化学療法を る が ん ども -...
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原 著
化学療法を受ける小児が ん の 子 ども の
口 内炎 に対する セ ル フ ケ アを促す看護援助
中 村 美 和 ( 千 葉大学大学院看護学研究科)
本研 究の 目的は , 小児 が ん の 子 どもの 口 内炎 に対す る セ ル フ ケ ア を促 す看護 援助を明確にす る こ と で ある。 化学療 法を受
けて い る 白血病 の 学童 2 例を対 象と し ,1 例 目 より導か れ た看護 援助 に基 づ き
,2 例日 に援助を実施 した結 束 以 下の こ と
が 明確 に な っ た 。 1) 化学療 法 を受け る小児が ん の 子 ど もの 口 内炎に 対する セ ル フ ケ アを促す看護援助 は,
< 身体 的,
精神
的苦痛 の 強 い 入院初期 > に は 口 内炎 に よ る 苦痛緩和 を重視 し, 【口内炎 に関連 する 基本的知識
,基 本的技術を事前 に 提供す
る】,< 口 内炎 に 対す る 関心 , 問題意識 が 高く なる 時期 > に は 【口内炎 に関連 する 基本的知識
,基 本的技術を反復 して
,継
続 的 に提供す る】【子 どもの 口 内炎 に対す るセ ル フ ケ ア の 向上 を認め,
ほ め る】【口内炎 に対す る対処 方法の 選択,
決定を子
ども に促す】【過去 の 治療 に お ける 口 内炎 の 発症 パ ター
ン を子 ども, 家族と と も に共有す る】,< 外泊 を目標 と し治療 に 臨む
よう にな る時期 > に は 【過去の 治療 にお ける 口内炎 の 発症 パ ター ン を子 ども
,家族 と とも に共有す る】 を継続する こ と が 重
要で あ っ た 。 2) 白血 球数, 好 中球数,C R P 億 の 変動 か ら
,口 内炎の 出現時軌 増悪時期
,回復 時期 を予 測す る こ と が 可
能で あり,
口 内炎 をモ ニ タ リ ン グす る上 で 有用 で あ っ た 。 さら に 【過去の 治療 にお ける 口内炎 の 発症 パ ター ン を子 ども
,衣
族 と と もに 共有す る】 際, 白血球数,C R P 値 を口 内 炎の モ ニ タ リ ン グの 指標 と し て用 い る こ と は
.子 どもの 口内炎 に 対す
るセ ル フ ケ ア を維持 , 強化 させ る上 で 有効 で あ っ た。
K E Y W O R D S : c hild w ith c a n c e r, s elf- c a r e , o r al m u c o si ti s ,
sid e e ff e c t, c h e m o th e r a py
I . は じめに
化学療法に起因す る口 内炎 (以下 口内炎とする) は,
が
ん化学療法 の 約40 0/. に見 られ る高頻度の 合併症で ある1 )
。
特 に,小児 の 白血 病 や悪性 リ ン パ腫な ど の 造血 器悪性腫
痘 にお ける 口 内炎 の 発症頻度 は多 い2)
と 言 わ れ て い る 。
口 内炎 は,
局所的な痛 み を呈する の み で なく, 食事摂取
困難,内服困難
,開口 困難な ど日 常生活 に悪影響を及 ぼ
し,
小児が ん の 子 どもに と っ て は闘病意欲 の 低下 をも引
き起 こ す可能性 の ある つ ら い 体験 で あ る。
具体的操作期 に 入る 7 歳以上 の 学童期 は, 日常生 活習
慣 にお い て 親 か ら の 援助 を徐 々 に必要 と しなくな る 時期
で あり,
こ の 過程を通 じて 子 ども は,
ど の よう にす れ ば
良 い の か と い う方法 や判断力を学習 し たり,セ ル フ ケ ア
能力 を身 に つ ける 。 ま た,近年 , 小児 が ん の 化学療法 は
,
入院と い う形態 を取り な が らも,外泊を頻 回 に繰り返 し
なが ら実施さ れ る よう に な っ て きて お り, 小児が ん の 子
どもと そ の 家族 は,
口 内炎 を は じめ とす る化学療法 に起
因す る副作用 に対 して,在宅 にお い て 自分 たち で 対処せ
ざる を得な い 状況も増えきて い る。 よ っ て, 今後, 小児
が ん の 子 どもの セ ル フ ケ ア を高 め る 関わ りは,
看護師の
重要な役割と な る と考える 。
化学療法 に起因す る 口 内炎 は,
発症を予防す る こ と
には 限界が あ る と い う特徴が あり,小児 が ん の 子 どもに
は,
口 内炎の 発症を最小限に しなが ら,
口 内炎の 苦痛に
対処 して い く こ とが 求め られ,
そ れ に は 子 どもの セ ル フ
ケ ア が 影響す る と考え られ た。 しか し,
国内外 の 文献の
口 内炎に 関す る研究の 多く は,
口 内炎の 予防や 改善の た
め の 具体的な 口腔ケ ア方法 の みを論 じて おり,
子 どもの
セ ル フ ケ ア を促す と い う こ と に焦点を当て た 文献は存在
しなか っ た 。
以上 をふ まえ,
本研究 に着手す る こ と と した 。
Ⅱ . 研究目的
化学療法を受 け る小児が ん の 子 どもの 口 内炎に 対する
セ ル フ ケ ア を促す上 で, 効果的な看護援助 の 方向性 を導
く。
Ⅲ . 用語の定義
1 . 子どもの 口 内炎に 対するセル フ ケア
子 どもが 口 内炎 に対する 基本的知識 と技術をもち,こ
