関節リウマチのmri診断におけるideal法の有用性...

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近年、生物学的製剤の登場など治療法の進歩により、関節リウマチ の進行を遅らせるための治療から関節破壊を防ぎ寛解を目指す治療 が行えるようになった。本稿では関節リウマチ診療におけるMRIの臨 床的役割と、その病的所見を解説し、病変評価におけるIterative decomposition of water and fat with echo asymmetry and least-squares estimation IDEAL)法の臨床的有用性について述 べる。 関節リウマチは基本的に滑膜炎に始まる疾患である。単純X線写 真は関節裂隙の狭小化、骨びらん、関節周囲の骨萎縮、関節配列の 乱れ、関節変形などの関節リウマチ所見を検出することができる が、これらは滑膜炎に伴う二次的な変化である。一方、 MRI は病変の 首座である炎症性滑膜を直接評価することができる。滑膜炎によっ て肥厚した滑膜はT1強調像で低信号、 T2強調像で低~高信号を示 す。活動性の炎症性滑膜は小血管増生を伴って血流が豊富である ことを反映してガドリニウム投与により強い増強効果を示すことか ら、脂肪抑制法を併用した造影MRI は炎症性滑膜の描出に適してい (図1。また、 MRI は滑膜炎による二次変化である骨髄浮腫を捉 えることができ、骨びらんの検出能も単純X線写真に比べて優れて いる。骨髄浮腫はT1強調像で低信号、 T2強調像で等信号、脂肪抑制 T2強調像やSTIRで高信号を示す境界不明瞭な異常信号域であり、 超音波検査では描出できない領域である (図2。この骨髄浮腫は臨 床 的な 活 動の 指 標(CRPDAS など)と相関することが知られてお り、関節破壊や関節機能の予後を予測する因子となる 1。骨びらん は骨皮質欠損およびその近傍の骨髄における限局性異常信号とし て認められ、造影MRI にて増強効果を示す。早期関節リウマチでは MRI により単純X線写真よりも多くの骨びらんが検出されることが 知られており、 MRIでは単純X 線所見に先行して骨びらんが認めら れると考えられている 2。さらに、 MRI は腱滑膜炎、滑液包炎、リウマ チ結節などの軟部組織病変の描出にも優れている。 我々は、 3T MRI の関節リウマチ早期病変の検出能を知るために 1)手関節を含む多関節症状がある、 2)単純X 線で手関節病変を指 摘できない、 3関節リウマチのACR分類基準を満たさない、以上の 3つの条件を全て満たした症例について高分解能3T MRIを施行し 3。対象症例についてMRI 所見を評価したのち臨床症状を追跡し、 観察期間中にACR分類基準を満たした早期リウマチ群と満たさな い非リウマチ群のMRI 所見をプロスペクティブに比較検討した結 果、 MRI 施行後に関節リウマチと確定された早期リウマチ群21例で は、全例に造影後の関節滑膜の肥厚および濃染像が認められ、造 3T MRI は関節リウマチ診断の予知因子として重要な役割を果た す 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。ま た 、早 期 関 節リウマチ21 例中13 62%)で腱滑膜などの関節周囲軟部組織にも造影後の濃染像が あり、関節滑膜以外の軟部組織に存在する早期病巣の検出にも MRIは有用と考えられた。 MRI による重症度および治療効果の判定には、客観的かつ定量 的な評価法が求められる。現在、ヨーロッパリウマチ学会の多施設 共同プロジェクトであるOutcome Measures for Arthritis 関節リウマチのMRI診断におけるIDEAL法の有用性 産業医科大学 放射線科学教室 青木 隆敏 b1. 早期関節リウマチ症例の手関節画像 A)単純X線写真:手関節に明らか異常を指摘できない。 B)脂肪抑制造影T1強調冠状断像:関節および腱鞘の炎症滑膜が造影MRIにて濃染を示している(矢印)。 2. 関節リウマチ症例の骨髄浮腫(脂肪抑制T2強調冠状断像) 骨髄内には骨髄浮腫を示す境界不明瞭な高信号域が認められ る(矢印)。 A B Magnetic Resonance 15

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 近年、生物学的製剤の登場など治療法の進歩により、関節リウマチ

