ロミオとジュリエットの物語におけるヒロインの 自...

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183 CAPULET Come, brother Montague, give me thy hand. There is my daughters dowry, for now no more Can I bestow on her. Thats all I have. MONTAGUE But I will give them more; I will erect Her statue of pure gold, That while Verona by that name is known, There shall no statue of such price be set As that of Romeos lovèd Juliet. CAPULET As rich shall Romeo by his lady lie, Poor sacrifices to our enmity. Rom. 5.3.206-215) シェイクスピアのロミオとジュリエットは死後、黄金の像となり、平和の シンボルとしてヴェローナを見守る役割を託される。これは『ハムレット』 において溺死したオフィーリアを巡る周囲の反応と比べると雲泥の差である。 ヒロインの自死は『アントニーとクレオパトラ』でも扱われるが、クレオ パトラはキリスト教徒ではなく、その意味では文化圏が異なるので、自殺が 疑われるオフィーリアや自殺したジュリエットと同じ基準で扱うことはでき ない。本論では、オフィーリアの溺死を巡る周囲の反応とジュリエットの自 ロミオとジュリエットの物語におけるヒロインの 自死の系譜の考察 逢見 明久

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    CAPULET Come, brother Montague, give me thy hand.There is my daughter’s dowry, for now no moreCan I bestow on her. That’s all I have.

    MONTAGUE But I will give them more; I will erectHer statue of pure gold, That while Verona by that name is known,There shall no statue of such price be setAs that of Romeo’s lovèd Juliet.

    CAPULET As rich shall Romeo by his lady lie,Poor sacrifi ces to our enmity.

    (Rom. 5.3.206-215)

     シェイクスピアのロミオとジュリエットは死後、黄金の像となり、平和の

    シンボルとしてヴェローナを見守る役割を託される。これは『ハムレット』

    において溺死したオフィーリアを巡る周囲の反応と比べると雲泥の差である。

     ヒロインの自死は『アントニーとクレオパトラ』でも扱われるが、クレオ

    パトラはキリスト教徒ではなく、その意味では文化圏が異なるので、自殺が

    疑われるオフィーリアや自殺したジュリエットと同じ基準で扱うことはでき

    ない。本論では、オフィーリアの溺死を巡る周囲の反応とジュリエットの自

    ロミオとジュリエットの物語におけるヒロインの自死の系譜の考察

    逢見 明久

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    殺を巡る周囲の反応とを検討し、ロミオとジュリエットの物語の変遷を、そ

    の原型と考えられているマスッチオの物語へと遡ることによってヒロインの

    自死の系譜について考察したい。

    1.オフィーリアの溺死について

     『ハムレット』の材源は『原ハムレット』(Ur-Hamlet,c.1588)とする説があるが、そのテキストは現存しないため、オフィーリアの自殺の描写の有

    無を確認することは困難である。さらにハムレット伝説の源泉を辿ってゆく

    と、サクソ・グラマティカス(c. 1150 ‒ 1220)が12世紀末にまとめ、1514年に出版された『デンマーク史』(Historiae Danicae)に行き着くが、オフィーリアの原型らしき無名の女性が言及されるものの、その人物が自殺する描写

    は見当たらない。サクソの話のフランス語訳を手がけて『悲劇物語集』 (Histoires Tragiques, 1580)に収めたフランソワ・ベルフォーレ(1530-83)も、同様に自殺を描いていない。オフィーリアの自殺の挿話については、サクソ

    の『デンマーク史』やベルフォーレの『悲劇物語集』よりも、むしろ『原ハ

    ムレット』の作者と考えられているトマス・キッドの『スペインの悲劇』( 4

    幕 2場におけるイザベラの自殺)に共通点があるが、自殺者の処遇について

    は言及されていない。アーデン版『ハムレット』の編者ハロルド・ジェンキ

    ンズは、1626年にドレスデンで英国の劇団によって上演されているドイツ版

    『ハムレット』(Tragoedia der Bestrafte Brudermord oder Prinz Hamlet aus Dannemark)(Cohn cxv)において、オフィーリアが崖から身投げするくだりが盛り込まれている点を指摘し(Jenkins 376)、ドイツ版『ハムレット』がシェイクスピアの『ハムレット』に基づいているとの見方をしている

    (Jenkins 116)が、いまだ不明な点もあり、現段階では参考までに触れておくことにする。

     シェイクスピアのオフィーリアは中世を生きたカトリック信者として描か

    れている。これは異教の物語として扱ったサクソの影響ではなく、そのフラ

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    ンス語訳を手がけたベルフォーレの影響と考えられる。ベルフォーレはオ