れ ら に 基 づ き,口 内炎 の 予防 ・ 悪化防止 や
,口 内炎 に
受理 : 平成16 年 6 月15 日 A c c ep te d :ユu n . 1 5 ・2 0 0 4 ・
1 8 千葉看会誌 V O L .1 0 N o . 1 20 04 . 6
よ る 苦痛 に 対 して,
子 ども自身が 自分自身 に と っ て 望
ま し い と思 い 自主的 に 実践 して い る 行動を さ す 。こ の
中 に は,
子 どもが 口 内炎 に よ る 苦痛を他者 に報告す る こ
と,
医療者 に指導 ・
提示 さ れ た 口腔 ケ ア 方法 を実施す る
こ と,
口 内炎 によ る痛 み に対 して 自分自身が 望ま し い と
思 っ て い る 行動をと る こ と,
他者 に 口 内炎 に対 し て 何を
して ほ し い か を依頼す る こ と も含 む 。
2 . 口腔粘膜症状
i~口腔粘膜 の 他覚的変調」 と 「 口 内炎 に よ る主観的苦
痛」 に 分類す る 。 「 口腔粘膜 の 他覚的変調」 は,
発赤 ・
白斑等 の 粘膜表面の 色 の 変化,
腫脹 ・ 水泡 ・ 廉欄 ・
潰蕩
等 の 粘膜表面の 形態 の 変化 をさ す。 「 口 内炎 に よ る 主観
的苦痛」 は,
子 どもの 口腔内の 痛み と,
そ れ によ っ て 引
き起 こ さ れ る 日 常生 活上 の 支障を さ し,
食事,飲水
,内
服,
口腔 ケ ア,
開口,
会話が 困難 な状態,
睡眠 障害,
不
機嫌 な どの 精神活動の 変化を含 む。
3 . 口 内炎の 発症パタ ー ン
口 内炎 の リ ス ク フ ァ ク タ - の 影響 を受 け,
口腔粘膜症
状 が 出現,
増悪,
回 復 し て い く過程 の 特徴 で ある 。
Ⅳ . 研究方法
1 . 対象者
自血痛ま た は 悪性 リ ン パ 腫 と 診断 さ れ,
付 き添 い 制
の A 痛院小児科 に 入院中の 子 どもの うち,
1 ) 診断時に
7 - 1 2 歳 で あ る,
2 ) 初発 で あ る,
3 ) 精神発達 の 遅
れ が な い,
4 ) 研究 へ の 参加 に関 して,
親 の 承諾 と子 ど
もか ら の 同意 が得 ら れ る,
と い う条件 を満 た した者 と し
た。
2 . 調査期間
20 0 1 年1 1 月 - 2 0 02 年10 月 ま で の 計12 ケ月間
3 . 倫理的配慮
研究 の 趣旨, 自由参加 で ある こ と, プ ラ イ バ シ
ー
と 匿
名性 の 保障 に 関 して,
親 に文書 にて 説明 し研究 へ の 承諾
を得 た 。 子 どもに も文書 を提示 し, 年齢 に応 じた 口頭説
明を加え研究参加 へ の 同意 を得 た。 ま た, 施設長, 病棟
師長の 承諾を得 て,
受 け持ち看護師 と して,遊 び や 日 常
生活上 の 世話 を含 め て 子 どもと かか わ っ た 。
4 . 研究の すすめ方
1 ) 口 内炎 の 発症 パ タ ー
ン の 明確化
① 「 口 腔粘膜 の 他覚的変調」 は,
口唇,
左右頬粘膜,
口 蓋, ロ 底, 歯 肉の 7 領域 に分 け,
口腔粘膜表面
の 色 ・ 形態 の 変化を観察 し, 口 腔輪郭図に描画する
こ と に よ っ て 把握 した。 「 口 内炎 によ る 主観的苦痛」
は W o n g と B a k e r によ るF a c e R a ti n g S c al e を参考 に し
た ペ イ ン ス ケー
ル を用 い, 口腔内 の 痛み を評価 した
後,
さ ら に,
どの よ うな場合 に どの 程度痛 い の か と
い う 日常 生 活上 の 支障 に つ い て 質問す る こ と に よ っ
て 把握 した 。
② 口 内炎の リ ス ク フ ァ ク タ - と して, 本研究 で は 末梢
血 液所見 の うち白 血 球数,
好 中球数 ,C R P 値を取
り上 げ,
そ れ ら の 変動を把握 した 。
③上 記① 「 口腔粘膜症状 の 経過」 と 上 記② 「 白血 球数,
好中球数,
C R P 値 の 変動 の 特徴」 を ク ー
ル 毎 に 口
内炎 の 発症 パ タ ー ン 分析 シー トに整 理 した 後,
口腔
粘膜症状 の 出現時期,
増悪時期,
回復時期の 白血 球
数,
好 中球数,
C R P 値を明 ら か に し,
口 内炎 の 発
症 パ タ ー ン と して 整 理 した 。
2 ) 看護援助の 実施 の 手順
① 1 例日の 対象者 に は,
口 内炎予防 と悪化防止 を目的
と した 口内炎 に 関す る情報提供 ( 口 内炎 の 病態,
血
液の 機能,
口 内炎を引き起 こ しや す い 薬剤) を, 寛
解導入療法1 4 日 目を目安 に実施 し た。 さら に,
必 要
な口 内炎 に対す る看護援助を追加す る と と もに, 明
確 に さ れ た 口内炎 の 発症パ タ ー ン を取り入 れ た 看護
援助計画を立 案,
実施,
評価 した 。
② 2 例日以 降の 対象者 に は,
1 例日 よ り導 か れ た看護
援助 に基 づ き, 年齢 を考慮 し実施 した 。
3 ) 看護援助の 分析 ・ 評価方法
口 内炎 に対する 看護援助 の 内容を,
ケ ー ス 毎 に縦断的
に整理 ・ 比 較 し,対象者間の 類似性
,相違性を抽出 した 。
さ ら に,
看護援助実施前後 の 変化 に関 して, 「 子 ども の
口 内炎 に対する セ ル フ ケ ア」 「 親 の 子 ども に対す る関 わ
