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Kawaijuku Guideline 2013.45 45 学修成果評価 学校法人河合塾教育研究開発本部と朝日新聞社は、2011年から共同調査「ひらく 日本の大学」を実施し ており、本誌では調査結果について報告してきた。 今回は、 「学修成果の評価」をテーマに取り上げた。学習成果の評価の現状と課題について、京都大学 高等教育研究開発推進センターの松下佳代教授に話を聞くとともに、4つの大学の取り組みを紹介する。 朝日新聞×河合塾 共同調査   「ひらく 日本の大学」第5回 学修成果の評価に関する大学の取り組み 事例1 「授業アンケート」 國學院大學経済学部 初年次必修科目「基礎演習」の授業アンケートに学修成果に関する項目を設け、その結果を FD 活動に活用 事例2 「検定」 京都工芸繊維大学 専門技術者が備えておくべきリテラシーの習熟度を評価する「KIT スタンダード検定」を実施 事例3 「IR」 京都光華女子大学 教育と生活面の支援を統合した総合的支援「京都光華のエンロールメント」を推進 事例4 「ルーブリック」 龍谷大学文学部 アカデミック・リテラシー、卒業論文のルーブリックを作成し、学修成果を検証 p50 p52 p54 p56 概説 p46 学習成果の評価の現状と課題ーー京都大学高等教育研究開発推進センター 松下佳代教授に聞く 大学の単位認定は、従来、個々の教員に任されていて、大学の組織として明確な評価基準がなかった。不景気の 影響で在学中に相応の能力を備えること期待する企業と、学位の国際的通用性を高めたいという国の政策、学費 に見合う教育を提供していることを示すという3つの要因から、学習成果の評価が不可欠になっている。 大学における学習成果を評価する方法としては、縦軸として直接評価、間接評価、横軸として心理測定学的パラ ダイム、オールタナティブ・アセスメントのパラダイムの大きく4つのタイプに分けられる。 大学の学習成果は、レポート、卒業論文、作品など点数化しにくいものが多い。これらの学習成果を評価する方 法として考えられているのが、オールタナティブ・アセスメントの直接評価に分類される、パフォーマンス評価、 ポートフォリオ評価、真正の評価などである。 これらの評価においては評価側が評価基準を設定しておくことが必要になる。そこで、ルーブリックが活用され ている。さらに、ルーブリックをあらかじめ学生に示しておくことにより、学生への教育効果も期待される。 学生の力を伸ばすことこそが大学の目標。評価の課題に取り組むことが学習経験を豊かにする「学習としての評価」 の意義を持つような評価の構築が必要になる。

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Page 1: 朝日新聞×河合塾 共同調査 「ひらく 日本の大学」第5回 学修 ......Kawaijuku Guideline 2013.4・5 45「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

Kawaijuku Guideline 2013.4・5 45

「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

学修成果の評価 学校法人河合塾教育研究開発本部と朝日新聞社は、2011年から共同調査「ひらく 日本の大学」を実施しており、本誌では調査結果について報告してきた。 今回は、 「学修成果の評価」をテーマに取り上げた。学習成果の評価の現状と課題について、京都大学高等教育研究開発推進センターの松下佳代教授に話を聞くとともに、4つの大学の取り組みを紹介する。

朝日新聞×河合塾 共同調査  「ひらく 日本の大学」第5回

 学修成果の評価に関する大学の取り組み

事例1 「授業アンケート」 國學院大學経済学部初年次必修科目「基礎演習」の授業アンケートに学修成果に関する項目を設け、その結果を FD 活動に活用

事例2 「検定」 京都工芸繊維大学専門技術者が備えておくべきリテラシーの習熟度を評価する「KIT スタンダード検定」を実施

事例3 「IR」 京都光華女子大学教育と生活面の支援を統合した総合的支援「京都光華のエンロールメント」を推進

事例4 「ルーブリック」 龍谷大学文学部アカデミック・リテラシー、卒業論文のルーブリックを作成し、学修成果を検証

p50

p52

p54

p56

 概説                                       p46 学習成果の評価の現状と課題ーー京都大学高等教育研究開発推進センター 松下佳代教授に聞く

大学の単位認定は、従来、個々の教員に任されていて、大学の組織として明確な評価基準がなかった。不景気の影響で在学中に相応の能力を備えること期待する企業と、学位の国際的通用性を高めたいという国の政策、学費に見合う教育を提供していることを示すという3つの要因から、学習成果の評価が不可欠になっている。

大学における学習成果を評価する方法としては、縦軸として直接評価、間接評価、横軸として心理測定学的パラダイム、オールタナティブ・アセスメントのパラダイムの大きく4つのタイプに分けられる。

大学の学習成果は、レポート、卒業論文、作品など点数化しにくいものが多い。これらの学習成果を評価する方法として考えられているのが、オールタナティブ・アセスメントの直接評価に分類される、パフォーマンス評価、ポートフォリオ評価、真正の評価などである。

これらの評価においては評価側が評価基準を設定しておくことが必要になる。そこで、ルーブリックが活用されている。さらに、ルーブリックをあらかじめ学生に示しておくことにより、学生への教育効果も期待される。

学生の力を伸ばすことこそが大学の目標。評価の課題に取り組むことが学習経験を豊かにする「学習としての評価」の意義を持つような評価の構築が必要になる。

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 今、なぜ日本の大学において学習成果の評価が求めら

れるようになっているのか。また、現状ではどのような

評価方法があり、それぞれのメリット、デメリットは何

か。京都大学高等教育研究開発推進センター教授で、大

学院教育学研究科教授でもある松下佳代教授にインタ

ビューした。

──日本の大学において、学習成果の評価が求められる

ようになった背景から解説してください。

松下 大学は単位制度を採用しており、本来は、一定の授業を受ければよいというわけではなく、学生の自学自習も含めて一定の学修をおさめることが必要とされています。しかし従来、多くの大学では、単位の認定は個々の教員の裁量に任されていました。大学の組織として明確な評価基準が定められていなかったわけです。 初等中等教育の場合は、各段階の入試などで、学習成果が見られています。しかし、大学では、卒業時に国家試験が課される医療系の場合は別ですが、出口段階で学習成果の評価にさらされる場合は多くありません。教育学部も教員採用試験がありますが、こちらは募集人員に応じて合格者を決定する相対評価なので、国家試験のような絶対評価とは事情が異なります。いずれにしても、ほとんどの学部は出口で、卒業生の学習成果の質を保証できない状況になっていたのです。 それでも、従来は企業もそれほど厳格な学習成果の評価は要求していませんでした。入試難易度の高い大学の学生、すなわち入学時の学力が高く、潜在能力が高いと予測される学生を採用して、入社後に鍛えればよいという風潮があったからです。ところが、長引く不景気の影響で、企業で教育する余裕がなくなり、在学中に相応の能力を備えることを期待するようになりました。それが、

