まえがき · 「地域ブランディング」が、地域の観光資源を創出する 横 山...

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Page 1: まえがき · 「地域ブランディング」が、地域の観光資源を創出する 横 山 陽 二 159 観光 (六)観光立国論とその展開 前 原 誠 司 179
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まえがき

まえがき

 

松下政経塾を創られた松下幸之助は、明治、大正、昭和、平成と激動の時代を生き

抜いてこられた卓越した実業家であると同時に、常に国家と国民のことを考えていた

実践的な思想家でもありました。

 

九十四年の生涯で、パナソニックの創業やPHP研究所の創設など、実に多くの足

跡を残されておりますが、同時に国家や国民に対しさまざまな政治的な提言をされて

おられます。

 

そのいくつかをご紹介いたしますと、一九四六(昭和二十一年)、五十五歳の時に

「観光立国」「日本産業株式会社」の提言を、さらに「政治に生産性を」「新国土創成」

「無税国家論」を、晩年、八十九歳の時には「日本は大番頭国家たるべし」等、日本

の目指すべき道を指摘、提言しております。

 

とりわけ力を入れておられた提言が、本書のテーマであります「廃県置州」「道州

制の導入」であります。松下幸之助はつねづね、企業の経営も国家の経営もその基本

は同じであり、しっかりとした理念を持つこと、生産性の高い経営をすることが大事

であると述べておられます。

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まえがき

 

そのためには現場を一番知っているところに経営の主体を置き、そこに権限を委譲

することで、現場に工夫が生まれ、活性化し、さらには自主自立の気運が育まれるこ

とを自らの実体験の中からも述べておられます。

「廃県置州」や「道州制導入」の基本的な考え方も同様であります。

 

都市部はますます過密化し、地方はますます過疎化し、疲弊していく現状を打開

し、さらには日本を元気にするためには、政治や経済分野を中心に大きな構造改革が

必要であります。地方分権・地域主権の考え方は、まさに日本を再構築する成長戦略

の一つといっても過言ではありません。

 

本書は、松下政経塾OBによる塾での講義やPHP研究所や早稲田大学大学院公共

経営研究科との共催シンポジウムでの発言等から編集をいたしました。

 

また、当塾主催の「地方自治講座」で白熱した議論をしていただきました名古屋市

長の河村たかし氏や電通の横山陽二氏の知見も掲載させていただきました。

 

最善の地域主権への挑戦、その一里塚がこの講義のセレクションに収められていま

す。

 

皆様にとりまして本書が何らかお役に立てれば幸いでございます。

 

最後になりますが、本書を刊行いただきました国政情報センター社長の中島孝司様

やスタッフの皆様に厚くお礼申し上げます。

松下政経塾 

塾長 

佐野尚見

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第二章(七) 白井智子『公共と民間の力を合わせた新しい教育』

まえがき

佐野 

尚見 3

巻  

頭 

全ては住民の幸せのために

金子 

一也 9

第一章 地方自治経営の理念(総論)

(一)地域主権改革宣言

原口 

一博 33

(二)地方自治基本法の提案

松沢 

成文 55

第2回マニフェスト大賞グランプリ受賞

第5回マニフェスト大賞優秀賞受賞

第二章

自治体経営の問題点と対策

税金

(一)減税自治体構想

山田  

宏 79

税金

(二)減税なくして行政改革なし

河村たかし 99

財政再建

(三)市民参加による財政再建と地方自治改革

中田  

宏 119

議会改革

(四)地方議会に求められる議会基本条例

桑畠 

健也 139

町村おこし

(五)「地域ブランディング」が、地域の観光資源を創出する

横山 

陽二 159

観光

(六)観光立国論とその展開

前原 

誠司 179

教育

(七)公共と民間の力を合わせた新しい教育

白井 

智子 201

医療

(八)自治体病院改革

高橋 

宏和 223

総合

(九)地方分権を実現する地方力〜住民、市役所、議会の総合力

横尾 

俊彦 245

第三章

未来の地方自治の展望

(一)討論型世論調査が開く新しい自治

海老根靖典 265

第4回マニフェスト大賞グランプリ受賞

(二)自立した基礎自治体と自発的な広域連合

鈴木 

康友 283

第3回マニフェスト大賞グランプリ受賞

(三)地方が抱える課題から道州制を考える

村井 

嘉浩 301

※収録内容は全て講義・執筆時点のものです。

目 次

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巻頭『全ては住民の幸せのために』

1967年 三重県○○生まれ

1991年 早稲田大学卒業、(財)松下 政経塾入塾 (第12期生)