    フィーリアの原型と考えられる若い婦人が、国王に間諜として送り込まれな

    がら、ハンブレット(ハムレット)への愛ゆえに改心して国王の企みを告白

    する設定に改めている。シェイクスピアがそのことを前提にオフィーリアを

    造形しているなら、国王の間諜として利用されたことへの自責の念により自

    殺したという解釈も成り立つだろう。

     次にオフィーリアの疑わしき死に対する周囲の態度を考察したい。オ

    フィーリアの溺死を巡っては、ガートルードが不慮の事故としてその経緯を

    語るが(Ham.4.7.165-183)、オフィーリアの入水自殺を示唆するやり取りが 5幕 1場の墓堀の場面にあり、自殺者に対するキリスト教信者の厳しい視

    線が盛り込まれている。

    Grave. Is she to be buried in Christian burial, when she wilfully seeks her own salvation?

    Other. I tell thee she is, therefore make her grave straight. The crowner hath sat on her, and fi nds it Christian burial.

    Grave. How can that be, unless she drowned herself in her own defence?

    (Ham. 5.1.1-7)

     このように、墓堀は自殺を疑われるオフィーリアがキリスト教徒の墓地に

    埋葬されることについて疑問を抱きながらも、高貴な身分ゆえの、別格の扱

    いと理解している。

    Other. If this had not been a gentlewoman, she should have been buried out o’ Christian burial. (Ham. 5.1.23-25)

     さらに、自殺を疑われるオフィーリアの略式葬儀を巡るレアティーズと司

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    祭とのやり取りは、墓堀の言葉を裏付ける。

    Leartes. What ceremony else? Priest. Her obsequies have been as far enlarg’d

    As we have warranty. Her death was doubtful; And but that great command o’ersways the order, She should in ground unsanctifi ed been lodg’dTill the last trumpet: for charitable prayers Shards, fl ints, and pebbles should be thrown on her.Yet here she is allow’d her virgin crants,Her maiden strewments, and the bringing homeOf bell and burial.

    Leartes. Must there no more be done? Priest. No more be done.

    (Ham. 5.1.218-228)

     オフィーリアはキリスト教徒として墓に葬られるものの、その場所は道化

    など家臣が葬られる共同墓地であり、ガートルードがハムレットの妃と見込

    んだ境遇(Ham. 5.1.237) を考えると、王侯貴族の墓所に埋葬されることを許されず、略式の葬儀で済まされたことになる。遺族であるレアティーズの

    嘆きと訴えから判断しても、通常の埋葬の形と大きく異なることは明らかで

    あり、それは中世ヨーロッパのキリスト教国において平民の自殺者の処遇が

    いかに厳しいものであったかを物語る。 5幕 1場でのオフィーリアの疑わし

    き死を巡る周囲の反応は、シェイクスピアと同時代の英国人の常識を反映し

    ている可能性がある。

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    2.シェイクスピアにおけるジュリエットの自殺について

     シェイクスピアのジュリエットは唐突に極めて短い時間に人生の決断を迫

    られるが、迷うことなくロミオの後を追い自殺する。それでは、ジュリエッ

    トがどのような状況で自殺に及んだのかをオックスフォード版で辿ってみる

    ことにする。

    JULIET Ah, comfortable Friar,I do remember well where I should be,And what we talked of; but yet I cannot seeHim for whose sake I undertook this hazard.

    FRIAR LAURENCE Lady, come forth. I hear some noise at hand.We shall be taken. Paris, he is slain,And Romeo dead; and if we here be ta’en,We shall be thought to be as accessory.I will provide for you in some close nunnery.

    JULIET Ah leave me, leave me, I will not from hence.FRIAR LAURENCE I hear some noise, I dare not stay. Come, come.JULIET Go, get thee gone.

    What’s here? A cup closed in my lover’s hands?Ah churl, drink all, and leave no drop for me?   Enter Watchmen

    CHIEF WATCHMAN This way, this way.JULIET Ay, noise? Then must I be resolute.

