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園芸植物からのDNA抽出法 誌名 誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture ISSN ISSN 03695247 巻/号 巻/号 917 掲載ページ 掲載ページ p. 729-734 発行年月 発行年月 2016年7月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: 園芸植物からのDNA抽出法園芸植物からのDNA抽出法 誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture ISSN 03695247 巻/号 917 掲載ページ p. 729-734

園芸植物からのDNA抽出法

誌名誌名 農業および園芸 = Agriculture and horticulture

ISSNISSN 03695247

巻/号巻/号 917

掲載ページ掲載ページ p. 729-734

発行年月発行年月 2016年7月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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園芸植物からの DNA抽出法

笠島一郎*

〔キーワードJ:改良型アルカ 1)pvpp法,イソプ

ロパノール沈殿,塩化セシウム超

遠心,瞬間 DNA抽出法

はじめに

植物の遺伝子解析・遺伝子改良を行う際には,解

析対象の植物からゲノム DNAを抽出しPCR反応を

行うのが基本的な操作となる.基礎研究に用いるモ

デ、ル植物で、あるシロイヌナズ、ナやタバコは DNAが

非常に抽出され易いのだが,多くの園芸植物はこれ

に反して DNAが抽出されにくい.高純度・高濃度

のDNAを抽出できなければ実験精度が低下する,

もしくは実験が不可能になってしまう. DNAが抽

出され易い植物からは DNeasy(QIAGEN)等の DNA

抽出キットを用いて比較的純度が高い少量の DNA

を抽出できるが, DNAが抽出されにくい植物から

はキットを用いて DNAを抽出することができない.

筆者はこれまでシロイヌナズナに始まりイネ,ワ

サビ,ニセアカシア, トレニア,ペチュニア,シク

ラメン,リンゴ,その他様々な植物の遺伝子を解析

するため DNA抽出を試みてきた.DNAは通常,健

康な葉から抽出する.成長期の柔らかい頂芽を用い

ると DNAが抽出し易いという話をよく聞くが,そ

うしたサンフ。/レが入手で、きる季節は限られており,

またサンプル量も少なく,頂芽を採取することで植

物の生育に影響を与えてしまう.そこで私はいつも

展開した葉から DNAを抽出する.これまで DNA

抽出を試みた中で最も DNAが抽出されにくかった

のはイチョウ,シクラメン,パラである.特にシク

ラメンは,遺伝子改良を目指した研究で用いていた

ので高純度・高濃度の DNAを抽出する必要があっ

た.研究チームで DNA抽出方法を模索した結果,

「アルカリ PVPP法」と名付けた新たな手法が有効

であると分かつた.

本報告では,アルカリ PVPP法や一般的な DNA

抽出法の詳細なプロトコノレを記述すると共に,ごく

簡単な手順でPCR反応用の DNAを抽出する方法も

紹介する DNA抽出や PCR反応でありがちな落と

本岩手大学農学部農業生命科学科(IchiroKas可ima)

し穴についても逐次解説するので,参考にして頂き

たい.

1. ゲノム DNAの定量方法

(1)紫外吸光度測定

DNA抽出について記述する前に,植物から抽出

したゲノム DNAの定量方法について見てゆきたい.

DNA抽出を行ったことがある方は誰しも吸光度に

よる DNA濃度測定をされたはずだ.260nmの波長

の紫外線の吸光度をA260とすると,水溶液中のDNA

濃度 cは

c=50・A260(ng!μL)

と計算する.例えば A260の値が 0.500ならば溶液の

DNA濃度は 25ng!μLと評価される.紫外吸光測定

にはuvパTIS分光光度計を用いるが,最近はごく微

量 (4μLほど)のサンプルを希釈せずに測定で、き便

利な NanoDrop(Thermo Scientific)が普及している

のは周知の事実だろう.280nmや 230nmにおける

吸光度との比率(例えば A260/A280)が1.9前後であ

ればDNAの純度が高いとされている.

