接

続するピア・ツー・ピア構成と,1 台のコミュニティ

ハブを介して複数の Moodle サイトのユーザが各サ

イトを行き来可能とする構成も可能である.ユーザ

登録は各学生が所属する Moodle サイト上にのみ行

う.接続先の Moodle サイトに SSO した際に,事前

に指定されたポリシーに基づいて自動的に接続先の

サイトにユーザ情報が登録されるためユーザ管理も

容易である.

2.4. 本校におけるMoodleの活用事例

本校では Moodle,電子メールサービス,画像提示

装置の三つのサービスを活用することで VLE によ

るポータルサイト実現を段階的に進めている.2008

年度から正式に Moodle の全学利用を開始した.本

校で利用している Moodle は筆者が 2007 年より開発

を開始し,更新および公開している改良版パッケー

ジ,fs_moodle である.2011 年現在,教養教育科目

37,機械工学科 3,電気電子工学科 1,電子情報工学

科 20,生物応用化学科 7,材料工学科 6,専攻科 8,

卒業研究 6,学生会 2,クラブ活動 6,その他 10,ク

ラスルーム 25,計 131 コースが開設されている.電

子メールシステムは他高専と同様に,各学生に電子

メールアドレスを与え,POP3s / Web メールにより

学外からでも閲覧可能である.2007 年度より導入し

た画像提示装置は液晶モニタを図ー1に示すように

全クラスルーム前方に設置したシステムである.教

職員は学内から Web ブラウザを用いて指定したク

ラスに対してメッセージを送信できる.各クラス

ルーム宛に送信されたメッセージは指定された期日

まで順次繰り返し表示される.画像提示装置に表示

Page 5: Moodleを利用した学校ポータルサイト構築の事例紹介とネットワーク化の提案

されるメッセージを学生は Moodle を介して自宅か

らでも閲覧できる.

本校でも Moodle の使用目的は当初は学習支援が

主であったが,卒研室単位,クラブや委員会,創造

的プロジェクトでの活用へ広がっている.さらに図ー

2に示す全教職員および学生がディスカッション可

能なコース「青空広場」も開設した.最近更新され

たブログを一覧表示する Latest-updated blog ブロッ

クを改良して提供した結果,学生および教職員によ

りブログも活発に利用されるようになった.

fs_moodle では,ユーザ情報に標準の電子メールア

ドレスに加えてもう一つ別のメールアドレス(以下,

セカンドメールアドレス)を登録可能である.学校

で用意したメールアドレスを定期的にチェックする

学生は少ないため,担任は年度初めに学生の携帯電

話のメールアドレスおよび電話番号を収集して管理

している.ユーザ登録時に標準のメールアドレスに

は学校のメールアドレスを設定済みなので,セカン

ドメールアドレスに携帯電話のメールアドレスを登

録させる作業を進めている.学校からの連絡は確実

に標準のメールアドレスへ届き,セカンドメールア

ドレスが正しく設定されているならば常用している

携帯電話などにも連絡は届くため,担任は連絡先を

常時把握する仕事から解放される予定である.

・クラス運営への活用

今年度より各クラス単位のコースを情報処理セン

ターが一括して作成し,担任に管理を任せた.学生

課や図書館などからの学生向け情報はクラスルーム

内に紙媒体および画像提示装置で掲示すると共に担

任が口頭で伝達する.さらに担任はコース上の

フォーラム(電子掲示板)に,たとえば学生課より

届いたメールを多少修正して投稿する.クラスルー

ム内の掲示物は紛失してしまうがフォーラム上の投

稿は自宅からでも見ることができる.

・就職指導への活用(電子情報工学科第 5 学年)

企業からの求人票は,昨年度まで二穴ファイルに

閉じた紙媒体のみでの提供だったが,今年度からは

学内でのみ閲覧可能な Web ページ上でも提供され

るようになった.学生課より各学科長に新規追加お

よび更新のあった企業の情報が電子メールで届く.

学科長は Moodle 上のクラスルームのコースに用意

した HTML ページリソースに更新情報を追記する.

学生はこの更新情報のみを参考にして Web ページ

あるいは紙媒体の求人票をチェックすれば良くなっ

た.就職活動を行う上での注意事項などの情報も

コース上に提供している.

・ロボコンプロジェクトでの活用

鈴鹿高専ロボコンプロジェクトでは 2007 年度よ

り Moodle を関係教職員および学生のためのポータ

ルサイトとして活用してきた.ロボコンは学科・学

年の異なる学生が集まって行う創造的活動であるた

め,情報の蓄積と共有を上手に行わなくてはノウハ

ウが消失していく.現在,23 個のフォーラム,13

個の Wiki などからなるコースが運用され,情報共有

や議論が活発に行われている.物品発注もこのコー

スを通して教員に所定のフォーマットで要求するこ

ととしている.今年度からはプロコン,エコカープ

ロジェクトでも Moodle の活用が始まった.

・事務職員(教務係)による活用

若手の事務職員の数名が Moodle を利用した業務

改善に今年度より取り組み始めた.本校では本科高

学年生および専攻科生の内の希望者を対象とした短

図-2 青空広場(Moodle上のコース)

(a) クラスルーム斜め前方に配置

(b) メッセージ表示例

図-1 画像提示装置

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期海外研修(オハイオ州立大学,中国常州信息職業

技術学院)を実施している.各海外研修に参加する

学生への情報提供(電子ファイル配布,通知)など

を Moodle 上で行った.来年度からはインターンシッ

プに関する企業情報の提供も Moodle 上で行う予定

である.

