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石川県版 特別号 石川県病院薬剤師会 顧問 金沢大学附属病院 副病院長・薬剤部長 宮本 謙一 先生 石川県病院薬剤師会 会長 金沢医科大学病院 薬剤部長 西尾 浩次 先生 ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声を お届けする情報誌です。 石川県における病棟薬剤業務の現状と課題 ――最初に、石川県における病棟薬剤業務の現状についてお 伺いします。 西尾 2013年7月現在、石川県下100病院のうち12病院、12%が 病棟薬剤業務実施加算の届け出をしています。届け出病院の病 床数を見ると、838床の金沢大学附属病院を筆頭に、500床前後 が2病院で、割合としては小~中規模病院が多い状況です。ま た、薬剤師1人当たりの病床数を見ると、17~45床/人と幅があ りますが、平均すると25~35床/人となっています。人員不足は 県全体に言えることですが、病院によって、あるいは地域によっ て差があります。特に大規模病院では全病棟に配置しようとする と大幅な人員増が必要となるため、すぐには体制を整備すること は難しい状況です。ちなみに金沢医科大学病院は835床、22病 棟で、2012年4月の時点で10病棟に薬剤師が常駐し、全病棟で 薬剤管理指導を実施していましたので、2013年度には算定を開 始する予定でした。病院からも8人の増員が認められましたが、そ の後、退職者があり、補充ができない状況で推移しています。現 在は定数54人に対して39人と、大幅な欠員状態であり、算定に向 けて人員確保が最大の課題となっています。将来は1病棟2人体 制を目指していますが、現状では難しいので、各病棟における業 務量や難易度によって、まずはコアになる10病棟は2病棟3人体 制で、その他の病棟に対しては、半日体制または1人体制にするこ とを検討中です。 宮本 金沢大学附属病院は838床、ICUなども含めて20病棟、 薬剤師は49人です。従来からすべての病棟に1人の薬剤師をほぼ 専従で配置しているので、業務内容や人員体制を大きく変更する ことなく、2012年7月より算定を開始しました。しかし、1病棟1人 体制では休暇取得者があった場合に他の薬剤師の負担が大きく なり、時間外勤務が増え、薬剤管理指導件数の低下を招くなど の問題が生じてきました。当院の場合、薬剤師1人当たりの病床 数は17.1床/人と比較的多いのですが、大学病院にはいろいろ な業務があり、病棟以外にも配置が必要です。また、患者さんは 重症度が高く、専門的な医療が必要な方が増えていますから、 2012 年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。 患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員 として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・石川県版 2013」では、金沢大学附属病院薬剤部長の宮本謙一先生と金沢医科大学病院薬剤 部長の西尾浩次先生のお二人に、石川県における病棟薬剤業務の現状および石川県病院薬剤師会の支援体制、チーム医療の 推進と協働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性について語り合っていただく中から、新時代を迎えた病院薬剤師 へのメッセージをお届けします。 金沢駅

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田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年10月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

石川県版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

石川県病院薬剤師会 顧問金沢大学附属病院副病院長・薬剤部長宮本 謙一 先生

石川県病院薬剤師会 会長金沢医科大学病院薬剤部長西尾 浩次 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

■石川県における病棟薬剤業務の現状と課題――最初に、石川県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

西尾 2013年7月現在、石川県下100病院のうち12病院、12%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしています。届け出病院の病床数を見ると、838床の金沢大学附属病院を筆頭に、500床前後が2病院で、割合としては小~中規模病院が多い状況です。また、薬剤師1人当たりの病床数を見ると、17~45床/人と幅がありますが、平均すると25~35床/人となっています。人員不足は県全体に言えることですが、病院によって、あるいは地域によって差があります。特に大規模病院では全病棟に配置しようとすると大幅な人員増が必要となるため、すぐには体制を整備することは難しい状況です。ちなみに金沢医科大学病院は835床、22病棟で、2012年4月の時点で10病棟に薬剤師が常駐し、全病棟で薬剤管理指導を実施していましたので、2013年度には算定を開始する予定でした。病院からも8人の増員が認められましたが、そ

の後、退職者があり、補充ができない状況で推移しています。現在は定数54人に対して39人と、大幅な欠員状態であり、算定に向けて人員確保が最大の課題となっています。将来は1病棟2人体制を目指していますが、現状では難しいので、各病棟における業務量や難易度によって、まずはコアになる10病棟は2病棟3人体制で、その他の病棟に対しては、半日体制または1人体制にすることを検討中です。

宮本 金沢大学附属病院は838床、ICUなども含めて20病棟、薬剤師は49人です。従来からすべての病棟に1人の薬剤師をほぼ専従で配置しているので、業務内容や人員体制を大きく変更することなく、2012年7月より算定を開始しました。しかし、1病棟1人体制では休暇取得者があった場合に他の薬剤師の負担が大きくなり、時間外勤務が増え、薬剤管理指導件数の低下を招くなどの問題が生じてきました。当院の場合、薬剤師1人当たりの病床数は17.1床/人と比較的多いのですが、大学病院にはいろいろな業務があり、病棟以外にも配置が必要です。また、患者さんは重症度が高く、専門的な医療が必要な方が増えていますから、

薬剤師の業務の難易度も高く、必要な時間も長くなります。そこで当院では、今後、2病棟3人体制にするべく、3年計画で4人ずつ増員することを病院に働きかけています。しかし、すでに現体制で算定ができているため、収入増加を増員の理由にはできず、医療安全の面から病棟業務体制の強化の必要性を訴えているところです。

――石川県病院薬剤師会(以下、県病薬)としての支援体制はどのようになっていますか。

西尾 従来から講演会や研修会は積極的に行っていましたが、昨年来、病棟薬剤業務に関連した内容を中心に企画をしています(資料1)。特に医療安全に関しては、薬に関わるインシデントが多いこともあり、薬剤師がその専門性を発揮して大いに活躍すべきだと思っています。そのための知識を吸収するための機会は今まで以上に必要になっていますので、県病薬としてもバックアップをしていく予定です。また、フィジカルアセスメントについても、金沢医科大学および金沢大学の研修施設を活用して、年2回、実技の講習会を開催しています。フィジカルアセスメ

ントは薬の副作用や効果を評価するために、病棟薬剤師にとって非常に重要なスキルと考えており、チーム医療の実践に生かすことで、薬剤師の活躍の場を広げていくことを目指しています。

宮本 フィジカルアセスメントに限らず、副作用の早期発見は薬剤師にとって重要な役割です。先日は県病薬の学術講演会で薬疹の見方を当院の皮膚科の医師に解説していただきました。患者さんがかゆみや発疹を訴えた時、あるいは薬剤師が発見した時に、それが薬疹かどうかを判断するための基礎知識を備えておく必要があります。今後も臨床現場で薬剤師に求められる役割を果たすために、必要な知識やスキルの習得、会員間の情報共有は活発に行っていく必要がありますね。

――病棟薬剤業務の実施においてはどのような課題がありますか。

西尾 日本私立医科大学協会における薬剤師の病棟業務に関する調査からも、加算を算定している病院では残業が増加傾向にあることが明らかになっています。病棟業務に限らず、薬剤師の仕事は増える一方ですから、個々の薬剤師の負担が大きくなっているのではないかと危惧しています。さらには中心静脈輸液や末梢静脈輸液、抗がん剤を薬剤師が混注することが一般的になると、看護師の知識や技術が低下していきますから、最終的には薬剤師が時間外も対応しなければならず、薬剤部全体の体制の再構築が必要になると思います。