り方」 「 口 腔粘膜症状 の 程度」 を縦断的 に整理 し,
実施
した看護援助の 妥当性を検討 した 。 分析・ 評価 に は
, 研
究者 が 関 わ っ た 際 の フ ィー ル ド ノ ー
ツ, 診療
・
看護記
鈍 親 と の 面接内容も使用 した 。 分析過程 にお い て,
随
時小児看護学研究指導者 よりスー
パー
バ イ ズ を受 け た。
Ⅴ . 結 果
1 . 対象者 の概要
対象者 は,
7 歳0 ケ月 の 急性 リ ン パ 性白血病 の 女児 1
名 と,
1 2 歳1 ケ月 の 成熟B 細胞 型 急性 リ ン パ 性白血病 の
男児 1 名 で あ っ た ( 表 1 ) 。 両 ケー
ス と も に,
化学療法
表 1 対象者 の 概要
対象 発症年齢 性 別 疾患名 治療プロ トコ ー ル名 看護援 助実施期間
A7 歳
女急性 リ ン パ T C C S G A L L 2 00 1 年11 月
0 ケ 月 性白血 病 L 9 9- 15 H R - 2 0 02 年10 月
B12 歳
1 ケ月男
成熟 B 細胞
型急性リ ン
パ 性白血病
T C C S G N H L
0 105 B p r ot o c ol D2 00 2 年 7 月 - 10 月
T C C S G ( T oky o C h nd re n C a n c e r S t ud y G ro up): 束京′ト児がん研究グ ル ー プ
千葉看会誌 V O L .1 0 N o . 1 2 00 4 . 6 1 9
に起因す る 口 内炎を発症 した 。
2 . ケー
ス A に対する 看護援助
1 ) ケー
ス A の 口 内炎の 発症 パ タ ー
ン の 明確化
ケー
ス A の 寛解導入療法 と第 2 ク ー
ル 中の 口 内炎の 発
症 パ ター
ン を分析 した 結果, ① 口 内炎の 出現時期 に は,
白血球数 が1 0 00 / m r㌔ 以下 ,また は好中球数が50 0/ 皿 ㌔ 以
下 に低下 し,
C R P 値 が1 .O m g/dl 未満 で は ある が 上 昇 し始
め て い る, ② 口内炎の 増悪時期 に は
, 白血 球数 が50 0/ m ㌔
以 下, また は好中球数が1 0 0/ m m3以下 に低下 し
,C R P 値
は クー
ル 中で 最高値を示 して お り , 発熱も伴 っ て い る,
③口 内炎 の 回 復期 に は, 白血球数 が1 00 0/ m m
3以 上 ま
た は 好中球数 が5 00/ m m3以 下 に 上 昇 し
,C R P 値 が 最 高
値 か ら急激 に低下 . し始 め て い る,
と い う 口内炎 の 発症 パ
タ ー ン が 明確 に され た。 そ して
,こ の よ うな傾向は
,全
治療過程 で 認め られ た。
2 ) 看護援助 の 実際 と ケー
ス A の セ ル フ ケ ア 状況 の 変
化 , 母親の 子 どもに対す る 関わ り方の 変化
ケー
ス A は, 入院時 より , 現疾患お よ び化学療法 に よ
る 発熱,
倦怠感, 唯気・
唯吐 な どの 身体的苦痛 に加え,
初 め て 体験す る骨髄穿刺・
髄腔内注射・
中心静脈 カ テ ー
テ ル 挿入術な どの 処置や , 点滴注射・
輸血 な どの 治療 に
対する 恐怖心な ど身体的・
精神的苦痛を有 して い た 。 母
親も, 子 ども の 療養上 の 世話 に よ る 疲労感, 診断 に よ
る シ ョ ッ ク, 罪悪感な ど身体的・
精神的苦痛を有 して い
た o こ の 時期 は < 身体的 ・ 精神的苦痛 の 強 い 入院初期 >
と して 分類さ れ, 寛解導入療法開始2 5 日 ま で 持続 して
い た ( 以 下, 対象者 と そ の 家族の 変化 に よ る 時期分類を
< > で 示 し た) 。こ の 時期 に お い て
, 寛解導入療法開始
1 5 日 目 に,
口 内炎の 病態, 血 液の 働き, 口 腔 ケ ア 方法,
鎮痛剤 ・ 食事 に 関する 苦痛時の 対処方法な どの 【口 内炎
に 関連す る基本的知識 ・ 情報 を事前 に提供する】 こ と を
立案 し,
実施 した ( 以 下 , 口内炎 に 関連する看護援助を
【 】 で 示 した) 。 しか し, ケー
ス A は,
口腔 ケ ア を就寝
前 しか実施せ ず, ケー
ス A に対 し て 口腔 ケ ア を促すよう
な母親 の 行動も観察さ れ なか っ た。 そ の 後, 寛解導入療
法開始後20 日 目 に痛み を伴う 口 内炎 を発症 した が,
ケ ー
ス A は た だ泣く の み で あ っ た 。 ま た, 母親 は
, 子 ども
に対 して 「 何 に も して あげられ な い」 と言う の み で あ っ
た。 こ の 時の 看護援助 は, 食事摂取, 内服,
口腔 ケ ア に
伴う苦痛 の 横和 が 中心と な っ て い た 。
そ の 後,
ケー
ス A は寛解導入療法開始2 5 日 以降に,
口
内炎に よ る痛 み や 身体的苦痛 が 軽減 し, 「 どう し て 口 内
炎 に な る の」 「 口 内炎 に な る の い や」 な ど,
口 内炎 に 対
す る 関心 を示す言葉が 聞 か れ, 自主的, 積極的に 口 内炎
予防の た め の 口 腔ケ ア に取り組 む よう に な っ た 。 ケ ー
ス
20 千葉看会誌 V O L .1 0 N o . 1 2 00 4 . 6
A の 身体 的状態が 安定す る に 従 い 母親 か ら は,「 口内炎
にな っ て か ら で は 遅 い」 と い う言葉が 聞か れ る よう にな