    O happy dagger, thou shalt end my fear;Rest in my bosom. Thus I come to thee.   She stabs herself and falls

    (Rom. 4.3.100-117)

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     ジュリエットは仮死から目覚めると夫ロミオの姿を探すが、期待に反して

    ロミオの死に直面し、ロレンス神父から手違いで駆け落ちの計画が頓挫した

    ことを知らされ、呆然とする。その最中に、見回りの気配に、ロレンス神父

    はジュリエットに修道女として生きる選択肢を勧めるが、ジュリエットはそ

    の申し出を拒み、夫ロミオの亡骸のそばに留まる。ジュリエットはロミオの

    骸を霊廟に置き去りにして、修道女として生きながらえることに意味を見出

    すことができなかったと判断できる。ジュリエットは、ロレンス神父の話か

    ら、霊廟で起きた殺人事件の容疑者として逮捕される危険性を認識しており、

    生きたまま霊廟に留まって逮捕された場合、キャピュレット家とモンタ

    ギュー家の名誉を穢すことになることも十分理解しているだろう。ロレンス

    神父が提案したように、霊廟から脱出して、修道院に隠 することは現実的

    な選択肢であることも承知しているはずである。見回りの声が近づくにつれ

    て、逃げ切れない場合も覚悟しなければならない状況であったと考えられる。

    実際にロレンス神父は逮捕されているので、ジュリエットの方がより状況を

    把握していたとも考えられる。

     ロレンス神父が立ち去って間もなく、ジュリエットはロミオの手に握られ

    ていた小瓶から服毒自殺を知り、躊躇うことなく小瓶に残ったわずかな毒を

    すすり、またロミオに口づけし、唇に残った毒を吸い出すことも試みる。し

    かし同じ毒で死ぬことが叶わず、ロミオの唇のほのかな温かみに、わずかの

    差で生きて再会を果たせなかった自らの不運を嘆く。さらに迫り来る見回り

    の声にせき立てられるように、ジュリエットは死に急ぐ。ジュリエットは偶

    然見つけたロミオの短刀で自身の胸を突いて本懐を遂げる。ジュリエットは

    ロミオの短刀を見つけたとき、“O happy dagger”と感極まるが、それはジュリエットがロミオの短刀を、恐怖をもたらすものとしてではなく、喜びをも

    たらすものとして捉えている証しであり、ジュリエットにとって自死がロミ

    オとのあの世での幸せな再会のために避けて通ることのできない通過儀礼で

    あることを物語っている。シェイクスピアのジュリエットは死の間際までロ

    ミオへの愛を貫いている。だがジュリエットの自死はキャピュレットとモン

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    タギュー両家の名誉を損なう重大事になり得る危険性を孕んでいることを承

    知の上の行為であるかは疑問が残る。その点がジュリエットの未熟さともい

    えるが、また同時に純真な一途さから出た行為ともいえよう。

    3.ブルックとボエステュオーにおけるジュリエットの自殺について

     アーサー・ブルックのジュリエットはロミオの死後 1時間が経過してよう

    やく目覚める。ロレンス神父はジュリエットのもとを訪れ、不測の事態によ

    り駆け落ちの計画が狂い、ロミオが霊廟で亡くなっていることを告げた上で、

    修道院での隠 生活をジュリエットに勧める。しかしジュリエットはロミオ

    の死を受け入れられず、戸惑いと悲嘆の余りに狂乱し、情念に支配されて完

    全に冷静さを失う。ブルックは、ジュリエットに“Ah, wretch and caitive that I am, even when I thought / To find my painful passion’s salve, I missed the thing I sought.” (Romeus. 2751-2)と語らせている。これはブルックが底本にしているピエール・ボエステュオーによるフランス語訳の影響で

    ある。ブルックのジュリエットは見回りの気配を感じながら、愛を貫き潔い

    最期を覚悟する。

    And when our Juliet would continue still her moan.The friar and the servant fl ed, and left her there alone;For they a sudden noise fast by the place did hear.And lest they might be taken there, greatly they stood in fear.When Juliet saw herself left in the vault alone, That freely she might work her will, for let or stay was none,Then once for all she took the cause of all her harms.The body dead of Romeus, and clasped it in her arms;Then she with earnest kiss suffi ciently did prove,That more than by the fear of death, she was attaint by love;

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    And then past deadly fear, for life ne had she care, With hasty hand she did draw out the dagger that he ware.‘O welcome Death,’ quoth she, ‘end of unhappiness,That also art beginning of assuréd happiness,Fear not to dart me now, thy stripe no longer stay, Prolong no longer now my life, I hate this long delay.’

    (Romeus. 2761-2776)

     “‘O welcome Death,’ quoth she, ‘end of unhappiness, / That also art beginning of assured happiness.”というジュリエットの言葉は、シェイクスピアのジュリエットの“O happy dagger”の含意を裏付ける。シェイクスピアは、ジュリエットが天国でのロミオとの再会を信じて自死するという解釈