宮本 当院では持参薬管理は病棟薬剤師が実施していますが、持参薬が多い病棟とほとんどない病棟がありますし、抗がん剤の混注の量も病棟によってムラがあります。こうした業務量の多い病棟の負担を軽減し、病棟間格差を埋めるためにも、2病棟3人体制にするなど病棟の人員配置の強化と同時に、中央業務を含めた薬剤部全体のマネジメントを強化しないと、今後の病棟業務の継続、発展は望めないと感じています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務で求められるチーム医療の推進と協働、医師の負担軽減に対してはどのようにお考えでしょうか。

宮本 病棟薬剤業務の目的は、薬剤師が主体的に薬物療法に関わることで有効性と安全性を向上させるとともに、医師や看護師と協働することで、業務の効率化、負担軽減につなげることです。2010年4月の厚労省医政局長通知は、医師とともにプロトコールを作成し、それに基づいて薬剤師が処方の変更や検査のオーダーを行うことを奨励していると解釈できます。ここで気をつけなければいけないのは、薬剤師の処方変更を医師がチェックして、承認しなければいけないことです。ということは、医師がいつも電子カルテなどに目配りしている必要があるということですから、負担軽減にならないのではないでしょうか。これは非常に微妙な問題で、解釈がまだ定まっていませんが、日本ではアメリカで行われているような共同薬物治療管理(CDTM)の環境は整っていないということは言えるでしょう。しかし、プロトコールがなくても、安全のために薬剤師がやるべきことをやればいいのです。医師に処方提案をし、検査オーダーを依頼すればいい

石川県版 特別号

石川県版特別号

わけで、薬剤師が処方を「代行」する必要はないと思っています。

西尾 病院によって事情が違うので、協働の形はいろいろあっていいと思います。各病院の実情に即したルールづくりが大事ではないでしょうか。当院では、まずは薬剤師がやるべき業務をやっていこうという方針です。例えば、今までは看護師が対応していた混注業務も、これからは薬剤師が積極的に関わっていく、あるいは添付文書に定期的な検査が必要と記載されている薬剤については、薬剤師がチェックして医師に検査を依頼する。こうした基本的なことを着実に行うことで、副作用防止や医療安全への貢献、医師、看護師との協働を進めていこうと思っています。協働というのは、各職種が自らのテリトリーの中でその役割をしっかりと果たし、そのうえでお互いに補完し合うことで、患者さんに最善の治療を行うことです。われわれは薬のプロですから、処方提案や副作用への対応をカンファレンスなどでしっかりと発言できる薬剤師にならなければいけないし、そのための教育が重要になると思います。

――チーム医療の実施状況についてお伺いします。

西尾 医療チームの中には必ず薬剤師が参加していますが、中でも栄養サポートにおいてはNST専門薬剤師の資格を持つ者が3人おり、医師、看護師、管理栄養士などと共に積極的に関わっています。静脈・経腸栄養療法における処方支援だけでなく、食品との相互作用を考慮した医薬品の適正使用推進など、栄養士とは異なる視点で薬剤師の専門性を生かす部分は多いですね。

宮本 当院でも従来からチーム医療に積極的に参画しており、その実績が評価されて医師からのアプローチで共同研究へと発展している例もあります。これは大きな成果であり、薬剤師にとって次へのステップになると思います。また、外来化学療法室には4人の薬剤師を配置していますが、うち1人は糖尿病療養指導士とNST専門薬剤師の資格を取得しており、栄養状態の低下、糖尿病患者さんへの副腎皮質ホルモン剤使用による高血糖の副作用などへの対処にも専門性を発揮し、多面的にがん患者さんを支援しています。化学療法室スタッフ間の連携に加えて、院内の緩和ケアチーム、栄養サポートチーム、糖尿病専門チームとの連携によるチーム医療は、厚生労働省の2011年度「チーム医療実証事業」に採択され、がん治療効果の向上や患者さんのQOL向上に対する効果の検証に取り組みました。2012年度には「普及推進事業」として、北陸地区への拡大を目指して多職種によるワークショップを開催し、がん化学療法におけるチーム医療の指針を作成しました(資料2)。薬剤師はレジメン管理や抗がん剤の無菌調製、緩和ケアなど、がんに特化した役割だけではなく、さまざまな視点からチーム医療に貢献できるという、新たな可能性を見い出すことができたと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代を 迎えた病院薬剤師へのメッセージ――チーム医療で薬剤師が力を発揮するためにはどのような取り組み、あるいは教育が必要だと思いますか。

西尾 医師は診療科別に専門分化していますので、薬剤師にも専門性の追求は必要だと思います。ただ、ジェネラリストであることも求められるという二面性があり、私は全員が専門薬剤師になる必要はないと思います。せっかく薬学教育が6年制になったわけですから、われわれも学生の実務実習の段階から、病院薬剤師としての専門性をどのように患者さんのために生かすのか、自分なりの方向付けや薬のプロとしての意識付けができる教育・指導を行うことが大切だと考えています。

宮本 基本的に、すべての薬剤師がまずはジェネラリストになるべきだと考えています。少なくともTDMに基づいて個々の患者さんに適した投与量や投与スケジュールを医師に提案できることがジェネラリストには求められるでしょう。私が目標にしているのは、各病棟にジェネラリストを1人配置し、そこに専門薬剤師あるいはベテランがスーパーサブのような形でサポートする体制の確

立です。当院では3年スパンで業務ローテーションをしていますが、その目的の一つは、多くの薬剤師にいろいろな経験を積んでもらうことでジェネラリストとして成長することです。薬剤師自身は大変かもしれませんが、将来責任者やリーダーとなって後進を指導するためにも、幅広い知識と経験が必要だと思います。

――病棟業務における薬剤師のレベルの均質化についてはどのようにお考えですか。

宮本 同じレベルの薬剤師をすべての病棟に配置することは不可能ですので、当院ではむしろ業務内容の標準化を重視しています。ただ、病棟毎の文化やルールのようなものがありますので、ある程度はそちらに合わせていくことも必要です。また、病棟業務の標準化を図り、病棟間のレベル差を埋めるためにも、先ほども申し上げたように、できるだけ早期に現在の1病棟1人から2病棟3人体制にしたいと考えています。

西尾 基本的には一定レベル以上の知識やスキルを持っていることは病棟薬剤師の条件ではありますが、DI室やセントラルファーマシーでサポートすることも十分可能です。また、病棟の特性に応じて薬剤師の能力、成長の度合いを考慮しながら、中堅やベテランとうまく組み合わせることで、若い薬剤師を育てていくこともできると思っています。

――最後に、県内の薬剤師の皆さんへのメッセージをお願いします。西尾 薬剤師が活躍する場は、病院をはじめとして、保険薬局、企業、行政など幅広く、自分が望めば一生の仕事として、多くの人々に貢献することができます。若い薬剤師の皆さんが患者さんのために役に立ちたいと考えるのならば、幅広くいろいろな疾患や治療を勉強し、医療に携わるさまざまな職種の人たちがどのような役割を持ち、協働しているかを理解するためにも、一定期間は病院で経験を積んでほしいと思っています。それによって、今後、どのような道に進もうとも、自信を持って仕事ができるはずです。自分がどんな薬剤師になりたいのか、目標と気概を持って、常に学ぶ姿勢で将来への道を切り拓いていっていただきたいと思います。

