新有効成分含有医薬品の 安定性試験データの評価 -...

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統計・DM部会資料 新有効成分含有医薬品の 安定性試験データの評価 -リテスト期間及び有効期間設定のための試験デザインと統計的推定法- 平成 17 3 医薬品評価委員会 統計・DM 部会 発行 医薬出版センター

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統計・DM部会資料

新有効成分含有医薬品の 安定性試験データの評価

-リテスト期間及び有効期間設定のための試験デザインと統計的推定法-

平成 17 年 3 月

日 本 製 薬 工 業 協 会

医薬品評価委員会 統計・DM 部会

発行 医薬出版センター

新有効成分含有医薬品の安定性試験データの評価

-リテスト期間及び有効期間設定のための試験デザインと統計的推定法-

統計・DM部会 タスクフォース 8 資料作成者

浅原初木 ファイザー株式会社

竹内久朗 三菱ウェルファーマ株式会社

堀進太郎 ワイス株式会社

夜久晃治 田辺製薬株式会社

濱地洋三 アベンティスファーマ株式会社

(~平成 15 年 6 月)

渡邉一彦 アベンティスファーマ株式会社

(平成 15 年 7 月~)

タスクフォース 8 リーダー

統計・DM部会副部会長 上坂浩之 日本イーライリリー株式会社

監修

統計・DM 部会 部会長 前田 博 藤沢薬品工業株式会社

同 副部会長 東宮 秀夫 住友製薬株式会社

同 副部会長 酒井 弘憲 三菱ウェルファーマ株式会社

以上の資料作成に当たり、医薬品評価委員会 魚井委員長ならびに本資料の査読を実施頂い

た査読担当の諸氏に感謝致します。

謝辞

本稿で参照したガイドラインの解釈に関して、ICH の専門家会議委員である国立医薬品食品

衛生研究所薬品部吉岡澄江室長ならびにノバルティスファーマ株式会社麻生伸一郎氏にご教

示いただきました。厚くお礼申し上げます。

目次

緒言 ............................................................................. 1

1. 新有効成分含有医薬品の承認申請における安定性試験 ............................. 3

1.1. はじめに ................................................................... 3 1.2. 有効成分含有医薬品の安定性試験ガイドライン (Q1A(R2))の概略 ................. 3

1.2.1. ロットの選択 1.2.2. 容器施栓系 1.2.3. 規格 1.2.4. 測定時期 1.2.5. 保存条件 1.2.7. コミットメントロットによる安定性試験 1.2.8. 安定性試験結果の評価

2. 安定性試験のデザイン ........................................................ 11

2.1. はじめに .................................................................. 11 2.2. 全数試験 .................................................................. 11 2.3. 減数試験 .................................................................. 11

2.3.1. ブラケッティング法

2.4. まとめ .................................................................... 20

3. 安定性データの評価 .......................................................... 21

3.1. はじめに .................................................................. 21 3.2. 「安定性データの評価に関するガイドライン (Q1E)」の概略 .................... 21 3.3. 安定性データ及び評価結果の申請資料への記載 ................................ 21 3.4. 外挿 ...................................................................... 22 3.5. 安定性データの評価の流れ .................................................. 23

3.5.1. 「室温」保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための評価 3.5.2. 冷蔵庫保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための評価 3.5.3. 冷凍庫保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための評価 3.5.4.-20℃以下で保存される原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための

評価

4. 標準的な統計的推定法 ........................................................ 27

4.1. はじめに .................................................................. 27 4.2. 単一ロットのデータ解析 .................................................... 27 4.3. 単一因子のデータ解析 ...................................................... 28

4.3.1. 回帰分析 4.3.2. リテスト期間又は有効期間の推定値が提示するリテスト期間又は有効期間を支

持するか否かの判断 4.3.3. いずれかのロットのリテスト期間又は有効期間の推定値が提示するリテスト期

間又は有効期間を支持しない場合 4.3.4. 共分散分析の実施 4.3.5. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間の算出

4.3.6. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか否かの

判定 4.3.7. 単一因子のデータ解析結果

4.4. 複数因子のデータ解析の手順-複数の包装形態がある場合 ...................... 34 4.4.1. 包装形態毎の有効期間 4.4.2. いずれかの包装形態のデータが提示する有効期間を支持しないとき 4.4.3. 共分散分析の実施 4.4.4. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間の算出 4.4.5. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか否かの

判定 4.4.6. 複数因子のデータ解析結果-複数の包装形態がある場合

4.5. 複数因子のデータ解析の手順-複数の含量がある場合 .......................... 39 4.5.1. 含量毎の有効期間 4.5.2. いずれかの含量のデータが提示する有効期間を支持しないとき 4.5.3. 共分散分析の実施 4.5.4. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間の算出 4.5.5. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか否かの

判定 4.5.6. 複数因子のデータ解析結果-複数の含量がある場合

4.6. 複数因子のデータ解析の手順-複数の包装形態及び複数の含量がある場合 ........ 44 4.6.1. 包装形態と含量の水準組み合わせ毎の有効期間 4.6.2. 水準組み合わせのいずれかが提示する有効期間を支持しなかった場合 4.6.3. 共分散分析の実施 4.6.4. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間の算出 4.6.5. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか否かの

判定 4.6.6. 複数因子のデータ解析結果-複数の包装形態及び複数の含量がある場合

5. 統計的推定法の実際 .......................................................... 52

5.1. はじめに .................................................................. 52

5.2. 単一ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の推定 .......................... 52

5.2.1. 回帰分析 5.2.2. リテスト期間又は有効期間の推定

5.3. 複数ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の推定 .......................... 61 5.3.1. ロット毎のリテスト期間又は有効期間の推定 5.3.2. ロットの一括評価に関する検定とモデル分類 5.3.3. 共分散分析とリテスト期間又は有効期間の推定

5.4. 行列による表現 ............................................................ 75

5.4.1. 回帰モデル 5.4.2. リテスト期間又は有効期間の推定 5.4.3. 共分散分析モデル

6. 統計的推測の基礎 ............................................................ 82

6.1. はじめに .................................................................. 82 6.2. 共分散分析モデル .......................................................... 84

6.2.1. 一般的な多クラスモデル 6.2.2. 実験因子が包装形態である場合 6.2.3. 実験因子が含量である場合 6.2.4. 実験因子として含量と包装形態の 2因子がある場合

6.3. 線形モデルの推測理論 ...................................................... 92 6.4. 共分散分析への応用 ........................................................ 96

6.4.1. 多クラスモデルの解析 6.4.2. 傾きが共通の多クラスモデル 6.4.3. 傾きと切片が共通の多クラスモデル 6.4.4. 多クラスモデルにおける分散分析表 6.4.5. 切片が共通の多クラスモデル

6.5. 安定性試験への応用 ....................................................... 104 6.5.1. 複数の包装形態がある試験の解析 6.5.2. 複数の含量がある試験の解析 6.5.3. 複数含量及び複数の包装形態を含む試験の解析

7. 安定性試験の統計的方法に関する論点及び他の方法 ............................. 112

7.1. Q1E で推奨している統計的方法の特徴 ........................................ 112 7.1.1. 母数モデルと変量モデル 7.1.2. 一括評価に関する検定の問題 7.1.3. 入れ子構造と交差構造 7.1.4. 共通分散 7.1.5. 一括評価のための検定を進める順序

7.2. その他の方法 ............................................................. 116 7.2.1. 多重比較方式による有効期間の設定 7.2.2. 同等性基準に基づく併合

用 語 集 ..................................................................... 119

1

緒言

日米 EU 医薬品規制調和国際会議(ICH;International Conference on Harmonization of Technical

Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)の場において、品質、安全性、

有効性に関する多くのガイドラインが調和されてきた。安定性試験に関するガイドラインに

ついては、「安定性試験ガイドライン, Q1A(R2)」(平成 15 年 6 月 3 日医薬審発第 0603001 号

医薬局審査管理課長通知)を親ガイドラインとし、他に Q1B、Q1C、Q1D、Q1E、Q1F 及び

Q5C ガイドラインが作成されてきた1。親ガイドラインには、EU、日本及び米国 3 極内におい

て新有効成分含有医薬品の原薬及び製剤の承認申請を行うときに必要な安定性試験成績の主

要部分が示されている。しかし、安定性試験データの評価及び統計解析に関する指針につい

ては、簡略に記載されているにすぎず、その適用範囲も限られ、また複数の因子が含まれる

場合の全数試験や減数試験については記載されていない。本書で取り扱うガイドライン「安

定性データの評価に関するガイドライン,Q1E」(平成 15 年 6 月 3 日 医薬審発第 0603004 号医

薬局審査管理課長通知)は、その目的の項に、「親ガイドラインに記載された原理に従って得

られた安定性データを承認申請においてどのように利用してリテスト期間又は有効期間を提

示したらよいかを示したものである。本ガイドラインには、長期保存条件での安定性試験に

より得られたデータ(以下、長期データという)がカバーする期間を超えた原薬のリテスト

期間又は製剤の有効期間を提示する場合に、どのような状況で、またどの程度まで外挿する

ことができるかを記載する。」とあるように、親ガイドラインの拡大版として作成された。

しかし、Q1E ガイドラインの記載から、安定性試験の実施者(品質関連部門の担当者)が、

長期データでカバーする期間を超えて原薬のリテスト期間又は製剤の有効期間を提示するた

めに、実際の安定性試験データをどのような統計モデルに基づいて評価するのか理解するの

が難しいように考えられた。このため、日本製薬工業協会医薬品評価委員会統計・DM 部会は、

「安定性試験の統計的方法タスクフォース」を 2001 年 9 月に発足させ検討を開始した。

本書はこれまで当タスクフォースで Q1E ガイドライン及び関連する ICH ガイドラインや文

献について検討を重ねた事柄をまとめたものである。安定性試験の実施者のみならず、統計

解析の専門家においても、実際の長期データをどのような統計モデルに基づいて解析してい

くかをわかりやすくイメージできるよう解説を試みた。第 1 章では、親ガイドラインの要件

に従って得られた安定性データを利用して、承認申請時に Q1E ガイドラインに基づいてどの

ようにリテスト期間又は有効期間を提示したらよいかを正しく理解するために、また、安定

性試験の概略を理解できるように親ガイドラインの全般を要約する。2 章では、親ガイドライ

ン及び Q1D にしたがい、長期データを得るための安定性試験のデザインを全数試験及び減数

試験(ブラケッティング法及びマトリキシング法)に分けて例示する。3 章では、本書で取り

1 Q1B、Q1C、Q1D、Q1E、Q1F 及び Q5C ガイドライン;1章 表 1.1 参照

2

扱う Q1E ガイドラインの概略及び留意点に当タスクフォースの見解を加えて解説し、4 章で

は、品質関連部門の担当者及び分散分析や共分散分析の基礎を理解している研究者向けに、

Q1E ガイドラインの概念に基づき外挿によりリテスト期間又は有効期間を提示する際の統計

解析の進め方について解説する。5 章では、Q1E ガイドラインの概念に基づくリテスト期間又

は有効期間の統計的推定について、品質関連部門の担当者が自ら計算過程を確認しながら統

計的推定が理解できるよう数値例を用いながら計算過程を解説する。6 章では、統計解析の専

門家向けに、安定性試験の解析で用いられる共分散分析の数理的な基礎を解説する。7 章では、

Q1E ガイドラインに基づく統計解析によりリテスト期間又は有効期間を推定する際の統計的

観点からの問題点及び Q1E ガイドラインの参考文献の中に記載されていた解析方法について

述べる。

本書は、各製薬企業において統計解析及び品質(CMC; Chemistry, Manufacturing and

Control)を専門とする委員より構成されるタスクフォースにて協議し、作成したものである。

したがって、本書は Q1E ガイドラインに示されている解析手順に基づき当タスクフォースに

て解釈した方法を例示したものであり、現在、提案されているすべての方法を取り扱ってい

るわけではない。また本書は解析方法を中心に解説しており、試験デザインの選択の統計的

側面は扱っていないため、繰り返し数やマトリキシングデザインにおける省略の仕方等につ

いては、予備安定性試験の結果や品質試験の分析精度等を考慮し、試験開始前に統計解析の

専門家を含めて検討することが望ましい。

著者一同、安定性試験の実施者及び統計解析担当者に本書で示した例が役立つとともに、

統計解析を行うことを念頭においた安定性試験計画を考える時の参考にして頂けることを願

っている。

3

1. 新有効成分含有医薬品の承認申請における安定性試験

1.1. はじめに

医薬品の承認申請における安定性試験は、温度、湿度、光等の環境要因の影響下での品質

の経時的変化を評価し、原薬のリテスト期間、製剤の有効期間及び医薬品の適切な保存条件

の設定に必要な情報を得るために行う試験である。一般に、原薬及び製剤の安定性試験は、

様々な予備安定性試験結果を含め開発初期の関連資料や製剤設計研究時のデータなどを考慮

し、その実施計画が立案される。その安定性試験結果から導き出されるリテスト期間又は有

効期間及び保存条件は、その医薬品の有効性と安全性の確保を十分に考慮して流通期間内で

一定の品質が保てるよう設定する必要がある。したがって、それらの設定根拠については、

統計学的な考察を含め科学的に考察を行うべきである。表 1.1 に各種安定性試験ガイドライン

の一覧を示す。

表 1.1 各種安定性試験ガイドライン

ICH コード ガイドラインの通知名 通知コード Q1A(R2) 安定性試験ガイドラインの改定について H15.6.3 医薬審発 0603001 号 Q1B 新原薬及び新製剤の光安定性ガイドラインに

ついて H9.5.28 薬審 422 号

Q1C 新投与経路医薬品等の安定性試験成績の取扱

いに関するガイドラインについて H9.5.28 薬審 425 号

Q1D 原薬及び製剤の安定性試験へのブラケッティ

ング法及びマトリキシング法の適用について

H14.7.31 医薬審発 0731004 号

Q1E 安定性データの評価に関するガイドラインに

ついて H15.6.3 医薬審発 0603004 号

Q1F 気候区域Ⅲ及びⅣにおける承認申請のための

安定性試験成績に関するガイドラインについ

H15.6.3 医薬審発 0603007 号

Q5C 生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験について

H10.1.6 医薬審発 6

1.2. 有効成分含有医薬品の安定性試験ガイドライン (Q1A(R2))の概略

本ガイドラインは、ICH において調和された、所謂、安定性試験の親ガイドラインで、新

有効成分含有医薬品の原薬及び製剤の承認申請を行うときに必要な安定性試験成績を示した

ものであり、3 極のいずれか一地域で行われた安定性に関する試験成績は、原則として、他の

二つの地域においても申請資料として使用できるものとされている。本ガイドラインの構成

を表 1.2 に示す。本ガイドラインは大きく分けて「1.序論」、「2.ガイドライン」及び「3.用

語集」から構成されており、「2.ガイドライン」は更に「2.1.原薬」と「2.2.製剤」からなり、

各々に詳細な指針を与えている。

4

表 1.2 有効成分含有医薬品の安定性試験ガイドライン (Q1A(R2))の構成 1. 序論 2.2. 製剤

.1. ガイドラインの目的 2.2.1. 一般的事項 1.2. ガイドラインの適用範囲 2.2.2. 光安定性試験 1.3. 一般原理 2.2.3. ロットの選択

2. ガイドライン 2.2.4. 容器施栓系 2.1. 原薬 2.2.5. 規格

2.1.1. 一般的事項 2.2.6. 測定時期 2.1.2. 苛酷試験 2.2.7. 保存条件 2.1.3. ロットの選択 2.2.7.1 一般的な製剤 2.1.4. 容器施栓系 2.2.7.2. 不透過性の容器に包装され

た製剤 2.1.5. 規格 2.2.7.3. 半透過性の容器に包装され

た製剤 2.1.6. 測定時期 2.2.7.4. 冷蔵庫での保存の場合2.1.7. 保存条件 2.2.7.5. 冷凍庫での保存の場合

2.1.7.1. 一般的な原薬 2.2.7.6. -20℃以下での保存の場合2.1.7.2. 冷蔵庫での保存の場合 2.2.8. 安定性試験の確認のための

試験の実施(コミットメント)

2.1.7.3. 冷凍庫での保存の場合 2.2.9. 評価2.1.7.4 -20℃以下での保存の場合 2.2.10. 取扱い上の注意/表示

2.1.8. 安定性試験の確認のための試験の実施(コミットメント)

3. 用語集

2.1.9. 評価2.1.10. 取扱い上の注意/表示

1.2.1. ロットの選択

安定性試験結果から導き出されたリテスト期間(巻末用語集参照、以下、「用語集参照」

と略す)、有効期間(用語集参照)及び貯蔵方法は、将来にわたって製造される全てのその

医薬品に適用され、設定されている規格値の範囲内であるという信頼性を確保しなければな

らない。その意味においても、ロットの選択は安定性試験を計画する上で、非常に重要な要

素であると考えられ、使用される検体もロットを代表しているべきである。本ガイドライン

では、正式な安定性試験(用語集参照)は、3 ロット以上の基準ロットについて実施すること

とされている。

原薬(用語集参照)における基準ロット(用語集参照)は、パイロットスケール以上で製

造されたロットとし、生産ロットで適用される 終的な方法を反映する製造方法及び製造工

程で製造されたものとし、更にその品質は、実生産スケールで製造されたものの品質を反映

するものである。

製剤(用語集参照)における基準ロットは、市販予定製剤と同一処方、同一容器施栓系の

包装で、その製造工程は生産ロットで適用される方法を反映するものとし、更に市販予定製

剤と同等な品質でかつ同じ品質規格を満たさなければならない。可能ならば、製剤の各ロッ

5

トは、異なる原薬ロットを使用して製造されることが望まれる。加えて Q1E では製造直後の

含量が表示量の 100%に近いロットであることが望ましいとしている。

1.2.2. 容器施栓系

原薬における容器施栓系は、申請するものと同一のもの又はそれに準ずるものとされてい

るが、製剤では申請する容器施栓系(用語集参照)で包装されたもので、必要ならば二次包

装及び容器ラベルを含めるとされている。また、製剤における容器施栓系とは、製剤を収容

し保護する包装の構成要素全体を指し、主に直接容器を指すが、二次包装が機能を有する場

合(遮光、防湿等)は、二次包装も含まれる。

1.2.3. 規格

安定性試験で採用される規格(用語集参照)、つまり、測定項目、分析方法及び判定基準

は、予め Q6A 及び Q6B に基づき十分に検討されている必要がある。更に分解生成物の規格も

同 Q3A(R)及び Q3B(R)に準拠し設定される必要がある。

安定性試験における測定項目は、保存により影響を受け易く、また、品質、安全性又は有

効性に影響を与えるような項目を選択する必要がある。

原薬の安定性試験では、物理的、化学的、生物学的及び微生物学的測定項目を適切に含め

ることとされている。一方、製剤の安定性試験では、上記の他に、さらに保存剤含量(抗酸

化剤、抗菌剤など)並びに機能性試験(製剤に特有の機能性に関する試験で、例えば、予め

薬液を入れた注射筒や自己注射用カートリッジなどの操作性、圧力及び密閉性などの試験が

ある(Q6A 参照))も適切に設定する必要がある。但し保存剤の含量試験は、保存効力と保

存剤の含量の相関関係が確認されている場合について保存効力試験の代替法として採用可能

である。その場合でも、一つの基準ロットの製剤につき、有効期間の 終時点において、保

存剤含量試験に加え、保存効力試験を行う必要がある。

測定方法は事前にバリデートされている必要があり、本ガイドラインでは、測定の繰り返

しの必要性及び回数は、バリデーション試験の結果に基づいて決定できると記載されている。

1.2.4. 測定時期

本ガイドラインで示されている測定時期は、原薬及び製剤とも安定性の特性を十分に把握

できるように、長期保存試験(用語集参照)では、通常、1 年目は 3 箇月毎、2 年目は 6 箇月

毎、その後はリテスト期間又は有効期間を通して 1 年毎とされている。

加速試験(用語集参照)の測定時期は、試験開始時と終了時を含め、6 箇月の試験につき 3

回以上(0, 3, 6 箇月)行うことが望ましいとされている。しかし、品質の変化が予め予想され

6

るような場合は、 初と 後を含めて 4 回以上の測定を行うか、或いは 終時点の検体数を

増やして実施することになっている。

更に加速試験において品質の明確な変化が示された時に実施する中間的試験(用語集参

照)は、試験開始時と終了時を含め、12 箇月の試験につき 4 回以上(0, 6, 9, 12 箇月)行うこ

とが望ましいとされている。

1.2.5. 保存条件

一般的に安定性試験における保存条件は、熱安定性と必要ならば湿度に対する安定性が試

験できる適切な条件下に保存し評価しなければならず、その他に製剤では溶媒の損失の可能

性も試験する必要がある。つまり、保存条件及び試験期間の設定は、貯蔵、流通及びそれに

続く使用を十分に考慮しなければならない。

長期保存試験は、試験の途中であっても 12 箇月以上の試験成績をもって承認申請は可能で

あるが、申請されるリテスト期間又は有効期間を保証する十分な期間継続しなければならな

い。

また、加速試験又は必要に応じて実施された中間的試験は、輸送中に起こりうる貯蔵方法

からの短期的な逸脱の影響を評価するために実施される試験であるという位置付けに留意し

なければならない。

1.2.5.1. 一般的な原薬/製剤

一般的な原薬及び製剤に求められている保存条件を表 1.3 に示す。

表 1.3 一般的な原薬/製剤の保存条件

試験の種類 保存条件 3) 申請時点での 小試験期間

長期保存試験 1) 25℃±2℃/60%RH±5%RH

又は 30℃±2℃/65%RH±5%RH

12 箇月

中間的試験 2) 30℃±2℃/65%RH±5%RH 6 箇月 加速試験 40℃±2℃/75%RH±5%RH 6 箇月

1) 長期保存試験として 25℃±2℃/60%RH±5%RH 又は 30℃±2℃/65%RH±5%RH どちらの条件で

行うかは、申請者が決定する。

2) 30℃±2℃/65%RH±5%RH が長期保存条件の場合は、中間的条件はない。

3) ただし、RH は相対湿度 (Relative Humidity)を表す。

6 箇月の加速試験のいずれかの時点において「明確な品質の変化」が認められた場合は、

中間的な条件での追加の試験を実施しなければならない。なお、ここでいう「明確な品質の

変化」は表 1.4 のように定義されている。ただし、Q1E では、加速条件において認められる

以下のような物理的な変化の場合、その他の項目に「明確な品質の変化」がない限り、中間

7

的試験が要求される「明確な品質の変化」とはみなされない。

融点が明確に示されている場合に、37℃で溶けるよう設計された坐剤の軟化

「明確な品質の変化」の原因が架橋によることが明らかである場合に、ゼラチンカプセ

ル又はゲルコーティング錠の 12 個に対して溶出が判定基準を満たさないこと。

しかし、加速条件での半固形製剤が相分離を起こす場合は、中間的試験を実施しなけ

ればならない。

表 1.4 原薬及び製剤における「明確な品質の変化」の定義

原薬 規格からの逸脱が認められた場合 製剤 1. 試験開始時から含量が 5%以上変化した場合、生物学的又は免疫学的方

法を用いる時は、力価が判定基準から逸脱した場合 2. 特定の分解生成物が判定基準を超えた場合 3. 外観、物理的項目及び機能性試験が判定基準から逸脱した場合(例え

ば、色、相分離、再懸濁性、ケーキング、硬度、1 回当りの投与量)、

しかし、加速試験条件下では、物理的特性の変化(例えば、坐剤の軟

化、クリームの融解)が予想されることもある。 さらに、剤形により必要に応じて 4. pH が判定基準を逸脱した場合 5. 溶出試験(12 投与単位)で判定基準を逸脱した場合

1.2.5.2. 不透過性の容器に包装された製剤

水分及び溶媒が透過しない不透過性の容器に入れられた液剤は、湿度に対する安定性や溶

媒の損失の可能性についての検討は必要なく、その安定性試験では相対湿度を調整する必要

はない。

1.2.5.3. 半透過性の容器に包装された製剤

半透過性の容器に入れられた水を基剤とする製剤については、物理的、化学的、生物学的

及び微生物学的安定性に加えて予想される水分の損失についても評価しなければならず、表

1.5 に示すように、その安定性試験における湿度条件が定められている。

長期保存試験では 25℃±2℃/40%RH±5%RH で 12 箇月、加速試験では 40℃±2℃/25%RH

以下で 3 箇月間試験を行って、その間に水分の損失が 5%を超えないことを示す必要がある。

水分の損失以外の試験項目については加速試験を 6 箇月間行い、「明確な品質の変化」を認

める場合は、中間的試験を行わなければならない。しかしながら、加速試験において、水分

の損失のみに「明確な品質の変化」を認める場合は、その中間的な試験は必要ないとされて

いる。この場合は、製剤を 25℃±2℃/40%RH±5%RH の条件下に保存し、申請される有効期

間を通じて水分の損失に係わる「明確な品質の変化」を認めないことを示さなければならな

8

い。また、本ガイドラインでは、実際に低い相対湿度条件に製剤を保存して試験する方法の

代わりに、通常の湿度条件で得られたデータから低い湿度条件に相当する水分損失を計算す

ることも可能であるが、その詳細はガイドラインを参照願いたい。

表 1.5 半透過性の容器に包装された製剤の保存条件

試験の種類 保存条件 申請時点での 小試験期間

長期保存試験 1) 25℃±2℃/40%RH±5%RH

又は 30℃±2℃/35%RH±5%RH

12 箇月

中間的試験 2) 30℃±2℃/65%RH±5%RH 6 箇月 加速試験 40℃±2℃/25%RH 以下 6 箇月

1) 長期保存試験として 25℃±2℃/40%RH±5%RH 又は 30℃±2℃/35%RH±5%RH どちらの条件で

行うかは、申請者が決定する。

2) 30℃±2℃/35%RH±5%RH が長期保存条件の場合は、中間的条件はない。

1.2.5.4. 冷蔵庫での保存の場合

冷蔵庫に保存される医薬品の安定性試験条件を表 1.6 に示す。

表 1.6 冷蔵庫保存における条件

試験の種類 保存条件 申請時点での 小試験期間

長期保存試験 5℃±3℃ 12 箇月 加速試験 25℃±2℃/60%RH±5%RH 6 箇月

冷蔵庫保存の場合、加速試験において、測定開始後 3 箇月から 6 箇月の間に「明確な品質

の変化」が認められた時は、リテスト期間又は有効期間は長期保存試験から得られる試験成

績(リアルタイムのデータ)に基づいて設定しなければならない。また、加速試験の測定開

始後 3 箇月以内に「明確な品質の変化」が認められた時は、輸送中や取扱い中等における貯

蔵方法からの短期的な逸脱の影響の試験成績を用意するために、適切ならば 1 ロットの原薬

/製剤につき 3 箇月より短期間で通常より多い測定時点での追加試験を実施し説明すること

ができるとされている。また、半透過性の容器に包装された製剤の場合は、前述のように水

分損失の程度を評価できる適切な情報提供も求められている。 1.2.5.5. 冷凍庫での保存の場合

表 1.7 に冷凍庫保存の場合の条件を示す。

表 1.7 冷凍庫保存における条件

試験の種類 保存条件 申請時点での 小試験期間

長期保存試験 -20℃±5℃ 12 箇月

9

冷凍庫保存の場合のリテスト期間又は有効期間は、長期保存試験で得られる試験成績(リ

アルタイムのデータ)に基づいて設定し申請する。冷凍庫保存の場合は、例えば-20℃と 0℃

を超えた場合ではその物理的な状態が変化するため、加速試験の条件は明記されていない。

しかしながら、冷凍庫の故障や誤って室温に放置されるなど、貯蔵方法からの短期的な逸脱

の影響を説明するために、1 ロットにつき、5℃±3℃又は 25℃±2℃の温度条件での試験の実

施が要求されている。

1.2.5.6. -20℃以下での保存の場合

-20℃以下で保存される原薬/製剤は、その物性や安定性などを考慮して個別に妥当な保

存条件下での試験が求められている。

1.2.6. 苛酷試験

原薬の苛酷試験(用語集参照)は、1 ロットを用いて、加速試験より 10℃ずつ高く設定し

た温度(例えば、50℃、60℃)、適切な湿度(例えば、75%RH 以上)、酸化及び光分解によ

る影響を検討し、分解経路や医薬品本来の安定性を明らかにし、更に安定性試験に用いる分

析方法の適合性の確認に役立つ。また、Q1B に述べられている光安定性試験は、苛酷試験の

不可欠な構成要素である。一方、本ガイドライン(Q1A(R2))では、製剤の苛酷試験(用語集

参照)は光安定性試験しか記載されていない。しかしながら、物理的に特殊な特性を有する

剤形(吸入剤、軟膏、エマルジョンなど)(用語集参照)によっては特別な条件での苛酷試

験が必要となる。

1.2.7. コミットメントロットによる安定性試験

原薬又は製剤の承認時点において、長期保存試験成績がリテスト期間又は有効期間をカバ

ーする期間まで得られていない場合は、承認後、長期保存試験を継続して、申請されたリテ

スト期間又は有効期間を確認しなければならない。実生産スケールで製造された 3 ロットを

用いてリテスト期間又は有効期間を通して実施された場合は、コミットメントロット(用語

集参照)による安定性試験は必要ないが、その他の場合は、表 1.8 に示す試験を実施しなけれ

ばならない。また、コミットメントとして実施する長期保存試験は、科学的に妥当性がない

限り、基準ロットと同一の安定性試験プロトコールにより実施しなければならない。

1.2.8. 安定性試験結果の評価

安定性試験結果の評価は、本ガイドラインには、簡略に記載されており、また、全数試験

や減数試験に複数の要因が含まれる場合の記載はない。そこで、この親ガイドラインの評価

10

の項の拡大版として「安定性データの評価に関するガイドライン (Q1E)」が ICH で議論され、

通知された。その Q1E の詳細については、以降の章で詳細に解説する。

表 1.8 コミットメントロットによる安定性試験

添 付 資 料 コミットメント

1. 実生産スケールで製造された 3 ロット以

上のロットの安定性試験の成績に基づき

申請される場合

リテスト期間又は有効期間中試験を

継続し、安定性を確認(コミットメ

ント)する必要がある 2. 実生産スケールで製造された 3 ロット未

満のロットを用いた安定性試験の成績に

基づき申請される場合

当該試験をリテスト期間又は有効期

間中継続する(コミットメント)必

要がある。 実生産スケールで製造されたロット

数の合計が 3 以上になるよう、実生

産スケールで製造されたロットを追

加し、リテスト期間又は有効期間を

通じて長期保存試験を実施し、安定

性を確認する(コミットメント)必

要がある。但し製剤については加速

試験を実施しなければならない。 3. 実生産スケールで製造されたロットを用

いた安定性試験の成績が提出されない場

実生産スケールで製造される 初の

3 ロットについて、リテスト期間又

は有効期間を通じて長期保存試験を

実施し、安定性を確認する(コミッ

トメント)必要がある。但し製剤に

ついては加速試験を実施しなければ

ならない。

11

2. 安定性試験のデザイン

2.1. はじめに

安定性試験のデザインは、全数試験と減数試験のデザインに分けられる。全数試験は、安

定性に係わる全因子(用語集参照)(含量、包装形態、ロット、測定時点など)について、

全ての因子の全ての水準組み合わせを実施する方法である。減数試験は、因子の水準の一部

や測定時点を省略する方法であり、省略の仕方によってブラケッティング法とマトリキシン

グ法に分けられる。これらの試験デザインの例を以下に示すと共に、各デザインの特徴など

について解説する。

2.2. 全数試験

全数試験は、安定性に係わる全因子(含量、包装形態、ロット、測定時点など)の水準で

全ての組み合わせを実施する方法である。複数の含量違い製剤、複数の包装形態が存在する

場合には、多量の試験サンプルと膨大な労力を要することになる。しかし有効期間の推定精

度は高く、一般に、全数試験から推定される有効期間は減数試験から推定される期間よりも

長い。よって全数試験は、減数試験が適用できない場合だけでなく、安定性に懸念がある場

合や、分析誤差が大きく測定時点間での変動が大きい場合などにも適している。

全数試験による安定性試験の試験デザインの例を表 2.1a 及び 2.1b に示す。ここでは 3 種類

の含量(50 mg、75 mg 及び 100 mg)、各含量につき 3 ロット、PTP 包装及びボトル包装(15

mL、100 mL 及び 500 mL)を想定している。

表 2.1a 全数試験による試験デザインの例(PTP 包装の場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 24 36