の進行を遅らせるための治療から関節破壊を防ぎ寛解を目指す治療

が行えるようになった。本稿では関節リウマチ診療におけるMRIの臨

床的役割と、その病的所見を解説し、病変評価におけるIterative

decomposition of water and fat with echo asymmetry and

least-squares estimation(IDEAL)法の臨床的有用性について述

べる。

 関節リウマチは基本的に滑膜炎に始まる疾患である。単純X線写

真は関節裂隙の狭小化、骨びらん、関節周囲の骨萎縮、関節配列の

乱れ、関節変形などの関節リウマチ所見を検出することができる

が、これらは滑膜炎に伴う二次的な変化である。一方、MRIは病変の

首座である炎症性滑膜を直接評価することができる。滑膜炎によっ

て肥厚した滑膜はT1強調像で低信号、T2強調像で低~高信号を示

す。活動性の炎症性滑膜は小血管増生を伴って血流が豊富である

ことを反映してガドリニウム投与により強い増強効果を示すことか

ら、脂肪抑制法を併用した造影MRIは炎症性滑膜の描出に適してい

る(図1)。また、MRIは滑膜炎による二次変化である骨髄浮腫を捉

えることができ、骨びらんの検出能も単純X線写真に比べて優れて

いる。骨髄浮腫はT1強調像で低信号、T2強調像で等信号、脂肪抑制

T2強調像やSTIRで高信号を示す境界不明瞭な異常信号域であり、

超音波検査では描出できない領域である(図2)。この骨髄浮腫は臨

床的な活動の指標(CRP、DASなど)と相関することが知られてお

り、関節破壊や関節機能の予後を予測する因子となる1)。骨びらん

は骨皮質欠損およびその近傍の骨髄における限局性異常信号とし

て認められ、造影MRIにて増強効果を示す。早期関節リウマチでは

MRIにより単純X線写真よりも多くの骨びらんが検出されることが

知られており、MRIでは単純X線所見に先行して骨びらんが認めら

れると考えられている2)。さらに、MRIは腱滑膜炎、滑液包炎、リウマ

チ結節などの軟部組織病変の描出にも優れている。

 我々は、3T MRIの関節リウマチ早期病変の検出能を知るために

1)手関節を含む多関節症状がある、2)単純X線で手関節病変を指

摘できない、3) 関節リウマチのACR分類基準を満たさない、以上の

3つの条件を全て満たした症例について高分解能3T MRIを施行し

た3)。対象症例についてMRI所見を評価したのち臨床症状を追跡し、

観察期間中にACR分類基準を満たした早期リウマチ群と満たさな

い非リウマチ群のMRI所見をプロスペクティブに比較検討した結

果、MRI施行後に関節リウマチと確定された早期リウマチ群21例で

は、全例に造影後の関節滑膜の肥厚および濃染像が認められ、造

影3T MRIは関節リウマチ診断の予知因子として重要な役割を果た

す可能性が示唆された。また、早期関節リウマチ21例中1 3例

(62%)で腱滑膜などの関節周囲軟部組織にも造影後の濃染像が

あり、関節滑膜以外の軟部組織に存在する早期病巣の検出にも

MRIは有用と考えられた。

 MRIによる重症度および治療効果の判定には、客観的かつ定量

的な評価法が求められる。現在、ヨーロッパリウマチ学会の多施設

共同プロジェクトであるOutcome Measures for Ar thr i t is

関節リウマチのMRI診断におけるIDEAL法の有用性

産業医科大学 放射線科学教室

青木 隆敏

Clinical Trials (OMERACT) が考案したRheumatoid Arthritis

Magnetic Resonance Imaging Score (RAMRIS) スコアによる

評価法がグローバルスタンダードとして知られている4)。RAMRIS法

の評価部位は両手の手関節およびMP関節で、滑膜炎・骨びらん・骨

髄浮腫を定量化してスコアリングを行う。各項目について詳細な分

b)

図1. 早期関節リウマチ症例の手関節画像

A)単純X線写真:手関節に明らか異常を指摘できない。

B)脂肪抑制造影T1強調冠状断像:関節および腱鞘の炎症滑膜が造影MRIにて濃染を示している(矢印)。

図2. 関節リウマチ症例の骨髄浮腫(脂肪抑制T2強調冠状断像)

