地方創生に向けた地域経済の底上げと 中小 ...€¦ ·...
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平成 28年 11月
広島県商工会議所連合会
中小・小規模企業と地域の成長実現に
関する決議
地方創生に向けた地域経済の底上げと
中小企業の経営力強化に関する決議
広 島 商 工 会 議 所
1
要 望
わが国経済は一進一退の状況にあり、持続的な成長軌道に乗せるためには、潜在成長率
を引き上げるサプライサイド政策(成長戦略)の実行が鍵となる。一方、人口減少による
人手不足、地域経済の疲弊という構造的課題の克服には、国全体で、生産性の向上、地方
創生に取り組む必要がある。特に、雇用の 7割を担い、付加価値の 5割を生む中小企業の
生産性向上・経営力向上の取り組みを後押しすることは、持続的な成長と地方創生におい
て極めて重要である。
また、地域の活性化を図るためには、地域資源を発掘し、磨き上げ、組み合わせること
で、地域に新たな産業や事業を起こす「地域の付加価値創造」に取り組む必要がある。
そのためには、地域の力を結集し、地域資源を活用した新商品・サービス開発から販路
開拓、地域ブランド化に至るまで一貫した支援体制を構築するとともに、地域の価値を高
めるまちづくりの推進、人流・物流を促進する産業インフラの整備に力を注がなければな
らない。
以上のような観点に立ち、政策の実現にあたっては、3つの柱からなる施策を推進して
いただくことを強く要望する。
Ⅰ.中小・小規模企業の生産性向上・経営力強化
1.中小・小規模企業の業務効率化や販路開拓に向けたIT等の活用促進
労働力人口の減少を背景とする人手不足、既存商圏の需要縮小を克服するため、ITを
導入・活用し、業務の効率化や新たな販路開拓に取り組み、生産性を向上させることが必
要である。
これまでITになじみの薄かった中小・小規模企業が導入し活用するには、自らITに
よる生産性向上の効果に気づき、実感する機会が必要である。このため、導入の効果やコ
ストの目安がわかる手引きや事例集等による周知・啓発、ITセミナー・相談会等の開催、
導入・活用を促す支援策の拡充などが求められ、加えて、情報セキュリティ対策の推進も
重要である。
また、ものづくり企業の現場におけるカイゼン・5S(品質・生産管理)などの経営支
援と一体でロボット・IoT等の導入を支援する「スマートものづくり応援隊」の取り組
みを推進すべきである。
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(1)ITの効果や必要性を実感できる機会の創出と導入・活用に向けた支援
①IT導入の効果やコストの目安がわかる手引き・事例集の作成・配布、ITの効果的
な活用に取り組む中小企業経営者の事例発表・フォーラム等による周知・啓発、情報
発信
②タブレット等の機器やクラウドサービスをデモ体験できる展示会・見本市と一体とな
ったITセミナー・個別相談会の実施
③インターネットモールなどITを活用した販路開拓・拡大の取り組みへの支援、イン
バウンド需要獲得のためのHP等の多言語化等の取り組みへの支援
④IT専門家による「1万社支援計画」の実行、および意欲のある中小企業を幅広く支
援するための専門家派遣事業の大幅拡充ならびにIT専門家の育成推進
(2)情報セキュリティ対策の啓発強化
①ITセミナー、展示会・見本市等での情報セキュリティ対策の啓発、中小・小規模企
業が低費用負担で加入できる情報セキュリティ保険の普及
②情報セキュリティ対策ソフトの導入費用の補助制度の創設
(3)5S・カイゼンなど経営支援と一体でIT・IoT、ロボット等の導入を支援する
「スマートものづくり応援隊」の全国展開
①「スマートものづくり応援隊」に参画する大企業OB、地域ITベンダー等の人材の
確保・育成
②ロボット・IoT等の最新機器等を見聞できる「ショーケース」の整備
(4)「ものづくり補助金」「サポイン事業」や「小規模事業者持続化補助金」の継続・拡
充、IT等の設備投資・技術開発、活用に対する重点的な支援
①「ものづくり補助金」、「サポイン事業」、「小規模事業者持続化補助金」の継続・拡充、
およびIT等を活用した取り組みに対する重点的な支援
②「ものづくり補助金」や「小規模事業者持続化補助金」を活用し、IT等を導入・活
用した取り組み事例集の作成・周知
2.中小企業の人材確保、労働力不足問題への対応