PTP

50 mg Lot 1 T T T T T T T TLot 2 T T T T T T T TLot 3 T T T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T T T TLot 5 T T T T T T T TLot 6 T T T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T T T TLot 8 T T T T T T T TLot 9 T T T T T T T T

2.3. 減数試験

減数試験は、安定性に係わる因子の水準や測定時点の一部を省略する方法であり、省略の

仕方によってブラケッティング法とマトリキシング法に分けられる。減数試験の適用は Q1D

ガイドラインに準拠する必要がある。これらの方法の特徴や当該ガイドラインに示された試

験デザインの例、長期保存試験に適用した試験デザインの例を以下に示す。

12

表 2.1b 全数試験による試験デザインの例 (ボトル包装で 3 つの容器サイズがある場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 24 36

ボトル

15 mL

50 mg Lot 1 T T T T T T T TLot 2 T T T T T T T TLot 3 T T T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T T T TLot 5 T T T T T T T TLot 6 T T T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T T T TLot 8 T T T T T T T TLot 9 T T T T T T T T

100 mL

50 mg Lot 1 T T T T T T T TLot 2 T T T T T T T TLot 3 T T T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T T T TLot 5 T T T T T T T TLot 6 T T T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T T T TLot 8 T T T T T T T TLot 9 T T T T T T T T

500 mL

50 mg Lot 1 T T T T T T T TLot 2 T T T T T T T TLot 3 T T T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T T T TLot 5 T T T T T T T TLot 6 T T T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T T T TLot 8 T T T T T T T TLot 9 T T T T T T T T

T:試験サンプル 2.3.1. ブラケッティング法

ブラケッティング法は、全数試験と同様、全測定時点において試験を実施するが、含量や

容器サイズ、容れ目等の試験因子について、中間的な水準にある検体の試験を省略し、両端

の検体(両端の水準)についてのみ測定する安定性試験のデザインである。

Q1D ガイドラインに示されている、ブラケッティング法の代表的な試験デザインの例を表

2.2 に示す。ここでは 3 種類の含量(50 mg、75 mg 及び 100 mg)、各含量につき 3 ロット、3

つの容器サイズ(15 mL、100 mL 及び 500 mL)を想定している。

3 つ以上の含量違い製剤あるいは 3 種類以上の包装形態があるからといって、いつでもブラ

ケッティング法を適用できるわけではない。ブラケッティング法では、中間的な水準にある

検体の安定性は、試験された両端の水準の安定性により代表されるという前提がある。Q1D

ガイドラインによれば、次のように、製剤の処方が同一か、もしくは極めて類似している含

量違い製剤の場合、中間的な水準にある含量に対し、ブラケッティング法を適用できること

が示されている。

13

(1) 異なるサイズのカプセルに同一の混合末を充填して製造した含量違いのカプセル剤

(2) 同一の顆粒で量を変えて製造した含量違いの錠剤

(3) 着色剤や香料といったようなマイナーな添加剤の処方のみが異なる含量違いの経口液

表 2.2 ブラケッティング法の試験デザイン例(Q1D ガイドライン表 1 より) 含量 50 mg 75 mg 100 mg ロット Lot 1 Lot 2 Lot 3 Lot 41) Lot 51) Lot 61) Lot 71) Lot 81) Lot 91)

容器 サイズ

15 mL T T T - - - T T T 100 mL - - - - - - - - - 500 mL T T T - - - T T T

T:試験サンプル

1) Q1D ガイドラインでは、75 mg, 100 mg のロットについても、50 mg と同様のロットの表記と

なっているが、ロットが異なることを明確にするため、ここでは Lot 4~6、Lot 7~9 とした。

製剤処方中の原薬と添加剤の比率が異なる複数の含量違いの製剤については、その妥当性、

すなわち中間の含量が、両端の含量に代表されることを示す必要がある。妥当性を証明する

一例として、「臨床又は開発ロットの安定性プロファイルが含量間で同等であることを示

す」ことが Q1D ガイドラインに例示されている。なお異なる添加剤を使用した含量違いの製

剤については、ブラケッティング法を適用すべきではないことが示されている。表 2.1a に示

す全数試験にブラケッティング法が適用できる場合には、表 2.3a に示す試験デザインとする

ことができる。

ボトル包装などで、容器サイズ又は容れ目のどちらかだけが異なる場合、中間の容器サイ

ズ又は容れ目についてはブラケッティング法の適用が可能である。しかし、容器サイズが異

なる場合には容れ目が変わることも多く、これらの因子の中間水準を省略する場合、Q1D ガ

イドラインによれば、安定性に影響すると考えられる容器及び施栓系の様々な特性(容器の

壁の厚さ、施栓の構造、容量対表面積率、容量対空隙率、単位投与量又は単位容れ目量あた

りの透湿速度、又は酸素透過速度等)を必要に応じて考慮しなければならない。表 2.1b に示

す全数試験にブラケッティング法が適用できる場合には、表 2.3b に示す試験デザインとする

ことができる。

また、Q1D ガイドラインによれば、両端の安定性が異なった場合、中間のものの有効期間

は、 も安定性の悪いものの有効期間を超えて設定できないことから、短い方の有効期間を

採用する必要がある。

14

表 2.3a ブラケッティング法の試験デザイン例(PTP 包装の場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 24 36

PTP

50 mg Lot 1 T T T T T T T TLot 2 T T T T T T T TLot 3 T T T T T T T T

75 mg Lot 4 Lot 5 Lot 6

100 mg Lot 7 T T T T T T T TLot 8 T T T T T T T TLot 9 T T T T T T T T

表 2.3b ブラケッティング法の試験デザイン例 (ボトル包装で 3 つの容器サイズがある場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 24 36

ボトル

15 mL

50 mg Lot 1 T T T T T T T TLot 2 T T T T T T T TLot 3 T T T T T T T T

75 mg Lot 4 Lot 5 Lot 6

100 mg Lot 7 T T T T T T T TLot 8 T T T T T T T TLot 9 T T T T T T T T

100 mL

50 mg Lot 1 Lot 2 Lot 3

75 mg Lot 4 Lot 5 Lot 6

100 mg Lot 7 Lot 8 Lot 9

500 mL

50 mg Lot 1 T T T T T T T TLot 2 T T T T T T T TLot 3 T T T T T T T T

75 mg Lot 4 Lot 5 Lot 6

100 mg Lot 7 T T T T T T T TLot 8 T T T T T T T TLot 9 T T T T T T T T

T:試験サンプル

2.3.2. マトリキシング法

マトリキシング法は、ある特定の測定時点で、全因子の水準組み合わせのうちの一部分を

省略し、選択された部分集合を測定する省力化が図られた安定性試験のデザインである。あ

る測定時点における全検体の安定性は、各部分集合の安定性により代表されるという仮定に

15

基づいている。Q1D ガイドラインに示されている代表的な試験デザイン例を表 2.4 及び表 2.5

に示す。

表 2.4 含量の異なる 2 種の製剤に適用する試験デザインの例(Q1D ガイドライン表 2 より)

表 2.4a 「測定時点を 1/2 省略したマトリキシング法」

測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 24 36 含量 S1 Lot 1 T T T T T T

Lot 2 T T T T T T Lot 3 T T T T T

S2 Lot 41) T T T T T Lot 51) T T T T T T Lot 61) T T T T T

T:試験サンプル

1) Q1D ガイドラインでは S2 のロットについても、S1と同様のロットの表記となってい

るが、ロットが異なることを明確にするため、ここでは Lot 4~6 とした。

表 2.4b 「測定時点を 1/3 省略したマトリキシング法」

測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 24 36 含量 S1 Lot 1 T T T T T T

Lot 2 T T T T T T Lot 3 T T T T T T T

S2 Lot 41) T T T T T T T Lot 51) T T T T T T Lot 61) T T T T T T

T:試験サンプル

1) Q1D ガイドラインでは S2 のロットについても、S1と同様のロットの表記となってい

るが、ロットが異なることを明確にするため、ここでは Lot 4~6 とした。

表 2.5 3 種の含量違い及び 3 種の容器サイズ違いの製剤に適用する試験デザインの例 表 2.5a 測定時点を省略したマトリキシング法(Q1D ガイドライン表 3a を一部修正)

含 量 S1 S2 S3 ロット 1 2 3 41) 51) 61) 71) 81) 91) 容器 A T1 T2 T3 T2 T3 T1 T3 T1 T2 容器 B T2 T3 T1 T3 T1 T2 T1 T2 T3 容器 C T3 T1 T2 T1 T2 T3 T2 T3 T1

S1-S3:含量違い、A-C:容器サイズ違い、T1-T3:測定時点のパターン

16

表 2.5b 測定時点と因子の双方を省略したマトリキシング法(Q1D ガイドライン表 3b を

一部修正)

含 量 S1 S2 S3 ロット 1 2 3 41) 51) 61) 71) 81) 91) 容器 A T1 T3 T2 T3 T1 T2 容器 B T2 T3 T1 T2 T1 T3 容器 C T1 T2 T1 T3 T2 T3

S1-S3:含量違い、A-C:容器サイズ違い、T1-T3:測定時点のパターン

表 2.5c 測定時点のパターン

測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 24 36 T1 T T T T T T T T2 T T T T T T T3 T T T T T T

T:試験サンプル

1)Q1Dガイドラインではsに,s3 のロットに着いても,s1 と同様のロットの表記

となっているが,ロットが異なることを明確にするため、ここでは Lot 4~6、7~9

とした。

Q1D ガイドラインによれば、参考資料によって製剤の安定性が予測でき、また変動性が小

さいときにのみマトリキシング法が適用できることが示されている。さらに、ブラケッティ

ング法と同様、含量違いの製剤間にマトリキシング法を適用する場合には、製剤の処方が同

一か、もしくは極めて類似している必要がある。製剤処方中の原薬と添加剤の比率が異なる

含量違い製剤にマトリキシング法を適用する場合、参考資料の結果などから、その妥当性を

示す必要がある。

含量の異なる 3 種の製剤について、測定時点を省略したマトリキシング法の代表的な割付

例を表 2.6 及び表 2.7 に示す。各因子水準の組み合わせの測定回数ができるだけ偏らないよう

なデザインとし、またある時点では全検体について試験をする。有効期間を設定する時点で

全数試験を実施しないと、推定精度の低下から有効期間は短くなる場合がある。表 2.6 では測

定時点を 1/3 省略、表 2.7 では 2/3 省略している。

測定時点と因子の両方を省略した試験デザインを表 2.8 に示す。Q1D ガイドラインに示さ

れている表 2.5 のデザインを適用した例である。

省略される時点が増えると、推定精度の低下から、一般に有効期間は短くなる。また減数

による検出力の低下により、誤って一括評価し、不当に長い有効期間を推定することも懸念

される。

17

表 2.6 1/3 省略マトリックスデザインの試験デザインの例

表 2.6a 1/3 省略マトリックスデザイン(PTP 包装の場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 241) 36

PTP

50 mg Lot 1 T T T T T TLot 2 T T T T T T TLot 3 T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T TLot 5 T T T T T T TLot 6 T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T TLot 8 T T T T T T TLot 9 T T T T T T

表 2.6b 1/3 省略マトリックスデザイン(ボトル包装で 3 つの容器サイズがある場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 241) 36

ボトル

15 mL

50 mg Lot 1 T T T T T TLot 2 T T T T T T TLot 3 T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T TLot 5 T T T T T T TLot 6 T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T TLot 8 T T T T T T TLot 9 T T T T T T

100 mL

50 mg Lot 1 T T T T T TLot 2 T T T T T T TLot 3 T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T TLot 5 T T T T T T TLot 6 T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T TLot 8 T T T T T T TLot 9 T T T T T T

500 mL

50 mg Lot 1 T T T T T TLot 2 T T T T T T TLot 3 T T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T T TLot 5 T T T T T T TLot 6 T T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T T TLot 8 T T T T T T TLot 9 T T T T T T

T:試験サンプル

1) 24 箇月目までの試験結果で有効期間を推定する場合には、全てのサンプルについて

試験を実施する.

18

表 2.7 2/3 省略マトリックスデザインの試験デザインの例

表 2.7a 2/3 省略マトリックスデザイン(PTP 包装の場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 241) 36

PTP

50 mg Lot 1 T T T T TLot 2 T T T T TLot 3 T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T TLot 5 T T T T TLot 6 T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T TLot 8 T T T T TLot 9 T T T T T

表 2.7b 2/3 省略マトリックスデザイン(ボトル包装で 3 つの容器サイズがある場合)

包装形態 含量 ロット 測定時点(月) 0 3 6 9 12 18 241) 36

ボトル

15 mL

50 mg Lot 1 T T T T TLot 2 T T T T TLot 3 T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T TLot 5 T T T T TLot 6 T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T TLot 8 T T T T TLot 9 T T T T T

100 mL

50 mg Lot 1 T T T T TLot 2 T T T T TLot 3 T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T TLot 5 T T T T TLot 6 T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T TLot 8 T T T T TLot 9 T T T T T

500 mL

50 mg Lot 1 T T T T TLot 2 T T T T TLot 3 T T T T T

75 mg Lot 4 T T T T TLot 5 T T T T TLot 6 T T T T T

100 mg Lot 7 T T T T TLot 8 T T T T TLot 9 T T T T T

T:試験サンプル

1) 24 箇月目までの試験結果で有効期間を推定する場合には、全てのサンプルについて

試験を実施する.

19

表 2.8 測定時点と因子の水準の両方を省略したマトリックスデザインの試験デザインの例

表 2.8a 測定時点と因子の水準の両方を省略したマトリックスデザイン (PTP 包装の場合)

包装形態 含量 ロット測定時点(月)

Pattern1) 0 3 6 9 12 18 242) 36

PTP

50 mg Lot 1 T1 T T T T T T TLot 2 T2 T T T T T TLot 3 省略

75 mg Lot 4 省略 Lot 5 T3 T T T T T TLot 6 T1 T T T T T T T

100 mg Lot 7 T3 T T T T T TLot 8 省略 Lot 9 T2 T T T T T T

表 2.8b 測定時点と因子の水準の両方を省略したマトリックスデザイン

(ボトル包装で 3 つの容器サイズがある場合)

包装形態 含量 ロット測定時点(月)

Pattern1) 0 3 6 9 12 18 242) 36

ボトル

15 mL

50 mg Lot 1 T1 T T T T T T TLot 2 省略 Lot 3 T3 T T T T T T

75 mg Lot 4 T2 T T T T T TLot 5 T3 T T T T T TLot 6 省略

100 mg Lot 7 省略 Lot 8 T1 T T T T T T TLot 9 T2 T T T T T T

100 mL

50 mg Lot 1 T2 T T T T T TLot 2 T3 T T T T T TLot 3 T1 T T T T T T T

75 mg Lot 4 省略 Lot 5 T1 T T T T T T TLot 6 T2 T T T T T T

100 mg Lot 7 T1 T T T T T T TLot 8 省略 Lot 9 T3 T T T T T T

500 mL

50 mg Lot 1 省略 Lot 2 T1 T T T T T T TLot 3 T2 T T T T T T

75 mg Lot 4 T1 T T T T T T TLot 5 省略 Lot 6 T3 T T T T T T

100 mg Lot 7 T2 T T T T T TLot 8 T3 T T T T T TLot 9 省略

T:試験サンプル

1) 表 2.5c の T1, T2, T3 に対応する

2) 24 箇月目までの試験結果で有効期間を推定する場合には、全てのサンプルについて

試験を実施する(但し、省略と記されたロット以外)

20

2.4. まとめ

複数の含量違い製剤、複数の包装形態が存在する場合に全数試験を採用すると、多量のサ

ンプルと大変な労力を要する。このような場合、減数試験は魅力的である。しかし、減数試

験は、Q1D ガイドラインに準拠する必要があることから、適用の可否について、十分に検討

する必要がある。

さらに、ガイドラインに適合するからといって、無条件に減数試験を採用するのではなく、

実際に意図する有効期間を推定するのに十分な精度を確保できるのかどうかを判断すること

も重要である。有効期間の推定については、第 3 章~第 6 章で解説する Q1E ガイドラインに

準拠する必要がある。詳細は、次の章で解説するが、一般に、加速試験、長期保存試験共に

安定で、測定時点間での変動も小さい場合には、統計解析が要求されないため、減数試験を

適用してもリスクは少ないと考えられる。しかし、長期保存試験又は加速試験で、いずれか

の試験項目に変化や変動が認められる場合には、統計解析が推奨されている。有効期間の推

定精度は、実測データの個数の減少に伴って低下するため、減数試験では、全数試験で求め

られる有効期間よりも短くなる。特に、一括評価ができない場合で、分析誤差が大きい場合

には、大幅な有効期間の短縮もあり得る。マトリキシングデザインにおける省略の仕方等に

ついては、予備安定性試験の結果や品質試験の分析精度等を考慮し、試験開始前に統計解析

の専門家を含めて検討することが望ましい。

ブラケッティング法及びマトリキシング法を適用する際には Q1D ガイドラインに従い、か

つ Q1E ガイドラインを考慮して、意図する有効期間を推定できるかどうかを、関連する参考

資料(用語集参照)の結果などに基づいて事前に検討する必要がある。

21

3. 安定性データの評価

3.1. はじめに

承認申請において提示する原薬のリテスト期間、製剤の有効期間及び医薬品の貯蔵条件は、

承認前に実施した安定性試験結果に基づいて設定されるが、これらは承認後から将来にわた

って同様な方法で製造、包装されるすべてのロットに適用可能でなければならない。そのた

めには、Q1A(R2)に従って得られた安定性データが、提示しようとするリテスト期間又は有効

期間において規格を満足するかを単に確認するのみならず、統計解析や参考資料等による裏

づけを行うなど、適切な評価を行うことが重要である。安定性データの評価についての指針

は、Q1E に詳細に示されており、本章ではその内容について解説する。なお、安定性データ

の評価における統計解析の手法に関しては、次章以降に詳細に解説した。

3.2. 「安定性データの評価に関するガイドライン (Q1E)」の概略

安定性データの評価に関する指針は、Q1A(R2)の評価の項に示されているが、概要が記載

されているに過ぎない。例えば、複数のロットを一括して評価し、一つのリテスト期間又は

有効期間を求めること、及び長期保存試験の成績を外挿することにより長期保存試験でカバ

ーされる範囲を超えてリテスト期間又は有効期間を提示することが可能である旨の記述があ

るが、その詳細については記載されていない。そこで、安定性データの評価に関するより詳

細な指針を与えるべく作成されたのが Q1E であり、Q1A(R2)の評価の項の拡大版として位置

付けられている。

本ガイドラインは本文及び付録で構成されており、本文には主として、外挿の原理及び正

式な安定性試験から得たデータに応じてどのような評価を行う必要があるか、またどの程度

外挿が許容されるかについて指針が示されている。付録 A には、正式な安定性試験から得た

データに応じてどのような評価を行う必要があるか、またどの程度外挿が許容されるかがフ

ローチャート形式で図示されている。また付録 B には、直線回帰、ロットの一括評価に関す

る検定及び 減数モデル(用語集参照)の構築等の安定性データ解析に関する統計的方法の

例が記載されている。Q1E の構成を表 3.1 に示す。

3.3. 安定性データ及び評価結果の申請資料への記載

申請の際は、全試験項目のデータを、表、図などの形式を用いてまとめ、試験項目毎に評

価を行う。定量的な試験項目のデータは、全測定時点につき測定値(数値)を記載する。統

計解析を実施する場合、その解析手法及びモデルの基礎をなす仮定を記載し、その妥当性を

示した上で、統計解析結果の要約を示すとともに長期保存試験データに対する解析結果を図

示する。

22

表 3.1 安定性データの評価に関するガイドライン (Q1E)の構成

1. 序論 1.1 ガイドラインの目的 1.2 背景 1.3 ガイドラインの適用範囲

2. ガイドライン 2.1. 一般原理 2.2. データの記載 2.3. 外挿 2.4. 「室温」保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間推定のためのデータ評価

2.4.1 加速条件で「明確な品質の変化」を認めない場合 2.4.1.1 長期データ及び加速データが経時的な変化及び変動をほとんど示さない場合 2.4.1.2 長期データ及び加速データが経時的な変化ないし変動を示す場合

2.4.2 加速条件で「明確な品質の変化」が認められる場合 2.4.2.1 中間的条件で「明確な品質の変化」が認められない場合 2.4.2.2 中間的条件で「明確な品質の変化」が認められた場合

2.5. 「室温」以下で保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間推定のためのデータ

評価 2.5.1 冷蔵庫保存の原薬又は製剤

2.5.1.1 加速条件で「明確な品質の変化」が認められない場合 2.5.1.2 加速条件で「明確な品質の変化」が認められる場合

2.5.2 冷凍保存の原薬又は製剤 2.5.3 -20℃以下で保存される原薬又は製剤

2.6. 一般的な統計的方法 3. 付録 付録 A:原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間の推定のためのデータ評価のフローチ

ャート(冷凍庫で保存される製剤を除く) 付録 B:安定性データ解析の統計的方法の例

3.4. 外挿

安定性試験における外挿とは、既知のデータセットを用いて、将来のデータを推論するこ

とである。すなわち、実際に観測された期間中に起こった品質の変化のパターンを解析・評

価し、将来も同様なパターンが継続するという仮定のもとに、長期データがカバーする期間

を超えて、リテスト期間又は有効期間を提示することである。

外挿が適切かどうかは、参考資料、関連する参考資料(共に用語集参照)及び仮定した数

学モデルの妥当性の評価結果等によって判断する。

外挿に基づいて提示されたリテスト期間又は有効期間は、長期保存試験の追加データが得

られ次第、それらのデータによって検証することが求められる。

含量について、12 箇月までの実測データに基づき有効期間を外挿により推定したときの一

例を図 3.1 に示す。ここでは含量が経時的に低下する製剤を仮定し、規格下限値は 95.0%とし

た。下側 95%信頼限界(用語集参照)が規格下限値と交差する時点が外挿による有効期間の

23

推定値となり、約 36 箇月と導かれる。ただし、提示可能な外挿期間には上限があり、提示可

能な有効期限は 長で 24 箇月までとなる。詳細については次節以降に解説する。

図 3.1 外挿による有効期間の推定

3.5. 安定性データの評価の流れ

まず、正式な安定性試験データ、必要であれば参考資料を評価し、原薬又は製剤の品質及

び性能に影響があると考えられる試験項目を決め、各項目について別々に評価を行う。これ

らの結果に基づいてリテスト期間又は有効期間を設定する。

安定性データの評価の基本的な考え方は単一要因、複数要因を問わず、また全数試験、減

数試験を問わず同一である。

以下に、どのような状況のときどの程度まで長期保存試験データがカバーする期間を超え

てリテスト期間又は有効期間を提示し得るのかについて、原薬又は製剤の保存条件毎に解説

する。

3.5.1. 「室温」保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための評価

室温保存の原薬又は製剤についての評価は、加速条件、必要なら中間的条件で「明確な品

質の変化」が認められるか否かの評価からはじまり、長期データが変化の傾向や変動を示す

かどうかの評価へと進める。このときの評価の流れをフローチャートで示したものを図 3.2 に

示す。なお本チャートは Q1E の付録 A に基づいている。

24

YES

どちらか一方

でもNO

加速条件で6ヶ月

以内に「明確な品質の変化」が認められるか

NO

YES 中間的な条件で「明確な品質の変化」が

認められるか

全く又は殆ど示さない

長期保存試験データは統計解析を適用可能であり統計解析を

実施するか

共にYES

YES

長期保存試験データは統計解析を適用可能であり統計解析を

実施するか

NO

共にYES

YES

全く又は殆ど示さない

どちらか一方

でもNO

F:外挿不可

 場合によってはリテスト期間・有効期限の短縮を求められる可能性あり。

E:最長3ヶ月の外挿可

 関連する参考資料により支持される場合、Y=X+3ヶ月以下。

D:最長6ヶ月の外挿可

 長期データの統計解析結果に加えて関連する参考資料により支持される場合、Y=1.5X以下。ただしX+6ヶ月を超えない。

A:最長12ヶ月の外挿可 Y=2X以下、ただしX+12ヶ月を超

えない。

B: 長12ヶ月の外挿可

 長期データの統計解析結果及び関連する参考資料により支持される場合、Y=2X以下。ただしX+12ヶ月を

超えない。

C:最長6ヶ月の外挿可

 関連する参考資料により支持される場合、Y=1.5X以下。ただしX+6ヶ月を超えない。

Y=提示するリテスト期間又は有効期間

X=長期データーがカバーする期間

長期保存試験データは経時的な変化及び変動

を示すか

加速試験データは経時的な変化及び変動

を示すか

YES

どちらか一方

でもNO

加速条件で6ヶ月

以内に「明確な品質の変化」が認められるか

NO

YES 中間的な条件で「明確な品質の変化」が

認められるか

全く又は殆ど示さない

長期保存試験データは統計解析を適用可能であり統計解析を

実施するか

共にYES

YES

長期保存試験データは統計解析を適用可能であり統計解析を

実施するか

NO

共にYES

YES

全く又は殆ど示さない

どちらか一方

でもNO

F:外挿不可

 場合によってはリテスト期間・有効期限の短縮を求められる可能性あり。

E:最長3ヶ月の外挿可

 関連する参考資料により支持される場合、Y=X+3ヶ月以下。

D:最長6ヶ月の外挿可

 長期データの統計解析結果に加えて関連する参考資料により支持される場合、Y=1.5X以下。ただしX+6ヶ月を超えない。

A:最長12ヶ月の外挿可 Y=2X以下、ただしX+12ヶ月を超

えない。

B: 長12ヶ月の外挿可

 長期データの統計解析結果及び関連する参考資料により支持される場合、Y=2X以下。ただしX+12ヶ月を

超えない。

C:最長6ヶ月の外挿可

 関連する参考資料により支持される場合、Y=1.5X以下。ただしX+6ヶ月を超えない。

Y=提示するリテスト期間又は有効期間

X=長期データーがカバーする期間

長期保存試験データは経時的な変化及び変動

を示すか

加速試験データは経時的な変化及び変動

を示すか

図 3.2 安定性試験データ評価のフローチャート(「室温」保存)

