日本史 第5講座 最終校 - e-xpert · 持統天皇(藤原京) 律令国家の成立...

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第1章 原始・古代 【第 5 講】律令国家の成立 1 斉明天皇 皇極天皇の重祚 重祚 一度退位した天皇が再び天皇につくこと 658 阿倍 あべの 蝦夷征討 阿倍比羅夫が水軍を率い蝦夷を征討する。 660 百済 くだら 滅亡 めつぼう (1) 背景 660 年、百済は唐・新羅の連合軍に破れ滅亡。 (2) 経過 661 百済救援のため天皇と皇太子(中大兄皇子)は筑紫へ下った。 斉明天皇は△朝倉宮にて崩御。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

1

斉明天皇 皇極天皇の重祚 重祚 … 一度退位した天皇が再び天皇につくこと

Ⅰ 658年 阿倍あべ の比ひ羅ら夫ふ 蝦夷征討

阿倍比羅夫が水軍を率い蝦夷を征討する。

Ⅱ 660年 百済くだ ら滅亡めつぼう

(1) 背景

660年、百済は唐・新羅の連合軍に破れ滅亡。

(2) 経過

661年 百済救援のため天皇と皇太子(中大兄皇子)は筑紫へ下った。

斉明天皇は△朝倉宮にて崩御。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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天智てん じ天皇(近江大津宮) 内政の充実に専念

• 父は舒明天皇、母は皇極天皇

• 661年~668年は△称制(皇太子のまま君主的な政治を執ること)を行う

Ⅰ 663年 白はく村江そんこう

の戦い(VS唐・新羅)

① 結果 大敗したため、中大兄皇子は国内防備、国内情勢の整備に力を注いだ。

② 影響

(1) 九州防備

• 壱岐、対馬、筑紫に防人や烽火(通信手段)を設置

• 大宰府北方に水城を設置

(2) 朝鮮式山城(神籠石)

大宰府に大野城、△基肄城、大和に△高安城、対馬に△金田城を築く。

※668年、唐・新羅連合軍は高句麗を滅ぼした。→ 新羅の朝鮮半島統一(676年)

Ⅱ 667年 近江おう み大津宮おおつのみや

に遷都

Ⅲ 668年 天智てん じ天皇てんのう

即位

Ⅳ 668年 近江令お う み り ょ う

天智天皇により初めて制定された令(行政法)。現存しないためその内容は不明。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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Ⅴ 669年 中臣鎌足なかとみのかまたり

死去 中臣鎌足は、臨終に際し、天智天皇より大織冠、内大臣、藤原姓を授けられる(藤原

氏の祖は藤原鎌足)。

Ⅵ 670年 庚こう午ご年ねん籍じゃく

初めて作成された戸籍。氏姓を正す台帳。

庚午年籍のみ永久保存(普通の戸籍は 30 年間保存して廃棄)。

Ⅶ 672年 壬申じんしん

の乱らん

(1) 内容

天智天皇死後、天智の子の大友皇子と天智の弟の大海人皇子が皇位継承争いを起こす。

(2) 結果

大海人皇子勝利 → 天皇に対抗しうる大豪族が没落→天皇の権威飛躍的に高まる

→天皇の神格化

天てん武む天皇(飛鳥浄御原宮) 天皇の神格化!

天智天皇の弟。壬申の乱勝利後、一層改新政治を展開していった。

皇親政治(皇后と皇子、皇族の補佐によって)を行う。

Ⅰ 部曲かき べ廃止 懸案だった公地公民の完全実施を目指した

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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Ⅱ 681年 『帝紀』『旧辞』再編纂 天武天皇は国史の編纂を命じた。