1998年 有限会社オフィスロンド設立、代表取締役就任

2000年 中部大学非常勤講師

2001年 NPO法人文化公益協会設立、理事長就任

2004年 中国社会科学院日本研究所 客員教授就任

2009年 (財)松下政経塾 政経研究所所長就任

  (財

)松下政経塾

政経研究所

所長 

金かねこ子一か

ずや也

1967年 三重県四日市市生まれ

1991年  早稲田大学卒業 (財)松下政経塾入塾(第12期生)、朝日大学大学院法学研究科博士前期課程、西武文理大学特命教授

      チャイコフスキー国際コンクールなどの旧ソ連・東欧諸国の国営文化事業の民営化プロジェクトに数多く参画する

2009年  (財)松下政経塾 政経研究所 所長就任

近年は、ソーシャルアクションスクール(旧スーパー公務員養成塾)中部のスーパーバイザーとして公務員研修や、加西市総合計画審議会の副会長などで自治体経営について実践的提言を行っている。

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巻頭 金子一也『全ては住民の幸せのために』

 

こんなお役所アネクドート(逸話、小話)があります。

 

ドイツでは、禁止されていることは、禁止されている。

 

イタリアでは、禁止されていることも、時には許される。

 

旧ソ連では、許されたこと以外は、すべて禁止されていた。

 

ロシアでは、許されていたことも、時には禁止される。

 

イギリスでは、禁止されていることも許されていることも、法律には書かれていな

い。

 

アメリカでは、禁止されていること以外は、すべて許されている。

 

日本では、何が許されており、何が禁止されているか、すべて官庁にお伺いしなけ

ればわからない。

 

短い中に、各国のお役人と行政の特色が端的に表されていると思います。日本につ

いては、官庁の上に「中央」を追加すると、いま、多くの日本人は微笑が止まり、う

なずくことになるでしょう。

 

イギリスの行政の研究から導き出されたものに、パーキンソンの法則があります。

その第一の法則は、「仕事の量と質に関係なく公務員は増える」です。そして第二の

法則は、「役所は、金は入っただけ出る」です。住民の幸福とは関係なく役所が肥大

化する傾向を持っていることが法則化されました。

 

二十一世紀の日本の役所は、自治体を経営する観点で、反パーキンソンの法則を導

き出せないかと考えています。住民の幸福を最優先し、仕事の量を減らしながら仕事

の質を落とさず、しかも公務員数が少なくなっていく。役所は予算を使い切らず、積

み立てていく。そんな理想的な自治体経営ができないかと研究をしています。

団体自治と住民自治を同時に進化させる

 

現在、地方自治で進行している改革は、大別して「地方分権改革」と「地方構造改

革」に分けることができます。「地方分権改革」は道州制に、「地方構造改革」は基礎

自治体のあり方に象徴されるでしょう。

 

明治時代に発布・施行された旧憲法、すなわち大日本帝国憲法においては、ヨーロ

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第一章(一)『地域主権改革宣言』

        

衆議院議員 

原はらぐち口一か

ずひろ博

1959年 佐賀県佐賀市生まれ

1983年  東京大学文学部心理学科卒業 (財)松下政経塾入塾(第4期生)

1987年 佐賀県議会議員(2期)

1996年  衆議院議員(2010年 11月現 在5期目)

1998年  民主党佐賀県第1区総支部代表就任

2004年 財務金融委員会民主党筆頭理事

2005年  郵政民営化に関する特別委員会筆頭理事、予算委員会委員

2007年 総務委員会筆頭理事就任

2009年 総務大臣就任(~2010年9月)

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第一章(一) 原口一博『地域主権改革宣言』

「地域主権改革」は、国力の復権改革でもある

 

日本は、かつては、世界のGDPの六分の一を生産する国であったにもかかわら

ず、世界のゲーム・オブ・ルールに負けてしまっています。それは、なぜでしょう

か。国家の経営を行っていた人たちが従来の依存と分配のピラミッドにかまけてしま

っているために、世界における日本の政治の存在感が、国力に比して非常に低かった

からです。

 