ここからが重要な話なのだが,上記の方法で植物

から抽出した DNAを定量することは出来ない.例

え吸光度の比率と A260の値が大きかったとしても,

溶液にほとんど DNAが含まれていないことがしば

しばある.園芸植物から DNAを抽出すると,その

サンプノレ溶液には粘性の高い不純物が含まれてい

る.この正体不明の不純物の中に, DNAに似た紫

外吸光特性を持つ物質があると考えられる.上記の

式で計算した DNA濃度はあくまで吸光度測定上の

(in spectrometry)数値なので,正確を期すため次の

ように記述することにする.

c = 50・A260(ng-islμL)

(2) アガロースゲル電気泳動

ゲノム DNAの正しい量を知るためには,アガ

ロースゲ、ル電気泳動を行う.私はいつもコントロー

ノレとして 300ng,100ng, 30ngのルDNAをウェノレに

ロードする.これらの標準サンプルを 300ng-isのゲ

ノム DNAと共に泳動する.ゲノム DNAのバンド

0369-5247/16/¥500/1論文/JCOPY

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は青色光励起よりも uv励起の方が DNAバン ドと

ゲノレのパックグラウンドとのコントラス トが良い

また,高価だが GelRed(Biotium)の方がエチジウ

ムブロマイ ドより 使いやすいと聞いた.PCR産物の

バンドをシャープに出したい時は 100V ではなく

50Vで泳動するポリアクリルアミドゲ、/レで、泳動す

ると,かなりシャープになる.

このように DNAの量や純度を詳しく調べてみる

と,植物から抽出した DNAが実験を行うために必

要なレベルに達しているかどうか判断できる.もし

十分な量の DNAが抽出できていないのであればよ

り強力な DNA抽出法でDNAを抽出し直すし,DNA

の純度が低いのであれば DNAを精製する.

(2016年)

-択lv削仲余

第 7号第 91巻

回一

'ECC門)記

農業および園芸

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730

10.0

3.0

1.0

改良型アルカリ PVPP法による DNA抽出

(1)概略

シクラメンやパラを含む(試した中で)全ての園

芸植物の展開業から DNAを抽出できる手法として,

アルカリ PVPP法を報告した (Kasajimaら 2013).

その後の実験の中で,抽出バッファー中の食塩濃度

を高める改良を行った この方法が現在最も よく

DNAを抽出できるものなので詳細なプロ トコノレを

以下に記述する.

(2)準備する試薬

・改良型 PVPPバッファー (Tris-HCIpH 9.5 50 mM,

EDTA 10mM, NaCI 4M, CTAB 1 %, PVPP 0.5%)

使用直前に 1%のPメルカプ トエタノールを加え,

よく混ぜる.PVPPは水に不溶a性の白色粉末だが,

このバッファー中では粘性を示す.その結果,バッ

ファーは白色半透明の粘性の高い液体となる.室温

で保存.Trisは仕is(hydroxymethyl) aminomethane,

EDTA fま ethylenediarninetetraaceticacid, CTAB fま

cetyltrimethylamrnonium bromide , PVPP は

polyvinylpolypyrrolidoneの略.

• PCI (フェノ ーノレ:クロロ ホルム:イ ソアミルア

ルコール=25 : 25 : 1)

イソアミルアルコーノレを入れなければ遠心時に

固形物の中間層がうまく分離しない.フェノ ールは

予め水あるいは TEバッファー (Tris-HCIpH 8.0 10

mM, EDTA 1 mM)で飽和させたものを使用.

(3)植物サンプルの計量

どの抽出プロトコノレを用いる場合でも, 抽出に用

いる葉の重量と抽出バッファーの比率に注意する.

2.

