「主体的な動きを引き出す 学習姿勢について」 · 「 肢 体 不 自 由 ( 運...
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自立活動の手引き ~ アセスメント編③ ~
「主体的な動きを引き出す
学習姿勢について」
「 肢 体 不 自 由 ( 運 動 障 害 ) の あ る 生 徒 等 の た め の ア セ ス メ ン ト 」
基礎疾患等 (4)原始反射・不随意運動等 (5)側弯,脱臼,関節拘縮等
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※本資料と併せて,本校の「自立活動の手引き P3~27」,特別支援教育課の「自立活動ノ
ート No.2,4,6,12,17,18,20~25」も活用すると,より理解が深まります。
基礎疾患等
□ 脳性まひ
脳の病変(基礎疾患)による筋緊張の異常や原始反射の残存が,姿勢保持や運動を難
しくし,見ること,食べること,呼吸,コミュニケーションなど,学習上・生活上の様々
な場面に困難さをもたらしている状態です。そのため,筋緊張の異常を軽減したり,原
始反射を抑制したりするための配慮をしながら,それらの困難さを改善するための取組
を行っていくという視点が,教育活動においても重要になります。
脳性まひには,まひの部位による分類と,筋緊張の特徴による分類があります。
【まひの部位による分類】
【筋緊張の状態による分類】(1,痙直型 2,アテト-ゼ型 3,固縮型 4,失調型)
1,痙けい
直 型ちょくがた
「痙縮」といって,筋肉に一定の緊張が入るために,手足がつっぱるなど,関節を思
うように曲げにくいのが特徴です。動きはゆっくりで運動範囲が狭く,一定の運動パタ
ーンをとります。そのため,姿勢変換は困難で決まった姿勢をとりやすく,身体の変形
や拘縮が進みやすいタイプです。
四肢まひ 両まひ 片まひ 三肢まひ 対まひ 単まひ
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基礎疾患等 (4)原始反射・不随意運動等 (5)側弯,脱臼,関節拘縮等
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2,アテト-ゼ型
筋緊張が高くなったり低くなったりするなど,変動があります。また,意図しない動
きである不随意運動もあるため,身体が揺れるなどして,決まった姿勢はとりにくく,
変形や拘縮は進みにくいです。しかし,筋緊張の高まりが強い場合,非対称の姿勢をと
りやすく,股関節の脱臼などを起こしやすくなります。
3,固こ
縮 型しゅくがた
( 強きょう
剛型ごうがた
)
ストレッチ等の時,関節を曲げる時にも伸ばす時にも常に抵抗感があるのが特徴です。
(痙直型の緊張では,ある程度曲げると抵抗がなくなり,また「ピン」と伸びて戻る)
筋緊張が異常に強いため,上肢・下肢・体幹の動きが制限され,変形や側弯,脱臼等
を生じやすいです。
痙直型両まひ 痙直型四肢まひ 痙直型片まひ
緊張型アテトーゼ
(痙性を伴う型)
非緊張型アテトーゼ
(舞踏病様型)
緊張型アテトーゼ
(ジストニック型)
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基礎疾患等 (4)原始反射・不随意運動等 (5)側弯,脱臼,関節拘縮等
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4,失調型
おもちゃ等に手を伸ばした時,空をつかむように動きがそれるなど,目的とする動作
を達成しにくいのが特徴です(アテト-ゼ型では,不随意運動はありながらも,目的の
ものに触れるという動作は達成しやすいです。) 重度重複障害児の場合,確認は難し
いですが,失調型の特徴は,自分の身体の状態を把握する平衡感覚と深部感覚が障害さ
れているため,目をつむると,自分の身体をイメージできず,意図した動きを行うこと
ができません。
□ 神経・筋疾患
様々な疾患がありますが,代表的なものとして,神経疾患には「脊髄性筋委縮症」,
筋疾患には「筋ジストロフィー」があります。共通する特徴としては,発症までの姿勢・
運動能力は獲得してきている→発症すると筋が委縮していき,徐々に身体機能が低下す
る,という点です。重症となる型の疾患の場合は,呼吸に関係する筋や心臓の筋も委縮
し,死に至る場合もあります。進行性の疾患であるため,姿勢・運動能力の維持,代替
的なコミュニケーション手段の獲得(ICTの活用等),休養の必要性などの視点から
活動を考えていく必要があります。
□ 二分脊椎症(1,顕在性 2,潜在性)
