医療のtqm推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ...

8
1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名 社会医療法人 愛仁会 高槻病院 医療秘書科 今田 いまだ こう すけ 1.テーマ選定の理由 当院は 477 床の急性期病院である。手術件数は年々増加傾向にあり、全手術症例における全身麻酔手術件数も 同様に増加傾向である。こうした中、より診療機能の高度化や専門化を図るために病院を全面建て替え中であり、手 術室の増室も計画されていた。 当院では平成 20 年の医療秘書科発足とともに医師事務作業補助体制加算 25:1 を取得、平成 22 年より 15:1 の施 設基準を取得している。この度の手術室増室を見据え平成 24 年より手術室専従秘書を配置、滅菌技士や清掃業者 の導入など、看護師の間接業務に着目し業務整理を行った。次のステップとして医師より術中の医師事務作業補助 を希望する声が聞かれ、手術室増室後の安定稼働のためにも、これまで以上に医療者が各自の役割に専念できる 環境の提供が必要と考え、このテーマを選定した。 テーマ選定表の評価より『術中使用薬剤の入力漏れ』について取り組む事とした。 QC ストーリーの判定より、課題達成型ストーリーで取り組む事とした。 2.活動計画 テーマ選定マトリクス 部署目標 上司方針 重要度 緊急度 経済性 効果 解決可能 期間内終了 術中使用薬剤の入力漏れ 21 1 手術機材の発注方法 15 2 受付業務の煩雑さ 14 3 =3点 ○=2点 △=1点 表1:テーマ選定表 問題点 病院方針 評価項目 サークル実力 改善欲求度 CS向上 〈QCストーリーの判定〉 関係度:大2点 中1点 小0点 課題達成型QCストーリー 問題解決型QCストーリー 今まで経験した事のない初めての仕事をやり遂げたい 2 1 従来からの仕事の中の問題を解決したい 現状レベルを大きく打破したい 2 1 現状レベルを維持・向上させたい 魅力的品質・魅力的レベルに挑戦したい(魅力的品質の創造) 2 1 当たり前品質・当たり前レベルを確保したい 予測される課題を先取りして対処したい 2 1 発生している問題の再発防止をしたい 方策・アイデアの追求と実施で狙いを達成できそう 1 1 問題の原因追及とその原因を除去することで解決できそう 9 5 関係度 表2:QCストーリーの判定 合計点 判定結果 表 3:活動計画表

Upload: others

Post on 18-Jul-2020

4 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

1

テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築

施設名・部署名・発表者名ふ り が な

社会医療法人 愛仁会 高槻病院 医療秘書科 今田い ま だ

幸こ う

佑すけ

1.テーマ選定の理由

当院は 477 床の急性期病院である。手術件数は年々増加傾向にあり、全手術症例における全身麻酔手術件数も

同様に増加傾向である。こうした中、より診療機能の高度化や専門化を図るために病院を全面建て替え中であり、手

術室の増室も計画されていた。

当院では平成 20 年の医療秘書科発足とともに医師事務作業補助体制加算 25:1 を取得、平成 22 年より 15:1 の施

設基準を取得している。この度の手術室増室を見据え平成 24 年より手術室専従秘書を配置、滅菌技士や清掃業者

の導入など、看護師の間接業務に着目し業務整理を行った。次のステップとして医師より術中の医師事務作業補助

を希望する声が聞かれ、手術室増室後の安定稼働のためにも、これまで以上に医療者が各自の役割に専念できる

環境の提供が必要と考え、このテーマを選定した。

テーマ選定表の評価より『術中使用薬剤の入力漏れ』について取り組む事とした。

QC ストーリーの判定より、課題達成型ストーリーで取り組む事とした。

2.活動計画

テーマ選定マトリクス

部署目標 上司方針 重要度 緊急度 経済性 効果 解決可能 期間内終了術中使用薬剤の入力漏れ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ 21 1