園芸植物 DNAのアガロースゲル電気泳動像

の濃さと 100ngのA.-DNAのバンドの濃さが同程度

であれば,サンプルの DNA純度はおよそ 30%と

いった具合だ.植物から抽出 しPCI処理(後述),

RNase処理,エタノール沈殿のみを行った場合,

DNAの純度は 10%にも満たない.DNAバン ドの濃

さを数値化したい場合は,画像を ImageJで処理し

て曲線回帰する.ただし,ゲル写真を撮影する際に

DNAバンドの明るさが飛ばない(飽和しなし、)よ

うにする.図 1に,各種園芸植物からアノレカ リPVPP

法で抽出し塩化セシウム超遠心により精製した

DNAのアガロースゲ〉レ電気泳動像を示す (Kas可lma

ら 2013より改変)

(3)注意点

ところで, DNA抽出を行うと必ず RNAも抽出さ

れる.そのまま泳動するとゲ、ルの下の方にリボソー

ム即-JAの数本のバンドが出る.回叫Aが混入すると

酵素反応に悪い影響を与えると言われているので

町向se処理を行い RNAを分解する.また,純度の

高くない DNA溶液に混入した粘性物質は比重が小

さく,ゲルにロードしようとすると泳動バッファー

中で浮いてウェルから漏れ出してしまう .このよう

な場合は DNAを精製するか,多めのローディング

バッファーと泳動バッファーをサンプルに混ぜる

とロードできる.電気泳動 したゲ、ルはエチジウムブ

ロマイ ドで後で染めた方が(後染め)泳動しながら

染める(先染め)よりもきれいに観察できる.観察

(kb)

図 l

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笠島:園芸植物からの DNA抽出法 731

標準的なバッファーの比率は葉の重量の 5倍, DNA

抽出が難しいサンプルの時は 10倍となるようにす

る.乳鉢・乳棒ですり潰す場合はサンプル重量が 1g

を超えないようにする.サンプルが多いほどすり潰

しにくくなる.すり潰しが不十分だと DNAが抽出

されない.サンプルを-800Cで凍結した後 Micro

Smash (トミー精工)で破砕すると簡単.ただし,

DNAが多少断片化する.Micro Smash使用時には

チューブに金属球2つを入れる.他の破砕装置だと

葉がきちんと破砕されないことが多いようだ.

(4) DNA抽出

・乳鉢・乳棒を液体窒素で冷却し,凍結したサンプ

ルを入れて即座にすり潰す.丁寧にすり潰しサンプ

ルを抹茶状にする(重要).稲や椿のような硬い葉

は予めハサミで 1mm幅に切断しておく.また,す

り潰しやすくするため珪砂を入れる.珪砂を入れる

とDNAが多少断片化する.

-改良型 PVPPバッファーを入れ乳棒で全体に絡め

る.少し放置して溶液が融け始めたら再度ょくすり

潰す.

.15mLあるいは 50mL容のプラスチックチューブ

にサンプルを入れヒートブロックで 600

C,30分加

熱する.30分以上加熱すると DNAが分解する.加

熱温度を 800

Cfこ上げると DNAの収量が増える.加

熱途中,サンプルを二三回転倒混和する.

-サンプルを室温に冷ます.必要に応じて遠心分離

し固形物を除去する.

• PCIを半量入れボノレテックスしてから遠心する

(14000中m,5分程度).上層(水層)を新しいチュー

ブに回収する.そのままエタノール沈殿すると食塩

が析出してしまうので,サンプノレを等量の滅菌蒸留

水で希釈する.ここでいう 14000rpmは 11000g程

度.もう少し遠心加速度が小さくても可.

.2倍量のエタノールを入れ転倒混和.司800

Cに 15

分置く.融かして即座に遠心する (14000rpm, 45

分, 40

C).

-上清を捨て再度遠心する.残った水分をピペット

マンで取り除く.風乾もしくはドライヤーでサンプ

ルを半乾燥させる.乾燥させすぎると水に溶けにく

くなるので注意.少量の滅菌蒸留水(例えば, 1 g

から抽出したサンプルに対して 500μL)に溶解する.

RNaseAを2陪加え室温 (250

C前後)もしくは 37"C

で 15分処理.・200Cで保存する.