脊椎の神経管の損傷により,損傷部位(主に腰部,まれに胸や首)より下に運動障害,
感覚障害が生じます。
1,顕在性
背中の皮膚の欠損が伴い,出生後すぐに外科的手術が必要です。多くの場合,水頭
症などの合併症を伴います。
2,潜在性
脊椎の神経管の損傷はありますが,皮膚の欠損はなく,無症状のまま過ごしている
人から,身体の成長によって損傷が進み,学童期あたりから転びやすい,尿が漏れる
などの症状が出始める人もいます。
このように,障害の程度には大きく幅があります。障害の程度によって,独歩可能な
場合から,車椅子の場合まで様々です。感覚の入力が難しいので,一定の姿勢で負荷が
かかり続ける場所(おしりや足等)があっても姿勢変換できず褥瘡になったり,体幹の
筋力低下による変形・拘縮等が起こったりします。そういった身体面の症状に対して,
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姿勢変換や楽な姿勢を身に付けることなどの支援をはじめ,日常的には,排泄障害に対
するケアが不可欠です。
□ 骨・関節疾患
骨・関節疾患とは,骨や関節部の形成不全や血流の障害などによって,運動障害が
起こる疾患の総称です。数多くの疾患がありますが,代表的なものとして,「ペルテ
ス病」と「先天性多発性関節拘縮症」について記述します。
[ペルテス病]
股関節にある大腿骨頭部の血行障害により,骨頭部の細胞が壊死してしまう疾患で
す。小児期に発症し,痛みを伴います。一過性の疾患ですが,壊死の状態や自己修復
の過程での骨の変形などにより,成人してからまた痛みが現れる場合があります。治
療で重要なのは,股関節に負荷をかけず,骨がより正常に再生できるようにすること
です。そのために牽引や装具による治療が重要になります。日々の生活においては,
特に装具の正しい装用や股関節に負荷をかけないADL動作を行うこと等,医師やP
T等と連携をとって支援していくことが大切です。
[先天性多発性関節拘縮症]
胎生期に神経や筋に病変が起こることにより運動が制限され,関節が拘縮する疾患
です。非進行性で,感覚や脳機能に障害はありません。治療については,関節可動域
の拡大,筋力強化,装具療法,手術等を組み合わせます。日々の生活においては,食
事,排泄,移動などのADL動作を本人の状態に合わせて,よりよく行えるように支
援していくことが大切です。
(4) 原始反射・不随意運動等
原始反射は,お母さんのお腹の中にいる時から始まるもの
や,生まれてから環境に適応するために現れるものなどがあ
り,運動や認知の発達に必要です。発達に伴って一定の時期
がくると,より高いレベルの反射や反応によって統合・抑制
され,現れにくくなります。しかし,脳や脊髄(中枢神経系)
に障害があると,この原始反射が残存したり,不随意運動が
現れたりし,様々な運動の遂行や適切な姿勢の保持が難しく
なります。
様々な種類がある原始反射や不随意運動ですが,それらを
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基礎疾患等 (4)原始反射・不随意運動等 (5)側弯,脱臼,関節拘縮等
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現れにくくし,運動発達を促すために共通して必要なことは,身体の各部位を自分でコン
トロールしたり,バランスをとって姿勢を保持したりする力を高めることです。そのため
に,寝返りや座位等の練習をしたり,オーシャンスイング等の遊具を使ったりしています。
学校においても,それらの取組をより適切に行うために,原始反射や不随意運動の特徴を
理解しておくことは,必要な視点の一つです。
□ モロー反射(びっくり反射)
【いつ起こりやすい?】
突然大きな音がしたり,抱えられてマットに降りたりする時などに起こります。
【どうなる?】
両腕を外に開いてから,前にある物を抱きかかえるような動きをします。
【なにが原因?】
突然の音刺激や,頭部が後方に急に落ちること等が原因です。
【困難さや支援について】
モロー反射が残存していると,刺激のある環境で座位を保持したり,バランスが崩れた
時に床に手を着いたりすることが難しくなります。
別名「びっくり反射」と言われていることからも分かるように,子供が予測できない突
然の動きや音などが起こらないようにします。姿勢変換や移乗の際にも,頭部をしっかり
保持し,体幹に対して後ろに落ちないようにします。
モロー反射を抑制するためには,頭部のコントロールや,上肢を使って姿勢を保持する
力を高めることが有効です。具体的には,寝返りの際に自分で頭を動かしたり,物にしが