3.5.1.1. 加速条件で「明確な品質の変化」を認めない場合

3.5.1.1.1. 長期保存試験及び加速試験データが経時的な変化及び変動をほとんど示さない場合

通常、統計解析を行う必要はないが、統計解析を省略することの妥当性が必要である。妥

当性については、安定であるとみなせる理由を、加速試験データ、物質収支についての議論、

参考資料等に基づいて説明すればよい。

「経時的な変化及び変動を示さない」及び「ほとんど示さない」の判断基準は Q1E には示

されていない。経時的変化の有無及び程度を判断する方法の一つとしてデータが時間軸にほ

ぼ平行な帯状になっていることを散布図を描いて確認することが挙げられる。またほとんど

変動がないことは、例えば分析法バリデーションの結果を参考にして判断できると思われる。

提示するリテスト期間又は有効期間については、長期保存試験データがカバーする期間の

2 倍以内まで提示可能であるが、長期保存試験データがカバーする期間から 12 箇月を超えて

25

はならない(図 3.2 フローチャートの「A」)。例えば、長期データがカバーする期間が 12 箇

月の場合、24 箇月までのリテスト期間又は有効期間を提示することができる。

3.5.1.1.2. 長期保存試験又は加速試験データが経時的な変化及び変動を示す場合

変化変動を認める項目が統計解析を適用できるか否かによって、提示できるリテスト期間

又は有効期間が異なる。統計解析が適用できる項目として Q1E では、長期保存試験において

ゼロ次速度論に従うと仮定できる定量的な化学的項目であるとの理由から、含量、分解生成

物、保存剤含量が例示されている。また、速度論が明らかになっていない他の定量的な項目

(pH、溶出試験等)であっても適当であれば統計解析を適用できるとされている。一方、統

計解析が適用できない項目としては、定性的項目及び微生物学的項目が挙げられている。

統計解析を適用できない試験項目の場合、外挿には関連する参考資料が必要である。関連

する参考資料がある場合には、長期データがカバーする期間の 1.5 倍までのリテスト期間又は

有効期間を提示できるが、長期データがカバーする期間から 6 箇月を超えてはならない(図

3.2 フローチャートの「C」)。関連する参考資料がない場合には、長期データがカバーする

期間に基づいて設定する。

統計解析を適用できる試験項目の場合、同様に外挿には関連する参考資料が必要である。

提示できるリテスト期間又は有効期間の設定は、統計解析を実施するか否かにより異なる。

統計解析を実施しないならば、統計解析を適用できない試験項目の場合と同様である。統計

解析を実施した場合、長期データがカバーする期間の 2 倍までのリテスト期間又は有効期間

を提示できるが、長期データがカバーする期間から 12 箇月を超えてはならない(図 3.2 フロ

ーチャートの「B」)。関連する参考資料がない場合には、長期データがカバーする期間に基

づいて設定する。統計解析の指針は Q1E の付録 B に示されており、その詳細は第 4 章で解説

する。ロット間、包装間、あるいは含量間で差が認められる場合、そのような差が製品に及

ぼす全体的な意味合いについて考察が求められる。

3.5.1.2. 加速条件で「明確な品質の変化」を認めた場合

加速条件で明確な品質の変化を認めた場合、中間的な条件で安定性試験を実施することに

なるが、この中間的な条件で明確な品質の変化を認めなければ、実測期間を超えたリテスト

期間又は有効期間を提示することが可能である。この場合の評価の手順は、加速条件で明確

な品質の変化を認めない場合(3.5.1.1.2)と同様であるが、長期データがカバーする期間を超

えて外挿可能な期間は 1/2 となる(図 3.2 フローチャートの「D」及び「E」)。

中間的な条件で明確な品質の変化を認めた場合、長期データがカバーする期間を超えてリ

テスト期間又は有効期間を提示することはできない。また場合によっては、長期データがカ

26

バーする期間よりも短いリテスト期間又は有効期間が要求される(図 3.2 フローチャートの

「F」)。

3.5.2. 冷蔵庫保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための評価

加速条件で「明確な品質の変化」を認めない場合の評価の手順は、室温保存の場合

(3.5.1.1)と同様であるが、長期データがカバーする期間を超えて外挿可能な期間はいずれの

場合も 1/2 となる(図 3.3 フローチャートの「G」)。

加速条件で「明確な品質の変化」を認めた場合、外挿はできない。場合によっては、長期

データがカバーする期間よりも短いリテスト期間又は有効期間が要求される。長期データが

変動を示す場合は、統計解析が推奨されている(図 3.3 フローチャートの「H」)。また、

「明確な品質の変化」を認めたのが 3 箇月以内であるのであれば、これらに加えて、ラベル

に表示される貯蔵条件から短期的に逸脱した場合の影響を考察しなければならない(図 3.3 フ

ローチャートの「I」)。

3.5.3. 冷凍庫保存の原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための評価

長期保存試験データの実測期間を超えてリテスト期間又は有効期間を提示することはでき

ない。

加速条件で「明確な品質の変化」が

認められるか

NO

YES 「明確な品質の変化」が認められたのは3ヶ月

以内であるか

YES

NO

G:外挿可

以下、室温保存と同様の評価手順。ただし、外挿可能な期間は以下のとおり(室温保存のときの1/2)。・A又はBに該当するとき: Y=1.5X以下、ただしX+6ヶ月を超えない。・Cに該当するとき:Y=X+3ヶ月以下

I:外挿不可。 「H」の要求事項に加えて、更

にラベルに表示される貯蔵方法から短期的に逸脱した場合の影響についての考察が求められる。

H:外挿不可。

 場合によってはリテスト期間・有効期限の短縮を求められる可能性あり。長期保存試験で変動を示す場合は、リテスト期間・有効期限を統計解析により検証。

Y=提示するリテスト期間又は有効期間X=長期データーがカバーする期間

加速条件で「明確な品質の変化」が

認められるか

NO

YES 「明確な品質の変化」が認められたのは3ヶ月

以内であるか

YES

NO

G:外挿可

以下、室温保存と同様の評価手順。ただし、外挿可能な期間は以下のとおり(室温保存のときの1/2)。・A又はBに該当するとき: Y=1.5X以下、ただしX+6ヶ月を超えない。・Cに該当するとき:Y=X+3ヶ月以下

I:外挿不可。 「H」の要求事項に加えて、更

にラベルに表示される貯蔵方法から短期的に逸脱した場合の影響についての考察が求められる。

H:外挿不可。

 場合によってはリテスト期間・有効期限の短縮を求められる可能性あり。長期保存試験で変動を示す場合は、リテスト期間・有効期限を統計解析により検証。

Y=提示するリテスト期間又は有効期間X=長期データーがカバーする期間

図 3.3 安定性試験データ評価のフローチャート(冷蔵保存)

3.5.4.-20℃以下で保存される原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間設定のための評価

長期保存試験データの実測期間を超えてリテスト期間又は有効期間を提示することはでき

ない。

27

4. 標準的な統計的推定法

4.1. はじめに

Q1E ガイドラインには、リテスト期間又は有効期間の外挿の手順について、詳細な解説が

なされている。よって、どのようなデータが得られたときに、どの程度までの外挿ができる

かについては、明確な方針の立案が可能である。しかし、外挿にあたって、統計解析が必要

となった場合、統計解析の詳しい手順は Q1E ガイドラインには示されていない。特に、因子

が多い安定性試験、すなわち複数の含量違い製剤の複数ロットが、複数の包装形態で供され

る製剤の安定性試験のデータを実際に解析しようとすると分かりにくい点も多い。そこで、

第 4 章及び第 5 章では、Q1E ガイドラインの概念に基づき、解析手順の一例を示す。本章で

は、単一ロットのデータ解析、単一因子(ロット)のデータ解析、複数因子のデータ解析の

手順について解説する。複数の包装形態がある場合は、一般に全ての包装形態で使用するロ

ットは同一であるが、複数の含量違い製剤がある場合は、含量毎にロットが異なり、用いる

共分散分析(用語集参照)モデルが異なるため、本章では別々に解説する。第 5 章では、単

一ロット及び単一因子のデータ解析の具体的な計算手順について解説する。

4.2. 単一ロットのデータ解析

1 ロットについて、表 4.1 に示すような結果が得られたときのデータ解析について解説する。

なお、回帰分析(用語集参照)やリテスト期間又は有効期間の推定での具体的な計算例につ

いては「5.2. 単一ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の推定」を参照されたい。

表 4.1 単一ロットのデータ例

ロット 測定時点(月)

0 3 6 9 12

1 99.76 100.28 99.86 98.56 99.37

一般に分解物や含量等の定量的な化学的項目と時間の関係は直線であると仮定できる。分

解物の場合、分解物の生成量を時間に対してプロットし、回帰分析を行い、回帰直線を得る。

母平均の上側 95%信頼限界が規格値(判定基準)と交差する時点が、リテスト期間又は有効

期間の推定値に相当する。

得られたリテスト期間又は有効期間の推定値が、提示するリテスト期間又は有効期間を支

持する場合、提示するリテスト期間又は有効期間は妥当であると考えられる。一方、支持し

ない場合には、得られたリテスト期間又は有効期間の推定値に基づいて、提示するリテスト

期間又は有効期間を設定する。

試験項目が含量の場合、一般的な原薬や製剤では、経時的に含量が減少すると考えられる

ため、母平均の下側 95%信頼限界を用いる(図 3.1 を参照)。半透過性容器に包装された水性

28

基材の製剤のように、含量が経時的に増加するか減少するか前もって分からないような場合

には、母平均の両側 95%信頼限界を適用する。 4.3. 単一因子のデータ解析

単一含量及び単一包装で供される原薬又は製剤の長期保存試験結果の解析について解説す

る。データ例を表 4.2 に、解析手順のアウトラインをフローチャート 1 に示す。以下、フロー

チャート 1 の手順に従って解説する。なお、 初から 4.3.4 に進み、共分散分析を開始しても

構わない。回帰分析やリテスト期間又は有効期間の推定での具体的な計算例については「5.3.

複数ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の推定」を参照されたい。

表 4.2 単一因子の安定性試験のデータ例

ロット 測定時点(月)

0 3 6 9 12

1 99.76 100.28 99.86 98.56 99.37

2 101.54 100.00 100.39 100.49 98.35

3 101.89 101.61 100.39 100.75 101.25

4.3.1. 回帰分析

以下の手順 1~3 に従って、個々のロットのリテスト期間又は有効期間を算出する。

手順 1 個々のロットについて回帰式を得る。個々の傾き、個々の切片、共通の誤

差分散を用いる。

手順 2 個々のロットについて、母平均の 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限

と交差する期間を算出する。

測定値が減少傾向を示すことが分かっている場合(例えば一般的な原薬や製

剤の含量値)には、判定基準の下限値が、母平均の下方の片側 95%信頼限

界と交差する期間を算出する。

測定値が増加傾向を示すことが分かっている場合(例えば原薬や製剤の

分解物)には、判定基準の上限値が、母平均の上方の片側 95%信頼限界と

交差する期間を算出する。

測定値が増加傾向を示すか、減少傾向を示すか分からない場合(例えば、

半透過性容器に包装された水性基材の製剤の場合)には、母平均の両側

95%信頼限界が判定基準の上限及び下限と交差する期間を算出する。

手順 3 手順 2 での個々のロットのリテスト期間又は有効期間の推定値のうち、

も短いものを選ぶ。

29

4.3.2. リテスト期間又は有効期間の推定値が提示するリテスト期間又は有効期間を支持す

るか否かの判断

リテスト期間又は有効期間の 短の推定値(4.3.1 参照)が、提示するリテスト期間又は有

効期間を支持する場合、提示する有効期間は妥当であり、ここで解析を終わらせることがで

きる。例えば、冷蔵保存でない単一因子の原薬 3 ロットについて、12 箇月の実測データが存

在する場合、 大 12 箇月間の外挿が可能となり、提示するリテスト期間として 大 24 箇月

を設定できる。リテスト期間の 短の推定値が 24 箇月を超えている場合には、提示するリテ

スト期間として 24 箇月を設定することができる。

一方、リテスト期間又は有効期間の 短の推定値が、提示するリテスト期間又は有効期間

を支持しない場合には、次の 4.3.3 に示す 2 つのオプションから選択する。

4.3.3. いずれかのロットのリテスト期間又は有効期間の推定値が提示するリテスト期間又

は有効期間を支持しない場合

以下の 2 つのオプションから選択する。

オプション 1: リテスト期間又は有効期間の 短の推定値に基づいて提示するリテスト期間

又は有効期間を設定

4.3.1 の手順 3 で得られたリテスト期間又は有効期間の 短の推定値が満足できるものであ

れば、それを提示するリテスト期間又は有効期間として設定する。例えば、冷蔵保存でない

単一因子の原薬 3 ロットについて、12 箇月の実測データが存在し、リテスト期間の 短の推

定値が 20 箇月であれば、提示するリテスト期間として 大 20 箇月を設定できる。但し、実

際的には 18 箇月を設定することになる。通常、長期保存試験の測定時点として 20 箇月目は

設定しないため、24 箇月目に不適であった場合には、20 箇月目まで安定性が保証できていた

ことを確認できないためである。

オプション 2: 共分散分析の実施

共分散分析を実施し、複数ロットの安定性試験データを一括評価することにより、オプシ

ョン 1 で得られた推定値よりも長い期間を提示するリテスト期間又は有効期間として設定で

きる場合がある。4.3.4 に手順を示す。

4.3.4. 共分散分析の実施

共分散分析の手順

単一因子のロットのデータを解析する際の共分散分析モデルを式(4.1)に示す。

Yi(t) = α0 + αi + (β0 + βi)t + εit (4.1)

30

ここで、Yi(t)は測定時点 t における i 番目のロットの観測値2、α0 及び β0 は各々共通の切片

及び共通の傾き、αi及び βiは i 番目のロットの α0及び β0からの個々の偏差、εitは誤差項3であ

る。

減数モデルの構築

要因「傾き:ロット」はロット毎の傾きの違いを示す。要因「傾き:ロット」が等しいと

する仮説が Q1E ガイドラインに示されている有意水準(ここでは、α=0.25、この値に関して

は 7.1.2 を参照されたい)で棄却された場合(すなわち、ロット間で傾きに有意差がある場

合)は、式(4.1)が 減数モデルとなる。棄却されなかった場合は、式(4.1)より βi の項を

消去することができる[式(4.2)]。傾きを示す項は全ロットで共通の β0 のみとなり、傾き

について一括評価できる。

Yi(t) = α0 + αi + β0t + εit (4.2)

式(4.2)において、切片の違いを示す要因「ロット」が等しいとする仮説が有意水準 0.25 で

棄却された場合(すなわち、ロット間で切片に有意差がある場合)は、式(4.2)が 減数モ

デルとなる。棄却されなかった場合は、式(4.2)より αi の項を消去することができる[式

(4.3)]。切片を示す項は全ロットで共通の α0 のみとなり、切片についても一括評価できる。

Yi(t) = α0 + β0t + εit (4.3) 4.3.5. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間の算出

単一因子のロットデータを共分散分析した結果から得られる 減数モデルには、次に示す

3 つのパターンが想定される。

一括評価すると、母平均の信頼限界の幅が狭くなると共に、回帰直線の傾きが平均化され

るので、通常、一括したデータから推定したリテスト期間又は有効期間は個々のロットから

求めた 短のリテスト期間又は有効期間の推定値よりも長くなる。

モデル 2 の 減数モデルが得られた場合、全データを一括して使用できるため、一般に

も長い期間を設定できる。共通の傾き、共通の切片、共通の誤差分散を用い、全ロットから

共通のリテスト期間又は有効期間の推定値を算出する。

モデル 1 の 減数モデルが得られた場合、傾きについては一括評価が可能になる。共通の

傾き、個々の切片、共通の誤差分散を用い、個々のロットについてリテスト期間又は有効期

間の推定値を算出した後、 短の期間を採用する。

2 繰り返し測定を実施している場合は観測値の平均値。 3 平均値 0、分散のσ2の正規分布に従い、互いに独立であることを前提としている。

31

表 4.3 減数モデル(単一因子のロットデータを解析)

モデル 減数モデル 共分散分析の結果提示するリテスト期間又は有効期

0 Yi(t) = α0 +αi + (β0 +βi)t + εit ロット間で傾きに有意差がある場合。

ロットを一括してリテスト期間又は有効期間を推定することはできない。4.3.3 オプション 1 で得られた 短の推定値を採用するか、外挿することなく、長期保存試験データがカバーする期間を採用する。

1 Yi(t) = α0 +αi + β0t + εit

ロット間で傾きには有意差がないが切片には有意差がある場合。

共通の傾き、個々の切片、共通の誤差分散を用いて、個々のロットについてリテスト期間又は有効期間の推定値を算出した後、 短の期間を採用。

2 Yi(t) = α0 + β0t + εit ロット間で傾きにも切片にも有意差がない場合。

共通の傾き、共通の切片、共通の誤差分散を用いて、全ロットから共通のリテスト期間又は有効期間の推定値を算出。

モデル 0 の 減数モデルが得られた場合、一括評価はできない。4.3.3 でのオプション 1

にしたがって提示するリテスト期間又は有効期間を設定するか、あるいは外挿することなく、

長期保存試験データがカバーする実際の期間に基づいて、提示するリテスト期間又は有効期

間として設定する。

4.3.6. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか否かの判定

4.3.5 で得られたリテスト期間又は有効期間の推定値が、提示するリテスト期間又は有効期

間を支持する場合、提示するリテスト期間又は有効期間は妥当であり、ここで解析を終わら

せることができる。例えば、冷蔵保存でない単一因子の原薬 3 ロットについて、12 箇月の実

測データが存在する場合で、4.3.5 で得られたリテスト期間の推定値が 24 箇月を超えていれば、

提示するリテスト期間として 大 24 箇月を設定できる。

一方、提示するリテスト期間又は有効期間を支持しない場合であっても、4.3.5 で得られ

たリテスト期間又は有効期間の推定値が満足できるものであれば、これを提示するリテスト

期間又は有効期間として設定することは可能である。例えば、冷蔵保存でない単一因子の原

薬 3 ロットについて、12 箇月の実測データが存在し、4.3.5 で得られたリテスト期間の推定

値が 20 箇月であれば、 大 20 箇月を提示するリテスト期間として設定できる(実際的には

18 箇月と設定)。

4.3.7. 単一因子のデータ解析結果

表 4.2 に示すデータの解析結果を以下に示す。

32

表 4.4 単一因子のデータの解析結果 表 4.4a フルモデルの下での分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方

傾き 1 3.696 3.696

切片に関するロット主効果 2 6.655 3.327

傾きに関するロット主効果 2 0.856 0.428

誤差 9 4.003 0.445

合計 15 15.210 -

表 4.4b 一括評価に関する検定後の分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平

方 F 値 p 値

傾き 1 3.696 3.696 8.37 0.015

切片に関するロット主効果 2 6.655 3.327 7.53 0.009

誤差 11 4.859 0.442 - -

合計 15 15.210 - - -

表 4.4c 減数モデルの回帰分析

回帰係数 推定値 標準誤差 t 値 p 値

切片

ロット 1 100.268 0.384 261.31 <.0001

ロット 2 100.856 0.384 262.84 <.0001

ロット 3 101.880 0.384 265.51 <.0001

傾き 共通 -0.117 0.040 -2.89 0.015

減数モデルは、モデル 1 となり、 短の有効期間又はリテスト期間は、ロット 1 から、

29.6 箇月と推定される。詳細な計算過程については、5 章を参照されたい。

33

フローチャート 1: 単一因子のデータ解析の手順

注)原薬の安定性試験の場合は、必要に応じて、有効期間をリテスト期間として読みかえること

4.3.1. 個々のロットについて、個々の傾き、個々

の切片、共通の誤差分散を用い、回帰式を得る。個々のロットについて、母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最短を選ぶ。

4.3.4. ANCOVAを実施する。最初は全要因を

考慮して分散分析表を作成。適切な順(解説書を参照)に、一括評価の検定

を進め、最減数モデルを構築する。

4.3.5. 最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。個々のロットについて推定値を得た場合には、

最短を選ぶ。

4.3.2. 最短の有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.3.6 (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか提示する有効期間は妥当である

4.3.1 で得られた(最短の)有効期間の推定値又は

4.3.5 で得られた(最短の)有効期間の推定値を

提示する有効期間とする

支持する

支持する

支持しない

支持しない

4.3.3. 以下の2つのオプションから選択。

オプション1: 有効期間の最短の推定値を提示する有効期間とする。

オプション2: 共分散分析(ANCOVA)を実施する

(4.3.4)。

注)原薬の安定性試験の場合は、必要に応じて、有効期間をリテスト期間として読みかえること

4.3.1. 個々のロットについて、個々の傾き、個々

の切片、共通の誤差分散を用い、回帰式を得る。個々のロットについて、母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最短を選ぶ。

4.3.4. ANCOVAを実施する。最初は全要因を

考慮して分散分析表を作成。適切な順(解説書を参照)に、一括評価の検定

を進め、最減数モデルを構築する。

4.3.5. 最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。個々のロットについて推定値を得た場合には、

最短を選ぶ。

4.3.2. 最短の有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.3.6 (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか提示する有効期間は妥当である

4.3.1 で得られた(最短の)有効期間の推定値又は

4.3.5 で得られた(最短の)有効期間の推定値を

提示する有効期間とする

支持する

支持する

支持しない

支持しない

4.3.3. 以下の2つのオプションから選択。

オプション1: 有効期間の最短の推定値を提示する有効期間とする。

オプション2: 共分散分析(ANCOVA)を実施する

(4.3.4)。

34

4.4. 複数因子のデータ解析の手順-複数の包装形態がある場合

単一含量で複数の包装形態(例えば PTP 包装とボトル包装)で供される製剤の

長期保存試験結果の解析について解説する。典型的なデータ例を表 4 .5 に、解析

手順のアウトラインをフローチャート 2 に示す。以下、フローチャート 2 の手順

に従って解説する。なお、 初から 4 .4 .3 に進み、共分散分析を開始しても構わ

ない。表 4 .5 のデータの解析結果は 4 .4 .6 に示すので参照されたい。

表 4 . 5 単一含量で複数の包装形態がある場合の安定性試験のデータ例

包装 ロット 測定時点(月)

0 3 6 9 12

P1

1 100 .67 101 .78 99 .45 98 .94 99 .56

2 99 .92 99 .01 100 .40 98 .46 99 .47

3 100 .51 99 .99 101 .25 101 .04 97 .61

P2

1 99 .79 100 .77 99 .47 98 .06 98 .68

2 99 .96 99 .14 98 .58 98 .99 97 .82

3 99 .63 99 .63 97 .83 98 .04 99 .00

4.4.1. 包装形態毎の有効期間

個々の包装形態について、単一因子のロットのデータとみなし、4 .3 に示した方

法(フローチャート 1)に従って有効期間の推定値を算出する。いずれの包装形

態についても、有効期間の推定値が提示する有効期間を支持する場合には、提示

する有効期間は妥当であり、ここで解析を終了することができる。

いずれかの包装形態について、有効期間の推定値が提示する有効期間を支持し

なかった場合、次に示す 4.4.2 の 3 つのオプションから選択する。

4.4.2. いずれかの包装形態のデータが提示する有効期間を支持しないとき

以下の 3 つのオプションから選択する。

オプション 1 : 包装形態別に提示する有効期間を設定

4 . 4 .1 で個々の包装形態について得られた有効期間の推定値に基づき、包装形態

別に提示する有効期間を設定する。この場合、安定性試験ガイドライン上での問

題はないが、医療現場での混乱を招くことも予想されるため、通常このオプショ

ンはとらない。

オプション 2: 有効期間の 短の推定値に基づいて提示する有効期間を設定

4 .4 .1 で個々の包装形態について得られた有効期間の推定値のうち、 短の推定

値が満足できるものであれば、それを全包装形態に共通の提示する有効期間とし

35

て設定する。例えば、冷蔵保存でない包装形態の異なる製剤で 12 箇月の実測デー

タがあり、フローチャート 1 に従って得られた期間が PTP 包装で 20 箇月、ボト

ル包装で 24 箇月であった場合、 大 20 箇月を有効期間として設定できる(実際

的には 18 箇月と設定)。

オプション 3 : 共分散分析の実施

共分散分析を実施し、個々の包装形態のデータを一括評価することにより、

4 .4 .1 で得られた有効期間よりも長い有効期間を設定できる場合がある。4 .4 .3 に

手順を示す。

4.4.3. 共分散分析の実施

複数の包装形態のデータを解析する際の共分散分析モデルを式(4 .4)に示す。

Y p b t = α + α p + α b + α p b + (β + β p + β b + β p b ) t + ε p b t (4 .4)

ここで、Y p b t は測定時点 t における観測値、α 及び β は各々共通の切片及び共通

の傾き、α p 及び β p は包装形態の変動による α 及び β からの偏差、α b 及び β b はロ

ットの変動による α 及び β からの偏差、α p b 及び β p b は包装形態とロットの交互作

用、ε p b t は誤差項である。

減数モデルの構築

共分散分析における一括評価の可能性の検討では、Q1E ガイドラインに従い、

ロットが関わる要因の有意水準には 0 .25、ロットが関わらない要因の有意水準に

は 0 .05 を使用する。

一括評価に関する検定は、表 4 .6 に示す優先順位を考慮しながら進めて行く。

すなわち、Q1E ガイドラインに従い、傾きの項を縦軸切片の項より前に、また交

互作用を主効果の前に検定する。高次交互作用の傾きの項から検定を開始し、次

に切片の項を検定し、さらに単純な主効果の傾きの項、そして切片の項へと進め

て行く。

一括評価が可能な場合、その要因を誤差に含めて切片と傾きを再計算し、F 検

定を実施するという操作を繰り返す。一括評価ができなくなったとき、残った要

因で 減数モデルが決まる。即ち、表 4 .7 におけるモデル 0 から始め、X で示し

た項を検定し、これが有意であればこのモデルが 減数モデルとなる。有意でな

ければ次のモデルを当てはめ X の項を検定する。以下順次検定が有意となるまで

この手順を繰り返す。

36

表 4 . 6 一括評価に関する検定を進める順位 順位 要因 有意水準

1 傾き:ロット×包装形態 0 .25 2 切片:ロット×包装形態 0 .25 3 傾き:ロット 0 .25 4 切片:ロット 0 .25 5 傾き:包装形態 0 .05 6 切片:包装形態 0 .05

表 4 . 7 一括評価に関する検定を進める順位と対応する 減数モデル

(含量が一つで複数包装)

モデ

ル P a B b PxB c TxP d TxB e TxPxB f 減数モデル

0 - - - - - ×

Y p b t = α + α p + α b + α p b + (β + β p + β b + β p b ) t + ε p b t

1 - - ×

- - Y p b t = α + α p + α b + α p b + (β + β p + β b ) t

+ ε p b t 2 - - - X Y p b t = α + α p + α b + (β + β p + β b ) t + ε p b t

3 - × - Y p b t = α + α p + α b + (β + β p ) t + ε p b t 4 - × Y p b t = α + α p + (β + β p ) t + ε p b t 5 × Y p b t = α + α p + β t + ε p b t 6 Y p b t = α + β t + ε p b t

a) 切片:包装形態、b) 切片:ロット、c) 切片:包装形態×ロット、d) 傾き:包装形

態、e) 傾き:ロット、f) 傾き:包装形態×ロット

-) 検定せず、×) 検定対象の要因効果

4.4.4. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間

の算出

4 .4 .3 で得られた 減数モデルから、有効期間を推定する。誤差分散の推定値に

は、 減数モデルの下で得られた値を用いる。

4.4.5. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか

否かの判定

4 .4 .4 で得られた有効期間の推定値が、提示する有効期間を支持する場合、提示

する有効期間は妥当であり、ここで解析を終わらせることができる。

一方、提示する有効期間を支持しない場合であっても 4.4.4 で得られた有効期

間の推定値が満足できるものであれば、これに基づいて提示する有効期間を設定

することは可能である。例えば、複数の包装形態で供される冷蔵保存でない製剤

37

について、12 箇月の実測データが存在し、4.4.4 で得られた有効期間の推定値が

20 箇月であれば、 大 20 箇月を提示する有効期間として設定できる(実際的に

は 18 箇月と設定)。

4.4.6. 複数因子のデータ解析結果-複数の包装形態がある場合

表 4.5 に示すデータの解析結果を以下に示す。

表 4 .8 複数因子のデータ解析結果(複数の包装形態がある場合)

表 4 . 8a フルモデルの下での分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方

傾き 1 9.181 9.181

切片に関する包装主効果 1 5.351 5.351

傾きに関する包装主効果 1 0.015 0.015

切片に関するロット主効果 2 1.469 0.735

傾きに関するロット主効果 2 0.426 0.213

切片に関する包装×ロット交互作用 2 0.665 0.333

傾きに関する包装×ロット交互作用 2 0.610 0.305

誤差 18 15.583 0.866

合計 29 33.301 -

表 4 . 8b 一括評価に関する検定後の分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方 F 値 p 値

傾き 1 9.181 9.181 13.21 0.001

切片に関する包装主効果 1 5.351 5.351 7.70 0.010

誤差 27 18.769 0.695 - -

合計 29 33.301 - - -

表 4 . 8c 減数モデルの回帰分析

回帰係数 推定値 標準誤差 t 値 p 値

切片 包装 1 100.653 0.304 330.61 <.0001

包装 2 99.808 0.304 327.84 <.0001

傾き 共通 -0.130 0.036 -3.63 0.001

減数モデルは、表 4 .7 のモデル 5 となり、 短の有効期間は、包装 2 から、

26 .7 箇月と推定される。計算手順については 6 章を参照されたい。

38

フローチャート 2: 複数因子のデータ解析の手順-複数の包装形態がある場合

4.4.2. 以下の3つのオプションから選択。オプション1: 包装形態別に有効期間を設定オプション2: 包装形態間で、最短の推定値を

全包装形態の有効期間として設定オプション3: ANCOVA を実施

4.4.1. 個々の包装形態について

単一因子のデータとみなし、フローチャート1に従って有効期間の推定値を算出。

いずれの包装形態の推定値についても

提示する有効期間を支持するか?支持する

4.4.3. ANCOVAを実施(オプション3の場合)

最初は全要因を考慮して分散分析表を作成。適切な順(解説書を参照)に一括評価の検定を進め、最減数モデルを構築する。

4.4.4.最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最減数モデルから、複数の推定値を得た場合

には、最短を選ぶ。

提示する有効期間は妥当である4.4.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.4.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値

又は4.4.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する

支持しない

支持する支持しない

4.4.2. 以下の3つのオプションから選択。オプション1: 包装形態別に有効期間を設定オプション2: 包装形態間で、最短の推定値を

全包装形態の有効期間として設定オプション3: ANCOVA を実施

4.4.1. 個々の包装形態について

単一因子のデータとみなし、フローチャート1に従って有効期間の推定値を算出。

いずれの包装形態の推定値についても

提示する有効期間を支持するか?支持する

4.4.3. ANCOVAを実施(オプション3の場合)

最初は全要因を考慮して分散分析表を作成。適切な順(解説書を参照)に一括評価の検定を進め、最減数モデルを構築する。

4.4.4.最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最減数モデルから、複数の推定値を得た場合

には、最短を選ぶ。

提示する有効期間は妥当である4.4.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.4.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値

又は4.4.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する提示する有効期間は妥当である

4.4.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.4.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値