学位の国際的通用性や学費に見合う教育を提供しているかという観点から求められる学習成果の評価

学習成果の評価の現状と課題

学習成果の評価が必要になってきた要因の1つです。 また、国の施策として、学位の国際的通用性を高めたいという意識が強まったことも関係しています。日本の大学の平均修了率は約 91%で、OECD加盟国の平均約70%弱と比較すると圧倒的に高くなっています(2005年調査)。これでは、きちんと学習成果を把握した上で卒業させているのかを疑問視されても仕方がないかもしれません。 もう1つの要因は、近年、各大学の教育力が、ランキングなどさまざまな形で可視化されるようになったことです。偏差値がそれほど高くなくても、入学後に充実した教育を行い、抜群の就職実績を誇っている大学も見られます。保護者をはじめとするステークホルダーに対して、学費に見合うだけの教育を提供する大学であることを示すためにも、学習成果の評価が不可欠になっているわけです。

──大学における学習成果を評価する方法としては、ど

のようなものがありうるのでしょうか。それぞれのメ

概 説

4タイプに分かれる学習成果の評価方法

松下佳代 教授

京都大学高等教育研究開発推進センター教授。大学院教育学研究科教授。京都大学教育学部卒業後、同大大学院教育学研究科修了。京都大学教育学部助手、群馬大学教育学部助教授、京都大学高等教育教授システム開発センター助教授などを経て、2004 年から現職。研究テーマは、学習と能力の理論にもとづく授業・カリキュラム・評価の研究。

『パフォーマンス評価―子どもの思考と表現を評価する』(日本標準ブックレット、2007 年)、『〈新しい能力〉は教育を変えるか―学力・リテラシー・コンピテンシー―』(ミネルヴァ書房、2010 年)、『大学教育のネットワークを創る―FD の明日へ―』(東信堂、2011 年)など著書多数。

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リット、デメリットも含めて紹介してくださ

い。

松下 <図表1>は学習評価の構図をまとめたものです。縦軸として直接評価か間接評価か、横軸として心理測定学的パラダイム、オルターナティブ・アセスメントのパラダイムのいずれに立っているかによって、大きく4つのタイプに分けることができます。 直接評価は、テストやレポート、作品などを課すことで成果を直接的に評価します。間接評価は学生に「何ができると思っているか」を答えさせることによって、学習成果を間接的に評価します。 また、心理測定学的パラダイムは数値化できる量的データを用いて、評価者の主観的判断が含まれない客観性を重視します。オルターナティブ・アセスメント(代替的評価)は、むしろ数値化されにくい学習成果を見るために、質的データを重視する点が特色です(両者の違いは<図表2>参照)。──まず、心理測定学的パラダイムの間接評

価としてはどのようなものがあるのでしょう

か。

松下 代表的なのが集団を対象とする質問紙形式の学生調査です。どのような力が身についたと思っているのか、学生の自己認識を段階評価させる形式です。大学の教育力は授業だけではなく、海外研修、インターンシップなど、正規のカリキュラムには含まれていないけれども、教育的な目的を持って提供されているプログラム(アメリカでは

「補助カリキュラム」と呼ぶ)の成果も質問することが増えています。この評価方法の問題点は、例えば、自分への要求水準が高い学生は、相応の力を身につけていても、自分に厳しく、低い評価をしてしまう場合があることです。逆に、自分に甘い学生は高めの評価になることがあります。──心理測定学的パラダイムの直接評価にはどのような

ものがありますか。

松下 多肢選択法や正誤法を用いた客観テストタイプの標準テストなどがあります。──次に、オルターナティブ・アセスメントのパラダイ

ムの間接評価を教えてください。

松下 代表例がミニッツペーパーです。授業評価の一形態ですが、大学や学部で統一した質問紙を用いる場合と異なり、ミニッツペーパーでは毎回の授業で、「授業を通して、何を身につけ、何が疑問点として残ったか」を記入させます。それによって、学生自身の振り返りに役立てることができますし、多くの学生がある箇所について「わからなかった」と記入していれば、授業改善に活用することもできます。

──オルターナティブ・アセスメントの直接評価とは、

<図表1>学習評価の構図

- -

-

- - -

- -

<図表2>評価の2つのパラダイム

心理測定学的パラダイム オルターナティブ・アセスメントのパラダイム

学問的基盤 心理測定学、知能理論 構成主義、状況論

評価目的 アカウンタビリティ一定の質保証

教育改善・指導学生のさらなる成長

評価対象 集団 個人

評価項目 分割可能性 複合性

評価機能 総括的評価 形成的評価

評価場面 脱文脈性統制された条件

文脈性シミュレーション真正の文脈

評価基準 客観性 間主観性

評価データ 量的データ 質的データ

評価主体 評価専門家、政策担当者 実践者自身

評価方法 客観テスト(標準テスト)学生調査 など

パフォーマンス評価ポートフォリオ評価真正の評価 など

(提供:松下佳代教授)

(提供:松下佳代教授)

点数化しにくい学習成果を評価し個別の指導に生かせるオルターナティブ・アセスメント

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「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

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<図表3>文章コミュニケーション VALUEルーブリック

どのようなものでしょうか。松下 大学の学習成果は、レポート、卒業論文、あるいは芸術系学部の作品制作など、点数化しにくい場合が少なくありません。ここに分類したのは、それを評価する方法として考えられたものです。 パフォーマンスとは遂行、できばえという意味で、レポートや論文、作品、実演(例えば教育学部の教育実習など)を評価するのがパフォーマンス評価です。 ポートフォリオ評価は、レポート、作品、テストなどをすべて綴じ込んでおき、成長のプロセスを振り返り、評価する方法です。

 真正の評価とは、オーセンティック・アセスメントの訳で、仕事場や市民生活など、現実世界の課題に似せた、本物らしい「真正性」をもった課題に取り組ませて、それを評価します。医療系学部で実施されているOSCE(注)

は、実際の臨床現場で求められる能力を問うという意味で真正の評価であり、課題に即した実技が課されるという意味ではパフォーマンス評価でもあります。──今紹介された評価は、点数化が難しく、客観的に評

価するのが難しい面がありませんか。松下 確かに正誤が明確ではありませんから、評価する側がきちんとした評価基準を設定しておくことが必要に

(補足) VALUE ルーブリックは、アメリカ大学・カレッジ協会(AAC&U)が開発した教養教育に関するルーブリックである。15 のルーブリックが開発された。文章コミュニケーションはそのうちの1つである。このルーブリックは、大学4年間の学習成果の評価に用いられるもので、キャップストーン、マイルストーン、ベンチマークというレベルの下に書かれている4~1の数字は対象とする学年を大まかに示している。 レベルのうち、ベンチマークとは基準となる水準という意味で、ここが最初のレベルである。 キャップストーンは、もともとピラミッドの頂点におかれた石のことで、このルーブリックでは最高レベルを示す。マイルストーンは、ベンチマークからキャップストーンに行くまでの目標という意味。