    を、ブルックの物語詩から得ていることが分かる。

     ジュリエットのロミオの短刀による自死のくだりは、ボエステュオーが発

    案し、ブルックへと受け継がれた経緯がある。ジュリエットは明らかに自殺

    と分かる方法で自死を遂げるが、この振る舞いは実家の名誉を著しく傷つけ

    る恐れがある。そうした危険性をジュリエットが忘れるほどに、悲嘆に暮れ

    ていることを強調するねらいがあるものと考えられる。

    And lest that length of time might from our minds removeThe memory of so perfect, sound, and so approvéd love,The bodies dead, removed from vault where they did die,In stately tomb, on pillars great of marble, raise they high.On every side above were set, and eke beneath, Great store of cunning epitaphs, in honour of their death.And even at this day the tomb is to be seen;So that among the monuments that in Verona been,There is no monument more worthy of the sight,

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    Than is the tomb of Juliet and Romeus her knight. (Romeus. 3011-3020)

     ロミオとジュリエットの亡骸は同じ墓所に丁重に葬られ、二人の自殺は忌

    まわしい出来事としてではなく、永遠の愛のシンボルとして讃えられている。

    こうした結末は、ブルックが底本としたボエステュオーの物語を踏襲したも

    のだが、自殺の道義的な責任を否定し、制裁を科さない古代のローマ法を念

    頭に置いた設定といえる。既に指摘した『ハムレット』の 5幕 1場における

    自殺者についてのキリスト教徒の態度が、シェイクスピアと同時代の英国人

    の常識を反映するものなら、ブルックの物語詩は当時としてはセンセーショ

    ナルな内容であったことは想像に難くない。ただしブルックの物語詩は、異

    国で起きた古の出来事として扱われるので、自殺者について寛容な表現が可

    能だったと考えられる。

     シェイクスピアの作品では、序詞における “From forth the fatal loins of these two foes / A pair of star-crossed lovers take their life, / Whose misadventured piteous overthrows / Doth with their death bury their parents’ strife.”という暗示の他に、二人が同じ墓に葬られるという明確な描写はない。その背景には、自殺という主題が、上演の許可を受ける上で繊細

    な話題であった事情が考えられ、例えば聖職者の反応や検閲などに配慮しな

    ければならない状況下にあったことも影響しているのではないか。

    4.バンデッロにおけるジュリエッタの自殺について

     ブルックはマッテオ・バンデッロのフランス語訳を底本にしているが、フ

    ランス語に翻訳したピエール・ボエステュオーは、ジュリエットがロミオの

    短刀で自死する筋立てに変更し、ジュリエットの感情面を重視した脚色を加

    えた経緯がある。ボエステュオーのジュリエットとバンデッロのジュリエッ

    タ(ジュリエット)の自死の間にどのような違いがあるのだろうか。

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    In excess of grief, Giulietta fell senseless upon her husband’s body, remaining for some while in a deep swoon.

     バンデッロのジュリエッタは仮死状態から目覚めたとき、まだ息のあるロ

    ミオと再会するが、手をこまねいてロミオの死を待つしかなく、悲しみに押

    しつぶされ、心神喪失の状態で、ロミオのもとから離れることができずにい

    る。ボエステュオーやブルックのジュリエットと比べると、バンデッロはジュ

    リエッタが自殺に至るまでの心理描写を極端に差し控えていることが分か

    る。ほとんど省かれていると言ってもよいくらいである。バンデッロは自死

    を遂げるジュリエッタに同調するというより、むしろ自殺という繊細な問題

    に一定の距離を取っていることが影響しているものと考えられる。

     Distressed at her anguish, the friar and Pietro did all they could to comfort her, but in vain. Fra Lorenzo finally said: “My daughter, what is done cannot be undone. If mourning could bring back Romeo from the grave, one and all we would dissolve ourselves in tears, that so we might succor him. But for this thing no remedy exists. “Take heart! Be comforted, and hold on to life. If you desire not to return to your home, I will fi nd shelter for you in a nunnery, where, in the service of God, you can pray for the soul of your Romeo.” However, she would on no account listen to him. Being resolved to die, she checked within her all her vital forces. Embracing Romeo once more, straightway expired. As the friars and Pietro were busied with the dead girl, believing that she had swooned, the sergeants of the watch came along.

     ロレンツォ神父は必死に説得を試み、現実を受け入れて修道院に隠 し、

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    ロミオの御魂を慰めるために祈りを捧げるようにジュリエッタに勧めるが、

    ジュリエッタから一切応答はなく、膠着状態が続く。結果として、ジュリエッ

    タはロレンツォ神父が知らないうちにロミオのそばでこと切れる。ジュリエッ

    タの死因は意図的な窒息状態である。ボエステュオーやブルックが力を入れ

    た自殺に至るまでのジュリエットの内面描写については、バンデッロが極端

    に情報を差し控えていることが分かる。こうしたバンデッロの表現の抑制は、

    自殺が公に語ることができない主題であることを暗示していると考えられる。

    [T]he burial of the two lovers took place with great pomp, amid the great grief of the whole city. The governor desired that they should be buried in the same grave, and this caused a peace to be made between the Montecchi and Capelletti, though it did not last very long.