3. その他の DNA抽出バッファー

(1)概略

改良型 pvppバッファーは扱いにくいので,普段

の実験には他の抽出バッファーを用いている.

CTABバッファーは DNA抽出能力が低いが不純物

も少ない.SDSバッファーは CTABバッファーより

DNA抽出能力が高い.DNA抽出方法は改良型PVPP

ノ〈ッファーと同じ (Kas司jimaら 2013).

(2)準備する試薬

・CTABノ〈ッファー (Tris-HC1pH8.0 50 mM, EDTA

10mM, NaC10.7恥![, CTAB 1%)

使用直前に 1%のpメルカプトエタノールを加え

よく混ぜる.

• SDSバッファー (Tris-HC1pH 7.5200 mM, EDTA

25 mM, NaC1 250 mM, SDS 0.5%)

使用直前に 1%のPメルカプトエタノールを加え

よく混ぜる.SDSはsodiumdodecy1 su1fateの略.冬

季の低温により SDSが析出した場合は温めて溶解

してから使用する.

4 イソプロパノール沈殿による DNA精製

(1 )概略

イソプロパノール沈殿を行うとそれほど手聞が

掛からず DNAを結構精製できる.サンプル溶液と

等量のイソプロパノーノレを加え混和した後でエタ

ノール沈殿と同様に処理しでもよいと思う.ここで

は,筆者がシクラメン DNAを精製する際に用いた

方法を紹介する. CTAB沈殿による DNA精製も試

みたことがあるが, DNAは精製されなかった

(Kasajimaら 2013).

(2)準備する試薬

• High-Salt Solution for Precipitation (タカラバイオ)

(3)精製方法

イソプロパノールが肌に触れないよう注意する.

・DNA 溶液の半量の High-Salt Solution for

Precipitationを加え混和する.

• High-Sa1t Solution for Precipitationと同じ量のイソ

プロパノールを加え混和する.室温に 10分静置す

る.遠心分離 (14000中m,10分, 40

C).

・lmLの70%エタノーノレを加える.-80oCに 15分置

く.

-融かしてただちに遠心し上清を捨て乾燥させる.

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732 農業および園芸第 91巻第7号 (2016年)

5.塩化セシウム超遠心による DNA精製

(1)概略

塩化セシウムを用いた超遠心は手聞が掛かるが,

DNAを高度に精製でき RNAも除去される.エチジ

ウムブロマイドの代わりにGeIRedを用いてDNAを

染色すると遠心時聞が半分で済む.また,変異原性

が低いとされているので安全に実験できてよい.超

遠心では DNAがほぼ 100%回収できる (Ka問jima

ら 2013,2014).

(2)準備する試薬

. TEバッファー

(3)精製方法

エチジウムブロマイ ドは発がん性が高く危険な

ので,必ず実験用ゴム手袋をして慎重に実験する こ

と.

.DNAサンプルを 3.0mLのTEバッファーに溶解

する.塩化セシウム 3.0gを加え混和して溶かす.

• 10 mg!mLのエチジウムブロマイド 120μLもしく

は 10000倍濃度の GelRed20μLを加え混和する.

-溶液3.8mLを5mL容の超遠心チューブに入れる.

溶液の量は遠心チューブのサイ ズに合わせて調節

する.

.50000中mで48時間超遠心する(室温).チュー

ブの中央付近に DNAのオレンジ色のバンドが形成

される(図 2:Kas勾imaら 2013より改変)•

・ピペットマンでバンドの上の層を取り除いたうえ

でDNAを回収する (0.4mLほど).

ぐ-

図2 塩化セシウム超遠心により分離したシクラメンDNA

• n-ブタノーノレで数回リンス しエチジウムブロマイ

ドを除去する.

.DNA抽出の時と同様にエタノ ーノレ沈殿を行う.

サンプル湾液には高濃度の塩化セシウムが含まれ

ているので,滅菌蒸留水で希釈せずに処理すると塩

化セシウムの結晶が析出する 尚,塩化セシウム試

薬は安定同位体なので放射線の心配は不要.