骨髄内には骨髄浮腫を示す境界不明瞭な高信号域が認められ

る(矢印)。

類が行われ、治験の治療効果判定などに有用な評価法として用いら

れている。骨髄浮腫の検出には脂肪抑制法が必須であり、炎症性滑

膜の描出には脂肪抑制併用造影T1強調像が適しているため、関節リ

ウマチ病変の評価には脂肪抑制法が多用される。しかし、従来の周

波数選択型脂肪抑制法(CHESS法)では空気との境界部分で均一な

脂肪抑制が困難なことがあり、手足は複雑な形状であるため組織

と空気の境界で磁化率の違いが大きく、磁場不均一が生じやすい。

不十分な脂肪抑制は病変の有無や性状を判定するうえでの大きな

障害となり、評価のばらつきの原因となる。我々の施設では手足な

どの複雑な形状の部位を撮像する際には、新しい脂肪抑制法である

IDEALを使用している5)。IDEALは3-point-Dixon法を応用し、

フィールドマップやasymmetric(非対称)TEと呼ぶ技術を加えた

撮像法である。フィールドマップはボクセルごとに磁場の不均一性

を計算して位相補正を行うもので、脂肪抑制不良を引き起こす局所

的な磁場不均一の影響を最小限に抑えている。また、Asymmetric

TEにより、水と脂肪が同程度含まれるボクセルにおいても、確実な

脂肪抑制効果を得ることができる。

 我々は3テスラMRI装置を用い、手指のCHESS脂肪抑制併用T1強

調冠状断像およびIDEAL冠状断像を撮像した健常人8例16手と関

節リウマチ8例16手を対象として、IDEAL法の手指MRI撮像におけ

る臨床的有用性を評価した6)。2名の放射線診断専門医がIDEAL法

と従来法の画質を脂肪抑制の均一性、アーチファクトの程度、正常

解剖学的構造の描出能をもとに5段階 (1:bad、2:poor、3:fair、

4:good、5:excellent)で評価した。また、関節リウマチ8症例につ

いては、RAMRISスコアを参考にして、1手25関節の滑膜炎と骨髄浮

腫(骨髄の濃染部位)の有無を評価し、IDEAL法と従来法の読影者

間一致率(κ;0.61以上は良好)を比較した。脂肪抑制画像の画質は

IDEAL法が従来法に比べて有意に優れ(P<.01)、従来法では母指

のMCP関節、指先端部や手関節尺側で画質が不良であったが、これ

らの部位もIDEAL法では良好な脂肪抑制画像が得られた。関節リ

ウマチ症例の病変評価においても、従来法は母指のMCP関節、母指

中手骨および手関節尺側で読影者間一致率が低かったが、IDEAL

法では全評価部位において滑膜炎(κ;0.74-0.91)、骨髄浮腫(κ;