キャップストーン マイルストーン ベンチマーク

4 3 2 1

文章作成の文脈と目的 読者・目的や、課題をとりまく状況の考慮を含む

文脈・読者・目的について完璧な理解を示し、それによって、与えられた課題に対応し、作品のあらゆる要素に焦点をあてている。

文脈・読者・目的について適切な理解を示し、与えられた課題(例えば、読者・目的・文脈を結びつけること)に明確に焦点をあてている。

文脈・読者・目的や与えられた課題(例えば、読者の認知や了解事項への気づきを見せ始めること)への自覚を示している。

文脈・読者・目的や与えられた課 題(例えば、読者としての授業者や自己の期待)に対し最低限の注意を示している。

内容の展開 適切で関連性があり説得力に富む内容を用いることによって、科目の習得ぶりを示すとともに、書き手の理解したことを伝え、作品全体を形づくっている。

適切で関連性があり説得力に富む内容を用いることによって、学問分野の文脈の中でアイデアを探究し、作品全体を形づくっている。

適切で関連性のある内容を用いることによって、作品の大半を通じて、アイデアを展開・探究している。

適切で関連性のある内容を用いることによって、作品の何カ所かで、シンプルなアイデアを展開している。

ジャンルと学問分野の約束事 特定の形式や学問分野の文章作成に期待される公式・非公式のルール

特定の学問分野や文章作成課題に関連する広範な約束事(構成、内容、提示、書式、文体選択を含む)に対し、細かい注意を向けうまく遂行している。

特定の学問分野や文章作成課題に関連する重要な約束事(構成、内容、提示、文体選択を含む)を一貫性をもって使用している。

特定の学問分野や文章作成課題にふさわしいものとして、期待されることがら(基本的構成、内容、提示など)に従っている。

基本的構成や提示のしかたについて一貫した体系を使おうとしている。

資料(ソース)と根拠(エビデンス)

当該の学問分野やジャンルにふさわしいアイデアを展開するために、質が高く、信頼でき、関連性のある資料をうまく使いこなしている。

当該の学問分野やジャンルの中に位置づくアイデアを裏づけるために、信頼でき、関連性のある資料を一貫して使っている。

当該の学問分野やジャンルにふさわしいアイデアを裏づけるために、信頼できる

(もしくは関連性がある)資料を使おうとしている。

アイデアを裏づけるために、資料を使おうとしている。

構文と技法を操ること 読み手に明確かつ流暢に意味を伝えることができる格調ある言葉遣いをしている。ほとんど全く誤りがない。

読み手に意味を伝える直截的な言葉遣いをしている。滅多に誤りがない。

文章に数カ所誤りを含むが、明確に意味を伝える言葉遣いをしている。

用語法に誤りがあるために、意味の伝達が妨げられるような言葉遣いをしている。

*ベンチマークレベルのパフォーマンス(1のセル)を満たさない作品事例にはゼロを割り当てること。

(出典)Rhodes, T, (Ed.) (2010). Assessing outcomes and improving achievement: Tips and tools for using rubrics. Association of American Colleges and Universities. 松下訳。

(注)OSCE(オスキー)…Objective Structured Clinical Examination の略で、「客観的臨床能力試験」と訳されている。

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なります。そこで近年、導入されているのがルーブリックです。基準(観点)とレベルを示したマトリックスで表され、それぞれのセルの中に、何ができればどのレベルにあるのか、文章で具体的に記述されています<図表3>。それをあらかじめ学生に明示することによって、学生がそれを意識的に学ぶことによる教育効果が期待できる点も、ルーブリックの特徴といえます。──こうしてみると、多様な評価方法がありますね。

松下 目的や学習内容に応じて上手に組み合わせることが必要になります。例えば、心理測定学的パラダイムの評価は、大きな集団の傾向を見るのに適しており、教育政策に活用することができます。しかし、学生一人ひとりの状況を把握して個別の指導に生かすには、オルターナティブ・アセスメントが必要になると考えています。

──先生は、新潟大学歯学部で試行的にパフォーマンス

評価を実施されています。その事例もお聞かせください。

松下 新潟大学歯学部の小野和宏教授らと共同で、2年次の「PBLテュートリアル」の評価方法を考えました。PBLテュートリアルというのは、テューターの支援の下で行う 7 ~ 8 人のグループによる問題解決学習のことです。 これまでは客観テストと卒業時の学生調査を実施していましたが、それではこの授業がめざす問題解決能力、自己学習能力の評価には不十分でした。PBLテュートリアルの授業では、歯周病予防のための禁煙指導など、学生に現実の医療現場で起こりそうな状況を描いたシナリオを提示して、まず、授業内で問題点と解決法(仮説)を考え、学習課題を設定させます。学生は授業外の時間に各自でその課題について調べ、再び授業においてグループで調べたことを持ち寄り、仮説を検証するという授業です。 今回の評価では、学生は 1 人でPBLのプロセスをたどってワークシートに記入し、最後には、模擬患者役の教員を相手に禁煙指導をするというパフォーマンス評価を入れました。そして、終了後すぐにその場で、教員が評価結果を学生にフィードバックしました。このパフォーマンス評価のルーブリックは、「患者への対応の中で必要な情報を追加収集できたか」「それを自分が調べた情報と統合できたか」「相手の立場に共感を示しな

がら、適切な指導ができたか」 などが評価基準になっています。 学生・教員両方に負担の大きい評価方法ですが、今回の評価の仕方はリアリティがあったと、予想以上に好評でした。「やったらやっただけ身になる気がする」「手応えがある」という声も聞かれました。私は、こうした学生の声に、パフォーマンス評価導入の意義を考える上でのヒントがあると思っています。──それはどのような意義でしょうか。

松下 パフォーマンス評価には相当な時間と労力が必要です。教員の負担が増えて、「評価疲れ」に陥るおそれもあります。しかし、新潟大学歯学部の例のように、単なる評価ではなく、評価の課題に取り組むことが学生の学習経験として意味がある、つまり教育そのものでもあるということであれば、教員にもやりがいが生まれるはずです。私はそれを 「学習としての評価」と呼んでいます。──パフォーマンス評価を進める上で課題と感じてい

らっしゃることはありますか。

松下 パフォーマンス評価のルーブリックについて、学生がそれを意識するあまり、型にはまった学びに陥る危険性を指摘する人もいます。確かに、初年次教育ならば、ある程度型を示すことも意味がありますが、卒業論文の評価では一工夫が必要になるかもしれません。卒業論文の場合は、ルーブリックの要素はすべて満たしていても、論文としての魅力に欠ける場合があるからです。独創性はルーブリックで評価することがなかなか難しいのが現状です。 もう1つ、ルーブリックを事前に示せば、傾向と対策が進んでしまい、本物の学習成果を見ることはできなくなるとの指摘もあります。もっとも、傾向と対策の問題は、パフォーマンス評価のルーブリックに限らず、どんな評価方法であってもつきまとう問題だと思います。 さらに、多くの教員に根強いのが、客観的で厳密な評価を好む傾向です。ルーブリックで評価すると、教員ごとにバラツキがあり、信頼性が低いとの批判も聞かれます。しかし、大学がめざすべきことは、客観的で厳密な評価を確立すること、それ自体ではありません。学生の力を伸ばすことこそが大学の目標であり、先ほど申し上げたように、「学習としての評価」 の意義を持つような評価を構築することが必要になると考えています。