宮本 今は病棟業務に注目が集まっていますが、病院薬剤師には地域医療を総合的に見る視点を持ってほしいと思います。地域は一つの病棟であり、患者さんが最後まで自宅で療養できる地域医療体制を築いていかなければいけません。当然のことながら、地域の医師や訪問看護師などとの連携によるチーム医療も必要になります。そして、地域の保険薬局の薬剤師がもっと地域医療の中で活躍できるような環境づくりやスキルアップのための支援に、病院薬剤師が力を発揮することを期待しています。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・石川県版2013」では、金沢大学附属病院薬剤部長の宮本謙一先生と金沢医科大学病院薬剤部長の西尾浩次先生のお二人に、石川県における病棟薬剤業務の現状および石川県病院薬剤師会の支援体制、チーム医療の推進と協働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性について語り合っていただく中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

金沢駅

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石川県版 特別号

石川県病院薬剤師会 会長金沢医科大学病院 薬剤部長

にし お こう じ

西尾 浩次 先生

石川県病院薬剤師会 顧問金沢大学附属病院 副病院長・薬剤部長

みや もと   けん いち

宮本 謙一 先生

■石川県における病棟薬剤業務の現状と課題――最初に、石川県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

西尾 2013年7月現在、石川県下100病院のうち12病院、12%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしています。届け出病院の病床数を見ると、838床の金沢大学附属病院を筆頭に、500床前後が2病院で、割合としては小~中規模病院が多い状況です。また、薬剤師1人当たりの病床数を見ると、17~45床/人と幅がありますが、平均すると25~35床/人となっています。人員不足は県全体に言えることですが、病院によって、あるいは地域によって差があります。特に大規模病院では全病棟に配置しようとすると大幅な人員増が必要となるため、すぐには体制を整備することは難しい状況です。ちなみに金沢医科大学病院は835床、22病棟で、2012年4月の時点で10病棟に薬剤師が常駐し、全病棟で薬剤管理指導を実施していましたので、2013年度には算定を開始する予定でした。病院からも8人の増員が認められましたが、そ

の後、退職者があり、補充ができない状況で推移しています。現在は定数54人に対して39人と、大幅な欠員状態であり、算定に向けて人員確保が最大の課題となっています。将来は1病棟2人体制を目指していますが、現状では難しいので、各病棟における業務量や難易度によって、まずはコアになる10病棟は2病棟3人体制で、その他の病棟に対しては、半日体制または1人体制にすることを検討中です。

宮本 金沢大学附属病院は838床、ICUなども含めて20病棟、薬剤師は49人です。従来からすべての病棟に1人の薬剤師をほぼ専従で配置しているので、業務内容や人員体制を大きく変更することなく、2012年7月より算定を開始しました。しかし、1病棟1人体制では休暇取得者があった場合に他の薬剤師の負担が大きくなり、時間外勤務が増え、薬剤管理指導件数の低下を招くなどの問題が生じてきました。当院の場合、薬剤師1人当たりの病床数は17.1床/人と比較的多いのですが、大学病院にはいろいろな業務があり、病棟以外にも配置が必要です。また、患者さんは重症度が高く、専門的な医療が必要な方が増えていますから、

薬剤師の業務の難易度も高く、必要な時間も長くなります。そこで当院では、今後、2病棟3人体制にするべく、3年計画で4人ずつ増員することを病院に働きかけています。しかし、すでに現体制で算定ができているため、収入増加を増員の理由にはできず、医療安全の面から病棟業務体制の強化の必要性を訴えているところです。

――石川県病院薬剤師会(以下、県病薬)としての支援体制はどのようになっていますか。

西尾 従来から講演会や研修会は積極的に行っていましたが、昨年来、病棟薬剤業務に関連した内容を中心に企画をしています(資料1)。特に医療安全に関しては、薬に関わるインシデントが多いこともあり、薬剤師がその専門性を発揮して大いに活躍すべきだと思っています。そのための知識を吸収するための機会は今まで以上に必要になっていますので、県病薬としてもバックアップをしていく予定です。また、フィジカルアセスメントについても、金沢医科大学および金沢大学の研修施設を活用して、年2回、実技の講習会を開催しています。フィジカルアセスメ

ントは薬の副作用や効果を評価するために、病棟薬剤師にとって非常に重要なスキルと考えており、チーム医療の実践に生かすことで、薬剤師の活躍の場を広げていくことを目指しています。

宮本 フィジカルアセスメントに限らず、副作用の早期発見は薬剤師にとって重要な役割です。先日は県病薬の学術講演会で薬疹の見方を当院の皮膚科の医師に解説していただきました。患者さんがかゆみや発疹を訴えた時、あるいは薬剤師が発見した時に、それが薬疹かどうかを判断するための基礎知識を備えておく必要があります。今後も臨床現場で薬剤師に求められる役割を果たすために、必要な知識やスキルの習得、会員間の情報共有は活発に行っていく必要がありますね。

――病棟薬剤業務の実施においてはどのような課題がありますか。

西尾 日本私立医科大学協会における薬剤師の病棟業務に関する調査からも、加算を算定している病院では残業が増加傾向にあることが明らかになっています。病棟業務に限らず、薬剤師の仕事は増える一方ですから、個々の薬剤師の負担が大きくなっているのではないかと危惧しています。さらには中心静脈輸液や末梢静脈輸液、抗がん剤を薬剤師が混注することが一般的になると、看護師の知識や技術が低下していきますから、最終的には薬剤師が時間外も対応しなければならず、薬剤部全体の体制の再構築が必要になると思います。

宮本 当院では持参薬管理は病棟薬剤師が実施していますが、持参薬が多い病棟とほとんどない病棟がありますし、抗がん剤の混注の量も病棟によってムラがあります。こうした業務量の多い病棟の負担を軽減し、病棟間格差を埋めるためにも、2病棟3人体制にするなど病棟の人員配置の強化と同時に、中央業務を含めた薬剤部全体のマネジメントを強化しないと、今後の病棟業務の継続、発展は望めないと感じています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務で求められるチーム医療の推進と協働、医師の負担軽減に対してはどのようにお考えでしょうか。

宮本 病棟薬剤業務の目的は、薬剤師が主体的に薬物療法に関わることで有効性と安全性を向上させるとともに、医師や看護師と協働することで、業務の効率化、負担軽減につなげることです。2010年4月の厚労省医政局長通知は、医師とともにプロトコールを作成し、それに基づいて薬剤師が処方の変更や検査のオーダーを行うことを奨励していると解釈できます。ここで気をつけなければいけないのは、薬剤師の処方変更を医師がチェックして、承認しなければいけないことです。ということは、医師がいつも電子カルテなどに目配りしている必要があるということですから、負担軽減にならないのではないでしょうか。これは非常に微妙な問題で、解釈がまだ定まっていませんが、日本ではアメリカで行われているような共同薬物治療管理(CDTM)の環境は整っていないということは言えるでしょう。しかし、プロトコールがなくても、安全のために薬剤師がやるべきことをやればいいのです。医師に処方提案をし、検査オーダーを依頼すればいい

わけで、薬剤師が処方を「代行」する必要はないと思っています。

西尾 病院によって事情が違うので、協働の形はいろいろあっていいと思います。各病院の実情に即したルールづくりが大事ではないでしょうか。当院では、まずは薬剤師がやるべき業務をやっていこうという方針です。例えば、今までは看護師が対応していた混注業務も、これからは薬剤師が積極的に関わっていく、あるいは添付文書に定期的な検査が必要と記載されている薬剤については、薬剤師がチェックして医師に検査を依頼する。こうした基本的なことを着実に行うことで、副作用防止や医療安全への貢献、医師、看護師との協働を進めていこうと思っています。協働というのは、各職種が自らのテリトリーの中でその役割をしっかりと果たし、そのうえでお互いに補完し合うことで、患者さんに最善の治療を行うことです。われわれは薬のプロですから、処方提案や副作用への対応をカンファレンスなどでしっかりと発言できる薬剤師にならなければいけないし、そのための教育が重要になると思います。