0.62-0.89)ともに良好な読影者間の一致率を示し、MRIで複雑な

形状の手指を撮像する際でも、IDEAL法は良好な脂肪抑制画像を

得ることができ(図3、4)、関節リウマチ病変において信頼性の高い

評価を可能にした。

 関節リウマチでは発症後に関節破壊が急速に進行するため、早期

診断が予後を左右する。このため、滑膜を主体とする関節リウマチ

病変をいち早く捉えて診断精度を向上させるとともに、進展範囲や

活動性を明らかにすることが画像診断に求められる。MRIの脂肪抑

制法としてIDEAL法を用いることで、早期病変の検出能向上ととも

に、従来よりも正確な重症度および治療効果判定が期待できる。

A B

Magnetic Resonance

14 15

 近年、生物学的製剤の登場など治療法の進歩により、関節リウマチ

の進行を遅らせるための治療から関節破壊を防ぎ寛解を目指す治療

が行えるようになった。本稿では関節リウマチ診療におけるMRIの臨

床的役割と、その病的所見を解説し、病変評価におけるIterative

decomposition of water and fat with echo asymmetry and

least-squares estimation(IDEAL)法の臨床的有用性について述

べる。

 関節リウマチは基本的に滑膜炎に始まる疾患である。単純X線写

真は関節裂隙の狭小化、骨びらん、関節周囲の骨萎縮、関節配列の

乱れ、関節変形などの関節リウマチ所見を検出することができる

が、これらは滑膜炎に伴う二次的な変化である。一方、MRIは病変の

首座である炎症性滑膜を直接評価することができる。滑膜炎によっ

て肥厚した滑膜はT1強調像で低信号、T2強調像で低~高信号を示

す。活動性の炎症性滑膜は小血管増生を伴って血流が豊富である

ことを反映してガドリニウム投与により強い増強効果を示すことか

ら、脂肪抑制法を併用した造影MRIは炎症性滑膜の描出に適してい

る(図1)。また、MRIは滑膜炎による二次変化である骨髄浮腫を捉

えることができ、骨びらんの検出能も単純X線写真に比べて優れて

いる。骨髄浮腫はT1強調像で低信号、T2強調像で等信号、脂肪抑制

T2強調像やSTIRで高信号を示す境界不明瞭な異常信号域であり、

超音波検査では描出できない領域である(図2)。この骨髄浮腫は臨

床的な活動の指標(CRP、DASなど)と相関することが知られてお

り、関節破壊や関節機能の予後を予測する因子となる1)。骨びらん

は骨皮質欠損およびその近傍の骨髄における限局性異常信号とし

て認められ、造影MRIにて増強効果を示す。早期関節リウマチでは

MRIにより単純X線写真よりも多くの骨びらんが検出されることが

知られており、MRIでは単純X線所見に先行して骨びらんが認めら

れると考えられている2)。さらに、MRIは腱滑膜炎、滑液包炎、リウマ

チ結節などの軟部組織病変の描出にも優れている。

 我々は、3T MRIの関節リウマチ早期病変の検出能を知るために

1)手関節を含む多関節症状がある、2)単純X線で手関節病変を指

摘できない、3) 関節リウマチのACR分類基準を満たさない、以上の

3つの条件を全て満たした症例について高分解能3T MRIを施行し

た3)。対象症例についてMRI所見を評価したのち臨床症状を追跡し、

観察期間中にACR分類基準を満たした早期リウマチ群と満たさな

い非リウマチ群のMRI所見をプロスペクティブに比較検討した結

果、MRI施行後に関節リウマチと確定された早期リウマチ群21例で

は、全例に造影後の関節滑膜の肥厚および濃染像が認められ、造

影3T MRIは関節リウマチ診断の予知因子として重要な役割を果た

す可能性が示唆された。また、早期関節リウマチ21例中1 3例

(62%)で腱滑膜などの関節周囲軟部組織にも造影後の濃染像が

あり、関節滑膜以外の軟部組織に存在する早期病巣の検出にも

MRIは有用と考えられた。

 MRIによる重症度および治療効果の判定には、客観的かつ定量

的な評価法が求められる。現在、ヨーロッパリウマチ学会の多施設

共同プロジェクトであるOutcome Measures for Ar thr i t is

Clinical Trials (OMERACT) が考案したRheumatoid Arthritis

Magnetic Resonance Imaging Score (RAMRIS) スコアによる

評価法がグローバルスタンダードとして知られている4)。RAMRIS法

の評価部位は両手の手関節およびMP関節で、滑膜炎・骨びらん・骨

髄浮腫を定量化してスコアリングを行う。各項目について詳細な分

参考文献

1) Benton N, et al. MRI of the wrist in early rheumatoid arthritis can be

used to predict functional outcome at 6 years. Ann Rhuem Dis 63:

555-561. 2004.

2) McQueen FM, et al. Magnetic resonance imaging of the wrist in early

rheumatoid ar thrit is reveals a high prevalence of erosions at 4

months after symptom onset. Ann Rheum Dis 1998:57:350–356.

3) Aoki T, et al:Diagnosis of early-stage rheumatoid arthritis: usefulness

of unenhanced and gadolinium-enhanced MR images at 3 T. Clin

Imaging. 37:348-53, 2013.

4) Østergaard M, et a l , An int roduc t ion to the EUL AR–OMER AC T

rheumatoid arthritis MRI reference image atlas. Ann Rheum Dis

2005:64:i3-i7, 2005.

5) Reeder SB, et al. Iterative decomposition of water and fat with echo

asymmetry and least-squares estimation (IDEAL):application with

fast spin-echo imaging. Magn Reson Med 54:636–644, 2005.

6) Aoki T, et al:Iterative decomposition of water and fat with echo

asymmetry and least-squares estimation of the wrist and finger at

3T:Comparison with chemical shift selective fat suppression images.

J Magn Reson Imaging. 37:733-8, 2013.