学習経験を豊かにする「学習としての評価」が求められる

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「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

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 國學院大學経済学部では、2005 年度頃から意識的にFD(注1)活動を推進し、2009 年度のカリキュラム改訂に伴って教育目標の明確化を図るなど、積極的な教育改革を進めている。特に重点を置いているのが初年次教育で、2006 年度から、1年次の学部共通必修科目 「基礎演習」 において、独自の授業アンケートを実施している。その背景と狙いを、田原裕子副学部長は次のように語る。 「学生の多様化に伴って、必ずしも大学教育に対するレディネス(準備・心構え)が十分ではない学生が増えています。そうした学生も含めて、いかに学修に主体的に取り組ませるかは、初年次教育の重要な課題です。そこで初年次教育の核として『基礎演習』を位置づけました。『基礎演習』は 1 クラス約 20 名の少人数編成で、経済学部の専任教員ほぼ全員が担当しています。以前は授業設計は各教員の裁量に任されており、授業内容や教育目標について教員間で違いがありました。そこで、『基礎演習』独自の授業アンケートを実施し、学生の現状とニーズを把握し、それに基づいて教員間でも共通認識を持った上で初年次教育を展開しようと考えたのです」 現在 「基礎演習」 は、1年次前期の必修科目 「基礎演習A」 と、1年次後期の義務履修科目(注2)「基礎演習B」 に分かれている。経済学部では 2008 年の教授会合意として、次の3つが 「基礎演習に盛り込むべき内容」として定められた。①初年次研修→大学で学ぶ意識の醸成、國學院大學につ

いての理解、履修の仕方や進路選択を含む大学生活のガイダンス(居場所の理解となじむこと)。

②学ぶための基本的スキルの学習→プレゼンテーション・レジュメ作成、ディスカッション、レポート作成、情報リテラシー、日本語表現。

③専門教育への導入・問題意識の養成→文献講読(テキスト理解)、プレゼンテーション、レジュメ作成、ディスカッション。

学生の現状とニーズを把握し共通認識を持った上で初年次教育を展開

初年次必修科目 「基礎演習」 の授業アンケートに学修成果に関する項目を設け、その結果をFD活動に活用

 「4 年間の学修を有意義なものにするためにも、スキルや問題意識をしっかりと固めてほしいということはもちろんですが、まずは大学を好きになり、自分の居場所はここだと実感してもらうこと、1 年生のうちから将来、どんな仕事をしたいのかを意識してもらうことも、『基礎演習』の目的です。また、本学では、全学部のほとんどの科目で授業アンケートを実施していますが、それは

『この授業にどの程度出席しましたか』『予習・復習をするなど授業に意欲的に取り組みましたか』など、授業態度を質問する項目(9項目)が中心で、学修内容にまでは踏み込んでいません。それに対して、『基礎演習』の授業アンケートは、教授会合意の『盛り込むべき内容』に沿って、『論述試験答案の書き方』『情報リテラシー』『専門書の読み方』など、大学ならではの学びのスキルを身につける上で、授業がどの程度役立ったかを、6段階で答えさせています」(田原副学部長) これまでの 「基礎演習」 の授業アンケート結果を見ると、年度を追うごとに、学生の満足度、学修の到達度の評価は確実に高まっている。これは学生からの評価がよい刺激になり、授業改善につなげている教員が増えてきたからだと考えられる。「経済学部では、毎年7月と 12月に行われる教授会懇談会で、授業アンケートの集計結果を公表するとともに、評価が高かった教員が自らの取り組みを紹介する機会を設けています。例えば、以前は学生に書かせたままだったレポートを、何回も添削指導するようにした事例、教員が手本となるレジュメを作成して、学生に自分のレジュメと比較させて、どの部分を修正する必要があるのか気づかせるようにした事例などです。そうした工夫が、他の教員にも参考になり、自主

東海林孝一 准教授

事例 1 國學院大學経済学部

根岸毅宏 教授田原裕子 副学部長

(注1)FD:ファカルティ・ディベロップメント(注2)義務履修科目:進級・卒業要件には含まれないが、全員が自動的に履修科目として登録される科目

50 Kawaijuku Guideline 2013.4・5

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自分が関心のある分野を見つけて、3年次からのコース選択にも役立つ 『日本の経済』も1年次の必修科目になっています。『基礎演習』を含めて、この 3 科目が初年次教育の 3 本柱です」(東海林准教授) そして、これらの科目でもさまざまな改革が進行している。「例えば、『日本の経済』は4~5名の教員が担当しており、以前は授業内容に若干の違いがありました。そこで、2007 年度から2年間、教員が得意な分野の授業をビデオ撮影し、それぞれの教員が実際にどのような授業を進めているのか、どこに重点を置いて説明しているのか、映像を見ながら意見交換する場を設けました。各教員が専門とする分野を選んで映像化したので、参考になる部分が多かったと思います。それによって、現在では、テキストを担当教員で作成し、授業内容だけでなく、共通の試験も行っています」(根岸教授) このように、さまざまな成果があがっているが、田原副学部長は今後の課題について「授業アンケートは学生の主観に基づいています。十分なスキルを身につけていると思われるにもかかわらず、謙虚な性格から低い評価をする学生もいます。学生の主観的なデータを、教員アンケートや学生の成績状況などと合わせて見ることによって、より多角的に分析する仕組みを検討する必要があります」と語る。 なお、現在の授業アンケートは、学生が個人を特定されることを敬遠するため無記名が原則である。そのため、学生の学修成果を測定した後、ゼミや授業において学生への個別指導などに活用することが困難である。この点は今後の課題であり、4 年間を通じた「履修カルテ」の導入などが検討されている。

的な授業改善につながっています」(田原副学部長)

 2011 年度、学部独自の FD アンケートには、2つの調査が追加された。その1つが「できる式アンケート」である。「基礎演習」 で学んだことが、その後の学修にどのように生かされたのか、どんなことが「できる」ようになったのかを卒業時点まで追跡調査し、3年次以降のコース選択、ゼミへの参加や、就職活動への準備につながったかを検証する試みである。1年次前期・後期、2年修了時、卒業時の4回、「大学になじむ」「スキルの養成」「専門研究への関心の醸成」の3つの観点から、19 項目について、自分の学修成果を答えさせる<図>。 まだ「できる式アンケート」は、導入後2年のため、経年変化の分析には至っていないが、高学年になるにつれて、多くの項目の達成度が高まるのが理想である。 「継続して同じ項目のアンケートを実施することによって、学生が大学で修得すべき項目を自覚し、4年間を通じて意識的に高めるようになることを期待しています。『できる式アンケート』はその振り返りのツールとして活用してほしいと考えています」(田原副学部長) もう1つが、「基礎演習」 の教員アンケートだ。学生アンケートのような定型的な質問項目は設けられておらず、自由記述である。「授業を進める上でどんな点に悩んでいるのか、それを解決するためにどのような工夫を凝らし、その結果どのような成果が得られたのかなどを記述します。教員同士が互いに同じようなことで悩んでいることもわかりますし、自分とは違う取り組みを、自己紹介の仕方から、グループ・ワークの仕方や本の輪読の仕方などまで、知ることができます。例えば、学生には、『しっかりと勉強するように』と言うのではなくて、レジュメを作る時は何時間、レポートを書く時は何時間と、具体的に指示した方が取り組みやすいという意見がありました。教員同士が取り組みを共有することが、FDにおいても大事だと考えています」(根岸教授)