又は4.4.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する

支持しない

支持する支持しない

39

4.5. 複数因子のデータ解析の手順-複数の含量がある場合

複数の含量違い製剤が単一包装で供される製剤の長期保存試験結果の解析につ

いて解説する。データ例を表 4 .9 に、解析手順のアウトラインをフローチャート 3

に示す。提示する有効期間を設定する手順は「4 .4 複数の包装形態がある場合」と

同様である。しかし、含量毎にロットが異なるので含量とロットの交互作用が共

分散分析モデルには含まれないため(詳細については、第 6 章及び第 7 .1 .3 項を

参照)、用いる共分散分析モデルが異なる。以下、フローチャート 3 の手順に従

って解説する。なお、 初から 4 .5 .3 に進み、共分散分析を開始しても構わない。

表 4 .9 のデータの解析結果は 4 .5 .6 に示すので参照されたい。

表 4 . 9 単一包装で複数の含量がある場合の安定性試験のデータ例

含量 ロット 測定時点(月)

0 3 6 9 12

S1

1 100.41 100.58 101.18 99.52 97.85

2 99.46 102.62 100.82 99.76 99.22

3 100.74 99.39 100.18 98.05 99.24

S2

4 99.07 98.49 98.84 98.61 98.69

5 99.87 98.13 99.91 98.41 97.98

6 99.50 98.13 98.89 100.03 97.85

4.5.1. 含量毎の有効期間

個々の含量について単一因子のロットのデータとみなし、4 .3 に示した方法(フ

ローチャート 1)に従って有効期間の推定値を算出する。いずれの含量について

も、有効期間の推定値が提示する有効期間を支持する場合には、提示する有効期

間は妥当であり、ここで解析を終了することができる。

いずれかの含量について、有効期間の推定値が提示する有効期間を支持しなか

った場合、次に示す 4 .5 .2 の 3 つのオプションから選択する。

4.5.2. いずれかの含量のデータが提示する有効期間を支持しないとき

以下の 3 つのオプションから選択する。

オプション 1 : 含量毎に別々の有効期間を設定

4 . 5 .1 で個々の含量について得られた有効期間の推定値に基づき、含量別に提示

する有効期間を設定する。この場合、安定性試験ガイドライン上での問題はない

が、医療現場での混乱を招くことも予想されるため、通常このオプションはとら

ない。

オプション 2 : 含量間で も短い有効期間を全ての含量の有効期間として設定

40

4 . 5 .1 で個々の含量について得られた有効期間の推定値のうち、 短の推定値が

満足できるものであれば、それを全含量に共通の提示する有効期間として設定す

る。例えば、冷蔵保存でない含量の異なる製剤(10 mg 錠、20 mg 錠)で 12 箇月

の実測データがあり、フローチャート 1 に従って得られた期間が 10 mg 錠で 2 0

箇月、20 mg 錠で 24 箇月であった場合、 大 20 箇月を有効期間として設定でき

る(実際的には 18 箇月と設定)。

オプション 3 : 共分散分析の実施

共分散分析を実施し、全ての含量違い製剤のデータを一括評価することにより、

4.5.1 で得られた有効期間よりも長い有効期間を設定できる場合がある。4.5.3

に手順を示す。

4.5.3. 共分散分析の実施

複数の含量がある場合のデータを解析する際の共分散分析モデルを式(4 .5)に

示す。

Y s ( b ) t = α + α s + α b ( s ) + (β + β s + β b ( s ) ) t + ε s ( b ) t (4 .5)

ここで、Y s ( b ) t は測定時点 t における観測値、α 及び β は各々共通の切片及び共

通の傾き、α s 及び β s は含量の変動による α 及び β からの偏差、α b ( s )及び β b ( s )はロ

ットの変動による α 及び β からの偏差、ε s ( b ) t は誤差項である。ロットは含量毎に

異なるため、これを因子「ロット(含量)」と示すこととする.また含量とロッ

トは交絡するため、これらの交互作用は含めない。

減数モデルの構築

共分散分析における一括評価の可能性の検討では、Q1E ガイドラインに従い、

ロットが関わる要因の有意水準には 0 .25、ロットが関わらない要因の有意水準に

は 0 .05 を使用する。

一括評価に関する検定は Q1E ガイドラインに従い、傾きの項を縦軸切片の項よ

り前に、また交互作用を主効果の前に検定する。すなわち、高次交互作用の傾き

の項から検定を開始し、次に切片の項を検定し、さらに単純な主効果の傾きの項、

そして切片の項へと進めて行く。但しここでは、含量とロットの交互作用は考え

ないため、表 4 .10 に示す優先順位に従い傾きに関するロット主効果の検定から開

始する。

一括評価が可能な場合、その要因を誤差に含めて切片と傾きを再計算し、F 検

定を実施するという操作を繰り返す。一括評価ができなくなったとき、残った要

因で 減数モデルが決まる。

41

表 4 . 10 一括評価に関する検定を進める順位 順位 要因 有意水準

1 傾き:ロット(含量) 0 .25 2 切片:ロット(含量) 0 .25 3 傾き:含量 0 .05 4 切片:含量 0 .05

一括評価に関する検定を進める順位(表 4 .10)及び傾きを切片より先に検定す

る必要があることを考慮すると、得られる 減数モデルは表 4 .11 にのいずれかに

該当する。

表 4 . 11 一括評価に関する検定を進める順位と対応する 減数モデル

(包装形態が一つで複数含量)

モデル S a B ( S ) b T x S c T x B ( S ) d 減数モデル 0 - - - × Y s ( b ) t = α + α s + α b ( s ) + (β + β s + β b ( s ) ) t + ε s ( b ) t

1 - × - Y s ( b ) t = α + α s + α b ( s ) + (β + β s ) t + ε s ( b ) t

2 - × Y s ( b ) t = α + α s + (β + β s ) t + ε s ( b ) t

3 × Y s ( b ) t = α + α s + β t + ε s ( b ) t

4 Y s ( b ) t = α + β t + ε s ( b ) t

a) 切片:含量、b) 切片:ロット(含量)、c) 傾き:含量、

d) 傾き:ロット(含量)

-) 検定せず、×) 検定対象の要因効果

4.5.4. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間

の算出

4 .5 .3 で得られた 減数モデルから、有効期間を推定する。誤差分散の推定値に

は、 減数モデルの下で得られた値を用いる。

4.5.5. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか

否かの判定

4 .5 .4 で得られた有効期間の推定値が、提示する有効期間を支持する場合、提示

する有効期間は妥当であり、ここで解析を終わらせることができる。

一方、提示する有効期間を支持しない場合であっても 4 .5 .4 で得られた有効期

間の推定値が満足できるものであれば、これを提示する有効期間として設定する

ことは可能である。例えば、冷蔵保存でない複数の含量違い製剤について、12 箇

月の実測データが存在し、4 .5 .4 で得られた有効期間の推定値が 20 箇月であれば、

大 20 箇月を提示する有効期間として設定できる(実際的には 18 箇月と設定)。

42

4.5.6. 複数因子のデータ解析結果-複数の含量がある場合

表 4 .9 に示すデータの解析結果を以下に示す。

表 4 .12 複数因子のデータ解析結果(複数の含量がある場合)

表 4 . 12a フルモデルの下での分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方

傾き 1 6 . 2 7 3 6 . 2 7 3

切片に関する含量主効果 1 9 . 2 0 7 9 . 2 0 7

傾きに関する含量主効果 1 1 . 1 5 4 1 . 1 5 4

切片に関するロット(含量)主効果 4 1 . 8 9 5 0 . 4 7 4

傾きに関するロット(含量)主効果 4 0 . 8 5 4 0 . 2 1 3

誤差 1 8 1 7 . 5 5 8 0 . 9 7 5

合計 2 9 3 6 . 9 4 1 -

表 4 . 12b 一括評価に関する検定後の分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方 F 値 p 値

傾き 1 6 . 2 7 3 6 . 2 7 3 7 . 8 9 0 . 0 0 9

切片に関する含量主効果 1 9 . 2 0 7 9 . 2 0 7 1 1 . 5 8 0 . 0 0 2

誤差 2 7 2 1 . 4 6 1 0 . 7 9 5 - -

合計 2 9 3 6 . 9 4 1 - - -

表 4 . 12c 減数モデルの回帰分析

回帰係数 推定値 標準誤差 t 値 p 値

切片 含量 1 100.581 0.326 308.96 <.0001

含量 2 99.473 0.326 305.56 <.0001

傾き 共通 -0.108 0.038 -2.81 0.009

減数モデルは、表 4 .11 のモデル 3 となり、 短の有効期間は、含量 2 のモデ

ルから、27 .7 箇月と推定される。計算手順については 6 章を参照されたい。

43

フローチャート 3: 複数因子のデータ解析の手順-複数の含量がある場合

4.5.2. 以下の3つのオプションから選択。オプション1: 含量別に有効期間を設定オプション2: 含量間で、最短の推定値を

全含量の有効期間として設定オプション3: ANCOVA を実施

4.5.1. 個々の含量について

単一因子のデータとみなし、フローチャート1に従って有効期間の推定値を算出。

いずれの含量の推定値についても

提示する有効期間を支持するか?支持する

4.5.3. ANCOVAを実施(オプション3の場合)

最初は全要因を考慮して分散分析表を作成。適切な順(解説書を参照)に一括評価の検定を進め、最減数モデルを構築する。

4.5.4.最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最減数モデルから、複数の推定値を得た場合

には、最短を選ぶ。

提示する有効期間は妥当である4.5.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.5.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値

又は4.5.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する

支持しない

支持する支持しない

4.5.2. 以下の3つのオプションから選択。オプション1: 含量別に有効期間を設定オプション2: 含量間で、最短の推定値を

全含量の有効期間として設定オプション3: ANCOVA を実施

4.5.1. 個々の含量について

単一因子のデータとみなし、フローチャート1に従って有効期間の推定値を算出。

いずれの含量の推定値についても

提示する有効期間を支持するか?支持する

4.5.3. ANCOVAを実施(オプション3の場合)

最初は全要因を考慮して分散分析表を作成。適切な順(解説書を参照)に一括評価の検定を進め、最減数モデルを構築する。

4.5.4.最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最減数モデルから、複数の推定値を得た場合

には、最短を選ぶ。

提示する有効期間は妥当である4.5.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.5.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値

又は4.5.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する提示する有効期間は妥当である

4.5.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.5.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値

又は4.5.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する

支持しない

支持する支持しない

44

4.6. 複数因子のデータ解析の手順-複数の包装形態及び複数の含量がある場合

複数の含量違い製剤が複数の包装形態で供される製剤の長期保存試験結果の解

析について解説する。典型的なデータ例を表 4 .13 に、解析手順のアウトラインを

フローチャート 4 に示す。以下、フローチャート 4 の手順に従って解説する。な

お、 初から 4 .6 .3 に進み、共分散分析を開始しても構わない。表 4 .13 のデータ

の解析結果は 4 .6 .6 に示すので参照されたい。

表 4 . 13 複数含量、複数包装形態の製剤の安定性試験のデータ例

包装 含量 ロット 測定時点(月)

0 3 6 9 12

P1

S1

1 100.16 99.15 96.70 97.48 98.17

2 99.24 97.77 99.50 97.50 97.37

3 99.49 99.67 98.05 96.01 98.95

S2

4 99.07 99.19 101.18 98.82 96.76

5 101.21 100.85 100.18 100.14 99.02

6 100.24 98.65 99.01 99.20 97.85

P2

S1

1 100.33 102.37 101.49 99.17 98.93

2 98.53 101.40 100.23 97.62 97.61

3 99.50 100.19 99.31 96.38 100.30

S2

4 100.98 99.94 100.18 99.68 99.69

5 102.16 99.68 98.90 101.09 98.52

6 100.14 100.55 98.70 100.74 99.20

4.6.1. 包装形態と含量の水準組み合わせ毎の有効期間

包装形態と含量の水準組み合わせ(表 4 .13 の例では 4 つの水準組み合わせ)の

各々を単一因子のロットのデータとみなし、4 .3 に示したフローチャート 1 に従っ

て有効期間の推定値を算出する。いずれの水準組み合わせの有効期間の推定値も

提示する有効期間を支持する場合、提示する有効期間は妥当であり、ここで解析

を終了することができる。

いずれかの水準組み合わせの有効期間の推定値が提示する有効期間を支持しな

かった場合、次に示す 4 .6 .2 の 3 つのオプションから選択する。

4.6.2. 水準組み合わせのいずれかが提示する有効期間を支持しなかった場合

以下の 3 つのオプションから選択する。

オプション 1 : 包装形態(又は含量)別に有効期間を設定

4 . 6 .1 で得られた有効期間の推定値に基づき、包装形態(又は含量)別に提示す

45

る有効期間を設定する。この場合、安定性試験ガイドライン上での問題はないが、

医療現場での混乱を招くことも予想されるため、通常このオプションはとらない。

オプション 2 : 有効期間の 短の推定値に基づいて提示する有効期間を設定

4 . 6 .1 で得られた有効期間の推定値のうち、 短の推定値が満足できるものであ

れば、それを全包装形態および全含量に共通の提示する有効期間として設定する。

オプション 3 : 共分散分析の実施

共分散分析を実施し、全包装形態及び全含量のデータを一括評価することによ

り、4 .6 .1 で得られた有効期間よりも長い期間を設定できる場合がある。4 .6 .3 に

手順を示す。

4.6.3. 共分散分析の実施

複数の包装形態及び複数の含量がある場合のデータを解析する際の共分散分析

モデルを式(4 .6)に示す。

Y p s ( b ) t = α +α p + α s + α b ( s ) + α s p + α p b ( s ) + (β + β p + β s + β b ( s ) + β s p + β p b ( s ) ) t

+ ε p s ( b ) t (4 .6)

ここで、Y p s ( b ) t は測定時点 t における観測値、α 及び β は各々共通の切片及び共通

の傾き、α s 及び β s は個々の含量における α 及び β からの偏差、α p 及び β p は個々

の包装形態における α 及び β からの偏差、α b ( s )及び β b ( s )は含量 S の下での個々の

ロットにおける α + α s 及び β + β s からの偏差、α s p 及び β s p は含量と包装形態の交

互作用、α p b ( s )及び β p b ( s )は包装形態とロットの交互作用、ε s p b t は誤差項である。

減数モデルの構築

共分散分析における一括評価の可能性の検討では、Q1E ガイドラインに従い、

ロットが関わる要因の有意水準には 0 .25、ロットが関わらない要因の有意水準に

は 0 .05 を使用する。

一括評価に関する検定は、表 4 .14 に示す優先順位を考慮しながら進めて行く。

すなわち、Q1E ガイドラインに従い、傾きの項を切片の項より前に、また交互作

用を主効果の前に検定する。高次交互作用の傾きの項から検定を開始し、次に切

片の項を検定し、さらに単純な主効果の傾きの項、そして切片の項へと進めて行

く。

一括評価が可能な場合、その要因を誤差に含めて切片と傾きを再計算し、F 検

定を実施するという操作を繰り返す。一括評価ができなくなったとき、残った要

因で 減数モデルが決まる。

46

Q1E ガイドラインには、複数因子の場合の一括評価の検討を進める手順につい

て詳細が記載されていないため、順位 7 及び 8 並びに 9 及び 10 において包装と含

量のいずれを先にするかは示されていない(詳細は、7 .1 .2 及び 7 .1 .5 を参照)。

どちらの因子から検定するかによって、得られる 減数モデルが変わることもあ

り得る。消費者危険を減らすためには、保守的な(有効期間がより短くなるよう

な) 減数モデルを導く方がよいかもしれない。

表 4 . 14 一括評価に関する検定を進める順位 順位 要因 有意水準

1 傾き:包装×ロット(含量) 0 .25 2 切片:包装×ロット(含量) 0 .25 3 傾き:包装×含量 0 .05 4 切片:包装×含量 0 .05 5 傾き:ロット(含量) 0 .25 6 切片:ロット(含量) 0 .25

7~8 傾き:包装傾き:含量

0 .05

9~10 切片:包装切片:含量

0 .05

一括評価に関する検定を進める順位(表 4 .14)及び傾きを切片より先に検定す

る必要があることを考慮すると、得られる 減数モデルは表 4 .15 のいずれかに該

当する。

4.6.4. 減数モデルの 95%信頼限界が判定基準の上限又は下限と交差する期間

の算出

4 .6 .3 で得られた 減数モデルから、有効期間を推定する。誤差分散の推定値に

は、 減数モデルの下で得られた値を用いる。

4.6.5. 減数モデルに基づいて得られた期間が提示する有効期間を支持するか

否かの判定

4 .6 .4 で得られた有効期間の推定値が、提示する有効期間を支持する場合、提示

する有効期間は妥当であり、ここで解析を終わらせることができる。

一方、提示する有効期間を支持しない場合であっても 4 .6 .4 で得られた期間が

満足できるものであれば、これに基づいて提示する有効期間を設定することは可

能である。例えば、冷蔵保存でない製剤について、12 箇月の実測データが存在し、

4 .6 .4 で得られた有効期間が 20 箇月であれば、 大 20 箇月を有効期間として設定

できる(実際的には 18 箇月と設定)。

47

表 4.15 一括評価に関する検定を進める順位と対応する 減数モデル(複数の包装形態及び複数の含量がある場合)

モデル Pa Sb B(S)c PxSd PxB(S)e TxPf TxSg TxB(S)h TxPxSi TxPxB(S)j 減数モデル 0 - - - - - - - - - × Yps(b)t=α+αp+αs+αb(s)+αsp+αpb(s)+(β+βp+βs+βb(s)+βsp+βpb(s))t+εs(b)t

1 - - - - × - - - - Yps(b)t=α+αp+αs+αb(s)+αsp+αpb(s)+(β+βp+βs+βb(s)+βsp)t+εs(b)t

2 - - - - - - - × Yps(b)t=α+αp+αs+αb(s)+αsp+(β+βp+βs+βb(s)+βsp)t+εs(b)t

3 - - - × - - - Yps(b)t=α+αp+αs+αb(s)+αsp+(β+βp+βs+βb(s))t+εs(b)t

4 - - - - - × Yps(b)t=α+αp+αs+αb(s)+(β+βp+βs+βb(s))t+εs(b)t

5 - - × - - Yps(b)t=α+αp+αs+αb(s)+(β+βp+βs)t+εs(b)t

6 - - - × Yps(b)t=α+αp+αs+(β+βp+βs)t+εs(b)t

7 - - × Yps(b)t=α+αp+αs+(β+βp)t+εs(b)t

8 - × Yps(b)t=α+αp+αs+βt+εs(b)t

9 × Yps(b)t=α+αp+βt+εs(b)t

7’ k - - × Yps(b)t=α+αp+αs+(β+βs)t+εs(b)t

8’ k × - Yps(b)t=α+αp+αs+βt+εs(b)t

9’ k × Yps(b)t=α+αs+βt+εs(b)t

10 Yps(b)t=α+βt+εs(b)t

a) 切片:包装形態、b) 切片:含量、c) 切片:ロット×含量、d) 切片:包装形態×含量、e) 切片:包装形態×ロット(含量)、

f) 傾き:包装形態、g) 傾き:含量、h) 傾き:ロット(含量)、i) 傾き:包装形態×含量、j) 傾き:包装形態×ロット(含量)、k) モデル 7~9 でな

く、モデル 7’~9’の順に検定を進めてもよい

-) 検定せず、×) 検定対象の要因効果

48

4.6.6. 複数因子のデータ解析結果-複数の包装形態及び複数の含量がある場合

表 4 .13 に示すデータの解析結果を以下に示す。

表 4 .16 複数因子のデータ解析結果(複数の包装形態及び複数の含量がある場合)

表 4 . 16a フルモデルの下での分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方

傾き 1 23.355 23.355

切片に関する含量主効果 1 8.778 8.778

切片に関する包装主効果 1 12.087 12.087

傾きに関する含量主効果 1 0.103 0.103

傾きに関する包装主効果 1 0.167 0.167

切片に関するロット(含量)主効果 4 6.213 1.553

傾きに関するロット(含量)主効果 4 1.203 0.301

切片に関する包装×含量交互作用 1 1.463 1.463

傾きに関する包装×含量交互作用 1 0.093 0.093

切片に関する包装×ロット(含量)交互作用 4 5.588 1.397

傾きに関する包装×ロット(含量)交互作用 4 0.780 0.195

誤差 36 54.283 1.508

合計 59 114.115 -

表 4 . 16b 一括評価に関する検定後の分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方 F 値 p 値

傾き 1 2 3 . 3 5 5 2 3 . 3 5 5 1 8 . 7 1 < . 0 0 0 1

切片に関する含量主効果 1 8 . 7 7 8 8 . 7 7 8 7 . 0 3 0 . 0 1 0

切片に関する包装主効果 1 1 2 . 0 8 7 1 2 . 0 8 7 9 . 6 8 0 . 0 0 3

誤差 5 6 6 9 . 8 9 4 1 . 2 4 8 - -

合計 5 9 1 1 4 . 1 15 - - -

表 4 . 16c 減数モデルの回帰分析

回帰係数及びその要因効果 推定値 標準誤差 t 値 p 値

切片

基準とした水準* 1 0 1 . 0 49 0 . 3 2 3 3 1 3 . 3 2 < . 0 0 0 1

含量 1 - 0 . 7 6 5 0 . 2 8 8 - 2 . 6 5 0 . 0 1 0

包装 1 - 0 . 8 9 8 0 . 2 8 8 - 3 . 1 1 0 . 0 0 3

傾き 共通 - 0 . 1 4 7 0 . 0 3 4 - 4 . 3 3 < . 0 0 0 1

*含量2かつ包装2の水準組み合わせを基準とした

減数モデルは、表 4 .15 のモデル 8 となり、 短の有効期間は、含量 1、包装

49

1 から、22 .7 箇月と推定される。計算手順については 6 章を参照されたい。

50

フローチャート 4: 複数因子のデータ解析の手順-複数の包装形態及び複数の含量がある場合

4.6.2. 以下の3つのオプションから選択。

オプション1: 含量(包装)別に有効期間を設定オプション2: 含量(包装)間で、最短の推定値を

全製剤の有効期間として設定

オプション3: ANCOVA を実施

4.6.3. ANCOVAを実施(オプション3の場合)

最初は全要因を考慮して分散分析表を作成。

適切な順(解説書を参照)に一括評価の検定を進め、最減数モデルを構築する。

4.6.4.最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最減数モデルから、複数の推定値を得た場合

には、最短を選ぶ。

提示する有効期間は妥当である4.6.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.6.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値又は4.6.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する

支持しない

支持する支持しない

4.6.1. 個々の包装形態における

個々の含量について単一因子のデータとみなし、フローチャート1に従って有効期間の推定値を算出。

いずれの含量の推定値についても

提示する有効期間を支持するか?支持する

4.6.2. 以下の3つのオプションから選択。

オプション1: 含量(包装)別に有効期間を設定オプション2: 含量(包装)間で、最短の推定値を

全製剤の有効期間として設定

オプション3: ANCOVA を実施

4.6.3. ANCOVAを実施(オプション3の場合)

最初は全要因を考慮して分散分析表を作成。

適切な順(解説書を参照)に一括評価の検定を進め、最減数モデルを構築する。

4.6.4.最減数モデルの母平均の95%信頼限界が

判定基準の上限又は下限と交差する期間を算出し、有効期間の推定値を得る。最減数モデルから、複数の推定値を得た場合

には、最短を選ぶ。

提示する有効期間は妥当である4.6.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.6.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値又は4.6.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する

提示する有効期間は妥当である4.6.5. (最短の)有効期間の推定値は

提示する有効期間を支持するか

4.6.4 で得られた(最短の)有効期間の推定値又は4.6.2オプション1又は2により提示する

有効期間を設定する

支持しない

支持する支持しない

4.6.1. 個々の包装形態における

個々の含量について単一因子のデータとみなし、フローチャート1に従って有効期間の推定値を算出。

いずれの含量の推定値についても

提示する有効期間を支持するか?支持する

51

参考文献

1) Carstensen, J.T., “Stability and Dating of Solid Dosage Forms” Pharmaceutics of Solids and

Solid Dosage Forms, Wiley-Interscience, 182-185, 1977 (Q1Eガイドライン、引用文献 1)

52

5. 統計的推定法の実際

5.1. はじめに

5 章ではリテスト期間又は有効期間の統計的推定について、数値例を用いて実際の計算過

程を解説する。統計的推定において市販の解析ソフトウェアを用いた場合、その計算過程が

ブラックボックスとなるおそれがある。そこで本章では、安定性試験実務担当者を対象にし

て、リテスト期間又は有効期間の統計的推定がどのような統計的原理に基づいているのか、

またどのような計算がなされているかについて、入門的な解説を行うことを目的としている。

したがって読者には、本章の数値例を表計算ソフトウェア(例えば MS-EXCEL)や電卓を用

いて、自分で確認することを薦める。

本章で用いる事例は、解説のために用意した単純な仮想の数値例である。実際の安定性試

験は様々な試験デザインで実施されており、適切なリテスト期間又は有効期間を推定するに

は、その試験デザインに応じた適切な解析方法を用いなければならない。したがって、実際

に統計的推定を行う場合は、試験デザインを含めて統計担当者に相談することを薦める。5

章で解説する統計的推定法の理論的部分は 6 章に、また統計的方法の留意点は 7 章に示した。

本解説書では、一般的な原薬又は製剤を想定しており、測定値の分散は全ての時点で等し

いことを仮定している。したがって、1 つの時点で繰り返し測定が行われている場合には、

平均値を解析に用いることとする。

5.2. 単一ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の推定

5.2.1. 回帰分析

本節では、リテスト期間又は有効期間の統計的推定に必要な回帰分析について解説する。

表 5.1 に、単一ロットの場合の含量(%)の推移を示す。

表 5.1 実験データ①:単一ロットの含量(%)推移

0 3 6 9 12

1 99.76 100.28 99.86 98.56 99.37

測定時点(月)ロット

X 軸を時間(月)、Y 軸を含量(%)として散布図(●:測定値)を書くと図 5.1 となり、

経時的に含量が減少していることが確認できる。一般に、含量 y と時間 x の間には直線関係

がみられることから(Q1E の参考文献 1)、その関係式を時間 x、含量 y として、式(5.1)

と表す。

xy (5.1)

式(5.1)は回帰式とよばれ、 は「切片」である。 は「傾き」であり単位時間あたり

(ここでは一箇月あたり)の含量の変化量を表している。回帰係数 , が特定されれば、時

53

間 xと含量 y の間の関係を定量的に捉えることができる。

Q1E と同様に、ここでは含量と時間に線形モデルを仮定しているが、図による視覚的な確

認、実測値とモデルに基づく予測値の乖離の程度およびその傾向について検討する残差分析

等によって、仮定したモデルの妥当性を確認しておく必要がある。

96

97

98

99

100

101

0 3 6 9 12 15 18 21

時間(月)

含量

(%

図 5.1 実験データ①の散布図と回帰直線

実験データ①について回帰分析を行うと、表 5.2 の結果が得られる。

表 5.2 実験データ①の回帰分析

分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方 F値 p値

回帰 1 0.625 0.625 1.77 0.276

誤差 3 1.059 0.353 - -

合計 4 1.684 - - -

回帰係数

推定値 標準誤差 t値 p値

100.066 0.460 217.40 <.0001

-0.083 0.063 -1.33 0.276

回帰係数

切片

傾き

表 5.2 の回帰係数から、含量 y の時間 x上への回帰式は次式のように推定される。図 5.1

に推定した回帰直線を示した。

xy 083.0066.100

推定した回帰式より、一箇月あたりの含量の減少量は 0.083%で、一年あたり約 1%である。

また、表 5.2 の分散分析表の「要因:誤差」の平均平方から、誤差分散の推定値は、

353.0ˆ 2

54

である。誤差分散は、回帰係数の検定や区間推定に用いる重要な値で、リテスト期間又は

有効期間の統計的推定において不可欠な値である。

以下、表 5.2 の解析結果を得る計算過程を解説する。

式(5.1)を、個々の観測値を用いて具体的に書き下すと、時点 jx の観測値を jy 、誤差を

je 、nを観測値数として、

nnn exy

exy

exy

222

111

と書くことができる。上式を纏めて書くと式(5.2)となり、これを回帰モデルとよぶ。

njexy jjj ,,2,1 (5.2)

式(5.2)の回帰係数 , の推定量 ˆ,ˆ は、 小二乗法を用いて式(5.3)から求めることが

できる。

SXX

SXY

xy

ˆ

ˆˆ (5.3)

式(5.3)において、 yx, は平均、 SYYSXX , は平方和、 SXY は積和とよばれ、具体的には

それぞれ以下のように定義される。このとき、各式はそれぞれ括弧内のように変形すること

ができ、手計算には簡便であるので括弧内の式を用いてもよい。

yxnyxyyxxSXY

ynyyySYY

xnxxxSXX

yn

yxn

x

n

jjjj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

11

2

1

2

1

2

2

1

2

1

2

11

1,

1

55

また、上記の平方和、積和を用いて誤差平方和 SSE 、回帰平方和 SSR として以下を定義

する。

SXX

SXYSYYSSRSYYSSE

2

(5.4)

SXX

SXYSSR

2

回帰モデルの誤差分散の推定量 2 (標準偏差の推定量 )は、式(5.5)に示すように、

誤差平方和 SSE から求めることができる。

2ˆ 2

n

SSE (5.5)

回帰係数の標準誤差、 t 値、 p 値は、平方和、積和、誤差分散の推定値を用いて計算され

る。回帰係数の推定値の標準誤差は、

SXX

SE

SXX

x

nSE

ˆˆ

1ˆˆ

2

で表され、 t値は回帰係数の推定量をその標準誤差で割った、

ˆ

ˆˆ

ˆ

ˆˆ

SEt

SEt

となる。ここで、 t値とは各回帰係数についての仮説、

切片

0:

0:

1

0

H

H

傾き

0:

0:

1

0

H

H

に対する検定の検定統計量である。この検定統計量を用いて、それぞれの回帰係数が 0 かど

うかの検定を行う。検定の結果、 p 値が事前に設定した有意水準を下回る時、その回帰係

数は 0 でないことが統計的に示される。

56

分散分析表とは、平方和(観測値の変動)を要因別に分解して示したものである。 SSY は、

総平方和とよばれ観測値の全変動を表している。この全変動のうち回帰によって説明できる

変動が、回帰平方和 SSR である。一方、全変動のうち回帰によって説明できない変動が誤差

平方和 SSE である。すなわち、これら各要因の平方和の間には、

SSESSRSYY

の関係が成立している。この関係は平方和の定義からも明らかである。

平均平方は、平方和を対応する自由度で割ったものである。回帰平方和 SSR の自由度は1

であるので、平方和と平均平方は同じ値である。誤差平方和 SSE の自由度は 2n であるの

で、誤差の平均平方は式(5.5)となり、これが誤差分散の推定量となる。

F 値は、回帰の平均平方を誤差の平均平方で割った、

2/

nSSE

SSRF

で定義される。ここでは F 値の分子の自由度が 1 であるので、以下の式変形より 2tF の関

係が成立っており、 F 検定は傾きが 0 かどうかの仮説を検定する t 検定と同等であることが

確認できる。

FnSSE

SSR

nSSESXX

SXY

SXX

SXX

SXY

SEt

2/2/

1ˆˆ

ˆˆ

2

2

2

22

2

以下に回帰分析の分散分析表を示す。

分散分析表(回帰分析)

要因 自由度 平方和 平均平方 F 値 回帰 1

SXX

SXYSSR

2

SSR

2/ nSSE

SSR

誤差 2n

SXX

SXYSYYSSE

2

2ˆ2

n

SSE

-

合計 1n SYY - -

【実験データ①の計算例(回帰分析)】 実験データ①の平均、平方和、積和は、

566.995

99.3798.5699.86100.2899.761

0.65

1296301

1

1

n

jj

n

jj

yn

y

xn

x

57

0.9065129630 2222222

1

2

xnxSXXn

jj

684.1566.99599.3798.5699.86100.2899.76 222222

2

1

2

ynySYYn

jj

7.50566.99651299.37998.56699.863100.28099.76

1

yxnyxSXYn

jjj

となる。よって、回帰平方和、誤差平方和は、

059.1

90

5.7684.1

625.090

5.7

22

22

SXX

SXYSYYSSE

SXX

SXYSSR

となる。これを式(5.3)、式(5.5)に代入すると回帰係数および誤差分散は、

066.100690

5.7566.99ˆˆ

083.090

5.7ˆ

1

xy

SXX

SYY

594.0353.0ˆ,353.025

059.1

2ˆ 2

n

SSE

と推定される。よって、実験データ①の回帰モデルは、

xy 083.0066.100

となる。また、各回帰係数の標準誤差および t値は、

063.090

594.0ˆˆ

460.090

6

5

1594.0

1ˆˆ

22

SXXSE

SXX

x

nSE

33.190

5.7

90

594.01

ˆ

ˆˆ

4.217

90

6

5

1594.0

066.100ˆ

ˆˆ

2

SEt

SEt

となる。

5.2.2. リテスト期間又は有効期間の推定

本節では、リテスト期間又は有効期間の統計的推定について解説する。

安定性試験におけるリテスト期間又は有効期間の統計的推定は、式(5.6)で与えられる

58

回帰直線の信頼限界(用語集参照)に基づいて行われる。

SSX

xx

ntx

yty

21ˆˆˆ

ˆvarˆ

(5.6)

式(5.6)において、測定値が経時的に減少していると予想され、推定の興味が減少方向

のみである場合は下側信頼限界値(マイナス符号)を用いる。また、測定値が増加している

と予想できる場合には、上側信頼限界値(プラス符号)を用いる。一方で、事前に経時的な

変化の方向が不明な場合には、下側、上側の両方を推定の対象として両側信頼限界を用いる。

式(5.6)の t は誤差分散の自由度 2n 、信頼係数 1 として、 t 分布の上側確率

,2nt より求められる。この値は統計数値表に示されているが、解析ソフトウェアや表

計算ソフトウェアの組み込み関数として用意されている場合が多い。Q1E では信頼係数は

95%と定めているので、片側(下側、上側)であれば 05.0,2nt 、両側であれば

2/05.0,2nt を用いる。したがって、推定の対象を両側にする場合 t の値が大きくなり、

下側、上側のどちらかを対象にする場合よりもリテスト期間又は有効期間は短く推定される

ことになる。

実験データ①について、図 5.1 に信頼係数 95%下側信頼限界値(破線)を書き加えると図

5.2 となる。図 5.2 から、下側信頼限界は 6 箇月(時間 xの平均値)で回帰直線が も接近し、

6 箇月から離れるにしたがって回帰直線から遠くなっていく様子が確認できる。このことは、

式(5.6)からも明らかであり、式

SSX

xx

n

21

の平方根の中は、 x についての二次関数の形をしていて、 x で も小さくなり、 x から離れ

るにしたがって大きくなる。

補足としての説明であるが、個々の測定値の予測区間は、

SSX

xx

nty

211ˆˆ

で与えられる。予測区間とは、その時点における測定値が信頼係数 1 で含まれる区間で

あり、式(5.6)の平方根の中に 1 が加わっている。リテスト期間又は有効期間の統計的推定

では式(5.6)、すなわち時点 t における含量の平均値に対する信頼限界を用いるため、予測

区間と混同しないよう注意する必要がある。

59

93

94

95

96

97

98

99

100

101

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

時間(月)

含量

(%

図 5.2 実験データ①の回帰直線の信頼係数 95%下側信頼限界値

回帰直線の信頼限界に基づくリテスト期間又は有効期間の統計的推定は、「ある規格値

*y を設定し、回帰直線の信頼限界値が規格値 *y となるときの *x をリテスト期間又は有効期

間として推定する」というものである。これは、 *y と信頼限界の交点 ** , yx を求めること

に他ならない。すなわち、式(5.6)に ** , yx を代入した式(5.7)を *x について解けば、そ

の解がリテスト期間又は有効期間の統計的推定値となる。

SSX

xx

ntxy

2*

**

1ˆˆ

(5.7)

ここで式(5.7)を移項して両辺を二乗した、

SSX

xxxx

ntxxxyy

SSX

xx

ntxy

2*

2*222

*2

*2

**2*

2*222

**

21ˆˆˆˆ2ˆˆˆ2

1ˆˆˆ

を *x について整理すると、 *x に関する二次方程式、

01

ˆˆˆ

ˆˆ2ˆˆ

2222

*

22

**

2222

*

SSX

x

nty

SSX

xtyx

SSX

tx

を得る。この *x に関する二次方程式の解は、根の公式を用いて式(5.8)から求めることがで

き、この解の小さい方がリテスト期間又は有効期間の統計的推定値 *x となる。

60

SSX

x

ntyC

SSX

xtyB

SSX

tA

A

ACBBx

2222

*

22

*

222

2

*

1ˆˆ

ˆ2ˆˆ2

ˆˆ

2

4

(5.8)

【実験データ①の計算例(リテスト期間又は有効期間の統計的推定)】

実験データ①について、信頼係数 95%下側信頼限界を対象とした、規格値 0.95* yのときのリテスト期間又は有効期間の統計的推定値を計算する。5.2.1 節で計算した

各値および、

353.205.0,305.0,25,2 ttnt

を式(5.8)に代入すると、二次方程式の各係数は、

0.014890

353.0353.2

90

5.7ˆˆ2222

2

SSX

tA

5837.0-90

6353.0353.22066.10095

90

5.72

ˆ2ˆˆ2

2

22

*

SSX

xtyB

4913.2490

6

5

1353.0353.2066.10095

1ˆˆ

222

2222

*

SSX

x

ntyC

となる。これより、実験データ①のリテスト期間又は有効期間は、

4.25

0148.02

4913.240148.045837.05837.0

2

4

2

2

*

A

ACBBx

より、25.4 箇月と推定できる。この推定値は、図 5.2 からも下側信頼限界(破線)と

含量 95%の交点として確認できる。 Q1E に拠れば、提示するリテスト期間又は有効期間は、 大でも長期データがカバ

ーする期間の 2 倍までかつ 12 箇月を超えないこととされている。よって、実験デー

タ①に基づく提示するリテスト期間又は有効期間は 大で 24 箇月となる。

61

5.3. 複数ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の推定

5.3.1. ロット毎のリテスト期間又は有効期間の推定

Q1A(R2)では、3 ロット以上の検体を試験することが要求されている。そこで、本節では

複数ロットの場合のリテスト期間又は有効期間の統計的推定について解説する。表 5.3 に、

複数ロットの場合の含量(%)の推移を示す。ここで、ロット 1 は実験データ①と同じ測定

値である。

表 5.3 実験データ②:複数ロットの含量(%)推移

0 3 6 9 12

1 99.76 100.28 99.86 98.56 99.37

2 101.54 100.00 100.39 100.49 98.35

3 101.89 101.61 100.39 100.75 101.25

測定時点(月)ロット

初に、5.2 節で解説した単一ロットの場合の手法を適用し、ロット毎に回帰分析および

リテスト期間又は有効期間の推定を行った結果を示す。

【実験データ②の計算例(ロット毎の解析)】 測定時点( x)は、3 つのロットで全て等しいので、nおよび xのみに関わる値

SXXx, は等しい。

ロット 1:

4.25

594.0ˆ,066.100ˆ,083.0ˆ

059.1,625.0,50.7,684.1,0.90

566.99,0.6,5

*

x

SSESSRSXYSYYSXX

yxn

ロット 2:

7.18

796.0ˆ,332.101ˆ,196.0ˆ

899.1,469.3,670.17,368.5,0.90

154.100,0.6,5

*

x

SSESSRSXYSYYSXX

yxn

ロット 3:

1.34

590.0ˆ,606.101ˆ071.0ˆ

045.1,458.0,420.6,503.1,0.90

178.101,0.6,5

*

x

SSESSRSXYSYYSXX

yxn

62

表 5.4 に、ロット毎に推定された回帰係数について纏めた。また、図 5.3 にロット毎に推

定された 3 本の回帰直線を示した。ここで、ロット 1 は測定値を●、回帰直線を通常線、ロ

ット 2 は測定値を▲、回帰直線を一点破線、ロット 3 は測定値を■、二点破線で示した。

表 5.4、図 5.3 から、ロット 2、ロット 3 は、切片は近い値であるが、ロット 2 の傾きは急

峻で、傾きには違いがあると考えられる。一方、ロット 1 とロット 3 は傾きは類似している

が、ロット 1 は切片が小さく、他の 2 つのロットとは異なっている。

表 5.4 実験データ②のロット毎の回帰係数

ロット 回帰係数 推定値 標準誤差 t値 p値

切片 100.066 0.460 217.40 <.0001

傾き -0.083 0.063 -1.33 0.276

切片 101.332 0.616 164.45 <.0001

傾き -0.196 0.084 -2.34 0.101

切片 101.606 0.457 222.26 <.0001

傾き -0.071 0.062 -1.15 0.335

1

2

3

96

97

98

99

100

101

102

103

0 3 6 9 12 15 18 21

時間(月)

含量

(%

図 5.3 実験データ②のロット毎の回帰直線

ロット 1(●、通常線)、ロット 2(▲、一点破線)、ロット 3(■、二点破線)

ロット毎にリテスト期間又は有効期間を推定する場合、5.2 節で解説した単一ロットの場

合と同様に式(5.8)を用いて推定することができる。ただし、Q1E ではロット毎に推定する

場合、誤差分散だけは各ロットから求められた分散を併合した併合誤差分散を用いることを

許容している。併合誤差分散は、全観測値数を totaln として式(5.9)で与えられる。ここで、

cはロットの数を、 iSSE はロット番号 i の誤差平方和を表している。

63

c

ii

total nn1

cn

SSE

total

c

ii

2ˆ 12 (5.9)

このとき t分布の上側確率は、併合誤差分散の自由度を用いて、

,2 cnt total

となる。

【実験データ②の計算例(併合誤差分散を用いた統計的推定)】 実験データ②について、併合誤差分散および t値は、

445.03215

045.1899.1059.1

2ˆ 12

cn

SSE

total

c

ii

1.83305.0,905.0,3215,2 ttcnt

となる。

ロット 1 について、信頼係数 95%下側信頼限界を対象とした規格値 0.95* y のとき

のリテスト期間又は有効期間の統計的推定値を、併合分散を用いて計算する。5.2.2節の実験データ①の計算例とは、併合誤差分散および t値の部分だけが異なる。 二次方程式の各係数は、

0.009790

445.0833.1

90

5.7ˆˆ2222

2

SSX

tA

645.0-90

6445.0833.12066.10095

90

5.72

ˆ2ˆˆ2

2

22

*

SSX

xtyB

767.2490

6

5

1445.0833.1066.10095

1ˆˆ

222

2222

*

SSX

x

ntyC

となり、リテスト期間又は有効期間は、

2.270097.02

767.240097.04645.0645.0 2

*

x

より、27.2 箇月と推定される。 この推定値は、実験データ①の計算例で算出された推定値 25.4 箇月よりも、若干長

く推定されていることが確認できる。図 5.4 に併合誤差分散を用いた場合の回帰直線

とその信頼係数 95%下側信頼限界値を示した。図 5.2 に較べて、図 5.4 では下側信頼

限界が回帰直線に僅かであるが近づいていることが確認できる。これは、併合誤差

64

分散を用いたことにより、誤差分散の自由度が大きくなったためであり、これによ

りリテスト期間又は有効期間が長く推定された。 さらに、ロット 2、ロット 3 についても同様に、リテスト期間又は有効期間を併合誤

差分散を用いて計算すると、それぞれ 21.6 箇月、36.6 箇月と推定される。ロット 1と同様に、ロット 2、ロット 3 も併合誤差分散を用いることによりリテスト期間又は

有効期間が長く推定されていることが確認できる。 Q1E に拠れば、全てのロットに共通したリテスト期間又は有効期間を設定する場合

は、 も短いロットから設定されるので、ロット 2 から 21 箇月と設定される。よっ

て、実験データ②に基づく提示するリテスト期間又は有効期間は 大でも 21 箇月と

なるが、通常、長期保存試験の測定時点として 21 箇月は設定しないため、提示する

リテスト期間又はリテスト期間又は有効期間は 大で 18 箇月となる。

93

94

95

96

97

98

99

100

101

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

時間(月)

含量

(%

図 5.4 実験データ②(ロット 1)の信頼係数 95%下側信頼限界値

(併合誤差分散を使用)

5.3.2. ロットの一括評価に関する検定とモデル分類

ロットが複数ある場合、5.3.1 節で解説したように併合誤差分散を用いてロット毎にリテス

ト期間又は有効期間を推定してもよいが、Q1E ではさらに各ロットの回帰係数(切片、傾

き)が類似していれば、共通の回帰係数を用いてロットを一括評価し、リテスト期間又は有

効期間を推定することを許容している。一般に、共通の回帰係数を用いて推定する方が、リ

テスト期間又は有効期間が長くなる。これは、ロット間で共通の回帰係数を用いることによ

り、モデルに含まれる回帰係数の数(モデルのパラメータ数)が少なくなるため誤差分散の

自由度が大きくなること、回帰係数の推定に寄与する観測値数が増加すること、回帰係数が

平均化されることに因る。しかし、共通の回帰係数によるロットの一括評価は、実験者が任

意に行って良いわけではなく、統計解析に基づいて行う必要がある。

ロットの一括評価に関する検定、すなわち回帰係数(傾き、切片)についてのロット間の

一様性検定は共分散分析によって行う。このとき、「傾き」、「切片」の順に検定を行う。

通常、有意水準としては 05.0 が用いられるが、Q1E では一様性検定において高い検出力を保

持することを目的に、有意水準として 25.0 を用いている(詳細は 4 章及び 7 章を参照)。

65

共分散分析の結果によりモデルは 3 つに分類される。本章では、その 3 つのモデルをモデ

ル 0M 、モデル 1M 、モデル 2M と書く。Q1E では、「これ以上はパラメータを減らすことが

できないモデル」を 減数モデルとよんでおり、リテスト期間又は有効期間の推定には 減

数モデルを用いることができる。

●モデル 0M

c 個のロットがある場合の統計モデルは、式(5.2)にロットを識別する添え字として iを

追加することによって得られる。すなわち、第 i番目のロットの切片および傾きをそれぞれ

ii , とし、第 i番目のロットについて時間 ijx における実測値を ijy 、誤差を ije とすると式

(5.10)となる。これをモデル 0M と定義する。

iijijiiij njciexyM ,,2,1,,2,1:0 (5.10)

式(5.10)は説明変数をロット、共変量を時間とした共分散分析(Analysis of Covariance,

ANCOVA)モデルとよばれる。また、全ての回帰係数を含んでいるという意味でフルモデル

とよばれる。

●モデル 1M

モデル 1M は、切片はロット毎に異なるが、傾きはロット間で共通であるモデルとして定

義する。すなわち式(5.10)のモデル 0M において、ロット毎の切片はそのままで、ロット間

で共通の傾きを と書くと式(5.11)となる。

iijijiij njciexyM ,,2,1,,2,1:1 (5.11)

式(5.11)は、フルモデルから一部の回帰係数の数が減少しているという意味で減数モデル

とよぶ。

●モデル 2M

モデル 2M は、ロット間で切片、傾きとも共通であるモデルとして定義する。すなわち式

(5.11)のモデル 1M において、ロット間で共通の切片を と書くと式(5.12)となる。

iijijij njciexyM ,,2,1,,2,1:2 (5.12)

66

式(5.12)もフルモデルから回帰係数の数が減少しているので減数モデルである。またモデ

ル 2M は、ロットを区別することなく回帰分析を行うモデルに他ならない。すなわちモデル

2M では、

total

totaltotaltotal

c

i

n

j

totalij

totalij

total

c

i

n

j

totalij

totalc

i

n

j

totalij

total

c

i

n

jijtotal

totalc

i

n

jijtotal

total

SXX

SXYSYYSSE

yyxxSXY

yySYYxxSXX

yn

yxn

x

i

ii

ii

2

1 1

1 1

2

1 1

2

1 11 1

,

1,

1

として、式(5.3)より回帰係数が求められる。

モデル分類の観点からは、傾きはロット間で異なり、切片はロット間で等しい第 4 のモデル

も考えられる。しかし、傾きの一様性検定によって傾きが異なると評価された場合、ロット

はもはや本質的に異なるものと考え切片の一様性検定は実施しない。よって、Q1E ではこの

第 4 のモデルでリテスト期間又は有効期間を推定することはないとしている。

実験データ②について共分散分析を行うと表 5.5 の結果が得られる。実験データ②では、

「フルモデル下での分散分析表」の「要因:傾き・ロット」から、傾きの一様性は棄却され

ない( 25.0418.0 p )。しかし、「共通傾きの下での分散分析表」の「要因:切片・ロッ

ト」より、切片の一様性は棄却される( 25.0009.0 p )。この結果、 減数モデルはモデ

ル 1M となり、ロット間で切片は異なるが、傾きは共通である回帰モデル、

xy 117.0

880.101

856.100

268.100

に基づいてリテスト期間又は有効期間を推定する。

67

表 5.5 実験データ②の共分散分析

フルモデルの下での分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方 F値 p値

傾き 1 3.696 3.696 - -

切片・ロット 2 6.655 3.327 - -

傾き・ロット 2 0.856 0.428 0.96 0.418

誤差 9 4.003 0.445 - -

合計 14 15.210 - - -

共通傾きの下での分散分析表

要因 自由度 平方和 平均平方 F値 p値

傾き 1 3.696 3.696 8.37 0.015

切片・ロット 2 6.655 3.327 7.53 0.009

誤差 11 4.859 0.442 - -

合計 14 15.210 - - -

減数モデルの回帰係数

推定値 標準誤差 t値 p値

ロット1 100.268 0.384 261.31 <.0001

ロット2 100.856 0.384 262.84 <.0001

ロット3 101.880 0.384 265.51 <.0001

傾き 共通 -0.117 0.040 -2.89 0.015

切片

回帰係数

5.3.3. 共分散分析とリテスト期間又は有効期間の推定

本節では、ロットの一括評価に関する検定に用いる共分散分析及び 減数モデルに基づくリ

テスト期間又は有効期間の統計的推定について解説する。ここで、 cはロットの数を、添え

字 iは、該当するロット番号を表している。

ロットの一括評価に関する検定は、以下を仮説とした傾きの一様性検定からはじめる。

が成り立たない01

210

:

:

HH

H c

このとき、ロット間の傾きの違いの平方和は、

ロット間の傾きの違いの平方和

=( 0H の下でのモデルの誤差平方和)―( 1H の下でのモデルの誤差平方和)

と求められる。 1H の下でのモデルはロット毎に傾きと切片が与えられているモデル 0M に他

68

ならない。モデル 0M の誤差平方和 0MSSE は、ロット毎に求められた誤差平方和を合計し

た式(5.13)で与えられる。ここで iii SXYSXXSYY ,, はロット番号 i の各平方和を表している。

c

ii

c

i i

ii SSE

SXX

SXYSYYMSSE

11

2

0 (5.13)

一方、 0H の下でのモデルは傾きが共通であるのでモデル 1M に他ならない。モデル 1M の誤

差平方和 1MSSE は、 初に各平方和をロットで合計しておいてから、誤差平方和の定義式

に当てはめることによって、式(5.14)で与えられる。

c

ii

c

iic

ii

SXX

SXY

SYYMSSE

1

2

1

11 (5.14)

以上より、ロット間の傾きの違いを表す平方和は、

01 MSSEMSSE

で定義され、傾きの一様性検定についての F 値は式(5.15)となり、この値に基づいて検定

を行う。

cnMSSE

cMSSEMSSEF

total 2/

1/

0

01

(5.15)

傾きの一様性検定が有意であるとき、すなわち 0H が棄却されたとき、 減数モデルはモ

デル 0M となる。モデル 0M の下での第 i ロットのリテスト期間又は有効期間は、二次方程式

の各係数を、

i

i

ii

i

iii

ii

SSX

x

ntyC

SSX

xtyB

SSX

tA

2222

*

22

*

222

1ˆˆ

ˆ2ˆˆ2

ˆˆ

として求めることができる。ここで、

69

,2

ˆ

ˆˆ

02

cntt

cn

MSSE

SXX

SXY

xy

total

total

i

ii

iii

である。このとき誤差分散の自由度が、 cntotal 2 となるのは、モデル 0M ではロット毎に

切片、傾きの 2 つの回帰係数、すなわち合計 c2 個のパラメータが含まれてることに由来して

いる。

モデル 0M では c 個のロットのリテスト期間又は有効期間が推定され、このうち も短いロ

ットの値がリテスト期間又は有効期間の統計的推定値となる。ちなみに、モデル 0M による

リテスト期間又は有効期間の推定は、5.3.1 節で解説した併合誤差分散を用いてロット毎にリ

テスト期間又は有効期間を推定する場合と全く同じである。以下にモデル 0M の分散分析表

を示す。

分散分析表(モデル 0M )

要因 自由度 平方和 平均平方

傾き・ロット

1c 01 MSSEMSSE 1

01

c

MSSEMSSE

誤差 cntotal 2 0MSSE cn

MSSEtotal 2

0

傾きの一様性検定が有意でないとき、すなわち 0H が棄却されなかったとき、次に以下を仮

説とした切片の一様性検定を行う。

が成り立たない01

210

:

:

KK

K c

但し c 21

このとき、ロット間の切片の違いの平方和は、

70

ロット間の切片の違いの平方和

=( 0K の下でのモデルの誤差平方和)―( 1K の下でのモデルの誤差平方和)

と求められる。 1K の下でのモデルは、ロット間で傾きは等しいが切片は異なるのでモデル

1M に他ならない。このときの誤差平方和 1MSSE は式(5.14)である。一方、 0K の下での

モデルは切片および傾きが共通であるのでモデル 2M である。このときの誤差平方和

2MSSE は、式(5.16)で与えられる。

total

totaltotaltotal

SXX

SXYSYYSSEMSSE

2

2 (5.16)

以上より、ロット間の切片の違いを表す平方和は、

12 MSSEMSSE

で定義され、切片の一様性検定についての F 値は式(5.17)となり、この値に基づいて検定

を行う。

1/

1/

1

12

cnMSSE

cMSSEMSSEF

total (5.17)

切片の一様性検定が有意であるとき、すなわち 0K が棄却されたとき、 減数モデルはモデ

ル 1M となる。モデル 1M の下での第 i ロットのリテスト期間又は有効期間は、二次方程式の

各係数を、

c

ii

i

ii

c

ii

ii

c

ii

SSX

x

ntyC

SSX

xtyB

SSX

tA

1

2222

*

1

22

*

1

222

1ˆˆ

ˆ2ˆˆ2

ˆˆ

71

として求めることができる。ここで、

,1

ˆ

ˆˆ

12

1

1

cntt

cn

MSSE

SXX

SXY

xy

total

total

c

ii

c

ii

iii

である。モデル 1M では、ロット間で共通の傾きおよびロット毎の切片の合計 1c 個の回帰

係数が含まれているので、誤差分散の自由度は 1 cntotal となる。モデル 1M では c個のロ

ットのリテスト期間又は有効期間が推定され、このうち も短いロットの値がリテスト期間

又は有効期間の統計的推定値となる。以下にモデル 1M の分散分析表を示す。

分散分析表(モデル 1M )

要因 自由度 平方和 平均平方

傾き 1 totalxx

totalxy

S

S2

totalxx

totalxy

S

S2

切片・ロット

1c 12 MSSEMSSE 1

12

c

MSSEMSSE

誤差 1 cntotal 1MSSE 1

1

cn

MSSEtotal

合計 1totaln totalSYY -

切片の一様性検定が有意でないとき、すなわち 0K が棄却されなかったとき、 減数モデル

はモデル 2M となる。モデル 2M の下でのリテスト期間又は有効期間の推定は、二次方程式の

各係数を、

total

total

total

total

total

total

SSX

x

ntyC

SSX

xtyB

SSX

tA

2

222*

22

*

222

1ˆˆ

ˆ2ˆˆ2

ˆˆ

72

として求めることができる。ここで、

,2

ˆ

ˆˆ

22

total

total

total

total

totaltotal

ntt

n

MSSESXX

SXY

xy

である。モデル 2M では、ロット間で共通の傾きと切片の合計 2 個の回帰係数が含まれるの

で誤差分散の自由度は 2totaln となる。モデル 2M ではロットの区別はないので、一つのリ

テスト期間又は有効期間が推定される。以下にモデル 2M の分散分析表を示す。

分散分析表(モデル 2M )

要因 自由度 平方和 平均平方

傾き 1 totalxx

totalxy

S

S2

totalxx

totalxy

S

S2

誤差 2totaln 2MSSE 22

totaln

MSSE

合計 1totaln totalSYY -

ここで、各モデルの分散分析表の誤差平方和をみると、モデル 1M の誤差平方和は、モデ

ル 0M の誤差平方和と傾きのロット間平方和を加えたものになっている。また、モデル 2M の

誤差平方和は、モデル 1M の誤差平方和と切片のロット間平方和を加えたものになっている。

この手順は、有意でない回帰係数(傾き、切片)の平方和を誤差平方和に加えて新たに誤差

平方和を構成していくものである。この手順をプーリング(併合)とよぶ。リテスト期間又

は有効期間の統計的推定は、回帰係数(傾き、切片)の一様性検定とプーリングの手順を繰

り返し、 終的に得られた 減数モデルの下で行う。

【実験データ②の計算例(一括評価に関する検定と統計的推定)】 実験データ②について、ロットの一括評価に関する検定および信頼係数 95%下側信

頼限界を対象とした規格値 0.95* y のときのリテスト期間又は有効期間の統計的推

定値を計算する。 各モデルにおける誤差平方和は、それぞれ式(5.13)、式(5.14)、式(5.16)よ

73

り、

003.4045.1899.1059.13

10

iiSSEMSSE

859.4

390

42.667.175.7503.1368.5684.1

2

3

1

23

13

11

ii

ii

ii

SXX

SXY

SYYMSSE

514.11

270

590.31210.15

22

2 total

totaltotal

SXX

SXYSYYMSSE

となる。 初に傾きの一様性の検定を行う。ここでロット間の傾きの違いの平方和は、

856.0003.4859.401 MSSEMSSE

となるので、 F 値は式(5.15)から、

96.03215/003.4

13/856.0

2/

1/

0

01

cnMSSE

cMSSEMSSEtotal

となる。このとき、 25.0418.0 p となるので傾きの一様性は棄却されず、傾きは

ロット間で共通と判断する。 傾きの一様性が棄却されなかったので、次に切片の一様性の検定を行う。ここで、

ロット間の切片の違いの平方和は、

655.6859.4514.1112 MSSEMSSE

となるので、 F 値は式(5.17)から、

53.7

1315/859.4

13/655.6

1/

1/

1

12

cnMSSE

cMSSEMSSEtotal

となる。このとき、 25.0009.0 p となり切片の一様性は棄却され、切片はロット

毎に異なると判断する。以上より、実験データ②の 減数モデルはモデル 1M とな

る。

モデル 1M のとき、回帰係数および誤差分散は、

117.0390

42.667.175.7ˆ

1

1

c

ii

c

ii

SXX

SXY

880.1016)117.0(178.101ˆˆ

856.1006)117.0(154.100ˆˆ

268.1006)117.0(566.99ˆˆ

333

222

111

xy

xy

xy

74

796.105.0,1105.0,1315,1

442.01315

859.4

1ˆ 12

ttcnttcn

MSSEtotal

となる。ここで 589.41 MSSE は、モデル 0M の誤差平方和 003.4 とロット間の傾

きの平方和 856.0 の合計となっており、プーリングが行われていることが確認でき

る。 測定時点は 3 つのロットで全て等しく、傾きはロット間で共通であるので、切片か

ら 3*2*1* xxx の関係が成立つ。よって、全てのロットに共通したリテスト期間又

は有効期間は、切片の も小さいロット 1 から設定される。モデル 1M の下でのロッ

ト 1 についての二次方程式の各係数は、

0084.0390

442.0796.1117.0

ˆˆ2

2

3

1

222

i

iSSX

tA

1694.1390

6442.0796.12268.10095117.02

ˆ2ˆˆ2

2

3

1

222

1*

i

iSSX

xtyB

2766.27390

6

5

1442.0796.1268.10095

1ˆˆ

222

3

1

21

1

2221*

i

iSSX

x

ntyC

となり、リテスト期間又は有効期間の推定値は、

6.290084.02

2766.270084.041694.11694.1 2

1*

x

より、29.6 箇月と推定される。この推定値は、5.3.1 節で併合誤差分散を用いて推定

された 21.6 箇月よりも長く推定されていることが確認できる。

図 5.5 に 減数モデル 1M の下でのロット 1 についての回帰直線とその信頼係数 95%

下側信頼限界値を示した。図 5.4 に較べて、図 5.5 では下側信頼限界が回帰直線に近

づいている。これは、併合誤差分散と共通の傾きを用いたため、誤差分散の自由度

が大きくなったこと及び回帰係数の推定に寄与する観測値数が増加したためであ

る。また、図 5.3 で見かけ上 も分解速度の早いロット 2 に較べて、図 5.3 の共通の

傾きは緩やかになっている。これは、ロット毎の傾きが平均化されたためである。

これらの理由によりリテスト期間又は有効期間が、5.3.1 節で併合誤差分散を用いた

ロット毎の推定値よりも長く推定された。 Q1E に拠れば、提示するリテスト期間又は有効期間は、 大でも長期データがカバ

ーする期間の 2 倍までかつ 12 箇月を超えないこととされている。よって、実験デー

タ②に基づく提示するリテスト期間又は有効期間は 大で 24 箇月となる。

75

93

94

95

96

97

98

99

100

101

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

時間(月)