――チーム医療の実施状況についてお伺いします。

西尾 医療チームの中には必ず薬剤師が参加していますが、中でも栄養サポートにおいてはNST専門薬剤師の資格を持つ者が3人おり、医師、看護師、管理栄養士などと共に積極的に関わっています。静脈・経腸栄養療法における処方支援だけでなく、食品との相互作用を考慮した医薬品の適正使用推進など、栄養士とは異なる視点で薬剤師の専門性を生かす部分は多いですね。

宮本 当院でも従来からチーム医療に積極的に参画しており、その実績が評価されて医師からのアプローチで共同研究へと発展している例もあります。これは大きな成果であり、薬剤師にとって次へのステップになると思います。また、外来化学療法室には4人の薬剤師を配置していますが、うち1人は糖尿病療養指導士とNST専門薬剤師の資格を取得しており、栄養状態の低下、糖尿病患者さんへの副腎皮質ホルモン剤使用による高血糖の副作用などへの対処にも専門性を発揮し、多面的にがん患者さんを支援しています。化学療法室スタッフ間の連携に加えて、院内の緩和ケアチーム、栄養サポートチーム、糖尿病専門チームとの連携によるチーム医療は、厚生労働省の2011年度「チーム医療実証事業」に採択され、がん治療効果の向上や患者さんのQOL向上に対する効果の検証に取り組みました。2012年度には「普及推進事業」として、北陸地区への拡大を目指して多職種によるワークショップを開催し、がん化学療法におけるチーム医療の指針を作成しました(資料2)。薬剤師はレジメン管理や抗がん剤の無菌調製、緩和ケアなど、がんに特化した役割だけではなく、さまざまな視点からチーム医療に貢献できるという、新たな可能性を見い出すことができたと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代を 迎えた病院薬剤師へのメッセージ――チーム医療で薬剤師が力を発揮するためにはどのような取り組み、あるいは教育が必要だと思いますか。

西尾 医師は診療科別に専門分化していますので、薬剤師にも専門性の追求は必要だと思います。ただ、ジェネラリストであることも求められるという二面性があり、私は全員が専門薬剤師になる必要はないと思います。せっかく薬学教育が6年制になったわけですから、われわれも学生の実務実習の段階から、病院薬剤師としての専門性をどのように患者さんのために生かすのか、自分なりの方向付けや薬のプロとしての意識付けができる教育・指導を行うことが大切だと考えています。

宮本 基本的に、すべての薬剤師がまずはジェネラリストになるべきだと考えています。少なくともTDMに基づいて個々の患者さんに適した投与量や投与スケジュールを医師に提案できることがジェネラリストには求められるでしょう。私が目標にしているのは、各病棟にジェネラリストを1人配置し、そこに専門薬剤師あるいはベテランがスーパーサブのような形でサポートする体制の確

立です。当院では3年スパンで業務ローテーションをしていますが、その目的の一つは、多くの薬剤師にいろいろな経験を積んでもらうことでジェネラリストとして成長することです。薬剤師自身は大変かもしれませんが、将来責任者やリーダーとなって後進を指導するためにも、幅広い知識と経験が必要だと思います。

――病棟業務における薬剤師のレベルの均質化についてはどのようにお考えですか。

宮本 同じレベルの薬剤師をすべての病棟に配置することは不可能ですので、当院ではむしろ業務内容の標準化を重視しています。ただ、病棟毎の文化やルールのようなものがありますので、ある程度はそちらに合わせていくことも必要です。また、病棟業務の標準化を図り、病棟間のレベル差を埋めるためにも、先ほども申し上げたように、できるだけ早期に現在の1病棟1人から2病棟3人体制にしたいと考えています。

西尾 基本的には一定レベル以上の知識やスキルを持っていることは病棟薬剤師の条件ではありますが、DI室やセントラルファーマシーでサポートすることも十分可能です。また、病棟の特性に応じて薬剤師の能力、成長の度合いを考慮しながら、中堅やベテランとうまく組み合わせることで、若い薬剤師を育てていくこともできると思っています。

――最後に、県内の薬剤師の皆さんへのメッセージをお願いします。西尾 薬剤師が活躍する場は、病院をはじめとして、保険薬局、企業、行政など幅広く、自分が望めば一生の仕事として、多くの人々に貢献することができます。若い薬剤師の皆さんが患者さんのために役に立ちたいと考えるのならば、幅広くいろいろな疾患や治療を勉強し、医療に携わるさまざまな職種の人たちがどのような役割を持ち、協働しているかを理解するためにも、一定期間は病院で経験を積んでほしいと思っています。それによって、今後、どのような道に進もうとも、自信を持って仕事ができるはずです。自分がどんな薬剤師になりたいのか、目標と気概を持って、常に学ぶ姿勢で将来への道を切り拓いていっていただきたいと思います。

宮本 今は病棟業務に注目が集まっていますが、病院薬剤師には地域医療を総合的に見る視点を持ってほしいと思います。地域は一つの病棟であり、患者さんが最後まで自宅で療養できる地域医療体制を築いていかなければいけません。当然のことながら、地域の医師や訪問看護師などとの連携によるチーム医療も必要になります。そして、地域の保険薬局の薬剤師がもっと地域医療の中で活躍できるような環境づくりやスキルアップのための支援に、病院薬剤師が力を発揮することを期待しています。

※厚生労働省「平成24年度チーム医療普及推進事業」報告書より抜粋

 制吐剤として汎用されているデキサメタゾンは、ヒドロコルチゾンの約25倍の糖質コルチコイド作用を持つ長時間作用型の副腎皮質ホルモン製剤である。 副腎皮質ホルモン製剤の重大な副作用には糖尿病、消化器潰瘍、骨粗鬆症、無菌性骨壊死、感染症の誘発、中枢神経障害、高血圧、白内障、緑内障がある。 その中で、血糖値上昇は数時間から数日の短時間で発現する副作用であり、定期的な血糖値モニタリングが必要と考える。特に、糖尿病を有す患者には注意を要する。

糖尿病専門チームとの連携:デキサメタゾン使用時の血糖値モニタリング

※HbA1cを測定する際には「糖尿病疑い」の病名をつける。

【例:治療法ごとの対応】 外来化学療法室にてデキサメタゾンを使用する患者

術前術後化学療法 緩和的化学療法根治的化学療法

3ヶ月に1度随時血糖値測定 術前化学療法 術後化学療法 3ヶ月に1度

随時血糖値測定

初回にHbA1cと随時血糖値を測定

3ヶ月に1度随時血糖値測定

1ヶ月に1度随時血糖値測定

HbA1c(NGSP)6.5%以上、随時血糖値200mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

随時血糖値200mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

随時血糖値300mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

随時血糖値200mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

病棟業務関連9月1日(土)  「臨床薬剤師に必要な病態把握の基礎知識

          ~症候学と画像所見~」昭和大学病院薬剤部 北原 加奈之 先生

        「救命救急センターでの薬剤師の活動」          昭和大学病院薬剤部 峰村  純子 先生

9月2日(日)  地域一体型(在宅・NST)委員会勉強会        ~胃瘻のカテーテルに触れて体験しよう~

①瘻孔の管理②胃瘻の管理③経腸栄養剤の粘度を体験

10月21日(日) 第25回実務者研修会        「体験型学習        医療材料(シリンジ・輸液セット等)について知ろう」         テーマ1:注射・点滴と器材         テーマ2:薬剤吸着と配合変化         テーマ3:輸液・シリンジポンプ

