「前立腺がん」最前線 - yobouigaku-kanagawa.or.jp ·...

昭和50年4月24日  第三種郵便物認可 「健康かながわ」の購読料については、 健康診断の料金に含まれています。 毎月1回15日発行(1部90円) 平成27年2月15日 第563号 公益財団法人 神奈川県予防医学協会 予防医学事業中央会神奈川県支部 全国労働衛生団体連合会会員 編集・発行人=土屋尚 発行所=〒231−0021横浜市中区日本大通58 日本大通ビル 045(641)8501(代表) http://www.yobouigaku - kanagawa.or.jp 肺がん 死亡数 大腸がん 胃がん すい臓がん 肝臓がん 前立腺がん 罹患数 2000 0 500 1000 1500 2000 2500 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 2005 2009 2000 2005 2009 内分泌療法併用放射線療法  密封小線源療法 強度変調治療 重粒子線、陽子線 手術療法 拡大開腹手術 無治療経過観察 内分泌療法 化学療法、その他の治療 手術療法 開腹手術 腹腔鏡手術 ロボティック手術 低リスク T1~2a And GS<6 And PSA<10 中リスク T2b~2c or GS7 or PSA<10 高リスク T3a or GS8~10 or PSA>20 超高リスク T3b~4N0M0 Any/TN1M0 放射線療法 密封小線源療法 強度変調治療 重粒子線、陽子線 再発•再燃 尿◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ 4 7 5 100尿尿PSAPSA70 PSA便50 40 PSA64 3.0 ng /65 70 3.5 ng /70 4.0 ng /PSA1.1 ng /1.0 ng /3 PSA2003PSAPSA1 2 2 5 11 40 PSAMRIPSA10 ng /尿尿調IMRT75 ®®®®®®2 ー検診から治療までー ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ ◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊ 医療統計で医療を見る 米山 公啓 (医師) 「前立腺がん」最前線 「前立腺がん」最前線 2 3 30 30 MRI退10 25 15 20 15 10 男性がんの罹患数と死亡数(神奈川県) 病期診断と標準的治療法

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Page 1: 「前立腺がん」最前線 - yobouigaku-kanagawa.or.jp · まる限局がんでは、初に発生した臓器に留の1つです。しかし最の到来で増加するがん 5

昭和50年4月24日  第三種郵便物認可「健康かながわ」の購読料については、健康診断の料金に含まれています。毎月1回15日発行(1部90円)平成27年2月15日

第563号

公益財団法人 神奈川県予防医学協会予防医学事業中央会神奈川県支部全国労働衛生団体連合会会員

編集・発行人=土屋尚発行所=〒231−0021横浜市中区日本大通58  日本大通ビル 045(641)8501(代表)http://www.yobouigaku-kanagawa.or.jp

肺がん

死亡数

大腸がん胃がんすい臓がん

肝臓がん前立腺がん

罹患数

20000

500

1000

1500

2000

2500

4500

4000

3500

3000

2500

2000

1500

1000

500

0

2005 2009

2000 2005 2009 年

内分泌療法併用放射線療法     密封小線源療法    強度変調治療    重粒子線、陽子線

手術療法 拡大開腹手術

無治療経過観察

限局がん

局所進行がん

転移がん

内分泌療法 化学療法、その他の治療

手術療法 開腹手術     腹腔鏡手術     ロボティック手術

低リスクT1~2aAnd GS<6And PSA<10

中リスクT2b~2cor GS7or PSA<10

高リスクT3aor GS8~10or PSA>20

超高リスクT3b~4N0M0

Any/TN1M0

放射線療法 密封小線源療法      強度変調治療      重粒子線、陽子線

再発•再燃

 超高齢社会となり、高齢者の健康課題の1つとして、がんとどの

ように付き合っていくのかがあげられている。特に男性の前立腺が

んは高齢化に伴って増加しており、その推移が注目されている。今

月号では、神奈川県立がんセンター泌尿器科で、長年、前立腺がん

治療に携わってきた、当協会がん予防医療部の三浦猛部長に、検診

から治療まで最近の前立腺がんの動向について解説してもらった。

超高齢社会では

がんと上手に付き合う

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前立腺がんの    

現状と特徴

 