 もちろん、初年次教育は 「基礎演習」 だけではない。 「その他に、情報リテラシーを鍛える『コンピュータと情報』、経済学の最も基礎的・初歩的な内容を網羅し、

2011年度から「できる式アンケート」と「教員アンケート」 を導入

<図>基礎演習「できる式」アンケート結果(2011年度)

学部全体の状況

☆は基礎演習を通して1年次修了までに身につけてほしい項目。

個別指導への活用が課題

Kawaijuku Guideline 2013.4・5 51

「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

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 京都工芸繊維大学では、2009 年度から 21 世紀知識基盤社会を担う専門技術者が備えるべき知識・技能を「KITスタンダード」として体系的に整理し、その内容を修得する教育プログラムをスタートさせている。その狙いを学務企画室の田中辰次室長は次のように語る。 「社会では、大学で専攻した分野だけでなく、幅広い分野の知識が要求されます。日本の科学技術を担う理工系の学生が学ぶ本学としては、そうした社会のニーズに対応できる能力を養成した上で、卒業させることが責務になります。そこで、卒業生が数多く就職している企業などに、今どのような分野の知識が必要とされているのか、アンケート調査を実施するとともに、学域構成の特色を加味して、『遺伝子』『環境科学』『ものづくり』『造形感覚』『知的財産』の5つのリテラシーと、基礎科目の『英語』『数学』を 21 世紀理工系学生が備えるべきリテラシー(事象を理解・整理し、活用する能力)として抽出し、本学の学生が卒業までに備えておくべき『KITスタンダード』として設定しました」 カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーに、在学中にどのようなリテラシーの養成をめざすのかを明示している大学は多い。だが、特徴的なのは、学生個々の各リテラシーの習熟度を計数的に評価するために、「KITスタンダード検定」という独自の検定制度を導入していることである。それによって、学生一人ひとりの能力を外部に向けて客観的に示すことが可能になっている。 履修の流れは、前期科目の「KIT入門」でKITスタンダードや検定について理解を深めた後、受検を希望する学生は、 後期科目で「KITスタンダード」を登録する。過去問に取り組みながら、各リテラシーの基礎を学ぶとともに、リテラシーを高めるためにはどのような関連科目の受講が有効なのかという履修指導の役割も兼ねている授業だ。

企業へのアンケート調査や大学の独自性を踏まえてリテラシーを抽出

専門技術者が備えておくべきリテラシーの習熟度を評価する「KITスタンダード検定」を実施

 「KITスタンダード検定」は、年1回(12 ~1月)の実施で、1つのリテラシーから 20 問出題され、12 問以上正解で合格になる。3つのリテラシーで合格すれば1単位、5つすべてに合格した場合は2単位が付与される。3つのリテラシーを16 問以上正解すれば「S」、14 ~15 問正解は「A+」、それ以外は「A」評価になる。授業科目は1年次に配当されているが他学年の受講も可能で、在学中に何度でも挑戦でき、最も高い得点を成績とすることができる。 また、この検定試験は教職員が協力して推進している点も注目される。問題を作成するのは教員で、すでに各リテラシー 150 ~ 300 題が蓄積されている。 「検定当日の運営を担当するのは事務職員で、ICT技術を用いた新しい試みです。例えば、受検申し込みは携帯電話ですし、当日は代理受検を防止するための本人確認として、着席後本人しか知り得ない情報をランダムに質問して携帯電話を用いて回答します。出題はパワーポイントの問題をスクリーンに映写し、クリッカー(無線型小型回答機)で回答します。受検者からの回答はデータ集計機を通じて、データベースに蓄積されるため、採点業務も省力化されています。現在、これらの検定運用システムの特許を申請中です」(田中室長)

 もう1つ、特筆すべき点は、学生に自主的な学修を促すため、検定試験に向けた自学自習環境が整えられていることである。附属図書館には「KITスタンダードコーナー」が開設され、5つのリテラシーへの理解・関心を

田中辰次 学務企画室長

検定に向けた自学自習環境を整備英語版の過去問集も作成

ICT技術を駆使した受検システムを確立教職員が協力して推進

事例 2 京都工芸繊維大学

52 Kawaijuku Guideline 2013.4・5

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深めるための書籍が備えられている。また、過去問に挑戦し、自己採点できる「自学自習 Web システム」も構築されている。Web 上で公開されている過去問は、日本語版だけでなく、英語版もある。 「本学に入学してくる外国人留学生に対しても、英語版により自学自習システムの活用を試行的に行っています。また、英語版の過去問は日本人学生にとっても大きな意義があります。本学が育成しようとする国際的高度専門技術者には英語力が不可欠です。日本語と英語の問題を見比べながら勉強することによって、英語力の向上につなげ、将来的には英語版の検定試験を課しても十分に対応できることが理想です」(田中室長) さらに、検定合格のための対策セミナーも実施されている。実は、検定がスタートした当初、リテラシー間の問題の難易差が大きく、合格率に差が生じていた。そこで、問題の標準化を図るとともに、特に合格率が低かった「ものづくり」「知的財産」に関しては、企業の第一線の技術者などの外部講師を招いたセミナーを開講している。学生の参加意欲も旺盛だ。 なお、5つのリテラシーについては検定が実施されているが、「英語」「数学」の2つの基礎科目に関してはそれとは別の教育プログラムが用意されている。 まず 「英語」 は、学生が個別にパソコンを利用したオンライン英語学習システムの導入や、英国・豪州への短期英語研修、英語教員によるオフィスアワーなど、学生の継続的な自学自習を体系的に支援している。TOEIC、TOEFL、IELTS(注)による到達目標も示されており、学生のスコアに応じて単位が与えられる。 「数学」 は、「線形代数」「微分積分」「数学演習」など、授業科目ごとに、最低限解けるようになってほしい問題を網羅した「KIT数学ガイド」が入学時に配布される。各数学科目の全体像や、学修の到達目標などを把握することができる冊子である。 「学生はこのガイドに基づいて自学自習を進めていきますが、高校までの数学と大学で学ぶ数学の接続がうまくいかない学生も見受けられます。そんな学生のために設置したのが『数学サポートセンター』です。大学院生と、数学の成績が優秀な3年次以上の学部生から『数学サポーター』を募り、一定時間帯に質問の受付や、数学の学習法のアドバイスを行うセンターです。学生にも好評で、延べ利用者数は 2010 年度 123 名から 2011 年度

399 名と、大幅に増加しています」(田中室長)