(4)注意点

シクラメンからの抽出実験の際, Optima MAX

Ultracentrifuge (Beckman-Coulter)を用いて超遠心を

行っていた.超遠心機の内部はポンプで真空に保た

れる.当初アング、/レローターを用いて実験したが,

長時間の遠心の途中でロ ーター内の空気が漏れ

DNA溶液の水分が蒸発し,さらにチューブ、が遠心

力で潰れてしまった.スイングローターを用いると

気密性が保たれたので DNA精製ができた. 他の研

究室で DNA精製をしようと別の機械を用いたが,

この時はスイングローターでも空気が漏れた.私の

やり方が良くないだけなのかも知れないが,実験を

行う際にはまず長時間の遠心にも耐える気密性の

高いローターを選ぶ必要がある.

6.シロイヌナズナからの瞬間 DNA抽出

(1)概略

シロイヌナズナは抜群に DNAが抽出され易いの

で,とても簡単な方法で DNAを抽出できる.この

方法で抽出したDNAは濃度が薄く不純物も混入し

ているが, PCR解析用の DNAサンプルとしては何

等問題なく使えた (Kas勾1maら 2004).

(2)準備する試薬

. SDS-Dバッファー(上記 SDSバッファーに pメ

ルカプトエタノ ールを加えず TEバッファーで 10

倍希釈したもの)

(3) DNA抽出

.シロイヌナズナの葉片 5mg程度を 1.5mLチュー

ブに入れる.

.200!lLのSDS・Dバッファーをチューブに加える.

.プラスチック棒で溶液が薄い黄緑色になるまで数

回すり潰す.

サンプノレは・200Cで保存する.サンプノレlμLをPCR

反応液 20叫 に入れて反応させる.

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笠島:園芸植物からの DNA抽出法 733

7. トレニアからの瞬間 DNA抽出

(1)概略

多数のトレニア個体の遺伝解析を行うためシロ

イヌナズナの瞬間 DNA抽出法を試したがうまくい

かなかった.そこで,抽出条件を多少きつくしてト

レニアから簡単に DNAを抽出できるようにした

(Kas司jimaand Sasaki 2016).

(2)準備する試薬

• SDS-Rバッファー(上記 SDSパッファーに Pメ

ノレカプトエタノールを加えずRNaseAを5陪 /mL加

えたもの)

(3) DNA抽出

・トレニアの葉約 5mm四方を1.5mL容チューブ守に

入れる.

• SDS-Rバッファー200μLをチューブに加える.

.プラスチック棒で数回すり潰す.

• 550Cのヒートブロックで 5分間加熱する.溶液が

薄い緑色になる.

サンプルは-2却OOCで

希釈したサンプル lμ件LをPCR反応液2却Oμ件Lに入れ

て反応させる.

8. まとめ (DNA抽出法)

ある植物から沢山の DNAを抽出できる手法が他

の植物には全く通用しない.こうした事態に出くわ

すと大変もどかしいものである.凍結させた葉をよ

くすり潰したりヒートブロックできちんと加熱し

たりと,基本的な操作を確実にこなせば解決できる

場合もある. DNA抽出は簡単そうに見えて結構奥

深いものだ.本報告では,筆者がこれまで経験した

DNA抽出における失敗を解決するために有効だ、っ

た手段を余すところなく記述したつもりである.こ

の方法に従えば,どのような植物からも多かれ少な

かれ DNAが抽出できるはずだ.アルカリ PVPP法

のような冗長なプロトコルは数十・数百といった多

サンプルの解析には向かない.シロイヌナズナ用と

トレニア用に開発した「瞬間 DNA抽出法」はこの

問題を解決する一応の答えになったと思う.最後に,

DNA抽出プロトコノレと PCR解析プロトコルの聞に

は密接な関係がある.いくら DNAをきれいに抽出

しでも PCRの方法が悪ければ目的遺伝子は増幅さ

れないし,純度の低い DNAを用いたとしても PCR

の条件が適切であれば遺伝子が大量に増幅される.