り,
ケ ー ス A に口腔 ケ ア を促す行動が 観察 さ れ る よう に
な っ た。 こ の 時期を< 口 内炎 に対す る 関心,
問題意識が
高まる 時期 > と分類 し た。 こ の 時期 の 看護援助 は, 【口
内炎 に対す る知識,
技術を反復 し て,
継続的 に提供す
る】【子 どもの 口 内炎 に対す るセ ル フ ケ ア の 向上 を認め,
ほ め る】【口 内炎 に対す る 対処方法の 選択,
決定 を子 ど
も に促す】【過去 の 治療 に お ける 口 内炎 の 発症 パ タ ー ン
を子 ども,
家族と と も に共有する】 で あ っ た 。 こ れ ら の
看護援助 によ っ て,
ケ ー ス A の 自主的, 積極的な口腔 ケ
ア に取り組 む姿勢 と,
母親 の ケ ー ス A に 口 腔ケ ア を促す
行動 は持続 し て い っ た。
寛解導入療法後7 8 日 以 降 に 外泊 の 機会 が多くなり,
ケ ー ス A と母親 は,
外泊を,
次の 治療 に 臨む た め の 心理
的準備期間と し て,
そ し て 退院まで の 短期目標と して 捉
えて い た 。 こ の 時期 を < 外泊 を目標 と し治療 に臨む よう
にな る 時期 > と 分類 し た 。こ の 時期 に は
, 【子 どもの 口
内炎 に対す る セ ル フ ケ ア の 向上 を認め,
ほ め る】【口 内
炎 に対す る対処方法 の 選択,
決定を子 ども に促す】 こ と
を実施す る と とも に,
明確 に さ れ た 寛解導入療法中と 第
2 ク ー ル 中の 口 内炎 の 発症 パ タ ー ン に 関 して,
グ ラ フ を
用 い て ケ ー ス A と 母親 に フ ィー
ド バ ッ ク し, 【過去 の 治
療 にお け る 口 内炎の 発症 パ タ ー ン を子 ども,
家族と と も
に共有す る】 こ とを繰り返 し実施 した 。 そ の 結果,
ケ ー
ス A は, 歯垢染色 に よ る ブ ラ ッ シ ン グを導入 し
, 継続的
に,
丁寧 に 口腔 ケ ア を 実施 した り,外泊中の 口腔粘膜の
変調を母親 や看護師に報告する こ と が 可 能と な っ た 。一
方母親 は, 白血 球数 や 口腔粘膜症状の 程度 に応 じ て
,ま
た,
口 内炎を発熱 の 前駆症状 と して 捉え,
口 腔ケ ア回数
を増加 させ たり,
口腔 ケ ア や 苦痛時の 対処 をケ ー ス A に
助言 した り, 子 ども へ の 関わ り方を変化さ せ て い た 。
3 ) 口腔粘膜症状 の 程度
ケ ー ス A の 寛解導入療法中 に泣く ほ どの 口 内炎を発
症 し,
そ の 後 は,
口腔粘膜 の 他覚的変調 を認め たり,軽
度の 主観的痛 み を伴う 口 内炎 を発症 した 。 しか し,
第3
ク ー
ル の 大量 メ ソ ト レ キ セ - ト療法で は, 痛み を伴う口
内炎を発症せ ず,全治療過程を通 じ
,泣くほ どの 痛み を
伴う口 内炎を発症 した の は,
寛解導入療法中の み で あ っ
た 。
3 . ケー ス B に対す る看護援助
1 ) ケ ー ス B の 口 内炎 の 発症パ タ ー ン の 明確化
ク ー ル 毎 に 口 内炎 の 発症 パ タ ー ン を明確 に し て い っ た
結果, ① 口 内炎 の 出現時期 は,
抗が ん剤 の 静脈投与開始
後 8 日 目 で あり,
白血 球数,
好中球数が1 0 00/ m m
3
以 下
に低下 し,
C R P 値が1 .O m g/dl 未満 で は ある が 上 昇 し始め
て い る, ②口 内炎の 増悪時期 は
,抗が ん剤 の 静脈投与開
始後11 日 目以 降 で あり, 白血球数 が10 0/ m m
3
以下,
好中
球数 が 0 / m 皿3以 下 に低下 し
,C R P 値が 各ク
ー
ル 中で 最高
値を示 して い る, ③ 口内炎の 回復時期 は
,抗 が ん剤の 静脈
投与開始後23 日目以降で あり, 白血球数が1 00 0/ m r㌔以下,
好中球数が5 00/ m m3以下 と 低値 で あ っ て も最低値 か ら上
昇 し始 め て お り,
C R P 値 が最高値 か ら急激 に1 .0 皿 g/dl 未
満 に 低下 して い る,
と い う ケ ー ス B の 口 内炎 の 発症 パ
タ ー
ン が 明確 に さ れ た 。
2 ) 看護援助 の 実際と ケ ー ス B の セ ル フ ケ ア状況 の 変
化, 母親 の 子 ども へ の 関わ り方 の 変化
< 身体的 ・ 精神的苦痛 の 強 い 入 院初期 > に お い て,
ケ ー ス B は,
寛解導入療法開始直後 に, 腫蕩崩壊症候群
によ る急性腎不全に なり,
集中治療室 に入室 して い た た
め,
口 内炎発症前に 【口 内炎 に関連す る基本的知識 ・ 情
報を事前 に提供する】 こ と が で きな か っ た 。 こ の 時期
は, 寛解導入療法開始 か ら3 5 日 ま で 持続 した 。 ケ
ー
ス
B の 口 内炎に対する セ ル フ ケ ア 状況 は,
口腔 ケ ア を時 々
し か実施 して い な か っ た 。 また,
母親も ケー
ス B が 曜気
を有 し て い た た め,
口腔 ケ ア を強制的 に は や ら せ て い な
か っ た。 そ の 後,
ケ ー ス B は,
29 日 目 に強度 の 痛み を伴
う 口 内炎を発症 した が , 泣き なが ら た だ我慢 して い る の
み で あ っ た .