 では、「KITスタンダード検定」が、学生の学修成果の評価の上でどのように有効に機能しているのか。その点について田中室長は、「もちろん、この検定だけで、学生の卒業時の質を保証できるとは考えていません。特に理工系の場合は、演習・実習を通して高められる能力も重要です。例えば本学では、竹細工やピンホールカメラなどの制作を通じて、科学的なアプローチと芸術的なアプローチを同時に体験する『科学と芸術の出会い』、友禅染などの京都の伝統工芸を実体験する実習など、特色ある大学教育支援プログラム(特色 GP)にも採択された実践的なプログラムが豊富に用意されています。それらを含めたカリキュラム全体で、総合的な力をアップさせることが重要です。しかし、『KITスタンダード検定』を意識することによって、学生の学修意欲が高まる効果が見られ、質保証の1つの手段になると考えています」と説明する。 実際、「自学自習 Web システム」 へのアクセス数は飛躍的に増加しており、リテラシー修得のための学習に自主的に取り組む学生が増えている。 しかし、課題も残されている。「KITスタンダード検定」は必修ではないこともあって、今年の受検者数は約110 名と、昨年の約8割にとどまっている。また、いったん単位を取得してしまうと、より高い成績評価にするためにという目的で再受検する学生はあまり多くないのが実状だ。 「検定の成績上位者を表彰するなど、受検率をアップさせるための戦略を立案することが今後の課題になると考えています」(田中室長)

検定により学生の学修意欲が高まる受検率のアップを図ることが今後の課題

(注)IELTS(アイエルツ)…International English Language Testing System

<写真> KIT スタンダード検定受検の様子。教室前方スクリーンでも問題が表示されており、学生の回答状況もわかる。

Kawaijuku Guideline 2013.4・5 53

「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

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 京都光華女子大学では、2007 年度 「京都光華のエンロールメント」 を開始した。これは 「入学前から卒業後まで一貫して、あらゆる場面で教職員が連携し、全力で学生をサポートするシステム」 である。この教育システムを導入した背景を、山本嘉一郎副学長は「大学のユニバーサル化が進行し、本学にもその波が押し寄せてくることが予想されました。学習能力、意欲、入学目的などが多様な学生が入学する中で、学生一人ひとりの満足度を高めるために、私たちは『学生支援』という視点での教育改革が必要になると考えたのです。これまでの学生支援は、主に経済面、学生生活面の支援を指していましたが、本学ではそれに教育面を統合して、総合的な学生支援を実施することにしました」と説明する。 2008 年度には、「学生個人を大切にした総合的支援の推進」 が、文部科学省の 「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム(学生支援GP)」 に選定され、本格的な取り組みがスタートした。 まず実施されたのが、IR(Institutional Research)の概念に基づく 「学生の総合的アセスメント」である。

「IRとは何か、定義が定まっていない面がありますが、本学ではエビデンス(データ)に基づく戦略・施策の計画、実施、評価、修正(PDCA)、およびそのためのデータ収集・分析と位置づけています。学生を総合的に支援するためには、学生の現状を体系的に把握することが不可欠です。以前から出席状況、成績、単位取得状況などを把握していましたが、それだけでは不十分です。そこで、さらに個人面談情報、生活実態、経済状況、意識、態度、将来への希望などを加えた、総合的・多角的なアセスメントを実施することにしました。また、調査結果が分散していたのでは、学生を総合的に把握することはできませんから、学生ポータルサイト『光華 navi』にすべての情報を集約するシステムを構築しました。成績だけでなく、広範な学生評価情報を体系的に測定し、包

学生の総合的・多角的なアセスメントを実施し学生ポータルサイト「光華 navi」に情報を集約

教育と生活面の支援を統合した総合的支援「京都光華のエンロールメント」を推進

括的な把握が可能になったことによって、学生支援を支える客観的な資料として有効に活用できるようになりました」(山本副学長)

 具体的な総合的アセスメントの内容としては、成績、出席状況のほか、プレイスメントテスト(入学時点で実施する国語、英語の基礎学力調査)、授業アンケート、卒業時満足度調査、面談記録、就職活動記録、経済状況記録、自己発見レポート(1年次 10 月に実施。基礎学力、社会的能力などの意識・態度について調査)、キャリアアプローチ(3年次 10 月に実施。就職活動に向けてのレディネスを調査)など多岐に渡る。 その中で、独自の取り組みとして注目されるのが「光華ライフアルバム」である。学生の意識・意欲を中心とした調査で、毎年6月に実施される。学習意欲・関心、大学適応度、人格特性、学習、生活サイクル、日常生活行動、キャリア形成などの項目があり、項目ごとの約10 の質問に「光華 navi」上で、5 段階評価で回答していく。学生全体の平均値も表示されるので、自分のスコアと比較して、その後の学生生活の在り方を見直す資料として活用できる。また、質問項目は学年によって異なるが、4 年間を通じて同じ質問項目もある。卒業時には、

学生の意識・意欲を中心に調査・記録する「光華ライフアルバム」

事例 3 京都光華女子大学

<図表1>光華ライフアルバム 卒業時の項目例

山本嘉一郎 副学長

54 Kawaijuku Guideline 2013.4・5

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1年次と4年次でその伸長度を測定する Development目標として掲げている学習、社会人基礎力、資格・体験についても評価し、学生はそれらの推移を見て、自分の成長を実感することもできる<図表1>。

 これらの情報のうち、学生の同意を得た情報は、「光華 navi」 で教員も閲覧することができる。それによって、特別な配慮が必要な学生が支援を求めるのを受動的に「待つ」 のではなく、教員から能動的に手を 「差しのべる」 動きが活発化している。それが学生にとって 「自分にやさしい大学」 という意識を生み、充実した学生生活につながっている。 また、総合的アセスメント結果を教育改革につなげる役割を担っているのが、2012 年4月に発足したEM・IR部(注)だ。山本副学長が部長を兼任している。「別々の委員会で議論していたのでは、改革はなかなか進行しませんから、総合的な学生支援に関してはEM・IR部が一手に担う体制にしました。具体的には、さまざまなデータの傾向を分析し、授業内容・方法の改善、学生支援策、学生募集・広報戦略などの基本方針を策定し、提案しています」(山本副学長) すでにEM・IR部では、授業形態、受講人数、授業方法・内容などの授業属性と、学生の意欲や授業評価との関係など、多様な角度から傾向分析を実施。学修意欲の向上につながる授業やカリキュラムについて検討を進めている。その分析結果に基づいて、学科や教員に改善点を指摘しており、それを受けて、学科内、および全学的な「FD委員会」で議論が活発化している。 注目されるのは 「授業アンケート」 と 「光華ライフアルバム」 「出席率」「GP(各授業の成績)」を比較した2011 年度の分析結果である<図表2>。「授業アンケート」 は、「この授業の予習・復習を 1 週間のうちどの程度したか」「この授業を受けて役に立ったか」「授業内容はわかりやすいか」「課題量は適切か」など、8 項目について 5 段階で評価する。その 「授業アンケート」 の評価と 「出席率」 ではそれほど有意な相関関係は見られないが、「光華ライフアルバム」の得点が高い(つまり、意欲・関心が高い)学生、および「GP」が高い学生の方が、授業への満足度も高いという結果が出ている。 「このデータは、総合的な学生支援を考える上で重要