     バンデッロの物語では、ヴェローナを挙げての盛大な葬儀の模様が描かれ、

    二人の亡骸が同じ墓に葬られたとされている。バンデッロは二人の死が、ヴェ

    ローナにつかの間の平和をもたらしただけで、抗争の抜本的な解決に至らな

    い点を強調し、自殺を正当化することは巧妙に避けている。

    5.ダ・ポルトにおけるジュリエッタの自殺について

     ルイージ・ダ・ポルトのジュリエッタはロミオが服毒自殺を計った直後に

    仮死薬の麻痺から次第に覚醒し、まだ息のあるロミオと再会するが、予想外

    の展開と現実に直面し激しく動揺する。命ある限り生き抜いてほしいという

    ロミオの訴えはむしろ逆効果で、ジュリエッタはロミオの自害を誘発した責

    任の一切を背負い込み、深く激しい愛慕ゆえに自らを憎む。ジュリエッタは

    そうした心持ちのままロミオの最期を看取り、その後を追って死ぬ覚悟を固

    めるに至る。ジュリエッタの意志は固く、修道院に入りロミオのために祈る

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    ように諭すロレンツォ神父の声にも、自殺の決意は揺るがない。ジュリエッ

    タは、自分とロミオの自殺を伏して霊廟を閉じ、もし二人の死が明るみに出

    ることがあれば、二人が同じ墓に埋葬されるように両親に取りなしてほしい

    と言い残す。ジュリエッタは死によってロミオと別たれたが、死によってあ

    の世でロミオと再会することを願って、息を止めたまま命を絶つ。やがて二

    人の遺体が発見され、ロレンツォ神父はジュリエッタの願いを実現し、両家

    は共同で二人の死の経緯を刻んだ立派な記念碑を建立し、葬儀には公爵を初

    めとする多くのヴェローナ市民が参列し、二人の亡骸は同じ墓に丁重に埋葬

    される。

    The parents commissioned a splendid monument on which was inscribed the cause of their death. The two lovers were buried amidst great pomp and solemn observance, and were followed to the grave by the Prince, their parents and all the sorrowful inhabitants.

     ダ・ポルトの描くロミオとジュリエッタの葬儀は、ヴェローナの人々を巻

    き込み、まさに平和のための犠牲として、二人の自殺は美談となる。この結

    果は、先に述べたバンデッロの描写と微妙に異なっている。バンデッロは二

    人の死がヴェローナの平和を約束するものではなく、その意味では無駄死に

    であったことを示唆するからである。ダ・ポルトとバンデッロのジュリエッ

    タは短刀という自殺の物的証拠を残さずに自殺を遂げる。その意味では、オ

    フィーリアの溺死のように疑わしき死といえる。しかし明確な自殺と判断で

    きる証拠を残さないことにより、家の名誉を傷つける事態とロミオと同じ墓

    に埋葬される希望を実現することが可能となる。そうしたことをジュリエッ

    タが配慮していたからこそ、外傷の現れない死に方を選択したのではないだ

    ろうか。ダ・ポルトのジュリエッタは自殺したロミオの遺骸が野晒しになり、

    傷つけられることを恐れ、そうした事態を避けるために、ロレンツォ神父に

    想いを託したとも考えられよう。

  • 195

     現代においては、自殺は自身に対する自発的な殺人行為を意味し、自殺の

    判断は当事者に自身を死に至らしめる意図が有るかないかで決定される。中

    世ヨーロッパにおいては、自殺を見分ける基準は首つり縄やナイフなどの自

    身を殺す手段であり、自殺の意図ではない、とする学説がある(Murray 1: 39)。この学説に沿うなら、ジュリエッタはまさに自殺の罪を免れるための

    死に方を選んだといえる。

     シェイクスピアはロミオとジュリエットが同じ墓に埋葬されることまでは

    書いていない。ただ二人の黄金の像が両家の親たちによって建立される見込

    みを述べているにすぎない。むしろ葬儀の描写については意図的に避けてい

    ると考えられる。シェイクスピアの時代においても、自殺は依然として繊細

    な問題であったことが窺える。

    6.マスッチオにおけるヒロインの自殺の扱い

     マスッチオの『物語集』は50篇からなるが、10篇ごとに 5部構成になって

    いる。マスッチオは『物語集』の第 4部の序文に “In this will be set forth divers themes; some mournful and sad, while others will be found merry and diverting.”と記していうように、第 4部は悲しい物語と楽しげな物語とが交互に配置されており、実際に第31話、第33話、第35話、第37話、第39話