一
方,
母親 は,「 どう して あげれ ば い い の
か。 何も で きな い」 と ケー
ス B を励ます の み で あ っ た。
こ の 時 に,
口 内炎の 病態や 血 液 の 働き, 口 内炎予防の た
め の 口腔 ケ ア 方法,鎮痛剤が 使用 で きる な どの 苦痛時の
対処方法の ほ か に, バ イ ン ス ケ
ー
ル によ る痛 み の 評価 ・
伝達方法を加え, 【口 内炎 に関連す る基本的知識 ・ 情報
を提供する】 こ と を実施 し た 。
そ の 後,
ケー
ス B と 母親 か ら 口 内炎 に 関す る 質問が
聞か れ る よ う に なり,
寛解導入療法開始後35 日 - 65 日
の 期間が < 口内炎 に対す る 関心 ・ 問題意識が 高くな る時
期 > と し て 分類 さ れ た。 こ の 時期 に は, 【口 内炎 に 対す
る 知識, 技術 を 反復 し て
,継続的 に提供す る】【子 ど も
の 口 内炎 に対す る セ ル フ ケ ア の 向上 を認め ,ほ め る】【口
内炎 に対す る対処方法 の 選択 決定 を子 ども に促す】 を
実施 した 。 さ ら に, 【過去の 治療 にお ける 口 内炎の 発症
パ タ ー ン を子 ども,
家族 と と も に共有す る】 で は, 寛解
導入療法中の 白 血 球数 と C R P 借 の 変動 を示 し た グ ラ フ
を提示 し な が ら,「 白血 球 が10 00 (/ 皿 ㌔) よ りも低く,
C RP が 上 が り始 め た と き に唇 が 荒 れ て きた」 「 白血 球 が
o (/ m m
3
) で,
C R P が一
番高 か っ た と き, 痛 み が 『5』
で あ っ た」 こ と な どを, ケー
ス B と 母親 と と も に 確認
し た 。 以 上 の 看護援助 を 継続す る こ と を通 じ, ケ
ー
ス
B は,
ペ イ ン ス ケー
ル に興味を示 し た の み で な く,口 内
炎 に よ る 痛み の 程度を連 日 評価 し, 痛み の 程度 や鎮痛剤
を使用 して ほ し い こ とを母親や 医療者 に伝達 で きる よ う
に な っ た 。 また,
口腔 ケ ア を食後, 間食後 に実施する よ
う に なり,口 腔ケ ア の 手技も正確 に実施す る よう に な っ
た 。 さ ら に, 外泊 の 時 に は
, 説明 の 際使用 し た パ ン フ
レ ッ トを自宅 に持ち帰り ,口 腔 ケ ア を継続 し て い た り,
痛 み に備えス ポ ン ジ ・
ス ワ ブ や や わ らか い 食材を準備す
る よ う に母親 に依頼 で きる よ う に な っ て い た 。 母親 は,
ケー
ス B に 口 腔ケ ア を促す行動 が 頻回 に観察 され,
そ の
一
方 で, 子 どもの 対処方法を子 ども に助言 し たり, 相談
す る行動も観察さ れ る よう にな っ た 。
ケー
ス B の < 外泊を 目標 と し治療 に 臨 む よ う に な る
時期 > は, 入院後65 日 目以降で あり , 治療第 3 ク ー ル の
後半 で あ っ た。 第 3 ク ー
ル と第 4 ク ー
ル が 同 じ治療内容
で あ っ た た め, 第 4 ク ー
ル が 開始 さ れ た 入院72 日 日 頃よ
り, 第3 ク ー
ル 中の 口内炎 の 発症 パ タ ー ン に基 づ き 【過
去 の 治療 に お け る 口 内炎 の 発症 パ タ ー ン を 子 ども, 秦
族 と と もに 共有する】 を実施 した 。 また,
ケ ー ス B が 学
童後期 で あ っ た た め,
ケ ー
ス B に積極的に か か わ り, 白
血 球数,C R P 備 に つ い て グ ラ フ を用 い て モ ニ タ リ ン グ
し,
口 内炎 の 発現時期, 増悪時期,回復時期 を予測 し な
が ら,
ケ ー
ス B が す べ き こ と や 要望 に つ い て デ ィ ス カ ッ
シ ョ ン した 。 その 際 に, 母親 に は 同席 して もら う形式 で
すす め た。 そ の 結果,ケ ー
ス B は, 「 9 日 目 か10 日 目 に
一
番痛くなる か ら,
そ こ を乗り越えれ ば,2 2月 目か
,23
日 目 こ ろ外泊で きる」 と 今後 の 経過を予測 し, 現在自分
自身がす べ き行動と して 「 食 べ ら れ るうち にた くさ ん食
べ て お く」 と い う行動を自ら が 見出 し,
実践 して い た 。
ま た, 痛み の 程度 に応 じて
,口腔 ケ ア 方法,
食事 の 変更,
鎮痛剤 の 必要性を自分自身で 判断 し,
実践 ・ 依頼す る よ
う に な っ た 。 さ ら に,
食前 の 手洗 い や 上 気道感染予防を
目 的と した 合歓な どの 感染予防行動 や,
日 常的 な洗顔な
どの 清潔行動が 習得 さ れ た。 母親 は,
ケ ー ス B の 口腔 ケ
ア に対する 自発性 に応 じて,
口腔 ケ ア を促す行動 は減少
して い き, さ ら に,
ケ ー ス B の 口腔 ケ ア 方法や 食事 に 関
して, 助言 を しなが ら も
, 子 どもの 希望 に添 っ て い た 。
3 ) 看護援助 に よ る 口腔粘膜症状 の 程度
第 3, 第4 ク ー
ル は, 大量 M T X ( メ ソ ト レ キ セ - ト)
療法が 組み 込まれ た,
ま っ たく同 じ治療 で あ っ た が,
口
腔粘膜症状の 程度が,
第4 ク ー
ル の 方が 軽度 で あり ( 秦
2 ) , 回復も早くな っ て い た 。
千葉看会誌 V O L .1 0 N o . 1 20 04 . 6 2 1
表 2 ケー
ス B の 各クー
ル の 口腔粘膜症状 の 程度
クー ル 口腔粘膜症状
寛解導 入
療法 ( 第
1 . 2
ク ー ル)
第3 クー ル 第4 ク
ー ル 第5 クー ル
主
顔
痛み の 最高 5 5 4 3 .5
塩酸モ ル ヒ ネの 必要 必要不要 不要
的苫痛
使用 (期間) ( 5 日間) ( 10 日間)
食事摂取 困難 の
持 続期 間6 日間 7 日間 3 日間 3 日 間
他
覚的変
詞
治療 開始 1 . 2 日臼全体
発赤.
白色
一
部 白色 変調な し
治療 開始4 . 5 E] E]
全体
発赤 白斑
2 箇所
一
部白色一
部白色
治療開始8 . 9 日臼
白斑面積
拡大.一
部
観察不可
全体
発赤.
白色面積拡大
治療開始15 日員 観察不可 観察不可 全体発 赤一
部発赤.