類が行われ、治験の治療効果判定などに有用な評価法として用いら

れている。骨髄浮腫の検出には脂肪抑制法が必須であり、炎症性滑

膜の描出には脂肪抑制併用造影T1強調像が適しているため、関節リ

ウマチ病変の評価には脂肪抑制法が多用される。しかし、従来の周

波数選択型脂肪抑制法(CHESS法)では空気との境界部分で均一な

脂肪抑制が困難なことがあり、手足は複雑な形状であるため組織

と空気の境界で磁化率の違いが大きく、磁場不均一が生じやすい。

不十分な脂肪抑制は病変の有無や性状を判定するうえでの大きな

障害となり、評価のばらつきの原因となる。我々の施設では手足な

どの複雑な形状の部位を撮像する際には、新しい脂肪抑制法である

IDEALを使用している5)。IDEALは3-point-Dixon法を応用し、

フィールドマップやasymmetric(非対称)TEと呼ぶ技術を加えた

撮像法である。フィールドマップはボクセルごとに磁場の不均一性

を計算して位相補正を行うもので、脂肪抑制不良を引き起こす局所

的な磁場不均一の影響を最小限に抑えている。また、Asymmetric

TEにより、水と脂肪が同程度含まれるボクセルにおいても、確実な

脂肪抑制効果を得ることができる。

 我々は3テスラMRI装置を用い、手指のCHESS脂肪抑制併用T1強

調冠状断像およびIDEAL冠状断像を撮像した健常人8例16手と関

節リウマチ8例16手を対象として、IDEAL法の手指MRI撮像におけ

る臨床的有用性を評価した6)。2名の放射線診断専門医がIDEAL法

と従来法の画質を脂肪抑制の均一性、アーチファクトの程度、正常

解剖学的構造の描出能をもとに5段階 (1:bad、2:poor、3:fair、

4:good、5:excellent)で評価した。また、関節リウマチ8症例につ

いては、RAMRISスコアを参考にして、1手25関節の滑膜炎と骨髄浮

腫(骨髄の濃染部位)の有無を評価し、IDEAL法と従来法の読影者

間一致率(κ;0.61以上は良好)を比較した。脂肪抑制画像の画質は

IDEAL法が従来法に比べて有意に優れ(P<.01)、従来法では母指

のMCP関節、指先端部や手関節尺側で画質が不良であったが、これ

らの部位もIDEAL法では良好な脂肪抑制画像が得られた。関節リ

ウマチ症例の病変評価においても、従来法は母指のMCP関節、母指

中手骨および手関節尺側で読影者間一致率が低かったが、IDEAL

法では全評価部位において滑膜炎(κ;0.74-0.91)、骨髄浮腫(κ;

0.62-0.89)ともに良好な読影者間の一致率を示し、MRIで複雑な

形状の手指を撮像する際でも、IDEAL法は良好な脂肪抑制画像を

得ることができ(図3、4)、関節リウマチ病変において信頼性の高い

評価を可能にした。

 関節リウマチでは発症後に関節破壊が急速に進行するため、早期

診断が予後を左右する。このため、滑膜を主体とする関節リウマチ

病変をいち早く捉えて診断精度を向上させるとともに、進展範囲や

活動性を明らかにすることが画像診断に求められる。MRIの脂肪抑

制法としてIDEAL法を用いることで、早期病変の検出能向上ととも

に、従来よりも正確な重症度および治療効果判定が期待できる。

図3. 関節リウマチ症例の造影後IDEAL水画像冠状断像(A、B)およびCHESS型脂肪抑制造影T1強調冠状断像(C、D)

IDEALでは全体的に均一な脂肪抑制画像が得られ、手関節や腱滑膜炎を示唆する濃染像が明瞭に描出されている。CHESS型脂肪抑制造影T1強調像では脂肪の取

り残しによる高信号(矢印)や局所磁場不均一によるアーチファクト(矢頭)が認められる。

図4. 関節リウマチ症例の造影後IDEAL水画像冠状断像(A、B)