3. 高専間ネットワークの結合

Moodle サイト同士をネットワーク結合した事例

は複数存在する.F レックス(http://f-leccs.jp/)では

福井工業高専を含む福井県内の 7 つの高等教育機関

で LMS(Moodle),SNS(OpenSNP),e ポートフォ

リオ(Mahara),CMS(NetCommons)で CAS 認証に

よる SSO を実現し,学習資源の共有やサークル活動

の連携などを行っている.原島ら 6) は,前橋工科大

学,首都大学東京,東京電機大学,日本福祉大学の

4大学をMoodleネットワークで接続して外国語の協

働学習活動における効果について検証している.

VLE のネットワーク接続というと,学習教材の共

有や遠隔授業による単位認定の議論になりがちだが,

本稿で提案するのは高専内人材同士の交流促進によ

る,主に学生の創造性発揮のための支援環境整備で

ある.前述の Moodle 間のネットワーク結合事例も,

他大学の学生との交流を通して学生の学習意欲の向

上を図る点に重点が置かれている.特に高専は,大

学と比べて閉じた人間関係の中に 5 年間閉ざされる.

近年,学生は mixi だけでなく,Twitter, facebook,

Skype により他高専の学生とも交流を持つようにな

りつつあり,その流れを止める意図は無い.雑多な

人々が交錯するオープンなインターネット環境に飛

び込む前に,同じ立場の高専生が活動する閉じた

VLE のネットワーク内で相互交流を通してコミュ

ニケーション力を高め,徐々に外の世界にも活動の

幅を広げる.そのための中継地点としての機能に期

待する.

全高専学生が利用可能な VLE を構築するには全

く異なる二つのアプローチが考えられる.一つは,

出張旅費システムなどのように,例えば高専機構が

全高専共通の VLE サイトを一つ立ち上げる構成で

ある.商用 VLE であってもライセンス費用やサーバ

管理費用は一括処理するため比較的安価かつ各校で

の業務が軽減されると期待できる.しかし,各校で

VLE を設置することは費用の無駄と見做されて廃

止され,各高専の独自性が発揮できなくなる恐れが

ある.事務処理は効率改善のために冗長を廃して集

中化するメリットはあるが,教育の根幹となる VLE

は各高専の自由裁量を犠牲にして効率化を求めては

いけない.もう一つは各校で管理する VLE を相互乗

り入れ可能とする構成である.2013 年 4 月より全高

専で Shibboleth 認証が利用可能となる予定である.

Moodle には Shibboleth認証プラグインが用意されて

いるので,他高専で運用している VLE が SSO に対

応していれば先方の VLE が Moodle ではなくても相

互乗り入れ可能になるが,ユーザの利便性を考えれ

ば各高専の VLE を Moodle に統一して Moodle ネッ

トワーク機能により接続する方が好ましい.

Moodle の特徴の一つは誰でも気軽に Moodle サイ

トを立ち上げることができる点である.学科単位,

研究室単位でも構わない.全学的な Moodle の導入

が行われていなくても,学外からアクセスできる環

境の整備されたサイトから順次,ネットワークに参

加できる.つまり学内で Moodle を使うことに積極

的な小グループがあった場合,学校のセキュリティ

ポリシーが許すのであれば技術的に他高専の

Moodle サイトと交流が可能である.多くの高専が相

互接続するには相互接続のためのポリシー策定を急

ぎ進める必要がある.

4. まとめ

ICTの急速な進歩が続く現代社会においてVLEを

高専で積極的に用いる必要性を述べた.旧来の e

ラーニングシステムと近年の VLE との違いを述べ

ると共に,各高専に設置されている VLE の種類を調

査した結果を示した.VLE を学校ポータルサイトと

する応用例を示した.オープンソースの Moodle を

VLE として導入するメリットを説明した.各高専の

VLE を相互接続して学生および教職員の人的交流

を進めるメリットと必要性を説明し,提案した.

参考文献

1)http://moodle.org

2)ドン・タブスコット:デジタルネイティブが世界

を変える,翔泳社,2009.

3) 中山和彦,東原義訓:未来の教室,筑波出版会

(1986)

4) クリフォード・ストール:コンピュータが子供た

ちをダメにする,草思社(2001)

5) 白井,石原,渥美:日本語 Windows で動作可能

な Moodle の開発,高専教育,Vol.32, pp.303-308,

2009.

6) 原島,神田,宮添,佐藤:LMS の連合によるコ

ンピュータ支援外国語協働学習の実践に関する

研究,科研費・基盤研究 (C),研究課題番号

21520582, 2009-2011.

Page 7: Moodleを利用した学校ポータルサイト構築の事例紹介とネットワーク化の提案

(2011.12.1 受付)

CASE STUDY OF THE SCHOOL PORTAL SITE CONSTRUCTION FOR STUDENTS USING MOODLE AND SUGGESTION OF THE NETWORK CONNECTION

OF THE PORTAL SITES

Tatsuya SHIRAI

The present day that new information and communication devices and services appear in

every day, the technical colleges educating practicable engineers are required to produce the

students which can use ICT (Information and Communication Technology) devices and

services efficiently. E-learning systems had already been prepared in a large number of

technical colleges, however a utilization of the system is not so high since it is only used for

purposes of education. In this article I had reported that the case study of constructing the

school portal site for students by using Moodle, one of VLE (Virtual Learning

Environment). Furthermore, I had suggested that the construction of the social network

among the whole technical colleges using Moodle network function.