 テーマ4:輸液ライン設計11月3日(土)  第19回がん薬物療法セミナー        「がん患者の口腔有害事象とその管理」           公立能登総合病院歯科口腔外科 長谷 剛志 先生

3月17日(日)  輸液栄養とフィジカルアセスメント講習会 「輸液・栄養管理とフィジカルアセスメント」「モデル(フィジコモデル)を用いた実習」①心音・呼吸音・腸音を聴診する②血圧・脈拍をきちんと測定③病態にチャレンジ(例題:COPD)

平成24年度石川県病院薬剤師会主催・共催・後援講演会及び講習会

資料1

外来化学療法におけるチーム医療の普及推進(金沢大学附属病院)

資料2

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石川県版 特別号

石川県病院薬剤師会 会長金沢医科大学病院 薬剤部長

にし お こう じ

西尾 浩次 先生

石川県病院薬剤師会 顧問金沢大学附属病院 副病院長・薬剤部長

みや もと   けん いち

宮本 謙一 先生

■石川県における病棟薬剤業務の現状と課題――最初に、石川県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

西尾 2013年7月現在、石川県下100病院のうち12病院、12%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしています。届け出病院の病床数を見ると、838床の金沢大学附属病院を筆頭に、500床前後が2病院で、割合としては小~中規模病院が多い状況です。また、薬剤師1人当たりの病床数を見ると、17~45床/人と幅がありますが、平均すると25~35床/人となっています。人員不足は県全体に言えることですが、病院によって、あるいは地域によって差があります。特に大規模病院では全病棟に配置しようとすると大幅な人員増が必要となるため、すぐには体制を整備することは難しい状況です。ちなみに金沢医科大学病院は835床、22病棟で、2012年4月の時点で10病棟に薬剤師が常駐し、全病棟で薬剤管理指導を実施していましたので、2013年度には算定を開始する予定でした。病院からも8人の増員が認められましたが、そ

の後、退職者があり、補充ができない状況で推移しています。現在は定数54人に対して39人と、大幅な欠員状態であり、算定に向けて人員確保が最大の課題となっています。将来は1病棟2人体制を目指していますが、現状では難しいので、各病棟における業務量や難易度によって、まずはコアになる10病棟は2病棟3人体制で、その他の病棟に対しては、半日体制または1人体制にすることを検討中です。

宮本 金沢大学附属病院は838床、ICUなども含めて20病棟、薬剤師は49人です。従来からすべての病棟に1人の薬剤師をほぼ専従で配置しているので、業務内容や人員体制を大きく変更することなく、2012年7月より算定を開始しました。しかし、1病棟1人体制では休暇取得者があった場合に他の薬剤師の負担が大きくなり、時間外勤務が増え、薬剤管理指導件数の低下を招くなどの問題が生じてきました。当院の場合、薬剤師1人当たりの病床数は17.1床/人と比較的多いのですが、大学病院にはいろいろな業務があり、病棟以外にも配置が必要です。また、患者さんは重症度が高く、専門的な医療が必要な方が増えていますから、

薬剤師の業務の難易度も高く、必要な時間も長くなります。そこで当院では、今後、2病棟3人体制にするべく、3年計画で4人ずつ増員することを病院に働きかけています。しかし、すでに現体制で算定ができているため、収入増加を増員の理由にはできず、医療安全の面から病棟業務体制の強化の必要性を訴えているところです。

――石川県病院薬剤師会(以下、県病薬)としての支援体制はどのようになっていますか。

西尾 従来から講演会や研修会は積極的に行っていましたが、昨年来、病棟薬剤業務に関連した内容を中心に企画をしています(資料1)。特に医療安全に関しては、薬に関わるインシデントが多いこともあり、薬剤師がその専門性を発揮して大いに活躍すべきだと思っています。そのための知識を吸収するための機会は今まで以上に必要になっていますので、県病薬としてもバックアップをしていく予定です。また、フィジカルアセスメントについても、金沢医科大学および金沢大学の研修施設を活用して、年2回、実技の講習会を開催しています。フィジカルアセスメ

ントは薬の副作用や効果を評価するために、病棟薬剤師にとって非常に重要なスキルと考えており、チーム医療の実践に生かすことで、薬剤師の活躍の場を広げていくことを目指しています。

宮本 フィジカルアセスメントに限らず、副作用の早期発見は薬剤師にとって重要な役割です。先日は県病薬の学術講演会で薬疹の見方を当院の皮膚科の医師に解説していただきました。患者さんがかゆみや発疹を訴えた時、あるいは薬剤師が発見した時に、それが薬疹かどうかを判断するための基礎知識を備えておく必要があります。今後も臨床現場で薬剤師に求められる役割を果たすために、必要な知識やスキルの習得、会員間の情報共有は活発に行っていく必要がありますね。

――病棟薬剤業務の実施においてはどのような課題がありますか。

西尾 日本私立医科大学協会における薬剤師の病棟業務に関する調査からも、加算を算定している病院では残業が増加傾向にあることが明らかになっています。病棟業務に限らず、薬剤師の仕事は増える一方ですから、個々の薬剤師の負担が大きくなっているのではないかと危惧しています。さらには中心静脈輸液や末梢静脈輸液、抗がん剤を薬剤師が混注することが一般的になると、看護師の知識や技術が低下していきますから、最終的には薬剤師が時間外も対応しなければならず、薬剤部全体の体制の再構築が必要になると思います。

宮本 当院では持参薬管理は病棟薬剤師が実施していますが、持参薬が多い病棟とほとんどない病棟がありますし、抗がん剤の混注の量も病棟によってムラがあります。こうした業務量の多い病棟の負担を軽減し、病棟間格差を埋めるためにも、2病棟3人体制にするなど病棟の人員配置の強化と同時に、中央業務を含めた薬剤部全体のマネジメントを強化しないと、今後の病棟業務の継続、発展は望めないと感じています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務で求められるチーム医療の推進と協働、医師の負担軽減に対してはどのようにお考えでしょうか。

宮本 病棟薬剤業務の目的は、薬剤師が主体的に薬物療法に関わることで有効性と安全性を向上させるとともに、医師や看護師と協働することで、業務の効率化、負担軽減につなげることです。2010年4月の厚労省医政局長通知は、医師とともにプロトコールを作成し、それに基づいて薬剤師が処方の変更や検査のオーダーを行うことを奨励していると解釈できます。ここで気をつけなければいけないのは、薬剤師の処方変更を医師がチェックして、承認しなければいけないことです。ということは、医師がいつも電子カルテなどに目配りしている必要があるということですから、負担軽減にならないのではないでしょうか。これは非常に微妙な問題で、解釈がまだ定まっていませんが、日本ではアメリカで行われているような共同薬物治療管理(CDTM)の環境は整っていないということは言えるでしょう。しかし、プロトコールがなくても、安全のために薬剤師がやるべきことをやればいいのです。医師に処方提案をし、検査オーダーを依頼すればいい