骨髄浮腫を示す多数の高信号域が明瞭に描出されている。

A C

B D

A B

16 17

 近年、生物学的製剤の登場など治療法の進歩により、関節リウマチ

の進行を遅らせるための治療から関節破壊を防ぎ寛解を目指す治療

が行えるようになった。本稿では関節リウマチ診療におけるMRIの臨

床的役割と、その病的所見を解説し、病変評価におけるIterative

decomposition of water and fat with echo asymmetry and

least-squares estimation(IDEAL)法の臨床的有用性について述

べる。

 関節リウマチは基本的に滑膜炎に始まる疾患である。単純X線写

真は関節裂隙の狭小化、骨びらん、関節周囲の骨萎縮、関節配列の

乱れ、関節変形などの関節リウマチ所見を検出することができる

が、これらは滑膜炎に伴う二次的な変化である。一方、MRIは病変の

首座である炎症性滑膜を直接評価することができる。滑膜炎によっ

て肥厚した滑膜はT1強調像で低信号、T2強調像で低~高信号を示

す。活動性の炎症性滑膜は小血管増生を伴って血流が豊富である

ことを反映してガドリニウム投与により強い増強効果を示すことか

ら、脂肪抑制法を併用した造影MRIは炎症性滑膜の描出に適してい

る(図1)。また、MRIは滑膜炎による二次変化である骨髄浮腫を捉

えることができ、骨びらんの検出能も単純X線写真に比べて優れて

いる。骨髄浮腫はT1強調像で低信号、T2強調像で等信号、脂肪抑制

T2強調像やSTIRで高信号を示す境界不明瞭な異常信号域であり、

超音波検査では描出できない領域である(図2)。この骨髄浮腫は臨

床的な活動の指標(CRP、DASなど)と相関することが知られてお

り、関節破壊や関節機能の予後を予測する因子となる1)。骨びらん

は骨皮質欠損およびその近傍の骨髄における限局性異常信号とし

て認められ、造影MRIにて増強効果を示す。早期関節リウマチでは

MRIにより単純X線写真よりも多くの骨びらんが検出されることが

知られており、MRIでは単純X線所見に先行して骨びらんが認めら

れると考えられている2)。さらに、MRIは腱滑膜炎、滑液包炎、リウマ

チ結節などの軟部組織病変の描出にも優れている。

 我々は、3T MRIの関節リウマチ早期病変の検出能を知るために

1)手関節を含む多関節症状がある、2)単純X線で手関節病変を指

摘できない、3) 関節リウマチのACR分類基準を満たさない、以上の

3つの条件を全て満たした症例について高分解能3T MRIを施行し

た3)。対象症例についてMRI所見を評価したのち臨床症状を追跡し、

観察期間中にACR分類基準を満たした早期リウマチ群と満たさな

い非リウマチ群のMRI所見をプロスペクティブに比較検討した結

果、MRI施行後に関節リウマチと確定された早期リウマチ群21例で

は、全例に造影後の関節滑膜の肥厚および濃染像が認められ、造

影3T MRIは関節リウマチ診断の予知因子として重要な役割を果た

す可能性が示唆された。また、早期関節リウマチ21例中1 3例

(62%)で腱滑膜などの関節周囲軟部組織にも造影後の濃染像が

あり、関節滑膜以外の軟部組織に存在する早期病巣の検出にも

MRIは有用と考えられた。

 MRIによる重症度および治療効果の判定には、客観的かつ定量

的な評価法が求められる。現在、ヨーロッパリウマチ学会の多施設

共同プロジェクトであるOutcome Measures for Ar thr i t is

Clinical Trials (OMERACT) が考案したRheumatoid Arthritis

Magnetic Resonance Imaging Score (RAMRIS) スコアによる

評価法がグローバルスタンダードとして知られている4)。RAMRIS法

の評価部位は両手の手関節およびMP関節で、滑膜炎・骨びらん・骨

髄浮腫を定量化してスコアリングを行う。各項目について詳細な分

参考文献

1) Benton N, et al. MRI of the wrist in early rheumatoid arthritis can be

used to predict functional outcome at 6 years. Ann Rhuem Dis 63:

555-561. 2004.

2) McQueen FM, et al. Magnetic resonance imaging of the wrist in early

rheumatoid ar thrit is reveals a high prevalence of erosions at 4

months after symptom onset. Ann Rheum Dis 1998:57:350–356.

3) Aoki T, et al:Diagnosis of early-stage rheumatoid arthritis: usefulness

of unenhanced and gadolinium-enhanced MR images at 3 T. Clin

Imaging. 37:348-53, 2013.

4) Østergaard M, et a l , An int roduc t ion to the EUL AR–OMER AC T

rheumatoid arthritis MRI reference image atlas. Ann Rheum Dis

2005:64:i3-i7, 2005.

5) Reeder SB, et al. Iterative decomposition of water and fat with echo

asymmetry and least-squares estimation (IDEAL):application with

fast spin-echo imaging. Magn Reson Med 54:636–644, 2005.

