浜田沖人工礁漁場効果調査...@sookl以上 199-lca @g9~sos11 49-a.lkl 三隅町...

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浜田沖人工礁漁場効果調査 沖野 平成8年の島根県の漁獲量を魚種別にみるとイカ類9、550トン、タイ類1、722トン、マグロ、ブリ類4、043 トン、ヒラメ284トン√アマダイ類251トンとなっている。これらは総漁獲量のわずかに7.3%であるが、 漁獲金額では31.9%を占めており、いずれも沿岸漁業の重要魚種となっている。重要資源の維持・増大を目 的として、昭和29年から浜田市及び三隅町沖合の水深20~100mの海域では漁場造成が行われてきた。これ までに、浅海漁場開発事業、並型漁礁設置事業(昭和29年~)、沿岸漁業振興事業(昭和34年~)、魚礁設置事 業、大型魚礁設置事業(昭和38年~)、沿岸漁業構造改善事業(昭和39年~)、漁場改良造成事業(昭和47年 ~)、人工礁漁場造成事業(昭和56年~)等の各事業により、延べ115、167空m3もの人工魚礁が設置され、平 成元年からは新たに浮魚礁漁場開発システム検討調査事業が導入されている。 この調査は当海域における人工魚礁の利用状況、漁獲の実態等を明らかにし、人工魚礁漁場の効果を把 握するためのものである。 調査方法 浜田市漁協は浜田、長浜、津摩、国分の4地区からなり、浜田、国分地区ではイカ釣、長浜地区では一本 釣、津摩地区では一本釣と延縄が主体となっている。平成9年度調査では標本船として浜田市漁協所属の 釣漁業者248人の中から漁業者41人を選定し漁獲統計調査を行い、そのうち18名には標本船野帳を配布し た。野帳は図1のように調査区域を273区域に区切り日々の操業場所について記入してもらった。野帳回 収後、魚種別、漁区別の漁獲量について整理した。調査の対象魚種はイカ類(スルメイカ、ケンサキイカ、ヤ リイカ等)、タイ類(マダイ、チダイ、キダイ)、ブリ類(ブリ、ヒラマサ等)、ヒラメ、アマダイ、その他魚類 の6種類に分類して実施した。 (ここ)天然礁 lii{{り人工磋 大壁礁 ●並型礁 4沈船 aその他 三隅町 図1 調査区域 -122- 5km i j\

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Page 1: 浜田沖人工礁漁場効果調査...@sookl以上 199-lca @g9~sos11 49-a.lkl 三隅町 《その他》 O S II自I | @so 以上 49_9でookl@1・l-sail 4自~0.1k・

浜田沖人工礁漁場効果調査

                     沖野 晃

 平成8年の島根県の漁獲量を魚種別にみるとイカ類9、550トン、タイ類1、722トン、マグロ、ブリ類4、043

トン、ヒラメ284トン√アマダイ類251トンとなっている。これらは総漁獲量のわずかに7.3%であるが、

漁獲金額では31.9%を占めており、いずれも沿岸漁業の重要魚種となっている。重要資源の維持・増大を目

的として、昭和29年から浜田市及び三隅町沖合の水深20~100mの海域では漁場造成が行われてきた。これ

までに、浅海漁場開発事業、並型漁礁設置事業(昭和29年~)、沿岸漁業振興事業(昭和34年~)、魚礁設置事

業、大型魚礁設置事業(昭和38年~)、沿岸漁業構造改善事業(昭和39年~)、漁場改良造成事業(昭和47年

~)、人工礁漁場造成事業(昭和56年~)等の各事業により、延べ115、167空m3もの人工魚礁が設置され、平

成元年からは新たに浮魚礁漁場開発システム検討調査事業が導入されている。

 この調査は当海域における人工魚礁の利用状況、漁獲の実態等を明らかにし、人工魚礁漁場の効果を把

握するためのものである。

調査方法

 浜田市漁協は浜田、長浜、津摩、国分の4地区からなり、浜田、国分地区ではイカ釣、長浜地区では一本

釣、津摩地区では一本釣と延縄が主体となっている。平成9年度調査では標本船として浜田市漁協所属の

釣漁業者248人の中から漁業者41人を選定し漁獲統計調査を行い、そのうち18名には標本船野帳を配布し

た。野帳は図1のように調査区域を273区域に区切り日々の操業場所について記入してもらった。野帳回

収後、魚種別、漁区別の漁獲量について整理した。調査の対象魚種はイカ類(スルメイカ、ケンサキイカ、ヤ

リイカ等)、タイ類(マダイ、チダイ、キダイ)、ブリ類(ブリ、ヒラマサ等)、ヒラメ、アマダイ、その他魚類

の6種類に分類して実施した。

(ここ)天然礁

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三隅町

図1 調査区域

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調査結果

 浜田地区の概要

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       図2 釣、縄漁業従事者数と年齢組成

 図2に浜田市漁協の釣漁業者数と年齢構成を示す。釣漁業者の平均年齢は平成9年で63.9歳で、5年前

の平成4年と比較すると2.1歳上回っているのがわかる。

 図3に浜田市漁協の貝・藻類を除いた釣漁業の年度別漁獲量と漁獲金額を示す。平成9年度は漁獲量

(426.5t)、漁獲金額(4.09億円)とも減少した。これは昭和61年来過去最低である。昨年と比較すると特

にブリ類の減少が大きかった。

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図3 浜田市漁協の釣漁業の漁獲量と漁獲金額

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(年度)