わけで、薬剤師が処方を「代行」する必要はないと思っています。

西尾 病院によって事情が違うので、協働の形はいろいろあっていいと思います。各病院の実情に即したルールづくりが大事ではないでしょうか。当院では、まずは薬剤師がやるべき業務をやっていこうという方針です。例えば、今までは看護師が対応していた混注業務も、これからは薬剤師が積極的に関わっていく、あるいは添付文書に定期的な検査が必要と記載されている薬剤については、薬剤師がチェックして医師に検査を依頼する。こうした基本的なことを着実に行うことで、副作用防止や医療安全への貢献、医師、看護師との協働を進めていこうと思っています。協働というのは、各職種が自らのテリトリーの中でその役割をしっかりと果たし、そのうえでお互いに補完し合うことで、患者さんに最善の治療を行うことです。われわれは薬のプロですから、処方提案や副作用への対応をカンファレンスなどでしっかりと発言できる薬剤師にならなければいけないし、そのための教育が重要になると思います。

――チーム医療の実施状況についてお伺いします。

西尾 医療チームの中には必ず薬剤師が参加していますが、中でも栄養サポートにおいてはNST専門薬剤師の資格を持つ者が3人おり、医師、看護師、管理栄養士などと共に積極的に関わっています。静脈・経腸栄養療法における処方支援だけでなく、食品との相互作用を考慮した医薬品の適正使用推進など、栄養士とは異なる視点で薬剤師の専門性を生かす部分は多いですね。

宮本 当院でも従来からチーム医療に積極的に参画しており、その実績が評価されて医師からのアプローチで共同研究へと発展している例もあります。これは大きな成果であり、薬剤師にとって次へのステップになると思います。また、外来化学療法室には4人の薬剤師を配置していますが、うち1人は糖尿病療養指導士とNST専門薬剤師の資格を取得しており、栄養状態の低下、糖尿病患者さんへの副腎皮質ホルモン剤使用による高血糖の副作用などへの対処にも専門性を発揮し、多面的にがん患者さんを支援しています。化学療法室スタッフ間の連携に加えて、院内の緩和ケアチーム、栄養サポートチーム、糖尿病専門チームとの連携によるチーム医療は、厚生労働省の2011年度「チーム医療実証事業」に採択され、がん治療効果の向上や患者さんのQOL向上に対する効果の検証に取り組みました。2012年度には「普及推進事業」として、北陸地区への拡大を目指して多職種によるワークショップを開催し、がん化学療法におけるチーム医療の指針を作成しました(資料2)。薬剤師はレジメン管理や抗がん剤の無菌調製、緩和ケアなど、がんに特化した役割だけではなく、さまざまな視点からチーム医療に貢献できるという、新たな可能性を見い出すことができたと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代を 迎えた病院薬剤師へのメッセージ――チーム医療で薬剤師が力を発揮するためにはどのような取り組み、あるいは教育が必要だと思いますか。

西尾 医師は診療科別に専門分化していますので、薬剤師にも専門性の追求は必要だと思います。ただ、ジェネラリストであることも求められるという二面性があり、私は全員が専門薬剤師になる必要はないと思います。せっかく薬学教育が6年制になったわけですから、われわれも学生の実務実習の段階から、病院薬剤師としての専門性をどのように患者さんのために生かすのか、自分なりの方向付けや薬のプロとしての意識付けができる教育・指導を行うことが大切だと考えています。

宮本 基本的に、すべての薬剤師がまずはジェネラリストになるべきだと考えています。少なくともTDMに基づいて個々の患者さんに適した投与量や投与スケジュールを医師に提案できることがジェネラリストには求められるでしょう。私が目標にしているのは、各病棟にジェネラリストを1人配置し、そこに専門薬剤師あるいはベテランがスーパーサブのような形でサポートする体制の確

立です。当院では3年スパンで業務ローテーションをしていますが、その目的の一つは、多くの薬剤師にいろいろな経験を積んでもらうことでジェネラリストとして成長することです。薬剤師自身は大変かもしれませんが、将来責任者やリーダーとなって後進を指導するためにも、幅広い知識と経験が必要だと思います。

――病棟業務における薬剤師のレベルの均質化についてはどのようにお考えですか。

宮本 同じレベルの薬剤師をすべての病棟に配置することは不可能ですので、当院ではむしろ業務内容の標準化を重視しています。ただ、病棟毎の文化やルールのようなものがありますので、ある程度はそちらに合わせていくことも必要です。また、病棟業務の標準化を図り、病棟間のレベル差を埋めるためにも、先ほども申し上げたように、できるだけ早期に現在の1病棟1人から2病棟3人体制にしたいと考えています。

西尾 基本的には一定レベル以上の知識やスキルを持っていることは病棟薬剤師の条件ではありますが、DI室やセントラルファーマシーでサポートすることも十分可能です。また、病棟の特性に応じて薬剤師の能力、成長の度合いを考慮しながら、中堅やベテランとうまく組み合わせることで、若い薬剤師を育てていくこともできると思っています。

――最後に、県内の薬剤師の皆さんへのメッセージをお願いします。西尾 薬剤師が活躍する場は、病院をはじめとして、保険薬局、企業、行政など幅広く、自分が望めば一生の仕事として、多くの人々に貢献することができます。若い薬剤師の皆さんが患者さんのために役に立ちたいと考えるのならば、幅広くいろいろな疾患や治療を勉強し、医療に携わるさまざまな職種の人たちがどのような役割を持ち、協働しているかを理解するためにも、一定期間は病院で経験を積んでほしいと思っています。それによって、今後、どのような道に進もうとも、自信を持って仕事ができるはずです。自分がどんな薬剤師になりたいのか、目標と気概を持って、常に学ぶ姿勢で将来への道を切り拓いていっていただきたいと思います。

宮本 今は病棟業務に注目が集まっていますが、病院薬剤師には地域医療を総合的に見る視点を持ってほしいと思います。地域は一つの病棟であり、患者さんが最後まで自宅で療養できる地域医療体制を築いていかなければいけません。当然のことながら、地域の医師や訪問看護師などとの連携によるチーム医療も必要になります。そして、地域の保険薬局の薬剤師がもっと地域医療の中で活躍できるような環境づくりやスキルアップのための支援に、病院薬剤師が力を発揮することを期待しています。

※厚生労働省「平成24年度チーム医療普及推進事業」報告書より抜粋

 制吐剤として汎用されているデキサメタゾンは、ヒドロコルチゾンの約25倍の糖質コルチコイド作用を持つ長時間作用型の副腎皮質ホルモン製剤である。 副腎皮質ホルモン製剤の重大な副作用には糖尿病、消化器潰瘍、骨粗鬆症、無菌性骨壊死、感染症の誘発、中枢神経障害、高血圧、白内障、緑内障がある。 その中で、血糖値上昇は数時間から数日の短時間で発現する副作用であり、定期的な血糖値モニタリングが必要と考える。特に、糖尿病を有す患者には注意を要する。