有効求人倍率や完全失業率の推移に見られるように、わが国の雇用環境は大幅に改善し
ており、企業からは慢性的な人手不足を指摘する声が多く寄せられている。
他方、この人手不足問題は、防衛的な賃上げや社会保険料増加などのコスト増もあいま
って、中小企業の収益向上の妨げとなり、地域経済に景気回復の恩恵が及ばない一つの要
因ともなっている。このため中小企業の人材確保、従業員教育等による労働生産性向上を
支援するとともに、わが国の労働力不足に対応するため、以下を講じられたい。
①新規学卒者を対象にした、民間事業者が開催する有料の合同企業説明会等に参加する
中小企業に対する補助・助成制度の創設
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②中小企業におけるインターンシップの受入促進に向けた支援
(相談体制の構築や受入コストに対する補助制度の創設等)
③非正規労働者の職業訓練と正規雇用化に資する「ジョブ・カード制度」の一層の推進
④「キャリア形成促進助成金」等の申請手続きの簡素化
⑤最低賃金の引き上げについては、厳しい環境にある中小企業の賃金支払い能力を考慮
し慎重に判断すること
⑥「同一労働同一賃金」について、「同一労働」の定義の明確化、キャリアコースや勤続
年数の違いなどによる「不合理ではない」賃金差などを慎重に検討すること
3.創業、事業承継・引継ぎ、再生等による優れた技術・サービスの創出・事業拡大
創業者・ベンチャー企業は、新たな技術・サービスを生み出す源泉であり、わが国の成
長に不可欠な存在である。政府が掲げる「開業率 10%台」の実現に向け、予算を大幅に拡
充し、創業支援策を継続的に充実させるとともに、開業数・開業率を正確に把握すること
が必要である。
また、現在、経営者の平均年齢は約 60歳であり、特に個人事業主では 70代以上が最も
多く、約 80万人にのぼる。こうした企業が廃業に追い込まれれば、雇用はもとより、優れ
た技術・サービスやノウハウが失われ、わが国経済にとって大きな損失である。後継者あ
るいはM&A等により円滑に承継・引継ぎができるよう支援するとともに、必要に応じ、
経営改善や事業再生につなげることが重要である。
特に、事業承継後の企業や、経営者が若い企業ほど、IT導入・活用などの新たな取り
組みや、事業拡大・発展に向けた取り組みを行っていることから、事業承継の促進はわが
国全体の生産性向上・付加価値向上に寄与することが期待される。
(1)「開業率 10%台」実現に向けた創業・ベンチャー支援の継続的な充実
①「創業・第二創業補助金」、「創業支援事業者補助金」、「創業スクール事業」の継続・
拡充ならびに、「創業・第二創業補助金」の補助対象となる創業時期・第二創業時期の
拡大。「創業支援事業計画」認定制度および関連する支援策の平成 30年3月末以降の
継続(産業競争力強化法の延長)
②国の創業支援施策や各市区町村の「創業支援事業計画」の成果を正確に把握し検証す
るため、開業届・廃業届による開業数・廃業数データを開示するとともに、RESA
S(地域経済分析システム)において、商工会議所など創業支援事業者(民間機関)
も含め、市区町村単位で閲覧・活用できるようにすること
③「新創業融資制度」の要件見直し、および同制度の「女性小口創業特例」の抜本的見
直し(性別要件撤廃等)
④創業間もない中小法人の経営基盤を強化し、拡大・発展を後押しするための、創業後
5年間の法人税・社会保険料の減免措置の創設
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(2)事業承継・引継ぎ支援の充実
①事業引継ぎ支援センターの機能強化(人員増強、企業の掘り起こしに向けた金融機関・
支援機関との連携強化)
②基礎自治体と商工会議所等の支援機関、地域金融機関などが連携して事業承継・引継
ぎ等を支援する体制の構築
③創業希望者と後継者不在企業とのマッチング事業(後継者バンク)の全国展開
④事業承継計画策定支援にかかる専門家費用等に対する補助の創設
(3)経営改善・事業再生の促進に向けた環境整備
①情報開示など誠実に金融機関との対話に取り組む企業へのインセンティブ付与による、
「経営者保証に関するガイドライン」の利用推進と早期の事業再生を促進
②「ローカルベンチマーク」を活用し企業診断を行った企業への各種補助金等支援策や
融資制度による重点的な支援