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標本船調査結果

・操業状況

 地区別の漁区ごとの操業日数を図4に示す。標本船の操業場所は、地区ごとに異なっている。イカ釣を

主体とする浜田地区は魚礁のない区域、沈船、人工礁での操業が多い。長浜地区は1本釣漁業を主に行っ

ており、天然礁、魚礁のない区域、沈船での操業が多い。津摩地区は延縄漁業が盛んで、調査区域外や

100m以深の魚礁のない場所での操業が多い。延縄は、春先には水深40m以浅の天然礁や並型礁周辺で操

業を行なうが6月頃からは水深100m以深のアマダイの漁場へ移動するため殆ど魚礁を利用しなくなる。

また、延縄の年間の一人当たりの平均操業日数は147日となっており、これは他地区の操業日数の約1.5倍

となっている。                《浜田》

三隅町

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三隅町

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三隅町

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図4 地区別、漁区ごとの操業日数

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・魚種別、魚礁種類別の漁獲量と漁区ごとの漁獲量

 図5-1、2に魚種別に、1 km2当りの魚礁種類別の漁獲量と漁区ごとの漁獲量を示す。但し各魚礁は

人工礁漁区(ピラミッド200A型、ポリコン164B型、2m角型;人工礁漁場造成事業により整備されたも

の)、大型礁漁区(キョクトウリーフA型、ピラミッド150B 型、1.3~2m角型)、並型礁漁区(1~1.5m

角型)、沈船漁区、その他の魚礁漁区(タイヤ礁、ドルフィン、バス、産卵礁、浮魚礁)、魚礁の無い漁区

の7種類の漁区に分類して整理した。

 各魚種とも全体的に調査区域内の東側の漁場がよく利用されているようにみうけられるが、これは標本

船が浜田市の漁業者だけで、三隅町の漁業者が含まれていないことが主な原因と考えられる。

 それぞれの魚種について上位3つの魚礁区をみると次の魚礁区順で漁獲量が多くなっている。

 イカ類:その他の魚礁、沈船、並型礁

 タイ類:沈船、大型礁、天然礁

 ブリ類:天然礁、人工礁、沈船

 ヒラメ:沈船、天然礁、大型礁

 アマダイ:大型礁、沈船、その他の魚礁

 その他:沈船、人工礁、大型礁

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図5-1 魚種別、魚礁種類別漁獲量(1 km2あたり)と漁区ごとの漁獲量(1 km2あたり)

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因5-2 魚種別、魚礁種類別漁獲量(1 km2あたり)と漁区ごとの漁獲量(1 km2あたり)

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・魚種別、魚礁別の漁獲金額と漁区ごとの漁獲金額

 図6に1 km2当りの魚礁種類別の漁獲金額と漁区ごとの漁獲金額を示す。

 調査区域内の年間平均漁獲金額は1 km2当り約15.3万円となっており、人工魚礁のある漁区はいずれも

これを上回っている。漁獲金額が最も高かったのは沈船(57.3万円)で、次が天然礁(33、7万円)、その他

の礁(30.5万円)、大型礁(29.0万円)、人工礁(28.0万円)、並型礁(15.9万円)、礁なし(5.5万円)の順とな

っている。

 漁区ごとの漁獲金額をみるとほとんど漁場として利用されず生産金額の上がっていない場所から、1 km2

当り100万円をこえる好漁場もある。

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三隅町

図6 魚礁別の漁獲金額(1 km2あたり)と漁区ごとの漁獲金額(1 km2あたり)

浜田市

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考察

 各種魚礁における漁獲量、漁獲金額は魚種によって異なっており、魚種の習性や魚礁の規模、形状、設

置水深等が漁獲量に影響しているものと思われる。魚礁と魚種の関係は単純ではないが、平成9年度の当

地区の調査では天然礁、礁のない区域、沈船での漁獲量が多い。

 当海域における浜田市漁協各地区の漁業実態をみると、漁法及び対象魚種毎に各魚礁の利用状況は異な

っており、それぞれの魚種の習性や、魚礁の規模、設置水深等に複雑に左右されていることがうかがえる。

また、平成7年度の調査でみられたスルメイカの大幅な減少による人工礁漁区でのイカ類の漁獲量の減少

や、平成8年度のケンサキイカの増加による沈船漁区でのイカ類の漁獲量の増加ように;年々の漁獲対象

生物の変化が人工魚礁の効果の違いとなることが考えられる。

 平成8年度の全県対象とした調査では、ブリ類のように天然礁での漁獲割合が高いといった当調査区域

と同様な結果と、タイ類やヒラメなどは並型礁での漁獲割合が高いという異なった報告もある。また、人

工魚礁利用状況についても海域ごとの差が大きく、隠岐海域などの優良な天然礁に恵まれている地区は人

工礁魚礁への出漁割合が低いという報告もなされている。このことは単純にこの魚種ならばこの魚礁とい

うような決定はできず、それぞれの海域や地域の漁法にあった魚礁の設置が必要であることをうかがわせ

ている。

 浜田市漁協の釣漁業の漁船規模はいずれも10トン未満で、全体の約70%が3トン未満の小型漁船である。

また漁業者の年令構成も年々高齢化しているのが現状である(図2)。このような状況の中で、港から比

-127

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較的近く、好漁場が形成されている人工魚礁漁場の役割は、非常に大きいといえる。

 この調査では、3地区から選ばれた沿岸漁業者による個別の調査から人工魚礁の利用状況を推察してい

る。このため地区全体の実態を必ずしも反映しているとはいえないが概括的な人工魚礁の効果の判断材料

にはなり得る。

 また、今後調査結果を漁獲の向上や操業の効率化に結びつけるために、調査結果をデータベース化し、

漁業者が直接利用できるシステムの構築についても検討する必要があろう。

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