糖尿病専門チームとの連携:デキサメタゾン使用時の血糖値モニタリング

※HbA1cを測定する際には「糖尿病疑い」の病名をつける。

【例:治療法ごとの対応】 外来化学療法室にてデキサメタゾンを使用する患者

術前術後化学療法 緩和的化学療法根治的化学療法

3ヶ月に1度随時血糖値測定 術前化学療法 術後化学療法 3ヶ月に1度

随時血糖値測定

初回にHbA1cと随時血糖値を測定

3ヶ月に1度随時血糖値測定

1ヶ月に1度随時血糖値測定

HbA1c(NGSP)6.5%以上、随時血糖値200mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

随時血糖値200mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

随時血糖値300mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

随時血糖値200mg/dL以上で減量or中止or代謝内科受診

病棟業務関連9月1日(土)  「臨床薬剤師に必要な病態把握の基礎知識

          ~症候学と画像所見~」昭和大学病院薬剤部 北原 加奈之 先生

        「救命救急センターでの薬剤師の活動」          昭和大学病院薬剤部 峰村  純子 先生

9月2日(日)  地域一体型(在宅・NST)委員会勉強会        ~胃瘻のカテーテルに触れて体験しよう~

①瘻孔の管理②胃瘻の管理③経腸栄養剤の粘度を体験

10月21日(日) 第25回実務者研修会        「体験型学習        医療材料(シリンジ・輸液セット等)について知ろう」         テーマ1:注射・点滴と器材         テーマ2:薬剤吸着と配合変化         テーマ3:輸液・シリンジポンプ

 テーマ4:輸液ライン設計11月3日(土)  第19回がん薬物療法セミナー        「がん患者の口腔有害事象とその管理」           公立能登総合病院歯科口腔外科 長谷 剛志 先生

3月17日(日)  輸液栄養とフィジカルアセスメント講習会 「輸液・栄養管理とフィジカルアセスメント」「モデル(フィジコモデル)を用いた実習」①心音・呼吸音・腸音を聴診する②血圧・脈拍をきちんと測定③病態にチャレンジ(例題:COPD)

平成24年度石川県病院薬剤師会主催・共催・後援講演会及び講習会

資料1

外来化学療法におけるチーム医療の普及推進(金沢大学附属病院)

資料2

Page 4: ýÌ E 4Qh ´Ã N£...a ÒÜqþ × Ü Ö ´ KWWS ZZZ PW SKDUPD FR MSCæD R å D Cyæ > %~ a ÒÜqþ ß y GU¢ ¤ à z ¿ S ðMùd æÀ * æy ø t ] [ýÌ E 4Qh ´Ã N£ ^ s t²ZhÀ

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年10月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

石川県版特別号

新時代を迎えた病院薬剤師~さらなる飛躍に向けた業務展開と課題~

石川県病院薬剤師会 顧問金沢大学附属病院副病院長・薬剤部長宮本 謙一 先生

石川県病院薬剤師会 会長金沢医科大学病院薬剤部長西尾 浩次 先生

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

■石川県における病棟薬剤業務の現状と課題――最初に、石川県における病棟薬剤業務の現状についてお伺いします。

西尾 2013年7月現在、石川県下100病院のうち12病院、12%が病棟薬剤業務実施加算の届け出をしています。届け出病院の病床数を見ると、838床の金沢大学附属病院を筆頭に、500床前後が2病院で、割合としては小~中規模病院が多い状況です。また、薬剤師1人当たりの病床数を見ると、17~45床/人と幅がありますが、平均すると25~35床/人となっています。人員不足は県全体に言えることですが、病院によって、あるいは地域によって差があります。特に大規模病院では全病棟に配置しようとすると大幅な人員増が必要となるため、すぐには体制を整備することは難しい状況です。ちなみに金沢医科大学病院は835床、22病棟で、2012年4月の時点で10病棟に薬剤師が常駐し、全病棟で薬剤管理指導を実施していましたので、2013年度には算定を開始する予定でした。病院からも8人の増員が認められましたが、そ

の後、退職者があり、補充ができない状況で推移しています。現在は定数54人に対して39人と、大幅な欠員状態であり、算定に向けて人員確保が最大の課題となっています。将来は1病棟2人体制を目指していますが、現状では難しいので、各病棟における業務量や難易度によって、まずはコアになる10病棟は2病棟3人体制で、その他の病棟に対しては、半日体制または1人体制にすることを検討中です。

宮本 金沢大学附属病院は838床、ICUなども含めて20病棟、薬剤師は49人です。従来からすべての病棟に1人の薬剤師をほぼ専従で配置しているので、業務内容や人員体制を大きく変更することなく、2012年7月より算定を開始しました。しかし、1病棟1人体制では休暇取得者があった場合に他の薬剤師の負担が大きくなり、時間外勤務が増え、薬剤管理指導件数の低下を招くなどの問題が生じてきました。当院の場合、薬剤師1人当たりの病床数は17.1床/人と比較的多いのですが、大学病院にはいろいろな業務があり、病棟以外にも配置が必要です。また、患者さんは重症度が高く、専門的な医療が必要な方が増えていますから、

薬剤師の業務の難易度も高く、必要な時間も長くなります。そこで当院では、今後、2病棟3人体制にするべく、3年計画で4人ずつ増員することを病院に働きかけています。しかし、すでに現体制で算定ができているため、収入増加を増員の理由にはできず、医療安全の面から病棟業務体制の強化の必要性を訴えているところです。

――石川県病院薬剤師会(以下、県病薬)としての支援体制はどのようになっていますか。

西尾 従来から講演会や研修会は積極的に行っていましたが、昨年来、病棟薬剤業務に関連した内容を中心に企画をしています(資料1)。特に医療安全に関しては、薬に関わるインシデントが多いこともあり、薬剤師がその専門性を発揮して大いに活躍すべきだと思っています。そのための知識を吸収するための機会は今まで以上に必要になっていますので、県病薬としてもバックアップをしていく予定です。また、フィジカルアセスメントについても、金沢医科大学および金沢大学の研修施設を活用して、年2回、実技の講習会を開催しています。フィジカルアセスメ

ントは薬の副作用や効果を評価するために、病棟薬剤師にとって非常に重要なスキルと考えており、チーム医療の実践に生かすことで、薬剤師の活躍の場を広げていくことを目指しています。

宮本 フィジカルアセスメントに限らず、副作用の早期発見は薬剤師にとって重要な役割です。先日は県病薬の学術講演会で薬疹の見方を当院の皮膚科の医師に解説していただきました。患者さんがかゆみや発疹を訴えた時、あるいは薬剤師が発見した時に、それが薬疹かどうかを判断するための基礎知識を備えておく必要があります。今後も臨床現場で薬剤師に求められる役割を果たすために、必要な知識やスキルの習得、会員間の情報共有は活発に行っていく必要がありますね。

――病棟薬剤業務の実施においてはどのような課題がありますか。

西尾 日本私立医科大学協会における薬剤師の病棟業務に関する調査からも、加算を算定している病院では残業が増加傾向にあることが明らかになっています。病棟業務に限らず、薬剤師の仕事は増える一方ですから、個々の薬剤師の負担が大きくなっているのではないかと危惧しています。さらには中心静脈輸液や末梢静脈輸液、抗がん剤を薬剤師が混注することが一般的になると、看護師の知識や技術が低下していきますから、最終的には薬剤師が時間外も対応しなければならず、薬剤部全体の体制の再構築が必要になると思います。

宮本 当院では持参薬管理は病棟薬剤師が実施していますが、持参薬が多い病棟とほとんどない病棟がありますし、抗がん剤の混注の量も病棟によってムラがあります。こうした業務量の多い病棟の負担を軽減し、病棟間格差を埋めるためにも、2病棟3人体制にするなど病棟の人員配置の強化と同時に、中央業務を含めた薬剤部全体のマネジメントを強化しないと、今後の病棟業務の継続、発展は望めないと感じています。