みついておいたりする活動が考えられます。
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□ ATNR(非対称性緊張性頚反射)
【いつ起こりやすい?】
横にある物を見たり,寝返りをしたりする時などに起こります。
【どうなる?】
顔が向いた方の上肢と下肢が伸展し,反対側の上肢と下肢が屈曲します。
【なにが原因?】
首(頚)の向き(左右)がきっかけで起こります。
【困難さについて】※支援については,後述します
ATNRが残存していると,頭が横を向くことで身体が左右非対称になるため,まっす
ぐ座位を保持することや,寝返り,追視等が困難になります。また,緊張が強い場合には
側弯や拘縮をきたす場合もあります。
□ STNR(対称性緊張性頚反射)
【いつ起こりやすい?】
腹臥位から起き上がろうとしたり,四つ這いをしたりする時などに起こります。
【どうなる?】
頭部を前屈すると,上肢の屈曲と下肢の伸展が起き,頭部を後屈すると,上肢の伸展と
下肢の屈曲が起きます。
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【なにが原因?】
首(頚)の向き(前後)がきっかけとなって起こります。
【困難さについて】※支援については,後述します
STNRは生後6カ月ころに出現し,四つ這いや座位の獲得に必要です。しかし,この
反射が強すぎたり残存したりしていると,逆にそれらの姿勢や運動の発達を妨げてしまい
ます。
□ TLR(緊張性迷路反射)
【いつ起こりやすい?】
①仰臥位②腹臥位の姿勢をとっている時に起こります。
【どうなる?】
①四肢が伸展し,屈曲させようとすると抵抗を感じます。
②四肢が屈曲し,伸展させようとすると抵抗を感じます。
【なにが原因?】
頭が重力に対してどこを向いているかを,耳の奥にある「迷路」という器官で感じて反
射が起こっています。
【困難さについて】※支援については,後述します
残存すると,仰臥位や腹臥位からの自発的な姿勢変換が困難になります。また,前述の
ATNRやSTNRと複合して反射が現れると,より困難さが増大します。
原始反射等に対する支援について(正中位姿勢の意義)
ATNRとSTNRは首の向き,TLRは重力に対する頭の位置がきっかけで,全身に
特有の緊張が入ります。日々の活動において,「足がピンと伸びて座りにくい」,「寝返りで
腕がつっかえてしまう」といった時,直接その部位を支援することと合わせ,首の向きや
頭の位置に目を向けてみることも大切です。その他の原始反射についても,原因となる刺
激や身体の動きなどに注意して支援することで,姿勢変換や上肢操作の目的を達成するこ
とができる場合があります。
原始反射を抑制していくためには,頭部を正中位にコントロールしながら姿勢を保持し
① ②
「
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たり,運動したりすることが有効とされています。正中位とは,背骨のラインを軸(正中
線)として,左右対称にバランスがとれている姿勢のことをいいます。正中位姿勢をとり,
バランスボード上での座位やオーシャンスイングで揺れるなどの活動は,『立ち直り反応
(身体各部の位置関係のずれを整えようとする反応)』や『平衡反応(姿勢のバランスが崩
れた時,全身を協調させて対応しようとする反応)』などといった,より高次な反応を引き
出すことができます。より高次な反応を引き出すことは脳の成熟に貢献し,原始反射を抑
制していく有効な手立てとなり得ます。
正中位姿勢は,「手を使いやすい姿勢」,「物を見やすい姿勢」でもあるため,児童生徒の
主体的な活動を促すことができます。また,正中位を意識して座ったり,膝立ちをしたり
するなどの活動は,寝て過ごすことが多い子供も体調に応じて積極的に行いたい活動です。
それは,変形・拘縮の予防,血液循環や消化器官の機能の向上,呼吸状態の改善,覚醒の
高まりなど健康状態の改善が期待できるからです。
児童生徒の実態,活動の目的と内容(手段),体調や時間帯など,様々な要因からその時々
にとる姿勢が決定されていきます。「なぜその子がその姿勢でいるのか」ということを説明
できることが大切です。
目的に応じた
正中位姿勢
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□ 手掌把握反射
【いつ起こりやすい?】
小指側から,物を握る時などに起こります。
【どうなる?】
触れた物をギュッと握り込みます。肩の内転や肘の屈曲を
伴うこともあります。
【なにが原因?】
掌への圧迫刺激が直接的な原因です。腕を引っ張られるこ
