「書くこと」の学習を充実した取組の実践例 · ②...

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101 56.0% 47.5% 70.5% 62.7% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 国語A 国語B 「書くこと」の領域に係る問題の正答率 (平成20年度) 全国平均 本校 64.1% 88.8% 29.3% 9.7% 5.2% 0.0% 全国 本校 解答を文章で書く問題は、最後まで書こうと努力しましたか(平成20年度国語) 最後まで書こうと努力した 途中であきらめたものがあった 全く回答しなかった 全国学力・学習状況調査の結果における特徴 15「書くこと」の学習を充実した取組の実践例 ~国語の「書くこと」の領域に係る問題で正答率が高い中学校の例~ 学校種 中学校(昭和22年開校) 校区内小学校 2校 学級数 生徒数 計12学級 (約420名) 第1学年 4学級(約130名) 第2学年 4学級(約150名) 第3学年 4学級(約140名) 教職員数 30名 校長・教頭 各1名 教諭 21名(うち,養護教諭1名) 講師(英語) 指導助手(ALT) 事務職員 栄養職員 管理用務員 スクールカウンセラー 相談員 1名 1名 1名 1名 1名 1名(非常勤) 1名 ○学校の特色 都心に近く交通の便も良いことから,近年,大規模な住宅地の造成等により,県内でも有 数の人口増加率をみている地域の学校である。特に新興住宅地には教育に関心が高い家庭が 多い。また,通塾率は第3学年でおよそ7割にのぼる。 学校には県からの加配教員2名と町からの指導補助員(講師)1名が配置されており,少 人数指導(1年数学,英語)やチームティーチング(理科,2・3年英語)を実施している。 学校紹介 国語・数学ともに正答率が全国平均 を上回っているが,特に「書くこと」 の領域に係る問題で,正答率が高い。 また,生徒に対する質問紙調査にお いても,記述式問題をあきらめずに解 答しようと努力した生徒の割合が顕 著に高い。

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Page 1: 「書くこと」の学習を充実した取組の実践例 · ② その場面が読み手によく分かるように,描写を工夫して書き表す。 ③ 描写した文章を基に,そのとき感じたことを俳句の形にまとめる。

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56.0%47.5%

70.5% 62.7%

0%20%40%60%80%

100%

国語A 国語B

「書くこと」の領域に係る問題の正答率

(平成20年度)

全国平均

本校

64.1%

88.8%

29.3%

9.7%

5.2%

0.0%

全国

本校

解答を文章で書く問題は、最後まで書こうと努力しましたか(平成20年度国語)

最後まで書こうと努力した 途中であきらめたものがあった 全く回答しなかった

全国学力・学習状況調査の結果における特徴

15「書くこと」の学習を充実した取組の実践例 ~国語の「書くこと」の領域に係る問題で正答率が高い中学校の例~

学校種 中学校(昭和22年開校)

校区内小学校 2校

学級数

生徒数

計12学級

(約420名)

第1学年 4学級(約130名)

第2学年 4学級(約150名)

第3学年 4学級(約140名)

教職員数 30名

校長・教頭 各1名

教諭 21名(うち,養護教諭1名)

講師(英語)

指導助手(ALT)

事務職員

栄養職員

管理用務員

スクールカウンセラー

相談員

1名

1名

1名

1名

1名

1名(非常勤)

1名

○学校の特色 都心に近く交通の便も良いことから,近年,大規模な住宅地の造成等により,県内でも有

数の人口増加率をみている地域の学校である。特に新興住宅地には教育に関心が高い家庭が

多い。また,通塾率は第3学年でおよそ7割にのぼる。

学校には県からの加配教員2名と町からの指導補助員(講師)1名が配置されており,少

人数指導(1年数学,英語)やチームティーチング(理科,2・3年英語)を実施している。

学校紹介

国語・数学ともに正答率が全国平均

を上回っているが,特に「書くこと」

の領域に係る問題で,正答率が高い。

また,生徒に対する質問紙調査にお

いても,記述式問題をあきらめずに解

答しようと努力した生徒の割合が顕

著に高い。

Page 2: 「書くこと」の学習を充実した取組の実践例 · ② その場面が読み手によく分かるように,描写を工夫して書き表す。 ③ 描写した文章を基に,そのとき感じたことを俳句の形にまとめる。