神奈川県の統計で、

前立腺がんは、男性の

罹患数で、大腸、胃、

肺についで第4位。死

亡数では、肺、胃、大腸、

肝、膵、食道についで

第7位と、超高齢社会

の到来で増加するがん

の1つです。しかし最

初に発生した臓器に留

まる限局がんでは、5

年相対生存率が100

%と治療成績が良好な

がんでもあります。

 

年をとると、頻尿や

排尿障害など前立腺肥

大症による症状が出る

ことがあります。前立

腺がんの腫瘍マーカー

であるPSA(前立腺

特異抗原)値が前立腺

がんと同様に上昇する

ので、がんとの区別が必

要です。前立腺がんの

場合は、同様の症状が出

てから診断されると手

遅れのことがあります。

PSA検査とは

 

がんの特徴として

「浸潤」「転移」「再発」

があり、前立腺がんで

もがんと診断された時

点で70%に目に見えな

い転移があると推測さ

れ、早期発見が大変重

要です。PSA検査は、

採血という簡便な検査

法で、住民検診では50

歳から、人間ドックで

は40歳からの検査が推

奨されています。

 

PSA基準値は、64

歳以下は3.0

ng/㎖、65歳

〜70歳は3.5

ng/㎖、70歳

以上は4.0

ng/㎖、PSA

基準値が1.1 ng/㎖以上

では毎年、1.0

ng/㎖以

下では3年ごとの受診

間隔が推奨されていま

す。PSA検査値を低

下させる薬剤として、

前立腺肥大症の薬(プ

ロスタール、アボルブ

など)や男性型脱毛症

の薬(プロベシア)な

どがあり、注意が必要

です。

前立腺がん検診の�

すすめ

 

前立腺がんの罹患数

は、2003年より急

上昇しています(図)。

これは横浜市での

PSA検診の普及と一

致しており、また

PSA検査導入後に転

移がんの割合が減少

し、死亡率の低下に影

響していると考えられ

ています。

 

また父親や兄弟に1

人前立腺がん患者がい

ると前立腺がんのリス

クが2倍、2人以上で

5〜11倍といわれてお

り、40歳からのPSA

検診(健診)が勧めら

れています。

 

精密検査としては、

直腸診、MRI検査、

超音波検査などが行わ

れ、確定診断として、

前立腺針生検が行われ

ます。病理検査の結果

から、悪性度(グリソ

ンスコア)診断と陽性

の本数、部位から病期

分類、リスク分類が行

われます。病期診断で

は、限局がん(低、中

リスク)、局所進行が

ん(高、超高リスク)、

転移がんに大きく分類

され、それぞれ標準的

治療方針が決められて

います。

前立腺がんの治療法

 