含量

(%

図 5.5 実験データ②の回帰直線と信頼係数 95%下側信頼限界値

( 減数モデルでのロット 1)

5.4. 行列による表現

5.4.1. 回帰モデル

5.3 節で解説したように実験因子がロットのみの場合はそれほど複雑ではないが、ロット

以外の因子(包装形態や含量)があり統計モデルがさらに複雑になると、5.2 節や 5.3 節のよ

うに回帰係数やリテスト期間又は有効期間の推定値を具体的に数式で書き下すことは困難に

なる。

そこで、本章の内容の一部について行列による表現を与えておく。行列による表現は、モ

デルの構造が複雑になる場合でも統一的に示すことができるので大変有用である。行列は

少々難解に感じるかもしれないが、行列演算自体は表計算ソフトウェアでも実行可能である。

なお、ここでの行列表現は入門的内容であり、より一般化した理論的部分は 6 章に示した。

統計モデルの一般的な行列表現は、式(5.19)となる。

eXθy (5.18)

ここで観測値数を n、モデルに含まれるパラメータ数を p として、 pn:X をデザイン行列、

1:1:1: pnn θ,e,y をそれぞれ、観測値ベクトル、誤差ベクトル、パラメータベクトル

とよぶ。統計モデルが式(5.18)で表されるとき、パラメータベクトルの推定量 θ は式

(5.19)、誤差平方和 SSE は式(5.20)、パラメータの推定量の分散および共分散(分散共

分散行列)は式(5.21)でそれぞれ求めることができる。ここで、 X は行列 X の転置行列

を、 1X は行列 X の逆行列を表す。

yXXXθ 1ˆ (5.19)

θXXθyy ˆˆ SSE (5.20)

76

12ˆˆ XXθ

(5.21)

式(5.2)の回帰モデルでは、パラメータは切片と傾きであるので 2p となり、 θXe,y, , を

それぞれ式(5.22)で表すことができる。

θXey ,

1

1

,,111

nnn x

x

e

e

y

y

(5.22)

ここで式(5.19)、式(5.20)、式(5.21)を、式(5.22)のモデルの場合に実際に書き下

してみる。

まず式(5.19)は、

n

jjj

n

jjj

n

jj

nn

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

nn

yx

yn

yx

y

y

y

xx

x

xxn

xnxnxn

xnx

xnxn

xxn

xnn

xx

xn

x

x

xx

11

1

1

1

1

2

2

1

21

2

22

1

2

1

1

2

1

2

1

11

1

11

1

111

1

111

yX

XX

XX

より回帰係数の推定量 ˆ,ˆ は、

yxnyx

yxxxy

SXXyx

yn

x

xxn

xnxn

jjj

n

ijj

n

jj

n

jjj

n

jj

n

jj

1

11

2

1

1

2

2

1

2

1

1

1

11

ˆˆˆ yXXXθ

77

SXX

SXY

xSXX

SXYy

SXY

yxnSXYxxnSXXy

SXX

21

となり式(5.3)と一致している。

また式(5.20)は、

SXX

SXYSYYSXYyxn

SXX

SXYyxn

SXX

SXYyny

SXYyxn

yn

SXX

SXYx

SXX

SXYyy

xnSXXSXX

SXYxn

SXX

SXYyxn

xnSXX

SXYxn

SXX

SXYyn

SXX

SXYx

SXX

SXYyy

SXX

SXY

xSXX

SXYy

xxn

xnn

SXX

SXYx

SXX

SXYyy

SSE

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

n

jj

22

1

2

1

2

221

2

1

2

1

2

ˆˆ

θXXθyy

となり式(5.4)と一致している。

また式(5.21)は、

SXXSXX

xSXX

x

SSX

x

n

x

xn

xnSXX

SXX

x

xxn

xnxSE

SEn

jj

n

jj

22

2222

2

1

2

2

1

2

212

2

2

ˆˆ

ˆ1ˆ

1

ˆ

1

ˆˆˆ,ˆcov

ˆ,ˆcovˆˆ

XXθ

となりその対角要素は 5.2.1 節で示したものと一致している。

5.4.2. リテスト期間又は有効期間の推定

ある点 x における y の推定値は係数ベクトル、

78

x1L

を用意して、

xxy ˆˆˆˆ

1ˆˆ

θL

と表すことができる。このとき、 y の分散 yvar は式(5.21)の分散共分散行列を用いて、

式(5.23)となる。

LXXL

LθLLθL

θL

12ˆ

ˆˆvar

ˆvarˆvar

y

(5.23)

したがって式(5.23)より、規格値 *y に対するリテスト期間又は有効期間を *x とすると、

** , yx は式(5.24)を満たす。ここで *Lは *x を含む係数ベクトルである。式(5.22)のモ

デルの場合、式(5.24)を実際に書き下すと式(5.7)となる。

*

1**

****

ˆˆ

ˆˆ

LXXLθL

LθLθL

t

ty (5.24)

5.4.3. 共分散分析モデル

本節では共分散分析モデル 0M 、 1M 、 2M の行列表現を与えておく。まず観測値ベクトル

1: totalny 、誤差ベクトル 1: totalne を以下のように表す。

cc cn

ij

n

cn

ij

n

e

e

e

e

e

e

y

y

y

y

y

y

21

1

12

11

21

1

12

11

11

, ey

79

式(5.10)のモデル 0M は、 12:,2:00

ccn Mtotal

M θX を用いて以下のように表すことが

できる。

c

cM

cn

c

n

n

M

MM

cx

x

x

x

x

x

1

1

1

2

21

1

11

0

2

1

0

00

,

00100

1

0000

1

010

001

00001

θX

eθXy

モデル 0M ではリテスト期間又は有効期間はロット毎に推定する。第 i 番目のロットのリ

テスト期間又は有効期間は0Mθ の要素に対応して、 i に対応する要素を1、 i に対応する要

素を *x とした c2 個の要素を持つ係数ベクトル、

00010 ** xL

を用いて、式(5.24)を満たす *x として c 個のリテスト期間又は有効期間を求めることがで

きる。

式(5.11)のモデル 1M は、 11:,1:11

ccn Mtotal

M θX を用いて以下のように表すこ

とができる。

80

cM

cn

c

n

n

M

MM

cx

x

x

x

x

x

1

1

2

21

1

11

1

2

1

1

11

,

100

1

00

1

10

01

001

θX

eθXy

モデル 1M ではリテスト期間又は有効期間はロット毎に推定する。第 i 番目のロットのリ

テスト期間又は有効期間は1Mθ の要素に対応して、 i に対応する要素を1、 に対応する要

素を *x とした 1c 個の要素を持つ係数ベクトル、

** 010 xL

を用いて、式(5.24)を満たす *x として c 個のリテスト期間又は有効期間を求めることがで

きる。式(5.12)のモデル 2M は、 12:,2:22

Mtotal

M n θX を用いて以下のように表すことが

できる。

2

2

1

2

22

,

1

1

1

21

21

1

11

M

cn

c

n

n

M

MM

cx

x

x

x

x

x

θX

eθXy

81

モデル 2M ではリテスト期間又は有効期間は全てのロットで共通である。すなわち、リテ

スト期間又は有効期間は2Mθ の要素に対応して、2個の要素を持つ係数ベクトル、

** 1 xL

を用いて、式(5.24)を満たす *x として一つのリテスト期間又は有効期間を求めることがで

きる。

参考文献

1) Ruberg, S.J. and Stegeman, J.W.,“Pooling Data for Stability Studies: Testing the Equality of Batch

Degradation Slopes”,Biometrics, 47:1059-1069,1991

2) Chen, J.J., Ahn, H., and Tsong, Y., “Shelf-life Estimation for Multifactor Stability Studies”, Drug

Inf. Journal, 31:573-587,1997

3)宮原英夫,丹後俊郎,“医学統計学ハンドブック”,朝倉書店,1995

4)竹内啓,芳賀俊郎,野澤昌弘,岸本淳司,“SAS による回帰分析”,東京大学出版,1996

82

6. 統計的推測の基礎

6.1. はじめに

本章では安定性試験の解析で用いられる共分散分析の数理的な基礎を解説する。基礎とな

るのは正規線形モデルの推測理論である。統計モデルを考える場合にロットとそれ以外の実

験因子の関係が重要である。実験因子が包装形態の場合には、同一ロットの製剤がいずれの

包装にも使用されるので、同一ロットの全データの平均には、全ての包装の影響がいずれの

ロット平均にも等しく含まれ、包装形態と独立にロット間の比較が出来る。同様の理由でロ

ットと独立に包装間の比較が出来る。また、全てのロットが全ての包装で試験されているの

でロットと包装の組み合わせ効果(交互作用)を見ることが出来る。

 ロット1

 ロット3

 ロット2

包装1

包装2

包装3

 ロット1

 ロット3

 ロット2

包装1

包装2

包装3

図 6.1 ロットと包装が交差している場合

含量が実験因子の場合、一般には含量が異なればロットは異なるのですべてのロットが全て

の含量と組み合わせられない。したがって含量と独立にロット間の比較をすることは意味を

もたず、また含量とロットの組み合わせ効果も見ることは出来ない。

含量1 含量3含量2

ロット1

ロット3

ロット2

ロット7

ロット9

ロット8

ロット4

ロット6

ロット5

含量1 含量3含量2

ロット1

ロット3

ロット2

ロット7

ロット9

ロット8

ロット4

ロット6

ロット5

図 6.2 ロットが含量に入れ子になっている場合

83

このように実験因子が包装形態の場合と含量の場合には要因効果(用語集参照)のモデル

が異なる。前者のようにロット以外の因子の全水準で同一のロットが試験に供されている場

合、その因子とロットは交差しているといい、含量とロットの関係のように因子の水準ごと

にロットが異なる場合にロットはその因子に入れ子になっているという。ロットがロット以

外の因子と交差しているか入れ子になっているかは統計モデルを考えるうえで重要である。

含量S1、S2、S3のロットが同一の顆粒ロット(カプセル充填又は打錠の前)から製造され

ている場合(図6.1)には、含量とロットは交差するとみなすことができる。

顆粒ロット1

含量S1ロット1

含量S2ロット1

含量S3ロット1

顆粒ロット2

含量S1ロット2

含量S2ロット2

含量S3ロット2

顆粒ロット3

含量S1ロット3

含量S2ロット3

含量S3ロット3

顆粒ロット1

含量S1ロット1

含量S2ロット1

含量S3ロット1

顆粒ロット2

含量S1ロット2

含量S2ロット2

含量S3ロット2

顆粒ロット3

含量S1ロット3

含量S2ロット3

含量S3ロット3

図 6.3 含量とロットが交差の関係にある場合の例

多因子実験における因子の個々の水準組み合わせを改めて 1 つの因子の水準とみなすこと

によって、多因子実験は 1 因子実験の特別な場合として扱うことができる。例えば表 6.1 の

ように、含量が 3 水準あり、各含量で 3 ロットをとり各ロットの製剤が 3 つの包装形態で試

験されているとする。この場合には含量と包装形態の 9 通りの水準組み合わせができるので、

9 水準からなる実験因子があり、各水準で 3 ロットが試験されているとみなすことができる。

安定性試験では各因子水準組み合わせで定まる個々のロットごとに経時的測定値系列が得ら

れる。共分散分析では各水準組み合わせの個々のロット毎に回帰直線を当てはめることが基

本となっている。この基礎となる因子水準組み合わせの下でのロットごとの一組の測定値系

列をクラスと呼ぶことにする。上に述べた例ではクラス数は 3x3x3=27 である。そのような

試験から得られるデータを表に表すと、例えば表 6.1 のようになる。

84

表 6.1 含量 3水準各水準 3ロットで 3種類の包装形態がある場合の試験データ.

観測値 kjiilY )( の添え字 i は含量、 )(il は含量 i 内のロット、

k は包装形態、そして j は時間を表す。

包装 含量 ロット P1 P2 P3 S1 L11 1)1(111)1(11 ,,1, njY j 2)1(112)1(11 ,,1, njY j 3)1(113)1(11 ,,1, njY j

L12 1)1(121)1(12 ,,1, njY j 2)1(122)1(12 ,,1, njY j 3)1(123)1(12 ,,1, njY j

L13 1)1(131)1(13 ,,1, njY j 2)1(132)1(13 ,,1, njY j 3)1(133)1(13 ,,1, njY j

S2 L21 1)2(211)2(21 ,,1, njY j 2)2(212)2(21 ,,1, njY j 3)2(213)2(21 ,,1, njY j

L22 1)2(221)2(22 ,,1, njY j 2)2(222)2(22 ,,1, njY j 3)2(223)2(22 ,,1, njY j

L23 1)2(131)2(23 ,,1, njY j 2)2(232)2(23 ,,1, njY j 3)2(2133)2(23 ,,1, njY j

S3 L31 1)3(311)3(31 ,,1, njY j 2)3(312)3(31 ,,1, njY j 3)3(313)3(31 ,,1, njY j

L32 1)3(321)3(32 ,,1, njY j 2)3(322)3(32 ,,1, njY j 3)3(323)3(32 ,,1, njY j

L33 1)3(331)3(33 ,,1, njY j 2)3(332)3(33 ,,1, njY j 3)3(333)3(33 ,,1, njY j

6.2. 共分散分析モデル

6.2.1. 一般的な多クラスモデル

全部で c個のクラスがあるとする。クラス iでの測定回数を in 、測定時点を iij njx ,,1,

とする。対応する品質特性測定値を iij njY ,,1, とする。共分散分析のモデルは

cinjexY iijijiiij ,,1,,,1, (6.2.1)

と表される、ここに cinje iij ,,1,,,1, は測定誤差であり、互いに独立に平均値 0、分

散 2i の正規分布に従うと仮定する。いま第 iクラスの観測値、観測時点、及び誤差項を式

(6.2.2)で表す。

iii in

i

i

in

i

i

in

i

i

e

e

x

x

Y

Y

111

,, exY (6.2.2)

85

また任意の整数mについてすべての要素が 1 であるm次元縦ベクトルを )'1,,1( m1 、すべ

ての要素が 0 であるm次元縦ベクトルを )'0,,0( m0 とあらわす。またm次の恒等行列を

mI と書く。このときクラス iにおいて(6.2.1)のモデルは

ii

iini i

ex1Y

],[ 、 ),(~ 2

ii nini N I0e (6.2.3)

と表せる。さらに

cccc

1111

~,~

,, μβ

e

e

e

Y

Y

Y 、 (6.2.4)

cn

n

cx00

00

00x

X

100

00

001

C 1

~,

~ 1

と書くと、すべてのクラスにわたる回帰モデルを

),(~,~~

:0 Σ0eeβXμCY NM (6.2.5)

と表すことができる。ただし、

cnc

n

I0

0I

Σ2

21 1

(6.2.6)

である。ここでは誤差分散はクラスごとに異なり得るとしている。第 5 章までの解説ではす

べての因子水準組み合わせのすべてのロットで誤差分散は等しいと仮定していた。安定性試

験の場合このような仮定が常に成立するとはいえないかもしれない。しかしガイドラインで

は誤差分散をロット間あるいは実験因子の水準間で併合してよいと述べているので、前章ま

での解説ならびに以降の解析方法の解説では誤差分散は試験全体で共通であると仮定する。

したがって以降の多クラスモデルでは 222

21 c と仮定し、共通な分散を 2 と表す。

86

6.2.2. 実験因子が包装形態である場合

包装形態として 321 ,, PPP の 3 水準を考える。含量はただ 1 水準だけとする。この場合には

包装形態の 3 水準で各 3 ロットが試験されるので 9 クラスの試験であり、ロットは包装形態

と交差している。第 i包装における第 j ロットの切片と傾きをそれぞれ ij と ij とし、これら

を包装形態主効果、ロット主効果、包装形態とロットの交互作用効果の和として表現する方

法の一例を表 6.2 に示す。ここでは包装形態 3P 、ロット 3L を基準として要因効果パラメータ

を定義している。即ち、 2,1, iAi は包装形態主効果、 2,1, jL

j はロット主効果、

2,1,2,1, jiALij は包装形態とロットの交互作用効果であり、

033231332313133 ALALALALALALLA

としている。

表 6.2 実験因子とロットが交差している場合の各クラスの

回帰係数の要因効果パラメータによる表現 包装形態

ロット 1L ロット 2L ロット 3L

1P ALLA111111 ALLA

122112 A113

2P ALLA211221 ALLA

222222 A223

3P L131 L

232 33

切片についても同様に包装形態主効果、ロット主効果、そして包装形態とロットの交互作用

効果を定義する。第 4 章では }{ ij の要因効果の構造をAL

ijLj

Aiij のように表

現していた。この表現に合わせる場合には 0333231231333 ALALALALALLA と

定義すればよい。

この試験では 初に傾きについて包装形態とロットの交互作用を検定し、以後順

次、切片におけるロットと包装形態の交互作用、傾きにおけるロット主効果、切片に

おけるロット主効果、傾きにおける包装形態の主効果、切片における包装形態主効果

を検定する。この推測手順を都合よく進めるために、傾き並びに切片に対して要因効

87

果を表現する係数行列Wを次のように定める。これらを用いると観測値 ijY に対する

パラメータによるモデルにおける係数は表 6.3 のようになる。

表 6.3 ロットが実験因子に交差している場合の各クラスの回帰係数の

要因効果パラメータによる表現

クラス 容器 ロット A1 A

2 L1 L

2 AL11 AL

12 AL21 AL

221 1 1 1 1 0 1 0 1 0 0 0 2 1 2 1 1 0 0 1 0 1 0 0 3 1 3 1 1 0 0 0 0 0 0 0 4 2 1 1 0 1 1 0 0 0 1 0 5 2 2 1 0 1 0 1 0 0 0 1 6 2 3 1 0 1 0 0 0 0 0 0 7 3 1 1 0 0 1 0 0 0 0 0 8 3 2 1 0 0 0 1 0 0 0 0 9 3 3 1 0 0 0 0 0 0 0 0

いま、 )',,(~

91 β とする。そこで )',,,,,,,,( 2221121121210ALALALALLLAA β とおき、

このベクトル成分の配列に対応して、表 6.3 の第 1 列のみのベクトル、第 2 列と第 3 列から

なる行列、第 4 列と第 5 列からなる行列及び、第 6 列から第 9 列からなる行列をそれぞれ、

ALLA WWWw ,,,0 と置き ],,,[ 0 ALLA WWWwW と表す。同様に )',,(~91 μ 及び

)',,,,,,,,( 2221121121210ALALALALLLAA μ とおく。このとき 0

~Wββ 及び 0

~ Wμμ と表

せる。

一般に実験因子がa水準、ロットがb 個のとき、 abc として、

)',,,,,,,,,,,(

)',,,,,,,,,,,(

11111111110

11111111110

ALba

ALb

ALLb

LAa

A

ALba

ALb

ALLb

LAa

A

μ

β (6.2.7)

とおく。表 6.3 の係数行列にならって行列 ALLA WWWw ,,,0 をそれぞれ、 c次元縦ベクトル、

)1( ac 行列、 )1( bc 行列、及び )1)(1( bac 行列として、

],,,[ 0 ALLA WWWwW (6.2.8)

とおく。さらに

88

],,,[,~

,~

,~

,~

],,,[,~~~

,~

0000

0000

ALLAALALLLAA

ALLAALALLLAA

XXXxXWXXWXXWXXwXx

CCCcCWCCWCCWCCwCc

(6.2.9)

とおく。このとき共分散分析のモデル(6.2.5)は

),(~,0000 Σ0eeβXμCY nN (6.2.10)

と表せる。ここに cnnn 1 は総観測値数である。また

),,,,(),,,(),,,(

)',,,,(,)',,(,)',,(

1111111111

1111111111

ALba

ALb

ALALLb

LLAa

AA

ALba

ALb

ALALLb

LLAa

AA

μμμ

βββ (6.2.11)

とおくことにより、

),(~

,

00

00

Σ0e

eβXμCβXμCβXμCxc

eβXβXβXxμCμCμCcY

n

ALALALALLLLLAAAA

ALALLLAAALALLLAA

N

(6.2.12)

と表しても良い。この表現は後に意味をもってくる。

上記の表現に代わって、全ての因子水準と要因効果パラメータを対称的に扱い、主効果及

び交互作用効果を次のように定義する場合を考える。即ち、

3,2,1,3/,3,2,1,3/,9/3

1

3

1

3

1

3

1 ji

i ij

L

ji ij

A

ii j ij (6.2.13)

と置き、

L

j

A

iijAL

ijjLji

Ai

~,

~,

~ (6.2.14)

を包装形態主効果、ロット主効果及び包装形態とロットの交互作用効果とする。これより、

ALij

Lj

Aiij ~~~

(6.2.15)

と表すことができる。この場合には次の制約条件が加わる。

3,2,1,0~

,3,2,1,0~

,0~

,0~ 3

1

3

1

3

1

3

1

ijj

ALjii

ALijj

Lji

Ai (6.2.16)

この制約条件から、例えば

ALALALALALALAL

ALALALALALAL

ALALALALALAL

22211211231333

222123121113

221232211131

,,

,,

(6.2.17)

の関係を用いると、要因効果パラメータの係数行列を表 6.4 のように表せる。

89

この係数行列を *W 、パラメータを )',,,,,,,,( 222112112121* ALALALALLLAA β とおくと、

**0

~βWWββ より、 **1

0 βWWβ と表せる。

表 6.4 ロットが実験因子に交差している場合の各クラスの回帰係数の

要因効果パラメータによる表現(6.2.15)における係数行列

クラス 容器 ロット A1 A

2 L1 L

2 AL11 AL

12 AL21 AL

221 1 1 1 1 0 1 0 1 0 0 0 2 1 2 1 1 0 0 1 0 1 0 0 3 1 3 1 1 0 -1 -1 -1 -1 0 0 4 2 1 1 0 1 1 0 0 0 1 0 5 2 2 1 0 1 0 1 0 0 0 1 6 2 3 1 0 1 -1 -1 0 0 -1 -1 7 3 1 1 -1 -1 1 0 -1 0 -1 0 8 3 2 1 -1 -1 0 1 0 -1 0 -1 9 3 3 1 -1 -1 -1 -1 -1 -1 -1 -1

6.2.3. 実験因子が含量である場合

表 2.1a の例で包装形態は PTP としたとき、含量は 3 水準あり、その各水準で 3 ロットが試

験されている。各ロットは含量のいずれかの水準に入れ子になっているのでロットと含量の

効果を分離することはできない。したがって第 i 含量の第 j ロットの傾きと切片をそれぞれ

)(iij 及び )(iij と書く。ここに添え字 )(ij は含量の第 i 水準に入れ子になっている第 j ロット

を表す。これらのパラメータの構造は表 6.5 の通りである。これらのパラメータに対するデ

ザイン行列は表 6.6 のようになる。

表 6.5 ロットが実験因子に入れ子になっている場合の各クラスの回帰係数の要因効果

パラメータによる表現。ロット )(ilL は含量の水準 iのなかの第 lロットを表す。 含量 ロット )(1 iL ロット )(2 iL ロット )(3 iL

1S LA111 LA

121 A1

2S LA212 LA

222 A

2

3S L31 L

32

90

表 6.6 ロットが実験因子に入れ子になっている場合の各クラスの回帰係数の

要因効果パラメータによる表現

クラス 含量 ロット A1 A

2 L11 L

12 L21 L

22 L31 L

32

1 1 1 1 1 0 1 0 0 0 0 0 2 1 2 1 1 0 0 1 0 0 0 0 3 1 3 1 1 0 0 0 0 0 0 0 4 2 1 1 0 1 0 0 1 0 0 0 5 2 2 1 0 1 0 0 0 1 0 0 6 2 3 1 0 1 0 0 0 0 0 0 7 3 1 1 0 0 0 0 0 0 1 0 8 3 2 1 0 0 0 0 0 0 0 1 9 3 3 1 0 0 0 0 0 0 0 0

ここでも 6.2.2 項のように一般の水準数について

)',,,,,,,,,( 111111110Lab

La

Lb

LAa

A β (6.2.18)

)',,,,,,,,,,( 111111110Lab

La

Lb

LAa

A μ

とおき、 LA WWw ,,0 をそれぞれ、 c 次元縦ベクトル、 )1( ac 行列、及び )1( bac 行列

として ],,[ 0 LA WWwW と置く。さらに

00

~wCc 、 AA WCC

~ 、 LL WCC

~ 、 ],,[ 00 LA CCcC (6.2.19)

00

~wXx 、 AA WXX

~ 、 LL WXX~ 、

と置く。このとき共分散分析モデルは

),(~,00 Σ0eeβXμCY nN (6.2.20)

と表せる。また同様に、全ての因子水準に対称的な要因効果パラメータの定義は

3,2,1,3,2,1,~

,3,2,1,~

,3,2,1,3/,9/

)()()(

3

1 )()(

3

1

3

1 )(

iji

i

A

iiiijL

ij

A

iiA

i

j iij

A

iii j iij

(6.2.21)

である。これより、

Lij

Aiiij ~~

)( (6.2.22)

と表すことができる。この場合には、次の制約条件が伴う。

91

3,2,1,0~

,0~ 3

1

3

1

ij

Liji

Ai (6.2.23)

このパラメータの定義によるパラメータの係数行列は表 6.7 のようになる。

表 6.7 ロットが実験因子に入れ子になっている場合の各クラスの回帰係数の

要因効果パラメータによる表現(6.2.22)の係数行列

クラス 含量 ロット A1

~ A2

~ L11

~ L12

~ L21

~ L22

~ L31

~ L32

~

1 1 1 1 1 0 1 0 0 0 0 0 2 1 2 1 1 0 0 1 0 0 0 0 3 1 3 1 1 0 -1 -1 0 0 0 0 4 2 1 1 0 1 0 0 1 0 0 0 5 2 2 1 0 1 0 0 0 1 0 0 6 2 3 1 0 1 0 0 -1 -1 0 0 7 3 1 1 -1 -1 0 0 0 0 1 0 8 3 2 1 -1 -1 0 0 0 0 0 1 9 3 3 1 -1 -1 0 0 0 0 -1 -1

6.2.4. 実験因子として含量と包装形態の 2因子がある場合

a 水準からなる含量の第 i 水準に属する第 k ロット KkL ik ,,1,)( から得られた製剤が、

b 水準からなる包装形態の第 j 水準に供されたとする。観測値は jiikjtiik ntY )()( ,,1, である。

ここでは共分散分析のクラス jiik )( におけるモデルを

jtiiktjiikjiikjtiik xY )()()()( (6.2.24)

と表す。このとき jiik )( は

LPjik

Lik

SPij

Pj

Sijiik )()(0)( (6.2.25)

と分解できる。即ち含量主効果 Si 、包装形態主効果

Pj 、含量と包装形態交互作用

SPij ロッ

ト主効果L

ik )( および包装形態とロットの交互作用LP

jik )( の和として表される。ここに

,,,1,,,1,0,,,1,0

,,,1,0,,,1,0,0

)()( aibjai

aibjLP

jiKL

iK

SPib

SPaj

Pb

Sa

(6.2.26)

とする。ロットが含量に入れ子になっているので、まず含量ごとにロットと包装形態の 2 元

配置モデルを考えロット主効果及びロットと包装形態の交互作用を定義する。包装形態は含

92

量と交差しているので包装形態主効果は、含量ごとの包装形態主効果の全含量水準にわたる

算術平均として定義できる。ロットと包装形態交互作用が存在するならば、含量と包装形態

の交互作用も存在し得るとする。いま

)',,,,,,,,,,,,,,,( 1)(11)1(1111111)(1)1(1110LP

baKLPSP

baSPP

bPL

aKLS

aS

β

(6.2.27)

及び

)',,(,)',,(

,)',,(,)',,(,)',,(

)',,(,)',,(

,)',,(,)',,(,)',,(

1)(11)1(1)(1)1(1

11111111

1)(11)1(1)(1)1(1

11111111

LPbaK

LPLPLaK

LL

SPba

SPSPPa

PPSa

SS

LPbaK

LPLPLaK

LL

SPba

SPSPPb

PPSa

SS

μμ

μμμ

ββ

βββ

(6.2.28)

とおき、これらに対応した係数行列を

],,,,,[],,,,,,[

~,

~,

~,

~,

~,

~

~,

~,

~,

~,

~,

~

0000

00

00

PLSPPLSLPSPPLS

LPLPSPSPLLPPSS

LPLPSPSPLLPPSS

XXXXXxXCCCCCcC

WCCWCCWCCWCCWCCwCc

WXXWXXWXXWXXWXXwXx

(6.2.29)

とすることにより、フルモデルは

),(~

,

00

00

Σ0e

eβXμCβXμC

βXμCβXμCβXμCxc

eβXμCY

n

LPLP

LPLP

SPSP

SPSP

LL

LL

PP

PP

SS

SS

N

(6.2.30)

と表せる。

6.3. 線形モデルの推測理論

重回帰モデル

niexy iij

p

j ji ,,1,1

(6.3.1)