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全国学力・学習状況調査の結果に寄与したと考えられる取組

授業における取組

○文章の「型」を身に付けるための指導 本校では,これまで幾つかの教科で学習自己評価カードを使って授業の「振り返り」を行

ってきた。しかし,短時間で考えをまとめられない生徒や,学習のねらいや課題に即した内

容を書くことができない生徒が多かった。

そこで,国語科の年度当初の授業で「手引」を用いて「振り返り」におけるまとめ方を取

り上げ,それにしたがって「学習自己評価カード」を書かせることで,短い文章を短時間で

書く練習を行うこととしている。(100文字程度の文章を 5 分程度で書かせている。)

(手引の内容の例)

・ 「考え→理由→具体例」の構成で書くようにすること。

・ 「なぜなら」「たとえば」などの接続詞などの言葉を使うようにすること。

・ 一文を短くする(主語と述語の関係を明確にする)こと。

・ 文体(常体と敬体)を統一すること。

学習自己評価カードは,毎時間授業後に回収し,手引にしたがって書けているかを評価し

て返却する。

初期の段階では,学習の目当てに沿って考えをまとめられなかったり,理由と具体例がう

まくつながらなかったりする文章が多くみられることから,適宜,授業で模範例を示して解

説を加える。こうした作業を繰り返し行うことで,生徒は次第に「型」を身に付け,他教科

の「振り返り」等にも応用できるようになるなど,「書くこと」の基礎的能力が身に付いて

くる。

▼学習自己評価カードを書く際の「手引」

「書くこと」の基礎的・基本的な知識・技能を習得するための実践

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○学習したことを工夫してまとめるノートのとり方指導 本校では,国語科の学習の中で,「ノートのとり方」を取り上げ,学習したことをノート

に工夫してまとめることができるよう指導している。

良いノートを紹介したり,「ノート点検表」(下記参照)により自分で点検をさせたりして,

ノートのとり方を示し,意欲的にまとめられるようにする。

<年度当初のまとめ方指導>

・ ノートは横罫線のみでマス目はないものを使う。

・ 日付,題材名,学習の目当てを書く。

・ 縦書きができるように向きを変えて使い,上のページを授業用,下のページを家庭学

習用とする。

・ 授業用のページには,板書に書かれた事柄を中心に,気が付いたことを短時間でメモ

をする(ノートをまとめる時間は特にとらない)。

・ 家庭学習用のページには,授業中にメモをしたことや,配布されたプリント等を使っ

て,その日に学習したことを分かりやすくまとめる。

<教員によるノートの3段階評価>

A・・・授業中に板書に書かれた事柄等をメモをしたページと,それを基に家庭で学習し

たことをまとめたページが分けて記述されている。記述内容はBランクに準ずる。

B・・・毎時間,板書に書かれた事柄を中心によくまとめている。日付,目当てが記録さ

れ,授業で使用したプリント等もきれいに貼は

ってある。

C・・・あまり書かれていない。

▼ノート点検表

▼授業用のノートの例

「書くこと」の基礎的・基本的な知識・技能を習得するための実践(つづき)

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○4コマ漫画を使った文章の要約指導 自分の考えを整理してまとめるためには,まず,対象を正確に理解することが必要である。