■チーム医療の推進と協働への取り組み――病棟薬剤業務で求められるチーム医療の推進と協働、医師の負担軽減に対してはどのようにお考えでしょうか。

宮本 病棟薬剤業務の目的は、薬剤師が主体的に薬物療法に関わることで有効性と安全性を向上させるとともに、医師や看護師と協働することで、業務の効率化、負担軽減につなげることです。2010年4月の厚労省医政局長通知は、医師とともにプロトコールを作成し、それに基づいて薬剤師が処方の変更や検査のオーダーを行うことを奨励していると解釈できます。ここで気をつけなければいけないのは、薬剤師の処方変更を医師がチェックして、承認しなければいけないことです。ということは、医師がいつも電子カルテなどに目配りしている必要があるということですから、負担軽減にならないのではないでしょうか。これは非常に微妙な問題で、解釈がまだ定まっていませんが、日本ではアメリカで行われているような共同薬物治療管理(CDTM)の環境は整っていないということは言えるでしょう。しかし、プロトコールがなくても、安全のために薬剤師がやるべきことをやればいいのです。医師に処方提案をし、検査オーダーを依頼すればいい

石川県版 特別号

石川県版特別号

わけで、薬剤師が処方を「代行」する必要はないと思っています。

西尾 病院によって事情が違うので、協働の形はいろいろあっていいと思います。各病院の実情に即したルールづくりが大事ではないでしょうか。当院では、まずは薬剤師がやるべき業務をやっていこうという方針です。例えば、今までは看護師が対応していた混注業務も、これからは薬剤師が積極的に関わっていく、あるいは添付文書に定期的な検査が必要と記載されている薬剤については、薬剤師がチェックして医師に検査を依頼する。こうした基本的なことを着実に行うことで、副作用防止や医療安全への貢献、医師、看護師との協働を進めていこうと思っています。協働というのは、各職種が自らのテリトリーの中でその役割をしっかりと果たし、そのうえでお互いに補完し合うことで、患者さんに最善の治療を行うことです。われわれは薬のプロですから、処方提案や副作用への対応をカンファレンスなどでしっかりと発言できる薬剤師にならなければいけないし、そのための教育が重要になると思います。

――チーム医療の実施状況についてお伺いします。

西尾 医療チームの中には必ず薬剤師が参加していますが、中でも栄養サポートにおいてはNST専門薬剤師の資格を持つ者が3人おり、医師、看護師、管理栄養士などと共に積極的に関わっています。静脈・経腸栄養療法における処方支援だけでなく、食品との相互作用を考慮した医薬品の適正使用推進など、栄養士とは異なる視点で薬剤師の専門性を生かす部分は多いですね。

宮本 当院でも従来からチーム医療に積極的に参画しており、その実績が評価されて医師からのアプローチで共同研究へと発展している例もあります。これは大きな成果であり、薬剤師にとって次へのステップになると思います。また、外来化学療法室には4人の薬剤師を配置していますが、うち1人は糖尿病療養指導士とNST専門薬剤師の資格を取得しており、栄養状態の低下、糖尿病患者さんへの副腎皮質ホルモン剤使用による高血糖の副作用などへの対処にも専門性を発揮し、多面的にがん患者さんを支援しています。化学療法室スタッフ間の連携に加えて、院内の緩和ケアチーム、栄養サポートチーム、糖尿病専門チームとの連携によるチーム医療は、厚生労働省の2011年度「チーム医療実証事業」に採択され、がん治療効果の向上や患者さんのQOL向上に対する効果の検証に取り組みました。2012年度には「普及推進事業」として、北陸地区への拡大を目指して多職種によるワークショップを開催し、がん化学療法におけるチーム医療の指針を作成しました(資料2)。薬剤師はレジメン管理や抗がん剤の無菌調製、緩和ケアなど、がんに特化した役割だけではなく、さまざまな視点からチーム医療に貢献できるという、新たな可能性を見い出すことができたと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組みと新時代を 迎えた病院薬剤師へのメッセージ――チーム医療で薬剤師が力を発揮するためにはどのような取り組み、あるいは教育が必要だと思いますか。

西尾 医師は診療科別に専門分化していますので、薬剤師にも専門性の追求は必要だと思います。ただ、ジェネラリストであることも求められるという二面性があり、私は全員が専門薬剤師になる必要はないと思います。せっかく薬学教育が6年制になったわけですから、われわれも学生の実務実習の段階から、病院薬剤師としての専門性をどのように患者さんのために生かすのか、自分なりの方向付けや薬のプロとしての意識付けができる教育・指導を行うことが大切だと考えています。

宮本 基本的に、すべての薬剤師がまずはジェネラリストになるべきだと考えています。少なくともTDMに基づいて個々の患者さんに適した投与量や投与スケジュールを医師に提案できることがジェネラリストには求められるでしょう。私が目標にしているのは、各病棟にジェネラリストを1人配置し、そこに専門薬剤師あるいはベテランがスーパーサブのような形でサポートする体制の確

立です。当院では3年スパンで業務ローテーションをしていますが、その目的の一つは、多くの薬剤師にいろいろな経験を積んでもらうことでジェネラリストとして成長することです。薬剤師自身は大変かもしれませんが、将来責任者やリーダーとなって後進を指導するためにも、幅広い知識と経験が必要だと思います。

――病棟業務における薬剤師のレベルの均質化についてはどのようにお考えですか。

宮本 同じレベルの薬剤師をすべての病棟に配置することは不可能ですので、当院ではむしろ業務内容の標準化を重視しています。ただ、病棟毎の文化やルールのようなものがありますので、ある程度はそちらに合わせていくことも必要です。また、病棟業務の標準化を図り、病棟間のレベル差を埋めるためにも、先ほども申し上げたように、できるだけ早期に現在の1病棟1人から2病棟3人体制にしたいと考えています。

西尾 基本的には一定レベル以上の知識やスキルを持っていることは病棟薬剤師の条件ではありますが、DI室やセントラルファーマシーでサポートすることも十分可能です。また、病棟の特性に応じて薬剤師の能力、成長の度合いを考慮しながら、中堅やベテランとうまく組み合わせることで、若い薬剤師を育てていくこともできると思っています。

――最後に、県内の薬剤師の皆さんへのメッセージをお願いします。西尾 薬剤師が活躍する場は、病院をはじめとして、保険薬局、企業、行政など幅広く、自分が望めば一生の仕事として、多くの人々に貢献することができます。若い薬剤師の皆さんが患者さんのために役に立ちたいと考えるのならば、幅広くいろいろな疾患や治療を勉強し、医療に携わるさまざまな職種の人たちがどのような役割を持ち、協働しているかを理解するためにも、一定期間は病院で経験を積んでほしいと思っています。それによって、今後、どのような道に進もうとも、自信を持って仕事ができるはずです。自分がどんな薬剤師になりたいのか、目標と気概を持って、常に学ぶ姿勢で将来への道を切り拓いていっていただきたいと思います。

宮本 今は病棟業務に注目が集まっていますが、病院薬剤師には地域医療を総合的に見る視点を持ってほしいと思います。地域は一つの病棟であり、患者さんが最後まで自宅で療養できる地域医療体制を築いていかなければいけません。当然のことながら、地域の医師や訪問看護師などとの連携によるチーム医療も必要になります。そして、地域の保険薬局の薬剤師がもっと地域医療の中で活躍できるような環境づくりやスキルアップのための支援に、病院薬剤師が力を発揮することを期待しています。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・石川県版2013」では、金沢大学附属病院薬剤部長の宮本謙一先生と金沢医科大学病院薬剤部長の西尾浩次先生のお二人に、石川県における病棟薬剤業務の現状および石川県病院薬剤師会の支援体制、チーム医療の推進と協働、薬剤師の資質向上への取り組み、今後の方向性について語り合っていただく中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

金沢駅