白色
Ⅵ . 考 察
1 . 小児がんの 子どもの 口 内炎に対するセ ル フケ ア を促
す看護援助の 実践的 ア プロ ー チ とその 効果
1 ) 各時期別の 看護援助 の すすめ 方
本研究 に お い て,
第1 - 4 クー
ル ま で の 入院後 2 ケ月
間が,
子 どもの 口 内炎 に対す るセ ル フ ケ アを促す上 で 重
要な時期 で ある こ と が 示唆 さ れ た。 また,「 子 ども
,母
親の 身体的 ・ 精神的状態の 変化」 「 口 内炎 に対す る 関心,
問題意識 の 変化」 「 入院生 活 の 変化」 「 子 ども の 口 内炎
に対する セ ル フ ケ ア 状況」 に応 じ, 子 どもと 母親 に投階
的,
継続的 に看護援助を組 み合 わ せ て い く こ と が 必要で
ある と 考え られ た。
下 記 に, 3 つ の 各時期 に お け る看護援助の 実践的な す
すめ 方と, そ の 効果 に つ い て 記述 した (図1 ) 。
①身体的,
精神的苦痛 の 強 い 入院初期
一
寛解導入療法開始 - 4 ・ 5 週 まで
両ケー
ス と も に, 寛解導入療法 が 開始 さ れ て 4 週
ま た は 5 週 目 は,
現疾患 や化学療法 に起因する 副作用
な どの 多種多様な不快を呈 して お り,
小児が んの 子 ど
もが 診断時や 入院初期 に痛 み が 強 い こ と やt
日 常生 活
行動が 行えなくなる と い う先行研究:】 ト 5 )
と 一
致する
も の で あ っ た。 ま た,こ の 時期 の 両 ケ ー ス の 母親 は
,
子 ども の 慣 れ な い 療養上 の 世話 に よ り身体的 に疲労
し,
どう して い い の か わ か ら な い と い う混乱や 罪悪
感な どをも っ て お り, 先行研究と 一
致する もの で あ っ
たG )
I
/ )
。 こ の よ うな時期 に, 【口 内炎 に関連す る基本
的知識 ・ 情報 を事前 に提供す る】 こ とを実施 した もの
の, 両 ケ ー ス と母親 は
,口 内炎 を発症する ま で は
,口
内炎を問題視 で きな か っ た 。 そ の 要因 と して,
体験
し た こ と の な い 痛 み や苦痛を事前 に与え られ たと して
も,
内面化す る こ と が で きな い 認知的発達の 未熟さ8 )
と い う子 ども側 の 要因と,
小児 が んの 告知を受け,
治
療開始初期 の 親 は,
ス ト レ ス フ ル な状況に ある た め,
日数 会笠間始■ 4 - 5 週 ■ 2 ケ 月 ■
経過分類身体的 . 精神的苦痛が 口 内炎に 対する関心 . 外泊を目標 とし、 治療
強 い 時期 問題意 識が高く なる時期 に臨む ように な る時期
香
護.
揺
助
口
内
炎の
普痛の
軽
口 内 炎口内炎 口 内炎
減
セ
ノレ
フ
ケ
ア
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図 1 化学療法を受け る 小児が んの 子 どもの セ ル フ ケ ア を促す看護援助
22 千葉看会誌 V O L . 1 0 N o . 1 2 00 4 . 6
情報を吸収 で きず,特 に治療 に よ る リ ス ク を明瞭 に認
識する こ と が 困難 で あ る9 )
と い う親側 の 要因が 考え
ら れ た。つ まり
,こ の 時期は
,子 ども と母親 に と っ て
,
最も身体的 ・ 精神的苦痛が 強度 で ある た め に,
子 ども
と そ の 家族 が 口 内炎 を問題視す る こ と が で きな い 時期
で あ ると 特徴 づ け られ た 。こ の よう な結果を考慮す る
と,
こ の 時期 の 看護援助 は,
子 どもと 母親 の 身体的 ・
精神的苦痛を緩和する こ と に重点が お か れ る 。 口 内炎
に 対 し て は 【口 内炎 に関連す る基本的知識 ・ 情報 を事
前 に提供す る】一
方で,
口 内炎 に よ る苦痛 が生 じた 際
に は,
子 どもと家族と と も に 口内炎 の 苦痛 に対する 対
処方法 を考える こ と の 方が よ り重要 と な る。
こ の よ う
な看護援助 は,
看護師と,
子 ども と そ の 家族 と の 関係
形成を促進 させ,
子 どもと 母親が ケ ア に参加する機会
を与える こ と に なり , 子 どもと 家族 の 口 内炎 に対する
関心と 問題意識を,徐 々 に高め て い く こ と に寄与する
と考え られ た 。
(参口内炎 に対す る 関心 ・ 問題意識が 高く な る 時期
一寛解導入療法開始後4 ・ 5 週 - 約 2 ケ 月まで
両ケー
ス と も,
寛解導入療法開始後 4 ・ 5 週 の 時期
は,
現疾患や 化学療法 の 副作用 によ る身体的苦痛 が軽
減 し,
入院生活 に も徐 々 に慣 れ 始め,
両ケー
ス と母親
は,
疾病や 治療,
身体的状況に 関 して 疑問 を持ち始 め
て い た 。 人間の 学習 は,
客観的な言葉 ・ イ メー ジ ・ 概
念 ・ 方法 ・ 法則 ・ 規則 ・ 原 理 な ど の 知識を受容す る
と い う学習方法 と,
自分自身 の 経験 ・ 体験 か ら 直 に
まなぶ こ と に よ っ て 知識 を形成す る学習方法 の 両者を
通 じ,
知識 が 生 活場面の 中 で 活用さ れ る よう に な る10)
と い われ て い る 。 つ まり,
こ の よ うな時期 は学習 ニー
ズ が 高ま っ て お り,セ ル フ ケ ア が 向上 しや す い 時期 で
あ る ため,
子 どもと そ の 家族が,
看護師 か ら の 知識 や
技術を受容す る の み で なく, 自分た ちが 体験 した こ と
を フ ィー ドバ ッ ク しな が ら, 新た な知識を形成 で きる
よう に し て い く こ と が 必要 で あ る。 従 っ て,
こ の 時期
に は,
積極的に 【口 内炎 に関連す る知識, 技術を反復
して , 継続的 に提供す る】【子 ど もの 口 内炎 に対する
セ ル フ ケ ア の 向上 を認め,
ほ め る】【口 内炎 に対す る
対処方法 の 選択 , 決定を子 どもに 促す】 と とも に, 【過
去 の 治療 に お ける 口 内炎の 発症 パ タ ー ン を子 ども, 秦
族 と とも に共有する】 こ と も重要な看護援助 で ある と
考え られ た 。 こ の ような看護援助 は, 子 ども と母親 が
口 内炎を現実に起 こりう る 問題と し て 捉え る こ と, チ
どもが 口 内炎 に対 して 実践す べ き行動や 自分自身の 要
望を明確 にす る こ と, 口 内炎 に対す る対処方法 の 選択
や決定 を可 能に し, 子 ども自身の 口内炎 に対す る セ ル
フ ケ ア の 獲得 に寄与する と 考え ら れ た 。
③外泊を 目標 と し治療 に臨 むよ う に なる 時期
一寛解導入療法開始後約 2 ケ 月 以 降
寛解導入療法開始後 2 ケ 月 以 降 に は, 外泊 回 数が
多くな り,
両 ケー
ス と 母親 は,
外泊 を 楽 しみ に し,
そ