なヒントになります。つまり、授業の満足度を高めることが、学生の意欲・関心や成績向上に直結するのです。そこで現在、教員には、学生の授業評価を受けて、担当授業についてのリフレクション(内省)を行い、授業改善策と、学生の要望への対応策をまとめた 『リフレクションペーパー』を『光華 navi』上で学生に公表することを義務づけています。授業評価の結果が良好だった教員も、現状に甘んじず、さらなる改善策を立案しています。最近、教員評価の 40%を授業アンケートの評価(得点)が占めるようになったこともあって、教員も真剣に取り組んでいます。学生にとっても、授業アンケートの自分の声がしっかりと教員に届き、授業改善に反映されているという実感が得られることで、授業への参加意欲や学修意欲の向上につながっています」(山本副学長) こうした現状を踏まえて、山本副学長は「この取り組みを効果的に実施していくためには、データ(事実)に基づく施策立案と実施が重要であり、データ収集→分析→施策立案・実施のPDCAの流れを確立することが急務です。また、その中で、客観的な達成目標の設定と、その評価方法の確立も重要だと考えており、現在、その取り組みが進行中です。そして最も大切になるのが、教員、学生の共通認識を高めることです。そのためには、教員、学生双方への広報が重要になります。エンロールメントマネジメントが本学にとって必要であることを教員が認識し、学生もそのメリットを実感することができれば、さらに全学が一体となった活動に進化していくはずです」と今後の方向性を語る。 さらに、在学生が中心になっている現在のアセスメントを、今後は保護者、高校生、卒業生、企業といったすべてのステークホルダーに広げていく構想もある。それによって、より多面的な視点からの学生支援が可能になることが期待できる。

授業アンケートなどの結果を踏まえて教員が学生に授業改善策をウェブ上で公開

(注)EM はエンロールメントマネジメントの略

<図表2>評価と出席、成績、意欲・関心の関係

高 低中

--GP区分別

--出席率区分別

--意欲・関心別

4.1

4.0

3.9

3.8

3.7

3.6

3.5

Kawaijuku Guideline 2013.4・5 55

「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

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 龍谷大学では、2011 年度から、各学部・研究科が独自に推進する優れた教育プログラムを、学内で採択し、予 算 な ど の 支 援 を 行 う「 龍 谷GP(Ryukoku Good Practice)」がスタートした。現在、7つのプログラムが採択されている。その1つが、文学部の「ラーニング・アウトカムを具現する『卒業論文』の質保証~継続的なアカデミック・リテラシー教育の再構築~」である。 取り組みの目的について安藤徹教授は、「以前から文学部では、卒業論文を4年間の学修の集大成と位置づけ、複数教員による口述試問を実施するなど、学生が卒業時に身につけておくべき能力を厳正に評価してきました。それによって、学生、教職員の間で、卒業論文こそが最重要の目標という共通認識が醸成されています。しかし、卒業論文の具体的な到達目標や評価基準が学部内で統一されていないこと、あるいは各年次の取り組みがどのように卒業時の質保証へとつながるのか、4年間の学修の体系性・系統性が具体的に明示されていないことなど、課題も残されていました。そこで、卒業論文を目標に、初年次と卒業年次に力点を置きつつ4年間の学修全般を見直し、『学びの文学部スタイル』を確立しようということになったのです」と語る。

 取り組みの最大の特色は、アカデミック・リテラシーと卒業論文について、日本の大学ではまだ例が少ないルーブリックを作成していることだ。 同学部では、「読む力」「書く力・発信する力」「調べる力」「考える力」「議論する力」を総称して、アカデミック・リテラシーと呼んでいる。課題の探究→発見→追究→解決といった大学ならではの学びを実現するための基本となる能力である。文学部の学位授与方針(ディプロ

学内の「GP」に採択された卒業論文を目標とする取り組み

アカデミック・リテラシー、卒業論文のルーブリックを作成し、学修成果を検証

マポリシー)とも連動しており、学生が卒業までに身につけることを期待している。ルーブリックではそれぞれの「力」の達成基準を「相当の努力を要する」「やや努力を要する」「十分満足できる」「期待している以上である」の4段階に分けて、レベルごとに具体的に記述している。 杉岡孝紀教授は、ルーブリックの意義について、「求められる能力をさらに項目に分け、項目ごとにレベルを具体的に文章化することによって、学生は現時点での自分の到達度を把握することができます。また、多くの学生の到達度が低い項目が出てきた場合は、カリキュラムそのものを検討するなど、改革の資料として役立てることもできます」と説明する。 このように、ルーブリックは学生に対して、あらかじめ目的や到達目標を示すことにより、教育効果を高める狙いがある。 「今年4月から、『履修要項』にアカデミック・リテラシーのルーブリックを掲載します<表 1 >。学生には、それを見て、どの能力がどの段階まで到達しているかを振り返り、自分の成長を実感するとともに、不足している面に関して改善の努力をする資料として活用してほしいと考えています。また、教員にとっても、授業を設計する上で大いに参考になるはずです。もちろん、1科目でアカデミック・リテラシーのすべてをバランスよく高めることはできないしょう。むしろ、4年間で学ぶ科目全体を通して、こうした能力をトータルに養成するのだということを明示することによって、では各授業でどの

出羽孝行 准教授

ルーブリックを用いてアカデミック・リテラシーと卒業論文を評価する

事例 4 龍谷大学文学部

杉岡孝紀 教授安藤徹 教授

56 Kawaijuku Guideline 2013.4・5

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力をどれくらい高めていくべきか、またそのための授業内容・方法をどうするのか、といった検討と改善の動きが、自発的に生まれる可能性があると考えています」(出羽孝行准教授)

 卒業論文ルーブリックについては、2012 年度は、数名の教員が試行的に活用。学生からの要望などを踏まえた上で、2013 年度からすべての学生に公表・明示し、利用を推奨する。 ルーブリックの項目は、「先行研究を調べる」「問題を設定する」「考察する」「きちんとした文章で表現する」「論

文としての体裁を整える(典拠・参考文献の明記など)」といった論文を作成する上でのスキルが中心で、口述試問でよく質問される内容がほぼ網羅されている。5 段階のレベルを設定し、基準項目ごとに求められることを文章で示している<表2>。 2012 年度に試行的に活用した1人である安藤教授は、卒業論文ルーブリックにはさまざまな効果があると語る。 「学生からは、作成中の卒業論文がどの段階にあるのか、客観視するのに役立ったと好評です。私は夏休みに草稿を作成させて、9月にそれをもとに個人面談を行っていますが、その際にルーブリックを活用して、項目ごとに自己評価をさせました。私も草稿を読んで、教員の立場からの評価をします。そうすることで、学生は自分と教員の評価の違いを比べて、その後の研究に生かすこ