③中小企業再生支援協議会による中小企業の経営改善への対応強化
(4)新事業展開等を促す金融支援
①グローバルニッチトップ企業等への政府系金融機関による融資制度について、特色あ
る製品・サービスを通じて世界に存在感を示す中小企業への対応の拡充
②地域中核企業等への政府系金融機関等による融資制度について、将来的な地域経済へ
の貢献を含めた候補企業への対応の拡充
③クラウドファンディングの推進(国や都道府県等が主体となったクラウドファンディ
ングのプラットホーム構築の促進、クラウドファンディングを活用する事業者が負担
するイニシャルコストや運営会社への手数料の補助等)
(5)セーフティネット機能の拡充と金融仲介機能の一層の強化
民間金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」に沿った融資の一層の推
進、および保証や担保に過度に依存しない融資の浸透促進
①停止条件付保証契約、または解除条件付保証契約に基づく融資
②②②ABL(動産・売掛金担保融資)
③電子記録債権(でんさい)融資
④「知財ビジネス評価書」「知的資産経営報告書」など、知的財産の適正な評価をもと
にした融資(知財金融)の拡充
(6)チャレンジする人が集まる常設の場の整備
広島県における経済・地域の持続的成長を加速させる観点から、新たな産業や雇用を
創出する持続的なイノベーション創出の取組みを強力に推進するため、企業、大学、金
融機関、行政など様々なプレーヤーが集い、協働して取り組む場の常設化を実現された
い。
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4.中小企業のTPP・EPA等活用など、海外展開支援の強化
中小企業の海外展開を促進するためには、国ごとに異なる貿易・投資手続きの簡素化や
透明性の確保などが求められるとともに、中小企業の海外展開を後押しする支援の拡充が
不可欠である。ついては、以下を講じられたい。
①中小企業の海外展開を後押しするTPP協定を早期に国会で承認し、早期発効につな
げること
②日EU・EPA、RCEP、日中韓FTAなどの広域的な経済連携をはじめ、交渉中
の二国間EPAを早期に締結すること。特に、知的財産の保護強化や投資・サービス
分野における参入障壁の撤廃、査証手続の迅速化、電子商取引に係るルール整備など、
中小企業にとって利便性の高い協定を実現すること
③各EPAの原産地規則の統一など、中小企業が利用しやすい原産地証明制度の整備
④「海外ビジネス戦略推進支援事業」の事業化可能性調査(F/S)支援事業を拡充す
るとともに、1事業年度超の調査期間を認めるなど運用改善を図ること
5.中小企業の知的財産権取得・活用・保護の支援
①国内および国際出願における特許料の減免制度について、従業員 300人以下の中小企
業は一律に料金を半減し、さらに、出願経験の乏しい中小企業については料金を 1/4
に減免するよう、制度を改善すること。また、特許料の減免制度と同様の減免制度を
実用新案・意匠・商標の各知的財産権にも導入すること
②中小企業が保有する特許の戦略的な活用に向けた民間企業によるコンサルティングの
費用について、負担軽減のため必要な支援を講じること
③模倣品・海賊版等の知的財産権侵害について、日本政府は相手国政府に対策強化を一
層働きかけること
6.生産性向上を妨げる過大な企業負担の軽減
①行政手続きの計画的な効率化、規制改革の推進
公共事業の入札手続きの短縮化、申告先が異なる税務申告手続きの簡素化、飲食店・
建設業・運輸業・古物商等の営業許可手続きの簡素化など
②安全が確認された原子力発電については、順次速やかに運転を再開し、電力コストの
軽減を図ること
③社会保障給付の重点化・効率化を図り、企業の社会保険料負担を軽減すること
④マイナンバー制度について、必要に応じガイドラインを改正するとともに、相談体制
の充実、セキュリティ対策への支援を講じること
⑤平成 29年9月までに全面施行される改正個人情報保護法について、新たに「個人情報
取扱事業者」となる個人情報数5千以下の事業者に対し、ガイドラインを策定するな
ど周知を図ること
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7.小規模企業の経営力強化を促す経営支援体制等の強化
経営資源の乏しい小規模企業の取り組みを伴走型で後押しするために、小規模支援法(商