    の奇数番号の話が悲しい物語に該当する。注目すべきは、 5篇の悲しい物語

    全てが悲恋ものから構成されている点である。しかもこの 5篇の悲恋もの全

    てが深い愛慕ゆえの自死というモチーフを含んでいる。以上のことから、マ

    スッチオは悲恋もののモチーフとして、恋する者の自殺を共通の要素にして

    いることが見て取れる。

     第31話は1429年頃にフランスのロレーヌ公国の首都ナンシーで起きた事と

    して伝えられる。自由恋愛を禁じる社会の慣習を背景にして、うら若き乙女

    マーティナと美青年ルイが愛し合い、やがて結婚を夢見るが、マーティナの

    父親は両家の名誉を守るために二人の結婚に反対し、一切の交際を禁じる。

  • 196

    結果として、二人は駆け落ちを余儀なくされ、嵐に見舞われ荒野をさまよい、

    たどり着いた田舎屋に助けを求めるが、その家はハンセン病患者の隔離所で、

    傭兵崩れのハンセン病患者がマーティナに邪な感情を抱き、仲間を唆しルイ

    を無慈悲にも殺害してしまう。マーティナはルイの骸を目の前に自決を覚悟

    し、暴漢に穢される前にルイの短刀で自刀を遂げる。マーティナはルイの骸

    に語りかける、

    ‘‘Before this blade, now all ready for my needs, shall enter my heart, I call upon thee, O gracious spirit of my lord, but a few short minutes ago violently torn from this maimed and tortured body here, and beg thee of thy forbearance to await my own, which will full soon gladly and willingly join itself to thee; so that, when our souls shall be burnt together in the same fi ery blast, they may be conscious of close and complete union, bound by eternal love. And although in life we have not been granted the boon to enjoy, with these our mortal bodies, our love together upon earth during the time allotted to us, and to give an example of perfect love, I pray that in eternity our spirits may be united,…”

     マーティナは煉獄の業火で焼かれ、罪を浄化されたのちに天上の国でルイ

    と結ばれることを願って自害する。マーティナは短刀の切っ先を自身の胸に

    押し当てて、愛するルイを抱きしめながら死に至る。これはマーティナが愛

    の強さにより、死の恐怖を乗り越えるという象徴的な設定といえる。聖アウ

    グスチヌスは『神の国』で、ルクレチアが肉体的恥辱に耐えられずに自害す

    ることを、物質主義的な心の弱さに起因するものとしているが、それと比較

    すると、マーティナの自殺の動機はルイへの深く激しい愛慕であり、天国で

    ルイと結ばれることを望んだためと考えられる。マーティナの決意は、物質

    世界への決別とも解せるので、ルクレチアの自殺とは本質的に異なるといえ

  • 197

    る。結果として、マーティナとルイの亡骸は捜索隊により発見され、その亡

    骸はナンシーに運び込まれ、全市民が喪に服すなか二人の亡骸は同じ墓に葬

    られる。マーティナは自殺者でありながら、ルイの亡骸と同様に国葬に近い

    扱いを受ける。後追い自殺というモチーフや自殺者への寛容さという第31話

    の要素は、ダ・ポルトがロミオとジュリエッタの物語として再構成する際に

    取り込まれた要素と考えられる。

     第35話は最近黒死病に見舞われたペルージャで起きた悲劇として伝えられ

    る。ヒロインのエウジェーニャは騎士ヴィルジーニョと恋に落ち、やがて未

    婚のままヴィルジーニョの子を宿す。エウジェーニャは臨月を迎える前に、

    家族を欺いて、黒死病のどさくさに紛れてヴィルジーニョと駆け落ちするが、

    幼児は生まれて間もなく死亡する。一行はその喪失感が癒えないうちに道中

    ならず者に襲われ、ヴィルジーニョは背後から槍で突かれて致命傷を負う。

    エウジェーニャはヴィルジーニョを刺し貫いた長槍の刃に身を投じ、ヴィル

    ジーニョを抱きしめながら死に臨む。こうしてエウジェーニャは「あの世の

    暗黒の王国」でヴィルジーニョと永遠に結ばれることを夢見ながら息絶える。

    マスッチオは二人の末路を次のように描いている、

    [T]hey tenderly embraced one another and breathed their last at the same moment, their wretched bodies lying where they died without burial, and their bare bones giving to posterity a manifest sign of the bloody death they died.