して 退院ま で の 短期 目標 と して 捉え る よう に な っ て い
た。 子 ども と家族 に と っ て 意義の あ る外泊を可能な限
り継続 して い く た め に は, 子 どもと そ の 家族が積極的
に 口 内炎 に対す る対処方法 を調整 し たり,
時に は 家庭
で 口 内炎を発症 し た と きに も対処 で き る よう にす る こ
と も必要と な る 。 従 っ て,
こ の 時期 に は,
< 口 内炎に
対す る 関心・
問題意識 が高く な る 時期 > の 看護援助指
針を基盤と し, 中 で も 【過去 の 治療 にお け る 口 内炎 の
発症 パ タ ー
ン を子 ども, 家族 と 共有す る】 こ と が重要
な看護援助で あ る と考えら れ た。
こ の よ うな看護援助
は,
子 どもの 口 内炎 に対す る予期的な対処を実践す る
こ と を 可能に し, 子 ども自身の 口 内炎 に対す る セ ル フ
ケ ア の 維持 ・ 強化 に寄与す る と考え られ た。
2 ) 過去 の 治療 に お け る 口 内炎 の 発症 パ タ ー
ン を子 ど
も, 家族 と と も に共有す る看護援助 と その 効果
セ ル フ ケ ア 行動を継続 させ る た め に は 継続的な刺激を
与え たり,
関わりをも っ た りす る こ と が大切 で あり,
そ
の一
つ の 方法 と して, 病状 を 把握す る 指標 と な る も の
を提示す る こ と の 重要性11 )
が 言 わ れ て い る 。 本研究で
は, 【過去 の 治療 に お け る 口 内炎 の 発症 パ タ ー ン を子 ど
ち,
家族 と と もに 共有する】 看護援助 に お い て,
各 々 の
ケー
ス の 白血球数, C R P 値を 口 内炎 の モ ニ タ リ ン グ指
標 と し,
経時的な グ ラ フ を用 い て,
口 内炎の 発症 パ タ ー
ン と, 子 ど も自身が どの よ う に 行動すれ ば よ い の か や
,
ど の よ う に した い の か に つ い て , 子 ど もと 母親 と と も
に デ ィ ス カ ッ シ ョ ン した 。 こ の ような看護援助 は,
一
般
的な知識 ・ 情報 で は なく, 子 ども自身の 現実的なデー
タ
で あ る た め, 子 どもと そ の 家族 に, 口 内炎 をよ り現実的
な問題 と して 捉える こ と を可能 に したり,
また,
単 に看
護師 が情報を提供する こ と と は異なり,
子 どもと そ の 家
族, 看護師が 互 い に 情報, 判断, 体験 を分か ち合う こ と
に よ っ て,
子 どもと そ の 家族 の 状況判断 を助 け る こ と に
寄与する と考え ら れ る 。 ま た,
課題を遂行す る た め に,
自分自身の 不十分な点や 問題点 をモ ニ タ リ ン グ して 発見
し,
欠 け て い る 部分を身 に つ け,
あ る い は す で に持 っ て
い る知識や 技能を修 正 する こ と は,
結果 と して 課題 の 学
習 が効率的 にな る こ と が 指摘 さ れ て い る12 )
。 以 上 より ,
【過去 の 治療 に お ける 口 内炎 の 発症 パ タ ー
ン を 子 ど も,
家族 と共有す る】 看護援助 は, 子 どもの 口 内炎 に対す る
予防的, 予測的な対処行動 を促進 させ る と と も に, 母親
千葉看会誌 V O L .1 0 N o . 1 2 00 4 . 6 23
の 子 どもの 発達 に応 じた 適切なか か わり方 に気 づ く こ と
を促すと 考え ら れ た。 さ ら に,
こ の よ うな援助を継続的
に行 っ て い く こ と は, 常 に子 どもと 母親 に継続的刺激を
与える こ と に なり, 子 どもの 口 内炎 に対す る セ ル フ ケ ア
を維持 ・ 強化す る上 で 有効 で ある と 考えら れ た 。
2 . 看護実践 へ 適応
本研究 で 実施 した 看護援助 に よ る両 ケー
ス の 変化 か
ら,
本研究 の 看護援助 は,
口 腔 ケ ア に 対す る 額度 の 増
加,
自発性, 積極性 , 正確性, 継続性を促す こ と の み で
なく,
子 ども自身に よ る 口内炎 に対す る対処行動の 種類
を増や し,
感染予防行動や 日常生 活行動 に お ける セ ル フ
ケ ア ヘ の 応用性 に 寄与す る と考えら れ た。 また
, 看護援
助 に よ る両 ケー
ス の 母親 の 変化 か ら, 本研究の 看護援助
は,
子 どもの 口 内炎 に対す る親 の 強制的なか か わ り方の
み で なく , 口 内炎の 程度, 子 どもの 変化や 発達状況を考
慮 した, 支持的か か わ りを促す こ と に も寄与する と 考え
ら れ た 。
ケー
ス A は,
寛解導入療法中に 泣く ほ どの 口 内炎を
発症 した が , そ の 後 は発症 しな か っ た 。 ケー
ス B に関 し
て は,
同 じ治療内容 で あ っ た 第3・ 4 ク
ー
ル を比較す る
と,
第4 クー
ル の 方 が , 口腔粘膜症状 は軽度で あ っ た 。
こ れ は,
ケ ー ス B 自身が , 口 腔 ケ ア を積極 的 に実施 し
て い た た め 口 腔内の 清潔が 保持 で きた こ と, ま た
, 口 内
炎を発症する 前 に 「食 べ ら れ る と き にた く さ ん食 べ て お
く」 と い う予期的な対処行動を見出 し, 積極的 に食事を
摂 る よう に 努め て い た た め,
栄養状態の 維持 ・ 改善 に つ
な が っ た こ と もー
因 と して 考えら れ , 結果的 に 口腔粘膜
症状を軽度 にさ せ る こ とが で きた と 考え られ た 。
本研究の 看護援助 は,
口腔粘膜症状 と, そ れ に伴う苦
痛を緩和 さ せ る こ と に も寄与する 可能性が あ ると 考え ら
れ た 。
以 上 よ り,
本研究 で 用 い た看護援助は,
子 どもの 口内
炎に対する セ ル フ ケ ア を促 し,
母親の 子 どもの 口 内炎 に
対する セ ル フ ケ ア を促す か か わり方 を引き出 し, さ ら に
口 腔粘膜症状を軽減 させ る 効果 が ある こ と が 示唆 さ れ ,
看護実践 に お い て 適応可能な看護援助 と し て 考え られ
た 。
本研究 に お い て,
悪性血液疾患 の 子 どもを対象者 と
し,
年齢,
治療 プ ロ ト コー
ル も異な っ て お り, 例数も少
な い た め,
一
般化す る に は 限界 が ある。 今後
,固形腫癌
や, 多様な 治療 プ ロ ト コ ー
ル を受けて い る 子 ども へ の 看
護援助の 適応と,
年齢別 の 具体的なア プ ロー
チ 方法を詳
細 に 検討す る必 要性が 示 さ れ た。
2 4 千葉看会誌 V O L .10 N o . 1 2 00 4 . 6
Ⅶ . 結 語
本研究で は,小児 が ん の 子 ども と そ の 家族 の 身体的,
精神的状態,口 内炎に 対する 関心
・
問題意識, 入院生 活
の 変化, 子 どもの セ ル フ ケ ア 状況 に合 わせ,