工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律の一部を改正する法律)に基
づき、商工会議所等を中核とした支援体制と支援策を充実させることが必要である。つい
ては、以下を講じられたい。
(1)小規模企業の経営計画の策定・実行支援の充実
①商工会議所が「経営発達支援計画」に基づき実施する小規模企業の経営計画策定、販
路開拓支援事業に対する支援の拡充(「経営発達支援計画」の認定数増に応じた予算の
拡充等)
②経営改善普及事業予算の安定的な確保に向けた都道府県への強力な働きかけ
(2)マル経融資(小規模事業者経営改善資金)の一層の活用促進
①マル経融資制度の利用拡大に対応した予算枠の大幅拡充(適用利率の上昇抑制)
②現在講じられている特例措置の恒久化(融資金額 1,000万円→2,000 万円など)
③サービス業のうち、特に労働集約的な業種である介護、情報サービス業などについて
従業員5人超 20人以下へも融資対象拡大
Ⅱ.地方創生に向けた地域経済の底上げ・好循環の確立
1.地方創生の基盤となる「まち」の再生・活性化に向けた仕組みの再構築
多くの地域では、空き地・空き店舗の存在やリーダー・担い手不足が、依然としてまち
づくりの大きな課題となっている。消滅都市の発生を現実のものとしないためにも「ひと・
しごと」を支える基盤である「まち」の再生・活性化に向け、以下を講じられたい。
(1)空き地・空き店舗等の利活用促進に向けた助成と制度の見直し
①老朽店舗の解体・修復や更地化を希望する所有者への解体費用等の助成制度の創設
②商業地区における空き地・空き店舗の利活用に関する、建物改修費用の補助や固定資
産税等の減免など、不動産所有者への支援措置の創設
③空き地・空き店舗の活用による交流施設の整備やリノベーション事業等を支援する「民
間まちづくり活動促進事業」の継続・拡充
(2)まちづくり会社等の事業推進主体への支援の拡充
①不動産管理や建築、法務、金融、商業経営、エリアマネジメントなど多様な分野の専
門的な知見を有するOB人材等を組織化した人材データベースと派遣制度の構築
②事業推進組織であるまちづくり会社の活動基盤の強化(不動産取得税等の減免措置の
創設など)
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(3)「高度化事業(高度化資金)」の更なる拡充
高度経済成長期に国の高度化事業として進出が相次いだ「工業団地」「商業団地」等の
集団化団地は、現在も県内の産業基盤を支え、地域経済の重要な役割を担っている。近
年、施設の老朽化や耐震・省エネ等の環境変化への対応の遅れ等が課題となっているた
め、各都道府県の事情等により迅速な対応が困難な場合には国による融資を可能とする
等、地域ニーズに応じたリニューアル等について検討し、当事業が円滑かつ確実に運用
されるよう制度の拡充を講じられたい。
2.インバウンドの誘客力強化・国内観光の促進
観光は、地方創生の切り札となるものであり、特にインバウンドへの期待は大きい。国
と地方自治体、官と民が協力して、受入体制を早急に強化することが不可欠である。また、
インバウンドの強化は、宿泊施設の新設や更新、日本の観光資源の再発見など、国内観光
の回復にも寄与することから、インバウンドと国内観光は車の両輪として取り組むべきで
ある。ついては、以下を講じられたい。
(1)全国各地域へのインバウンド需要の呼び込み
①クルーズ船の受入拡大に向けたハード・ソフト整備の推進
②地方空港への路線拡大による訪日外国人旅行者の各地への分散に向けた、着陸料軽減
や空港からの二次交通整備等に対する支援のさらなる強化
③交通の拠点となる都市を核とした、周辺地域を含む広域観光を促進するための交通イ
ンフラ整備の促進
④宿泊施設の外国人観光客への対応を支援する「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対
策事業費補助金」の継続・拡充
⑤宿泊供給能力の拡大に向けた、改正耐震改修促進法に基づく耐震診断・改修に対する
支援(耐震対策緊急促進事業)の継続・拡充
(2)まちづくりと一体となった国内観光促進
①景観の改善・保全に向けた電線類の地中化・無電柱化の推進
②地域に眠る空き建築物の再利用を促すための、建築基準法上の規制の見直しおよび支
援策の創設
3.地域資源を活用した事業の創出・育成への支援
地方創生を具体的に進めるには、地域資源を活用した新商品・サービス開発から販路開