     エウジェーニャとヴィルジーニョの亡骸は遺棄され、白骨化し、後世の人々

    に二人の惨たらしい死を物語る。しかし、白骨化してなお抱き合う屍は、二

    人の深い愛の証しともなっている。それは死をも恐れない愛の絆である。二

    人は無縁仏となるが、それは同時に、あらゆる社会的束縛から解放された個

    の意志の象徴でもある。

     第37話は自分への求婚の権利を得るために、命を懸けて決闘して、共に討

  • 198

    ち死にした二人の騎士を悼み、自責の念から、発作的に投身自殺した乙女イー

    ポリータについて描いている。注目すべきは、イーポリータの亡骸の扱いで

    ある。

    How many and how profound were the tears and the lamentations of the great lords and of the other nobles and of the people, of the citizens of the state and of strangers as well, it would be long to tell. Nevertheless, according to the will of the Signor Malatesta, the two bodies of the ill-starred lovers, with that of the damsel between them, were buried in a noble marble tomb upon which the occasion of their deaths was written in an inscription to their memory.

     亡くなった 3人は、ファーノの貴族から平民に至るまで市民に悼まれ、イー

    ポリータは二人の騎士の亡骸に挟まれて同じ大理石の墓に埋葬され、死の顛

    末を墓碑銘として刻まれるという結末である。これは第31話の自殺したマー

    ティナの扱いに似ているが、死の顛末を墓碑銘により後世に伝えるという着

    想がさらに加わっており、この着想はダ・ポルトの物語にも取り入れられて

    いると考えられる。

     第39話には、恋人ジョアンニを絞首刑により失った奴隷スザンナが絶望し

    て自害する結末が描かれている。マスッチオは、第 4部の奇数番号の話で共

    通した話題として、悲恋と自殺という要素を用いているが、既に触れたよう

    に、ダ・ポルトの物語はマスッチオの『物語集』の第33話のみならず、自殺

    者の処遇の点において第31話と第37話の要素を材源にしている可能性があ

    る。殊に、第31話のマーティナの語りは、ジュリエットの霊廟シーンを彷彿

    とさせる描写といえる。マスッチオが扱う自殺はすべて女性の後追い自殺で

    あり、このことから判断してマスッチオが女性中心に物語を組み立てている

    ことが分かるが、ヒロインの後追い自殺は、ダ・ポルトがジュリエッタを造

    形するときに取り込まれた要素と考えられよう。

  • 199

     最後に、ダ・ポルトの話の原型と考えられるマスッチオの『物語集』の第

    33話について触れてみたい。第33話の結末は以下のように描写されている。

    The poor maiden decided secretly to shut herself up in a pious convent, and there bitterly weep over her misfortunes, the death of her lover, and her own misery as long as she lived. This she very cautiously did and completely carried out her intention. She let no one know but the abbess. With intense grief and tears of blood and little food and no sleep, continually calling for her dear Mariotto, in a very short time ended her wretched days.