口 内炎 に 関
す る看護援助を展開する こ と が 重要 で あ る こ とが 明確 に
な っ た 。 ま た, 白 血 球数 ,
C R P 値 の 変動 を, 子 ども と
そ の 家族 と と も に, 経時的 に把握 し なが ら 口 内炎を モ ニ
タリ ン グす る こ と が, 子 どもの 口 内炎 に対す る セ ル フ ケ
ア の 補強・
強化 に寄与する こ とが示唆さ れ た。
今後 は, 事例 を重 ね
, 白 血 球数, 好中球数,C R P 値
を 口 内炎 の モ ニ タ リ ン グの 指標 と して 用 い る こ と の 有用
性を検証 して い くと と も に, 化学療法を受 け る子 どもの
口 内炎以 外 の 副作用 に対す る セ ル フ ケ ア を促す看護援助
を検討 して い きた い 。
な お, 本研究 は
, 千葉大学大学院看護学研究科 に お け
る修士論文の一
部で ある 。
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I N C H IL D R E N Ⅵq T H C A N C E R U N D E R G O I N G C H E M O T H E R A P Y
M i w a N a k a m u r a
G r ad u a t e S c h o ol o f N u r si n g ,C hib a U n i v e r si ?
K E Y W O R D S :
c hild w ith c a n c e r,s elf- c a r e
,o r al m u c o siti s , sid e e ffe ct , c h e m o th e r ap y
T h e p u rp o s e o f thi s s t u dy w a s t o i d e n tify n u r si n g i n t e r v e n ti o n s p r o m o ti n g s elf- c a r e fo r o r al m u c o si ti s i n c hild r e n
u n d e rg o l n g C h e m o t h e r a p y fo r c a n c e r ・ S u bj e c t s w e r e 2 s c h o o l c hild r e n w ith le u k e m i a u n d e r g o i n g C h e m o th e r a py ・
I n t e r v e n ti o n s i n th e s e c o n d c a s e w e r e b a s e d o n n u r s l n g I n t e r v e n ti o n g u id eli n e s e x t r a c t e d fr o m th e n u r si n g Pl a n i n th e
fi r st c a s e .
T w o m ai n r e s u lt s w e r e o bt ai n ed . 1) I n th e e a rly
d ay
s o f h o s pi tal i z ati o n , w h e n c hild r e n a n d fa m ili e s s u fft r g r e a t
p hy si c al a n d e m o ti o n al di st r e s s ,r eli e v i n g S P e Cifi c di st r e s s r ela t e d t o o r al m u c o siti s a n d
"
p r o vi di n g b a si c kn o w l ed g e a n d一▲
s』11s ab o u t o r al m u c o siti s i n a d v a n c e
"
i s 血p o 工t a n t ・ W h e n r al S l n g I n t e r e st a n d a w a r e n e s s o f o r al 皿 u C O Siti s, p r o v idi n g
b a si c k n o w le d g e a n d s kill s ab o u t o r al m u c o siti s c o n ti n u o u sly"
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w ith c hild r e n a n d fa m ili e s th e e v o lu ti o np
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e ri o d w h e n child r e n
a n d fa m ili e s ai m t o s t a y a t h o m e o v e mi gh t, th e i m p o r t a n t n u r s i n g I n t e r v e n ti o n i s t o
"
s h a r e w i th child r e n a n d fa m ili e s
th e e v o lu ti o n p a tt e r n s o r o r al m u c o si ti s
''
.2) Bァ ob s e r v i n g 凸u c t u a ti o n s i n w hit e c ell c o u n t s
,n e u t r o p hili c l e u k o c y te
c o u n ts,
a n d C R P v al u e s,th e a p p e a r a n c e , e x a c e rb a ti o n a n d r e c o v e r y s t ag e s o f o r al m u c o si ti s c a n b e e sti m a t e d ・ T h e s e
i n di c e s a r e u s e fu l fo r m o n it o ri n g o r al m u c o si ti s ・ U tili zi n g w hi t e c ell c o u n t,
n e u t r o p hili c l e u k o cyt e c o u n t, a n d C R P
l e v el a n d"
s h a ri n g w it h c hild r e n a n d f a m ili e s th e e v olu ti o n p a tt e r n s o f o r al m u c o si ti s
"
allo w s th e m ai n t e n a n c e a n d
r ei nfTo r c e m e n t o f th e c hild'
s s elf -
c a r e fo r o r al m u c o si ti s .
千 葉看会誌 V O L .1 0 N o . 1 2 00 4 . 6 2 5