拓、地域ブランド化までの一貫した支援が不可欠である。地域ブランドの構築・確立・浸
透に向けた支援も重要である。ついては、以下を講じられたい。
①地域資源を活用した「ふるさと名物」の開発・販路開拓、地域ブランド化に向けた支
援(地域産業資源活用事業計画の認定促進、JAPANブランド育成支援事業等の継
続・拡充)
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②地域ブランドの構築・確立・浸透に向けた支援(地理的表示保護制度の対象となる農
産品の範囲の拡大、非農林水産品への対象拡大、地域団体商標制度の活用促進に向け、
特許料の減免制度と同様の減免制度を商標にも導入し、商工会議所等を減免措置の対
象団体とすること)
4.農林水産業の成長産業化に向けた支援
①農商工連携・6次産業化の取り組みの核となる人材の育成とネットワーク化への支援
②国産木材の高付加価値化、利用拡大に向けた施策の一層の推進
5.地域経済を牽引する中堅企業の強化
「中小企業等経営強化法」(平成 28年7月1日施行)において、「資本金 10億円以下」
または「従業員数 2,000人以下」の企業が「中堅企業」として支援対象に位置づけられた
ことを契機としつつ、中堅企業の成長を後押しすることにより、地域経済の底上げを図る。
①中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の認定を受けた中堅企業が取り組
む研究開発等に対する重点的な支援
②人材確保・育成・定着に資する雇用関係助成金(キャリア形成助成金、キャリアアッ
プ助成金)について、中堅企業に対し、中小企業並みの助成を講じること
③優れた技術・サービスを有する中堅企業を表彰し、知名度向上・人材獲得を後押しす
ること
④経営改善、事業転換・再生等の取り組みを促すための、経営のプロ人材とのマッチン
グ事業(プロフェッショナル人材事業)の推進
⑤大規模災害・経済危機など非常事態発生時における金融措置・補助施策等を中小・小
規模企業にとどまらず、中堅企業まで支援対象とする規定・仕組みの構築
6.ストック効果を重視した社会資本整備の推進
本格的な人口減少・高齢化社会においてはコンパクトシティの形成を推進するほか、経
済的・社会的波及効果が最大限見込まれるストック効果を重視した社会資本整備が求めら
れるとともに、地域公共交通の維持・再生を図る必要がある。ついては、以下を講じられ
たい。
①高規格幹線道路のミッシングリンク解消や客船用港湾の整備促進など、ストック効果
が大きい社会資本整備の促進
②地域鉄道や路線バス、コミュニティバス等の利便性向上による活性化に向けた、地域
公共交通活性化・再生法等に基づく支援の着実な実施
③大規模災害時に安全・安心の確保を担う道路や鉄道等の着実な整備
④広島空港へのアクセスの向上について
山陽自動車道は、広島市など、県内主要都市から広島空港までの主要ルートの一つ
であり、空港利用者の多くが利用している。
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しかしながら、広島空港までのアクセス時間は、山陽自動車道における事故や渋滞、
気象などに大きく影響を受けており、同ルートの利用に不安を抱く者は少なくない。
本ルートの円滑な交通は、多くの空港利用者の利便を増進するとともに、空港利用
者数の増大へとつながるものと考える。
広島市など、県内主要都市から広島空港までのアクセス性向上に資する、山陽自動
車道の円滑な交通について、必要な措置を講じられたい。
また、広島市内から広島空港へのアクセス道路の代替路線としての機能を有する、
国道2号線東広島バイパス・安芸バイパスの早期整備、広島熊野道路と黒瀬IC間を
結ぶ広島県道 34号の道路改良(広島空港リムジンバスが通過できる環境整備)、休山
新道の早期4車線化、また事故・渋滞発生時における道路利用者への速やかな情報提
供(道路情報掲示板の拡充等)について特段のご配慮を賜りたい。
Ⅲ.中小企業の税制
1.中小企業の特性に着目し、成長を後押しする税制の実現
(1)中小法人課税の見直しに対する考え方
①中小企業の特性に着目した、成長戦略と一体となった税制
現在、中小法人課税の見直しが様々な観点から検討されているが、中小企業税制は、
一律に大企業との比較やグローバル標準を適用するのは必ずしも公平ではない。中小