ここに niei ,,1, は独立に ),0( 2N に従う、

を考える。このモデルを 0M と書く。いま

93

nY

Y

1

Y 、

npn

p

xx

xx

1

111

X 、

p

1

θ 、

ne

e

1

e (6.3.2)

とおいて、

),(~, 20 nnNM I0eeXθY: (6.3.3)

と表す。回帰係数ベクトルθの 小二乗推定値を θその分散共分散行列を )ˆ(θΣ と書く。デザ

イン行列はフルランクとなるように定義すると、

YXXXθ ')'(ˆ 1 、 12 )'()ˆ( XXθΣ (6.3.4)

となる。そこで 1)'()ˆ( XXθV と置き )ˆ(2 θVΣ(θ) と表すこととする。

観測データの総平方和は YY'SST である。モデル 0M における残差平方和を )( 0MSSE

と書く。これはまたデザイン行列を用いて )(XSSE 、あるいはモデルに含まれるパラメータ

を用いて )(θSSE とも表すこととする。即ち、

θθVθYYθX ˆ)ˆ('ˆ')()()( 10

SSESSEMSSE (6.3.5)

となる。この残差平方和の自由度は pn であり、 20 /)( MSSE は自由度 pn のカイ二乗

分布に従う。誤差分散の不偏推定値は

)/()(ˆ 02 pnMSSE (6.3.6)

となる。

一方モデル 0M を当てはめることによって減少した平方和をモデル平方和と呼び )( 0MSSF

と書く。これは

θθVθθXXθ ˆ)ˆ('ˆˆ)'('ˆ)( 10

MSSF (6.3.7)

であり、モデル平方和と残差平方和の和は常に一定で総平方和に等しい。即ち

)()( 00 MSSFMSSESST (6.3.8)

が成立する。

94

次にθに対する線形仮説 :0H 0Hθ を考える。行列Hはランクq のフルランク行列とす

る。 θHˆ は q次元正規分布 )')ˆ(,( HθHΣHθN に従うので、帰無仮説 0H の下では、

2

1

ˆ/)()')ˆ(()'ˆ(

q

FHθHθHVθH

(6.3.9)

が自由度 ),( pnq の F 分布に従う。したがってで ),;( pnqFF のとき 0H を棄却する。

ここに ),;( pnqF は自由度 ),( pnq の F 分布の上側α点である。

一方、モデル 0M に線形制約 0Hθ を課したモデルを制約条件を定める行列を用いて

)(0 HM と表す。このモデルの下でのモデル平方和は

)ˆ()')ˆ(()'ˆ()()(( 100 θHHθHVθHH) MSSFMSSF (6.3.10)

となる。即ちモデル 0M における線形制約の仮説検定のための F 統計量の分子の平方和はモ

デル 0M に制約を付加したモデル )(0 HM のモデル平方和の減少量に一致する。これより

)ˆ()')ˆ(()'ˆ()( 1 θHHθHVθHH SSH (6.3.11)

と書いて、この平方和を仮説 0Hθ の仮説平方和と呼ぶこととする。即ち

)()()(( 00 HH) SSHMSSFMSSF (6.3.12)

である。これに対応して )(0 HM の下での残差平方和は仮説平方和分増加し、

)()()(( 00 HH) SSHMSSEMSSE (6.3.13)

となる。いま ],[ )( qqpq I0H とおくと、 0Hθ は 01 pqp という仮説を表す。

そこでデザイン行列を 初の p-q 列と残りの q 列の 2 つの行列に分割し、対応して回帰パラ

メータベクトルを 初の p-q 個の要素と残りの q 個の要素からなるベクトルに分割する。こ

れらを

)'','(],,[ 2121 θθθXXX

と表す。このとき仮説は q0θHθ 2 であり、モデル )(0 HM は

95

),(~,: 2111 nnNM I0eeθXY (6.3.14)

と表すことができる。これよりこのパラメータ推定値を 1

ˆθ と書くとき、

YXXXθ ')'(ˆ

11

111 (6.3.15)

であり、

11

11

00

21

2200

11

11111'10

100

111

222

ˆ)

ˆ(

ˆ'

))(('))((

ˆ)ˆ('ˆ)()()(

ˆ)

ˆ(

ˆˆ)'(

ˆ))((

)()())(()(

ˆ1)ˆ

(ˆˆ1)ˆ(ˆ

ˆ1)ˆ('ˆ)(

θθVθYY

HYYH

θθVθH

θθVθθXXθH

XXH

θθVθθθVθ

θθVθH

MSSFMSSE

MSSFSSHMSSF

MSSF

SSESSEMSSFMSSF

SSH

(6.3.16)

が成り立つ。ここに

11

122111

12 ])'(''[')(')ˆ()ˆ( XXXXXXHXX'HHθHVθV (6.3.17)

である。以上より次の分散分析表が得られる。

表 6.8 モデル 0M のもとでの仮説 θHθ を検証するときの分散分析表

モデルまたは変動因 デザイン行列または仮説行列

平方和 自由度

0M X θXXθ ˆ)'('ˆ p

)(0 HM 1X 1111

ˆ)'('

ˆθXXθ

qp

q0θHθ 2 ],[ )( qqpq I0H 211

2ˆ)')'(('ˆ θHXXHθ

q

残差 - θXXθYY' ˆ)'('ˆ pn

全体 - YY' n

いま

)'','(],,[ 2121 θθθXXX

と表し、2 つのモデル

2,1),,(~,: 2 iNM nniii I0eeθXY (6.3.18)

96

を考える。それぞれのモデルにおけるパラメータ推定値をそれぞれ 1

ˆθ 及び 2

ˆθ と書くとき、

2,1,')'(ˆ 1 iiiii YXXXθ (6.3.19)

である。このとき 1

ˆθ 及び 2

ˆθ と 1θ 及び 2θ の間には

]

ˆ[)]()()[(ˆ '1'1'''

iiiiiiiiiiii θXYXXXXXXXXXθ

(6.3.20)

の関係があることは容易に分かる。ここに 1i のとき 2i 及び 2i のとき 1i とする。

いま '1' )( iiiii XXXXIP と置く。 iP は射影行列である。 iii XPX *とおくと、 *

iX の全て

の列ベクトルはi

X の全ての列ベクトルと直交する。即ち *iX で定義される要因は

iX で定義さ

れる全ての要因と無相関である。モデル 0M のパラメータ iθ の推定値 iθ はそれぞれ他方の要

因効果i

θ がゼロでないときに、その要因のみを含むモデルにおけるパラメータ推定値i

θˆを用

いて )(YE を予測し、その残差ii

θXYˆ に対する回帰モデル eθXθXY iiii

*ˆをあてはめ

た時の iθ の推定値である。したがって iθ は他方の要因i

X による調整済みの推定値であり、

iθˆは未調整推定値である。即ち iii θθVθ ˆ)ˆ('ˆ は要因

iX による調整済みの要因平方和である。

6.4. 共分散分析への応用

6.4.1. 多クラスモデルの解析

6.2 節のモデル 0M の回帰パラメータの推定値は次式で与えられる。ここで )'','( βμθ とおく。

)(

)1(

11

1

)(

)1(11

111

1

0000

0000

0000

0000

0000

0000

'~

'~

~'

~~'

~

~'

~~'

~

ˆˆˆ

cxY

xY

cc

cxxcc

xx

ccc

T

T

Yn

Yn

Txn

Txn

xnn

xnn

YX

YC

XXCX

XCCC

β

μθ

(6.4.1)

97

ここに、

in

j iji

i xn

x1

1、

in

j iji

i Yn

Y1

1、

in

j iji

xx xT1

2)( 、 in

j ijiji

xY YxT1

)( (6.4.2)

と置く。また

ii n

jiijiij

ixY

n

jiij

ixx YYxxWxxW

1

)(

1

2)( ))((,)( (6.4.3)

とおく。各クラスの切片と傾きは、それぞれ

iiii xY ˆˆ 、及び)(

)(

ˆi

xx

ixY

i W

W (6.4.4)

と表現できる。これらの分散共分散行列は

)()(

)1()1(

1

)()(

2

)1(

1

)1(

21

1

2

10000

0000

001

00

001

00

0000

00001

)ˆ(

cxx

cxx

c

xxxx

cxx

c

cxx

c

c

xxxx

WW

x

WW

xW

x

W

x

n

W

x

W

x

n

θ (6.4.5)

である。即ち、傾き及び切片の推定値は、異なるクラス間では互いに独立であり、同一のク

ラス内では相関を有する。特に、

2)(

2)(

2)(

2

)ˆ,ˆ(,1

)ˆ(,)1

()ˆ( i

xx

i

iiixx

iixx

i

ii W

xCov

WVar

W

x

nVar

, ci ,,1

(6.4.6)

である。残差平方和及び要因平方和は

c

i

ixxiiiiiii TxnnSSF

SSFSSTSSE

1

)(22 ˆˆˆ2ˆ(])~

,~

([

])~

,~

([])~

,~

([

XC

XCXC (6.4.7)

である。 2/])~

,~

([ XCSSE は自由度 cn 2 のカイ二乗分布に従う。また 2/])~

,~

([ XCSSF は自

由度 c2 のカイ二乗分布に従う。このモデルでは、クラスごとに解析すればよいが、各クラス

での残差平方和及び要因平方和の全クラスにわたる合計がモデルとしての残差平方和及び要

98

因平方和になる。また、残差分散は全クラス共通と仮定しているので、全クラスの残差平方

和の和を総自由度 cn 2 で割った )2/(])~

,~

([2 cnSSES XC を残差分散 2 の推定値とする。

6.4.2. 傾きが共通の多クラスモデル

モデル 0M に線形制約

cH 1: (6.4.8)

を課したモデルを考える。この仮説の仮説行列を 11)1( cccc 10H β とおくと仮説

H は 1 c0θH β である。これを 1M とあらわす。共通の傾きを とし、パラメータベクト

ルを )','( μθ と表す。対応して )'',,'( 1 cxxx とおき、デザイン行列 ],~

[ xC を考える。こ

のとき傾き共通のモデルは

),(~,],~

[: 21 nnNM I0eeθxCY (6.4.9)

と表せる。パラメータの推定値は

cixY iii ,,1,ˆˆ (6.4.10)

c

i ixx

ixx

xx

xY

W

W

W

W1 )(

)(

)(

)(

ˆˆ

となる。ここに、

c

i

ixxxx WW

1

)()(及び

c

i

ixYxY WW

1

)()( (6.4.11)

である。即ち、共通の傾きの推定値は各クラスの傾きの推定値の分散の逆数を重みとする加

重平均である。回帰パラメータの推定値の分散共分散行列は次の通りである。

99

)()()(

1

)()(

2

)(

1

)(

1

)(

1

)(

21

)(

1

)(

1

)(

21

)(

21

1

1

1

1

2)ˆ(

xxxx

c

xx

xx

c

xx

c

cxx

cc

xx

c

xx

cc

xx

xxxx

c

xxxx

WW

x

W

xW

x

W

x

nW

xx

W

xx

W

xxW

xxW

x

W

xx

W

xx

W

x

n

θ (6.4.12)

モデル 0M の下で仮説 H に対する検定を考えるため、パラメータの表現方法を次のように

変 更 す る 。 い ま cciL

i ci 0,1,,1, と お き 、 パ ラ メ ー タ ベ ク ト ル

)',,,( 110* L

cL

β を定義する。また行列 cW を

1

11

1 c

cccW

0

I1 (6.4.13)

と定義する。このとき 6.2 節のβは *βWβ c と表せる。この関係式を 6.2 節のβの推定式に

代入し、線形制約仮説を検定することができる。仮説 H の検定統計量は、

2

1

)(1 )ˆˆ()( i

c

i

ixxc WSSH H (6.4.14)

となる。ここに i はモデル 0M のもとでの推定値、 はモデル 1M の下での共通な傾きの推

定値である。6.3 節の一般理論より、仮説平方和はモデル 0M からモデル 1M に縮小したとき

の要因平方和の減少分並びに残差平方和の増加分に等しいから、

)()()( 01 βHSSHMSSFMSSF (6.4.15)

)()()( 01 βHSSHMSSEMSSE

である。

100

6.4.3. 傾きと切片が共通の多クラスモデル

モデル 1M に線形制約

cH 1:μ (6.4.16)

を課したモデルを考える。この制約が成立するとする仮説を同じく H と書く。

1 c01IH 1c1cμ とおくと、 1: cH 0θHμμ と表せる。このモデルは傾きと切片がす

べてのクラスで共通なモデルであり、これを 2M とあらわす。 2M における共通の切片を

とし、パラメータベクトルを )',( θ と表す。デザイン行列は ],[ x1n となる。モデル 2M

),(~,],[: 22 nnn NM I0eeθx1Y (6.4.17)

と表せる。このモデルでの傾きの推定値をモデル 1M における推定値と区別するため、 ˆ と

表す。切片と傾きの推定値は

xxxx

xYxYc

i

n

j ij

c

i

n

j ijij

BW

BW

xx

YYxx

xY

i

i

)(

)(

1 1

2

1 1

)(

))((ˆ

ˆˆ

(6.4.18)

となる。ここに

c

i

n

j ij

c

i

n

j ijii Y

nYx

nx

1 11 1

1,

1 (6.4.19)

))((,)(1

2

1

YYxxnBxxnB iic

i ixYic

i ixx

である。回帰係数の推定値の分散共分散行列は次の通りである。

xxxxxxxx

xxxxxxxx

BWBW

x

BW

x

BW

x

n

)()(

)()(

2

1

1

2)ˆ( θ (6.4.20)

101

モデル 1M の下で仮説 μH に対する検定を考えるため、パラメータの表現方法を次のように変

更 す る 。 い ま cciLi ci 0,1,,1, と お き 、 パ ラ メ ー タ ベ ク ト ル

)',,,( 110* L

cL

μ を定義する。このとき 6.2 節のμは *μWμ c と表せる。この関係式を

6.3 節のμの推定式に代入し、線形制約仮説を検定することができる。 μH の検定統計量は、

xxxx

i

c

iii

i

c

i iBW

xxnnMSSH

)(12

11

)ˆˆ)(()ˆˆ()|(

μH (6.4.21)

ここに

i

c

i inn

ˆ1

ˆ1

(6.4.22)

である 6.3 節の一般理論より、仮説平方和はモデル 1M からモデル 2M に縮小したときの要因

平方和の減少分並びに残差平方和の増加分に等しいから、

)()()( 12 μHSSHMSSFMSSF (6.4.23)

)()()( 12 μHSSHMSSEMSSE

である。

6.4.4. 多クラスモデルにおける分散分析表

モデルを 210 MMM と順次縮小することによって、分散分析表を次のように構成する。

表 6.9 傾きの一様性のモデルの分散分析表

モデル デザインまたは仮説

平方和 自由度

0M X )ˆˆˆ2ˆ(])~

,~

([1

)(22 c

i

ixxiiiiiii TxnnSSF XC c2

)(0 HM

)(HH

]),~

[ xC )(])~

,~

([ 1 cSSHSSF XC 1c

H 2

1

)(1 )ˆˆ()( i

c

i

ixxc WSSH 1c

残差 - ])~

,~

([ XCYY' SSF cn 2

全体 - YY' n

102

表 6.10 傾きの一様性のもとでの切片の一様性のモデルの分散分析表

モデル デザイン行列または仮説行列

平方和 自由度

1M ],~

[ xC ],~

[ xCSSF 1c

1M

)(HH ],[ x1 )()()( 12 μHSSHMSSFMSSF 2

H )( 1 cSSH 1c 残差 - ],

~[ xCYY' SSF 1 cn

全体 - YY' n

6.4.5. 切片が共通の多クラスモデル

切片が共通で傾きが異なるモデルは、安定性試験の一般的状況では用いられないが、全て

一のロットから得られた検体を対象とする場合には試験開始時点の含量は測定誤差を除いて

等しいとみなせるので、切片共通の多クラスモデルを仮定できるであろう。ここで仮定する

モデルはモデル 0M に対して線形制約 cH 1' :μ を課したモデルである。このモデルを

3M とあらわす。共通の切片を とし、パラメータベクトルを '',( )βθ と表す。デザイン

行列は ]~

,[ X1n となる。このとき、切片がすべてのクラスで共通なモデルは

),(~,]~

,[: 23 nnn NM I0eeθX1Y (6.4.24)

と表せる。共通な切片の推定値をモデル 0M における推定値と区別するため、~ 及び i~と表

す。切片と傾きの推定値は

n

T

TxnYn

c

i ixx

ixYii

1 )(

)(

~ 、及び )(

)( ~~i

xx

iii

xxi T

xnT

(6.4.25)

となる。ここに

c

i n

j

ixx

ii

i T

xn

n 1

1

)(

2)(11

である。回帰係数の分散共分散行列は次の通りである。

103

2

)()()()1(

11)(

)()(

)2(

22)1(

11

)()1(

11)2(

22)1(

11

2

)1(

11)1()1(

11

)()1(

11

1111

1

1

11111

111

2)ˆ(

cxx

ccc

xxc

xx

cc

xxc

xx

cc

jxx

jj

ixx

ii

xxxx

cxx

cc

xxxxxxxxxxxx

cxx

cc

xx

T

xn

nTT

xn

T

xn

nT

xn

n

T

xn

T

xn

n

T

xn

T

xn

n

T

xn

T

xn

nT

xn

T

xn

nT

xn

nTT

xn

n

T

xn

nT

xn

nn

θ (6.4.26)

モデル 0M の下で仮説'μH に対する検定を考えるため )',,,( 11

* cc

c μ と表し、 *μWμ c

と表す。'μH の検定統計量は、モデル 0M のもとでの仮説行列を cc )1(

* 01IH 1c1cμ

と置くとき、

)()()|( 030* MSSEMSSEMSSH μH (6.4.27)

であり、この自由度は 1c である。誤差分散は 0M のもとでの誤差分散推定値を用いる。した

がって、検定は

)2/()(

)1/()()(

0

03

cnMSSE

cMSSEMSSEF

(6.4.28)

が自由度 )2,1( cnc の F 分布に従うこととして検定できる。

3M のもとで、傾きがすべて等しいとする仮説 cMH 1|

* :3

を考える。この仮説の検定

統計量は、この制約がモデル 2M に一致するので、

2

)(

)(2

2

1

1

)(

)(2

1

)(

2

2

1 )(

2)(

23|

)()()(

)(

)()()(3

xxxx

xYxYc

i c

j

jxx

ixYii

c

i

ixx

c

i ixx

ixY

M

BW

BWYn

Tn

TxnY

T

xnn

n

T

T

MSSFMSSFHSSH β

(6.4.29)

となる。

104

6.5. 安定性試験への応用

6.5.1. 複数の包装形態がある試験の解析

ロット以外の試験因子が包装形態である場合、通常はロットと包装形態は交差しているの

で 6.2.2 項のモデルを適用する。この計画では、 初に傾きについてロットと包装形態の交互

作用を検定し、これが有意水準αP で有意でなければ切片について包装形態とロットの交互

作用を検定する。さらにこの交互作用が有意水準αP で有意でなければ傾きについてロット主

効果を検定し、これが有意水準αP で有意でなければ切片についてロット主効果を検定する。

ロット間差が傾きについても切片についても有意水準αP で有意でなければすべてのロット

を無視して解析を進める。即ち、 初に傾きについて、次に切片について包装形態主効果を

いずれも有意水準αで検定する。この一連の検定手順において検定が有意になればその時点

のモデルを用いて有効期間の推定に移る。ここではこの検定と推定の一般的な手順を説明す

る。出発点となる統計モデルを 0M と表す。これを 6.2 節に示した式(6.2.8)の β及び μと

(6.2.10)のC及びX

)',,,,,,,,,,,(

)',,,,,,,,,,,(

11111111110

11111111110

ALba

ALb

ALLb

LAa

A

ALba

ALb

ALLb

LAa

A

μ

β (6.5.1)

及び、

],,,[ 00 ALLA CCCcC と ],,,[ 00 ALLA XXXxX (6.5.2)

を用いて、

),(~, 200 nnN I0eeβXμCY (6.5.3)

と表す。これはすべての要因効果を含むモデルであり飽和モデルという。

ついで傾き及び切片に関する仮説を次のように定義する。

0:)(

0:)(

0:)(

0:)(

0:)(

0:)(

11

11

111111

11

11

111111

Aa

AA

Lb

LL

ALba

ALb

ALAL

Aa

AA

Lb

LL

ALba

ALb

ALAL

H

H

H

H

H

H

μ

μ

μ

β

β

β

(6.5.4)

105

このときモデル系列として

)(: 01 βALHMM

)(: 12 μALHMM

)(: 23 βLHMM (6.5.5)

)(: 34 μLHMM

)(: 45 βAHMM

)(: 56 μAHMM

を考える。ここに記号はその両側の条件を同時に満たすことを意味する。これらのモデル

はモデルの包含関係による系列をなしており具体的には次のように表せる。

),(~,],,,[],,,[: 000 nn

AL

L

AALLA

AL

L

AALLA NYM I0ee

β

β

βXXXx

μ

μ

μCCCc

(6.5.6)

),(~,],,[],,,[: 001 nn

L

ALA

AL

L

AALLA NYM I0ee

β

βXXx

μ

μ

μCCCc

(6.5.7)

),(~,],,[],,[: 002 nn

L

ALA

L

ALA NYM I0ee

β

βXXx

μ

μCCc

(6.5.8)

),(~,],[],,[: 003 nnA

A

L

ALA NYM I0eeβ

Xx

μ

μCCc

(6.5.9)

),(~,],[],[: 004 nnA

AA

A NYM I0eeβ

Xxμ

Cc

(6.5.10)

106

),(~,],[: 005 nnA

A NYM I0eexμ

Cc

(6.5.11)

),(~,: 006 nnNYM I0eexc (6.5.12)

これらのモデルを順次あてはめ、残差平方和の増加分またはモデル平方和の減少分を仮説平

方和として検定すればよい。仮説 hH の平方和は

5,,1,0),()()()()( 11 hMSSFMSSFMSSEMSSEMSSH hhhhh (6.5.13)

である。これらの自由度を 5,,1,0, hHh と表す。また残差平方和の自由度を

5,,1,0, hEh と表す。このとき、仮説 hH の検定は、仮説が正しいとき

Ehh

Hhh

MSSE

MSSHF

/)(

/)( (6.5.14)

が自由度 ),( Eh

Hh の F 分布に従うことにより検定できる。

6.5.2. 複数の含量がある試験の解析

ロット以外の試験因子が含量である場合、通常はロットは特定の含量に入れ子になってい

るので 6.2.3 項のモデルを適用する。このモデルでは含量とロットの交互作用はモデルに含ま

れない。したがって 初に傾きについてロット効果を検定し、これが有意水準αPで有意で

なければ切片についてロット効果を検定する。ロット間差が傾きについても切片についても

有意水準αPで有意でなければすべてのロットを無視して解析を進める。即ち、まず傾きに

ついて、次に切片について含量主効果をいずれも有意水準αで検定する。この一連の検定手

順において検定が有意になればその時点のモデルを用いて有効期間の推定に移る。ここでは

この検定と推定の一般的な手順を説明する。

出発点となる統計モデルは、式(6.2.18)

)',,,,,,,,,,( 111111110Lab

La

Lb

LAa

A β (6.5.15)

)',,,,,,,,,,( 111111110Lab

La

Lb

LAa

A μ

及び(6.2.19)

],,[ 00 LA CCcC と ],,[ 00 LA XXxX (6.5.16)

107

を用いて、

),(~, 200 nnN I0eeβXμCY (6.5.17)

と表すことができる。これはすべての要因効果を含むモデルであり、飽和モデルという。こ

れを 0M と表す。ついで傾き及び切片に関する仮説を次のように定義する。

0:)( 111 Lab

LLH β

0:)( 11 A

aA

AH β (6.5.18)

0:)( 111 Lab

LLH μ

0:)( 11 Aa

AAH μ

このときモデル系列として

)(: 01 βLHMM

)(: 12 μLHMM (6.5.19)

)(: 23 βAHMM

)(: 34 μAHMM

を考える。ここに記号はその両側の条件を同時に満たすことを意味する。これらのモ

デルはモデルの包含関係による系列をなしており具体的には次のように表せる。

),(~,],,[],,[: 000 nn

L

ALA

L

ALA NYM I0ee

β

βXXx

μ

μCCc

(6.5.20)

),(~,],[],,[: 001 nnA

A

L

ALA NYM I0eeβ

Xx

μ

μCCc

(6.5.21)

),(~,],[],[: 002 nnA

AA

A NYM I0eeβ

Xxμ

Cc

(6.5.22)

108

),(~,],[: 003 nnA

A NYM I0eexμ

Cc

(6.5.23)

),(~,: 004 nnNYM I0eexc (6.5.24)

これらのモデルを順次あてはめ、残差平方和の増加分またはモデル平方和の減少分を

仮説平方和として検定すればよい。手順は 6.3 節 に示した通りである。

6.5.3. 複数含量及び複数の包装形態を含む試験の解析

すべての要因効果を含む飽和モデルは 6.2.4 項に示したように、 )',,,,,,,,,,,,,,,,,,,( 1)(11)1(11)1(1111111)(1)1(111110

LPbaK

LPb

LPSPba

SPb

SPLaK

LPb

PSa

S β

)',,,,,,,,,,,,,,,,,,,( 1)(11)1(11)1(1111111)(1)1(111110LP

baKLP

bLPSP

baSPb

SPLaK

LPb

PSa

S μ

(6.5.25)

及び、

],,,,,[ 00 LPSPLPS CCCCCcC と ],,,,,[ 00 LPSPLPS XXXXXxX (6.5.26)

を用いて、

),(~, 200 nnN I0eeβXμCY (6.5.27)

と表せる。傾き及び切片に関する仮説を次のように定義する。

0:)( 1)(11)(11)1(1 LP

baKLP

baKLP

LPH β

0:)( 1111SP

baSP

SPH β

0:)( )(1)1(1 L

aKL

LH β

0:)( 11 P

bP

PH β

0:)( 11 Sa

SSH β (6.5.28)

0:)( 1)(11)(11)1(1 LP

baKLP

baKLP

ALH μ

0:)( 1111SP

baSP

SPH μ

0:)( )(1)1(1 L

aKL

LH μ

109

0:)( 11 Pb

PPH μ

0:)( 11 Sa

SSH μ

とおきモデル系列を以下のようにする。

)(: 01 βLPHMM

)(: 12 μLPHMM

)(: 23 βSPHMM

)(: 34 μSPHMM

)(: 45 βLHMM

)(: 56 μLHMM (6.5.29)

)(: 67 βSHMM

)(: 78 βPHMM

)(: 89 μSHMM

)(: 910 μPHMM

これらを式で表すと

),(~,],,,,,[],,,,,[: 000 nn

LP

SP

L

P

S

LPSPLPS

LP

SP

L

P

S

LPSPLPS NYM I0ee

β

β

β

β

β

XXXXXx

μ

μ

μ

μ

μ

CCCCCc

(6.5.30)

110

),(~,],,,,[],,,,,[: 001 nn

SP

L

P

S

SPLPS

LP

SP

L

P

S

LPSPLPS NYM I0ee

β

β

β

β

XXXXx

μ

μ

μ

μ

μ

CCCCCc

(6.5.31)

),(~,],,,,,[],,,,[: 002 nn

SP

L

P

S

LPSPLPS

SP

L

P

S

SPLPS NYM I0ee

β

β

β

β

XXXXXx

μ

μ

μ

μ

CCCCc

(6.5.32)

),(~,],,,[],,,,[: 003 nn

L

P

SLPS

SP

L

P

S

SPLPS NYM I0ee

β

β

βXXXx

μ

μ

μ

μ

CCCCc

(6.5.33)

),(~,],,,[],,,[: 004 nn

L

P

SLPS

L

P

SLPS NYM I0ee

β

β

βXXXx

μ

μ

μCCCc

(6.5.34)

),(~,],,[],,,[: 005 nn

P

SPS

L

P

SLPS NYM I0ee

β

βXXx

μ

μ

μCCCc

(6.5.35)

),(~,],,[],,[: 006 nn

P

SPS

P

SPS NYM I0ee

β

βXXx

μ

μCCc

(6.5.36)

),(~,],[],,[: 007 nnS

S

P

SPS NYM I0eeβ

Xx

μ

μCCc

(6.5.37)

111

),(~,],[: 008 nn

P

SS NYM I0eexμ

μCc

(6.5.38)

),(~,],[: 009 nnS

S NYM I0eexμ

Cc

(6.5.39)

),(~,: 0010 nnNYM I0eexc (6.5.40)

となる。これらのモデルのあてはめ及び仮説検定に基づく推測手順は 6.5.2 に示した通りで

ある。

参考文献

本書に示した結果は、標準的な数理統計学の教科書に記載されている正規線形理論に基づい

て行列計算を丹念に実施することにより、容易に得られる。正規線形理論に基づく線形モデ

ルの解説ならびに共分散分析の計算の詳細に関しては、例えば Searle (1987) が参考になる。

1)Searle, S. R. (1987) Linear Models for Unballanced Data. Wiley.