(1) 内容

「帝紀」… 天皇の系譜中心

「旧辞」… 神話、伝承中心

(2) 目的

天皇家の尊厳化と権威化を図った。

(3) 結果

『古事記』(712年、元明天皇に献上)、『日本書紀』(720年、元正天皇に献上)に結実

Ⅲ 681年 飛鳥あすかの

浄きよみ御原令はらりょう

編纂に着手 689年、持統天皇の時代に施行された。

Ⅳ 684年 八色やく さの姓

かばね

(1) 目的

天武天皇は諸氏族を統制するため天皇家との親疎関係により新身分秩序を形成。

(2) 内容

真人(最高位)、朝臣(臣姓)、宿禰(連姓)など、皇族の身分的優位を確立した。

※天武天皇の政治を皇親政治といい、在位 14 年間で一度も補佐役を置かなかった。

その他にも天武天皇は初の貨幣、富本銭を鋳造している。

史料 〈天皇の神格化〉

「大君は神にしませば赤駒のはらばう田井を都となしつ」 大伴御行

「大君は神にしませば天雲の雷の上にいおりせるかも」 柿本人麻呂

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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持統天皇(藤原京) 律令国家の成立 天武天皇の皇后。軽皇子(のちの文武天皇)の成長待ち

Ⅰ 689年 飛鳥浄御原令 施行 681年 天武天皇が編纂着手した令であり 689 年持統天皇が施行した。

大王ではなく天皇、倭ではなく日本という名称が使われている。

Ⅱ 690年 庚こう寅いん年ねん籍じゃく

最初の班田台帳として作成された。→ 班田制が確立(班田収授法)

Ⅲ 694年 藤原ふじわら

京きょうへ遷都

(1) 特徴

• 唐の都長安を模倣し、初めて都城制が採用される

• 大和三山(北は耳成山、東は天香久山、西は畝傍う ね び

山)に囲まれる

• 条坊制(土地区画、東西南北に走る道路で整然と区画)が採用

(2) 意義

律令国家の成立を象徴から

(3) その後

701年以降、評から郡となった。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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文武天皇(藤原京) 律令国家の成立 天武、持統の孫、△草壁皇子の子。

701年 大宝たいほう

律令りつりょう

編纂 刑部親王(天武の皇子)・藤原不比等(鎌足の子)

(1) 経過

律(刑法)と令(行政法)が整備される。

(2) 一覧

• 近江令

令 22巻。天智天皇が中臣鎌足に作らせて、668年に制定。

• 飛鳥浄御原令

令 22巻。681年、天武天皇が編纂し始めて、689年、持統天皇が施行。

• 大宝律令

律 6巻、令 11巻。刑部親王、藤原不比等らによって完成し、文武天皇によって 701

年に制定された。

• 養老律令

律 10巻、令 10巻。藤原不比等によって作成され、718年に制定され、757年、元

正天皇のもとで施行された。

令の解釈を統一するために令義解と令集解が作られた。

• 令義解(養老令の官撰注釈書) … 833年清原夏野らが編纂。

• 令集解(養老令の私撰注釈書) … 9世紀後半惟宗直本により編纂。

大宝令の内容の一部も注釈。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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① 律令官制(ニ官八省一台五衛府)

(1) 地方

• 五畿七道

五畿 … 大和・山背・河内・摂津・和泉

七道 … 東海道・東山道・北陸道・山陰道・山陽道・南海道(四国+紀伊)・西海道(九

州)

• 国

国司(中央から派遣、任期 6年)が任じられた。役所は国衙(国府とは国衙のある場所・

律令初期は国衙と同じ意味でも使われた)と呼ばれた。

• 郡

郡司(地方豪族を任命、国司の下に属す)が任じられた。役所は△郡衙(郡家)と呼ばれ

た。

• 里

里長(地方行政区画の最小単位)が任じられた。のち、里は郷(郷長)となる。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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(2) 要地

• 京

京職(東市・西市を管理するのが市司)をおいた。左京には東市、右京には西市が設

置された。

• 難波

摂津職(摂津国の行政一般、外交上重視された)をおいた。

• 筑紫

遠の朝廷と呼ばれる大宰府(西海道管轄、九州の行政一般を担当)をおいた。

② 身分制度 • 良民 … 皇族、貴族、公民、△雑色(品部、雑戸など朝廷に仕えた手工業者)

• 賤民(五色の賤) … 陵戸(天皇、皇后らの陵墓の守衛)、官戸(官有の賤民)、

家人(私有の雑用)、公奴婢(官有奴隷)、私奴婢(私有奴隷)