治療法は、大きく無

治療経過観察、手術療

法、放射線療法、内分

泌療法、その他に分類

されます(表)。

①無治療経過観察:限

局がん、グリソンスコ

ア6以下、PSA10

ng /㎖以下の低リスク

が対象です。問題点と

して初回診断時の過小

評価のため、がんが予

想以上に早く進行する

危険と患者自身の精神

的不安があげられます。

②手術療法:限局がん

で、低・中リスクが対

象です。手術手技とし

て、開腹手術、小切開

手術、腹腔鏡手術そし

てロボット支援腹腔鏡

下手術などがありま

す。根治可能な治療法

ですが、合併症として

は、術中出血、直腸損

傷、尿失禁、尿道狭窄、

勃起障害などがありま

す。

③放射線療法:単独治

療としては、手術療法

と同じ適応で、密封小

線源療法、強度変調放

射線療法(IMRT)、

重粒子線、陽子線治療

があり、局所進行がん

に対して、内分泌療法

併用放射線治療があり

ます。

④内分泌療法:すべて

の前立腺がんに適応が

ありますが、現時点で

は、局所進行がんの放

射線併用療法、転移が

んそして75歳以上の高

齢者により適応がある

と考えられています。

副作用として、肝機能

障害、ホットフラッ

シュ、女性化乳房など

があげられます。

⑤その他:主に転移が

ん、再発がんで内分泌

療法抵抗性の前立腺が

んの場合、新規内分泌

療法(イクスタンジ®、

アビラテロン®)、免

疫療法、遺伝子治療、

抗がん剤治療(ドセタ

キセル®、カバジタキ

セル®)、骨転移治療

薬(ゾメタ®、ランマー

ク®)などがあります。

それぞれに特徴的な副

作用があり、効果は疼

痛緩和と延命効果で2

年が限界です。

前立腺がん治療の�

基本的な考え方

 

限局がんでは、どの

ような治療法を選択し

ても根治可能あるいは

がん死する可能性が低

く、患者の希望、年齢、

合併症の有無、社会的

背景が重要な決定要素

となります。医療者側

は患者・家族に治療法

ー検診から治療までー

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医療統計で医療を見る

米山 公啓 (医師)

「前立腺がん」最前線「前立腺がん」最前線

に関する充分な情報提

示を行い、患者側も国

立がん研究センターの

「がん情報サービス」、

専門書、セカンドオピ

ニオンなどを有効に活

用して自分の病期、標

準的治療法とその長

所、短所を良く理解し

た上で、自分にあった

治療法を主治医、かか

りつけ医と共に決定し

ていく必要があります。

 

がんとうまく付き合

うつもりで、仕事や社

会生活をできるだけ続

けていきましょう。前

立腺がんといえども、

局所進行がん以上で

は、将来治療抵抗性と

なり、命に関わる可能

性があります。早めに

緩和の医療を受け、主

治医に見通しを確認し

つつ、残り2年、半年、

3ヵ月の時点で終末期

医療の選択を考慮する

必要があります。自分

の残された時間を考

え、人生でやり残した

ことがないよう、一日

一日を大切に過ごしま

しょう。

医療統計から見ると、文句ばかり

いわれている日本の医療だが、世界

一の部分もある。

 

脳梗塞入院30日以内院内死亡率

は、世界で一番低い。それだけ救急

医療が脳梗塞にはうまく対応してい

るのだろう。しかし、心筋梗塞の入

院30日以内院内死亡率は、先進国の

中では一番高い。ハートセンターな

どが十分ではないのだろうか。

MRIは人口100万人当たりでみ

ると世界で一番多い。そのあたりが、

脳梗塞死亡率を下げている原因なの

かもしれない。

 

医療施設へ通院している認知症の

患者さんが増えていると思いがちだ

が、通院している認知症患者数はこ

こ数年ではむしろ頭打ちの状態であ

る。これは介護施設などへの入所の

患者さんがカウントされていないの

で実態がわかりにくいためかもしれ

ない。確かに外来診療をしていても、

そんなに認知症の患者さんが増えて

いる実感はない。

 

がんの死亡退院率は肺がん、胃が

んでは、ここ10年くらいでそれぞれ

25%から15%、20%から15%へかな

り減少している。明らかにがん治療

が進んでいることがわかる。一時騒

がれたメタボは10%減少をめざした

が、1%くらいしか減少していない

ので、今の特定健診のやり方では、

ほとんど意味がないといっていいの

ではないだろうか。

 

医療に対してどうも感情的な判断

をしてしまう傾向があるが、統計的

に見ていくと、日本の医療は改善さ

れているところも多く、評価すべき

ところも十分にある。一方ではまだ

まだ無駄も多い。

男性がんの罹患数と死亡数(神奈川県)

病期診断と標準的治療法