企業の特性に着目し、円滑な事業承継の実現、資本蓄積による財務基盤の強化、生産
性向上など、中小企業の活力を強化し、成長を後押しする観点から適切な税制を構築
すべきである。
②中小企業税制の適用範囲を示す指標について
現在まで、税法上で資本金基準が用いられた理由として、日常の企業活動では変動
せず、毎年度安定している点や、中小企業基本法において、業種別に資本金と従業員
数を基準としており、経営者にとって明確な指標であった点が挙げられる。このため
「資本金」基準は維持すべきである。
政府税制調査会等で言及があった「純資産」は過去の利益の蓄積であり、企業の単
年度の担税力を示すものではなく適切な指標とは言えない。
基準の見直しにあたっては、一部の企業のケースを取り上げて基準を設け、本来、
中小企業税制を適用すべき企業を対象から除外することがあってはならない。
(2)中小企業の生産性向上を実現する税制
①中小法人の軽減税率は税率 15%を維持したうえで延長すべき
中小法人の 800万円以下の所得に係る軽減税率は、本則 19%から 15%へ引き下げら
れている中で、本税制措置の平成 26年度の適用件数は 80万件以上に上るなど、中小
企業の財務基盤を支えている税制である。わが国経済が先行き不透明な状況にある中
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で本税制措置が延長されない場合、設備投資や従業員の賃上げに影響を及ぼしかねな
いとの声が多く寄せられていることからも、税率 15%を維持したうえで適用期限を延
長すべきである。
②中小企業投資促進税制の拡充
中小企業投資促進税制は、平成 26年度の適用件数が6万件を超え、特に上乗せ措置
である即時償却を利用する企業における設備投資額の伸び率が通常の企業に比べ約4
割高い結果となるなど、設備投資の判断の後押しや生産性向上を促す施策として極め
て重要である。中小企業の生産性向上を実現する「攻め」の設備投資を後押しする観
点から、上乗せ措置も含め延長するとともに、対象設備に建物、建物附属設備などを
追加し、税制措置の拡充を図るべきである。
(3)中小企業の経営基盤を毀損する税制措置への反対
①外形標準課税の適用拡大には反対
外形標準課税(法人事業税の付加価値割)は、「賃金への課税」が中心であり、政府
の賃金引き上げ政策に逆行する。とりわけ、地域の雇用を支える中小企業への適用拡
大は、赤字法人 172万社が増税となり、影響が甚大であるため反対である。なお、諸
外国においても賃金課税は稀な税制であり、雇用や中小企業に悪影響を与えることか
ら、近年は廃止している国が多い。
②中小企業の欠損金繰越控除の制限には反対
欠損金の繰越控除制度は、法人税負担の平準化を図るために設けられている制度で
あり、国際的に見ても、多くの国で中小企業の欠損金繰越控除に制限は設けられてい
ない。
中小企業は、損益分岐点比率が高く、景気変動等による売上の増減が直ちに収益に
直結し、赤字・黒字を繰り返している実態の中で、約 94万社の利用企業が増税になる
など、中小企業の経営の安定性を損なうことから、欠損金繰越控除の制限には反対で
ある。
③同族会社の留保金課税は廃止すべき、中小企業への拡大には反対
企業が厳しい競争を勝ち抜き成長するため、投資の源泉となる利益の蓄積と自己資
本の充実による財務基盤の強化は極めて重要である。また、中小企業の同族会社は大
企業と異なり、資金調達は金融機関からの借入金が中心で、資金繰りの悪化等により
借入が難しい場合に備え、内部留保を蓄積しておく傾向がある。自己資本の充実を抑
制し企業の成長を阻害する留保金課税の拡大には反対であり、資本金1億円超の同族
会社に対しても廃止すべきである。
④減価償却制度の定額法への統一は中小企業に多大な影響を及ぼすため反対
減価償却方法を定額法に一本化すべきとの意見があるが、中小企業は国際会計を採
用していないうえ、大多数が定率法を選択している。投資資金の早期回収が経営戦略
上不可欠である中小企業では、定額法に統一された場合、投資に対する資金回収期間
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が長くなり、キャッシュの減少が設備投資意欲を減退させることになる。そのため、
減価償却方法の定額法への統一には反対である。
2.円滑な事業承継の実現に向けた税制の見直し