そこで,植物のゲノム DNAをテンプレートとして

PCRを行う際のあれこれについても触れておこう.

9. 上手な PCRの方法

(1) PCR反応液に入れるべき DNAサンプルの量

PCR反応液に DNAを入れすぎてはいけない.反

応一つあたり 5ng-isの DNAも入れれば十分だ.

DNAのストック溶液の濃度はかなり濃い.溶液濃

度が濃すぎればその成分 (DNAも含む)が PCR反

応を阻害する.勿論,加える DNAの量が少なすぎ

ても遺伝子は増幅されない.瞬間 DNA抽出法で抽

出したサンプルは別として,標準的な方法で抽出し

たDNA溶液は 100倍から 1000倍希釈してから PCR

反応に用いるのが最適である.最適濃度が分からな

ければ,まずはテンプレート DNAの濃度を何段階

かに振って最適な希釈倍率を決めるべきだ. RNA

から逆転写した cDNAをテンプレートにする場合

も,逆転写反応溶液が PCR反応を阻害するので 5

倍ないし 10倍に薄めてから PCRに用いるとよい.

(2)ハイフィデリティー酵素は必須

園芸植物のゲノム DNAから遺伝子配列を増幅す

る場合は,ハイフィデリティータイプの DNAポリ

メラーゼを使った方がよい.シロイヌナズナの場合

はそうでないタイプのポリメラーゼでも DNAが増

幅されるが,稲やトレニアの場合はハイフィデリ

ティータイプのものでなければ増幅されなかった.

巨大なゲノム DNA中の標的配列の存在比率はとて

も低いので, PCR反応における高い配列特異性が必

要である.筆者は KODPlus Neo (東洋紡)を利用

することが多い.他にも様々な酵素が各社から販売

されている.

(3)最適な反応条件の探索

ハイフィデリティー酵素を使うから DNAが必ず

増幅されるという訳ではない. DNA配列を増幅す

る際には,まずグラジエント PCRでアニーリング

温度を 460Cから 6S

0Cまで、段階的に振って PCRし標

的配列が増幅される温度を探す.それでも増幅され

なければプライマー配列を変えるしかない.プライ

マーは Primer3を使って設計すると便利だと思う.

ハイフィデリティー酵素を使って DNAを増幅した

際は DNA末端にアデニンが付加されない.アデ、ニ

ン付加キットを使ってアデ、ニン付加してから TAク

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734 農業および園芸第 91巻第7号 (2016年)

ローニングを行う.

(4)いかに効率的に作業するか

多サンプル解析では, PCR操作も手聞が掛かるも

のである.PCR反応液は必ずしも氷上で準備する必

要はない.ただし,マスターミックスに DNAサン

プルを入れた後でよく撹持して反応液を均一にす

ることは大事だ.この際,ピペッティングではなく

ボノレテックスで撹排すると大幅に手聞を省ける.

PCRのサイクル数は 30では不十分なことがあるの

で最初から 40にする.アガロースゲルは PYREX

の200mL容のメディウム瓶の中に入れ電子レンジ

で加熱しよく溶かす(吹きこぼれに注意して中程度

の電圧で行う).これを水道水で、冷やして即座にゲ

ルトレイに流し込む.アルミホイルで保湿しつつ 1

時間室温に放置すれば均一なゲルになる.

謝辞

園芸植物からの DNA抽出法を共に開発した農研

機構野菜花き研究部門および北興化学工業株式会

社の方々にお礼申し上げたい.

利益相反

利益相反に該当する記述はない.

参考文献

Kas司jima,1., Ide, Y., Ohkama-Ohtsu, N., Yoneyama, T. and F町iwara,T. 2004. A proωcol for rapid DNA extraction

企omArabidopsis thaliana for PCR analysis. Plant Mol.

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Kasajima, 1., Sasak.i, K., Tanaka, Y., Terakawa, T. and Ohtsubo, N. 2013. Large-scale ex住actionofpure DNA from mature

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