そして、多くの知的な財産を保有しているのにもかかわらず、それが国民に還元さ

れない状況にありました。これは、まさに大きなロスです。中央政府には、中央政府

がやるべきことがあります。外交や人権問題、平和の創造、日本人として最低限の教

育などがそうです。一方、地域の産業、福祉、医療、文化など地域住民にかかわるこ

とは地域で賄う。それでこそ、国は正しく機能します。補完性の原理に従って役割は

分担すべきなのです。

 

そのためには、「地域主権」の実現が必要です。「地域主権」は、これまでよく耳に

することがあった「地方分権」とは異なります。「地域主権」というのは、単なる分

権改革ではなく、中央集権的なパラダイムそのものを止めるということです。つま

り、中央が持っているものを地方に分け与えるというパラダイムによる分権ではな

く、憲法に記されている地方自治の三つの自治の原則、すなわち、住民自治、団体自

治、補完性の原則に沿って、自治において真の主権者が自らの権利を行使し、地域を

自らの決定によってつくっていこうというのが、「地域主権改革」なのです。旧来は

いったん中央にお金を集めて、それを地方に分配していますが、このシステムによっ

てたくさんの無駄が生まれてきました。

 

日本には大きな財・資産がありますから、これを差配したいという気持ちはわから

ないわけではありませんが、長きにわたるこの構造こそが国力を弱めているのです。

「地域主権改革」というのは、地域を国民が責任を持ってつくる。責任の改革である

と同時に、国力の復権の改革でもあるわけです。

 

しかし、地域主権で各地域に任せられるようになれば、再分配機能が弱まって、地

域間格差はさらに拡大するのではないかという議論があります。しかし、私はむしろ

逆だと考えます。いままでのようなビッグブラザー方式をやっていたのでは、ますま

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第一章(一) 原口一博『地域主権改革宣言』

す資源は枯渇するし、そこには地域の創造性や参加がありませんから硬直化したシス

テムになります。かえって、格差を埋める資源さえもなくなってしまうと考えていま

す。

「地域主権改革」とは、責任の主体を明確にすること

 

私はよく、発達心理学で行うパズルの実験の話をします。小学一年生に、一割しか

できていないパズル、半分できているパズル、九割できているパズルの三種類のパズ

ルを渡して選んでもらうという実験なのですが、この実験では一割しかできていない

パズルを選んだ児童、つまりほとんどを自分でやっていこうとする児童が伸びるとい

う結果が出ています。

 

今までの中央政府は、地方政府に対して九割できているパズルを渡しているような

ものでした。その結果、地方における自治は、地方自治の三原則である、住民自治の

原則、団体自治の原則、補完性の原則を実践するというより、むしろ分配のブランチ

という形になってしまうことが多かったのです。地方政府自身が自らを創造していく

ということは少なかったと思います。

 

私がここで掲げる「地域主権改革」とは、地域の人たちが自らの地方政府に責任を

持ち、自身が自らの地域をつくるということです。

 

では、今の地方自治体はどうなっているでしょうか。自らが課税をする、あるいは

住民税の減税をする権限があるでしょうか。借金の権限、県債や地方債を発行する権

限があるでしょうか。これまでは、自分のところに使うお金でさえ誰かにお伺いを立

てなくてはいけない、誰かに許可を受けなくてはいけないという状況でした。そうい

う主体は、果たして本当の主体でしょうか。

 

私は四年前に、『検証

戦争責任』というプロジェクトに参加させていただきまし

た。この本のテーマは、六十四年前の戦争時における、「国家百年の計」とは一体何

だったのかということです。なぜ亡国の戦争に突入したのか、なぜ三年八カ月の間、

私たちはその戦争を止めることができなかったのか。それを解き明かすため、この本

の中でいくつかの検証を試みました。実際に国会の議事録にも多数当たりました。昭

和十二年当時、当時の文部省が出した『国体の本義』という書物の中にナチスドイツ

についての記述がありました。ヨーロッパが個人主義に走って、思想自体が乱れて危

険な状態にある。このナチスドイツを非常に警戒しなくてはならないというのが、当