そこで,新聞の4コマ漫画の内容を要約する学習を,次のように行っている。

① 4コマ漫画を読み,一言で言うとどのような話なのか一文で要約する。

② 場面の展開や登場人物などの描写

に注意し,初めに書いた一文を詳しく

説明していく。具体的には,要約文の

内容に対して自ら問いをたて,その答

えを書いていく作業を行う。

書き終わった生徒から文章を評価

し,手直しをしていく。この作業を繰

り返すことで,要点をとらえて要約す

る方法や,順序立てて説明する方法を

学んでいく。

○修学旅行での体験を基にした俳諧かい

紀行文づくり 本校では,行事の振り返りにおいて感想文等を書くことにしており,修学旅行についても

様々な形で振り返りを行うが,国語科では次の手順で俳諧紀行文(おくのほそ道をイメージ

した紀行文)にまとめている。 ① 京都や奈良で過ごした3日間の中で,特に印象に残った場面を思い出す。

② その場面が読み手によく分かるように,描写を工夫して書き表す。

③ 描写した文章を基に,そのとき感じたことを俳句の形にまとめる。

④ 描写した文章と俳句をつなげる。

⑤ 作品を発表する場を設け,互いに評価し合うことで自分たちの表現に役立たせる。

「書くこと」の基礎的・基本的な知識・技能を活用するための実践

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○新入生保護者説明会のための「学校紹介文」づくり 本校では,毎年2月に次年度の新入生とその保護者を招き,説明会を実施している。その

際の資料の一部である「学校紹介文」は,実際に生徒が書いたものを使用しており,まさに

実践的な文章を書くことの指導である。

活動の手順としては,まず掲載すべき題材をクラス全体で確認した後,題材が偏らないよ

うに分担を決める。次に同じ題材を扱う者同士がグループとなって情報交換をしながら文章

を書く。なお,生徒は,以下のような点に留意し,紹介のための文章を書く。

① 実際に自分の後輩やその保護者のために書くことを意識する。

② 自分が小学生のときに不安だったことを思い出し,それを払 拭しょく

できるような内容にする。

③ 小学生にも分かるような

語句を使い,読みやすい文

章にする。

活動としては,説明会後に,

実際に資料に採用された作品

を印刷して配布し,伝えたい

事柄がどの程度明確になって

いるか,どのように文章構成

が工夫されているかなどを評

価し合う場を設定し,相互評

価を中心にまとめる。

○新聞の投稿欄に載せるための意見文づくり 本校の生徒は,学習や部活動に意欲的でまじめに取り組む生徒が多い。しかし,社会的な

事象に目を向けるという習慣はまだ確立されておらず,社会性を身に付けているとは言えな

い状況である。そこで,国語科では,次のような手順で新聞の投稿欄に意見を送るという活

動を行い,生徒が社会に目を向ける機会を設けている。

① 新聞を読み,興味・関心のある話題を一つ以上選ぶ。

② 資料等を加えて根拠を明確にしながら,自分の意見をまとめる。

③ 書きあげた文章を互いに読み,語句の使い方や文章構成について推敲こう

する。

④ できあがった意見文

(投書)を,新聞社に

投稿する。

説得力のある文章と

なっているものを教科

通信に載せ,文章構成や

具体例等のよさを全体

で確認する。また,実際

に掲載された記事と原

文を比較して,書き直さ

れている部分等を分析

し,今後の自分の表現に

役立たせる。

「書くこと」の基礎的・基本的な知識・技能を活用するための実践(つづき)

▲新聞社に投稿した意見文の例(校内通信で紹介したもの)

▲学校紹介文の一部

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○地域の民話を題材にした紙芝居づくり(総合的な学習の時間) 地域の民話を教材化して紙芝居づくりを行わせ,「書くこと」と「読むこと」を関連させ