とで起こることもあります。
【困難さや支援について】
残存していると,自分の意思で物を握ったり離したりすることが難しくなります。
把握反射は通常生後4ヵ月頃に抑制されます。この頃は,首が座り,肩の安定性が高ま
ることで,物に手を伸ばすようになる時期です。また,腹臥位で掌を着いて顔を上げるな
ど,手を使った姿勢の保持も見られるようになります。そういった姿勢保持能力や上肢の
機能の向上と共に脳も発達し,把握反射は次第に抑制されていきます。つまり,日々の指
導・支援においても,そういった経験ができるようにすることが必要となります。掌を着
いて座位を保持したり,自分でスイッチに手を伸ばしたりといった活動は,手指の機能向
上(自分の意思で物を握ったり,より微細な動きができるようになったり)という視点か
らも効果的な活動です。
□ 手足の振え(ミオクローヌス,足クローヌス)
【ミオクローヌス】
筋肉が急激に収縮し,不随意運動が現れます。生理的なミオクローヌスとしては,しゃ
っくりや寝入りに身体がビクッとなって目が覚めること等があります。病理的なものは,
脳や脊髄に障害があることが原因で,身体の一部や全身に筋の収縮が起こります。
【足クローヌス】
つま先から足裏を床に着けようとする時などに,足首
がガクガクと震えます。足首の急激な背屈により,ふ
くらはぎの筋肉が伸ばされることが原因です。
「クローヌス」は,深部腱反射(筋肉が急に伸ばさ
れると,反射的に縮む)の亢進を意味しています。深
部腱反射は障害のない人にもある脊髄レベルの反射
しゅしょう
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基礎疾患等 (4)原始反射・不随意運動等 (5)側弯,脱臼,関節拘縮等
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で,分かりやすいのが“脚気”です。脳に障害があると,この深部腱反射がうまく抑制さ
れず,手足を動かした時に,ガクガクと震えるような症状などが出ます。
□ 後こう
弓きゅう
反 張はんちょう
(オピストトーヌス)
全身の筋緊張が過度に高まり,身体が弓のように後ろに反り返ってしまう状態です。痙
直型の脳性まひで見られ,上肢の屈曲,下肢の交叉伸展を特徴とします。そのため,上肢
では物へのリーチの困難,体幹部では側弯の進行や頸椎の痛み,下肢では股関節脱臼や歩
行の困難など,様々な二次障害が現れます。この緊張を弛めるためには,骨折や筋肉を痛
めることが無いように,体幹に近い部位から動かしていきます。上肢は,肘を固定して掌
を開くようにしながら伸ばしていきます。下肢は股関節を軽く屈曲させ,膝と足首を持っ
て,脚を外に開くように曲げていきます。
(5) 脱臼,側弯,関節拘縮等
□ 脱臼
関節頭(凸の方)が関節窩(凹の方)から完全に外れている場合を,脱臼(完全脱臼)と
いいます。
□ 亜脱臼
関節頭(凸の方)が関節窩(凹の方)から外れかかっている場合を,亜脱臼といいます。
骨が外れている(外れやすい)方向によって,注意すべき姿勢が異なります。脱臼や亜
脱臼のある児童生徒の姿勢を考える際には,医師や PT 等と連携し,脱臼や亜脱臼が悪化し
ないようにすることが大切です。脱臼しやすい下肢の肢位の例を,次に挙げます。
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□ 側弯
脊椎(背骨)が側方に曲がった状態のことです。筋力が低いために重力に負けて起こる
場合や,強い筋緊張が原因で起こる場合などがあります。側弯が進行すると,様々な姿勢
や運動が困難になることはもちろん,変形が原因で内臓が圧迫される等して,呼吸障害,
胃食道逆流症など,身体機能や健康状態にも大きな影響をもたらします。程度を表す
「Cobb(コブ)角」は,個別の教育支援計画等においても目にすることがあります。
・軽度(10~25 度)・・・経過観察
・中等度(25~40 度)・・装具療法
・高度(50~55 度)・・・手術適応
側弯の改善のためには,背中を動かすストレッチや背中を伸ばしてまっすぐに座る練習
をすることが有効です。しかし,低緊張や筋ジストロフィーでの筋力低下が原因である場
合には,無理に座る練習をすると,悪化させてしまう恐れがあるので注意が必要です。そ
の子に側弯が起こっている原因を正しく知り,PT等と連携しながら適切に日々のケアを
行うことが大切です。
正常 後方に脱臼 前方に脱臼
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□ 反 張はんちょう
膝ひざ