中央官僚の身分制度

(1) 階の種類は 30位階

(2) 官位相当の制

位階に応じた官職に任命する制度。

例 一位は太政大臣、二位は左右大臣、三位は大納言に任命

• 四等官制 … 上級階級の幹部職員は 4階級の構成をもつ

長官か み

次官す け

判官じ ょ う

主典さ か ん

八省 卿 輔 丞 録

国司 守 介 掾 目

郡司 大領 少領 主政 主帳

• 蔭位の制 … 試験を受けず、父祖の位階によって官職に就く制度

五位以上の者の子、三位以上の者の孫は 21 歳で自動的に一定の位階

が授けられる。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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• 上級貴族の経済的特権

給与 … 位封、職封、位田、職田(職分田)資人(五位以上の従者)など。

租税 … 庸・調・雑徭は免除される。

※刑罰も軽減される。刑罰は代償を払って免除されることもあった。

③ 土地制度

(1) 班田収授法

口分田を公民に班給し、死後国にこれを収める法。

• 参考

唐の均田法

• 意義

大土地所有制の発展を防ぎ、公民の最低生活を保証し代わりに租税や兵役を確保し

て財政の根本を維持する。

• 施行準備

戸籍・計帳の作成

(2) 戸籍

人民登録。6 年に一度国司が作成する。30年保存の後廃棄。

(3) 計帳

庸、調徴収のための台帳。毎年国司が作成する。各戸主の戸口の氏名・性別・課不課

の別などを申告させた。正倉院に計帳の断片が現存。

(4) 口分田の班給

• 6 歳以上の男女に 6 年ごとに実施する

• 面積

良民男子は 2 段(720歩) ※1 段=360 歩

良民女子は 1 段 120 歩(480歩)※これは男子の 3 分の 2である。

• 条里制

田の班給をしやすくするための土地区画。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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④ 租税・兵役制度

(1) 租税

• 租

田一段につき 2 束 2 把(3%)の稲を徴収する(地方国衙の財源)。

庸 … 正丁 1人につき 10日の歳役(都での労役)の代わりに

2 丈 6 尺の麻布を納めよ(中央政府の財源)。

調 … 絹・糸・綿・布・鉱産物・海産物など、各地の特産品を納めさせる

もの(中央政府の財源)。天皇に貢納される食料品を△贄という。

雑徭 … 国司の元で 1年間に 60 日間労役すること。

※庸・調・雑徭を合わせて課役という。

※庸・調は農民の各戸から出された運脚によって中央に運ばれた。

※課役は成年男子のみかかる人頭税であって、女子にはかからない。

• 義倉

凶年に備えて毎年、粟などを納めさせるもの。

• 出挙

稲の貸付制度。稲の種籾は春に貸し出され、秋に利息とともに返納させた。

• 公出挙

政府の行う出挙(利子 5割)であり、地方国衙の財源となった。

• 仕丁

雑役に従事するため上京させられた成年男子。

年齢による負担の割合

庸 調 雑徭

正丁(21~60 歳) 2丈 6尺 1 60日

次丁(61~65歳) 正丁の 1/2 正丁の 1/2 30日

中男(17~20歳) なし 正丁の 1/4 15日

人頭税

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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(2) 兵役

兵士は正丁から△郷戸ごとに 3人に 1人の割合で選ばれ、各国の軍団へ。

• 衛士

都に 1年間勤務

• 防人

大宰府に 3年間勤務

※『万葉集』には「防人の歌」が残っている。

⑤ 司法制度(律) • 五刑

笞(鞭 10~50打)・杖(杖 60~100打)・徒(懲役)・流・死

• 八虐

特に重罪とされた8つの罪。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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問 1 天智天皇の治世の出来事として,正しいものを選べ。

(a) 弟の大海人皇子と対立し,壬申の乱が起こった。

(b) 朝鮮半島で,高句麗が滅亡した。

(c) 百済の侵攻に備え,都を飛鳥から近江に移した。

(d) 豪族間の秩序を確定するため,冠位十二階を定めた。

問 2 口分田の班給について述べたものとして,誤っているものを選べ。

(a) 良民男子には 2段が支給された。

(b) 奴婢にも班給された。

(c) 4年に 1度,班給されることになっていた。

(d) 6歳以上の者に班給された。

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第 1章 原始・古代 【第 5講】律令国家の成立

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問 1(b)

問 2(c)

【解説】

「4年」ではなく「6年」。