手術機材の発注方法 ○ ○ ○ ○ △ ○ ○ ○ 15 2受付業務の煩雑さ ○ ○ △ △ △ ○ ○ ◎ 14 3

◎=3点 ○=2点 △=1点

表1:テーマ選定表

問題点 病院方針 順位

評価点

評価項目サークル実力改善欲求度CS向上

〈QCストーリーの判定〉 関係度:大2点  中1点  小0点課題達成型QCストーリー 問題解決型QCストーリー今まで経験した事のない初めての仕事をやり遂げたい 2 1 従来からの仕事の中の問題を解決したい現状レベルを大きく打破したい 2 1 現状レベルを維持・向上させたい魅力的品質・魅力的レベルに挑戦したい(魅力的品質の創造) 2 1 当たり前品質・当たり前レベルを確保したい予測される課題を先取りして対処したい 2 1 発生している問題の再発防止をしたい方策・アイデアの追求と実施で狙いを達成できそう 1 1 問題の原因追及とその原因を除去することで解決できそう

9 5

関係度

表2:QCストーリーの判定

合計点判定結果

表 3:活動計画表

Page 2: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

2

3.攻め所の明確化

【現状調査①】

下図の通り当院の手術件数は増加傾向にあり、今後も増加が予測される。また、全手術症例における全身麻酔手

術件数の占める割合が増加しており、重症症例が増加していると言える。

図 1:手術件数推移 図 2:全身麻酔の割合

【現状調査②】

秘書に期待する役割を医師・看護師へヒアリングしたところ、「術中使用薬剤の電子カルテへの入力作業」

がキーワードとして挙げられた。現状、医師・看護師がこの作業を担当し、その情報を受けて医事科事務が会

計書を作成している。術中使用薬剤入力に要する時間は 1 症例平均 5 分、複雑症例(薬剤使用数が多い症例、

手術所要時間が長い症例など)では 30 分であり、使用薬剤入力に漏れがある場合、医事科事務より医師・看

護師へ状況確認を行い、追加入力を依頼している。

表 4:ヒアリング結果

麻酔科医師8名へのヒアリング結果(複数回答あり) 看護師25名へのヒアリング結果(複数回答あり)順位 内容 件数 順位 内容 件数

1 術中使用薬剤の電子カルテへの入力作業 5 1 術中使用薬剤の電子カルテへの入力作業 202 麻酔科ICの調整 3 2 麻酔科外来の案内 133 招聘医師への症例報告 1 3 外部業者受付 104 麻酔データの管理 1 4 外注機材の正確な発注 5