     ジュリエットの原型と考えられるジアノッツァは修道院に身を隠し、斬首

    刑になった夫マリオットを思って、悲嘆の末に絶命する。中世において自殺

    は忌むべきものとされており、自殺者の存在隠蔽のため、しばしば「悲嘆に

    暮れて」という表現が用いられることがある(Murray 1: 35)。もしそうした考え方に沿うなら、ジアノッツァの死因は絶食であり、絶食が意図的な行

    為なら、ジアノッツァの行為は自殺行為の一種といえる。しかしジアノッツァ

    の衰弱死が不審死か、自然死か、その真相は藪の中である。ジアノッツァの

    死はオフィーリアの溺死と同様に疑わしい。ジアノッツァの死を巡る曖昧性

    は、中世ヨーロッパの自殺者の処遇が影響しているものと考えられる。

     中世において自殺は、殺人と同様に重罪であった。自殺者は葬儀もあげら

    れず、そればかりか、その遺体を切り刻まれて荒れ地にばら撒かれたり、再

    び木に吊され晒し者になったり、死してなお罰を受けた。注目すべきは、自

    殺者を出した家族の処遇である。自殺者の家は家財を没収され、地域社会か

    ら冷遇される。自殺者は家名に泥を塗り、家族の生活の土台を奪うことにな

    る。中世のキリスト教社会において、自殺者が出ることは、家族にとって死

    活問題なのである(Murray 2: 78)。 そうしたことを踏まえると、ジアノッツァは明確な形で自殺者になるわけ

  • 200

    にはゆかない事情がわかる。ジアノッツァは、マリオットとの自由恋愛の末

    の秘密結婚が発覚することにより、サラチーニ家とミニャネッリ家の名誉が

    傷つくことを避けるために修道院に隠 するが、亡き夫マリオットの死を嘆

    きながら断食の末に命を落とす。ジアノッツァは社会的には既に死者として

    葬られている存在で、修道院での隠 は自身の存在の隠蔽という意味合いが

    あったが、それ以上に亡き夫への執着が深く、いわば断食という形で命を絶

    つことに繋がっている。

     ここで、ジアノッツァの夫マリオットの死に目を向けると、その死因は斬

    首刑によるものであるが、これは自らの手で命を絶つ明確な自殺ではなく、

    他者の手を借りて命を絶つことを選択していることが分かる。それは妻ジア

    ノッツァが既に他界していると信じたマリオットが自ら死を望んだ結果であ

    る。マリオットもジアノッツァも自殺者と見なされないように周到な計画を

    立てて、それを実行したのである。二人の死は限りなく疑わしき死である。

    ひとつの動機として、二人が家名を守るために仕組んだ死に方であったと考

    えられる。

     もう一つの理由は、キリスト教徒として自殺という大罪を回避するためで

    はないだろうか。聖アウグスチヌスは『神の国』の第 1巻16章から27章にお

    いて、ルクレチアの自殺に触れて、自殺は自らに対する殺生で十戒に背く行

    為であり、心の弱さに起因するものと判断している。聖アウグスチヌスの考

    え方は中世カトリック教会の自殺に対する姿勢に大きく影響しているものと

    考えられている。聖アウグスチヌスはルクレチアが肉体を穢されたことに抗

    議して自殺したことについて、肉体を穢されても、心の純潔は穢されないと

    の見方を示し、精神世界の重要性を説いている。

     マスッチオは二人の亡骸がどのように扱われたのか明言していない。マリ

    オットは殺人を犯した重罪人なので、その亡骸は野に晒されうち捨てられた

    かもしれない。ジアノッツァの亡骸はどうなったのだろうか。マスッチオが

    あえて二人の亡骸の末路を示さなかったとするなら、愛に殉じたジアノッ

    ツァとマリオットの天上での再会を祈っているからではないか。もしそうな

  • 201

    ら、それは聖アウグスチヌスが『神の国』で述べている精神世界の重視の考

    え方に同調する態度ではないか。

     マスッチオはジアノッツァが身を寄せる修道院について明示していない

    が、シエナには聖カテリーナのサンクチュアリ・ハウス(Santuario Casa di Santa Caterina)と呼ばれる聖ドメニコ修道院の施設がある。聖カテリーナは1461年 6 月29日にシエナのピコローミニ家が輩出した教皇ピウス 2世によ

    り聖人に列せられ(Ady 261)、シエナのコミューンは市民の要請に応じて1464年に聖カテリーナの生家を取得し、サンクチュアリ・ハウスにした

    (Moerer 10; Noff ke 157)。第33話はピウス 2世の甥でアマルフィ公のアントーニオ・ピコローミニに捧げられているが、1461年はアントーニオ・ピコ

    ローミニがナポリ国王の娘と結婚してアマルフィ公に任命された記念すべき

    年でもあり(Ady 188)、聖カテリーナのサンクチュアリ・ハウスへの間接的言及は作品の背景としても、創作の動機としても十分に考えられることで

    ある。以上のことから判断して、第33話は少なくとも1461年以降に書かれた

    ことになり、さらにマスッチオがサンクチュアリ・ハウスを念頭に置いてい

    るとすれば、第33話の執筆年代は1464年以降と推定される。

     聖カテリーナは精神修養の一環として、睡眠時間を削り、人生の大半を断

    食したことでも知られており(Raymond 35)、いわばジアノッツァは聖カテリーナの苦行をなぞっていることになる。加えて、聖カテリーナはピコロー

    ミニ家とサラチーニ家と接点がある。生前の聖カテリーナの熱心な信奉者で

    あり、聖カテリーナの最期を看取った未亡人アレッサ・サラチーニ(Gardner 350)と弟子のガブリエッレ・ピコローミニ(Gardner 89)である。アレッサ・サラチーニは“the fi rst in perfection and Catherine’s most faithful imitator”(Gardner 52)とされており、マスッチオはそうした事情を踏まえて、サラチーニ家のジアノッツァに聖カテリーナの面影を偲ばせ、愛の殉教者として

    の姿を読者に印象づけているとも考えられる。つまりマスッチオはジアノッ

    ツァの愛ゆえの自死を肯定し、賛美しているとの見方ができる。そうした考

    え方に沿うなら、マスッチオのジアノッザの自死への態度は、ダ・ポルトに

  • 202

    よって引き継がれ、バンデッロで消極的に描かれながらも、奇しくもボエス

    テュオーの脚色によって復活し、ブルックを経て、シェイクスピアへと脈々

    と受け継がれていることになろう。

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