112

7. 安定性試験の統計的方法に関する論点及び他の方法

Q1E で推奨している統計的方法の特徴を述べ、次いで他の方法について簡単な解説を与え

る。

7.1. Q1E で推奨している統計的方法の特徴

7.1.1. 母数モデルと変量モデル

Q1E で推奨している方法は、安定性試験に供されるロットは有限個の特定のロットであり、

将来の製剤はこれらのロットと同一の品質特性を有するロットから製造されることを仮定し

ている。したがって、個々のロットの特性、例えば含量の残存率を表す直線の切片と傾きを

できるだけ精度良く推定することが課題となる。もし、製剤の安定性がロットによって異な

るならばそれらの中の 短の有効期間を全ロットの有効期間としておけば、全てのロットの

製剤はその有効期間内で規定された品質を有していることを保証できる。ロットの取り扱い

に関するこのようなモデルは各ロットに固有の有効期間があり、その有効期間を推定するこ

とに意味がある、と考えることを意味する。このようなロットの取り扱いのモデルは母数モ

デルまたは固定効果モデルと呼ばれる。これに対立するロットの取り扱い方は、試験に供さ

れたロットは異なる特性をもつロットの集団からのランダムサンプルであり、有効期間はロ

ットの母集団に対して設定するとするものである。この考え方の下では試験に用いるロット

の有効期間を推定することは目的ではなく、ロットの有効期間の分布を推定することが重要

である。このようなロットの取り扱いのモデルを変量モデルという。変量モデルに基づく解

析方法も提案されている。これについては 7.2.3 項で簡単に触れる。

母数モデルでは試験結果から導かれた結論は試験対象となったロットの集団にのみ適用で

きるという制約を持っている。したがって、ここで得られた有効期間の推定値が、将来市販

後の製造で用いられるロット対しても有効期間を保証しているかということは、統計的推論

の枠外の議論に委ねられる。

7.1.2. 一括評価に関する検定の問題

Q1E で推奨している方式の特徴は、包装形態や含量などの要因効果を含む 大モデルから

初めて、逐次モデルを簡略化する逐次的な手順にある。安定性に影響する要因がいくつか存

在する可能性があるとき、それらの影響度合いを評価して影響が無視できる要因効果を除外

してモデルに含まれる未知パラメータ数を 小限にすることにより、モデルの頑健性とパラ

メータの推定精度をあげることができる。安定性試験では、ロット間変動を無視できれば全

てのロットからのデータをあたかもただ一つのロットからのデータのようにして扱うことが

でき、その結果として誤差及びパラメータの推定精度が高くなる。したがって共分散分析モ

デルの構築にあたって 初にロット間変動が無視できるか否かに注目する。ロット以外の実

113

験因子がある場合には、ロットと実験因子の交互作用に着目する。モデル選択に伴う困難な

問題はロット間変動あるいはロットと実験因子の交互作用がどれくらいであれば無視可能か

という判定基準の設定にある。

ロットを併合できるということは、ロット間の差が無視できる程度であるということであ

る。Q1E で推奨している方式は、要因効果の有意性検定においてロットが関わる要因の場合

には有意水準を 25%とし、ロットが関係しない要因については有意水準を 5%としている。

「真の差が無視できる程度であることを示すのに、差を検出することを目的とした検定が有

意でないことを根拠とすることは誤りである」ということはよく知られている。実際、同一

ロットで製造された製剤の間の不均一性が高い場合、測定精度が低い場合、あるいは試験条

件の不均一性が高く試験精度が悪い場合には誤差変動が大きくなるのでロット間の差を検出

できない。一方これらの誤差変動が小さいとロット間のわずかな差も検出することになる。

すなわち精度の高い安定性試験では併合解析を実施できない可能性が高くなる。逆に精度の

悪い試験では併合が許されやすくなるため、ロットごとの推定では短くなるべき有効期間で

あるにもかかわらず、併合によって長い有効期間を得ることができるという矛盾が生じる。

このような問題の例を Ruberg and Stegeman (1991)が与えている。

Q1E ガイドラインは、ロット間の傾きと切片の一様性の検定の有意水準を 25%とすること

を推奨している。その理由として、安定性試験ではロット数が少なく通常の有意水準では高

い検出力を期待できないため、有意水準を高い値に設定すると述べている。しかし統計的推

測の観点からは、検定の検出力を高めるためではなく 終的に用いる傾きの推定精度を、平

均平方誤差基準のもとで高めることを目的とした予備検定推定法の問題として捕らえること

ができる。

試験対象としたモデルの有効期限をできる限り精度良く推定するためには、平均的な意味

で真値に近い推定値を求めることが望ましい。試験に用いたすべてのロットの傾きが全く同

じでなくても大体等しいならば、個々のロットの傾きの不偏推定値を用いるより、少々の偏

りがあっても全てのロットのデータをまとめて、総合的にみて精度の高い推定値を求めるこ

とができればそのほうが好ましいであろう。そのために要因効果を無視して良いか否かを予

備的に検定し、p 値が予め設定した有意水準より大きければその要因効果を無視する。この

目的で用いる検定を予備検定という。予備検定による併合の基準は多くの研究者によって研

究されてきた課題である。Johnson et al.(1977)は回帰係数の推定におけるデータ併合のための

予備検定の問題を考察し、予備検定による有意水準と併合推定量の効率との関係を、有意水

準 5%、10%、20%、30%、40%及び 50%について調べている。その結果では有意水準は 30%

以上が良さそうである。予備検定によるデータ併合の有無の判定方式は、平均値の推定

(Mosteller、1948、Huntsberger、1955、Bennet、1952)や分散分析モデルについて研究され

ており、分散分析における予備検定の有意水準として 25%以上が適切であるとの報告がなさ

114

れている(Bozivich, et al. 1956、Mead, et al.1975)。これらの研究からは、予備検定の有意水

準はロットに関する要因効果だけに適用されるのでなく、他の要因効果に対しても適用され

るはずである。しかし、本ガイドラインではロット以外の実験因子の効果を除くための有意

水準としては 5%を用いるとしている。したがって、予備検定の有意水準を 5%とすること

については、その妥当性についての研究が、今後必要であろう。有効期間の推定値の精度は

回帰パラメータの推定精度に依存するので、回帰パラメータを精度良く推定することが重要

である。したがって、有効期間の推定においても、予備検定による推定精度の考察が適用で

きる。

単一因子複数ロットの場合のロットの併合に関する予備検定の有意水準の妥当性について、

Chen and Tsong (2003)は、全てのロットの製剤の真の有効期間がある一定値 0T より長いこ

とを示すために、少なくとも一つのロットの真の有効期間が 0T 以下であることを帰無仮説と

する仮説を検定し、全てのロットについて有意な場合に有効期間は 0T 以上であると判断する

方式を検討している。このとき、予備検定に基づく併合によってモデルを選択した 減数モ

デルを用いて有効期間を推定する場合について、第1種の過誤を名目有意水準以内に保ちう

る予備検定の有意水準をシミュレーションで調べている。予備検定の有意水準が 25%、45%

及び 70%の場合を検討した結果、25%は有意水準として高すぎることはないとの所見を得て

いる。

7.1.3. 入れ子構造と交差構造

含量とロットの関係は、通常は図 6.2 のように入れ子構造の関係にあり、包装形態とロッ

トの関係は図 6.1 のように、交差構造である。含量とロットが交差構造の関係にあるのは、

図 6.3 に示したように、同一の顆粒ロットを用いて含量の異なる製剤を製造する場合など、

限られている。入れ子構造の場合と交差構造の場合とでは、共分散分析における要因効果の

モデルが異なることは 4 章及び 6 章で示した。一般に安定性試験の共分散分析に関する統計

解析の文献、例えば Fairweather, Lin and kelly (1995)、Chen, Ahn and Tsong (1997)、

Lin and Chen (2003)、 Tsong, Chen and Chen (2003) 等、では交差構造の場合を扱ってい

るので、統計モデルの構築には注意が必要である。

7.1.4. 共通分散

本ガイドラインでは全てのクラスの全ての観測値は共通な分散を有すると仮定している。

しかしこの仮定の妥当性については予め既存データで十分検討しておくべきであろう。例え

ば時間とともに分散が増大する場合もあるかもしれない。誤差の分散が少々異なっても対称

115

な分布にしたがっているならば、回帰係数の推定値は偏りを持たず、推定精度が影響を受け

るだけである。しかし、誤差の分布が対称でない場合には回帰係数の推定値が偏る。これら

が有効期間の推定にどのように影響するかは検討されていない。

7.1.5. 一括評価のための検定を進める順序

ガイドラインで扱っている解析方法や、6.2 節の複数の要因効果があるモデルの場合には

要因効果の推定値が互いに相関する。このような場合には特定の要因効果の影響を表す要因

平方和は相関している要因の影響を受ける。検定対象とした要因の効果をその他の要因効果

によって調整した調整済み推定値は、他の要因効果の存在を無視した推定値とは異なり、要

因効果の有意性も異なり得る。したがって要因効果の検定では、要因効果をモデルに取り入

れる順序によって結果が異なることがある。

6.5 節の各場合においてフルモデルの誤差分散推定値は誤差分散の不偏推定値となる。

大モデルで推定した個々の要因の効果はその要因以外の効果で調整した推定値になっている。

したがってフルモデルで個別に要因効果を検定することもできる。

他方指定した要因について、モデルに含まれるそれ以外のすべての要因効果で調整した調

整済み効果が有意であれば、その要因はそれ以外の要因では説明できない効果をもっている

ことになる。したがってその場合にはその要因をモデルに含め、そうでなければその要因を

モデルから除く。このようにしてモデルから順次一つの要因を除く方式では、誤差平方和に

は除外した要因平方和が順次加わっていくことになり、平方和の増加と自由度の増加の関係

によって有意性判定が影響を受ける。またこの場合には、すべての要因に予め順序をつけ、

その順序に従って有意性を検定し、検定した要因を除外できない場合にそこでモデルの簡略

化の作業を終了する。このようにして得られたモデルが 減数モデルである。

包装形態と含量の主効果の評価にあたってはいずれを優先的にモデルから除くべきかが明

らかではない。したがって一つの要因を残した状態で他方の要因効果により調整した平方和

で検定し、p 値の大きな要因を先に除くという手順を Tsong et al. (2003)は提案している。

この解説では含量、包装形態、及びロットが実験因子として取り上げられていて、ロット

は含量に入れ子になっている場合の検定順序として、包装形態と含量の交互作用の検定をロ

ット主効果の検定より先に行うとしている。これは高次の要因効果を低次の要因効果より先

に検定すると Q1E で述べていることによる。しかし、ロットが含量に入れ子になっているこ

とは、ロット主効果には含量とロットの組み合わせ効果即ち含量とロットの交互作用効果が

交絡していることを意味するので、ロット主効果を包装形態と含量の交互作用より先にする

という考え方もありうる。この点は今後検討が必要であろう。

116

7.2. その他の方法

7.2.1. 多重比較方式による有効期間の設定

予備検定方式では、精度の低い試験の場合には、実際に存在する要因効果を有意でないと

いう理由で除外したり異質なロットを併合する可能性が高くなる。これに対して、ロット間

差あるいは要因効果の変動が無視しうる大きさの範囲内であることを示せないならば、ロッ

トを併合しないという考え方がある。この考え方の下では試験精度が低い場合にはロットが

併合される可能性が低くなる。ロット間差が一定以上であれば、真の差が大きいかもしれな

いとして、ロットを併合せず個々のロットの有効期間を推定する。もしb 個のロットを、有

効期間の短いものとそれ以外に分けることができるなら、短い期間のものを併合することに

よって有効期間の推定値の精度を上げることもできる。Ruberg and Hsu (1992)は、多重比較

(用語集参照)方式によって 大の傾きを有するとみなされるロットのグループと傾きは

大ではないとみなされるロットのグループに分ける方法を提案した。この方法は元来単一因

子単一水準の実験において、ロットをグループ分けすることを意図したものと考えられる。

Ruberg and Hsu (1992) の方法では、併合を許すロット間の同等性の基準を設定しなければな

らない。

この方法を 2 種類以上の含量あるいは包装が含まれる試験に適用する場合を考えよう。こ

れらの因子の主効果または2因子交互作用効果が存在する場合には、特定の因子水準または

水準組み合わせが他の因子水準または水準組み合わせと異なる。したがって、 も変化の早

い因子水準または水準組み合わせのロット群が 大の傾きを有するロット群を構成すると期

待でき、有効期間はこれらの因子水準または水準組み合わせのロットに基づいて設定するこ

とになる。しかし、この方法は要因効果の評価をしていないので、ロット間変動(またはク

ラス間変動)が大きい場合に、どの要因効果が大きいのか、言い換えれば、回帰係数または

有効期間の変動をもたらしている要因を知ることが出来ないという欠点を有している。

7.2.2. 同等性基準に基づく併合

Yoshioka et al(1997)は、リテスト期間又は有効期間の推定値に関する同等性評価によって、

ロットを併合するかしないかを決定すること、及びその時の同等性の基準を提案した。

Tsong, et al (2003) はその統計的推測の方法を検討した。彼らは、リテスト期間又は有効期間

の推定値の統計的な分布は取り扱いが困難であるため、任意時点における特性値の予測値の

分布を扱っている。併合の判定に同等性基準を用いることは合理的であると考えられる。し

かし、この方法には設定した同等性の基準の合理性、複数の因子がある場合の要因効果の評

価方法などについて、Ruberg and Hsu (1992)と同様の問題が残されている。

7.2.3. 変量モデルに基づく方法

117

開発段階では限られた個数のロットしかないので、それらのロット全体を試験対象ロット

とする限り母数モデルは正当である。しかし試験ロットが多数のロットの一部であるならば、

安定性が全てのロットにわたって等しいことが保証されない限り、試験ロットの結論を全ロ

ットに適用するのは危険である。さらに市販後では、ロット個数は非常に多数になるので、

試験対象ロットの結果を将来のロット全体に拡大することは明らかに困難である。そこで試

験ロットはこのような多数のロットの集団からのランダムサンプルであるとみなしたとき、

将来用いられるロットを含めたロット母集団における有効期間の分布を考察の対象とするこ

とが考えられる。このような統計モデルを変量モデルという。このモデルの下では試験ロッ

トで設定した有効期間より短い有効期間のロットの割合は一定値以下であることを保証する

べきであると考える。変量モデルの下での有効期間の設定方法は Chow and Shao (1991) 、

Chao and Chow (1994) 及び Chow, Shein-Chung and Liu (1995)に示されている。しかし、変量モ

デルの下での有効期間を正確に求めることができるのは、全ロットが同一の測定時点ですべ

て測定されている場合においてのみである。変量モデルは同一母集団からの無作為標本を前

提としているので、含量主効果または包装形態主効果、あるいは含量と包装形態の交互作用

効果が存在する場合には適用できない。したがって変量モデルを適用するには開発段階での

試験条件の制約は強すぎるといえよう。

参考文献

1) Bancroft, T. A.: On biases in estimation due to the use of preliminary tests of significance. Annals

of Statistics 15, 190-204. 1944

2) Bennet, B. M. : Estimation of means on the basis on the preliminary test of significance. Annals of

Institute of Statistical Mathematics 4, 31-43. 1952

3) Bozivich, H., Bancroft, T. A. and Hartley, H. O.: Power of analysis of variance test procedures for

certain incompletely specified models, I. Annals of Mathematical Statistics 27, 1017-1043. 1956

4) Chen,J.J,.Ahn,H, and Tsong, Y. : Shelf-life estimation for multifacor stability studies. Drug

Information Journal 31, 573-587. 1997

5) Chow, Shein-Chung and Liu, Jen-Pei. : Statistical Design and Analysis in Pharmaceutical Science,

Chapter 12. Stability analysis with random batches.1995

6) Chow, Shein-Chung and Shao, J.: Estimating drug shelf-life with random batches. Biometrics 47,

1071-1079. 1991

7) Chen, Wen-Jen and Tsong, Y.: Significance levels for stability pooling test: a simulation study.

Journal of Biopharmaceutical Statistics 13, 353-374. 2003.

8) Fairweather, W., R., Lin, T. D.and Kelly, R.: Regulatory, design, and analysis of complex stability

studies. Journal of Pharmaceutical Science 84, 1322-1326. 1995.

118

9) Huntsberger, D. V. A generalization of a preliminary testing procedure for pooling data. Annals of

Mathematical Statistics 734-743. 1955.

10) Johnson, J.P., Bancroft, T. A. and Han, Chien-Pai. A pooling methodology for regression in

prediction. Biometrics 33, 57-67. 1977.

11) Lin, T. D. and Chen,C. W. : Overview of stability study design. Journal of Biopharmaceutical

Statistics 13, 337-354. 2003.

12) Mead, R., Bancroft, T. A. and Han, C. : Power of analysis of variance test procedures for

incompletely specified fixed models. Annals of Statistics 3, 797-808. 1975

13) Mosteller, F. : On pooling data. Journal of American Statistical association 43, 231-242. 1948.

14) Ruberg, S. J. and Hsu, J. C. : Multiple comparison procedures for pooling batches in stability

studies. Technometrics 34, 465-472. 1992.

15) Ruberg, S. J. and Stegeman, J. W.: Pooling data for stability studies: testing the equality of batch

degradation slopes. Biometrics 47, 1059-1069.1991.

16) Shao, J. and Chow, Shein-Chung. : Biometrics 50, 753-763. Statistical inference in stability

analysis. 1994.

17) Tsong, Y., Chen, Wen-Jen and Chen, C. W. : ANCOVA approach for shelf life analysis of stability

study of multiple factor design. Journal of Biopharmaceutical Statistics 13, 375-393. 2003.

18) Tsong, Y., Chen, Wen-Jen, Kin, T. D. and Chen, C. W. : Shelf life determination based on

equivalence assessment. Journal of Biopharmaceutical Statistics 13, 431-449. 2003.

19) Yoshioka, S, Aso, Y. and Kojima, S. Assessment of shelf-life equivalence of pharmaceutical

products, Chemical Pharma. Bull. 45, 1482-1484.1997.

119

用 語 集

以下に本解説書に記載されている用語の定義を示す。なお、安定性試験については、新有

効成分含有医薬品の安定性試験ガイドライン(Q1A(R2))の用語集から準用し、更に Q1E ガ

イドラインより必要と思われる用語についても記載した.また,統計に関する用語について

は、適宜選択し、実際の安定性試験の実施者にも役に立つように努めた。用語は安定性試験

用語、統計用語の順にかつ英語でのアルファベット順に示している。

安定性試験の用語

加速試験 (Accelerated testing)

正式な安定性試験の一部として、原薬又は製剤の化学的変化又は物理的変化を促進する保存

条件を用いて行う試験である。加速試験の成績は、長期保存試験成績とともに、申請する貯

蔵方法で長期間保存した場合の化学的影響を評価するのに利用できる。同時に輸送中に起こ

り得る貯蔵方法からの逸脱の影響の評価にも利用できる。なお、加速試験の結果が物理的変

化の予測に適用できるとは限らない。

ブラケッティング法 (Bracketing)

全数試験において設定する全測定時点において、含量や容器サイズ等の試験要因の両極端の

ものを検体とする安定性試験の手法である。この手法は、中間的な水準にある検体の安定性

は、両極端の検体の安定性により示されるとの仮定に基づいている。一連の異なる含量の製

剤が試験される場合、製剤の成分が同一であるか類似しているならば、ブラケッティング法

が適用できる(例:同様の組成の原料顆粒を使用して製造した含量違いの錠剤、異なるサイ

ズのカプセルに異なる量の同一組成の成形粉末を充填して製造したカプセル剤)。ブラケッ

テキング法は同じ包装仕様で異なるサイズの容器もしくは容れ目違いにおいても適用できる。

コミットメントロット (Commitment batches)

原薬又は製剤の実生産スケールにより製造されるロットであって、承認申請時におけるコミ

ットメント(担保)に基づき、承認後に安定性試験を開始又は終了するもの。

容器施栓系 (Container closure system)

製剤を収容し保護する包装の構成要素の全体。直接包装を指すが、二次包装によってさらに

製剤を保護する場合は、二次包装も含まれる。

120

剤形 (Dosage form)

医薬品製剤の種類をいう(例えば、錠剤、カプセル剤、溶液、クリーム等)。一般に、原薬

と添加剤を含有するが、必ずしも添加剤が含まれるとは限らない。

製剤 (Drug product)

剤形に処方され、市販される形の 終的な直接包装に容れられた医薬品。

原薬 (Drug substance)

未処方の医薬品有効成分であり、製剤を製造するためには添加剤とともに処方されうるもの。

正式な安定性試験 (Formal stability studies)

原薬のリテスト期間や製剤の有効期間を決定し、確認するために、定められた安定性試験プ

ロトコールに従って基準ロット又はコミットメントロットについて実施される長期保存試験

及び加速試験(及び中間的試験)。

中間的試験 (Intermediate testing)

30℃/65%RH で行い、25℃において長期間貯蔵する原薬や製剤について化学的分解や物理的

変化を緩やかに加速するように計画された試験。

長期保存試験 (Long term testing)

申請(又は承認)されるリテスト期間又は有効期間を設定するために、ラベルに表示される

貯蔵条件下で行う安定性試験。

物質収支 (Mass nalance)

分析法の精度を適切に考慮に入れて、有効成分の定量値と分解生成物の量の総和がどの程度

まで初期値の 100%に近い値になるかについての検討。

マトリキシング法 (Matrixing)

ある特定の時点で全ての要因の組み合わせの全検体のうち選択された部分集合を測定する安

定性試験の手法である。連続する 2 つの測定時点では、全ての要因の組み合わせのうちの異

なる部分集合を測定する。この手法は、ある時点における全検体の安定性は各部分集合の安

定性により代表されているという仮定に基づいている。従って、同じ品目の試料間で見られ

る差が何に起因する差であるかを明らかにする必要がある。例えば、ロットの違い、含量の

違い、同じ容器/栓システムのサイズの違い、又は、場合によっては異なる容器/栓システ

ムの違いに起因するのかを明らかにする必要がある。

121

パイロットスケールロット (Pilot scale batch)

実生産に適用される製造方法、製造工程を十分に反映して製造された原薬又は製剤のロット

のこと。経口固形製剤では、通常、少なくとも実生産スケールの 10 分の 1 又は 10 万錠(カ

プセル)のいずれか大きい方をパイロットスケールとする。

基準ロット(Primary batch)

正式な安定性試験に用いられる原薬又は製剤ロットであり、それらを用いて実施される安定

性試験は、リテスト期間又は有効期間を設定する目的で、承認申請の添付資料として提出さ

れる。原薬の基準となるロットは、パイロットスケールロット以上でなくてはならない。製

剤の場合、3 ロットのうち、2 ロットはパイロットスケールロット以上で、1 ロットは重要な

製造工程が反映されているならば小規模でも差し支えない。勿論、基準ロットは、実生産ス

ケールロットでもよい。

実生産スケールロット (Production batch)

承認・許可の申請に係る製造施設において、実際の製造設備を用い、実生産スケールで製造

された原薬又は製剤のロット。

リテスト期間 (Re-test period)

原薬が、定められた条件の下で保存された場合に、その品質が規格内にとどまると想定され

る期間であり、当該原薬が製剤の製造に使用できる期間。この期間を超えて保存された原薬

のロットを製剤の製造に使用する場合は、規格への適合性を再試験し、速やかに使用する。

原薬のロットは複数回再試験することが出来る。使用された残りの原薬は、規格に適合し続

ける限り、再試験後に使用できる。不安定であることが知られているほとんどのバイオテク

ノロジー応用製品/生物起源由来製品の原薬に関しては、リテスト期間より有効期間を設定

するほうが適切である。同じことがある種の抗生物質についても言える。

半透過性容器 (Semi-permeable containers)

溶質の損失を防ぐが、溶媒(通常は水)が透過する容器。溶媒の移行は、容器表面への吸着、

容器材料内における拡散、反対側の表面からの脱着の機構によって起こる。移行は分圧の勾

配によって起こる。半透過性容器の例としては、大用量輸液(LVPs)用のプラスチックバッグ

やセミリジッド低密度ポリエチレン(LDPE)ポーチ、さらに LDPE のアンプル、ビン及びバイ

アルなどがある。

有効期間 (Shelf-life)

122

製剤が、容器ラベルに表示された条件下で貯蔵されたときに、承認された有効期間の規格を

満たしていることが想定される期間。

規格 (Specification)

規格とは、試験方法、その試験に用いる分析法に関する記載、ならびに規定した方法で試験

したときの適否の判定基準(限度値、許容範囲あるいはその他の基準)からなるリストと定

義される。原薬または製剤が意図した用途に相応しいものであるために適合すべき一組みの

基準である。(ICH ガイドライン Q6A より引用)。

出荷判定の規格 (Specification-Release)

製剤の出荷時に、適合性を判定するための一連の物理的、化学的、生物学的、微生物学的試

験法及び判定基準。

保存条件の許容限度 (Storage condition tolerances)

正式な安定性試験を行うための保存設備について、温度及び相対湿度の許容される変動。設

備は、ガイドラインで指定されている範囲内で保存条件を制御できるものでなければならな

い。実際の温度及び湿度(制御されている時)は、安定性試験の期間を通してモニターしな

ければならない。保存設備のドアの開閉による短期の逸脱は不可避として認められるが、設

備の故障などによる逸脱は安定性試験成績への影響を判断し、影響がある場合には報告する。

24 時間を超える逸脱は安定性試験資料に記載しその影響を評価する。

苛酷試験(原薬) (Stress testing drug substance)

原薬の本質的な安定性を明らかにするために行われる試験。苛酷試験は開発段階で行う試験

の一部であり、通常、加速試験よりも苛酷な保存条件を用いて行われる。

苛酷試験(製剤) (Stress testing drug product)

製剤について苛酷条件の影響を評価するために行われる試験。光安定性試験(ICH ガイドライ

ン Q1B 参照)や特定の製剤についての特殊試験(例えば、計量吸入剤、クリーム、エマルジ

ョン、冷蔵の水性液剤)が含まれる。

参考資料 (Supporting data)

申請時に提出される正式な安定性試験以外のデータで、分析方法、申請されたリテスト期間

又は有効期間及びラベルに表示される貯蔵方法の正当性を支持するデータ。(1)初期の合成経

路による原薬のロット、小規模のロット、市場に出荷されない試験的な処方及び関連した処

方、市場に出荷される容器/栓システム以外の容器/栓システムに入れられた製剤等につい

123

て行われた安定性試験、(2)容器についての試験成績に関する情報及び(3)その他の科学的な根

拠等を含む。

関連する参考資料 (Relevant Supporting Data; Q1E より)

原薬又は製剤のリテスト期間又は有効期間を提示する際に、それを裏づけるために重要な資

料であり、Q1E ガイドラインでは以下のように定義されている。

(1) 基準ロットに近い処方で製造された開発ロット。

(2) 基準ロットよりも小さなスケールで製造された開発ロット。

(3) 基準ロットと類似の容器施栓系で包装された開発ロットで得られた十分長期のデータを

いう。

統計用語

共分散分析 (Analysis of Covariance :ANCOVA)

要因実験において、特性値に影響のある補助因子(共変量)が測定されている場合に、実験

因子に加えて、補助因子もモデルに取り込んで解析する統計的手法。因子効果の変動及び誤

差変動から、補助因子の変化に伴う系統的な変動を除去することにより、比較の精度を高め

ることが可能となる。さらに補助因子を調整して実験因子の効果を比較することができる。

安定性試験では、特性値を含量、実験因子をロットや包装形態、補助因子を時間としている。

信頼限界 (Confidence Limit)

信頼限界とは、真の平均値や出現率などのパラメータを、所与の確率(信頼係数、例えば

95%)で覆うような区間(信頼区間)の上限を上側信頼限界、下限を下側信頼限界とよぶ。

信頼区間による推定は、検定の結果も含むので、より有用な情報を与える。

交差因子(Crossing factor)

試験因子がロットと包装形態の場合には、通常は同一ロットの製剤がいずれの包装にも使用

される。このような 2 つの因子の関係を、2 つの因子は交差しているという。ロットと他の

因子が交差している場合には同一ロットの全データの平均には、他の因子の全ての水準の影

響がいずれのロット平均にも等しく含まれるので、当該因子と独立にロット間の比較が出来

る。同様の理由でロットと独立に当該因子の水準間の比較が出来る。また、全てのロットが

他の因子の全ての水準で試験されているのでロットと他の因子の組み合わせ効果(交互作

用)を見ることが出来る。

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因子(Factor)

実験計画では、実験の結果を表す応答に影響する原因を因子といい、その因子のとる条件を

因子の水準という。例えば安定性試験では製剤の安定性に影響する原因としてロット、含量、

包装形態、時間などがある。勿論温度、湿度、光なども応答に影響するが、試験でその条件

を変えて条件間の違いを研究対象としている因子を考察の対象としているので、実験因子は

ロット、含量、包装形態である。

要因効果 (Factor effect)

共分散分析や分散分析では、包装形態、含量、ロットなどを因子といい、各因子の主効果、

2 因子間交互作用、3 因子間交互作用などの特定の因子同士の交互作用効果の各々を要因効果

と呼ぶ。

多重比較 (Multiple Comparison)

因子が 3 つ以上の水準を含むとき(例えば含量が 50mg ,75mg,100mg の3水準あるとき)、

水準間の一様性のような包括的評価だけでなく、どの水準間に差があるのか、或いは水準間

にどのようなパターンが見られるのかについて,複数の比較を同時に実施する統計的手法。こ

のとき、検定・推定を繰り返すことによる第一種の過誤の増大を抑えるよう比較に伴う有意

水準が調整される。

減数モデル (Most Reduced Model)

ある統計的モデルがp個のパラメータを含むとき、その中のq(q<p)個のパラメータに

特定の値を指定したモデルは、 初のモデルの部分モデルとなっている。いまp個のパラメ

ータを含むモデルを 大モデルといい、p個のパラメータの一部に特定の値を指定し、以降

順次残りの未知パラメータの一部に特定の値を指定していくとすると、未知パラメータの集

合が包含関係を持つようになる。 大モデルは全てのパラメータが未知パラメータである場

合である。このようなパラメータの組に包含関係が存在しているとき、モデル全体が階層構

造をなしているという。この階層的なモデルの系列の中で、データに適合する もパラメー

タの少ないモデルを 減数モデルと呼んでいる。したがって 減数モデルは解析対象として

いるデータにより異なり得る。

入れ子因子(Nested factor)

含量が実験因子の場合、通常は含量が異なればロットは異なるのですべてのロットが全ての

含量と組み合わせられない。したがって含量に独立にロット間の比較をすることは意味をも

たず、また含量とロットの組み合わせ効果も定義できない。即ち含量とロットの交互作用は

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モデル上定義できない。このようなロットと含量の関係を入れ子構造にあるといい、ロット

は含量に入れ子になっているという。

回帰分析 (Regression Analysis)、重回帰分析 (Multiple Regression Analysis)

目的変数と説明変数の間の関係式を求め、説明変数の影響の評価、目的変数の予測等を行う

統計的手法。説明変数が一つであれば単回帰分析、二つ以上であれば重回帰分析とよぶ。安

定性試験では、目的変数を含量、説明変数を時間とした単回帰分析である。