反張膝とは,膝が真っ直ぐ以上に伸びて反り返っている状態のことです。原因としては
低緊張や筋肉のアンバランスさが挙げられます。また,立位時の重心が踵側によっている
ので,足の指が浮き気味になります。そのため,足の指でクッション等を踏みしめたり,
適切な膝の角度でトランポリンを跳んだりするなど,下肢の筋力を高めたり重心をうまく
とったりする活動が有効です。しかし,変形が強いと痛みが出る場合があるので,サポー
ター等で関節を保護することも必要です。
□ 尖足
尖足は筋の緊張や短縮が原因で,足首が底屈(つま先が下に向く方向)している状態で
す。一般的に,内反(上図)を伴い,内反尖足になっていることが多いです。
状態が重い場合には短下肢装具をつけ,軽い場合にはハイカットシューズを着用するなど
します。
中殿筋(ちゅうでんきん)
・脚を外に上げる
大腿四頭筋(だいたいしとうきん)
・膝を伸ばす
前脛骨筋(ぜんけいこつきん)
・つま先を上げる
大殿筋(だいでんきん)
・脚を後ろに上げる
ハムストリングス
・膝を曲げる
下腿三頭筋(かたいさんとうきん)
・つま先を下げる
・つま先立ち
内反足 尖足
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□ 関節拘縮
関節の可動域が小さくなることです。前述してきた原始反射の残存や筋緊張が高い状態
があることで,一定の姿勢をとり続けたり,身体を動かさずにいたりすると,筋肉や腱な
どが短縮したり,固くなったりします。それが原因で,関節が本来動かせるはずの範囲で
動かせなくなります。無理に伸ばそうとすると,痛みを生じるため,関節そのものを動か
す「モビライゼーション」の実施や,筋肉に圧をかけたり温めたりしながら,ゆっくりと
ストレッチを行うことが大切です。
補装具等
□ コルセット
□ 短下肢装具
□ スプリント
□ PCW
□ SRC-ウォーカー
※これらの補装具等については,本校の『自立活動の手引きP19 ~P23』に詳細があり
ますので,ご参照ください。
最後に ~アセスメントの意義~
一言に「肢体不自由」といっても,脳性まひのタイプや神経・筋疾患,二分脊椎症,
骨・関節疾患などの基礎疾患によって,姿勢・運動の困難さの特徴や将来の姿は異なり
ます。子供に寄り添った支援を行っていくためには,脳性まひのタイプや基礎疾患,健
康状態や二次障害(呼吸障害,摂食障害,側弯,変形,脱臼等),医療的ケアなどにつ
いて正しく理解し,今できる最善のアプローチを家庭,PT・OT・ST,医師,看護師
等と連携した上で,教育的な活動を行っていくことが大切です。
子供が日中,12 年間という長い期間を過ごす学校の役割は重要です。
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基礎疾患等 (4)原始反射・不随意運動等 (5)側弯,脱臼,関節拘縮等
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≪参考・引用文献等≫
「イラストでわかる 小児理学療法」 上杉雅之 監修 2013 医歯薬出版株式会社
「脳性まひ児の発達支援 調和的発達を目指して」 木舩憲幸 著
2011 北大路書房
「脳性麻痺の運動障害 評価と治療の考え方」 Karel Bobath 著
寺沢幸一 梶浦一郎 監訳 2005 医歯薬出版株式会社
「PT マニュアル 小児の理学療法」 河村光俊 著 2012 医歯薬出版株式会社
「脳性まひ児の家庭療育 原著第4版」 原著編著者 Eva Bower 監訳者 上杉雅之
2014 医歯薬出版株式会社
「日本二分脊椎協会 HP」 https://sba.jpn.com/
「公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 HP」
http://www.jarm.or.jp/civic/civic_cases/
「小児骨関節疾患のリハビリテーション」 芳賀信彦 2010
第 47 回日本リハビリテーション医学会 学術集会(鹿児島) 教育講演資料
「ペルテス病の治療概略」 滋賀県立小児保健医療センター
http://www.pref.shiga.lg.jp/mccs/shinryo/sekegeka/shikkan/kokanset
su/perthes/chiryo.html
「病気の児童生徒への特別支援教育」 発行・編集 全国特別支援学校病弱教育校長会
編集協力 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所<病弱班> 2009
「ミオクローヌスの病態生理」美馬達哉 臨床神経学 (2013:11)53 巻 11 号