学位授与の方針 相当の努力を要する やや努力を要する 十分満足できる 期待している以上である

知識・理解

人間社会の根本を見つめるために、「言語(ことば)」の持つ力を深く理解することができる。

「言語(ことば)」の持つ力をまったく理解できていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、「言語(ことば)」の持つ力が必ずしも理解できていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、「言語(ことば)」の持つ力が一定程度理解できている。

学科・専攻の教育理念に基づき、「言語(ことば)」の持つ力が深く理解できている。

テキストの正確な読解に基づいた、人文学の幅広い教養を身につけている。

テキストの読解ができず、教養の学修も進んでいない。

学科・専攻の教育理念に基づき、テキストが正確に読解できず、教養の学修も不十分である。

学科・専攻の教育理念に基づき、一定程度テキストの読解ができ、幅広い教養を学んでいる。

学科・専攻の教育理念に基づき、テキストの正確な読解ができ、幅広い教養が身についている。

幅広い学問領域について基礎的な知識を持ち、それぞれの領域が持つ見方について説明することができる。

多様な領域からの見解をまったく理解できていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、多様な領域からの見解をあまり深く理解できていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、多様な領域からの見解を一定程度理解できている。

学科・専攻の教育理念に基づき、多様な領域からの見解を深く理解できている。

思考・判断

人間や社会の諸問題について主体的・積極的に判断し、対応できる。

現代社会の諸問題についてまったく取り組めていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、現代社会の諸問題について必ずしも積極的に取り組めていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、現代社会の諸問題について一定程度取り組んでいる。

学科・専攻の教育理念に基づき、現代社会の諸問題について積極的に取り組んでいる。

課題の探求、発見、追究、解決という一連のプロセスを達成する能力を身につけている。

課題の探求から解決にむけた能力がまったく身についていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、課題の探求から解決にむけた能力が必ずしも身についていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、課題の探求から解決にむけた能力がある程度身についている。

学科・専攻の教育理念に基づき、課題の探求から解決にむけた能力が十分身についている。

幅広い分野の知識・理解をもとにして、問題に対して多角的な思考、判断を行うことができる。

多様な思考力・判断力がまったく身についていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、多様な思考力・判断力が必ずしも身についていない。

学科・専攻の教育理念に基づき、多様な思考力・判断力が一定程度身についている。

学科・専攻の教育理念に基づき、多様な思考力・判断力が身についている。

<表1>文学部アカデミック・リテラシー・ルーブリック(項目の一部を抜粋)※1 このアカデミックスキル・ルーブリックは学生の皆さんが、龍谷大学の文学部生として求められるスキルを、どの程度達成できているかを確認する

ためのものです。※2 おりにふれて、このルーブリックで自分の学修状況を振り返り、自身の学修に足りないものを確認し、各自の学修を深めるツールとして利用してく

ださい。

(提供:龍谷大学文学部)

早い時期から卒業論文への意識を高めるために卒業論文ルーブリックを

「スタディーガイド」に掲載

Kawaijuku Guideline 2013.4・5 57

「ひらく 日本の大学」 第5回 学修成果の評価

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とができます。自分では十分だと考えていた項目で教員の評価が低い場合など、学生の気づきを促し、意識的に不足部分に取り組むことができるといった効果は大きいと思います。卒業論文提出後に、学修成果を振り返り、実感するための道具としても有効ではないでしょうか」 活用してみた学生からはルーブリックの文章をもっと具体的にしてほしいといった要望も出されている。例えば「ほぼ」と記述されていても、どこまでやっていればいいのか曖昧で、具体例で示すなどの工夫を望む学生が少なくない。この点は今後の課題と言えよう。 なお、卒業論文ルーブリックは、今年 4 月から、学科・専攻ごとに独自に作成している「スタディーガイド」に掲載し、 入学直後に実施される 1 泊2日の「フレッシャーズキャンプ」で配布する予定だ。 アカデミック・リテラシー・ルーブリックが全学科・専攻共通の「履修要項」に掲載されるのに対し、卒業論文ルーブリックが「スタディーガイド」に掲載されるのは、学科・専攻によって求められる力の具体的内容やレベルが異なる場合があるからである。例えば、「先行研究を調べる」場合でも、英語英米文学科や歴史学科東洋史学専攻の学生なら、国外の先行研究にも目配りする必要があるが、 必ずしもそこまでの作業を問われない学科・専攻もある。学生自身の自己点検・評価にきちんと活用してもらうには、専門分野に応じた配慮も重要なため、学科・専攻ごとに最適化された卒業論文ルーブリックを各「スタディーガイド」に掲載する方が学生にとっ

て利便性が高いのである。 「卒業論文ルーブリックを作り、卒業生の質を保証するといっても、卒業論文の指導だけに力を入れればいいというわけではありません。カリキュラム全体が有機的に連携しながら、卒業論文へと収斂する教育を進めることが重要です。学生に入学直後に卒業論文ルーブリックを配布するのは、将来、卒業論文を仕上げる際にどんなことが求められるのかを早い段階で意識して、それに基づいて、4 年間の学びのスタイルを設計してもらいたいからです」(杉岡教授)

 このように、ルーブリックは学生が自らの現状を振り返り、学びを改善するためのツールとして活用されることが前提である。本当の意味での活用が進行するためには、学生自身の主体的、能動的な学修姿勢が不可欠になる。 それをサポートするために、2012 年度、深草キャンパスの図書館内に設置されたのが「アクティブ・ラーニング・コーナー」である。 「平日の一定時間に、大学院生のチューター(登録 12名、毎回2名で担当)を配置して、1・2年生を主な対象に、レポートの書き方や課題の見つけ方などの相談に応じています。今後、自学自習の態度を促す場として機能することを期待しています」(出羽准教授)

1 2 3 4 5

先行研究国内の先行研究を把握できていない。

国内の先行研究を把握しているが、整理して説明できない。

国内の先行研究を把握し、整理して説明できる。

国外の先行研究も把握しているが、整理して説明することができない。

国内外の先行研究を把握し、整理して説明できる。

問題設定 問題の設定が曖昧である。ある程度明確な問題を設定しているが、適切な問題であるとはいえない。

ある程度、明確で適切な問題を設定している。

適切で明確な問題を設定しているが、独創性はない。

適切で明確な問題を設定しており、独創性がある。

考察資料の分析に基づいておらず、論理的整合性にも欠ける。

概ね資料の分析に基づいているが、論理的整合性に欠ける。

概ね資料の分析に基づき、ほぼ論理的整合性をもった考察を加えている。

資料の分析に基づき、ほぼ論理的整合性をもった考察を加えている。

資料の分析に基づき、論理的整合性をもった考察を加えている。

(提供:龍谷大学文学部)

主体的、能動的な学修姿勢の醸成をサポートする「アクティブ・ラーニング・コーナー」

<表2>卒業論文ルーブリック(項目の一部を抜粋)※卒業論文にかかわる学修進度の目安です。あくまで一例ですから、詳細は各学科・専攻の教員の指導に従ってください。※成績評価は、「演習Ⅱ」「論文評点」「口述評点」の総合評価によります。

58 Kawaijuku Guideline 2013.4・5