6) Aoki T, et al:Iterative decomposition of water and fat with echo

asymmetry and least-squares estimation of the wrist and finger at

3T:Comparison with chemical shift selective fat suppression images.

J Magn Reson Imaging. 37:733-8, 2013.

類が行われ、治験の治療効果判定などに有用な評価法として用いら

れている。骨髄浮腫の検出には脂肪抑制法が必須であり、炎症性滑

膜の描出には脂肪抑制併用造影T1強調像が適しているため、関節リ

ウマチ病変の評価には脂肪抑制法が多用される。しかし、従来の周

波数選択型脂肪抑制法(CHESS法)では空気との境界部分で均一な

脂肪抑制が困難なことがあり、手足は複雑な形状であるため組織

と空気の境界で磁化率の違いが大きく、磁場不均一が生じやすい。

不十分な脂肪抑制は病変の有無や性状を判定するうえでの大きな

障害となり、評価のばらつきの原因となる。我々の施設では手足な

どの複雑な形状の部位を撮像する際には、新しい脂肪抑制法である

IDEALを使用している5)。IDEALは3-point-Dixon法を応用し、

フィールドマップやasymmetric(非対称)TEと呼ぶ技術を加えた

撮像法である。フィールドマップはボクセルごとに磁場の不均一性

を計算して位相補正を行うもので、脂肪抑制不良を引き起こす局所

的な磁場不均一の影響を最小限に抑えている。また、Asymmetric

TEにより、水と脂肪が同程度含まれるボクセルにおいても、確実な

脂肪抑制効果を得ることができる。

 我々は3テスラMRI装置を用い、手指のCHESS脂肪抑制併用T1強

調冠状断像およびIDEAL冠状断像を撮像した健常人8例16手と関

節リウマチ8例16手を対象として、IDEAL法の手指MRI撮像におけ

る臨床的有用性を評価した6)。2名の放射線診断専門医がIDEAL法

と従来法の画質を脂肪抑制の均一性、アーチファクトの程度、正常

解剖学的構造の描出能をもとに5段階 (1:bad、2:poor、3:fair、

4:good、5:excellent)で評価した。また、関節リウマチ8症例につ

いては、RAMRISスコアを参考にして、1手25関節の滑膜炎と骨髄浮

腫(骨髄の濃染部位)の有無を評価し、IDEAL法と従来法の読影者

間一致率(κ;0.61以上は良好)を比較した。脂肪抑制画像の画質は

IDEAL法が従来法に比べて有意に優れ(P<.01)、従来法では母指

のMCP関節、指先端部や手関節尺側で画質が不良であったが、これ

らの部位もIDEAL法では良好な脂肪抑制画像が得られた。関節リ

ウマチ症例の病変評価においても、従来法は母指のMCP関節、母指

中手骨および手関節尺側で読影者間一致率が低かったが、IDEAL

法では全評価部位において滑膜炎(κ;0.74-0.91)、骨髄浮腫(κ;

0.62-0.89)ともに良好な読影者間の一致率を示し、MRIで複雑な

形状の手指を撮像する際でも、IDEAL法は良好な脂肪抑制画像を

得ることができ(図3、4)、関節リウマチ病変において信頼性の高い

評価を可能にした。

 関節リウマチでは発症後に関節破壊が急速に進行するため、早期

診断が予後を左右する。このため、滑膜を主体とする関節リウマチ

病変をいち早く捉えて診断精度を向上させるとともに、進展範囲や

活動性を明らかにすることが画像診断に求められる。MRIの脂肪抑

制法としてIDEAL法を用いることで、早期病変の検出能向上ととも

に、従来よりも正確な重症度および治療効果判定が期待できる。

図3. 関節リウマチ症例の造影後IDEAL水画像冠状断像(A、B)およびCHESS型脂肪抑制造影T1強調冠状断像(C、D)

IDEALでは全体的に均一な脂肪抑制画像が得られ、手関節や腱滑膜炎を示唆する濃染像が明瞭に描出されている。CHESS型脂肪抑制造影T1強調像では脂肪の取

り残しによる高信号(矢印)や局所磁場不均一によるアーチファクト(矢頭)が認められる。

図4. 関節リウマチ症例の造影後IDEAL水画像冠状断像(A、B)

骨髄浮腫を示す多数の高信号域が明瞭に描出されている。

A C

B D

A B

Magnetic Resonance

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