①事業継続を前提とした、配当重視の評価方法への抜本的見直し
現行の取引相場のない株式の評価方法は、企業の清算を前提として評価されるため、
事業を継続し、企業価値を高めるほど、自社の株式評価が上昇することで、相続税負
担が増加するなど円滑な事業承継の大きな阻害要因となっている。非上場株式(議決
権、配当期待権、残余財産分配権)の財産価値は、主として配当期待権にあることか
ら、その評価方法は純資産評価額方式のような企業の清算を前提とした評価方法に替
え、配当還元方式を適用拡大すべきである。
②発行済議決権株式の総数等の「2/3要件」の撤廃
納税猶予の対象となる自社株式は、発行済議決権株式の 2/3までとする上限がある
が、納税猶予割合と合わせると、結果として猶予効果は半分(約 53%)にとどまり、
効果が薄い。また、猶予対象とならない 1/3の株式が分散する恐れがある。
事業承継税制の目的である、「株式の分散の防止と株式の集中による安定的な事業継
続」を促進する観点から、納税猶予の対象となる発行済議決権株式総数に係る上限は
撤廃し、全ての株式を対象とすべきである。
③相続税の納税猶予割合の 100%への引き上げ
円滑な事業承継の実現には、生前贈与による早期かつ計画的な取り組みが重要であ
るが、現行の事業承継税制では、贈与税から相続税の納税猶予に切り替える場合、猶
予割合の差分(贈与税:100%、相続税:80%)は、相続税として納税しなければなら
ない。結果的に相続税が発生する現行の仕組みでは、生前贈与に取り組むインセンテ
ィブが働かないことから、相続税の猶予割合も 100%に引き上げるべきである。
3.消費税率引き上げ延期に伴う課題
(1)平成 31年 10月の消費税率 10%への引き上げを確実に実施できる経済環境の整備
社会保障制度の持続のためには消費税率 10%への引き上げは必要であり、「人口減
少と超高齢化の加速」という構造的課題に直面する中で、少子化対策の実行のために
も、消費税の引き上げは必要である。
社会保障給付の一層の重点化・効率化を徹底するとともに、平成 31年 10月の税率
引き上げが確実に実施できるよう、経済環境の整備を進めていくことが重要である。
(2)軽減税率制度導入には反対
軽減税率制度の導入は、社会保障財源を毀損すること、中小企業に過度な事務負担
を強いることから導入すべきではなく反対である。
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(3)インボイス制度の廃止を含めた慎重な検討
インボイス制度は、すべての事業者に対して、経理・納税方法の変更を強いるもの
で広範な影響を及ぼすとともに、500万を超える免税事業者が取引から排除されるお
それがある。
このことからもインボイス制度の導入には反対であるが、少なくとも消費税率 10%
への引き上げ後は、インボイス制度導入の前に、免税事業者の課税選択の動向や取引
排除等の実態を調査・検証し、十分な期間を設けて廃止を含め慎重に検討すべきであ
る。
(4)外税表示の恒久化
商工会議所の調査結果において、消費税の転嫁ができた事業者の5割以上が「外税
取引や外税表示のため、税額分を引き上げることが可能であった」と回答するなど、
外税表示や税抜き価格の強調表示が有効な転嫁対策であったとの声が寄せられてい
る。
このため、消費者の消費税への認識を高め、円滑な価格転嫁を実現するために、外
税表示を認める措置を恒久化し、事業者が表示方法を選択できるようにすべきである。
以 上
平成 28年 11月 日
広 島 県 商 工 会 議 所 連 合 会
広 島 商 工 会 議 所 会 頭 深 山 英 樹
尾 道 商 工 会 議 所 会 頭 福 井 弘
呉 商 工 会 議 所 会 頭 神 津 善三朗
福 山 商 工 会 議 所 会 頭 林 克 士
三 原 商 工 会 議 所 会 頭 勝 村 善 博
府 中 商 工 会 議 所 会 頭 北 川 祐 治
三 次 商 工 会 議 所 会 頭 細 川 喜一郎
庄 原 商 工 会 議 所 会 頭 佐々木 満
大 竹 商 工 会 議 所 会 頭 望 戸 清 彦
竹 原 商 工 会 議 所 会 頭 山 本 靜 司
因 島 商 工 会 議 所 会 頭 村 上 祐 司
東広島商工会議所 会 頭 木 原 和 由
廿日市商工会議所 会 頭 細 川 匡
【事務局】
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