図3:術中使用薬剤コスト算定フロー

医師・看護師 医事科事務

術中に薬剤入力を行う

《入力漏れに気付いた場合》医師・看護師へ追加入力を依頼する

患者様

医師・看護師の薬剤入力情報をもとに会計書を作成する

Page 3: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

3

【現状調査③】 術中使用薬剤の薬価について、薬剤使用量と手術所要時間の 2 点の視点でプロットした。結果、いずれも

全身麻酔症例は薬価合計が高くなる傾向にあることが分かった。

図 4:手術使用薬剤数量プロット 図 5:手術所要時間プロット 【現状調査④】

現状調査③より、全身麻酔症例は術中使用薬剤の薬価合計が高額であり、何らかの入力不備があればイン

パクトが大きいと予想された。実際調査を行ったところ入力不備が 424 件あり、それが医事科オペレーター

により修正されなかったとすると薬科差異が約 100 万円、年間でシミュレーションすると約 1,200 万円にも

上ることが分かった。

図 6:薬価差異と入力漏れ件数 図 7:薬価差異と入力漏れ件数年間シミュレーション

Page 4: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

4

現状調査の結果、術中使用薬剤、コスト算定、秘書、保険請求それぞれの視点から、ギャップシートに基づき検証

を行った。

ギャップシートより

①術中使用薬剤の回収ルールを設ける

②術中使用薬剤入力に関して専従者を配置する

③根拠に基づいた入力方法を確立する

以上 3 つの攻め所の候補を選定した。

3.ゴール目標

全身麻酔手術における術中使用薬剤の入力漏れ件数を 0 件にする。

4.方策の立案

攻め所より

①術中使用薬剤の回収手順を標準化する

②術中使用薬剤に関する知識を持った秘書を育成する

③術中使用薬剤全てを把握する

以上 3 つの方策案を選定した。

ギャップの解消

職場の対応力

術中使用薬剤入力漏れ 入力漏れ0件 入力漏れ424件 入力漏れ424件

術中使用薬剤術中使用薬剤パッケージは全てカテゴリー別に管理する

看護師が管理する薬剤以外はそのまま廃棄

術中使用薬剤の回収ルールがない

術中使用薬剤の回収ルールを設ける

○ ○ 10 採用

実施入力 入力作業と患者ケアを切り離す

術中使用薬剤は医師・看護師が術中に入力している

医師・看護師が術中に入力するためケアに専念出来ない

術中使用薬剤入力に関して専従者を配置する

○ ○ 10 採用

秘書 手術室単位に秘書を配置

手術室単位に秘書は配置されていない

現在、秘書は2名 手術室ごとに秘書を設ける ○ × 6 不採用

保険請求 経験に頼らない入力入力漏れは医事科が経験でカバーしている

入力根拠がない根拠に基づいた入力方法を確立する

○ ○ 10 採用

評価点 ○:5点△:3点×:1点

※9点以上採用(平均点が9点の為)

表5:ギャップシート

総合点 採否特性・項目 ありたい姿 現在の姿 ギャップ 攻め所の候補評価項目

攻め所 方策案 効 果 実 現 性 持 続 性 重 要 性 総合評価 採否術中使用薬剤の回収ルールを設ける

術中使用薬剤の回収手順を標準化する ◎ ◎ ○ ◎ 18 採用

術中使用薬剤の回収ルールを設ける

機械を導入して術中使用薬剤回収手順を自動化する

◎ △ ◎ ○ 14 不採用

術中使用薬剤入力に関して専従者を設ける

術中使用薬剤に関する知識を持った秘書を育成する

◎ ◎ ◎ ◎ 20 採用

術中使用薬剤入力に関して専従者を設ける

術中使用薬剤に関する知識を持った秘書を採用する

○ △ △ ○ 8 不採用

根拠に基づいた入力方法を確立する

術中使用薬剤全てを把握する ○ ◎ ◎ ◎ 18 採用

評価点 ◎:5点○:3点△:1点

表6:方策の立案

※15点以上採用(平均点が15点の為)

Page 5: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

5

5.成功シナリオの追求・実施

【成功シナリオの追求】

【成功シナリオの実施】

効果 実現性 持続性 合計 採否

術中使用薬剤の回収手順を標準化する

術中使用薬剤の回収手順を洗い出す マニュアルを作成する ◎ ◎ ◎ 15 採用 ①

医師・看護師へ注意事項を説明する ◎ ◎ ○ 13 採用 ②

管理別回収トレイを設置する ○ ◎ ◎ 13 採用 ③

術中使用薬剤のパッケージやキャップなどの特徴を秘書に教育する

○ ◎ ◎ 13 採用 ④

術中使用薬剤に関する知識を持った秘書を育成する

術中使用薬剤の入力に必要な情報を精査する

術中使用薬剤に関する知識及び麻酔チャートを読み解く知識を秘書に教育する

◎ ◎ ○ 13 採用 ⑤

術中使用薬剤を全て把握する 術中使用薬剤を洗い出す 術中使用薬剤チェック

シートを作成する ◎ ◎ ◎ 15 採用 ⑥

術中使用薬剤をカウントする ◎ ◎ ◎ 15 採用 ⑦

評価点 ◎=5点○=3点△=1点

※13点以上採用(平均点が13点の為)