た指導を行う。また,できあがった紙芝居は古典学習の資料としても活用する。

<紙芝居づくりの手順>

① 4~6人グループで協力して,地域に伝わる

民話について,地域資料を読んだり,祖父や祖

母から話を聞いたりして,材料を集める。

② 集めてきた材料を互いに発表し合う。

③ 昔使われていた方言等について調べ,相手意

識をもちながら,文章を練り直す。

④ 場面の展開や登場人物の描写などに注意し

て読み,小学生(低学年)に喜ばれるような内

容になるよう構成等を工夫する。

⑤ グループごとに地元の小学校でできあがっ

た紙芝居の発表会(読み聞かせ)を行う。

グループによる作業を通して,知りたい情報の

調べ方や意見交換が自然に行われ,目的意識をも

って作業ができる。

○京都の町づくり調査レポート

(総合的な学習の時間) 本校では,総合的な学習の時間の取組の一つとし

て,町の活性化プランを作成している。

修学旅行をその課題解決学習の一環として扱い,

次のような手順で地域の町づくりに生かせる点を

調べてレポートにまとめさせている。

① 国際理解,情報,環境,福祉・健康のグループ

に別れ,それぞれの面から観光都市として有名な

京都について調べ,地域の町づくりに生かせそう

なポイントを探る。

② 修学旅行中に,調べたことについて実際に見学したり体験したりして検証作業を行う。

③ 町づくりに生かせそうな点をレポートにまとめる。

④ グループごとに発表し合い,代表を決めて学年発表会を開催する。

⑤ 発表後は,各自のレポートを町の観光課に提出する。

レポートの書き方は,他の授業等でも指導するが,形式を統一して指導する。

問題解決的な学習や探究活動に主体的,協同的に取り組む態度を育てるだけでなく,地元

住民としての自覚も高めていく。

「書くこと」の基礎的・基本的な知識・技能を活用するための実践(つづき)

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・ 色々なところですらすらと文章が書けるようになりました。以前は短い文章を書くだけでも精

一杯だったのですが,評価カードを毎回書いてコツが分かったので,短時間で書けるようになり

ました。行事などの後に書く感想文なども,短時間で考えがまとまります。

・ 1年生のときに比べ,文章がしっかり書けるようになってきました。1年生のときは「なぜな

ら~からです」型で書いているだけで説得力がありませんでしたが,2年生になって「なぜなら

~からです。たとえば~」型で書くことによって説得力が増しました。

・ 私は,人に何かを伝えるときに効果が現れたと思います。なぜなら,前は言っていることが自

分でもよく分からなかったり,相手に伝わらなかったりすることが多かったのですが,今は言い

たいことを整理して言えるようになってきたからです。例えば理科の授業で,実験の結果の理由

を説明するときなどです。

教室からの声

本校では,生徒に生活記録ノートを配布し,明日の連絡と日々の振り返りを書かせている。

学級によっては,テーマを決めて書かせたり,学級担任との交換ノートのように活用したり

しているところもある。

どの学級も学級担任が毎日点検し,短いコメントを添えて返却している。こうした継続的

な取組により,生徒たちに「書くこと」を習慣付けている。

また,行事を終えたときにも短い感想を書くよう指導している。これらの感想は学年通信

等に掲載し,やはり生徒たちの「書くこと」への意欲を高めることにつながっている。

授業以外の取組

生活記録ノートなど日常的な文章作成の実践

▼生活記録ノートの一部

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説明や報告等を書くために本などの資料を読むことも多く,「書くこと」の学習は,「読むこ

と」と切り離して考えることはできない。そこで本校では,次のように読書環境を整備するこ

とで「読むこと」の充実を図っている。

・朝の一斉読書の実施

集団読書のためのテキストや学級文庫を活用し,朝会のある日を除いて毎日行っている。

・図書委員会による読書推進活動

推薦図書紹介カードを作成・掲示したり,読書集会(図書委員や教員による本の紹介)を

開催したりしている。

・学校図書館の学習・情報センター,読書センターとしての機能の活用

辞典・事典類やリーフレット等の「調べ学習」用資料の整備,教科別配架等の工夫を行い,

総合的な学習の時間を中心に活用できるようにしている。また,県の推薦図書コーナーや地

域資料コーナーを常設,特集コーナーの設置を行い,読書推進を図っている。

読書活動の充実