方策 シナリオ案図8:成功シナリオの追及

表7:成功シナリオの実践

なぜ 何を いつ 誰が どこで どうする

①術中使用薬剤回収マニュアルを 5月までに 秘書が 手術室で 作成する

②術中使用薬剤回収における注意事項を 5月に 秘書が 手術室病棟会で 説明する

③ 管理別回収トレイを 5月に 秘書が 手術室で 設置する

④術中使用薬剤のパッケージやキャップ等の特徴を 5月までに 看護師が 手術室で 秘書に教育する

術中使用薬剤に関する知識を持った秘書を育成するために

術中使用薬剤に関する知識及び麻酔チャートを読み解く知識を

5月までに 医事科が 手術室で 秘書に教育する

⑥術中使用薬剤チェックシートを 6月までに 秘書が 手術室で 作成する

⑦ 術中使用薬剤を 手術終了後 秘書が 手術室で カウントする追加対策

⑧術中使用薬剤を漏れなく回収するために

医師・看護師が行っていた術中使用薬剤入力を全身麻酔においては全て

8月から 秘書が 手術室で 代行入力する

術中使用薬剤の回収手順を標準化するために

術中使用薬剤を全て把握するために

Page 6: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

6

6.効果の確認

【有形効果】

取り組みの結果、医師・看護師が行っていた全身麻酔における術中使用薬剤入力は完全に秘書に移行。回収、カ

ウント、入力、廃棄と一連の作業を秘書が担うことで入力漏れによるコスト算定漏れは 0 となり目標を達成した。

図 9:術中使用薬剤の薬価差異と入力漏れ件数

【無形効果】

無形効果、医師・看護師・医事科事務・秘書の連携が密に図れるようになった。

図 10:無形効果

012345人間関係

チームワーク

職場のモラルリーダーシップ

協力性

対策前

対策後

Page 7: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

7

【波及効果】

・ 従来、医師・看護師が担っていたカルテ記載を秘書へ移行する事で、業務が効率化され、通常症例では 1 症例平

均 5 分要していた記載時間は 3 分に、複雑症例(薬剤使用数が多い症例、手術所要時間が長い症例など)では

30 分が 10 分へと圧縮効果があった。

図 11:波及効果

・看護師へのヒアリングでは、患者ケアに集中出来るようになった。次の予定手術にすぐ取り掛かれるようになった。

との声も聞かれた。それは結果として医療安全や業務効率に繋がっていると考える。

・代行入力を行うことで、医師が入力する時間や依頼情報まで、目が行き届くようになり、それらに誤りがあれば、タイ

ムリーに修正出来るようになった。

7.歯止め・標準化

なぜ 何を いつ 誰が どこで どうする回収マニュアルを周知するために 回収ルールを 新人看護師、配属時に 看護師が 手術室で 教育する

術中使用薬剤回収の方法を周知するために 注意事項を 新人看護師、配属時に 看護師が 手術室で 教育する

術中使用薬剤を漏れなく回収するために 術中使用薬剤を 手術終了と同時に 秘書が 手術室で 回収する

術中使用薬剤の形状について最新情報を得るために

パッケージやキャップの特徴を 新たな薬剤使用時に 秘書が 手術室で 確認する

術中使用薬剤の回収精度を管理するために

手術室内に回収漏れが無いかを 手術終了後 秘書が 手術室で 確認する

麻酔チャートを読み解く力をつけるために

新規薬剤に関する知識を 薬剤導入時に 医師が 手術室で 秘書に教育する

最新の薬剤チェックシートを維持するために

術中使用薬剤チェックシートを 定期的に 秘書が 手術室で 見直す

入力漏れダブルチェック機構を設けるために

術中使用薬剤チェックシートを 代行入力後 秘書が 手術室で 医事科事務へ

回す

表8:歯止め・標準化

Page 8: 医療のTQM推進協議会 - テーマ 手術室における術中 …...1 テーマ 手術室における術中使用薬剤の事務作業補助構築 施設名・部署名・発表者名

8

図 12:歯止めの検証

歯止め・標準化の結果、H25.9 で全身麻酔件数 182 件に対し、コスト入力漏れ金額・件数共に 0 となった。H27.9

現在も 0 を維持している。

8.活動を振り返って

表9:活動を振り返って良かった点 悪かった点/苦労した点

テーマ選定 現在の問題点を職員間で共有できた点

攻め所の明確化 現状調査により攻め所を明確にすることができた点

ゴール目標の設定 きっちりとした目標を立てることができた点

方策の立案 攻め所から具体的な方策案を立てることができた点 攻め所の項目が少なかった点

最適策(成功シナリオ)の追求と実施 手術室業務に関わることで、医師や看護師とより密なコミュニケーションが取れるようになった点

手術薬剤の回収タイミングをつかむのに時間が掛かった点

効果の確認 追加対策により入力漏れが無くなった点

歯止め・標準化・検証 手術室全体で業務の質を維持できた点 職員の入れ替わりが激しく、その都度教育が必要な点

今後の課題

昨年度の手術室増室に併せてサテライトファーマシー導入、より制度の高い術中使用薬剤カウント・入力システムを構築し、更なる業務の効率化を目指している。また、手術室稼働率の向上、有効な手術室の割り当て、術間インターバルの短縮などの課題に対し、諮問委員会の下部組織として、手術室機能強化ワーキンググループを発足。このワーキングを活動拠点とし、事務取扱として内部調整を継続。新たな手術部門システムも導入し、システムを活用した専門的なデータ管理を行い、手術室運営への更なる貢献を目指している。